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第十話「決別」




迎賓館の廊下の果てには、何故か不思議な和風の扉があった。



「この先に、三津島が・・・」



扉の周囲に立ち込める重苦しい雰囲気、ゆっくりと、遮那は中へと足を踏み入れた。








扉の先は床張りに床の間がある、道場を思わせるような広い空間だった。



「来たか、そろそろだと思っていたよ?」


部屋の中央には日本刀を右側に置き、床の間に背を向ける形で正座する自衛隊の制服姿の男がいた。


「貴方が、三津島一佐?」




「いかにも、まずは座りたまえ、サナトくん」



三津島は、どうやら遮那のことはよく知っているようだ、まああれだけ派手に立ち回れば当然のことか。



「さて、真由くんのことでは当然私を恨んでいるだろうし、ジブリルのことについても納得は出来ないだろう?」



遮那が正座すると、かすかに三津島は微笑んで見せた。



「だが、誤解をしないでもらいたい、私は別に野心のままにクーデターを起こしたわけではないのだ」



なるほど、何らかの大義名分があるというわけか。



「・・・話しを伺いましょうか」



どのような大義名分が軍事クーデターを正当化し、三津島ら一部の自衛隊の離反を招いたのか。




「日本だけでなく、この世界はすでに神の使徒に支配されていると聞いたら信じるかね?」



神の使徒、まさか救世主神教団のことを言っているのか?




「否、救世主神教団は『彼女ら』の尖兵、下部組織に過ぎない、主神と呼ばれる神の使徒が世界を支配しているのだ」




主神、聞いたことのない名前だ、もしかすると聖書に出てくる契約の神や創造の神は、主神のことなのかもしれない。



「今この瞬間も、世界を純化せんとする使徒らの計画は進んでいる、それを阻止するためには魔物の力が必要なのだ」



三津島の言葉はにわかには信じられないことばかりではある。



しかし遮那にはその言葉を肯定するような不思議な予知の声のようなものが聞こえた。



「・・・そのために魔物を召喚し、軍事クーデターを?」




「そうだ、私はそう遠くない未来に神の使徒が世界を純化する計画を実行に移すことを知った『方舟計画(アークプロジェクト)』だ」




すでに使徒はこの今の堕落した現代社会に不満を抱いており、選ばれた民だけを生かして理想国家を作る計画を企てているのだという。




「そんな計画が実行されればどうなる?、大半の無辜の民は切り捨てられ、挙句待つのは神による管理社会ではないのか?」



確かに三津島の言う通りかもしれない。




いかなる基準で民を選ぶかはよくわからないが、切り捨てられた者は一体どうすれば良いのだろうか?




「いきなりこんなことを言われても困るだろう?、だが今この瞬間も魔物たちの力で辛うじて計画は阻止されている、もう猶予はないのだ」



右側に置いていた刀を、三津島は左に置き直すと、鋭い瞳で遮那を見つめた。



「サナトくん、どうか私に協力しては貰えないだろうか?、神の使徒による粛清を阻止して、魔物との世界を作るのだ」



しばらく遮那は黙っていたが、やがて口を開いた。



「仮に神の計画を阻止したとして、その後貴方は何を望むのですか?」




「私自身には願いはない、私は今この瞬間も神の使徒が我々人間を支配し、仮初めの自由を与えていることが我慢ならないのだ」




よく考えて欲しい、そう三津島は言うと、遮那と別れた。











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遮那が迎賓館のロビーに一旦戻ろうとすると、走ってくる真由とぶつかりそうになった。



「真由、やはり無事だったか」



にこりと遮那に対して微笑む真由、キョロキョロと辺りを見渡して、三津島がいないことを確かめる。




「遮那さま、三津島はいかがでしたか?」



「・・・その話しだが」



遮那は三津島が語った内容を、寸分違わずに真由に話した。




「なるほど、そんなことが・・・」



「聖書の言葉を借りるならば『千年王国(ミレニアム)』か、まあとにかくそんな計画らしい」



純化した世界と言うと、ノアの方舟を彷彿とさせるが、結局のところ神の都合に振り回されるだけなのだろうか?




「確かにこの世界がロクな世界でないと言う人もいますが、だからと言って性急すぎはしませんか?」



真由の言葉に遮那は頷いたが、仮に計画を止めても、今度は魔物たちの世界が来るのではないか?




野に解き放たれた魔物たちは数を増やし、すでに市内は無秩序な世界になろうとしている。



今度は、世界が混沌と享楽に満ちた姿になるのではないだろうか?





「真由、神の秩序にも、魔物の混沌にも正義はありはしない、勝ったほうが正義になるだけだろう」



ならばどうすれば良いのか、自分がやりたいことを、自分が信じる正義を貫くのだ。




「・・・少し、慎重に、考えなければならないな」


迎賓館の廊下にある窓から外を見ると、ある程度は京都の街が見える。



幼い頃から育った街は、空にはたくさんの魔物が飛び交い、地上からは怪しげな植物が伸びる、まさに魔界と呼ぶべき姿に変わっている。




だが、魔物による殺人や、混乱の中で行われる略奪行為もなく、封鎖内は一定の秩序が保たれている。



「真由、魔物についてどう思う?」


「藪から棒ですね、遮那さま」



遮那と並んで窓の外を見つめながら、真由は口を開いた。




「まだ信用が出来ると思います、私の知る限りは大人しくしていますし、破壊活動もしていませんからね」



確かに、人間は追い込まれてしまうと暴走するかもしれないが、今のところ封鎖内では人間による暴動すらない。




もしかすると、魔物がそんな暴動を起こさせないようにしているのだろうか?



遮那は心を固めると、三津島に会うために、再び道場へと足を向けた。









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「来たか、サナトくん」


変わらず正座したままの三津島は、遮那に対して答えを求める。




「さあ、君の答えを聞こうか、君は私に協力してくれるのかな?」



しばらく黙っていたが、遮那は首を振り、拒絶を現した。




「・・・そうか、君は私には協力しないと言うのだね?」



「神による千年王国を阻止できても、地上は混沌に染まり、いらぬ混乱を招く結果になりかねません」




魔物と人間だけでは駄目だ、やはりある程度のルールや規律は必要となるはずだ。




「わかった、ならば仕方ない、君には退場してもらうとしようか」




三津島が指を鳴らすと、床が開き、下から何者かが飛び出してきた。




燃えるような瞳に、褐色の肌、尻尾の先からは炎が上がっている。



「サラマンダーのアシャ・ワヒシュタだ、サナトくん、残念だが君には失望した」



アシャは背中に背負っていた大剣を引き抜くと、上段に構えた。



「わりいな、サナトとやら、これも契約、イってもらうぜ?」



「下がっていろ真由、こやつの相手は私がする」


真由を下がらせると、遮那は腰に下げていた手斧を掴む。


続けざまにアシャの斬撃をかわすと、遮那は手斧を構えた。



「・・・来いっ!」


「だらあああっ!」



踏み込みとともに力強い攻撃を仕掛けるアシャ、遮那はこれを手斧で弾くと、返す刀で下段から攻撃する。




だがアシャはそれを見切っていたようで、これをかわし鋭い一撃を放つ。



「・・・(さすがにやる、スライムやハーピーのようにはいかないな)」



リザードマンやサラマンダー、デュラハンは魔物の中でも武闘派、これまで戦ってきた魔物たちとはわけが違う。





「・・・へへっ、楽しくなって来たぜ?、サナト」


尻尾からの炎が強まり、アシャの瞳がキラキラと輝く。



「正直お前さんがこんなに強いとは思わなかったぜ?、俺と互角に渡り合う奴なんて初めてさ」



大剣を八相に構えると、サラマンダーの少女はじっ、と遮那を見つめる。



「決めたぜ?、お前さんは俺のものにする、サナトは俺の婿だ」



いきなり飛び出した言葉に、遮那は前のめりに倒れそうになった。


真由に至っては凄まじい目つきでアシャを睨みつけている。


「な、馬鹿なことをっ!、何を言っているっ!」


「この戦い、俺が勝ったらお前さんをもらうからな?」



大剣を構えなおし、にやりと笑ってみせるアシャ・ワヒシュタ。




「もし私が勝てば?」



「そんなことはあり得ないから、気にすんなって」



またしても斬りかかるアシャ、遮那は素早く対応すると大剣を手斧で受け止める。




「とりゃあっ!」



だがアシャは全身から赤熱の波動を放ちながら動きを高める。



「むっ!」



その動きたるやただ事ではない、一秒ごとに強さを増しているとすら思えるほどだ。



「・・・(長引けば不利、か、どうする・・・?)」


「さあさあ観念しなサナト、もうお前さんは俺のもんだからなっ!」



凄まじい速度で襲いかかるアシャ、恐らく速度は真由を上回るだろう。



「・・・あの雌トカゲ、私に無断で遮那さまに勝手なことを・・・」


剣呑な顔つきで遮那とアシャを見つめる真由、面白くなさそうに小太刀を引き抜いた。


もし遮那が負けそうならば手助けするつもりだ。







「・・・(どうする?、ただでさえ魔物は強敵、それがここまで強くなれば・・・)」


勝ち目はなくなる、だが勝たねばならないだろう。



「終わりだっ!、サナトっ!」


大剣を振り下ろすアシャ、その動きたるや遮那にすら見切れないものだ。


「アシャっ!」



だが、直後遮那は手斧で防御姿勢をとると、アシャに突撃した。



完全に捨て身である、だがアシャには予想外だったようでわずかながら姿勢が崩れた。


それが、一瞬の隙になる。



「はあああああああっ!」



手斧を返し、そのまま遮那はアシャに当身を仕掛ける。


「ぐはっ!」



直撃を喰らったが、対応が遅れて受身が取れない、アシャは跳ね飛ばされて壁に激突した。



「っ!、はあはあ・・・」


なんとか勝てた、かなりギリギリではあったが。



「やるじゃねえかサナト・・・」


ゆらっ、とアシャは立ち上がると、大剣を杖にした。



「楽しかったぜ?、またいつか、ヤろうな?」

そのままアシャは傷ついた身体で窓を叩き割り、どこかに去っていった。


16/08/12 20:32更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
みなさまこんばんは〜、水無月であります。

いよいよ褌こと三津島一佐と対峙する第十話でごさいました。

実はこの間実家に帰って、久しぶりに「真・女神転生V」やろうとしてメモリーカードを紛失したことに気づきましたが、気にしない気にしない。

マガタマまた集めなおしですが、気にしな・・・わりと気にしますね、ちくしょー。


ではでは、今回はこの辺りで。

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