焔と拳士と……あとなんだ?
―運命なんて、そんな物は信じてはいないが―
―本当にあるのなら、もうちょっとマシな出会いにしてくれよ、と思う。
春はいい。旅をしている俺としては、雪もなくなり寒さも緩むこの季節はどちらかというと好きな部類に入る。
まぁ、すぐにうだるような暑さの夏に入るんだけどな。まぁ寒いよりは暑い方がいいだろう。それよりも、今は少しでも歩を進めよう。
そんなことを思いながら平坦にならされた街道を1人歩いていた。地図を見てみると、この街道を辿っていけばそれなりに大きな町があるらしい。そこならまたギルドがあるだろう。
……まぁ、泣きたくなるぐらい遠いんだけどな。
確かに道のところどころに町はある。宿屋や消耗品については心配しなくてもいいだろう。しかし、目的の街まではかなりある。本当に。
―そういえば、途中には火山もあるらしいな。
さすがに火山の峠まで上りはしない。聞いたところによるとせいぜい1〜2合目ぐらいまでしか上らないそうだ。昔はかなり上まで上るルートもあったらしいが、人がほとんど通らない、本当に近道したい人のみが通るような道、とのことだ。
さすがにそこを上る気はしない。寒いのは嫌だが、さすがに暑すぎるのも遠慮したい。
―とか思ってたんだがなぁ…
なんでも落石が起こったらしく、街道の方が通行止めらしい。幸い人は巻き込まれず、又落ちてきた岩も撤去はできるレベルの大きさらしい。
ただ、その量が多い。
元からそこにありました、とでもいう風にちょうど谷間の部分を埋め尽くしており、何週間か、もしくは何ヶ月かは通れない、とのことだ。
つまり、先ほど話に出た登山道のみがあの街へとつながる唯一の道で、そこを通る人はいないということだ。
俺以外は。
「ったく、誰かが俺に恨みでも持ってるんかねぇ……」
どうでもいいことを口から吐きながら、1歩1歩山を登っていく。
どうも山は今のところ活動していないらしく、マグマが流れてくる、とかのアクシデントは今のところない。ただ暑いだけだ。
「むしろ、これは熱いといっても間違いじゃないだろ……」
ふとあたりを見回す。どうやらぼちぼち人は通っているらしく、どこを通ればいいのかわからない、ということはなかった。どうやらこの先は少し広くなっているようだ。日も落ちてきたし今日はそのあたりでキャンプを張ることにした。
「ん?」
日も落ちかけ暗くなり始め、飯を作ろうと火を起こしていると、道の向こう側に明かりが見えた。俺ランタンとか持ってないんだよなぁ。少しうらやましい。
とりあえずまずは火だ、と火をつける。火をつける。火をつけ……つかない。
それでもめげずにカチカチ火打石を打ち付けるが、なかなか火がつかない。
ふと頭を上げると先ほどの明かりの人が近くまで来ていたので話しかける。
「おーい、ちょっとすまないがそのランタンの火…を……」
その旅人はランタンどころか松明も持ってなかった。背中の方から火がついている。…いや、火がついているのは背中じゃない。腰のあたりから尻尾が生えているのだ。その尻尾から火が燃え上がっているようだ。そこまで考えて俺はやっと彼女が人ではないと気付く。
『魔物娘…!?だが、こんな種族いたか?リザードマンでもドラゴンでもないしイグニスでもない…くそっ、思い出せ、思い出すんd「どうかしたのか?」
やばい、考えていたらかなり近くまで近づいていた。距離は3メートルとない。相手さんは俺を見下ろすように立っているし、俺は座り込んでいる。戦いでは上になったものが勝つらしいが、確かにこのまま襲われたら不利だ。とりあえず、用件を伝える。
「あ、ああ。火を起こそうとしたんだが、なかなかつかなくてね。ちょっとランタンか何かの火を借りようと思ったんだが…まさか魔物娘とはね。ちとすまないが、火を少し借りてもいいかい?」
「ああ、それぐらいならお安い御用さ。1本、薪をもらえるかい?」
すまないね、と言いながら薪を渡す。どうやら話は通じるようだ。渡した薪を彼女が尻尾に近づけたと思ったら、すぐに火がついた。
「はい、これでいいかい?」
「ああ、助かったよ。」
薪の火をくべていたら、彼女はよいしょ、と隣に腰を下ろした。彼女もここで一晩過ごす気らしい。
彼女の種族が何だったか考えながらながら飯を作っていると、彼女から話しかけてきた。
「どうしたんだい?山登りなんて。途中に街道があっただろう?」
「あっちでは崖崩れが起こってな。いや、あの量は土砂崩れって言ってもいいな。とにかく、街道はしばらく使えないそうなんだ。」
「ああ、それでこの山を登ろうと。……待つ、って考えはなかったのかい?」
「生憎、暇つぶしなんて修行を増やすぐらいしか思いつかないからな。どうせならさっさと通った方がいいと思ってな。」
「ん?修行?…あんた、剣か何かでも振り回してるのかい?」
「いや、まぁ使えなくはないが、俺の武器はこれさ。」
そういいながら拳を握る。
「へぇ…あんた、拳闘士かい?」
「ま、そんなもんだな。別に他の武器も使えるっちゃ使えるんだが、どうもこっちの方がしっくりきてな。」
「ふぅん……」
拳士なんて、別にそう珍しいわけではないとは……いや、剣士と比べたらまだ少ないか。
「で、それがどうかしたのか?」
「いや、ちょっと気になってね。強いのかなー、と思って。」
「まぁ、別にそこまで弱くはないとは思うぞ?一応一人旅してるんだし。」
実際、何度か危ない目にあったこともあるが、何とか切り抜けてきた。そこらのチンピラぐらいなら負ける気は毛頭しない。
「じゃあこんなのは?」
なんだと思って彼女の方を振り返ると、彼女の剣が俺めがけて振り下ろされていた。
「ぬおぉぉっ!?」
驚きながらも白刃取りで受け止める。
「な、何するんだいきなり!」
「いや、弱くないって言ったからほんとかなーって。別に死にはしないよ。峰打ちだし。」
確かに峰が向けられてはいるが、そもそも剣自体がでかい。食らったらたんこぶができるぐらいでは済まないだろう。てか下手したら撲殺できるレベルだろ、これ。
「ま、確かに弱くはないみたいだね。んー……」
しかも本人は全然悪気を感じていないようだ。何この子こわい。
…ん?今尻尾の炎が大きくなったような…
「よしっ!あたしと一戦やろう!」
「はぁ!?」
「だから、あたしと一回戦おうって!」
いや、なんでいきなり?……とりあえず、その剣を下ろしてくれ。待つという言葉を知らんのか、この娘は。
さて、作っているスープにはふたをして、少し離れたとこに移った。だいたい円形の半径15〜20メートルぐらいのところだ。
それにしても、なんでいきなりあんなことを言い出したんだ…?
と疑問符をつけながら篭手をつける。(正直あまり怪我させたくないし、布でも巻こうかと思ったんだが、彼女が「やるからには本気だ!」とか言ってくるんですもん。拒否権?そんなもんなかった。) そう言われたからには、全力で挑まないといけない。相手は魔物娘、種族にもよるがモノによっては男よりも力が強い。剣を持っているあたり、彼女もそういう種族なのだろう。
……ま、一応回復薬はあるし回復魔法は覚えてはいる。急所を切られない限りは大丈夫だろう。でも痛いのはやだなぁ。
とか思いながら装備を整えていると、彼女が何か呟いているのが聞こえた。
何を言っているのかは聞き取れなかったが、彼女にも何か思うところがあるのだろう。
って、この娘目がやばいですギラギラしてます。もしかしてこの子俺に恨みでもあるんだろうか。
「よし、じゃあ始めようか。」
「あ、ああ!始めようじゃないか!」
「?顔が赤いぞ?やっぱりやめようか?」
「ばっ、馬鹿を言うんじゃない!大丈夫だ!あたしは健康そのものだぞ!」
本当に大丈夫だろうか?……ま、本人が言っているのなら心配はないだろう。俺のせいではないし。
「…じゃあ、今からコインをはじくから、このコインが落ちたらスタート。いいな?」
「わ、わかった。」
さて、と……それじゃあ、始めますか。殺さないで下さいよ?
コインが宙に弾かれる。上へ、上へ、上へ。その上昇が止まり、今度は落ち始める。下へ、地面へ、速度を上げて。
―そして、コインが勢いよく地面で跳ねた。
「でぇぇぇぇっりゃぁっ!」
火花が走る。
その使い手と比べるとやや不釣り合いな大きさの剣が俺の肩めがけて振り下ろされ―
―る寸前、その剣が受け止められる。しかし、剣の勢いは衰えない。
「もらったぁぁぁぁぁっ!」
彼女が声を上げる。だが―
「ふっ!」
その剣を右後方へ受け流す。切り裂く相手を失った剣は地面に振り下ろされ、容赦なく地を切り裂いた。
「ぶはっ……こりゃぁ、正面から防ぐってわけにゃぁいかないな」
土を抉った剣は刀身が3分の1ほどめり込み、地面の方は一直線に割れていた。
目測だが剣の倍ぐらいの長さだろうか。
「……いいねぇ…やっぱり、あたしの目に狂いは無かった……」
そして、先ほどよりも彼女の顔が赤くなる。本当に大丈夫か?
さっきからもうずっと彼女のターンが続いている。彼女のスタミナを削るためだ。
そろそろバテてきたか?、と剣を握る彼女を見る。見るところ、ふらついたりはしていない。だが顔がさっきからずっと赤い。視野を広くして全体を見ると、彼女が本当に女なんだと改めて認識する。赤というより紅色の髪の毛、とびきりのプレゼントをもらった子供のような実に楽しそうな2つの目、女性らしく存在を主張する大きな胸、引き締まるところは引き締まった肢体……いや、いかんいかん。
俺は戦っている真っ最中なんだ、目の前の敵に集中しろ。
自分に喝を入れ、相手の剣戟を避け、受け止め、流していると、相手の方から声が飛んできた。
「なぁ、あんた…名は、なんていうんだい?」
「…あー……ダン、ダン・シュタイナーだ。そっちは、なんて名前なんだ?」
会話はしてても集中は切らさない。おっと、左か。
「あたしはシャーマ。シャーマ……えっと…」
名前を聞き返した途端、彼女の剣に迷いが見えた。すかさず、こちらも反撃に移る。
確かに、彼女の剣捌きは中々のものだ。下手をしたら、教会の騎士団でも同等、もしくは優位に立てるかもしれない。
だが、どうやらメンタルの方に難がある。戦ってる最中に戸惑ってるようじゃ、勝てる勝負も勝てなくなるぞ。
―ま、戸惑ったのは俺が名前を聞き返したからなのだが。
そうは思いながらも、体の方は容赦なく動く。相手の懐に潜り込み、腹に渾身の左を叩き込む―!
『この一撃で―ッ!』
だが、俺は気付かなかった。腕で隠れる左側、俺の脇腹に向けて、赤く燃え上がる尻尾が叩き付けられようとしているのを。
山の中腹、勾配がなくなりちょっとした広場のようになっている所。男と女が寝転んで大の字になっていた。
「ったく……少しは、手加減しろ、っての……」
「それは……こっちの、セリフ、だよ……」
あの後、両方ほぼ同時にもろに食らい、こうして二人とも倒れているというわけだ。あと俺の方は少し焦げた。炎の方が当たっていたら火達磨だったぜ。
「くそ……これじゃ、どっちが勝ったか判らないな……」
そう言いながら、上半身を起こしてシャーマの方を向く。するとあっちもむくりと起き上った。
「そんなの、関係ないよ……あんたは、あたしと充分、張り合ったよ……」
「……?どういうことだ?」
話を聞くと、どうやら理想の男を探すために見つけた旅人に片っ端から勝負を挑んでいたらしい。そこらへんはリザードマンと同じようなものか。
シャーマの話によると、彼女はずっとこの山に住んでいたらしい。親は母親だけ。その親も彼女が15、6歳の時に病気で亡くなってしまった。
子供の時から、剣の修行をして、まだ見ぬ将来の相手に思いを馳せ、一人の寂しさに負けずに生きる毎日。そして年月は過ぎ、彼女は強くなった。
強くなったはいい。だが、彼女の場合、強くなりすぎてしまった。
彼女が勝負を挑む旅人は、どれも皆彼女に勝てなかった。それどころか、彼女が本気を出すまでもなくあっさりと勝ててしまう。
別に旅人達が弱かったわけではない。只、彼女が強かっただけ。
しかし、彼女は絶望していた。もしかしたら、自分は伴侶はもう見つからないのかもしれない。
さらに、彼女は一人の時間を過ごすうち、自分の姓を忘れてしまった。
元から彼女の母親はあまり自分の名前を語らなかった。
彼女は、姓を忘れたことで母親との繋がりが切れてしまった、と思ってしまった。
そう思うと、堪らなくさびしかった。そして、彼女は旅人を見つけても戦わなくなった。
どうせ、また自分が勝って一人ぼっちになる。一人になって、寂しくなるだけだ。自分を打ち負かす相手はいないんだ。
そう思いながら過ごす毎日の中、人(ようは俺)を見つけ、寂しくてつい話しかけた、ということだ。
「……じゃあ、俺が勝てなくて君はまた独り寂しく毎日を過ごす、というわけか。すまないね、ご期待に副えなくて。」
「いや、あんたは充分強かったよ。今まで引き分けになるような人なんていなかったからね。」
そうはいっても、俺は結局彼女に勝てなかった。さて、俺は彼女に何をされるんだろうね。煮るなり焼くなりされちゃうんかねえ、せめてもうちょっと旅を続k「なあ。」
「ん?俺をどうするのか決めたのかい?やるならせめて一思いにやってくれよ?」
「……わかった。一度しか言わないぞ。」
嗚呼、天国の親父、母さん。俺ももうすぐそこn「ダン、私と付き合ってくれ。」……pardon?
「は……?ツキアッテクレ?今度はフェンシングでもするのか?」
「何を勘違いしてるんだ?ダン、君が、私と、付き合ってくれ。」
「……OK、ちょっと少し待って考える時間をくれ。」
えーとちょっとまってくれ付き合ってくれってカップル的な意味でかいやもしかしたら何かが足りないのかもしれないわかったぞ何かの作業例えば食料の調達に付き合えってことかいやでももうお月様がでてるぜじゃあいったいなんなんだくそだめだ何も思いつかん。
とりあえずダメもとで聞いてみる。
「……付き合ってくれって、その、彼氏とか彼女とかそういう意味でか?」
「ああ、その通りだが。」
やっほーい、様子見に思いっきり外角高めに投げたらまさかのホームランだよ。俺は何の話をしているんだ。
「……なんで俺?しかもいきなり?」
「あんたは、いやダンはあたしとの勝負で負けなかった。理由はそれで十分だ。」
えっ、なにそれこわい
……いや、まさか。「もしかして、君、サラマンダー……なのかい?」
「ああ。そうだが、それがどうかしたのか?」
/(^q^)\ナンテコッタイ
サラマンダー。確かリザードマンと近い種族のはずだ。実際赤い鱗はあるし髪も紅いし尻尾は燃えてるし剣は持ってるしってかもう戦っちゃったしなんか付き合えって言ってるしいやでも彼女よく見ると相当かわいいしもろ俺のタイプだしいやでも付き合うって俺にどうしろっていうんだシャーマさん。
「ちなみに無理っていったら?」
「無理やり付いてく。」
ウッヒャッホーイ
「……つまり、俺に拒否権は無いわけだな?」
「そうだ。」
「逃げたりしたら?」
「世界の果てまで追い続けるだけだ。」
「俺が自殺なんてしたら?」
「一緒に死のうじゃないか。」
ワーオThis is 四面楚歌。It is 袋小路。わかりましたよ覚悟決めますよもう。
「……わかった。付き合うよ。」
別に嫌いじゃないしてかむしろこれもしかして一目惚れしてんじゃないか?だったらこれが運命ですかねーワーオクサいセリフー」
……あっ、口に出てた。
いまさら思ってももう遅い、口から出たものは引っ込みはしないものだ。
「ほっ、本当か!?もしかしたら相思相愛なのか!?じゃ、じゃあさっそく夫婦の契りw」
とりあえず頭をぶっ叩いた。いい音鳴った。
彼女の顔を見るとびっくりするぐらい赤くなってた。血色いいですね。
……とまあ、そんなこんなで二人は出会いましたとさ。
その時のサラマンダーが隣で酔っぱらってるやつだよ。ったく、酒は弱いくせに飲むんだから困るんだよ。っと、じゃあ俺はこいつをベッドに連れてくわ。ここで寝られたらいろいろとめんどい。
じゃ、お疲れさん。またいつか飲もうや。
あ?その後の話?……また機会があれば、な。
―本当にあるのなら、もうちょっとマシな出会いにしてくれよ、と思う。
春はいい。旅をしている俺としては、雪もなくなり寒さも緩むこの季節はどちらかというと好きな部類に入る。
まぁ、すぐにうだるような暑さの夏に入るんだけどな。まぁ寒いよりは暑い方がいいだろう。それよりも、今は少しでも歩を進めよう。
そんなことを思いながら平坦にならされた街道を1人歩いていた。地図を見てみると、この街道を辿っていけばそれなりに大きな町があるらしい。そこならまたギルドがあるだろう。
……まぁ、泣きたくなるぐらい遠いんだけどな。
確かに道のところどころに町はある。宿屋や消耗品については心配しなくてもいいだろう。しかし、目的の街まではかなりある。本当に。
―そういえば、途中には火山もあるらしいな。
さすがに火山の峠まで上りはしない。聞いたところによるとせいぜい1〜2合目ぐらいまでしか上らないそうだ。昔はかなり上まで上るルートもあったらしいが、人がほとんど通らない、本当に近道したい人のみが通るような道、とのことだ。
さすがにそこを上る気はしない。寒いのは嫌だが、さすがに暑すぎるのも遠慮したい。
―とか思ってたんだがなぁ…
なんでも落石が起こったらしく、街道の方が通行止めらしい。幸い人は巻き込まれず、又落ちてきた岩も撤去はできるレベルの大きさらしい。
ただ、その量が多い。
元からそこにありました、とでもいう風にちょうど谷間の部分を埋め尽くしており、何週間か、もしくは何ヶ月かは通れない、とのことだ。
つまり、先ほど話に出た登山道のみがあの街へとつながる唯一の道で、そこを通る人はいないということだ。
俺以外は。
「ったく、誰かが俺に恨みでも持ってるんかねぇ……」
どうでもいいことを口から吐きながら、1歩1歩山を登っていく。
どうも山は今のところ活動していないらしく、マグマが流れてくる、とかのアクシデントは今のところない。ただ暑いだけだ。
「むしろ、これは熱いといっても間違いじゃないだろ……」
ふとあたりを見回す。どうやらぼちぼち人は通っているらしく、どこを通ればいいのかわからない、ということはなかった。どうやらこの先は少し広くなっているようだ。日も落ちてきたし今日はそのあたりでキャンプを張ることにした。
「ん?」
日も落ちかけ暗くなり始め、飯を作ろうと火を起こしていると、道の向こう側に明かりが見えた。俺ランタンとか持ってないんだよなぁ。少しうらやましい。
とりあえずまずは火だ、と火をつける。火をつける。火をつけ……つかない。
それでもめげずにカチカチ火打石を打ち付けるが、なかなか火がつかない。
ふと頭を上げると先ほどの明かりの人が近くまで来ていたので話しかける。
「おーい、ちょっとすまないがそのランタンの火…を……」
その旅人はランタンどころか松明も持ってなかった。背中の方から火がついている。…いや、火がついているのは背中じゃない。腰のあたりから尻尾が生えているのだ。その尻尾から火が燃え上がっているようだ。そこまで考えて俺はやっと彼女が人ではないと気付く。
『魔物娘…!?だが、こんな種族いたか?リザードマンでもドラゴンでもないしイグニスでもない…くそっ、思い出せ、思い出すんd「どうかしたのか?」
やばい、考えていたらかなり近くまで近づいていた。距離は3メートルとない。相手さんは俺を見下ろすように立っているし、俺は座り込んでいる。戦いでは上になったものが勝つらしいが、確かにこのまま襲われたら不利だ。とりあえず、用件を伝える。
「あ、ああ。火を起こそうとしたんだが、なかなかつかなくてね。ちょっとランタンか何かの火を借りようと思ったんだが…まさか魔物娘とはね。ちとすまないが、火を少し借りてもいいかい?」
「ああ、それぐらいならお安い御用さ。1本、薪をもらえるかい?」
すまないね、と言いながら薪を渡す。どうやら話は通じるようだ。渡した薪を彼女が尻尾に近づけたと思ったら、すぐに火がついた。
「はい、これでいいかい?」
「ああ、助かったよ。」
薪の火をくべていたら、彼女はよいしょ、と隣に腰を下ろした。彼女もここで一晩過ごす気らしい。
彼女の種族が何だったか考えながらながら飯を作っていると、彼女から話しかけてきた。
「どうしたんだい?山登りなんて。途中に街道があっただろう?」
「あっちでは崖崩れが起こってな。いや、あの量は土砂崩れって言ってもいいな。とにかく、街道はしばらく使えないそうなんだ。」
「ああ、それでこの山を登ろうと。……待つ、って考えはなかったのかい?」
「生憎、暇つぶしなんて修行を増やすぐらいしか思いつかないからな。どうせならさっさと通った方がいいと思ってな。」
「ん?修行?…あんた、剣か何かでも振り回してるのかい?」
「いや、まぁ使えなくはないが、俺の武器はこれさ。」
そういいながら拳を握る。
「へぇ…あんた、拳闘士かい?」
「ま、そんなもんだな。別に他の武器も使えるっちゃ使えるんだが、どうもこっちの方がしっくりきてな。」
「ふぅん……」
拳士なんて、別にそう珍しいわけではないとは……いや、剣士と比べたらまだ少ないか。
「で、それがどうかしたのか?」
「いや、ちょっと気になってね。強いのかなー、と思って。」
「まぁ、別にそこまで弱くはないとは思うぞ?一応一人旅してるんだし。」
実際、何度か危ない目にあったこともあるが、何とか切り抜けてきた。そこらのチンピラぐらいなら負ける気は毛頭しない。
「じゃあこんなのは?」
なんだと思って彼女の方を振り返ると、彼女の剣が俺めがけて振り下ろされていた。
「ぬおぉぉっ!?」
驚きながらも白刃取りで受け止める。
「な、何するんだいきなり!」
「いや、弱くないって言ったからほんとかなーって。別に死にはしないよ。峰打ちだし。」
確かに峰が向けられてはいるが、そもそも剣自体がでかい。食らったらたんこぶができるぐらいでは済まないだろう。てか下手したら撲殺できるレベルだろ、これ。
「ま、確かに弱くはないみたいだね。んー……」
しかも本人は全然悪気を感じていないようだ。何この子こわい。
…ん?今尻尾の炎が大きくなったような…
「よしっ!あたしと一戦やろう!」
「はぁ!?」
「だから、あたしと一回戦おうって!」
いや、なんでいきなり?……とりあえず、その剣を下ろしてくれ。待つという言葉を知らんのか、この娘は。
さて、作っているスープにはふたをして、少し離れたとこに移った。だいたい円形の半径15〜20メートルぐらいのところだ。
それにしても、なんでいきなりあんなことを言い出したんだ…?
と疑問符をつけながら篭手をつける。(正直あまり怪我させたくないし、布でも巻こうかと思ったんだが、彼女が「やるからには本気だ!」とか言ってくるんですもん。拒否権?そんなもんなかった。) そう言われたからには、全力で挑まないといけない。相手は魔物娘、種族にもよるがモノによっては男よりも力が強い。剣を持っているあたり、彼女もそういう種族なのだろう。
……ま、一応回復薬はあるし回復魔法は覚えてはいる。急所を切られない限りは大丈夫だろう。でも痛いのはやだなぁ。
とか思いながら装備を整えていると、彼女が何か呟いているのが聞こえた。
何を言っているのかは聞き取れなかったが、彼女にも何か思うところがあるのだろう。
って、この娘目がやばいですギラギラしてます。もしかしてこの子俺に恨みでもあるんだろうか。
「よし、じゃあ始めようか。」
「あ、ああ!始めようじゃないか!」
「?顔が赤いぞ?やっぱりやめようか?」
「ばっ、馬鹿を言うんじゃない!大丈夫だ!あたしは健康そのものだぞ!」
本当に大丈夫だろうか?……ま、本人が言っているのなら心配はないだろう。俺のせいではないし。
「…じゃあ、今からコインをはじくから、このコインが落ちたらスタート。いいな?」
「わ、わかった。」
さて、と……それじゃあ、始めますか。殺さないで下さいよ?
コインが宙に弾かれる。上へ、上へ、上へ。その上昇が止まり、今度は落ち始める。下へ、地面へ、速度を上げて。
―そして、コインが勢いよく地面で跳ねた。
「でぇぇぇぇっりゃぁっ!」
火花が走る。
その使い手と比べるとやや不釣り合いな大きさの剣が俺の肩めがけて振り下ろされ―
―る寸前、その剣が受け止められる。しかし、剣の勢いは衰えない。
「もらったぁぁぁぁぁっ!」
彼女が声を上げる。だが―
「ふっ!」
その剣を右後方へ受け流す。切り裂く相手を失った剣は地面に振り下ろされ、容赦なく地を切り裂いた。
「ぶはっ……こりゃぁ、正面から防ぐってわけにゃぁいかないな」
土を抉った剣は刀身が3分の1ほどめり込み、地面の方は一直線に割れていた。
目測だが剣の倍ぐらいの長さだろうか。
「……いいねぇ…やっぱり、あたしの目に狂いは無かった……」
そして、先ほどよりも彼女の顔が赤くなる。本当に大丈夫か?
さっきからもうずっと彼女のターンが続いている。彼女のスタミナを削るためだ。
そろそろバテてきたか?、と剣を握る彼女を見る。見るところ、ふらついたりはしていない。だが顔がさっきからずっと赤い。視野を広くして全体を見ると、彼女が本当に女なんだと改めて認識する。赤というより紅色の髪の毛、とびきりのプレゼントをもらった子供のような実に楽しそうな2つの目、女性らしく存在を主張する大きな胸、引き締まるところは引き締まった肢体……いや、いかんいかん。
俺は戦っている真っ最中なんだ、目の前の敵に集中しろ。
自分に喝を入れ、相手の剣戟を避け、受け止め、流していると、相手の方から声が飛んできた。
「なぁ、あんた…名は、なんていうんだい?」
「…あー……ダン、ダン・シュタイナーだ。そっちは、なんて名前なんだ?」
会話はしてても集中は切らさない。おっと、左か。
「あたしはシャーマ。シャーマ……えっと…」
名前を聞き返した途端、彼女の剣に迷いが見えた。すかさず、こちらも反撃に移る。
確かに、彼女の剣捌きは中々のものだ。下手をしたら、教会の騎士団でも同等、もしくは優位に立てるかもしれない。
だが、どうやらメンタルの方に難がある。戦ってる最中に戸惑ってるようじゃ、勝てる勝負も勝てなくなるぞ。
―ま、戸惑ったのは俺が名前を聞き返したからなのだが。
そうは思いながらも、体の方は容赦なく動く。相手の懐に潜り込み、腹に渾身の左を叩き込む―!
『この一撃で―ッ!』
だが、俺は気付かなかった。腕で隠れる左側、俺の脇腹に向けて、赤く燃え上がる尻尾が叩き付けられようとしているのを。
山の中腹、勾配がなくなりちょっとした広場のようになっている所。男と女が寝転んで大の字になっていた。
「ったく……少しは、手加減しろ、っての……」
「それは……こっちの、セリフ、だよ……」
あの後、両方ほぼ同時にもろに食らい、こうして二人とも倒れているというわけだ。あと俺の方は少し焦げた。炎の方が当たっていたら火達磨だったぜ。
「くそ……これじゃ、どっちが勝ったか判らないな……」
そう言いながら、上半身を起こしてシャーマの方を向く。するとあっちもむくりと起き上った。
「そんなの、関係ないよ……あんたは、あたしと充分、張り合ったよ……」
「……?どういうことだ?」
話を聞くと、どうやら理想の男を探すために見つけた旅人に片っ端から勝負を挑んでいたらしい。そこらへんはリザードマンと同じようなものか。
シャーマの話によると、彼女はずっとこの山に住んでいたらしい。親は母親だけ。その親も彼女が15、6歳の時に病気で亡くなってしまった。
子供の時から、剣の修行をして、まだ見ぬ将来の相手に思いを馳せ、一人の寂しさに負けずに生きる毎日。そして年月は過ぎ、彼女は強くなった。
強くなったはいい。だが、彼女の場合、強くなりすぎてしまった。
彼女が勝負を挑む旅人は、どれも皆彼女に勝てなかった。それどころか、彼女が本気を出すまでもなくあっさりと勝ててしまう。
別に旅人達が弱かったわけではない。只、彼女が強かっただけ。
しかし、彼女は絶望していた。もしかしたら、自分は伴侶はもう見つからないのかもしれない。
さらに、彼女は一人の時間を過ごすうち、自分の姓を忘れてしまった。
元から彼女の母親はあまり自分の名前を語らなかった。
彼女は、姓を忘れたことで母親との繋がりが切れてしまった、と思ってしまった。
そう思うと、堪らなくさびしかった。そして、彼女は旅人を見つけても戦わなくなった。
どうせ、また自分が勝って一人ぼっちになる。一人になって、寂しくなるだけだ。自分を打ち負かす相手はいないんだ。
そう思いながら過ごす毎日の中、人(ようは俺)を見つけ、寂しくてつい話しかけた、ということだ。
「……じゃあ、俺が勝てなくて君はまた独り寂しく毎日を過ごす、というわけか。すまないね、ご期待に副えなくて。」
「いや、あんたは充分強かったよ。今まで引き分けになるような人なんていなかったからね。」
そうはいっても、俺は結局彼女に勝てなかった。さて、俺は彼女に何をされるんだろうね。煮るなり焼くなりされちゃうんかねえ、せめてもうちょっと旅を続k「なあ。」
「ん?俺をどうするのか決めたのかい?やるならせめて一思いにやってくれよ?」
「……わかった。一度しか言わないぞ。」
嗚呼、天国の親父、母さん。俺ももうすぐそこn「ダン、私と付き合ってくれ。」……pardon?
「は……?ツキアッテクレ?今度はフェンシングでもするのか?」
「何を勘違いしてるんだ?ダン、君が、私と、付き合ってくれ。」
「……OK、ちょっと少し待って考える時間をくれ。」
えーとちょっとまってくれ付き合ってくれってカップル的な意味でかいやもしかしたら何かが足りないのかもしれないわかったぞ何かの作業例えば食料の調達に付き合えってことかいやでももうお月様がでてるぜじゃあいったいなんなんだくそだめだ何も思いつかん。
とりあえずダメもとで聞いてみる。
「……付き合ってくれって、その、彼氏とか彼女とかそういう意味でか?」
「ああ、その通りだが。」
やっほーい、様子見に思いっきり外角高めに投げたらまさかのホームランだよ。俺は何の話をしているんだ。
「……なんで俺?しかもいきなり?」
「あんたは、いやダンはあたしとの勝負で負けなかった。理由はそれで十分だ。」
えっ、なにそれこわい
……いや、まさか。「もしかして、君、サラマンダー……なのかい?」
「ああ。そうだが、それがどうかしたのか?」
/(^q^)\ナンテコッタイ
サラマンダー。確かリザードマンと近い種族のはずだ。実際赤い鱗はあるし髪も紅いし尻尾は燃えてるし剣は持ってるしってかもう戦っちゃったしなんか付き合えって言ってるしいやでも彼女よく見ると相当かわいいしもろ俺のタイプだしいやでも付き合うって俺にどうしろっていうんだシャーマさん。
「ちなみに無理っていったら?」
「無理やり付いてく。」
ウッヒャッホーイ
「……つまり、俺に拒否権は無いわけだな?」
「そうだ。」
「逃げたりしたら?」
「世界の果てまで追い続けるだけだ。」
「俺が自殺なんてしたら?」
「一緒に死のうじゃないか。」
ワーオThis is 四面楚歌。It is 袋小路。わかりましたよ覚悟決めますよもう。
「……わかった。付き合うよ。」
別に嫌いじゃないしてかむしろこれもしかして一目惚れしてんじゃないか?だったらこれが運命ですかねーワーオクサいセリフー」
……あっ、口に出てた。
いまさら思ってももう遅い、口から出たものは引っ込みはしないものだ。
「ほっ、本当か!?もしかしたら相思相愛なのか!?じゃ、じゃあさっそく夫婦の契りw」
とりあえず頭をぶっ叩いた。いい音鳴った。
彼女の顔を見るとびっくりするぐらい赤くなってた。血色いいですね。
……とまあ、そんなこんなで二人は出会いましたとさ。
その時のサラマンダーが隣で酔っぱらってるやつだよ。ったく、酒は弱いくせに飲むんだから困るんだよ。っと、じゃあ俺はこいつをベッドに連れてくわ。ここで寝られたらいろいろとめんどい。
じゃ、お疲れさん。またいつか飲もうや。
あ?その後の話?……また機会があれば、な。
11/04/09 00:11更新 / あきじん