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ティアテラ会議の議事録




『副議長「大魔王アルカナは確かに偉大にして崇高なる理想の持ち主かもしれない。


しかし実際問題、彼の提案を受け入れたとしても、平和になるだろうか?


彼の言う通り、魔物には深い知恵と確かな意思があるものも存在する。


場合によっては敬意を払ってしかるべき存在もいるのかもしれない。


だが、仮に我々がアルカナの提案を受け入れ、魔物との共存を成したとしても、それは平和ではなく、魔物支配による新たな混沌の時代を迎えるだけではないのか?


今は良いかもしれない、しかしアルカナが万一暴走し、サウロスやメルコールのように闇で世界を覆ったとしたら?


民にとって、1パーセントでも危険になり得るならば、やはりアルカナとは戦わなければならないのではないだろうか。


しかし、逆に言えばそれさえクリア出来れば、私はアルカナの提案を受け入れ、魔物と共に行く未来になっても構わないと思う」


ティアテラ会議にて、魔族代表ルキフグス・ディオクレイスの質疑に答える教皇補佐ゼファー・ベニヤミン』






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レスカティエの王城、リリムのデルエラは分厚い本を読んでいた。


「姉上」

部屋に現れた姉妹に当たるリリム、イザベルを見て、デルエラは本を閉じた。


「イザベル、どうかしたの?」


レスカティエの主として教団に恐れられるデルエラだが、妹を見る目は優しいお姉さんとなんら変わらない。


「うむ、前に話した変わった騎士と変わったヴァルキリーのことじゃ」


前に聞いたことがある、教団中枢にいながら魔物に偏見がない不思議な人間とヴァルキリーのことを。


「あら、とうとう二人を手篭めにする算段がついたの?」


にやりと笑うデルエラに、イザベルはぼんっと耳まで真っ赤に染まった。


「なっ、て、手篭めに、なぞ・・・!!」


「あらそう?、なんだか貴女随分二人の話しをする時は楽しそうなんだもの」

クスクスとデルエラは笑ったが、イザベルはあまりのことにブルブル震えている。




『それは恐らく一目惚れじゃ』、桃源の笛ラケルにそう言われてしまったため、デルエラの指摘にイザベルは必要以上に反応してしまった。




「そ、そうではないっ!、ただ余はあの連中を迎えいれるに当たって、連中の趣味をよく知ろうと思うたのだ」


それは好きな人と話しを合わせたいという願いではないかとデルエラは思ったが、結局黙っていた。

「連中は今歴史の研究をしているらしい、そこで余も歴史を学んでみたい」


「ふうん・・・」

しばらくデルエラは黙っていたが、軽く指を鳴らした。

「『ルミナス王と緑のドラゴン』なら絵本がレスカティエ城下に出回ってるわよ?」


「ちっがーう、そんな子供向きのではなくもっと難しいような」

はあ、とため息をつくと、デルエラは自分が読んでいた本をイザベルに渡した。


「それは『彼』から借りた本、七千年前、ルミナス王と同じ時代に生きた魔王、大魔王アルカナの話しが書いてあるわ」

「大魔王アルカナ・・・」


聞いたことのない名前だ、何者だろうか?


「一番優しい魔王と呼ばれているわ、お母様には負けるけど」


「ありがとう姉上っ!、彼氏によろしくっ!」


すぐさまイザベルはどこかに消えていった。


「彼氏ではないし、もし又貸しバレたら怒られるかしら?」



振り向いた机の上には、桜の樹の下で微笑む、紅い勾玉を下げた青年の写真が飾られていた。








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「大魔王アルカナは最も優しい魔王と呼ばれていた」


老練な剣士のような雰囲気のティアテラ教会大司教のエリュトロン枢機卿は、礼拝堂に集まった信者にそう話していた。


エレヴとミストラルがティアテラ教会に来た時、たまたまティアテラ教会では礼拝が行われ、たくさんの参列者がいた。


現在は礼拝が終わり、エリュトロンによる講話の最中で、話しを聞いている参列者に混じり、エレヴとミストラルもいた。



「勿論彼が知らない場所で魔物による虐殺はあったが、それでも王魔界では驚くべきことに人間の街もあった」


今はカイーナと呼ばれている街は戦乱で家族を亡くした子供が、人間と魔物の子供が一緒に入る孤児院もあったのだと言う。


「大魔王アルカナは人間の殺害を好まず、よほどの悪人でなければ捕虜は収容所に送ったが、この収容所も当時の水準では考えられないような豪奢なものだった」


王魔界収容所、ここにはたくさんの人間がいたが、出てくる頃にはみんなアルカナを讃え、カイーナに引っ越していた、何故なら。


収容所とは思えぬ快適な部屋に、魔法設備による冷暖房完備、さらには広い娯楽室と暇を持て余す囚人用の勉強室。

また、妙齢の上位の魔物による娼館まであり、明らかに捕虜の扱いではなかったからだ。


事実カイーナには人間と魔物の混血が多数いたと伝わる。


「しかしアルカナは魔王、人間とは分かり合えず、結果的にアルカナは人間の勇者に討たれた」


何故アルカナが討たれたか、それはあまりに人間を愛し、魔物を愛したが、それ故に二つの種族の可能性を信じたからだ。


アルカナが死ねば人間も魔物も共存出来る、そう囁いたのが誰かは不明だったがとにかくアルカナは自ら命を人間に差し出した。


「魔王もメルコールのような非道なものだけでなく、時にはアルカナのような不思議なものも産み出す、魔物もそうだ」


変わりつつある魔物、人間を殺める魔物は過去のものになりつつある。

アルカナが死んで七千年経ち、今の魔王になり魔物は変化した。


「現魔王は、人間と魔物の未来を最後まで願ったアルカナの後継者と言えるかもしれない」




講話が終わり、礼拝堂に人がいなくなると、エレヴとミストラルはエリュトロンに改めて挨拶した。


「大魔王アルカナはルミナス王と同じ時代の魔王、もしかしたら面識があったかもしれない」


ルミナス王、人間でありながら魔族と絆を結びドラゴンを友とした伝説の王。


「ルミナス王の物語自体神話的な伝説だが、この先は伝説に近い時代となる」


そう告げると、エリュトロンは真新しいノートをエレヴに渡した。


「ティアテラにて大魔王アルカナの停戦を受け入れるかの会議が開かれた際の議事録が残されていたが、あまりに古く、触ることが出来ない」


エレヴに渡したのは複製魔法でエリュトロンが筆写した複製というわけだ。


「書記を務めたのはティアテラの実力者だったアリオト・ウェセックス侯爵、アルカナを知る大司教も混ざり、議会は揉めることなく進んだようだ」



開いてみるように言われ、エレヴは礼拝堂の机の上でノートを広げた。







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『ティアテラ会議の議事録

議長 教皇シメオン四世
副議長 教皇補佐ゼファー・ベニヤミン
書記 侯爵位アリオト・ウェセックス
議員 以下はいずれも枢機卿
大司教ヨシュア・メリエル
大司教アルテア・アルトブルーダ
大司教ガド・ソフォクレス
大司教ゼブルン・ジェミナイ
以上枢機卿
魔族ルキフグス・ディオクレイス


議長「大いなる主神さまに祈りを。

我らの議を見守り、正当なる裁定が下されることを冀う。

主神さまよ我らを導き、我らの判定を御照覧あれ」

副議長「それでは早速審議に移ります。
魔物との戦乱続く中で、大魔王アルカナから停戦が提案されました、これを受けるか否かについての議案です」


ルキフグス「我が主人大魔王アルカナは人間との平和を望んでおられます、停戦し、共にあるべき道を望んでおられます」


アルテア「ルキフグス殿の言う通りならば停戦を受け入れた場合、平和になるのかな?」


ヨシュア「アルカナは約束は守る律儀な男、前に魔界遠征隊が敗走した際に人間間の取り決め通り女子どもは見逃していた」

ガド「しかしアルカナは魔物、今こうしている間にも魔物は侵攻しているのではないか?」


ルキフグス「はい、ですがもし停戦を受け入れるなら、アルカナは直ちに魔物の即時撤退を命じ、従わぬ場合は断固とした態度をとるとのことです」


ゼブルン「確かにバフォメットやドラゴン、エキドナのような比較的魔物の中でも上位にあたるものは魔界に軒並み撤退したようだ」


アルテア「今侵攻しているのはどちらかと言えば言葉が通じぬものばかり、アルカナに無断で攻撃している可能性がある」


ルキフグス「アルテア卿の仰る通りです、残された魔物たちはアルカナに無断で人間を攻撃しています、これがアルカナの耳に入った場合、大魔王自身が平定に乗り出す可能性もあるかと」


ヨシュア「仮にアルカナの提案を受け入れなかった場合、どうなる?」


ルキフグス「何も変わりません、ですがアルカナはこれも人間の選択として受け入れ、二度と停戦は考えず、別の手を考えるかと」


ガド「なるほど、停戦するならこれが最後の機会か、ルキフグス殿は停戦に賛成されるのかな?」


ルキフグス「はい、私は最初からアルカナの提案をみなさんに受け入れて貰えるよう派遣されました、ですので停戦には賛成です」


ゼブルン「停戦が成れば平和になる、しかしその場合は魔物が人間に受け入れられるかが心配だ」


ヨシュア「そこは私も心配していた、今まで敵対していた魔物と停戦、なんらかの混乱があっても不思議はない」


アルテア「教団の力で抑えられるかは不明だが、停戦するとなればなんとかする他あるまい」


ルキフグス「カメルレンゴのお考えは如何でしょうか?」


副議長「大魔王アルカナは確かに偉大にして崇高なる理想の持ち主かもしれない。


しかし実際問題、彼の提案を受け入れたとしても、平和になるだろうか?


彼の言う通り、魔物には深い知恵と確かな意思があるものも存在する。


場合によっては敬意を払ってしかるべき存在もいるのかもしれない。


だが、仮に我々がアルカナの提案を受け入れ、魔物との共存を成したとしても、それは平和ではなく、魔物支配による新たな混沌の時代を迎えるだけではないのか?


今は良いかもしれない、しかしアルカナが万一暴走し、サウロスやメルコールのように闇で世界を覆ったとしたら?


民にとって、1パーセントでも危険になり得るならば、やはりアルカナとは戦わなければならないのではないだろうか。


しかし、逆に言えばそれさえクリア出来れば、私はアルカナの提案を受け入れ、魔物と共に行く未来になっても構わないと思う」


ルキフグス「なるほど、確かに魔物との戦いも長くアルカナを信用し切れない気持ちもよくわかります。

ですがアルカナは心から人間を愛し、魔物を愛しています。

二つの異なる種族を同じ世界に生きる同族として見据え、この美しい世界に平安をもたらしたいと願っています。

人間と魔物、互いに手を摂り合えば素晴らしい未来が来るはずです」



ヨシュア「私はアルカナの停戦を受けるべきだと思う」


ガド「私もヨシュア枢機卿に賛成だ、アルカナの停戦を受け入れ、一度様子を見るべきだと思う」


副議長「ふむ、他の意見はありませんか?



どうやら、意見は出尽くしたようですね」


議長「それでは我らは大魔王アルカナの停戦を受け入れ、魔物とともに歩むこととする。

主神よ、我らの裁定を審判あれ」







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「実現したなら、本当に人間と魔物の共存する未来になったかもしれないな」


ノートを読み終えたエレヴに、そうエリュトロンは呟いた。


「しかし、それは実現しませんでした、アルカナが死んだことで、人間の社会になったのでは?」


ミストラルに対して、エリュトロンは頷いた。


「その通りだ、そして長い年月の末現れたアルカナの次の魔王はメルコール同様凶暴な性格、また世界は闇に包まれた」



「魔王の気質に魔物は左右される、アルカナの在位がもっと続けば、魔物も優しくなれたのでしょうか?」


エレヴの質問に、エリュトロンは少しだけ黙考した。

「恐らく、アルカナは在位が短かったとされるが、それでもティアテラ会議の時点で上位の魔物はアルカナに近い性質になっていた」

下に浸透すれば、自然に他の魔物も優しくなっていたかもしれない。


「アルカナの時代には、人間も魔物も平和になる準備ができていた、けれども神のみが許さなかった、てとこか?」


依然アルカナに妙なことを吹き込んだのはだれかわからないが、それが神の運命なら主神が望まなかったことになる。



「・・・やはり、中道を行くためには」


アルカナのことを聞き、エレヴはようやく自分の答えを見つけられそうになった。

16/06/09 22:36更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
みなさまこんばんは〜、水無月であります。

今回は七千年前の出来事であります、『ルミナス王と緑のドラゴン』が生きた時代の魔王は、今の魔王とは違うベクトルで優しすぎる魔王でした。

個人的には今の魔王さまになる前にも、人間と協調したいと考える魔王がいたら嬉しいと思います、大半は反人間の方々かもしれませんが、たまにそういう人がいたのではないかと。

ではでは、今回はこの辺りで

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