安息、されど願いは届かず。
ディランとヴィルネスが互いの想いを伝え、そして一つになってから1週間ほど経った…。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「シスター、こっちこっち―!」
「きゃははっ!」
「ほら待って、あまり走るとこけてしまいますよ!」
その日もヴィルネスはシスター服を纏い、教会にある中庭で子供達の相手をしていた。追いかけっこや絵本の朗読…子供達を相手にするヴィルネスだったが、やがて一人の子供の声が彼女の耳に入った。
「あっ、ディランお兄ちゃんだ!」
「本当だー!ディラン兄ちゃーん!」
そう言って子供達が駆け寄って行った先には、北にある交易都市で買ってきた玩具や絵本などを入れた袋を背負っているディランの姿があった。
「わー、いっぱい絵本がある―!」
「あっ、俺これが欲しい!」
「それ僕のだよー!」
そう言って子供達の何人かが玩具を手にとって騒ぎ出したのだが、ディランはそれに対し苦笑し、子供たち一人一人の頭を撫でながら語りかけた。
「こら、喧嘩は駄目だぞ?たくさん玩具はあるんだぞ?ちゃんと一人ずつに分けてやるからな」
『はーい!』
そうして子供達一人一人に玩具を手渡していたディランだったが、やがてクッキーを焼いて持ってきたヴィルネスと視線が合った。
「あっ…ヴィルネス」
「…お疲れ様です、ディラン。あの、クッキーを焼いたので…食べて行きませんか?」
「あ、ありがとう…いつも悪いな」
「い、いえ!!お気になさらず…作ってたら余っちゃったものですから////////」
「………そっか///」
二人の初々しい触れ合いに子供達はそれぞれに囃し立て始めた…。
「ディラン兄ちゃんとヴィルネス姉ちゃん、仲良しだねー!」
「仲良し〜!」
「っ!?こ、こら…!////」
「わー、逃げろー!」
「きゃー!」
「あ、あはは…/////」
その視線に気づいたヴィルネスは顔を真っ赤にしながら追いかけ始め、子供達がそれぞれに逃げ始めるのをディランは苦笑いしながら見守り…。
「…ふふ、微笑ましいものですね」
マヌエル司祭は温かい目でこれを見守った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして夜になり、ヴィルネスは酒場に行って手伝いをし始めた。ヴィルネスは既にカリュネス酒場の看板娘として地元では有名になっており、彼女目当てに北の交易都市から訪れる人も増えたほどである。
「おかみさん!注文入りましたー!」
「あいよ!…ヴィルネスちゃん、少し休憩しなよ。他の娘達も接客したいと思っているんだからさ!」
「あっ、はい!」
そう言ってヴィルネスは店のカウンターに座ると、カウンターに立っている酒場の主人が鹿肉のシチューとパンを出してくれたのである。
「あっ、マスターさん…ありがとうございます」
「いいって事さ。それに…そろそろ漁師達もやって来る頃合いだし、ディランも来るだろうぜ…ほら来た!」
マスターがそう語りかけたかと思った瞬間、酒場の扉が大きく開け放たれ漁から戻って来た漁師達が入ってきて、店は一段と賑やかに……そして、その漁師達と一緒に、ディランも入ってきた。
「ディラン…いらっしゃい!」
「邪魔するよヴィルネス……本当に綺麗だよ」
「も、もう……//////」
「ははっ、悪い悪い!マスター、これ海で取ってきた魚だ。この大きさならソテーやカルパッチョ、何でもできるぞ!」
そう言ってディランが手に持っている大きな魚を高々と掲げると、マスターもいつになく興奮して叫んでいた。
「おおっ!こいつは上物の魚じゃないか!!よっし、腕が鳴るって物さ!お前ら待ってろ!!」
店のマスターが店内にいる人間全員に聞こえる様に言い放つと、猟師や商人問わず、皆が皆ジョッキを高々と上げて歓声を上げた……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして宴もたけなわとなり、行商人や旅人達が二階の宿泊部屋に戻り、漁師達もそれぞれに家に戻っていく中……ディランとヴィルネスも自分達の家に向かっていた。
「今日もお疲れ様です、ディラン……」
「ヴィルネスもね。…今日もいい日だったな。っ!あれは…」
そう言ってディランがそれを見上げたまま立ち止まったのを見て、ヴィルネスはふと問いかけた。
「ディラン、どうしたんですか…?」
「…すごいな。見てみなよ、ヴィルネス」
ディランはそう言いながら右手を空に向けて指さしたので、ヴィルネスがその方向に顔を上げて……。
「わあ……っ!」
思わず感嘆の声を上げていた。その視線の先には……満天の星空を流れる流れ星の雨だったのである。
「……綺麗」
「そう言えば知ってるかヴィルネス?流れ星が消えるまでに願い事を三回念じると、その願いが叶うんだってさ」
「そうなんですか?じゃあ……」
そう言ってヴィルネスは自身の手を押し抱くように握り締めて目を瞑るのを見て、ディランも同じようにする。そして暫しの間二人は祈りを捧げる様にしていたが…やがてどちらともなく目を開けた。
「…ディランは、何を祈ったんですか?」
「俺か?………『君と、いつまでもこうして穏やかに過ごしていたい』だな。ヴィルネス、君は…?」
ディランがそう問いかけると、ヴィルネスは顔を朱に染めて恥ずかしそうにしながら答えた。
「……っ。『愛する人と、この土地でいつまでも幸せでありたい』、です…//////」
ヴィルネスがそう答えてそのまま顔を真っ赤にして俯くのを見て、ディランも顔を赤に染め、照れくさそうにしながら彼女の頭を撫でた。
「そっか…じゃあきっと叶うと思うよ。…行こうか」
「っ、はいっ…!」
そうしてディランはヴィルネスの手を強く握り、ヴィルネスもまた彼の手を強く握りしめ…自分達の家に戻っていく。彼らの頭上を流れ星が何時までも流れ続けていたのである……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
だが、この二人の願いは聞き届けられる事は無かった。ディランに定められた『勇者の宿命』……それにより、彼らの身に不穏な出来事が齎される。そしてそれを機に、ディランは一度は捨てた聖騎士としての道を再び歩む事になる。
そしてその傍らには、彼を愛し…彼と共に在る事を決意したヴァルキリーであるヴィルネスも供にあったのは言うまでもないだろう。
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「シスター、こっちこっち―!」
「きゃははっ!」
「ほら待って、あまり走るとこけてしまいますよ!」
その日もヴィルネスはシスター服を纏い、教会にある中庭で子供達の相手をしていた。追いかけっこや絵本の朗読…子供達を相手にするヴィルネスだったが、やがて一人の子供の声が彼女の耳に入った。
「あっ、ディランお兄ちゃんだ!」
「本当だー!ディラン兄ちゃーん!」
そう言って子供達が駆け寄って行った先には、北にある交易都市で買ってきた玩具や絵本などを入れた袋を背負っているディランの姿があった。
「わー、いっぱい絵本がある―!」
「あっ、俺これが欲しい!」
「それ僕のだよー!」
そう言って子供達の何人かが玩具を手にとって騒ぎ出したのだが、ディランはそれに対し苦笑し、子供たち一人一人の頭を撫でながら語りかけた。
「こら、喧嘩は駄目だぞ?たくさん玩具はあるんだぞ?ちゃんと一人ずつに分けてやるからな」
『はーい!』
そうして子供達一人一人に玩具を手渡していたディランだったが、やがてクッキーを焼いて持ってきたヴィルネスと視線が合った。
「あっ…ヴィルネス」
「…お疲れ様です、ディラン。あの、クッキーを焼いたので…食べて行きませんか?」
「あ、ありがとう…いつも悪いな」
「い、いえ!!お気になさらず…作ってたら余っちゃったものですから////////」
「………そっか///」
二人の初々しい触れ合いに子供達はそれぞれに囃し立て始めた…。
「ディラン兄ちゃんとヴィルネス姉ちゃん、仲良しだねー!」
「仲良し〜!」
「っ!?こ、こら…!////」
「わー、逃げろー!」
「きゃー!」
「あ、あはは…/////」
その視線に気づいたヴィルネスは顔を真っ赤にしながら追いかけ始め、子供達がそれぞれに逃げ始めるのをディランは苦笑いしながら見守り…。
「…ふふ、微笑ましいものですね」
マヌエル司祭は温かい目でこれを見守った。
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そして夜になり、ヴィルネスは酒場に行って手伝いをし始めた。ヴィルネスは既にカリュネス酒場の看板娘として地元では有名になっており、彼女目当てに北の交易都市から訪れる人も増えたほどである。
「おかみさん!注文入りましたー!」
「あいよ!…ヴィルネスちゃん、少し休憩しなよ。他の娘達も接客したいと思っているんだからさ!」
「あっ、はい!」
そう言ってヴィルネスは店のカウンターに座ると、カウンターに立っている酒場の主人が鹿肉のシチューとパンを出してくれたのである。
「あっ、マスターさん…ありがとうございます」
「いいって事さ。それに…そろそろ漁師達もやって来る頃合いだし、ディランも来るだろうぜ…ほら来た!」
マスターがそう語りかけたかと思った瞬間、酒場の扉が大きく開け放たれ漁から戻って来た漁師達が入ってきて、店は一段と賑やかに……そして、その漁師達と一緒に、ディランも入ってきた。
「ディラン…いらっしゃい!」
「邪魔するよヴィルネス……本当に綺麗だよ」
「も、もう……//////」
「ははっ、悪い悪い!マスター、これ海で取ってきた魚だ。この大きさならソテーやカルパッチョ、何でもできるぞ!」
そう言ってディランが手に持っている大きな魚を高々と掲げると、マスターもいつになく興奮して叫んでいた。
「おおっ!こいつは上物の魚じゃないか!!よっし、腕が鳴るって物さ!お前ら待ってろ!!」
店のマスターが店内にいる人間全員に聞こえる様に言い放つと、猟師や商人問わず、皆が皆ジョッキを高々と上げて歓声を上げた……。
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そして宴もたけなわとなり、行商人や旅人達が二階の宿泊部屋に戻り、漁師達もそれぞれに家に戻っていく中……ディランとヴィルネスも自分達の家に向かっていた。
「今日もお疲れ様です、ディラン……」
「ヴィルネスもね。…今日もいい日だったな。っ!あれは…」
そう言ってディランがそれを見上げたまま立ち止まったのを見て、ヴィルネスはふと問いかけた。
「ディラン、どうしたんですか…?」
「…すごいな。見てみなよ、ヴィルネス」
ディランはそう言いながら右手を空に向けて指さしたので、ヴィルネスがその方向に顔を上げて……。
「わあ……っ!」
思わず感嘆の声を上げていた。その視線の先には……満天の星空を流れる流れ星の雨だったのである。
「……綺麗」
「そう言えば知ってるかヴィルネス?流れ星が消えるまでに願い事を三回念じると、その願いが叶うんだってさ」
「そうなんですか?じゃあ……」
そう言ってヴィルネスは自身の手を押し抱くように握り締めて目を瞑るのを見て、ディランも同じようにする。そして暫しの間二人は祈りを捧げる様にしていたが…やがてどちらともなく目を開けた。
「…ディランは、何を祈ったんですか?」
「俺か?………『君と、いつまでもこうして穏やかに過ごしていたい』だな。ヴィルネス、君は…?」
ディランがそう問いかけると、ヴィルネスは顔を朱に染めて恥ずかしそうにしながら答えた。
「……っ。『愛する人と、この土地でいつまでも幸せでありたい』、です…//////」
ヴィルネスがそう答えてそのまま顔を真っ赤にして俯くのを見て、ディランも顔を赤に染め、照れくさそうにしながら彼女の頭を撫でた。
「そっか…じゃあきっと叶うと思うよ。…行こうか」
「っ、はいっ…!」
そうしてディランはヴィルネスの手を強く握り、ヴィルネスもまた彼の手を強く握りしめ…自分達の家に戻っていく。彼らの頭上を流れ星が何時までも流れ続けていたのである……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
だが、この二人の願いは聞き届けられる事は無かった。ディランに定められた『勇者の宿命』……それにより、彼らの身に不穏な出来事が齎される。そしてそれを機に、ディランは一度は捨てた聖騎士としての道を再び歩む事になる。
そしてその傍らには、彼を愛し…彼と共に在る事を決意したヴァルキリーであるヴィルネスも供にあったのは言うまでもないだろう。
16/09/08 02:18更新 / ふかのん
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