読切小説
[TOP]
作法を学びましょう
皆様おはようございます。
といいましても、辺りはすでに暗くなってきています。
ですが、おはようで正しいのです。
何故なら私の主はヴァンパイアなのですから。
……おっと、紹介が遅れましたね。
私はこの屋敷のたった一人の召使いであるレイド・バーンスと申します。
では、早速お嬢様を起こしに行くとしましょう。

コンコン
「……」シィィィ---zン
擬音が某スタンド漫画のようですが、取り敢えず起きてはいないようです。
まぁ予想通りですが。
「失礼いたします。」
扉を開けるとあらびっくり。
部屋の真ん中には棺があるではありませんか!
いえ、私はびっくりしませんよ?
馴れてますので。
カーテンがきちんと閉まっていることを確認して、棺を開けます。
ヴァンパイアであるお嬢様は日光が苦手なのです。

「お嬢様。お嬢様。」
棺をノックします。
すると、棺が開いて、中からお嬢様が出てきました。
「んあ……。」
寝惚けていらっしゃるようです。
ぐうかわいい。
おっと、言葉遣いが乱れてしまいましたね。
「おはようございます。アリアお嬢様。」
「レイドか……。」
「お食事ができておりますので。」
「解った。すぐ行く。」
「お待ちしております。」
踵を返し、食堂へ向かいます。

ところで、お嬢様は大変お作法にうるさいのです。
私ですか?
まぁ、昔はよく怒られましたが……。
今はそこまで怒られることはないですね。
常に細心の注意を払ってはいますので。
さて、本題に入りましょう。
私はいままでお嬢様の様々なお顔を拝見してきました。
そしてそれらは全て私の脳内メモリーに焼き付いております。
ですが、ただ一つだけ、今までに見たことがない表情があるのです。
それは唇を噛んで目に涙をためながら悔しがる表情です。
「ぐぬぬ……」
と言わせてみたいのです。
そしてその顔を脳裏に焼き付けて、幸せな気持ちになります。
では、作戦実行です。

「今日のメニューは?」
「赤ピーマンのファルシー、豚と鶏白レバーのパテ、牛肉と玉ねぎの煮込みとなっております」
「解ったわ」
そういうと、お嬢様は華麗にナイフとフォークを使ってお召し上がりになります。
美しい。
おっといけません。少々鼻血が出てしまいました。
お嬢様が食べ終わります。
え?「ぐぬぬ……」は?ですって?
いまからですよ、いまから。
「レイド、デザートを」
「かしこまりました」
待っていてくださいよ!私の「ぐぬぬ……」顔!

「デザートでございます」
「こ、これは……」
皿「」ゴゴゴゴゴゴ
「枇杷でございます」
「枇杷……」
お嬢様も驚いておられます。
そう。
枇杷は汁が零れやすく、綺麗に食べるのは至難の業です。
おまけに、正しい作法なんて恐らく知らないでしょう。
お嬢様が狼狽えています。
(計画通り)ニタァ
「レイド、デザートはもうよい」
そう来ましたか。
だがそれも予想の範囲内です。
「おや?もしかして食事を『残す』のですか?」
「うっ……。まさか、そんなはずはないだろう。」
まさか、作法にうるさいお嬢様が自ら作法を破る筈はありませんから。

「…………」
お嬢様が俯きます。
来るか……来るか!?
「レイド」
「は、何でしょうか」
「その……」
「はい?」
「これはどうやって食べるのだ正しんだぁ!」
ドレスをギュッと握りしめて、唇を噛んで、目に涙を浮かべて!
素晴らしいィィィィィッ!素晴らしすぎるゥゥゥゥゥッ!
「決着ゥーーーーーーッ!!」
「え?」
おっと、思わず叫んでしまいました。
「お嬢様、枇杷を食べる作法も知らないのですか?」
「……うむ」
「おやおや、いつもはあんなに作法にうるさいのに、食べ方がわからないと」
「ぐぬぬ……」
これですよこれ!これが見たかったんです!
「では、教えますね」
私は徐に枇杷の皮をむくと、そのままむしゃぶりつきました。
種周りの果肉も、歯でこそげとるようにして。
「なッ……!」
お嬢様絶句です。

「ふぅ……」
私は口と手をハンカチで拭きます。
「これが正しい食べ方ですよ。お嬢様」
「嘘をつけ!」
「いいえ、本当でございます。枇杷のような汁気の多い食べ物は、なるべく豪快にいただき、相手への感謝を表すのです」
「そうだったのか……」
やはりお嬢様は可愛いですね。
劣情を催しそうになります。
「ではレイド」
「は、なんでしょうか?」
「血を吸うときの正しい作法を教えてやろう」
「OH……」

ーfinー
14/08/17 21:18更新 / kakizaki

■作者メッセージ
初投稿ですが……なんぞこれ。
とりあえずその場の勢いでやっちゃいました。
短いですが、楽しんでいただけましたでしょうか。
「ぐぬぬ……」って最高ですよね(迫真)

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33