約束
ーこれは…夢、なんでしょうね。
ヴィルネスは自身の目の前にある光景を見てそう悟っていた。彼女の目の前にあったのは…どこかは分からないが波打ち際の砂浜を笑顔を振りまきながら楽しそうに走り回る、自分と同じブロンドの髪を靡かせた少女とその少女の姿に微笑みを浮かべている自分自身。そしてその隣に立って彼女の肩に手を乗せながら同じ様に少女の姿を温かい目で見守っている、ディランの姿があったからである。
やがてディランは自分達に向かって満面の笑みを浮かべながら手を振ってきた少女の元へ走って行き、彼女の脇に手を入れて高々と掲げるとそれに少女は再び笑顔を見せて喜ぶのを見て、嬉しそうに笑顔を見せる自分自身を、ヴィルネスは悲しそうに顔を歪めながら見ていた。
ー駄目です…これは夢、泡沫の物でしかない。私もこんな未来を、ディランと共に歩みたい。けれど…。
ヴィルネスは知っていた。勇者の宿命を持つ者は、平穏な日々を送る事は出来ない。その宿命を宿した人間は必ずと言っていいほど事件や災厄に直面し、そしてそれを受けて終わる事の無い戦いに赴くのだ。勇者となった者に安息は訪れない…そしてその日々に自分達ヴァルキリーは誘う使命を持っている。
そんな自分にどうしてこの様な未来を夢見る資格があるのだろうか…そう考えて俯いてしまったヴィルネスに、声が掛けられた。
『本当に?』
ーえっ?
自分に声が掛けられた事に気づいたヴィルネスが顔を上げると…その視線の先にディラン達の方に笑顔を向けていた自分自身がいつの間にか振り返っていたのである。
『確かに私達ヴァルキリーは勇者の宿命を持つ人間を勇者として育て、導くのが使命…それは間違いじゃありません。けれど、だからと言ってその勇者を好きになってはいけないと、主は命じてはいません』
ーで、ですが…。
自分自身の言葉にヴィルネスは言葉を投げかけようとするも、彼女は構わず続ける。
『主は仰っていたでしょう?【そなたの心の赴くままに振る舞うがよい。それこそが…そなたとディラン、二人の幸せにつながると私は思っている】って…。誰かを好きだと、愛しいという気持ちを押さえつけていても…それは決して幸せにはつながらない。好きだと、愛しいと思うのなら、その想いを封じないで』
ー………私は。
『すぐに変えようとしなくてもいいんです。主を思う貴方の気持ちはよく分かります…少しずつ、少しずつでいいですから、自分の気持ちに正直になってください、ね?』
そう言って自分自身はヴィルネスを優しく抱きしめ、その温もりを感じながらヴィルネスの意識は途絶えた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「んう…あ、れ?」
目覚めるとヴィルネスは自分が自分の部屋ではない部屋のベッドに寝かされている事に気づいた。眠け眼を擦りながらベッドから起き上がって周囲を見渡すと、そこはディランの部屋であったのである。
「私、どうしてディランの部屋に…(ガチャッ)『あっ、起きたかヴィルネス?』えっ、ディラン…?」
ドアの開く音にヴィルネスが顔を向けると、寝間着姿のディランが入ってくる。それを見てヴィルネスは暫し呆けていたのだが…やがて先程の行為を思い出したのか。
「っ!!!!///////////////」
ーばふっ
その貌は真っ赤になり、頭から湯気が噴き出したかと思うとそのまま掛け布団を頭からかぶって丸まってしまったのである…。
「えっと…大丈夫かヴィルネス?」
『ううう…恥ずかしいです。あんな、はしたない声を上げて。あんな乱れてしまって…ううう』
そう布団の中から恥じ入りながら声を漏らすヴィルネスに、ディランは苦笑しながら布団に丸まったヴィルネスを撫でながら声をかけた。
「そう恥ずかしがらなくてもいいよ。それに…あの時のヴィルネスも、その、可愛かったからさ」
「っ!????あ、あうう…//////////」
「後さ…ごめんね、ヴィルネス。初めてだったのに、あんな激しくして…痛かっただろう?」
「っ!そんな事ありません!!」
ディランの問い掛けにヴィルネスは自分が丸まっていた布団をはね飛ばすとディランに抱き着いて猛烈に捲し立てた。
「わ、私だって気持ちよかったですしそれにディランは初め私の事を気遣って優しくしてくれましたから嬉しかったです!!何より、私が貴方と結ばれたいと思ったんですから、そんな風に自分を責めないでくだ…あっ」
それだけ捲し立てたヴィルネスはやがて自分がディランに真正面から抱きついている事に気づくと…再び顔を真っ赤に染めてそっぽを向き、そのまま掌で顔を覆い隠した。
「わ、私あんな事を言ってしまって…し、しかも気持ちよかったなんて零してしまって…あうう////////////」
そう愚痴をこぼしながら益々顔を覆い隠していたヴィルネスだったが、やがてその体をディランが抱きしめてきた。
「ディ、ディラン…?」
「…ありがとうヴィルネス。そんな風に言ってくれると、俺も嬉しい」
「ディラン…////」
そうして暫しの間、二人はそのままで過ごした…。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「じゃあ…私が気絶した後、ディランが私を自分の部屋に運んでくれたんですね?」
「ああ。君のベッド、俺達のその…行為ですっかり汚れちゃったからさ。君を俺のベッドに寝かせた後にシーツとかを井戸水で洗ったり干してたんだよ。それで戻った時に君が起きてたんだ」
「…すいません」
「謝らなくていいよ。この位なんて事も無いからさ」
そうして話していた二人だったが…やがてディランはヴィルネスに問いかけた。
「…ヴィルネス、これからどうするんだ。君も知った通り俺は、間違いなく君が捜していた勇者の宿命を持つ人間なんだろう。君が俺を勇者として育てるというのなら…俺はそれを受け入れる」
そう告げるディランの瞳は、迷いなく真っ直ぐにヴィルネスを見ていた。それを見てヴィルネスは瞑目して考えていたが、やがて意を決したかのように目を見開いてその言葉を告げた。
「…いいえ。もう少し、この土地で貴方と共に過ごしていたいです」
「っ!?どうして…?」
驚きを隠しえないという顔をするディランに、ヴィルネスは頬を染めながら彼の胸元に抱き着いて話し始める。
「主は勇者の宿命を持つ者を育て、導くように命じましたが…すぐにとは言っていません。何より…貴方やこの村の人々と共に暮らす日々を、すぐに捨て去る事など、今の私には出来ないですから」
「…そうか。『けれど…』ん…?」
そう呟いたヴィルネスにディランが首をかしげると、自身を見上げるように顔を動かしたヴィルネスの表情は、不安に染まっていたのである。
「…私達ヴァルキリーは知っています。勇者の宿命を持つ人間には、平穏な日々は長く続かないという事を。そうした人間には必ずと言っていいほど事件や災厄に見舞われ、そうして終わる事の無い戦いの日々に赴くという事を…」
「………」
「貴方は…それが赤の他人であろうとも助けを求める声を、弱き者達が命奪われようとする光景を決して見過ごさない人。そして貴方は理不尽に命奪われようとする人々を救う為、躊躇なく戦禍に身を投じる人である事も、私は知っています」
「……」
「だから…約束してください、ディラン。勇者として、誰かを救う為に戦いに赴くのだとしても…命を粗末にしないでください。そして…生きて私の元に帰ってきて、ください…」
そう言ったかと思うと再びヴィルネスはディランの胸に顔を埋めたが…彼の耳には、ヴィルネスの嗚咽の声が届いていた。それを聞いたディランは、優しく彼女の頭を撫でながら言葉を紡いだ。
「…約束するよヴィルネス、俺は絶対に命を粗末にしない。どんな戦いに赴いたとしても…必ず生きて、君の元へ帰る。騎士として…そして君を愛する一人の男として、君に誓うよヴィルネス」
「ディラン…はい」
その言葉を聞いたヴィルネスは目じりに涙を浮かべながらも、満面の笑みを浮かべていた…。そして二人はそのまま抱き合い、互いの体温を感じながら眠りについたのである…。
ヴィルネスは自身の目の前にある光景を見てそう悟っていた。彼女の目の前にあったのは…どこかは分からないが波打ち際の砂浜を笑顔を振りまきながら楽しそうに走り回る、自分と同じブロンドの髪を靡かせた少女とその少女の姿に微笑みを浮かべている自分自身。そしてその隣に立って彼女の肩に手を乗せながら同じ様に少女の姿を温かい目で見守っている、ディランの姿があったからである。
やがてディランは自分達に向かって満面の笑みを浮かべながら手を振ってきた少女の元へ走って行き、彼女の脇に手を入れて高々と掲げるとそれに少女は再び笑顔を見せて喜ぶのを見て、嬉しそうに笑顔を見せる自分自身を、ヴィルネスは悲しそうに顔を歪めながら見ていた。
ー駄目です…これは夢、泡沫の物でしかない。私もこんな未来を、ディランと共に歩みたい。けれど…。
ヴィルネスは知っていた。勇者の宿命を持つ者は、平穏な日々を送る事は出来ない。その宿命を宿した人間は必ずと言っていいほど事件や災厄に直面し、そしてそれを受けて終わる事の無い戦いに赴くのだ。勇者となった者に安息は訪れない…そしてその日々に自分達ヴァルキリーは誘う使命を持っている。
そんな自分にどうしてこの様な未来を夢見る資格があるのだろうか…そう考えて俯いてしまったヴィルネスに、声が掛けられた。
『本当に?』
ーえっ?
自分に声が掛けられた事に気づいたヴィルネスが顔を上げると…その視線の先にディラン達の方に笑顔を向けていた自分自身がいつの間にか振り返っていたのである。
『確かに私達ヴァルキリーは勇者の宿命を持つ人間を勇者として育て、導くのが使命…それは間違いじゃありません。けれど、だからと言ってその勇者を好きになってはいけないと、主は命じてはいません』
ーで、ですが…。
自分自身の言葉にヴィルネスは言葉を投げかけようとするも、彼女は構わず続ける。
『主は仰っていたでしょう?【そなたの心の赴くままに振る舞うがよい。それこそが…そなたとディラン、二人の幸せにつながると私は思っている】って…。誰かを好きだと、愛しいという気持ちを押さえつけていても…それは決して幸せにはつながらない。好きだと、愛しいと思うのなら、その想いを封じないで』
ー………私は。
『すぐに変えようとしなくてもいいんです。主を思う貴方の気持ちはよく分かります…少しずつ、少しずつでいいですから、自分の気持ちに正直になってください、ね?』
そう言って自分自身はヴィルネスを優しく抱きしめ、その温もりを感じながらヴィルネスの意識は途絶えた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「んう…あ、れ?」
目覚めるとヴィルネスは自分が自分の部屋ではない部屋のベッドに寝かされている事に気づいた。眠け眼を擦りながらベッドから起き上がって周囲を見渡すと、そこはディランの部屋であったのである。
「私、どうしてディランの部屋に…(ガチャッ)『あっ、起きたかヴィルネス?』えっ、ディラン…?」
ドアの開く音にヴィルネスが顔を向けると、寝間着姿のディランが入ってくる。それを見てヴィルネスは暫し呆けていたのだが…やがて先程の行為を思い出したのか。
「っ!!!!///////////////」
ーばふっ
その貌は真っ赤になり、頭から湯気が噴き出したかと思うとそのまま掛け布団を頭からかぶって丸まってしまったのである…。
「えっと…大丈夫かヴィルネス?」
『ううう…恥ずかしいです。あんな、はしたない声を上げて。あんな乱れてしまって…ううう』
そう布団の中から恥じ入りながら声を漏らすヴィルネスに、ディランは苦笑しながら布団に丸まったヴィルネスを撫でながら声をかけた。
「そう恥ずかしがらなくてもいいよ。それに…あの時のヴィルネスも、その、可愛かったからさ」
「っ!????あ、あうう…//////////」
「後さ…ごめんね、ヴィルネス。初めてだったのに、あんな激しくして…痛かっただろう?」
「っ!そんな事ありません!!」
ディランの問い掛けにヴィルネスは自分が丸まっていた布団をはね飛ばすとディランに抱き着いて猛烈に捲し立てた。
「わ、私だって気持ちよかったですしそれにディランは初め私の事を気遣って優しくしてくれましたから嬉しかったです!!何より、私が貴方と結ばれたいと思ったんですから、そんな風に自分を責めないでくだ…あっ」
それだけ捲し立てたヴィルネスはやがて自分がディランに真正面から抱きついている事に気づくと…再び顔を真っ赤に染めてそっぽを向き、そのまま掌で顔を覆い隠した。
「わ、私あんな事を言ってしまって…し、しかも気持ちよかったなんて零してしまって…あうう////////////」
そう愚痴をこぼしながら益々顔を覆い隠していたヴィルネスだったが、やがてその体をディランが抱きしめてきた。
「ディ、ディラン…?」
「…ありがとうヴィルネス。そんな風に言ってくれると、俺も嬉しい」
「ディラン…////」
そうして暫しの間、二人はそのままで過ごした…。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「じゃあ…私が気絶した後、ディランが私を自分の部屋に運んでくれたんですね?」
「ああ。君のベッド、俺達のその…行為ですっかり汚れちゃったからさ。君を俺のベッドに寝かせた後にシーツとかを井戸水で洗ったり干してたんだよ。それで戻った時に君が起きてたんだ」
「…すいません」
「謝らなくていいよ。この位なんて事も無いからさ」
そうして話していた二人だったが…やがてディランはヴィルネスに問いかけた。
「…ヴィルネス、これからどうするんだ。君も知った通り俺は、間違いなく君が捜していた勇者の宿命を持つ人間なんだろう。君が俺を勇者として育てるというのなら…俺はそれを受け入れる」
そう告げるディランの瞳は、迷いなく真っ直ぐにヴィルネスを見ていた。それを見てヴィルネスは瞑目して考えていたが、やがて意を決したかのように目を見開いてその言葉を告げた。
「…いいえ。もう少し、この土地で貴方と共に過ごしていたいです」
「っ!?どうして…?」
驚きを隠しえないという顔をするディランに、ヴィルネスは頬を染めながら彼の胸元に抱き着いて話し始める。
「主は勇者の宿命を持つ者を育て、導くように命じましたが…すぐにとは言っていません。何より…貴方やこの村の人々と共に暮らす日々を、すぐに捨て去る事など、今の私には出来ないですから」
「…そうか。『けれど…』ん…?」
そう呟いたヴィルネスにディランが首をかしげると、自身を見上げるように顔を動かしたヴィルネスの表情は、不安に染まっていたのである。
「…私達ヴァルキリーは知っています。勇者の宿命を持つ人間には、平穏な日々は長く続かないという事を。そうした人間には必ずと言っていいほど事件や災厄に見舞われ、そうして終わる事の無い戦いの日々に赴くという事を…」
「………」
「貴方は…それが赤の他人であろうとも助けを求める声を、弱き者達が命奪われようとする光景を決して見過ごさない人。そして貴方は理不尽に命奪われようとする人々を救う為、躊躇なく戦禍に身を投じる人である事も、私は知っています」
「……」
「だから…約束してください、ディラン。勇者として、誰かを救う為に戦いに赴くのだとしても…命を粗末にしないでください。そして…生きて私の元に帰ってきて、ください…」
そう言ったかと思うと再びヴィルネスはディランの胸に顔を埋めたが…彼の耳には、ヴィルネスの嗚咽の声が届いていた。それを聞いたディランは、優しく彼女の頭を撫でながら言葉を紡いだ。
「…約束するよヴィルネス、俺は絶対に命を粗末にしない。どんな戦いに赴いたとしても…必ず生きて、君の元へ帰る。騎士として…そして君を愛する一人の男として、君に誓うよヴィルネス」
「ディラン…はい」
その言葉を聞いたヴィルネスは目じりに涙を浮かべながらも、満面の笑みを浮かべていた…。そして二人はそのまま抱き合い、互いの体温を感じながら眠りについたのである…。
16/08/01 00:38更新 / ふかのん
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