真に強き者
男は優秀な武家の生まれだった。
武家にとって男が産まれる事は跡取りを
残せるということ…。
男の父と母は彼が産まれた事に大層な喜びを感じていた。
数年後、次男が生誕し、武家は益々繁栄を極めるため、この二児のどちらかを跡取りとして育て上げようと決意した。
長い年月、武士である父親は二児達に剣術のいろはを叩き込んできた。
次男は物覚えや器量がよく、すぐさま父親が施す剣術を体得していった。
対して兄はその才能がなかなか開花されることなく、構えすらまともにとれない様子であった。
見かねた父親は、兄に失望し、跡取りを弟に決める事になんの躊躇いも見せなかった。
ただ、武家にとって跡取りが長男ではなく次男となるのは、よほどの事が起きない限りの異例で、一族の沽券に関わる由々しき事態であった。
そこで、父親は考えた。
あの益体無しを跡取りから除外するにはどうしたらいいか…。
最終的に彼が思いついたのは跡取りを決める際に行う剣技…。試合で長男を亡き者とする事であった。
この事を父は次男に伝え、次男はこれをあっさりと了承した。
次男も兄を疎ましく思っていたのだ。
どの様に試合で事故と見せかけて兄を死に至らしめるか、父はある一つの策を思いついた。
試合で使われるのはあくまで相手を殺さない様にする為、鍛錬様の模造刀を使用する。
試合前に次男の模造刀を真剣とすり替えておこうという算段だ。
模造刀も真剣も同じ鞘に入っている為、抜いて切れ味を確かめるまで、真剣かどうか見分けがつかない。
刀は試合前に使用人が渡す決まりとなっている。
そのまま、渡された真剣で次男が長男を斬り伏せ、あたかも真剣だと気づかなかったと答えれば、罰せられるのは刀を渡した使用人だ。
この者達にとって使用人は所詮使い捨ての道具でしかなかった。
しかし、試合は衝撃的な結果で終わった。
使用人が刀の柄が解れているのを知って二本共刃を抜き、紐を締め直した時に刀を入れ替えてしまったのだ。
これにより偶然にも真剣は長男の方に渡ってしまった。
そして、更に拍車に掛けるように、長男は父や弟を見返す為、この日の為に常人では考えられない鍛錬を半年もの間行ってきていた。
その表情は自信と躍動感に溢れている。
弟は真剣が入れ替わっているのにも気づかず、兄の余裕ぶりが勘にさわり、試合が始まると同時に兄に斬りかかった。
兄は即座に襲いかかってきた弟の動きがいつもより大振りになっていたため、かわしながら隙をつき体を反転させて左下から無防備なその身体を斬り上げた。
それと同時に彼の視界は朱く染まった。
その光景にどよめく武家の一族…。
次男は疑問と悔いを噛み締めながら息を引き取った。
何よりも理解できなかったのは兄の方だ。
何故自分の模造刀が真剣に？と――、
しかし憤慨した父は、兄に対して『真剣を忍ばせるとは言語道断』と怒声を浴びせ、濡れ衣を着せようと仕掛けてきた。
圧倒的不利な状況に、長男は訳もわからぬまま屋敷を後にした。
ひたすら自分を殺そうと追いかけてくる武士達から必死でどこまでも…どこまでも。
背中から飛び交う罵声、そこには自分が慕っていた唯一の母親の声も混ざっていた。
またまた月日は経ち、武家から追放された男は海を跨いで世界を放浪していた。
色々な国で腕を買われ傭兵として戦に赴く。
その戦いのなかで裏切や悲しみに満ちた毎日に嫌気が差し、男はいつしかこう考える様になっていった。
『全ての頂点になる』
この世で一番強くなれば誰も俺にものを言う奴はいなくなる。
この世で一番強くなれば誰も俺に近付こうとはしなくなる。
この世で一番強くなればしずかな安らぎを手にする事ができる。
そう思い、彼は日々死闘を続けた。
突如、そんな彼の耳に興味深い話が入ってきた。
ドラゴンが近くの古城に住み着いたというのだ。
…ドラゴン。
ジパングでは“龍”地上で最も神に近い存在――。
そいつを殺せば人々は俺を恐れるだろう。
男は自分を人々から畏怖させる為に、一人、龍が住むという古城に向かって歩きだした。
男が古城に着いたのは日が暮れて辺りが真っ黒に染まりきった時刻であった。
中は荒廃しきっていた。
ありとあらゆるところに物が散乱し、昔の煌びやかだった光景は見る影も無い。
勿論、男にとって昔の城の様子など知るよしもないのだが、転がっている当時使われていたであろう様々な家具を見ると、過去には大層な財力を持った王が住んでいたことが容易に想像できた。
今ではひび割れ、苔が一面に張り付いた城内を、男は龍がいると思わしき部屋まで目指して一心に進む。
長い回路を抜けて大きな広間に出た。
中は暗く、松明の灯りが奥まで届かない。
しかし、瞬時に広間全体が明るくなった。
壁に掛けてある全ての松明にいきなり火が灯ったのである。
異常な光景にも男は怯える事なく広間の最奥部を睨みつけた。
そこには玉座に跨る一人の女の姿があった。
年齢は二十代半ばだろうか、美しくも妖艶な顔立ちをした切れ長の瞳を持った褐色の美女。
ただその美女には普通の人間と違う所が多々あった。
腰まであろう長い銀髪の頭部から飛び出た禍々しい双角に、服の様に身体を覆う鱗…折り畳まれた漆黒の翼、床に垂れる長い尾。
更には、禍々しい鈎爪がその美女が人外である事を物語っていた。
『久しいな…人間が
ここに来るとは…』
玉座に座っていた女が口を開く。
その瞬間、広間の空気が重くなる。
先ほどまで外から聞こえていた虫達の鳴き声は全く聞こえなくなった。
重圧を感じつつも男は広間へ足を踏みいれる。
『私に何の様だ？人間…』
眼前にいる“龍”の質問に対し、愚かにも男はこう言い放った。
「お前を殺しに来た」
瞬間、女の身体はボコボコと音をたてながら膨れ上がり、その真の姿が明らかとなった。
凶悪な牙を持った禍々しい黒龍が広間の大半を覆い尽くす。
『貴様も今までやって来た富と名誉に目が眩んだ愚かな人間共と同じか？』
見下す龍、それを見上げる男――。
「富と名誉などに興味はない…」
『では何が狙いだ？』
一息置いて男は答えた。
「…俺を畏怖する人々の心だ」
『知れた事！』
刹那、龍の口から赤い炎が迸る。
男は身構える事なくその様子をただ見つめていた。
彼が立っていた場所は瞬く間に火の海となった。
『人間風情が欲に目が眩むからこうなる…』
黒龍は炎上する広間を眺めてそう答えた。
――もう終わりか、と思い、種を返そうとした龍の眼前に先ほど燃やしたはずの男の姿があった。
『！？』
これには龍もたまらず驚く。
しかし、気付いても時は遅く、男は構えていた太刀を思い切り龍の右目へと振り下ろした。
『…っがああああぁ！！』
暴れる龍の上顎から、男は床へと飛び降りるとすぐさま体制を立て直して彼女へと向き直った。
『…っ！何故生きている！？私のブレスは人間が耐えられる ものでは無いはずだ！』
かろうじて右目を閉じた龍は瞼から出血しただけで致命傷には至らなかった。
しかし、人間に傷を付けられたのは初めてなのだろう。
声を高らかにして取り乱していた。
「シルフの羽を使わせて貰った。闇市で値は張ったがな…」
男は風の精霊シルフの羽から発せられた風圧で龍の頭上まで跳び、太刀を振り下ろしていた。
『小癪な…私を傷者にした罪は重いぞ！すぐにひねり潰してくれる！』
それから龍と男の死闘は長々と続いた。
龍の猛攻に男は苦戦しつつも反撃するが、男の太刀では龍の鱗に僅かな傷しかつけることしかできない。
シルフの羽に溜まった魔力にも際限がある。
肉質の薄い間接部や眼などを攻撃しない限り彼女に致命傷を与える事は不可能だった。
何度日が沈み登ったであろうか、男はまだ龍と争っていた。
永遠の命を持つ龍に対して男の体力は限界に近いている。
しかし、男は諦める事なく太刀を振るい応戦していた。
羽の効力は無くなり、龍の尾によって壁に突き飛ばされた身体はすでに致命傷を負っている。
それでも、彼は臆する事なく龍へと向かって行った。
『お前…死ぬのは怖くないのか？』
何度叩きのめしても死人の様に向かって来る男に対して龍は思わずそう口にする。
最初に憤っていた彼女も今では大分落ち着きを取り戻し、男に対して奇妙な感覚を抱いていた。
「…俺は全てを失った。今俺が欲しているものは今まで俺を蔑んできた人々が畏怖する心だ…。
お前を倒せば俺は全ての者から畏怖される恐怖の存在となれる。そんな俺にとって死など微塵も怖くはない…」
男の言葉に龍は興味を示していた。
それもそのはずだ。今まで、富や名声を得るために自分を殺しにやって来た人間は計り知れないが、人々に恐れられる為にやって来た人間は彼が初めてだろう。
死が怖くはないというのもあながち嘘では無いようだ。
『変わった人間だな。お前は…ならばお望み通り死なせてやる！』
死が怖くないなら遠慮は要らないな、と龍は鋭い爪を男に振るう。
男は最後の力を振り絞り彼女の掌に刃を突き刺した。
『ぎっ！？』
痛みを感じた龍はそのまま反動に任せて 男を払いのける、男は木の葉の様に宙を舞い床に叩き落とされた。
彼女は痛みが走る掌を見る。
その中心にはまるで男の意志の象徴であるかのように太刀が深々と突き刺さっていた。
初めて彼女は恐怖を抱き、そして身体の中から沸き上がる熱い何かを知った。
男の身体はもう動く事はなかった――。
（俺は死んだのか？）
暗闇の中を男は、一人さ迷っていた。
ドラゴン――、黒龍に殺し合いを挑み完膚無きまでに叩きのめされ命を落とした彼だったが、悔いは残っていなかった。
殺されたとはいえ、ドラゴン相手に傷を与えられたのは今まで自分以外にはいなかっただろうし、何よりもあの黒龍は僅かながも自分に対して恐怖を抱いているというのは男にも実感があった。
そもそも、道具を駆使したとして、永遠の存在であるドラゴンを生身の人間が倒すなんて事は最初から出来る話では無かったのである。
彼は十分理解していた。
龍を殺すというのは建て前で本当は死に場所を探していたのだ。
自分の意志でなくとも最初に弟を手に掛けてしまい全てを憎むようになった自分の死に場所を――。
だからこれは全て彼が望んだ結末なのだ。
（ああ、静かだ…。ようやく永久の安息を手に入れた…）
男は無が織りなす静寂の余韻に浸っていた。
（…なんだこれは！？）
しかし、その安息も永くは続かない。
突如辺りの暗闇が光に照らされ明るくなっていく。
（俺はまだ生きているのか？）
やがて眩い光に全てを包まれた男の意識は覚醒した。
『気がついたか…』
目の前には見覚えがある褐色の美女の顔があった。
その右瞼には刀傷がついている。
「お前はっ！？」
起き上がろうとするが、身体は全く動かず、口元しか動かす事が出来ない。
まるで、金縛りにでもあったかのように…。
『まだ、私の血が馴染んでいない…。あまり暴れるな…』
「貴様の血…だと？どういうことだ！」
取り乱す男に黒龍は不敵な笑みを浮かべてこう答えた。
『お前に興味が湧いた。憎しみに駆られ畏怖される存在を目指すお前にな…』
「ふざけるな！さっさと殺せ！俺に安息を返せ！」
『フフフッ！その憎しみに歪んだ表情…たまらぬな…。残念だがもうお前に安息は来ない…未来永劫私の下で生きてもらおう』
「なっ！？」
黒龍の言葉に男は驚愕を示す。
そう、死という生命の安息を彼は失ったのだ…。
龍の怒りを買って…。
『お前にとっての恐怖がようやくわかったぞ…。それは不老不死だ…』
死ねない恐怖…。
それを恐れた男は舌を噛みきろうと思い切り口を開ける。
しかし瞬時に黒龍の舌がその口に無理矢理ねじ込まれた。
その舌ごと噛みきろうとするが、黒龍の舌は柔らかくも決して噛み切れるものでは無かった。
そのまま長い接吻を余儀なくされる。
「っ！？―っ！！」
『んぁ、んぢゅる、ぐちゅる！！』
容赦無く口内を長い舌にかき回される。
男は軽い窒息状態になったところで、黒龍はその麗しい唇を離した。
真っ赤な舌が唾液を引きながら彼女の口内へ戻っていく。
「…っなに…を…」
『まだ私の血が周りきっていない状態で死なれては困るな…。ようやく楽しい玩具を手に入れる事が出来たのだ…永遠に楽しめる玩具がな』
黒龍は笑う。
それは全ての者が畏怖する冷たい笑顔――。
『いっただろう私を傷モノにした罪は重い――、永遠に償って貰うぞ…』
そう言うと、彼女は男に馬乗りになり、衣服を爪で引き裂いていく。
「なにを…っ！？」
そして露わになった男の逸物を手の平で撫で上げる。
やがて半立ちになったモノに口をつけた。
『じゅるりっ！じゅるるるるっ！ちゅばっ！』
「んっ！がっ――！」
龍が与える快楽に叫ぼうとするが、顔面に彼女の秘部が押し付けられ、声を塞がれる。
『じゅぱっ！ジュルルルるるるっ！！』
柔らかな口内が全てを搾り取るかのように逸物に絡みつく。
やがて黒龍が与える一方的な責めにより
男は限界を迎えた。
『んぐっ！？じゅる！ジュルル…ちゅぱっ』
激しい射精の後、男はこれ以上ない屈辱と快楽を味あわされた。
逸物から流れでる精液を全て飲みほすと黒龍はその逸物を舌で優しくなでまわし、再び硬くさせる。
男もようやく彼女の臀部から解放され、愛液にまみれた顔で呆然としていた。
『嗚呼…美味だ。硬さも太さも申し分ない…。このままいけるな』
そう言うと黒龍は自らの愛液にまみれた秘部に、涎まみれになった逸物をあてがうと一気に腰を降ろした。
ぶちゅんっ！と、卑猥な音を立てながら逸物がやらしい肉ひだへと引き込まれる。
『んぁあ、溜まらぬわ』
「あっ…がっ！」
あまりの快楽に男はまともに声を上げる事すら出来ない。
ぐちゅんっ、ぐちゅんと乱暴に騎乗位で逸物を犯される。
もはや、男は彼女にとって愛と性欲を満たすための道具でしかなかった。
やがて訪れた二回目の射精は膣内の中で派手に噴射した。
黒龍は男の腰に手を回しひたすらに秘部を押し付ける。
膣内の肉は射精後も淫らに精を搾ろうと蠢いていた。
『まだまだ終わるには早い』
流石に萎えかけてきた逸物に苛立ちを感じた彼女は、尻尾の先端を唾液で濡らし男の後ろの穴へと思い切りねじ込んだ。
「がああぁっ！？」
不快感と痛みに耐えきれず声を上げた男の口をまた黒龍の唇が塞ぐ、ぐりぐりと前立腺を刺激した尾のせいでまたもや膣内のなかで逸物が硬くなった。
そのまま暴力的な龍の性行は、彼女が十回以上絶頂に達するまで行われた。
『お前はもう私のモノだ。永遠に…な』
完全に龍の血が回りきり、半龍となった男を抱きながら彼女はそう呟いた。
龍の怒りを買った男に、もう安息は訪れる事はないだろう。
永遠に畏怖される存在に彼は犯され続ける。
人々が憧れる永遠に対して彼だけは永遠を恐れていた。
少なくとも終わりの無い時間から、幸せを見つけられる様に願うしか彼には赦されていないのだ。
永遠に…。
武家にとって男が産まれる事は跡取りを
残せるということ…。
男の父と母は彼が産まれた事に大層な喜びを感じていた。
数年後、次男が生誕し、武家は益々繁栄を極めるため、この二児のどちらかを跡取りとして育て上げようと決意した。
長い年月、武士である父親は二児達に剣術のいろはを叩き込んできた。
次男は物覚えや器量がよく、すぐさま父親が施す剣術を体得していった。
対して兄はその才能がなかなか開花されることなく、構えすらまともにとれない様子であった。
見かねた父親は、兄に失望し、跡取りを弟に決める事になんの躊躇いも見せなかった。
ただ、武家にとって跡取りが長男ではなく次男となるのは、よほどの事が起きない限りの異例で、一族の沽券に関わる由々しき事態であった。
そこで、父親は考えた。
あの益体無しを跡取りから除外するにはどうしたらいいか…。
最終的に彼が思いついたのは跡取りを決める際に行う剣技…。試合で長男を亡き者とする事であった。
この事を父は次男に伝え、次男はこれをあっさりと了承した。
次男も兄を疎ましく思っていたのだ。
どの様に試合で事故と見せかけて兄を死に至らしめるか、父はある一つの策を思いついた。
試合で使われるのはあくまで相手を殺さない様にする為、鍛錬様の模造刀を使用する。
試合前に次男の模造刀を真剣とすり替えておこうという算段だ。
模造刀も真剣も同じ鞘に入っている為、抜いて切れ味を確かめるまで、真剣かどうか見分けがつかない。
刀は試合前に使用人が渡す決まりとなっている。
そのまま、渡された真剣で次男が長男を斬り伏せ、あたかも真剣だと気づかなかったと答えれば、罰せられるのは刀を渡した使用人だ。
この者達にとって使用人は所詮使い捨ての道具でしかなかった。
しかし、試合は衝撃的な結果で終わった。
使用人が刀の柄が解れているのを知って二本共刃を抜き、紐を締め直した時に刀を入れ替えてしまったのだ。
これにより偶然にも真剣は長男の方に渡ってしまった。
そして、更に拍車に掛けるように、長男は父や弟を見返す為、この日の為に常人では考えられない鍛錬を半年もの間行ってきていた。
その表情は自信と躍動感に溢れている。
弟は真剣が入れ替わっているのにも気づかず、兄の余裕ぶりが勘にさわり、試合が始まると同時に兄に斬りかかった。
兄は即座に襲いかかってきた弟の動きがいつもより大振りになっていたため、かわしながら隙をつき体を反転させて左下から無防備なその身体を斬り上げた。
それと同時に彼の視界は朱く染まった。
その光景にどよめく武家の一族…。
次男は疑問と悔いを噛み締めながら息を引き取った。
何よりも理解できなかったのは兄の方だ。
何故自分の模造刀が真剣に？と――、
しかし憤慨した父は、兄に対して『真剣を忍ばせるとは言語道断』と怒声を浴びせ、濡れ衣を着せようと仕掛けてきた。
圧倒的不利な状況に、長男は訳もわからぬまま屋敷を後にした。
ひたすら自分を殺そうと追いかけてくる武士達から必死でどこまでも…どこまでも。
背中から飛び交う罵声、そこには自分が慕っていた唯一の母親の声も混ざっていた。
またまた月日は経ち、武家から追放された男は海を跨いで世界を放浪していた。
色々な国で腕を買われ傭兵として戦に赴く。
その戦いのなかで裏切や悲しみに満ちた毎日に嫌気が差し、男はいつしかこう考える様になっていった。
『全ての頂点になる』
この世で一番強くなれば誰も俺にものを言う奴はいなくなる。
この世で一番強くなれば誰も俺に近付こうとはしなくなる。
この世で一番強くなればしずかな安らぎを手にする事ができる。
そう思い、彼は日々死闘を続けた。
突如、そんな彼の耳に興味深い話が入ってきた。
ドラゴンが近くの古城に住み着いたというのだ。
…ドラゴン。
ジパングでは“龍”地上で最も神に近い存在――。
そいつを殺せば人々は俺を恐れるだろう。
男は自分を人々から畏怖させる為に、一人、龍が住むという古城に向かって歩きだした。
男が古城に着いたのは日が暮れて辺りが真っ黒に染まりきった時刻であった。
中は荒廃しきっていた。
ありとあらゆるところに物が散乱し、昔の煌びやかだった光景は見る影も無い。
勿論、男にとって昔の城の様子など知るよしもないのだが、転がっている当時使われていたであろう様々な家具を見ると、過去には大層な財力を持った王が住んでいたことが容易に想像できた。
今ではひび割れ、苔が一面に張り付いた城内を、男は龍がいると思わしき部屋まで目指して一心に進む。
長い回路を抜けて大きな広間に出た。
中は暗く、松明の灯りが奥まで届かない。
しかし、瞬時に広間全体が明るくなった。
壁に掛けてある全ての松明にいきなり火が灯ったのである。
異常な光景にも男は怯える事なく広間の最奥部を睨みつけた。
そこには玉座に跨る一人の女の姿があった。
年齢は二十代半ばだろうか、美しくも妖艶な顔立ちをした切れ長の瞳を持った褐色の美女。
ただその美女には普通の人間と違う所が多々あった。
腰まであろう長い銀髪の頭部から飛び出た禍々しい双角に、服の様に身体を覆う鱗…折り畳まれた漆黒の翼、床に垂れる長い尾。
更には、禍々しい鈎爪がその美女が人外である事を物語っていた。
『久しいな…人間が
ここに来るとは…』
玉座に座っていた女が口を開く。
その瞬間、広間の空気が重くなる。
先ほどまで外から聞こえていた虫達の鳴き声は全く聞こえなくなった。
重圧を感じつつも男は広間へ足を踏みいれる。
『私に何の様だ？人間…』
眼前にいる“龍”の質問に対し、愚かにも男はこう言い放った。
「お前を殺しに来た」
瞬間、女の身体はボコボコと音をたてながら膨れ上がり、その真の姿が明らかとなった。
凶悪な牙を持った禍々しい黒龍が広間の大半を覆い尽くす。
『貴様も今までやって来た富と名誉に目が眩んだ愚かな人間共と同じか？』
見下す龍、それを見上げる男――。
「富と名誉などに興味はない…」
『では何が狙いだ？』
一息置いて男は答えた。
「…俺を畏怖する人々の心だ」
『知れた事！』
刹那、龍の口から赤い炎が迸る。
男は身構える事なくその様子をただ見つめていた。
彼が立っていた場所は瞬く間に火の海となった。
『人間風情が欲に目が眩むからこうなる…』
黒龍は炎上する広間を眺めてそう答えた。
――もう終わりか、と思い、種を返そうとした龍の眼前に先ほど燃やしたはずの男の姿があった。
『！？』
これには龍もたまらず驚く。
しかし、気付いても時は遅く、男は構えていた太刀を思い切り龍の右目へと振り下ろした。
『…っがああああぁ！！』
暴れる龍の上顎から、男は床へと飛び降りるとすぐさま体制を立て直して彼女へと向き直った。
『…っ！何故生きている！？私のブレスは人間が耐えられる ものでは無いはずだ！』
かろうじて右目を閉じた龍は瞼から出血しただけで致命傷には至らなかった。
しかし、人間に傷を付けられたのは初めてなのだろう。
声を高らかにして取り乱していた。
「シルフの羽を使わせて貰った。闇市で値は張ったがな…」
男は風の精霊シルフの羽から発せられた風圧で龍の頭上まで跳び、太刀を振り下ろしていた。
『小癪な…私を傷者にした罪は重いぞ！すぐにひねり潰してくれる！』
それから龍と男の死闘は長々と続いた。
龍の猛攻に男は苦戦しつつも反撃するが、男の太刀では龍の鱗に僅かな傷しかつけることしかできない。
シルフの羽に溜まった魔力にも際限がある。
肉質の薄い間接部や眼などを攻撃しない限り彼女に致命傷を与える事は不可能だった。
何度日が沈み登ったであろうか、男はまだ龍と争っていた。
永遠の命を持つ龍に対して男の体力は限界に近いている。
しかし、男は諦める事なく太刀を振るい応戦していた。
羽の効力は無くなり、龍の尾によって壁に突き飛ばされた身体はすでに致命傷を負っている。
それでも、彼は臆する事なく龍へと向かって行った。
『お前…死ぬのは怖くないのか？』
何度叩きのめしても死人の様に向かって来る男に対して龍は思わずそう口にする。
最初に憤っていた彼女も今では大分落ち着きを取り戻し、男に対して奇妙な感覚を抱いていた。
「…俺は全てを失った。今俺が欲しているものは今まで俺を蔑んできた人々が畏怖する心だ…。
お前を倒せば俺は全ての者から畏怖される恐怖の存在となれる。そんな俺にとって死など微塵も怖くはない…」
男の言葉に龍は興味を示していた。
それもそのはずだ。今まで、富や名声を得るために自分を殺しにやって来た人間は計り知れないが、人々に恐れられる為にやって来た人間は彼が初めてだろう。
死が怖くはないというのもあながち嘘では無いようだ。
『変わった人間だな。お前は…ならばお望み通り死なせてやる！』
死が怖くないなら遠慮は要らないな、と龍は鋭い爪を男に振るう。
男は最後の力を振り絞り彼女の掌に刃を突き刺した。
『ぎっ！？』
痛みを感じた龍はそのまま反動に任せて 男を払いのける、男は木の葉の様に宙を舞い床に叩き落とされた。
彼女は痛みが走る掌を見る。
その中心にはまるで男の意志の象徴であるかのように太刀が深々と突き刺さっていた。
初めて彼女は恐怖を抱き、そして身体の中から沸き上がる熱い何かを知った。
男の身体はもう動く事はなかった――。
（俺は死んだのか？）
暗闇の中を男は、一人さ迷っていた。
ドラゴン――、黒龍に殺し合いを挑み完膚無きまでに叩きのめされ命を落とした彼だったが、悔いは残っていなかった。
殺されたとはいえ、ドラゴン相手に傷を与えられたのは今まで自分以外にはいなかっただろうし、何よりもあの黒龍は僅かながも自分に対して恐怖を抱いているというのは男にも実感があった。
そもそも、道具を駆使したとして、永遠の存在であるドラゴンを生身の人間が倒すなんて事は最初から出来る話では無かったのである。
彼は十分理解していた。
龍を殺すというのは建て前で本当は死に場所を探していたのだ。
自分の意志でなくとも最初に弟を手に掛けてしまい全てを憎むようになった自分の死に場所を――。
だからこれは全て彼が望んだ結末なのだ。
（ああ、静かだ…。ようやく永久の安息を手に入れた…）
男は無が織りなす静寂の余韻に浸っていた。
（…なんだこれは！？）
しかし、その安息も永くは続かない。
突如辺りの暗闇が光に照らされ明るくなっていく。
（俺はまだ生きているのか？）
やがて眩い光に全てを包まれた男の意識は覚醒した。
『気がついたか…』
目の前には見覚えがある褐色の美女の顔があった。
その右瞼には刀傷がついている。
「お前はっ！？」
起き上がろうとするが、身体は全く動かず、口元しか動かす事が出来ない。
まるで、金縛りにでもあったかのように…。
『まだ、私の血が馴染んでいない…。あまり暴れるな…』
「貴様の血…だと？どういうことだ！」
取り乱す男に黒龍は不敵な笑みを浮かべてこう答えた。
『お前に興味が湧いた。憎しみに駆られ畏怖される存在を目指すお前にな…』
「ふざけるな！さっさと殺せ！俺に安息を返せ！」
『フフフッ！その憎しみに歪んだ表情…たまらぬな…。残念だがもうお前に安息は来ない…未来永劫私の下で生きてもらおう』
「なっ！？」
黒龍の言葉に男は驚愕を示す。
そう、死という生命の安息を彼は失ったのだ…。
龍の怒りを買って…。
『お前にとっての恐怖がようやくわかったぞ…。それは不老不死だ…』
死ねない恐怖…。
それを恐れた男は舌を噛みきろうと思い切り口を開ける。
しかし瞬時に黒龍の舌がその口に無理矢理ねじ込まれた。
その舌ごと噛みきろうとするが、黒龍の舌は柔らかくも決して噛み切れるものでは無かった。
そのまま長い接吻を余儀なくされる。
「っ！？―っ！！」
『んぁ、んぢゅる、ぐちゅる！！』
容赦無く口内を長い舌にかき回される。
男は軽い窒息状態になったところで、黒龍はその麗しい唇を離した。
真っ赤な舌が唾液を引きながら彼女の口内へ戻っていく。
「…っなに…を…」
『まだ私の血が周りきっていない状態で死なれては困るな…。ようやく楽しい玩具を手に入れる事が出来たのだ…永遠に楽しめる玩具がな』
黒龍は笑う。
それは全ての者が畏怖する冷たい笑顔――。
『いっただろう私を傷モノにした罪は重い――、永遠に償って貰うぞ…』
そう言うと、彼女は男に馬乗りになり、衣服を爪で引き裂いていく。
「なにを…っ！？」
そして露わになった男の逸物を手の平で撫で上げる。
やがて半立ちになったモノに口をつけた。
『じゅるりっ！じゅるるるるっ！ちゅばっ！』
「んっ！がっ――！」
龍が与える快楽に叫ぼうとするが、顔面に彼女の秘部が押し付けられ、声を塞がれる。
『じゅぱっ！ジュルルルるるるっ！！』
柔らかな口内が全てを搾り取るかのように逸物に絡みつく。
やがて黒龍が与える一方的な責めにより
男は限界を迎えた。
『んぐっ！？じゅる！ジュルル…ちゅぱっ』
激しい射精の後、男はこれ以上ない屈辱と快楽を味あわされた。
逸物から流れでる精液を全て飲みほすと黒龍はその逸物を舌で優しくなでまわし、再び硬くさせる。
男もようやく彼女の臀部から解放され、愛液にまみれた顔で呆然としていた。
『嗚呼…美味だ。硬さも太さも申し分ない…。このままいけるな』
そう言うと黒龍は自らの愛液にまみれた秘部に、涎まみれになった逸物をあてがうと一気に腰を降ろした。
ぶちゅんっ！と、卑猥な音を立てながら逸物がやらしい肉ひだへと引き込まれる。
『んぁあ、溜まらぬわ』
「あっ…がっ！」
あまりの快楽に男はまともに声を上げる事すら出来ない。
ぐちゅんっ、ぐちゅんと乱暴に騎乗位で逸物を犯される。
もはや、男は彼女にとって愛と性欲を満たすための道具でしかなかった。
やがて訪れた二回目の射精は膣内の中で派手に噴射した。
黒龍は男の腰に手を回しひたすらに秘部を押し付ける。
膣内の肉は射精後も淫らに精を搾ろうと蠢いていた。
『まだまだ終わるには早い』
流石に萎えかけてきた逸物に苛立ちを感じた彼女は、尻尾の先端を唾液で濡らし男の後ろの穴へと思い切りねじ込んだ。
「がああぁっ！？」
不快感と痛みに耐えきれず声を上げた男の口をまた黒龍の唇が塞ぐ、ぐりぐりと前立腺を刺激した尾のせいでまたもや膣内のなかで逸物が硬くなった。
そのまま暴力的な龍の性行は、彼女が十回以上絶頂に達するまで行われた。
『お前はもう私のモノだ。永遠に…な』
完全に龍の血が回りきり、半龍となった男を抱きながら彼女はそう呟いた。
龍の怒りを買った男に、もう安息は訪れる事はないだろう。
永遠に畏怖される存在に彼は犯され続ける。
人々が憧れる永遠に対して彼だけは永遠を恐れていた。
少なくとも終わりの無い時間から、幸せを見つけられる様に願うしか彼には赦されていないのだ。
永遠に…。
11/03/31 19:40更新 / ポン太