連載小説
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最終話「共存」



メルカバーにおける決戦を終え、遮那たちはゴルゴスを拘束し、カテドラルへと凱旋した。


「・・・長かったな」


京都の閉鎖に端を発し、ICBMの直撃と、ミカドの都国、グリゴリ、そしてゴルゴスとの戦い。



随分と長く、戦い抜いたものだ。



「ようやく、戦いも終わりましたね」


カテドラル屋上へのエレベーター内で、遮那と真由は言葉を交わした。



「ああ、天使も魔物娘も、人間も、みんなが共存出来る世界を、私は願った」



それはあらゆる可能性が存在する世界、誰しもが秩序も混沌も、中庸も選べる、そんな世界だ。



「後は私がコトワリを解放すれば荒れ果てた世界は元に戻る」




「遮那さま、中庸の世界を作るのは誰か一人ではありません、一人一人が平和を願うことで実現する未来なのです」


そうだな、中庸とは言い換えれば秩序にも混沌にも寄らない三番目の道。



それ故に生きとしいける者たちの意思が、何よりも大きく関わるのだ。



夕刻の太陽の下、カテドラルの屋上に一人立つと、遮那は祈りを捧げるような動作をした。



直後、彼の身体に宿っていたコトワリたちが勾玉のような形の光となって、世界に飛び散り、世界をあるべき姿に戻していく。




光の竜巻のようなものが起こり、世界は光の中へと飲み込まれた。








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光の渦巻く中、最初に現れたのはサキュバス、ウォフ・マナフだった。



「サナト、本当にやり遂げたわね、神にも依らず魔物娘にも傾き過ぎない世界を・・・」


「みんながいたからだ、私だけの力ではない」


「そうかもしれないけど、貴方がいなければ私たちは結束できなかった、貴方は本当に凄い人よ?」



ウォフ・マナフが消えると、今度はクシャスラが光より現れた。



「・・・サナト、世界が復元される前に話しがしたかった」



「クシャスラ・・・」


「私があの日マユの病院に行かなければ貴方に会うことはなかった、これも不思議な運命の縁を感じる」



そうかもしれない、前世からの因縁がこうしてクシャスラを遮那に出会わせたのだ。


「ではなサナト、またいつか今度も仲間として出会いたいものだ」



クシャスラが光に帰ると、続いてはミスラが現れた。



「兄貴と出会えて、本当に良かったと思う、正直勝てなかったのはくやしいけどさ」



「ふふ、妹は兄には中々勝てぬものだ」


「そうだとしても、兄貴に勝てなかったのも含めて、ボクは本当に悪い夢、違うな、良い夢を見ていたのかもしれない」



ミスラが一礼して消えると、アムルタートがどこからかやってきた。



「・・・・・・・・・・


こうして落ち着いて話しをするのも、久しぶりですわね?」



「そうだな」


短く遮那が返すと、アムルタートはクスリと微笑んだ。


「貴方には感謝しても仕切れませんわね、あの時グリゴリに押されていたわたくしたちを救ってくださった、間違いなくあなたは妖精の救世主ですわ」



「中道を歩むならば妖精たちもまた仲間、私は友達を助けただけだ」



「ふふっ、なら貸し一としますわね、また会ったとき、貴方に借りをかえしますわね?」




光が力を増してアムルタートが消えると、代わってハルワタートが遮那の前にいた。




「サナトさん、これまでの旅、本当にお疲れ様」



「ふっ、霊廟で苦無を投げられた時には肝を冷やしたぞ?」



意地悪そうに呟く遮那だが、ハルワタートは至極真剣な顔で頭を振った。


「いえ、サナトさんなら間違いなく避けるとわかっていたわ、もっとも・・・」



今度はハルワタートが意地悪そうに笑う番である。



「避けられないならその程度、切り捨てたかもしれませんが、ね?」



「ふっ、今度は命のやり取り以外で勝負したいものだな?」



「はい、また、会いたいもの、です」


一瞬だけ涙を見せると、ハルワタートは光の中に戻っていった。


「よう、サナト、会いに来てやったぜ?」


続いてはアシャだ、いつものように元気な声色で現れた。




「結局てめーには最後まで勝てなかったなあ、悔しいぜ」



「勝ち逃げ、という奴だ、諦めるのだな」



「いんや諦めねーぜ」



アシャはニヤリと人を食ったように笑うと、遮那の瞳を見つめた。



「確かに今はてめーの方が俺より強い、けど俺は勝てるまでてめーに挑む、だから・・・」


パシリとアシャは両腕を鳴らすと、遮那に指を向けた。


「俺に負けるまで、誰にも負けんじゃねーぞ?」





一度だけ光が揺らぎ、遮那はいよいよ復元が近いことを悟った。



「やあ、サナト・・・」



いつの間にいたのか、遮那の前にアールマティがいた。



「アールマティか・・・」



「うん、きっと中庸の世界、になっても、私は私、変わらないと、思う



私は、私のやりたいことを、やるし、それは変わらない、けれど、貴方には・・・。






凄く興味がある、死ぬほど、興味ある」






どういう意味か聞く前にアールマティは消えた、続いて懐かしい気配に遮那は振り向く。



「真由」



「はい、遮那さま、復元前にもう一度貴方にお会いしたかったのです」



人間からワイトに変じた幼馴染、彼女がいなければ遮那は、とうに死んでいただろう。



「いくつもの国が消え、いくつもの生命が失せ、たくさんの憎しみや愛が溶けていった、けれど・・・・・





いずれみんな帰って来ます、私が蘇ったように、破壊の後には、必ず再生が来るはず、ですから」





「・・・そうだな、生命とは大地とともに、世界とともに、宇宙とともにある、世界があれば生命もともにある、生命あれば、世界が、ある」



破壊は終わった、今度は新しい創造が来る。



神にも魔物娘にも傾き過ぎない、新たな明日が。







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「・・・う、ん?」


光が失せた後、ゆっくりと遮那が瞳を開くと、そこは見慣れた自分の部屋だった。


すでに自分の身体からは修羅人の力は感じられず、元の人間に戻っているようだ。


身体を起こして遮那はベッドから降り、素早く着替えると外に出てみた。









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家の外は確かに京都ではあった、しかし歩いているのは人間だけではない。


サキュバスやデーモン、さらにはデビルといった淫魔たちも人間に混じって歩いている。


さらに空にはハーピーやガンダルヴァ、ワイバーン空を飛べる魔物娘たちが無数に飛んでいる。


ただし、誰一人としてルールを破って人間に襲いかかるような魔物は存在しない。


混沌より出でし魔物娘たちが秩序を守る、そんな光景がそこにはあった。



「ねーねー、おにいさん、私たちと遊ばない?」


どういうわけだかいつの間にか魔物娘に包囲されていた。



「いや、私は・・・」



「探しましたよ、遮那さま」


隣の家から紅の瞳の美しいワイトが現れた。



「真由」


うふふ、と上品に微笑むと、真由は周りにいる魔物娘たちに瞳を向けた。


「みなさん、もし遮那さまと遊びたいなら、まずは妻である私を通してくださいませんと」



「・・・妻?」


魔物娘たちはなんだかバツの悪そうな顔をすると、ペコペコ頭を下げながらどこかに去っていった。



「・・・そうですか、インキュバスにはならなかったのですか」



じっ、と遮那を見つめる真由、修羅人から人間には戻りはしたが、どうやら遮那はインキュバスにはならなかったらしい。



「ふふん、つまりまだまだ私にもチャンスがあるって、ことだよね?」


いつの間にいたのか、遮那の左隣にルシファーがいた。


「・・・は?」


「えへへへ、やっぱりお兄ちゃんには私がついてないとね?」


無理やり遮那の左腕を抱きしめるルシファー、現在彼女は幼い少女の姿であるため、真由とは違う不思議な弾力に遮那は狼狽した。



「聞き捨てならないわねルシファー」


「むきっ!、出たなミカエルっ!」


今度は空から光が走り、遮那の右隣にミカエルが現れた。


素早くミカエルは遮那の右手をとると、柔らかな両手で握りしめた。


「サナト、あんな堕天使は放っておいてこれからの人間、魔物娘、天使の在り方について話し合いましょう、メタトロン様も貴方を待っているわよ?」


ミカエルの姿は神々しいが、やはり神の造形というだけあり美しい少女の姿。


ルシファーとは違う清楚な魅力もある。



「勝手なことばかり、二人とも正妻たる私に無断で何をしているのですかっ!」




慌てて天使と堕天使を引き剥がしにかかる真由、それを見てミカエルとルシファーは不満そうに唇を尖らせた。


「マユ?、サナトはメタトロン様も一目置くような人間の英雄、人間の代表として主神様に会見するのは必要ではないかしら?」



「と、とにかくさっさと遮那さまから離れてくださいっ!」




なんとか遮那からミカエルを引き剥がすと、今度はルシファーが遮那の手を握りしめた。


「ぶー、マユってばサナトお兄ちゃんを独り占めにするつもり?、権力の横暴だよ〜」



「何が『お兄ちゃん』ですか、貴方はすでに遮那さまの妹を名乗れる歳から幾星霜過ぎているでしょうにっ!」


その点、と素早く真由は言い放つ。


「私は遮那さまの幼馴染、年齢にしても立場にしても、すべてクリアしています」


「ふうん、けどもしミカエルがサナトお兄ちゃんと結婚すれば私は義妹だよね〜」



この場合は義妹になるのか義姉になるのかよくわからないが、確かに身内にはなるのかもしれない。



「なっ!、そんな馬鹿な、義理の兄弟に色目を使うなんて、そんなことまかりとおりませんよっ?!」


それにミカエルの気持ちもありますし、と視線を移して、真由は唖然としてしてしまった。


「結婚、サナト、と私が?」


頬を赤らめ、もじもじと太腿をこすり合わせる大天使がそこにいたからだ。


「いや、確かにルシファーやマユから守れるという意味では私がサナトと結婚したほうがいいのかしら?、これは、そう、主神様の思し召し、決して私の本音というわけでは・・・」


何やら翼を白黒忙しく反転させたり、何やら悶絶したりしているミカエルを見て、真由はしばらく頭をかかえた。


「と、とにかく遮那さまの正妻は私です、遮那さまもそれを望んで、って、あれ?」


いつの間にやら遮那はその場にはいなかった。


「に、逃げましたねっ!、遮那さまっ!!」




中庸の未来になったとしても、どうやら遮那と天使、魔物娘の騒動は、形を変えてしばらく続くようである。











16/10/14 18:54更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
みなさまこんばんは〜、水無月であります。

かくして図鑑世界版メガテンもどき、完結させていただきます。

それにしてもなんだかんだでここまで来ましたが、あれやこれやと詰め込んだ結果かなりの長編になってしまいましたね。

メガテン自体はもっとハードなのですが、今回は魔物娘たちがいたためか本家ほどハードにはならなかった気がします。

今回外さざるを得なかった要素(YHVH、平将門公関連)に関しましては、本家をやっていただけたなら出ていますので、今回はご容赦いただけたなら幸いです。

ではでは、また出来ればあとがきにて。

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