読切小説
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酩酊の帝国、その朝
頭の鐘が重苦しい音を響かせて止まない。
水を吸った毛皮でできた気だるさのガウンを脱ぎ捨てられない。
そして昨日の記憶がサッパリない。

OK、思い出せる所まで思い出そう、
ズキズキと拍動に合わせて痛む頭のテープを巻き戻す。
ガリガリガリガリ、

…そう、原因自体は明解なのだ。
昨日出会ったサテュロス、彼女に違いない、
まぁ原因と言うと悪いのだがその根拠はある。
自分の隣で彼女がスヤスヤと寝息を立てているからだ。
「毛皮の…ガウンなんて…いけません…」
などと寝言を呟いているが、無視して考えを進める。
今わかっているのは昨日隣のサテュロス、名前は…リコリスだったか。
そのリコリスに出会い、酒を飲み、そして…多分そのまま行為に至り、今に至る。
ということまでだ。
多分とつけてはみたが行為に及んだのはまず間違いない。
でなければ男が女と二人で裸で寝ていたりするものか、
クソ度胸を出して我が家に招いたりしたせいで独り身用のシングルベッドが狭い。
兎に角そこまで思い出したなら上等だろうとそのまま爛れて溶け落ちそうなまでに重たく感じる体を起こし酒臭くなった部屋をトイレまで歩く。
トイレを出て戻ってくるとリコリスが起きていた。

「…おはよう」

「おはようございます」

流石というか二日酔いやらの様子はまるで見て取れない。

「飲みものをくれないか」

台所の側に立っていたリコリスに頼むとすぐに運んできてくれた。

「ああ、ありがとう」

お礼を言ってからグラスに並々と注がれた「透明な液体」をガブリと呷る
「…!」
げほごほがほ。思わず吐き出し、そのまま咳き込んでしまう

「がふっ!こっ…ごふっ!こ…これ…焼酎じゃないか!」

「あら、お酒じゃなかったんですか?」

なにを間違えたんだかわからないと言った顔でリコリスが聞いてくる

「うぅ…わかった、言葉足らずだった。水をくれ、無色透明ノンアルコールの水だ」

「…あぁ!すみませんてっきり…」

リコリス運んできた水を今度こそガブリと飲み込む。

「ふぅ……悪かったな、二回も運ばせて」

「こちらこそ申し訳ありません…」

しょぼんとした顔で言うリコリスを慰めつつ先程の事を思い出す

「あぁ…そうだ、聞きたいことがあるんだ。
実を言うと君と本格的に飲みだしてからの記憶がサッパリない、
なにか迷惑なことはしてないだろうか」

正直家に連れ込んで「致して」いるのは確実なので
仮にリコリスが不本意ながらであったなら迷惑などと言った話ではないのだが…

「んー…迷惑…なことは特にされてないと思いますが」

「そうか…それならよかった」

自分が何もしていないことに安堵した、というよりかは
お持ち帰りで枕を交わしたことを迷惑と思われていないことに胸を撫で下ろしながら聞く

「それで、これからどうする」

「そうですね……取り敢えず家に帰ります。
また今度、この家に来てもいいでしょうか?」

「ああ、君が来てくれるならいつだって歓迎するよ」

「ふふ、嬉しいです、それじゃあまた来ますね」

そう言って彼女は帰って行った。

〜その晩〜

ピンポンと軽く響いたインターホンの音に急いで玄関を開けるとリコリスが立っていた。

「あぁ君か、どうぞ上がって、今日中に来るとはね。忘れ物でもしてたっけ?」

そう聞くとリコリスは今迄…少なくとも記憶のある中では初めて見せる妖艶な顔で言った。

「いえ、記憶がないとのことでしたので。やり直しに来たんですよ」
16/07/31 01:15更新 / とりがら

■作者メッセージ
練習に書いた1300文字ぐらいのエロなし短編です。
サテュロスワインは悪酔いしないそうなんでまぁ、
多分家に連れ込んでから焼酎とか他の酒とかも飲んでたんじゃないですかね(適当)

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