読切小説
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信じる道
「はっ!せやぁっ!」
僕はいつものように素振りをしていた。
水色の短い髪に、清らかな蒼い瞳。
僕の名前はシアン・アークライト。
アガズディア国の勇者の一人である。
このアガズディア国はれっきとした反魔物国であり、教団を中心とした国である。
勿論この国に住む国民は、魔物は人を喰らい、殺す存在であると信じている。
だから僕は、その様な魔物が来るならば、必ず国民の盾となり、剣になろうと日々鍛練を怠らず、素振りをしていた。
そんな所に、一人の女性が僕を見ていた。
「おう、よく頑張っているな。私が見込んだだけはある。」
形は人だが、神々しい鎧を身に、光に満ちている羽を広げている。
そう、彼女はヴァルキリーのレヴェリアであった。
僕が勇者になろうと決めたのは、彼女…レヴェリアとの出会いである。
僕の家…アークライト家は良家であり、僕はその四男として産まれた。
何故か分からないが僕は、産まれた時から勇者の素質を持っていたらしく、その事からレヴェリアに見初められ、五歳の時からレヴェリア引き取られ、彼女から勇者として、主神様の使徒として教育を施され、剣術、魔術も磨きをかけ、戦場でも活躍した。
勿論、これもレヴェリアのお陰である。
「おはようございます。」
シアンは一旦手を止め、ヴァルキリーであるレヴェリアに挨拶をした。
僕にとってレヴェリアは恩師であり、僕の唯一の理解者である。
「ああ、おはよう。シアンもあれから強くなったものだ。私からは教える事は何もない。」
「いえ、僕はまだまだ未熟者ですよ。」
僕はふと笑みをこぼし、素振りを再開した。
僕は主神様の為に魔物から人々を守り、必ず主神様の理想の世界の為に、そしてこの国で生活している人々を守る剣になろうと心に決めていた。


僕はある日、このアガズディアの街を歩いていた。
その時の僕は勇者である事を忘れ、一人の青年となる。
身だしなみも国民と変わらない服装で街並みを歩いていた。
僕だって勇者の仮面を取れば、ただの青年だ。
故に、人々からも敬語は使われることなく(敬語を使うことを止めさせた)、普通に誰にでも仲良くしていた。
そんなとき、あるものを目にする。
いつも見る雰囲気と違い、酷く寂れており、路上に人が座り込んでいる姿を見たのだ。
僕は重税に苦しむ貧民を目にしたのだ。
「大丈夫ですか?」
僕はある男に話し掛けたが、
「ケッ、大丈夫もクソもあるかよ。てめぇら教団ばかり贅沢しやがって…。」
彼は国民から聞いた教団の話が信じられなかった。
僕たち勇者や教団、裕福な家系は基本的に中央区で住んでいる。
それ以外の人々は中央区以外の別の区域で住んでいるのだ。
そして、僕は知った。
教団が重税を課し、このような貧民街がこの国には多数存在すると…。
僕はすぐさま中央区に戻り、教団のトップである司祭の元に向かった。
「司祭、この国は何故こんなにも貧富の差があるのですか?主神様はこのような事を望まないはずです。なのに……。」
「確かに、今は貧富の差が出るのも無理はありません。魔王を倒すには力が必要なのです。故に、魔王を倒してこの世界が平和になったとき、先程の人々も苦しまなくて済む世界になりましょう。そう主神様が仰いました。」
「しかし……!」
「これ以上言うのは主神様の冒涜ですよ?貴方ならその意味はわかりますね?」
「……はい。すみませんでした。」
僕の疑問は晴れることは無かった。
逆にその疑問が疑心へと変わる……。


…それから3年が過ぎた。
「レヴェリア、今大丈夫かな?」
「珍しいな。どうしたんだ?」
レヴェリアはきょとんとした表情をしていた。
「僕のやってる事は…本当に正しいのかな…?」
僕は勇者として、幾度もなく魔物と戦った。
しかしそれは、魔物から幸せを奪っているんじゃないかと。
最近になって気付いたのだ。
魔物たち…魔物娘たちは人間を殺す事は絶対にない。
例えどんな強大な力を持っていても……。
僕は何だか分からなくなった。
自分のやってることが本当に正しいのか。
僕は主神様の声が聞こえないから、レヴェリアに聞いてみることにしたのだ。
「大丈夫だ。心配はいらない。シアンは自分の信じる道を進めばいいさ。」
そう言ってレヴェリアは僕の頭を撫でた。
「うっ、うん……。」
僕は少し恥ずかしくなって、俯いていた。
僕はいつの間にかレヴェリアの事を一人の女性として見るようになっていた。
しかし、レヴェリアは主神様に仕えし天使。
故に、レヴェリアに恋愛感情などを持つ訳がないと僕は自分に言い聞かせていた。
それに、僕は普通の人間じゃなく、勇者である。
そうであるが故に、恋愛にうつつ抜かしている間などない。
僕は勇者としての自覚を再確認し、レヴェリアから離れた。



そして更に一年が経った。
僕は教団のやり方に不信を感じるようになった。
僕は魔物と戦いをするたびにわざと手を抜き、逃がすか、最悪でも気絶させる程度しかしなくなった。
魔物は人を喰らい、殺すという教えが嘘だと思うようになったからだ。
そして教団による重税に次ぐ重税、一体どれだけの人々が苦しまなければならないのか。
僕の信じる主神は、本当にこのような事を許しているのか…?
本当にこのような事で世界は平和になるのか…?
そんなことを考えたその時、僕の部屋のドアが思いきり開けられ、僕は数名の教団騎士に組伏せられた。
「やれやれ、貴方には困ったものだ。」
「し、司祭…?これはどういうことですか!?」
「シアン・アークライト…貴方は主神様の為にと言って、わざと魔物に手を貸しましたね?」
「…!それは!」
「私は知っています。貴方が魔物が人を喰らい、殺すことにが嘘だと知って、わざと魔物を逃がしていた事を。それはつまり主神様に対する反逆行為です。」
「…確かに、僕は魔物を逃がしていました。理由も察しの通りです。ですが、国民達のあの重税は何ですか!?国民達の苦しむ姿を…!貴方も理解している筈です!」
司祭は馬鹿にしたかのように鼻で笑い、
「…これは貴方にも説明が必要でしょう。それはですねぇ…今教団は、貴方達勇者の代わりとなるクローンを作っているのですよ。」
「なっ…!」
司祭がしようとしたことが分かった。
それは、錬金術によって人に近い肉人形をつくり、そこに勇者や優秀な剣士や魔道師の血を垂らし、高度な魔法によって、意思も感情も持たない、持っている能力もそのままにして、ただ魔物をひたすら殺すだけの人形にしようとしているのだ。
その為だけに人々があんな苦しい目にあっているのだ。
「司祭…!」
「貴方にも勿論協力して頂きます。とりあえず貴方にはそれらの元になるために、牢獄にでも入ってもらいましょうか。これも全ては主神様の為……。おい、こいつを連れていけ。」
僕は教団騎士に両手を掴まれ、成す術なく牢獄に連れていかれた。


そして牢獄に連れていかれた僕は反逆者として扱われた。
手足には魔力を封印する魔道具をし、ぼくは教団騎士に殴られ蹴られ、そこから流れた血を採取し、気がすむまで殴られた。
もう、何日経ったのだろう。
僕は主神様の為に戦ってきたのは口実でしかない。
裏切った事は事実であり、魔物に手を貸したことも事実。
殺せなかったのだ。
魔物は夫とした男に対しては一途に愛し、その夫となった男も彼女達を愛していた。
僕たち勇者は、そのような魔物達の幸せを壊してきたのだ。
そう思うと、僕はいつのまにかそういった反逆行為をしていたのだ。
「ハハッ…、僕は確かに裏切り者だね……。」
僕はふとレヴェリアの事を考えた。
あれだけ僕に勇者としての教えを教えられたのに、僕は彼女を裏切った。
主神を裏切ったとなれば、彼女を裏切ったも同義だ。
もう、僕はここで死ぬのだろう。
僕は既に生きる希望を捨てていた。


そんなある日、外の様子が騒がしいように感じた。
でも、もう僕には関係ない。
僕はここで一生を終えるのだから…。
そう思った時、誰かが僕の檻の前に立ち、強力な魔力を施された柵が斬られた。
僕は違う意味で驚いた。
「迎えに来たぞ。」
なんとそこに居たのは間違いなく、レヴェリアだった。
「なん…で……?」
「話は後だ。とりあえず、こいつは邪魔だな。」
レヴェリアは何も躊躇いなく、僕を拘束していた魔道具を壊し、笑顔を向ける。
「おかしいよ…!僕は…!僕はレヴェリアを裏切った!それなのに何故…!?何故助けようとする!?」
「神が私に申したのだ。シアンを助けなさいと。神の命令に従うのが私達ヴァルキリーの使命だ。……立てるか?」
「でも……。」
「失礼するぞ。」
レヴェリアは剣を仕舞い、僕を抱えた。
「ちょっ……!」
「なんだ、思ったより軽いな。これならいける。」
レヴェリアは僕を抱えながも疾風の如く走り抜け、外に出た瞬間、光輝く翼を広げ、飛んでいったのだった。


レヴェリアは、どうすればいいか分からなくなった。
自分の中でシアンを反逆者として始末するか、シアンを助けるか。
レヴェリアは葛藤していた。
前までの彼女なら、前者を迷わず取っていただろう。
しかし、自分も目の当たりにしてしまったのだ。
彼女自身も、魔は人を喰らい、殺すという教えを信じていた。
だが、それは主神の教えとは異なるからだ。
彼女は主神にその事を聞こうと試みたが、主神は言葉を返すことはなかった。
そして彼女は遂に、主神の声が聞こえなくなってしまったのである。
「私は…どうすればいいのだ?」
『シアンを…助けてあげて下さい。』
彼女はどこからか分からない女性の声に動揺した。
『彼は、貴女が育て上げた立派な勇者です。』
「貴女さまは……?」
『申し遅れました。私は愛の女神エロスと申します。以後お見知りおきを。』
「愛の女神…エロス…。」
レヴェリアは、今のどうすればいいか分からない絶望からきっと愛の女神は導いてくれる。
たったひとつの希望にすがりたかった。
『彼は…シアン・アークライトは、人類に対しても魔物に対しても愛と慈悲に満ち溢れた立派な勇者です。そのような方を見殺すことなんてできましょうか。』
「…!」
『しかし、その役目は私がしても無意味に終わるでしょう。だから私からお願いします。彼の成長を見守ってきた貴女なら…いえ、貴女しか出来ない事なんです。』
「私にしか…出来ないこと……!」
ああ、私は何故こんなことに葛藤していたのだろう。
私の今の使命はただ一つ、シアンを救う事だったのだ。
「ああ…!なんてことだ…!」
『時は一刻を争います。さあ、行きなさい。自分の信じる道を!』
レヴェリアは愛の女神の声で立ち上がった。
「もう迷わない…、例えそれが主神を裏切ることになっても私は…シアンを救ってみせる!」
レヴェリアは走った。
行く道を邪魔する者は自分の剣で斬り伏せた。
そして教団の牢獄にたどり着き、そこで見たのはかつて傷一つ見せなかった身体は傷だらけになり、手足を魔道具で拘束され、生きる希望を失っていたシアンの姿だった。
安心しろ、私が今助けてやる。
シアンが驚いて何かを言っていたが、第一優先はシアンを救うこと。
私はシアンを拘束していた魔道具を簡単に壊し、シアンを抱き抱えた。
そしてレヴェリアはシアンを抱え、走り抜け、飛んでいた時に感じた。
シアンが今まで背負っていたありとあらゆるものを。
でも、もうそれは関係ない。
私はそのまま飛び続けた。


(どうして…?僕は裏切り者なのに……。)
シアンは突然のレヴェリアの行動が信じられなかった。
神の声を第一優先する彼女…ヴァルキリーが何故自ら罪を犯してまで僕を助けたのか。
それは次の彼女の言葉によって明かされた。
「私は…愛の女神に悟られたのだ。私が今成すべき事を…。シアン、いままで済まなかった…。私はお前の気持ちを理解したつもりでいたが、私は本当はお前を理解してやれなかった…!本当に済まないっ……!」
レヴェリアは涙を流していた。
「私は…、これからは如何なる時も、お前と共に居よう。それが償いなんて言わない。私が…そうしたいのだ…。」
僕はその言葉を聞いて安堵した。
嬉しかったのだ。
僕は裏切ったのにも関わらず、こうして僕と共に居てくれることを。
「僕は大丈夫だよ。こんな傷もなんともない。行こうレヴェリア。」
「ああ!行こうシアン!」
こうしてシアンとレヴェリアはアガズディア国から離れ、遥か遠くまで飛んでいったのだった。



一方教団では…
「奴を逃がすとは…!使えない者共め!貴様らなど最早不要!私が貴様らを滅ぼしてくれる!」
司祭はレヴェリアと戦って敗れた教団騎士達を殺そうとしていた。
しかし、いきなり事は起きた。
「あらあら。悪い奴にはお仕置きがひつようよねぇ?」
誰かがそう言った瞬間、爆発が起きた。
「なっ、何事だ!」
「キャー♪いい男ばっかり!お持ち帰りぃ♪」
なんと、あちこちから魔物娘達が現れ、殺されかけた教団騎士たちをお持ち帰りしていたのだ。
「きっ、貴様ら!何をやっている!さっさと奴らを殺っ…うぐっ!」
そしてその司祭を動けなくしたのはその元凶であるリリムであった。
「そして貴方には…引導を渡してあげる!さあ、こいつは貴女の物よ♪」
リリムの横から現れたのは…
「あらあら♪こいつは最高の獲物ね♪是非頂いていくわ♪」
獲物を捕らえた目をしたアラクネであった。
そしてそのアラクネは司祭の身体を糸で巻き付け、身動きがとれないようにした。
「ひぃいっ!やめろ!やめろぉお!」
「うふふ♪逃げちゃダ・メ・よ♪」
こうして教団…アガズディアの国は一夜にして魔物娘たちによって親魔物国と化したのだった。
後にあの二人(シアンとレヴェリア)がどうなったのかは、誰も知らない。
14/05/10 02:12更新 / エロ書けない人

■作者メッセージ
どうも!エロ書けない駄目作者です!
ある日ふと更新されたヴァルキリーさんを見て、小説を書こうとしてこうなった。
後悔はしていない。
いやー、やっぱり他の作者様には敵わないですな(´・艸・`;)
やっぱり、僕には文才が無いのかぁ…(*´Д`)=3ハァ・・・
(他作品のヴァルキリーさん可愛いですよね!くそっ!羨ましいっ!)
さてそれはさておき、こんな小説を最後まで読んで頂いた読者様方に本当に感謝。

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