連載小説
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「騎士団」
 どうもこの服はしっくりこないな
 
 というのが俺の感想だ。
 
 今俺の着ている服はいつも戦場にでる際の鎧ではない、かといって騎士団で配給される基調が緑の騎士団服でもない、式典などで騎士が着用する礼服だ

 上下とも基調は黒の、所々銀の刺繍が施されたシャツとズボン、その上から赤く縁取られた外套(この場合はマントに近い)を着ている、しかし、外套の長さが腰までしかないため腰に差している刀が見えてしまっている。
 本来ならば礼式剣と呼ばれる神の加護を受けた剣を差さなければいけないのだが、異端者の場合は主神に嫌われているためか装備することができない、仕方なく通常の刀を差している。
 

 ちなみに礼服であるがその着る者の身分によって服の色は異なり、外套の長さによりその身分に置いての階級を示している。
 例えば、俺の場合は騎士、つまり戦闘を行う身分である為に黒の服を纏い、外套の長さは、例えば騎士団を任されている団長クラスならば足元まで隠す外套の長さであり、外套がなければ一般兵である。
 
 この服はとんでもなく高価だ、この上下一着で町暮らしをしている者なら一年遊んで暮らせる、無論借り物だ
 
 そして、着ている服も豪華であれば今いる部屋も豪華だ、というかどこにいるのかと言うと、領主さまが治めるグラード領の領都(領主が治める町、もしくは領地の中心部となる町)ラヴェ・カイエンの中心地、エルメラ城の応接間にいる
 
 城という場所にはおおきく二つの意味があるといっていい、一つは戦闘の要となることともう一つは政治的な拠点を担う場所といっていい

 前者はローグスロー騎士団の砦であり、そして、エルメラ城は後者の城だ、しかし、この城は一度も実戦を経験していないのに、戦闘になっても戦闘用の城としての役割を果たすように作られた城でもあり、この城、いや、ラヴァ・カイエン自体が城郭都市としての意味もあるため、城の中に城があるといってもいい、なんというかスケールが違う

 いまいる応接間だけでもかなり広い、奥行き20間ほどはある、神話の主神の世界創造の物語が描かれた天井も刀を振り回せるほど高く、座っている椅子、30人ほどが食事をとれるテーブルも足などに細かい装飾が施され、一級品だろう、窓の外にはよく手入れの行き届いた中庭が見える
 
 これでも天守にある応接間ではなく、城の中では一番小さい応接間らしい、なんというか、世界が違う

 隣に座っているトウギは上流階級にうけがいいため、こういう場所に慣れているらしく出された紅茶をすすっている、俺も先ほど一口飲んだが上等しすぎて舌の受けが良くない味だった。
 しかし、紅茶に飽きたのか、懐から煙草を取り出すと術を行使し、火をつけ吸う、すると壁際に立っていたメイドが灰皿を持ってきてくれた。
 
 
 三日前のこと、俺とトウギは近衛騎士団の特殊部隊の皆さま方と共に、ラヴェ・カイエンに到着した。
 ローグスロー騎士団の生き残った連中がラヴェ・カイエンに現在にいるので合流するためであった。そこで本来ならば生き残った連中と新しい部隊を組織し、どこかの騎士団に編成されるのがセオリーだろう、しかし、到着すると案内されたのは仲間のもとではなく、アハトウという狂った学者が所長を務める研究所に連れて行かれた
 
 ………なるべく触れたくない、俺が言うのもなんだが、あそこの研究所の住人は狂ってる、親魔派の住人どもとは別な意味で魔物に魅入られている連中だ

 そこで二日ほど、実験とか、解剖とか、事情聴取とかいろいろやらされたが、まぁ、濃い二日間だった
 
 そして昨日、城に登城するように命令が下りる、下手すりゃこのままここで実験動物にされるのではないか、いっそ研究所から逃げて、研究所の非道を領主さまに伝えた方がよいのではないかとトウギと話し合っていた頃で、無論喜んで登城した

 まぁ、登城に際して団長の旧知の騎士に服を貸りれてよかった(本来ならば貸してくれることなどあり得ないが、その騎士はもう50過ぎで若いころの礼服だから着られない、ということで貸してくれた)、鎧で登城できないこともないが、いくら洗っても落ちない戦場の、魔物の血の匂いのする鎧で登城するのはできないことではないが遠慮したほうがよい、他の服といえば騎士団から支給されている服だがあまりにもみずぼらしい服であり、それを着て登城するのは無礼だ
 
 ただし、いざという時のために、城から外套だけは持ってきていた。この外套は自前だ、この外套は騎士に正式に認可されると各自で買うことになっている。まぁ、決して安ものではないが、騎士団で衣食住が確保されるため、安月給でも買える。それに最悪、この外套さえもっていれば鎧の上に外套を羽織って登城することもできたから、なにかと便利でもある

 それで、今日の朝は団長の知り合いの騎士の家に泊まり、その騎士がエルメラ城に勤務であるため、ともに登城し、身体検査などを受けた。
 
 ……ちなみに朝一番に登城したのだが、この応接間に通されるまで半日ほど待たされ、窓からさす日が西日に変わりつつある

 「……おそいね」

 隣に座るトウギがつぶやいた
 
 「ばか、黙れ、聞かれたらどうすんだよ」

 あくまでも小声でトウギをたしなめる、この部屋にいるのは俺とトウギだけではなく、壁際に一人、メイドが控えている、正直聞かれたのではいか、と焦った。
 
 そんな俺に軽く手を振り、メイドにおかわり、と空になったカップに紅茶のお代りを催促しながらトウギは天井を見つめ、主神の話を眼で追っていた。

 「大丈夫、大丈夫、セルセは本当にそんなとこ心配性だね」

 「……お前が変なところで肝が太いだけだ」
 
 そんな会話をしていると、トウギのカップに紅茶を注いでいたメイドがふきだして笑ってしまった

 俺たちの視線に気がつくと、メイドは赤面した

 「騎士様は仲がよろしいのですね、うらやましいです」

 俺たちは互いに顔を見ると、
 
「「全然」」

 ほらまた、とメイドは口元をおさえながら机を挟んで、俺たちの正面の椅子に座る

 俺が首をかしげる、と、メイドは、

 「あ、お構いなく、私たちはお客様が暇そうにしていたら御嫌ではければ、お話でもして暇を紛らわすように言いつけられているもので、御嫌ですか?」

 メイドは首をかしげながら尋ねる

 別にかまわないよ、と、トウギは答え、俺も首を横に振って嫌ではない、と答えた。

 というか、このメイドも神経太いな、トウギは女性と子供に受けそうな顔だが、俺はどう見てもいかつい顔だし、初対面の騎士二人とまともにしゃべる人間初めて見たぞ、まぁ、客に慣れているというのもあるのかもしれないが、

 それから二言、三言、言葉を交わしていたが、トウギは元々しゃべるのが好きだし、俺も嫌いではない方なので、気がつけば談笑していた。

 血なまぐさい俺たちの会話にメイドもついていく、結構このメイドも度胸もあって博識だ、というか俺たちよりも国際情勢に詳しかったりして時々教えられることも多い、さすが領主様の城のメイドだ、教育もなっている。

 トウギが変なことをしゃべる度に俺がそれをただす、といった風に会話なので、メイドは口をおさえて上品に笑う

 「…ところでお嬢さん、おいしい店などラヴェ・カイエンにあったら教えていただきたいのですが?その時、ご一緒に食事でもいかがですか?」
 
 会話にひと段落すると、よほどメイドを気に入ったのだろう、トウギが女性を食事に誘うのはよくあることだが、一対一の時ぐらいだ、誰かいたときに誘うのは、本気の時だけだ

 「あらいやだこと、騎士様ったら、お嬢さんだなんて、本当にお上手なんですから」

 うん、確かにお嬢さんは無理があるかもな、目の前に座っているメイドは確かに美人だ、肩まである金髪も美しいし顔も整っている、だが、明らかに20代後半ぐらいだ、お嬢さんは無理がある

 「いやいや、あなたは本当にお美しいし、それだけではなく器量も度胸もいい、気に入りましたよ、私の名前はトウギと申します。こいつはセルセ、そういえば、お嬢さん、お名前お聞きしていませんでしたね、教えていただけますか?」

 「あら、私としたことが、とんだ失礼を、心よりお詫び申し上げます。ラインバック騎士様」

 メイドは椅子から立ち上がると深々非礼を詫びる。トウギは慌てて顔を上げてください、と言ったが途中で首をかしげた

 喉が渇いたので、紅茶を一口飲む

 ふと、紅茶を飲みながら、俺も違和感に気がつく

 ん、なんかおかしくないか、なんでこのメイド、トウギの本名知ってるんだ?

 そして、スカートの端を少し持ち上げ、メイドが自己紹介をする

 「私(わたくし)はガリメスト国グラード地方を任されておりますグラード領領主スパルトロ・カールの第三子テニファ・カールと申します。まぁ、お二人ともお会いするのは初めてではないのですが」

 トウギは固まっていた、俺は飲もうとしていた紅茶を危うく噴き出す所だった

 なんというかその様子を見て、目の前にテーブルを挟んで立っているメイド―俺達を助けてくれた近衛騎士団を率いる大騎士団の団長、テニファ様は奇襲成功、といった風にほほ笑んだ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 「「と、とんだ御無礼を!!!失礼しました!!テニファ団長殿!!」」

 俺たちは椅子から飛びあがるように立ち、敬礼をする

 一応ローグスロー騎士団は壊滅ということになっているため、書類上、俺たちはテニファ様の近衛騎士団に編入されたこととなっている、つまり俺たちの上司だ

 そして、今回俺たちを呼び出したのも近衛騎士団団長、つまりテニファ様であり、そこで正式な転属命令が下るものだと思っていたが、まさかテニファ様ご本人にお目にかかれるとは、というか、なんでメイドの格好してるんだ?俺たちを試すため?だったらこんな面倒なことをせずとも、まさか影武者?メイドのおふざけ?いやいやいや、自分の仕える主君の城でこんなことすれば下手すりゃ斬首だ、だから九分九厘本物だろうが、意図が分からない…たぶんこれが俗に言うお戯れ、というやつか

 そんなことを考えていると、テニファ様は口元を隠して笑う

 「本当に息が合ってるのですね、見事に声があっていましたよ。ラインバック騎士、ラフォード騎士」

 一通り笑うとテニファ様はパンッと手をたたく、と、光が窓から入り、それまでテニファ様の着ていた白と黒のエプロンドレスが一瞬にして黒の騎士の正装に早変わりする、無論外套の長さは足元まで隠す長さで、最高の位であることを示している。
 胸にはバラと剣の紋章が刺しゅうされている、その紋章は近衛騎士団の紋章だ。

 本来ならばテニファ様は領主の一族、確かどこかの貴族と結婚されたが、離縁されたので領主の一族の身分に戻っているはず、なので高貴な身分を示す白の礼服のはずだが、黒ということは今回は騎士として俺たちに用事があるのだろう

 たしか、こういう術式があったと思うが、それを一瞬で行ってしまうとは、さすが歴戦の勇者だ、慣れてる。

 テニファ様が座る

 「着席してください、さてと、何から話しますかね」

 俺たちが座ると、テニファ様は右手を上げた、すると、テニファ様の背後の壁にかかっていた絵画が動いた、否、絵画に描かれていた40代後半の正装をした騎士が平面の世界から質量をもった、本物の騎士となり出てくる。

 絵画から出てきた騎士の手には書類の束を持っており、そして、テニファ様に持っていた書類の束を渡すと、再び絵画の中に戻り、壁には平面の絵が飾ってあった。

 テニファ様は騎士に渡された書類をぱらぱらとめくり、気にも留めていない。だが、となりのトウギを見ると、驚いた顔をしている、たぶん俺も同じ顔をしているだろう、あんな術式は聞いたことがない、というか術式の基本を無視している

 術式や魔術はなんでも可能にする奇跡の術だと思われているが、ある法則に基づいたものだ、俺も専門ではないから詳しくは分からないが、禁断の術、つまり、できないことは覚えさせられた

 今の術はその禁断に相当するものだ、どうなっているのだ?

 「………ふむ、お二人の経歴はなかなかのものですよね、本来なら、近衛騎士団の隊長とまではさすがに無理ですけど、特殊部隊の隊員か、一番隊に配属したいものですね」

 その声で現実に戻された、ありがとうございます、と頭で理解する前に条件反射で礼を言う。とりあえず頭を切り替え、その言葉を理解した。純粋にうれしい

 騎士団の一番隊といえばその騎士団で最も精鋭の騎士しか入れない、つまり、俺たちはそこまで評価されたということだ、だが、それを言うことは、その通りにならないということでもある。

 「……しかし、惜しいですね、本当に惜しい、私はあまり気にしないのですが、あなたたちが異端者ですからね、各隊の隊長と話し合ったのですが反対が多くて駄目でした」

 やっぱりな、ある程度予想していたからそこまで落胆はしない、だが、はっきりと言う人だ、普通であればそれらしい理由をつけて暗に言うのだが、ここまではっきり言う人も久しぶりだ。

 俺たちにその書類の束から紙を取出し、二枚渡す、命令書だ、一枚には俺の真名が、もう一枚にはラインバック、つまりトウギの名が書かれていた、そして、どちらの紙も青、どこかの騎士団に転属せよという命令の赤紙ではなく青紙、つまり、危険な特殊任務の命令書だ

 「そこで、お二人には別々に任務を命じます。ラインバック騎士にはスカウトをお願いします」

 ラインバック騎士、と書かれた命令書をトウギは手に取るとそれを読む、俺からでは見えないから何と書かれているのかはわからない

 「……スカウト、ですか?」

 トウギが尋ねる、命令書というのはあいまいな指令が多い、それを直接上官から詳しく説明されるのだ

 「ええ、スカウトです。先の戦でローグスロー騎士団は壊滅、最前線は近衛騎士団が守護していますが、休戦協定の期間が終われば我々の戦線維持は不可能です」

 先の戦で『王衆連盟』は魔王軍と停戦協定を結んだが、実際は休戦協定だったらしい、休戦期間は一年

 「今まで、我が領地の戦線を維持できたのは魔物と一対一でも戦える異端者のローグスロー騎士団が戦線を構築していた、というのが大きな理由ですからね、その為、次の戦闘では戦線の維持は不可能です、崩壊しますね」

 二コリと頬笑みながらそんなことを言う、恐ろしい

 「ですから、優秀な人員がグラード領地の戦線維持には必要不可欠なんですよ。ローグスロー騎士団に匹敵するほどの人数と兵の質が、とかは言いませんが、魔王軍にとってローグスロー騎士団に匹敵するほどの脅威をもった兵のいる騎士団が、ね」

 トウギをじっとテニファ様は見つめる

 「こんな言葉を知りませんか?同じ質をもった者同士はひかれあう、という言葉を…つまりは」

 「異端者を探し出し、新たな騎士団を作り出す、その為にその異端者を探し出す異端者が必要、ということですね」

 トウギがテニファ様の言葉を遮り、結論を言った。
 テニファ様は頬笑み、そういうことです、と肯定する

 「無論、異端者のみならず、勇者などがいた場合もお願いしますよ、むしろ勇者の方が多いと思いますがね」

 「しかし、勇者は」

 「ええ、勇者として生まれた者は教団に、この場合はロウドナスですか、献上しなければいけませんね。まぁ特例として私のような者は免除されますが」

 そうなのだ、現在でもロウドナスであろうとジメリオ・セードであろうと一部の階級の人々を除いて勇者として生まれた者の親は教団に我が子を献上しなければいけない、そのためほとんど新しい勇者の発見は難しいはずだが

 「しかし、献上しなければならないのは反魔国と中立国のみ、ということをご存知ですか?」

 そこで何が言いたいのか気がつく、トウギもそうか、と呟く
 「気がついたようですね、そうなんですよ、親魔国の国民に勇者の献上義務は無いのです。むしろ、親魔国では勇者は迫害されることもあるということもあるらしいですよ」

 迫害される場合もあるのか、まるで俺たち異端者みたいだな、まぁ、俺たちはどこでも迫害の対象だが

 「その為にラインバック殿には、親魔国に行ってもらいます。その時にはグラード領地の兵だと分からないように旅人を装ってください。できるだけサポートしますが、できることだけです、その意味がわかりますね?」

 トウギは頷く、これは立派な侵略行為であり、つまり他国や他の領地で兵にでもつかまりでもすれば最期、どこの兵だか分からないように死ねということだ
 俺たちは、ローグスロー騎士団の団員はこのような敵地潜入の訓練も受ける、何度か親魔派の領地に潜入して魔王軍に奇襲をかけたこともあった、無論俺たちだと分からないように証拠隠ぺいも忘れずに行う、そのため一から訓練するよりも都合がいいのだろう

 「………かなりつらい任務になります、それだけの覚悟も必要です。ですが、誰かがやらなければいけないこと、そのことをよろしくお願いします」

 トウギは無言で命令書を見つめていた。そして、席を立つと、敬礼

 「ラインバック、謹んで拝命いたします」

 直立不動の見事な敬礼だった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 トウギが席に着く、普通に考えればこのような特殊任務は二人一組が基本だ、俺はそのサポートだと思うのが普通だが、その場合命令書は一枚、今回は俺とトウギの分がある、つまり任務は別々だ

 なんだろうか、俺の任務は、と命令書を手に取る

 命令書の内容の部分こう書かれていた
 『 ブラフォード騎士殿
  貴殿を騎士団指揮官に命ずる』

 ………簡素だが、わけがわからない、なんだこれ………

 「さて、ブラフォード騎士ですが、騎士団指揮官をお願いします」

 「……指揮官ですか?団長ではなく?」

 最もな問いですね、とテニファ様は言う

 「ええ、指揮官です。まぁ実質上殆ど団長と権限が同じものだと思っていただいて結構ですね」

 だとしたらそれはそれで問題だ、あまりに権限が大きすぎる、俺はローグスロー騎士団で隊すら任されたこともない、ただの団員だ、それに出身階級は平民、いやそれ以下だ
 それをテニファ様は察したように、紙の束を、資料を渡された

 「ご心配なく、この資料を読んでいただければわかりますよ」

 それをぱらぱらとめくり読む、その紙はカンドル騎士団を構成する騎士の名簿で、騎士の年齢や特徴などが書かれていた

 なるほどな

 「この騎士団の騎士はカンドル人(デッ・レート国を構成している民族)の騎士ですか」

 殆どが、いや全員がデッ・レート国のカンドル人で武人出身の騎士だ、それも12から15ほどの少年兵ばかり、この紙に書かれている人数も30人弱、これが全員だとしたら騎士団というよりも隊といった方がよい

 「まだ名がないので一応私たちは、この騎士団を知る者はドリスタン(外人)騎士団と呼んでおります」

 そこで、一息ついた

 「我が同盟国であったデッ・レート国は魔王軍の猛攻にあい、陥落したことはご存じですね?いや、書類上陥落はしていませんが先の休戦協定の才、国土の半分が魔王軍の統治下となり、魔界となりました、残った国土の自治権も魔王軍のものです。事実上、デッ・レート国は崩壊し、多くの難民が発生、わが国でも約千人の難民を受け入れ、グラード領では半分の5百人の難民を受け入れました」

 そこで区切り、資料を見ていたテニファ様は俺を見る

 「しかしですね、中には武人階級の難民もおりました。本来ならば難民の方には開拓を任せるのですが、彼ら武士階級の人間を遊ばせておくにはあまりにも惜しいのですよ、仮にも彼らは戦闘訓練を受けた人間です、基礎体力や武術の腕も普通の人間よりもずっと高い、ですので騎士団を結成し、戦力することを決定しました」

 なるほど、確かに理にかなっている。魔物に祖国を奪われた連中だ、さぞや士気も高いだろう、それに名が売れれば他の難民も戦闘に参加する者もあらわれるだろう、戦力増強にもなる、だが、

 「問題も多いのが弱点なんですよね、こういう騎士団って」

 そう問題も多い、中には謀反を起こすこともあるし、デッ・レート国を取り戻せば国に戻り、俺たちも気がつかない弱点をついて攻め込んでくるかもしれない、まだまだ他にもたくさんの問題もある

 「つまりは監視役ですか、私は」

 騎士団が謀反を起こした時、人質に取られても、真っ先に死んでもいい監督役が、必要だ
 しかも、団長が人質にでも取られたとなったらその人物を任命した領主の質まで問われる、指揮官というあいまいな地位にし、万が一反乱が起こった際も団長ではなく指揮官だ、という言い訳はできるのだろう

 「そういうことですね、ですがお約束いたしますよ」

 俺を見るテニファ様の眼は、瞳はどこまでもまっすぐだった。

 「優秀な騎士、精鋭たちを配属したつもりです、後悔はさせません」

 そこには真剣な目があった、そこにこもっているものが殺意であれば殺気か、だが、俺は何度もそういう者を見た、真顔で、どこまでも真剣な目で、嘘を語るものを見た、今回もだまされるのだろうな、俺は

 ああ、ドチクショウ、ひどいまでにドチクショウだ、たらしだな、この方は

 席を立つ、そして、敬礼

 「ブラフォード騎士、騎士団指揮官の任を謹んで拝命したします」

 こうなれば、とことん地獄に付き合おう、ただし

 「二つだけ、お願いしたいことがあります」

 テニファ様は意外そうな顔をした

 「一つはまだ名のない騎士団ということがわかりましたが、私に命名権をいただけないでしょうか、さすがにドリスタン騎士団では騎士たちの士気にかかわりますので」

 なんだそんなことか、といった風にテニファ様は安心した様子でうなずいた。

 「もう一つは任命されたからには、騎士たちについての私の権限の範囲を、団長と同格の範囲として保障していただきたいのです」

 普通であればそんなことは確認しなくてもいい、だが、俺の任される騎士団は30人弱の小さい騎士団であり、地位も団長ではなく指揮官、その気になれば権限の変更などはたやすい、だが、そのせいで他の騎士団に戦果を横取りでもされれば、反感も高まるというものだ、ここで権限をはっきりさせておかないとまずいことになる

 テニファ様は少し、腕を組んで考えていたが、一枚の書類の裏にポケットからインクと羽ペンを取り出し、書いていく

 「わかりました、後日正式な書類を渡しますが、今日のところはこれでお願いします。それとラインバック騎士とブラフォード騎士、明日もう一度登城してください。
 ラインバック騎士には特殊訓練を受けていただきます、それとお渡しする物がありますので。ブラフォード騎士には明日、精鋭たちにお会いさせましょう」

 俺の権限を定めると書かれた紙を受け取り、それを見ると、確かにそのことが書かれていたが、もう一つ、紙には地図のようなものが、というより地図が描かれている。

 疑問に思うと、おまけです、とテニファ様は言った。

 「そこがラヴェ・カイエンで私のお勧めの店です、明日正式な手続きを行うので、今日はこれで終わりです」

 さてと、と手をたたくと、今度はテニファ様の服装が変わり、騎士の正装から、どこにでもいるような旅人が着る、緑が基調の服装になる

 俺たちに微笑む

 「飲みに行きますか」




戦場に何を求めるか?何のために戦うのか?
ある者は復讐のため、ある者は祖国のために
しかし、そのために集められたのは、未熟な、あまりにも未熟な、英雄ども
次回「カンドルの騎士」
英雄を志す者は、不要である
11/10/08 02:03更新 / ソバ
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■作者メッセージ
どうも、こんにちは
今回から第二章の始まりです。
最初は騎士団の結成まで書くはずだったのですが、あまりにも長くなってしまったので分けました、すいません。
今回も自分で突っ込みどころ満載ですが、次回詳しく書いていくつもりです。
ご意見、ご感想お待ちしております。

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