・・・こればっかりは、南雲由紀の言うとおりだ。
・・・降り止まない激しい雨と、常に鳴り響く雷鳴。いきなり始まった教団との五本勝負の初戦。私はウンディーネとの対戦になった。
「初めまして、スピアさん。私はレインといいます。」
「・・・知ってる。」
「お手柔らかにお願いします。」
次の瞬間、近くに雷が落ち、地面を伝わって私たちを襲った。
「・・・・・・。」
大きく飛ぶ。だが、一向にレインは避けようとしない。
「知っていますか?スピアさん。」
それどころか余裕の笑みを浮かべ、すさまじい電撃がレインを襲った。激しい電光に飛び退りながらも顔を覆う。水のウンディーネに雷は鬼門―
「ぐっ・・・!?」
胸を打つ鋭い痛み。胸元には、水で作られたと思われる矢が刺さっていた。一体なにが・・・!?
「―本当に純粋な水は、電気を通さないのですよ。」
「なっ・・・!?」
無傷のレインは、水で作った弓矢を打った状態でこちらを見上げていた。
「・・・・・・!」
受け身を取り、何とか落下の衝撃を緩和するが―
「・・・・・・!」
立て続けに打ち込まれる、水の矢。転がりながら避け、何とか体制を整える。
「・・・む。」
だが、奴の言っていた言葉―純粋な水には電気が効かない。というのはどうやら本当らしい。水が純粋かどうかは、奴が精霊王であることを考慮すればむしろ当たり前だろう。
「どうやら、このフィールドは、私に有利なようですね。」
微笑を浮かべながら弓を構えるレイン。非常にまずい。私の鎧は電気への耐性はない。それに対し、レインは雷に直接あたろうが、ノーダメージでやり過ごすことができる。圧倒的に不利なフィールドだ。
「・・・・・・。」
雨水で、レインの体内の水を純粋でなくさせる方法もありだが・・・きっと奴はすぐに浄化してしまうだろう。
「顔色が悪いですよ?」
弓を再び連射し始めるレイン。レインを中心に円を描くように回避し、時折剣で弾くが、これでは再び落雷が起こった時に格好の的になってしまう。
「・・・ん!」
考えているうちに、再び突き刺さる矢。右の太もも、左腕の二か所にダメージを―
「・・・・・・?」
確かに、矢は刺さっている。刺さっているが―
「・・・血が出ない・・・?」
―迂闊だった。純粋な水が電気を通さないぐらい小学生でも知っている。
「スピア・・・!」
荒れ狂う天候と、弓矢による猛攻で、回避だけでも精一杯になっている。まずい・・・!
「チャンスじゃなかったのかな?タツキ君?」
にやあ、と笑みを浮かべる南雲由紀。マズイ、確実にマズイ。映し出されるスピアも、焦りを感じているようで、剣さばきに余裕がなくなっている・・・!
『・・・く・・・!』
再び落雷を回避するために跳び、矢を受けるスピア。このままでは・・・!
―「はぁ、はぁ、はぁ・・・くっ・・・!」
血は出ていないものの、矢に当たるたびに凄まじいほどの激痛が体を駆け巡る。
「・・・・・・!」
何とか、柱の陰に隠れるが、すぐに射程内に入ってしまうだろう。一瞬の隙があれば、『死神の凶刃(クレイモア)』で形勢逆転が狙えるが・・・。
「隠れても無駄ですよ。」
ぴちゃぴちゃと、ゆっくり近づいてくるレイン。隙を作るには―
『スピア―頑張れ。』
通信越しに聞こえるタツキの声。たった一言。わずか四文字の『頑張れ』。タツキと出会ってからが走馬灯のように脳裏に浮かぶ。最初に会ったとき。いきなり首を投げつけたけど、盾にしないで守り抜いてくれたあの温もり。・・・あ。
「・・・首を投げればいけるんじゃ・・・?」
確かに尋常じゃないほどのリスクを伴う。だが、このまま戦い続けてもジリ貧だ。
「さあ、チェックで―」
「・・・・・・!」
刹那、顔を投げつける。
「へ?・・・きゃ、きゃああぁぁ!」
「『死神の凶刃』!」
ありったけの精と、魔力をこめ、首を回収し、完全に『死神の凶刃』を開放する。
「・・・可愛い悲鳴。」
「ひ、卑怯ですよ!」
「・・・私の辞書に『卑怯』の文字は無い。」
「そんないい加減な辞典。発禁処分ですね。」
「『発禁処分』なんて字も無い。」
「・・・もういいです。・・・ですが、もう満身創痍といったところでしょう?」
確かに、今の『死神の凶刃』がきれたら終わりだろう。
『今』の死神の凶刃が。
「う・・・なんです!?」
「・・・私も、無為に一週間を過ごしてきたわけじゃない。限られた期間で様々な文献を読み漁り、クロに『死神の凶刃』の『更に先の武器』を作ってもらった。」
そう、タツキの出身でもあるジパングにあるという数多の剣の中でも最強を誇る『ニホントウ』を―
―「おい。」
・・・何だあれは。
「フフフ、私クロの自信作の『ニホントウ』です!」
「「・・・・・・。」」
おもわず、南雲由紀と目が合ってしまう。ほかの奴らは日本刀を知らないから感心しているが―
「・・・日本刀はべつに二本の刀って意味じゃないぜ?」
「え・・・?」
敵にツッコまれている。慌ててこちらを向くクロ。
「・・・こればっかりは、南雲由紀の言うとおりだ。二本の刀で日本刀じゃない。」
まあ、形状は日本刀なのだが・・・。
「・・・おまえ本当にサイクロプスか・・・?」
親の顔が見てみたい。
―「フフフフフ、武器が二つになったところでどうするんですか?」
「・・・・・・。」
一本を正眼に構え、もう一本を後ろにして、地面に剣先を向ける。これで、準備は整った。
「声すら出せないほど、体力を―」
パンッ
「カッ・・・!?」
さっきも言ったけど、私の辞書に卑怯の言葉は無い。喋っている最中であろうと関係ない。
「・・・限界を超えた速さは『強大な力』と同列になる。」
攻撃の威力には『硬さ』『重さ』『速さ』となる。すべてがそろうのが一番だが、どれか一つが秀でているだけでも威力は桁違いだ。何より、『斬る』ではなく『削ぐ』ように刀を振ったため―
「水分が・・・!」
そう、レインの力の源である水を払うことが出来る。
「・・・わたしの新しい『魔道武具(マテリアウエポン)』の『光化不光化(ダークネス・ライト)』。」
「う・・・で、ですが・・・まだです!」
弓を構えるレイン。矢を作り出すために『雨水』を取り込むが―
ピッシャアアァァン!!
「アアアアアァァァアアァァ!!!」
「・・・・・・。」
雨水を『純粋な水』に精錬する間もなく、落雷に打たれるレイン。これで、今度こそ落雷の無効化というアドバンテージをなくすことができた。水が清廉されても、落雷が来る少し前に体を削げば確実に落雷をヒットさせることが出来る。
「・・・覚悟。」
それ以前に、水を吸収させる間もなく切り払うつもりだ。
「・・・フフ。」
「?、何がおかし―」
刹那、体中に残っていた矢の刺さった痛みが復活し。
「・・・・・・!?」
体中から血飛沫があがった。
「・・・何・・・?」
足を支える力さえ残っていない。尻餅で衝撃を抑えるのがやっとだ。
「疑問に思わなかったのですか?矢が刺さって血が出ないことに。」
「・・・・・・。」
睨み付けるが、堪えている様子は無い。その間にも、血は止まることなく流れ続けていく。
「何らかの形で雷無効化へのアドバンテージがなくなったときのための備えだったんですよ。ホラ、私に血がかかったら自らアドバンテージを失くすようなものじゃないですか。」
「・・・・・・!」
そんな意図があったなど、まったく気づかなかった。このままでは、出血多量で死んでしまう。それでも―
「―まだ、立ちますか。」
「・・・タツキの為にも、初戦で負けるわけには行かない・・・!」
これは意地だ。確かにこの対戦カードは先程決まったものだし、負けたら、タツキは気遣ってくれる。だが、嫁としてそれでいいのか?否。断じて否である。
「・・・・・・。」
血のことなんてどうでもいい。再び刀を構え、レインに対峙する。まだまだ勝負はここから。
「何があなたをそうまでさせるのか解かりませんね。騎士の意地ですか?」
「・・・嫁の意地。」
重心を前に置き―
パンッ
「グッ・・・!」
「・・・血がなくなる前に、貴様を地に還す。」
パンッパパンッ
水を強かに殴ったような音がするが、雷雨の音ですぐにかき消される。
「無駄ですよ。雨が降り続ける限り、私に敗北はありません。」
余裕の笑みを崩さないレイン。それでも、私はただただ機械的に、反射的に高速ですれ違い、その際に力の限り水を払う。
「諦めが悪いですよ?」
弓矢を構え、狙いを定めてくるレイン。高速で動きながらも、射程に入らないよう留意しなければ。
「・・・・・・。」
意識が朦朧としてきた。タイムアップも近い。そして雷鳴がとどろき―
「「・・・・・・。」」
―共に大きく跳び退り、対峙する。だが、さすがに純粋ではない水を取り込む作業は楽ではないようで、レインにもようやく疲労の色が見えてきた。
「・・・・・・。」
更に加速して、レインを削っていく。こうなればすべてをかけて攻撃するしかない。
「・・・はぁ、はぁ、はぁ。」
キリが無い。そもそも物理攻撃の通じる相手ではないのだから。それでも、諦める理由にはならない・・・!
「何故そこまで勝ちにこだわるのです?そんなにあの人間が大事ですか?」
あの人間とはタツキのことだろう。答えるまでもなく、当然だ。今となっては騎士の誇り以上に大切だ―
―「勝負あったか・・・!」
横で唇をかみしめるシルヴィア。確かにこれ以上無理されて再起不能になられたら、大変だ。・・・もっとも、当の本人はまだ諦めていないようだが・・・。
「なんじゃ?あれは。」
バフォ様が不思議そうな声を上げている。いったい何が―
『ブルルルル、ヒヒーン!』
「「「な・・・!」」」
映し出される映像からは突如『首のない』馬が赤い液体で満たされたタライを携えて、黒い炎の中から現れた。あれは―
「・・・血か・・・?」
血?いったい何が・・・?そのまま表れた馬を唖然として見つめるレイン。そして―
『・・・いい子。コシュタ・バワー。』
その馬をなでるスピア。・・・え?あの馬ってスピアのなのか?
『う、馬・・・?馬を連れてきてどうするというのですか!?』
・・・まあ、普通錯乱するけどな。
『・・・これが、デュラハンのあるべき姿。』
といって、タライになみなみ入っている血を―レインにぶちまけた。―そうか。デュラハンは今でこそ魔王軍の精鋭だが、もともとは―
「―『死を予言するもの』!」
そもそもデュラハンのルーツは『近いうちに死人が出る家に現れ、タライいっぱいの血を浴びせるケルト神話の妖精』だったはず。だが、血をかけたところで―
「あ、アアアァァァ!!?!」
突如雷に打たれた時以上の悲鳴を上げるレイン。
「・・・必殺は最後まで取っておくもの。」
「ひ・・・!」
そのままコシュタ・バワー(だっけか?忘れた・・・。)に跨り、剣を高く掲げレインに突っ込むスピア。そのまま剣を振りぬき―
「あ・・・!」
悲鳴を上げる間もなく消滅するレイン。後に残ったのは、スピアによってぶっかけられた血の跡だけだった―
―「よくやったスピア!」
シルヴィアが珍しく人を褒めている。まあ、あそこからの逆転だ。わからなくもないが。
「大丈夫かい?レイン。」
あの直後、スピアは血まみれになりながら馬に乗って帰ってきて、レインは体中を鮮血に染めながら現れ、すぐに気絶してしまった。
「負けちゃったが、得るものも多かっただろ?」
現在は南雲由紀に介抱されている。
「・・・タツキ。」
「うお!」
目の前にスピアが。びっくりした。
「・・・・・・。」
頭を摺り寄せてくるスピア。どうすればいいんだ・・・?とりあいず、撫でておくか。
「よく頑張ったな。」
「・・・・・・!」
初戦を見事に勝利で飾ることができた。今度どこかに連れて行ってあげるか。
「・・・さて、タツキ君。」
「・・・・・・!」
声をかけてくる南雲由紀に剣呑な目を向けるスピア。
「次の対戦カードを決めようか。」
「レインはいいのか?」
「大事無い。っていうより、敵の心配をするとはずいぶん余裕だな?タツキ君。」
「フンッ・・・。」
「それじゃあ、・・・いくぜ?」
ガララララとまわり始めるルーレット。次の対戦カードは―
「―シルフのアラシVS,ダークエルフのマリア!」
「あら、私も出なきゃいけないの?」
「「「「「当たり前だ!!」」」」」
「そ、そんなに怒らないでよ。」
「フィールドは『エンパイア・ステートビル』だ。」
「なにぃ!?」
「「「「「???」」」」」
何故いままでファンタジーチックだったのに突如として高層ビル群の都市に!?
「じゃ、いってくるねー。」
相手のシルフは軽い感じの奴だ。
「じゃ、行ってくるわねー。」
味方のダークエルフも軽い感じだ。
(((((あいつら、やる気あるのか・・・?)))))
・・・おそらく満場一致でそんな感想だろうな。
「さあ、行くぜ?第二戦。『教団サイド』アラシVS,『クーデターサイド』マリア。試合開始!!」
いい加減なやつ同士の第二戦が始まった―
「初めまして、スピアさん。私はレインといいます。」
「・・・知ってる。」
「お手柔らかにお願いします。」
次の瞬間、近くに雷が落ち、地面を伝わって私たちを襲った。
「・・・・・・。」
大きく飛ぶ。だが、一向にレインは避けようとしない。
「知っていますか?スピアさん。」
それどころか余裕の笑みを浮かべ、すさまじい電撃がレインを襲った。激しい電光に飛び退りながらも顔を覆う。水のウンディーネに雷は鬼門―
「ぐっ・・・!?」
胸を打つ鋭い痛み。胸元には、水で作られたと思われる矢が刺さっていた。一体なにが・・・!?
「―本当に純粋な水は、電気を通さないのですよ。」
「なっ・・・!?」
無傷のレインは、水で作った弓矢を打った状態でこちらを見上げていた。
「・・・・・・!」
受け身を取り、何とか落下の衝撃を緩和するが―
「・・・・・・!」
立て続けに打ち込まれる、水の矢。転がりながら避け、何とか体制を整える。
「・・・む。」
だが、奴の言っていた言葉―純粋な水には電気が効かない。というのはどうやら本当らしい。水が純粋かどうかは、奴が精霊王であることを考慮すればむしろ当たり前だろう。
「どうやら、このフィールドは、私に有利なようですね。」
微笑を浮かべながら弓を構えるレイン。非常にまずい。私の鎧は電気への耐性はない。それに対し、レインは雷に直接あたろうが、ノーダメージでやり過ごすことができる。圧倒的に不利なフィールドだ。
「・・・・・・。」
雨水で、レインの体内の水を純粋でなくさせる方法もありだが・・・きっと奴はすぐに浄化してしまうだろう。
「顔色が悪いですよ?」
弓を再び連射し始めるレイン。レインを中心に円を描くように回避し、時折剣で弾くが、これでは再び落雷が起こった時に格好の的になってしまう。
「・・・ん!」
考えているうちに、再び突き刺さる矢。右の太もも、左腕の二か所にダメージを―
「・・・・・・?」
確かに、矢は刺さっている。刺さっているが―
「・・・血が出ない・・・?」
―迂闊だった。純粋な水が電気を通さないぐらい小学生でも知っている。
「スピア・・・!」
荒れ狂う天候と、弓矢による猛攻で、回避だけでも精一杯になっている。まずい・・・!
「チャンスじゃなかったのかな?タツキ君?」
にやあ、と笑みを浮かべる南雲由紀。マズイ、確実にマズイ。映し出されるスピアも、焦りを感じているようで、剣さばきに余裕がなくなっている・・・!
『・・・く・・・!』
再び落雷を回避するために跳び、矢を受けるスピア。このままでは・・・!
―「はぁ、はぁ、はぁ・・・くっ・・・!」
血は出ていないものの、矢に当たるたびに凄まじいほどの激痛が体を駆け巡る。
「・・・・・・!」
何とか、柱の陰に隠れるが、すぐに射程内に入ってしまうだろう。一瞬の隙があれば、『死神の凶刃(クレイモア)』で形勢逆転が狙えるが・・・。
「隠れても無駄ですよ。」
ぴちゃぴちゃと、ゆっくり近づいてくるレイン。隙を作るには―
『スピア―頑張れ。』
通信越しに聞こえるタツキの声。たった一言。わずか四文字の『頑張れ』。タツキと出会ってからが走馬灯のように脳裏に浮かぶ。最初に会ったとき。いきなり首を投げつけたけど、盾にしないで守り抜いてくれたあの温もり。・・・あ。
「・・・首を投げればいけるんじゃ・・・?」
確かに尋常じゃないほどのリスクを伴う。だが、このまま戦い続けてもジリ貧だ。
「さあ、チェックで―」
「・・・・・・!」
刹那、顔を投げつける。
「へ?・・・きゃ、きゃああぁぁ!」
「『死神の凶刃』!」
ありったけの精と、魔力をこめ、首を回収し、完全に『死神の凶刃』を開放する。
「・・・可愛い悲鳴。」
「ひ、卑怯ですよ!」
「・・・私の辞書に『卑怯』の文字は無い。」
「そんないい加減な辞典。発禁処分ですね。」
「『発禁処分』なんて字も無い。」
「・・・もういいです。・・・ですが、もう満身創痍といったところでしょう?」
確かに、今の『死神の凶刃』がきれたら終わりだろう。
『今』の死神の凶刃が。
「う・・・なんです!?」
「・・・私も、無為に一週間を過ごしてきたわけじゃない。限られた期間で様々な文献を読み漁り、クロに『死神の凶刃』の『更に先の武器』を作ってもらった。」
そう、タツキの出身でもあるジパングにあるという数多の剣の中でも最強を誇る『ニホントウ』を―
―「おい。」
・・・何だあれは。
「フフフ、私クロの自信作の『ニホントウ』です!」
「「・・・・・・。」」
おもわず、南雲由紀と目が合ってしまう。ほかの奴らは日本刀を知らないから感心しているが―
「・・・日本刀はべつに二本の刀って意味じゃないぜ?」
「え・・・?」
敵にツッコまれている。慌ててこちらを向くクロ。
「・・・こればっかりは、南雲由紀の言うとおりだ。二本の刀で日本刀じゃない。」
まあ、形状は日本刀なのだが・・・。
「・・・おまえ本当にサイクロプスか・・・?」
親の顔が見てみたい。
―「フフフフフ、武器が二つになったところでどうするんですか?」
「・・・・・・。」
一本を正眼に構え、もう一本を後ろにして、地面に剣先を向ける。これで、準備は整った。
「声すら出せないほど、体力を―」
パンッ
「カッ・・・!?」
さっきも言ったけど、私の辞書に卑怯の言葉は無い。喋っている最中であろうと関係ない。
「・・・限界を超えた速さは『強大な力』と同列になる。」
攻撃の威力には『硬さ』『重さ』『速さ』となる。すべてがそろうのが一番だが、どれか一つが秀でているだけでも威力は桁違いだ。何より、『斬る』ではなく『削ぐ』ように刀を振ったため―
「水分が・・・!」
そう、レインの力の源である水を払うことが出来る。
「・・・わたしの新しい『魔道武具(マテリアウエポン)』の『光化不光化(ダークネス・ライト)』。」
「う・・・で、ですが・・・まだです!」
弓を構えるレイン。矢を作り出すために『雨水』を取り込むが―
ピッシャアアァァン!!
「アアアアアァァァアアァァ!!!」
「・・・・・・。」
雨水を『純粋な水』に精錬する間もなく、落雷に打たれるレイン。これで、今度こそ落雷の無効化というアドバンテージをなくすことができた。水が清廉されても、落雷が来る少し前に体を削げば確実に落雷をヒットさせることが出来る。
「・・・覚悟。」
それ以前に、水を吸収させる間もなく切り払うつもりだ。
「・・・フフ。」
「?、何がおかし―」
刹那、体中に残っていた矢の刺さった痛みが復活し。
「・・・・・・!?」
体中から血飛沫があがった。
「・・・何・・・?」
足を支える力さえ残っていない。尻餅で衝撃を抑えるのがやっとだ。
「疑問に思わなかったのですか?矢が刺さって血が出ないことに。」
「・・・・・・。」
睨み付けるが、堪えている様子は無い。その間にも、血は止まることなく流れ続けていく。
「何らかの形で雷無効化へのアドバンテージがなくなったときのための備えだったんですよ。ホラ、私に血がかかったら自らアドバンテージを失くすようなものじゃないですか。」
「・・・・・・!」
そんな意図があったなど、まったく気づかなかった。このままでは、出血多量で死んでしまう。それでも―
「―まだ、立ちますか。」
「・・・タツキの為にも、初戦で負けるわけには行かない・・・!」
これは意地だ。確かにこの対戦カードは先程決まったものだし、負けたら、タツキは気遣ってくれる。だが、嫁としてそれでいいのか?否。断じて否である。
「・・・・・・。」
血のことなんてどうでもいい。再び刀を構え、レインに対峙する。まだまだ勝負はここから。
「何があなたをそうまでさせるのか解かりませんね。騎士の意地ですか?」
「・・・嫁の意地。」
重心を前に置き―
パンッ
「グッ・・・!」
「・・・血がなくなる前に、貴様を地に還す。」
パンッパパンッ
水を強かに殴ったような音がするが、雷雨の音ですぐにかき消される。
「無駄ですよ。雨が降り続ける限り、私に敗北はありません。」
余裕の笑みを崩さないレイン。それでも、私はただただ機械的に、反射的に高速ですれ違い、その際に力の限り水を払う。
「諦めが悪いですよ?」
弓矢を構え、狙いを定めてくるレイン。高速で動きながらも、射程に入らないよう留意しなければ。
「・・・・・・。」
意識が朦朧としてきた。タイムアップも近い。そして雷鳴がとどろき―
「「・・・・・・。」」
―共に大きく跳び退り、対峙する。だが、さすがに純粋ではない水を取り込む作業は楽ではないようで、レインにもようやく疲労の色が見えてきた。
「・・・・・・。」
更に加速して、レインを削っていく。こうなればすべてをかけて攻撃するしかない。
「・・・はぁ、はぁ、はぁ。」
キリが無い。そもそも物理攻撃の通じる相手ではないのだから。それでも、諦める理由にはならない・・・!
「何故そこまで勝ちにこだわるのです?そんなにあの人間が大事ですか?」
あの人間とはタツキのことだろう。答えるまでもなく、当然だ。今となっては騎士の誇り以上に大切だ―
―「勝負あったか・・・!」
横で唇をかみしめるシルヴィア。確かにこれ以上無理されて再起不能になられたら、大変だ。・・・もっとも、当の本人はまだ諦めていないようだが・・・。
「なんじゃ?あれは。」
バフォ様が不思議そうな声を上げている。いったい何が―
『ブルルルル、ヒヒーン!』
「「「な・・・!」」」
映し出される映像からは突如『首のない』馬が赤い液体で満たされたタライを携えて、黒い炎の中から現れた。あれは―
「・・・血か・・・?」
血?いったい何が・・・?そのまま表れた馬を唖然として見つめるレイン。そして―
『・・・いい子。コシュタ・バワー。』
その馬をなでるスピア。・・・え?あの馬ってスピアのなのか?
『う、馬・・・?馬を連れてきてどうするというのですか!?』
・・・まあ、普通錯乱するけどな。
『・・・これが、デュラハンのあるべき姿。』
といって、タライになみなみ入っている血を―レインにぶちまけた。―そうか。デュラハンは今でこそ魔王軍の精鋭だが、もともとは―
「―『死を予言するもの』!」
そもそもデュラハンのルーツは『近いうちに死人が出る家に現れ、タライいっぱいの血を浴びせるケルト神話の妖精』だったはず。だが、血をかけたところで―
「あ、アアアァァァ!!?!」
突如雷に打たれた時以上の悲鳴を上げるレイン。
「・・・必殺は最後まで取っておくもの。」
「ひ・・・!」
そのままコシュタ・バワー(だっけか?忘れた・・・。)に跨り、剣を高く掲げレインに突っ込むスピア。そのまま剣を振りぬき―
「あ・・・!」
悲鳴を上げる間もなく消滅するレイン。後に残ったのは、スピアによってぶっかけられた血の跡だけだった―
―「よくやったスピア!」
シルヴィアが珍しく人を褒めている。まあ、あそこからの逆転だ。わからなくもないが。
「大丈夫かい?レイン。」
あの直後、スピアは血まみれになりながら馬に乗って帰ってきて、レインは体中を鮮血に染めながら現れ、すぐに気絶してしまった。
「負けちゃったが、得るものも多かっただろ?」
現在は南雲由紀に介抱されている。
「・・・タツキ。」
「うお!」
目の前にスピアが。びっくりした。
「・・・・・・。」
頭を摺り寄せてくるスピア。どうすればいいんだ・・・?とりあいず、撫でておくか。
「よく頑張ったな。」
「・・・・・・!」
初戦を見事に勝利で飾ることができた。今度どこかに連れて行ってあげるか。
「・・・さて、タツキ君。」
「・・・・・・!」
声をかけてくる南雲由紀に剣呑な目を向けるスピア。
「次の対戦カードを決めようか。」
「レインはいいのか?」
「大事無い。っていうより、敵の心配をするとはずいぶん余裕だな?タツキ君。」
「フンッ・・・。」
「それじゃあ、・・・いくぜ?」
ガララララとまわり始めるルーレット。次の対戦カードは―
「―シルフのアラシVS,ダークエルフのマリア!」
「あら、私も出なきゃいけないの?」
「「「「「当たり前だ!!」」」」」
「そ、そんなに怒らないでよ。」
「フィールドは『エンパイア・ステートビル』だ。」
「なにぃ!?」
「「「「「???」」」」」
何故いままでファンタジーチックだったのに突如として高層ビル群の都市に!?
「じゃ、いってくるねー。」
相手のシルフは軽い感じの奴だ。
「じゃ、行ってくるわねー。」
味方のダークエルフも軽い感じだ。
(((((あいつら、やる気あるのか・・・?)))))
・・・おそらく満場一致でそんな感想だろうな。
「さあ、行くぜ?第二戦。『教団サイド』アラシVS,『クーデターサイド』マリア。試合開始!!」
いい加減なやつ同士の第二戦が始まった―
11/05/20 11:03更新 / ああああ
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