「アシャ・ワヒシュタを倒すとは、素晴らしい力だ」


ゆっくりと刀を左手に持ち、三津島は立ち上がった。



「三津島・・・」



彼の実力は未知数だが、明らかに只者ではないオーラを放っている。


間違いなく、相当の使い手だろう。




「今度は二人で参りましょう」


小太刀を引き抜き、遮那の隣に真由は立つ。



「・・・ああ」


アシャとの戦いでかなり疲れているこの状況、一対二で戦えるのは正直ありがたい。



「この一戦でもって、我が大義が真の大義か証明しよう」


三津島が刀を引き抜くと、突如彼の身体から電流のような力が放たれて、制服が千切れ飛び、褌姿をさらす。



「行くぞ、サナト、マユ、貴様らが正しいと言いたいならば、それを証明してみせろ」


刀を振り上げ、二人に襲いかかる三津島、その剣撃たるや人間の領域を超えるような激しい動きである。



「まさに超人、と呼ぶべき、か？」



刀を見事に扱いながら二人の攻撃をいなしていく三津島、アシャに勝るとも劣らない実力ではないか。



遮那の攻撃を刀で止めると、瞬時に後ろから切り掛かってきた真由に当身を食らわせて跳ね飛ばす。




「・・・やってくれますね」



小太刀を構えなおすと、真由は三津島を睨み据える。



「ああ、とんでもない実力だ」



遮那も手斧を構え、常に戦えるようにしてはいるが、やはりアシャとの一戦が尾を引いているのか、息が荒い。




「君たち二人は私に協力せずに、この混乱の中いかにして生き、そして戦い抜くつもりだ？、そこに大義はあるのか？」



刀を上段に構え、三津島は二人に質問を投げかけた。



「・・・神に従う道に、正義はあるのか？」



遮那は手斧を三津島に向ける。




「秩序か、混沌か、そんなものでは生命は計れない、この世に生ける者は全ての『コトワリ』を内包している、私は未来を、全てを救ってみせる」



「やはり遮那さまは遮那さま、ですね・・・」



もうとっくに限界を越え、疲れ切っていた遮那だったが、啖呵を切ると、身体の内側から不思議と力が湧いてくるのを感じた。




「なるほど、それが君の正義か、サナトよ」



三津島の斬撃を遮那は手斧で阻み、そのまま足元を払う。


だが三津島はそれをかわして大きく飛び上がると、空中で光の指弾を放った。



これをなんとか弾いて見せると、三津島は遮那たちと距離を取る場所に着地した。




「ならば貴様は天使と魔物、相反する正義の者らも和解できると本気で考えているのか？」



遠距離から衝撃波を放つ三津島、これをなんとかかわしながら遮那と真由は隙を伺う。



「根っこから考え方が違えば、和解など出来ない、結局争い合うことしか出来ないのではないか？」



衝撃波をかわしつつ、真由は飛び上がると天井を蹴り、上から三津島に斬りかかる。



しかし三津島は斬撃を刀でかわすと、そのまま真由の手をつかみ、投げ飛ばした。



「・・・くっ！」


「真由っ！」



入れ違う形で遮那は三津島に急接近し、切り結ぶ。



「考え方が違えども、分かり合えるはずだっ！、光も闇も本来は一つだったはず、我々人間が、どちらでもない人間が、二つを結びつけるっ！」



遮那の言葉に一瞬だけ三津島の表情に迷いのようなものが見えたが、それも一瞬だけのこと、三津島はまたしても激しい斬撃を加える。


「くっ！」



「いかに気高い理想でも力なくば画餅に過ぎず、強壮なる者も大義なくば愚者と同じ、魔物とも天使とも、君は渡り合えるのか？」



遮那に回し蹴りを食らわせると、三津島は切り掛かってきた真由の一撃を受け止め、至近距離から衝撃波を放ち、弾き飛ばす。



「真由っ！」



「君にもだっ」



高速で放たれた衝撃波をかわすことが出来ず、遮那は壁に背中を打ち付けた。



「ぐあっ・・・」



軽く咳き込むが戦えないというほどのものではない、遮那は立ち上がると手斧を構える。


「はあっ！」


反対側の壁を蹴り、真由が三津島に突撃する。


「なかなかの使い手ではある、しかし・・・」



三津島は真由の剣を阻むとともに、身を低くして、彼女を壁目掛けて蹴りつけた。



「しまっ・・・」



「私には通用しない」


そのままの勢いで壁にぶつかる真由、ゆっくり立ち上がり、小太刀をかまえるが、足がふらついている。



「しっかりしろ真由っ！」



少女を支えると、遮那は真由とともに三津島に斬りかかる。



「なるほど、君たち二人は互いを信頼し、強い絆で結ばれているのか」


二人の波状攻撃すら三津島はなんなくいなして、遮那と真由をそれぞれ反対側の壁まで突き飛ばした。



「だが絆など大いなる力の前では、儚いものだ」


もはや遮那と真由に反論するような力はない、それほどまでに疲弊していた。


「もしこれで終わるならば君の大義はそれまでだ、遺言があるならば聞こうか？」



刀を遮那に突きつける三津島、だが遮那は最後の力を振り絞り手斧を握る。



「まだ、戦うか？」



「はああああっ！」



渾身の一撃、三津島目掛けて手斧を振り下ろすが、彼もまた遮那の攻撃をいなそうと刀を振るう。



「くっ！、やはり強い・・・」


遮那の一撃に、三津島は膝をついてよろめいたが、やはり届かない。



遮那の手斧を弾くと、そのまま彼を反対側に投げ飛ばした。



「私の勝ちだな、サナト」


刀を振り上げ、近づく三津島、いよいよ遮那は覚悟を決めた。




だが、突如として投擲された遮那の斧が、三津島の刀を弾き飛ばした。



「なっ、何っ？！」



三津島だけでなく遮那もそちらを見ると、真由が肩で息をしながらも武器を投げていた。



遮那の手斧は跳ね返り、いまは遮那の近くに突き刺さっている。



「行くぞ、真由っ！」



「はいっ！」



遮那は突き刺さっていた手斧を引き抜くと、フラフラになりながらも走る。



「うおおおおおおおおおおおおおおおっ！」



「はああああああああああああああっ！」




雄叫びとともに二人は別方向から三津島を斬り伏せる。



「ぐああああああっ！」


さしもの三津島もこれはどうにもならない、口からを血を吐くと、座り込むように倒れた。



「見事、だ・・・」



なんとか勝てたようだが、遮那も限界が近い。


彼が倒れそうになって、慌てて真由は遮那を支えた。



「サナトよ、見事、だ、お前は見事、私に勝ち、私の正義を否定して見せた」



ふふっ、と力なく笑う三津島だったが、なんとも満足そうだ。



「サナト、礼を言う、私は確かに日本を救うために力を求め、この地に堕天使ルシファーを降臨させようともした、しかし・・・」



三津島は近くに落ちていた己の刀を取り上げると、鞘に納めた。



「お前と戦っていてわかった、魔物の力で日本を守れたとしても、その先には神との果てしない戦いが待つ、平和にはならないのだ」



「三津島一佐・・・」



遮那と三津島は結果的に考え方の違いから敵対せざるを得なかった。


だが、こんな結末は、あまりにも残酷ではないだろうか。


遮那に正義があったのと同じく、三津島にも正義はあった、両方が両方を否定しなければならないとは、残酷過ぎるのではないか？



「ふっ、サナトよ、そんな顔をするな」



三津島は微笑むと、じっと遮那を見つめた。


「サナト、私は力の限り戦い、君はそれに応えてくれた、私の正義は確かに否定されたが、君の中には私の正義が残るだろう」



こんな正義もあった、こんな道もあった、例え道半ばで敗れたとしても、それを看取る者がいたならば、本当に敗れたことにはならない。



「褒美だ、持っていけ」


三津島が自分の刀を遮那に差し出した。


「三津島一佐？」


「何をしている、受け取れ、『虎徹』は名刀、これから死ぬ者よりも、明日を生きる者が持つべきであろう」



迷ったが、結局遮那は虎徹を受け取っていた、満足そうに三津島は頷く。



「これで最後だ、さらば、サナト、マユ、もし次生があるならば、君らと歩むのも、悪くはない」




遮那と真由は、最後まで己の正義を信じた侍に一礼すると、部屋から出て行った。











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「結局、私は正義を果たすことは出来なかった、か」



「だが、次代の希望を、最後に見ることが出来た、それだけで十分だ」



「サナト、マユ、果たして秩序にも混沌にも染まらずに戦い抜くことが出来るのか、あの世から見させてもらうぞ？」

■作者メッセージ
みなさまこんばんは〜、水無月であります。

いよいよ今回はふんどしとの対決、第十一話でごさいました。

高い実力の遮那と真由の二人を相手にしても互角以上に立ち回れるからこそ、ふんどしは超人なのですね。


ではでは今回はこの辺りで。