壷の女の子と小さな冒険
あるところに、お昼寝が大好きなつぼまじんの女の子が住んでいました。
名前をラジーナちゃんといい、保育園に通っています。
保育園のお友達と話すことがちょっと苦手だったラジーナちゃんは、
ある日、夢に出てくるお友達と本当に出会って、大の仲良しになることができました。
そこからどんどんお友達が増えていって、お昼寝のほかにも大好きなことができたので、
保育園に行くのも毎日楽しみです。
そんなラジーナちゃんですが、実は寝相がすごく悪いので、
寝ているときに壷ごとゴロゴロと転がっていってしまいます。
そのために、ラジーナちゃんは、小さな冒険をすることになってしまうのでした…
その日はパパとママのお店がお休みの日。パパとママはお買い物に行ったので、
ラジーナちゃんはお家でお昼寝をしていたのですが……
「すぅ…すぅ……んんっ、もうおなかいっぱい…」
よくある寝言をつぶやきながら、壷の中で穏やかな寝息を立てています。
しかし、そんなラジーナちゃんの様子とは違い、壷はゴロゴロと部屋中を転がっています。
ところでラジーナちゃんの家には、庭に出られる大きな窓があるのですが、
その日はちょっと暑かったので、ラジーナちゃんはその窓を開けっ放しにしたまま
お昼寝をしてしまったのです。
そのせいで、ラジーナちゃんの壷は窓から外に出て、そのままゴロゴロと
遠くへ転がっていってしまいました。
庭を出て…住んでいる町を通り抜け…坂道を転がり落ち…どんどん遠くへ…そして……
「う〜ん…ふぁ……」
ラジーナちゃんが起きると、そこには全く知らない風景が広がっていたのでした。
「えっ、ここは…どこ?まだ、夢の中なのかな…」
そこは、見渡す限りの暗い森です。大人ですら不安になるような場所なのですから、
子供のラジーナちゃんだったらなおさらです。
「そうだ、ミナちゃんから貰った腕輪が…」
夢の中で出会った、ラジーナちゃんの一番のお友達のミナちゃんは、
ラジーナちゃんに、悪い夢から守ってくれる不思議な腕輪をくれました。
でも、今いるこの場所が夢の中だとしたら、これは間違いなく悪い夢です。
今ではいつもつけているこの腕輪が守ってくれないことが、
これが夢ではないという一番の証拠なのでした。
「そんな…!やだやだっ、ここどこなの!?パパ、ママ、どこにいるの!?
やだよぉっ、助けて、パパ!ママぁ!!」
いくら大きな声を出しても、もちろんパパやママには届きません。
そんな時、風が吹いたのか、動物がいるのか、茂みがガサガサと音を立てます。
「キャァァァァッ!!やだぁぁぁぁッ!!!」
とうとう、恐ろしさに耐え切れなくなり、ラジーナちゃんは泣きながら走り出しました。
何度も転んで服を汚しながら、ラジーナちゃんは森を必死に逃げ続けます…
ドンッ!!
突然、ラジーナちゃんは何かにぶつかりました。木ではないようですが…
「いたぁい…だ、誰ッ!?」
「ぐぐ…それはこちらの台詞だッ!!この我にぶつかって来るとは、命知らずめ…」
それは、頭から角を生やして、大きな爪と翼を持ったお姉さんでした。
「ご、ごめんなさい…あたし、ここがどこか分からなくて……ぐすっ…」
「なんだ、迷子なのか?お前のような子供が、こんな深い森に何の用がある?」
「えっと…お家でお昼寝してて、起きたらここにいたの…。」
「何ィ?…にわかには信じがたいが……嘘をついているようにも見えんな…」
「お姉さん、ここはどこなの?」
「ここは反魔物領の近くの森だ。奴らに見つからなかったのは幸運だったな…」
「やつら?はんまものりょう?それって何?」
「反魔物領とは簡単に言えば、我やお前のような魔物達を嫌っている連中がいる所だ。
そこに住む奴らに見つかったら、恐ろしい目に合わされる事だろう。
なにしろ奴らは、お前のような幼い子供にも容赦はしない。一切な。
我ならあんな連中一捻りなんだが、お前だったら、恐らく……」
「…!!!いやぁ、怖いよぉっ…!うぇぇぇん…」
「す、すまない。怯えさせるつもりはなかったのだが………そうだ!
我がお前の家まで送り届けてやろう。だから泣くのはやめろ、な?」
さすがに「地上の王者」ドラゴンも、泣いている小さな子供にはかないません。
ラジーナちゃんもようやく安心したようです。
「本当!?お姉さん!」
「ああ。関わった以上、無視もできんしな。お前の名は何という?」
「あたしの名前?ラジーナっていうの。お姉さんは?」
「我が名はゴールディ。それでは、こんな森に長居は無用だ。行くぞ!」
そう言うと、ゴールディさんはラジーナちゃんを抱えて、翼を羽ばたかせました。
見る見るうちに地面が遠ざかっていきます…
「すごぉい…お姉さん、空飛べるの?」
「我はドラゴンだ。子供一人抱えて飛ぶなど造作も無い事よ。
それで、お前の家だが…ここから、何処にあるか分かるか?」
「……わかんない。」
「そうか…。では、お前の住む場所の名は?」
「う〜ん……え〜と………ごめんなさい。忘れちゃった…。」
「むむ…。やはり、お前を知っている誰かに聞く他ないか?
幼い子供と言えば…やはりあそこか。気乗りはせんが、仕方あるまい…」
「…それで、私の所に来たというわけぢゃな?」
「ああ、そうだ。そうでもなければ、こんな所来てやるものか!」
「そう言われてものぉ〜…我々のサバトには、こんな子は居らぬし……」
「あれっ、バフォ様…だよね?よく保育園に来る…」
「恐らく人違いぢゃ。しかし、このまま帰すのも、ちと可哀想ぢゃの…
お主の住む町の特徴を言ってみるがよい。どんな所だとか、こんな建物があるとか。
ひょっとしたら、何か分かるやも知れぬ。」
「うん…わかった。えっと…魔界の近くにあって…大きな時計台があって…
町のみんなが仲良しなの!」
「うむ。他には?」
「時計台の前に広場があって…近くの魔界の中に青空保育園があって…
あたしのお家は、町でお花屋さんやってるの。『鈴蘭』っていう…」
「なるほどのぉ。鈴蘭………鈴蘭ぢゃと!?お主、名前は?」
「ラジーナ=リウルフっていうの。」
「おおッ、やはりそうか!お主、ジャグ=リウルフを知っているか!?」
「うん。あたしの叔父さんだよ。それがどうかしたの?」
「奴は私の親友ぢゃよ。ココに寄る度、お前の事を楽しそうに話しておったわい。
見所のある嫁が居るというに、サバトには入ってくれんかったがの…。
ついこの前まで、この辺りにおったわ。どれ…レイチェル!レイチェルは居らぬか!」
バフォメット様がそう呼ぶと、小さなワーウルフの女の子が部屋に入ってきました。
「は〜い。何の御用ですかぁ?」
「うむ、実はな。ジャグの姪っ子が迷子になってしまった様ぢゃから、
お主にジャグ達の匂いを嗅ぎ分け、この子を連れて行って欲しいのぢゃ。」
「了解ですッ!このレイチェル、命に代えてもッ!」
「命賭ける事もないぢゃろ…まあとにかく、ラジーナよ、レイチェルに付いて行くがよい。
まだそんなに遠くまでは行っておらんはずぢゃ。」
「うん。わかったよ…ふふっ♪」
「どうしたのぢゃ?」
「ヤギさんにオオカミさんって、まるで絵本みたいだなぁって思って…」
「あぁ、7匹の子ヤギがオオカミを(性的に)懲らしめる話の事ぢゃな?」
「そうだよ。バフォメットさんもそのお話好きなの?」
「ホッホッホ、何を隠そう、その話に出てくる子ヤギの内の一人はこの私の母上で、
レイチェルはそのオオカミの孫の孫ぢゃからの。知ってて当然ぢゃよ。」
「すごい…!本当なの?」
「本当に本当ぢゃよ。その時の家も、まだこの町に残っておる。
見せてやりたい所なんぢゃが…そんな時間は無いようぢゃ。すまんの。」
「ホントなんだ…。今度、保育園のみんなに教えてあげよう!」
「ホッホ…さあ、もう行くのぢゃ。お主の両親も心配しておるぞ。」
「うん、ありがとうバフォメット様!あ、そうだ。お名前教えてくれる?」
「私の名はアイヴォリー=ゴーティーぢゃ、覚えておくがよいぞ。」
「それじゃあね、アイヴォリーさん!」
「それでは行って参ります、アイヴォリー様!!」
「うむ。あ、それとあと一つ!
お主が大人になった時、もう一度子供に戻りたいと思うようになったのならば、
私のサバトを訪ねるがよい。ステキな世界が待っておるぞ♪では、さらばぢゃ!」
さすがはサバトのリーダー。こんな小さい子にも、勧誘は忘れません。
そしてラジーナちゃんとレイチェルさんは、叔父さん達を目指して出発したのでした…。
「……途中から我を完全に無視していたな。貴様ら…」
「おや、まだ居ったのか?ゴールディ。」
「居ったのか、じゃないッ!…ところで、二人だけで大丈夫か?我も一緒に行った方が…」
「大丈夫ぢゃ。この辺りは結構安全ぢゃし、護衛など要らんぢゃろ。
…それに、もし万一のことがあったとしても、心配はいらんわい。」
「何故だ?」
「困っている者の気配を感じれば、たとえ千里離れた所からでも飛んで来るのが
あの男ぢゃからな…。というわけで、何の心配もいらん。
ほれ、お前は用済みぢゃ、もう帰ってよいぞ。シッシッ。」
「何だと、この****な若作りババアめッ!この前も貴様ときたら…」
「これ、声がでかいわ。ラジーナ達に汚い言葉が聞こえてしまうぞ?」
「ぐぐ……ッ、いつか絶対コロス…」
もうそろそろ暗くなってきた頃、レイチェルさんはラジーナちゃんを連れて、
あの森ほどではないけれど、それなりに深い森を歩いていました。
色々なお話をしながら歩いているので、今度はちっとも怖くありません。
「匂いがどんどん強くなってきてる…もうすぐだよ。ラジーナちゃん。」
「ホント!?早く会いたいなぁ、叔父さんと叔母さん…」
しかし…その時、二人の男が、ラジーナちゃん達の前に現れたのです。
「おっ、兄者。こんな所に魔物のガキが…」
「おおッ、こいつは見っけモンだな。神様ありがとう…ってか?」
「どうする、兄者?」
「見たところこいつらだけの様だし、決まっているだろう。ん?」
「ガキは貴重だものなぁ。いい値で売れるぜ、こいつぁ!」
「その前に、最近女も抱いてないし、ちょっと味見するのもまた良し、か?」
「そうっすね、へへ…」
男達は、不気味な笑いを浮かべながら、ラジーナちゃん達に近づいてきます。
二人はすぐに、この人たちは悪い人だとわかりました。
「こ、怖い…」
「うぅ…く、来るな!私はお前達なんか…!」
そうは言っても、二人は体も心もまだ子供。恐怖には勝てず、後ずさるばかりです…
「お前達なんか、何だぁ?口ではそう言っても、体は正直だぜ?」
「弟よ、その台詞は使い所がちがうぞ?ククク…」
そのうち二人は、後ろにあった木にぶつかり、逃げられなくなってしまいました。
「さあ、観念するんだな。へへへ…」
「なぁに、ヤられようが売られようが、怖いのは最初だけよ…。」
「あぅぅ…」
「くぅっ……う、」
「「うわぁぁぁぁッ!!」」
追い詰められた二人は、必死に反撃を試みました。
ラジーナちゃんは壷に入って転がり、そのまま体当たりを仕掛け、
レイチェルさんは、爪で二人の顔を思いっきり引っかきます。
「ぐあっ!?て、てめえらっ…!!」
「その程度で、俺達が倒せるとでも思ったのか?クク…」
しかし、子供二人の力では、全くかないません。
ラジーナちゃん達は、ついに取り押さえられてしまいました……。
「俺の顔に傷つけやがって…お前ら二人とも、この10倍はボロボロにしてやるっ!!」
「どうでもいいが、壊しきるなよ?売れなくなるからな…」
「やぁぁ…!!」
「放せ、放せぇッ!!!」
もはやこれまでか…そう思った時、どこからともなく金属の棒が延びてきて、
男達の頭に直撃しました。彼らがひるんだ隙に、二人はすばやく逃げ出します。
「ぐうぁぁ……いってぇ…」
「ヌグオォォ…だ、誰だこの野郎ッ!」
「こんな時間に、怯える小さな女の子に襲い掛かってるお前達こそ誰だこの野郎ッ!!」
「服装を見る限り、真っ当に生活してる人とは思えないわねぇ…。」
棒の持ち主は、宝箱に入った女の人を連れた、旅のための服装をした男の人でした。
ラジーナちゃん達は、すぐさま二人の後ろに逃げ込みます。
「ん?あっ、お前らは、この前俺が壊滅させた盗賊団の残党かッ!
あの時二人だけ逃げ出したと思ったら、こんな所に潜伏していたのか!?」
「あなた、台詞が説明くさい…でも、やっと見つけたわ♪」
「あ、あっ…お前は『ルドベギアの使者』……!お前らこそ、何でここに居るんだ!?
「…クソッ!弟よ、あの時のように、ここは逃げの一手だ!」
「おーっと、今度は逃がさないからね……♪『Aweamo-Oreteribihs』!!」
女の人が呪文を唱えると、二人組みの弟のほうの動きが止まりました。
兄のほうは、咄嗟に弟を抱えてなおも逃げようとしています。
ただの悪人かと思ったら、兄弟愛は一応あるようです。
しかし、当然そんな事だけでは見逃す理由には出来ません。
兄のほうも、男の人の持っていた棒で足を払われ、倒れてしまいました。
そして男の人は、すぐに二人を取り押さえ、武器を奪って縛り上げ、
ついでにサラサラと手紙を書き上げて二人の足元に置きました。
「これでよし、っと。町に戻るのも手間がかかるから、このままにしておこう。
後は巡回してる自警団か、冒険者か、森の魔物達か…
とりあえず、見つけた誰かが何とかしてくれるだろ。」
どうやら、もう安全になったようです。
緊張が解けたラジーナちゃん達は、泣きながら男の人に飛びつきました。
「よしよし、怖かったね、よく頑張ったね…。」
「うぅ、ひくっ、ありがとうございます…!」
「うえぇぇん……えくっ…?…あ、あれ?もしかして…叔父さんと叔母さん!?」
「ええッ!?あっ、本当!ジャグさんにキューブさんだ!!」
「ラジーナちゃん…!?レイチェルちゃんまで、どうしてこんな所にいるの!?」
ラジーナちゃんは、ジャグさん達と一緒に歩きながら、これまでの事を話しました。
「寝て起きたら…か。起きた時一人だったなら、誘拐ってわけでもなさそうだし…
不思議だな。一体どうしたんだろう…?」
「それにしても、よくもまあそんな所まで来たね…。
あなたの街からあそこまで、子供の足だと二日ぐらい…いやもっとかかる筈なのに…。
ドラゴンさんが見つけてくれて、本当に良かったね♪」
「うん…。ところで、叔父さんたちはどこに行くの?」
「俺達は今から、君の住んでる所にいくところだよ。
最近、保育園やその周りの土地に、さっきの男達…いや、もしかしたら
それよりももっと悪い人がいっぱい集まっていて、とても危ないらしいんだ。
だから、俺達はそこの皆を守るために、自警団に参加しようと思ってね。」
「へぇ〜…」
「二人とも、これからは暗くなったら、お外に出ちゃダメよ。わかった?」
「「はーい!」」
「よろしい♪もうすぐ町に着くから、もうちょっとだけ頑張ってね♪」
そんな時、ラジーナちゃん達のお腹が、大きな音を立てました。
気づけばもう辺りはほとんど夜。晩ごはんの時間です。四人はちょっと休憩し、
キューブさんが作ったお弁当を食べることにしました。
「「おいしい〜!!」」
「やっぱり、キューブのお弁当は大したもんだよ、うん…!」
「ありがとう、皆♪ちょっと作りすぎちゃったから、二人が来てくれて丁度良かったわ♪」
「あぁ…やっぱり子供と一緒に食べるのって、いいよなぁ…」
「ふふっ♪…ねえ、あなた。ラジーナちゃん達もいいけれど、
もうそろそろ……『私達の』子供が欲しくない?」
「そうだなぁ…。貯金もあるし、今度の自警団の仕事が片付いたら、子供を作って、
兄貴達の町かどこかに腰を落ち着けるのもいいかもなぁ……」
「本当ッ!?やった♪楽しみにしてるからね!」
「あの、レイチェルさん…」
「なあに?ラジーナちゃん。」
「あたしと…お友達になってください。」
「うん、いいよ。これからも宜しくね!」
「…これからも、かぁ……。ねえ、レイチェルさん。
「あたしがお家に帰れたら…やっぱり、レイチェルさんも帰っちゃうの?」
「…うん。私もお家があるし、家族やサバトの皆がいるから。」
「そっかぁ…ちょっと寂しいな…」
「きっとまた会えるよ。手紙とか、気持ちを伝えられる方法もいっぱいあるから。
離れてても、ずっとさよならって訳じゃないの。お互いの事を友達だと思っていれば、
いつまでも、ずー…っと、お友達でいられるんだよ。」
「そうだよね!よかった…。ありがとう、レイチェルさん!」
「どういたしまして!」
「…ん……ふあぁぁ〜……。」
「…?ラジーナちゃん、もしかして…眠いの?」
「うん…、ごめんね。ちょっと疲れちゃって……」
「私も、ちょっと眠くなって来ちゃったな…ふぁ…。」
今日一日で色んなことがあったので、ラジーナちゃん達は疲れてしまったようです。
「あら、二人とも、すっかり眠くなっちゃったみたいね…。」
「この二人にとっては、きっと大冒険だったんだろうな…、疲れもするか。」
「町まであとちょっとだし、私たちで『鈴蘭』までおんぶしてあげましょ?」
「そうだな…。二人とも、ここまでよく頑張ったね。
俺達がおんぶして連れて行ってあげるから、こっちにおいで。」
「「は〜い…」」
ジャグさんがラジーナちゃんを、キューブさんがレイチェルさんをおんぶして、
四人は残りの道を進みだしました。そしてお月様がかなり高くまで来た頃、
ようやく、ラジーナちゃんの住む町が見えてきました。
「ほら、見えるかい?あとちょっとだよ……って、もう寝ちゃってるか。」
「すぅ…ん、むにゃ…」
「くぅ…くぅ…」
「あらあら、レイチェルちゃんも寝ちゃってる…。」
「……しかしラジーナちゃん、やっぱり寝相が悪いな。
転がる代わりに、手足がバタバタ暴れてるよ。寝息は静かなのにな…。」
「お義姉さんゆずりだね…。お義兄さんに聞いたけど、確かお義姉さん、
寝てる間に海越えて、隣の大陸に流れ着いた事まであったんだって?凄すぎるよね…」
「ああ、そんな話もしてたっけな。…まさか、この子があんな遠くまで来たのも……。」
そして、四人はついにラジーナちゃんの町にたどり着くことが出来たのでした。
しかし、何か様子が変です。大人たちがあちこち走り回って、
まるで誰かを探しているような…。そんな時、大きくてヒゲの生えたオジサンが
ジャグさんを見つけ、駆け寄ってきました。
「あっ、ジャグさんじゃねえかッ!それに、この子…!
おーい、皆ァァ!!トップさんとこの嬢ちゃんが見つかったぞォォォッ!!!」
『えっ!?』『マジでか!』『良かったわぁ…』
「はぁ、見つかってよかった…。トップさん達が『ラジーナがいない』ってんで、
もんのすごい必死に町中を探し回っててなぁ。皆あの一家には良くしてもらってるし、
俺達も手分けして町や周りを探してた所だったのよ。」
「やっぱりそうだったんですか…。」
「最近は、この辺りがやたら物騒らしいからなァ。
皆、誰かに誘拐されたのかって事も考えてたんだが…まあ無事でよかったぜ。」
「俺達もこの辺りを守りたいと思って、自警団に参加するために帰ってきたんですよ。」
「おお、そうだったのかッ!そいつは頼もしいこった。頑張ってくれよ!
…さ、早く嬢ちゃんをあの二人の所に連れて行ってやってくれや。案内するからよ。」
そして四人が案内された場所に来ると、トップさん夫婦が待っていました。
「ラジーナ…!!もう、皆に心配かけて…」
「まあまあ、無事に帰ってきたんだから、いいじゃないか。
それにしても、気持ちよさそうに寝てるね…。ありがとう、ジャグ。」
「気にしないでくれよ。俺もたまたま見つけたみたいなもんだし…」
「あれ?キューブちゃん、その子は?」
「この子が、アイヴォリーさんのサバトからラジーナちゃんを連れて、
ここに向かう私たちを追いかけて来てくれたの♪」
「そうか。起きたら、この子にもお礼を言わないとね…。」
「兄貴、この子達を寝かせてやってくれよ。いろいろあって疲れてるんだ。」
「そうだね。よく頑張ったな…。えらいぞ、二人とも。」
「もちろん、ラジーナは寝返りうたせないように、ハンモックで寝かせるわ。
今回も多分、寝返りで窓から出て言っちゃったんだと思うから…。」
「…兄貴。俺達、噂を聞きつけて、自警団に参加しにここに来たんだ。
兄貴達も、ラジーナちゃんも、優しいここの皆も、全員守りたいからね。」
「そう。悪いやつらに、ここの人たちを傷つけさせたりしないんだから♪」
「ハハ、頼もしいな…。でも、どんな事があっても、絶対無理はするなよ?
お前達が傷ついたら、ラジーナが悲しむからな。」
「大丈夫だよ。何たって俺は、悪党が恐れる『ルドベギアの使者』なんだぜ?」
「そうね…。無理しないように頑張ってね。…さあ、二人を寝かさないと。」
「ああ。それじゃ、明日はこの二人から、冒険の話を聞かせてもらおうかな…。」
こうして、ラジーナちゃんの冒険は終わりました。
色々と新しい経験をしたことで、ラジーナちゃんも少し成長したことでしょう。
新しく出来たお友達と一緒にハンモックで揺られながら、
ラジーナちゃんは、今度は夢の世界を冒険するのでした…。
名前をラジーナちゃんといい、保育園に通っています。
保育園のお友達と話すことがちょっと苦手だったラジーナちゃんは、
ある日、夢に出てくるお友達と本当に出会って、大の仲良しになることができました。
そこからどんどんお友達が増えていって、お昼寝のほかにも大好きなことができたので、
保育園に行くのも毎日楽しみです。
そんなラジーナちゃんですが、実は寝相がすごく悪いので、
寝ているときに壷ごとゴロゴロと転がっていってしまいます。
そのために、ラジーナちゃんは、小さな冒険をすることになってしまうのでした…
その日はパパとママのお店がお休みの日。パパとママはお買い物に行ったので、
ラジーナちゃんはお家でお昼寝をしていたのですが……
「すぅ…すぅ……んんっ、もうおなかいっぱい…」
よくある寝言をつぶやきながら、壷の中で穏やかな寝息を立てています。
しかし、そんなラジーナちゃんの様子とは違い、壷はゴロゴロと部屋中を転がっています。
ところでラジーナちゃんの家には、庭に出られる大きな窓があるのですが、
その日はちょっと暑かったので、ラジーナちゃんはその窓を開けっ放しにしたまま
お昼寝をしてしまったのです。
そのせいで、ラジーナちゃんの壷は窓から外に出て、そのままゴロゴロと
遠くへ転がっていってしまいました。
庭を出て…住んでいる町を通り抜け…坂道を転がり落ち…どんどん遠くへ…そして……
「う〜ん…ふぁ……」
ラジーナちゃんが起きると、そこには全く知らない風景が広がっていたのでした。
「えっ、ここは…どこ?まだ、夢の中なのかな…」
そこは、見渡す限りの暗い森です。大人ですら不安になるような場所なのですから、
子供のラジーナちゃんだったらなおさらです。
「そうだ、ミナちゃんから貰った腕輪が…」
夢の中で出会った、ラジーナちゃんの一番のお友達のミナちゃんは、
ラジーナちゃんに、悪い夢から守ってくれる不思議な腕輪をくれました。
でも、今いるこの場所が夢の中だとしたら、これは間違いなく悪い夢です。
今ではいつもつけているこの腕輪が守ってくれないことが、
これが夢ではないという一番の証拠なのでした。
「そんな…!やだやだっ、ここどこなの!?パパ、ママ、どこにいるの!?
やだよぉっ、助けて、パパ!ママぁ!!」
いくら大きな声を出しても、もちろんパパやママには届きません。
そんな時、風が吹いたのか、動物がいるのか、茂みがガサガサと音を立てます。
「キャァァァァッ!!やだぁぁぁぁッ!!!」
とうとう、恐ろしさに耐え切れなくなり、ラジーナちゃんは泣きながら走り出しました。
何度も転んで服を汚しながら、ラジーナちゃんは森を必死に逃げ続けます…
ドンッ!!
突然、ラジーナちゃんは何かにぶつかりました。木ではないようですが…
「いたぁい…だ、誰ッ!?」
「ぐぐ…それはこちらの台詞だッ!!この我にぶつかって来るとは、命知らずめ…」
それは、頭から角を生やして、大きな爪と翼を持ったお姉さんでした。
「ご、ごめんなさい…あたし、ここがどこか分からなくて……ぐすっ…」
「なんだ、迷子なのか?お前のような子供が、こんな深い森に何の用がある?」
「えっと…お家でお昼寝してて、起きたらここにいたの…。」
「何ィ?…にわかには信じがたいが……嘘をついているようにも見えんな…」
「お姉さん、ここはどこなの?」
「ここは反魔物領の近くの森だ。奴らに見つからなかったのは幸運だったな…」
「やつら?はんまものりょう?それって何?」
「反魔物領とは簡単に言えば、我やお前のような魔物達を嫌っている連中がいる所だ。
そこに住む奴らに見つかったら、恐ろしい目に合わされる事だろう。
なにしろ奴らは、お前のような幼い子供にも容赦はしない。一切な。
我ならあんな連中一捻りなんだが、お前だったら、恐らく……」
「…!!!いやぁ、怖いよぉっ…!うぇぇぇん…」
「す、すまない。怯えさせるつもりはなかったのだが………そうだ!
我がお前の家まで送り届けてやろう。だから泣くのはやめろ、な?」
さすがに「地上の王者」ドラゴンも、泣いている小さな子供にはかないません。
ラジーナちゃんもようやく安心したようです。
「本当!?お姉さん!」
「ああ。関わった以上、無視もできんしな。お前の名は何という?」
「あたしの名前?ラジーナっていうの。お姉さんは?」
「我が名はゴールディ。それでは、こんな森に長居は無用だ。行くぞ!」
そう言うと、ゴールディさんはラジーナちゃんを抱えて、翼を羽ばたかせました。
見る見るうちに地面が遠ざかっていきます…
「すごぉい…お姉さん、空飛べるの?」
「我はドラゴンだ。子供一人抱えて飛ぶなど造作も無い事よ。
それで、お前の家だが…ここから、何処にあるか分かるか?」
「……わかんない。」
「そうか…。では、お前の住む場所の名は?」
「う〜ん……え〜と………ごめんなさい。忘れちゃった…。」
「むむ…。やはり、お前を知っている誰かに聞く他ないか?
幼い子供と言えば…やはりあそこか。気乗りはせんが、仕方あるまい…」
「…それで、私の所に来たというわけぢゃな?」
「ああ、そうだ。そうでもなければ、こんな所来てやるものか!」
「そう言われてものぉ〜…我々のサバトには、こんな子は居らぬし……」
「あれっ、バフォ様…だよね?よく保育園に来る…」
「恐らく人違いぢゃ。しかし、このまま帰すのも、ちと可哀想ぢゃの…
お主の住む町の特徴を言ってみるがよい。どんな所だとか、こんな建物があるとか。
ひょっとしたら、何か分かるやも知れぬ。」
「うん…わかった。えっと…魔界の近くにあって…大きな時計台があって…
町のみんなが仲良しなの!」
「うむ。他には?」
「時計台の前に広場があって…近くの魔界の中に青空保育園があって…
あたしのお家は、町でお花屋さんやってるの。『鈴蘭』っていう…」
「なるほどのぉ。鈴蘭………鈴蘭ぢゃと!?お主、名前は?」
「ラジーナ=リウルフっていうの。」
「おおッ、やはりそうか!お主、ジャグ=リウルフを知っているか!?」
「うん。あたしの叔父さんだよ。それがどうかしたの?」
「奴は私の親友ぢゃよ。ココに寄る度、お前の事を楽しそうに話しておったわい。
見所のある嫁が居るというに、サバトには入ってくれんかったがの…。
ついこの前まで、この辺りにおったわ。どれ…レイチェル!レイチェルは居らぬか!」
バフォメット様がそう呼ぶと、小さなワーウルフの女の子が部屋に入ってきました。
「は〜い。何の御用ですかぁ?」
「うむ、実はな。ジャグの姪っ子が迷子になってしまった様ぢゃから、
お主にジャグ達の匂いを嗅ぎ分け、この子を連れて行って欲しいのぢゃ。」
「了解ですッ!このレイチェル、命に代えてもッ!」
「命賭ける事もないぢゃろ…まあとにかく、ラジーナよ、レイチェルに付いて行くがよい。
まだそんなに遠くまでは行っておらんはずぢゃ。」
「うん。わかったよ…ふふっ♪」
「どうしたのぢゃ?」
「ヤギさんにオオカミさんって、まるで絵本みたいだなぁって思って…」
「あぁ、7匹の子ヤギがオオカミを(性的に)懲らしめる話の事ぢゃな?」
「そうだよ。バフォメットさんもそのお話好きなの?」
「ホッホッホ、何を隠そう、その話に出てくる子ヤギの内の一人はこの私の母上で、
レイチェルはそのオオカミの孫の孫ぢゃからの。知ってて当然ぢゃよ。」
「すごい…!本当なの?」
「本当に本当ぢゃよ。その時の家も、まだこの町に残っておる。
見せてやりたい所なんぢゃが…そんな時間は無いようぢゃ。すまんの。」
「ホントなんだ…。今度、保育園のみんなに教えてあげよう!」
「ホッホ…さあ、もう行くのぢゃ。お主の両親も心配しておるぞ。」
「うん、ありがとうバフォメット様!あ、そうだ。お名前教えてくれる?」
「私の名はアイヴォリー=ゴーティーぢゃ、覚えておくがよいぞ。」
「それじゃあね、アイヴォリーさん!」
「それでは行って参ります、アイヴォリー様!!」
「うむ。あ、それとあと一つ!
お主が大人になった時、もう一度子供に戻りたいと思うようになったのならば、
私のサバトを訪ねるがよい。ステキな世界が待っておるぞ♪では、さらばぢゃ!」
さすがはサバトのリーダー。こんな小さい子にも、勧誘は忘れません。
そしてラジーナちゃんとレイチェルさんは、叔父さん達を目指して出発したのでした…。
「……途中から我を完全に無視していたな。貴様ら…」
「おや、まだ居ったのか?ゴールディ。」
「居ったのか、じゃないッ!…ところで、二人だけで大丈夫か?我も一緒に行った方が…」
「大丈夫ぢゃ。この辺りは結構安全ぢゃし、護衛など要らんぢゃろ。
…それに、もし万一のことがあったとしても、心配はいらんわい。」
「何故だ?」
「困っている者の気配を感じれば、たとえ千里離れた所からでも飛んで来るのが
あの男ぢゃからな…。というわけで、何の心配もいらん。
ほれ、お前は用済みぢゃ、もう帰ってよいぞ。シッシッ。」
「何だと、この****な若作りババアめッ!この前も貴様ときたら…」
「これ、声がでかいわ。ラジーナ達に汚い言葉が聞こえてしまうぞ?」
「ぐぐ……ッ、いつか絶対コロス…」
もうそろそろ暗くなってきた頃、レイチェルさんはラジーナちゃんを連れて、
あの森ほどではないけれど、それなりに深い森を歩いていました。
色々なお話をしながら歩いているので、今度はちっとも怖くありません。
「匂いがどんどん強くなってきてる…もうすぐだよ。ラジーナちゃん。」
「ホント!?早く会いたいなぁ、叔父さんと叔母さん…」
しかし…その時、二人の男が、ラジーナちゃん達の前に現れたのです。
「おっ、兄者。こんな所に魔物のガキが…」
「おおッ、こいつは見っけモンだな。神様ありがとう…ってか?」
「どうする、兄者?」
「見たところこいつらだけの様だし、決まっているだろう。ん?」
「ガキは貴重だものなぁ。いい値で売れるぜ、こいつぁ!」
「その前に、最近女も抱いてないし、ちょっと味見するのもまた良し、か?」
「そうっすね、へへ…」
男達は、不気味な笑いを浮かべながら、ラジーナちゃん達に近づいてきます。
二人はすぐに、この人たちは悪い人だとわかりました。
「こ、怖い…」
「うぅ…く、来るな!私はお前達なんか…!」
そうは言っても、二人は体も心もまだ子供。恐怖には勝てず、後ずさるばかりです…
「お前達なんか、何だぁ?口ではそう言っても、体は正直だぜ?」
「弟よ、その台詞は使い所がちがうぞ?ククク…」
そのうち二人は、後ろにあった木にぶつかり、逃げられなくなってしまいました。
「さあ、観念するんだな。へへへ…」
「なぁに、ヤられようが売られようが、怖いのは最初だけよ…。」
「あぅぅ…」
「くぅっ……う、」
「「うわぁぁぁぁッ!!」」
追い詰められた二人は、必死に反撃を試みました。
ラジーナちゃんは壷に入って転がり、そのまま体当たりを仕掛け、
レイチェルさんは、爪で二人の顔を思いっきり引っかきます。
「ぐあっ!?て、てめえらっ…!!」
「その程度で、俺達が倒せるとでも思ったのか?クク…」
しかし、子供二人の力では、全くかないません。
ラジーナちゃん達は、ついに取り押さえられてしまいました……。
「俺の顔に傷つけやがって…お前ら二人とも、この10倍はボロボロにしてやるっ!!」
「どうでもいいが、壊しきるなよ?売れなくなるからな…」
「やぁぁ…!!」
「放せ、放せぇッ!!!」
もはやこれまでか…そう思った時、どこからともなく金属の棒が延びてきて、
男達の頭に直撃しました。彼らがひるんだ隙に、二人はすばやく逃げ出します。
「ぐうぁぁ……いってぇ…」
「ヌグオォォ…だ、誰だこの野郎ッ!」
「こんな時間に、怯える小さな女の子に襲い掛かってるお前達こそ誰だこの野郎ッ!!」
「服装を見る限り、真っ当に生活してる人とは思えないわねぇ…。」
棒の持ち主は、宝箱に入った女の人を連れた、旅のための服装をした男の人でした。
ラジーナちゃん達は、すぐさま二人の後ろに逃げ込みます。
「ん?あっ、お前らは、この前俺が壊滅させた盗賊団の残党かッ!
あの時二人だけ逃げ出したと思ったら、こんな所に潜伏していたのか!?」
「あなた、台詞が説明くさい…でも、やっと見つけたわ♪」
「あ、あっ…お前は『ルドベギアの使者』……!お前らこそ、何でここに居るんだ!?
「…クソッ!弟よ、あの時のように、ここは逃げの一手だ!」
「おーっと、今度は逃がさないからね……♪『Aweamo-Oreteribihs』!!」
女の人が呪文を唱えると、二人組みの弟のほうの動きが止まりました。
兄のほうは、咄嗟に弟を抱えてなおも逃げようとしています。
ただの悪人かと思ったら、兄弟愛は一応あるようです。
しかし、当然そんな事だけでは見逃す理由には出来ません。
兄のほうも、男の人の持っていた棒で足を払われ、倒れてしまいました。
そして男の人は、すぐに二人を取り押さえ、武器を奪って縛り上げ、
ついでにサラサラと手紙を書き上げて二人の足元に置きました。
「これでよし、っと。町に戻るのも手間がかかるから、このままにしておこう。
後は巡回してる自警団か、冒険者か、森の魔物達か…
とりあえず、見つけた誰かが何とかしてくれるだろ。」
どうやら、もう安全になったようです。
緊張が解けたラジーナちゃん達は、泣きながら男の人に飛びつきました。
「よしよし、怖かったね、よく頑張ったね…。」
「うぅ、ひくっ、ありがとうございます…!」
「うえぇぇん……えくっ…?…あ、あれ?もしかして…叔父さんと叔母さん!?」
「ええッ!?あっ、本当!ジャグさんにキューブさんだ!!」
「ラジーナちゃん…!?レイチェルちゃんまで、どうしてこんな所にいるの!?」
ラジーナちゃんは、ジャグさん達と一緒に歩きながら、これまでの事を話しました。
「寝て起きたら…か。起きた時一人だったなら、誘拐ってわけでもなさそうだし…
不思議だな。一体どうしたんだろう…?」
「それにしても、よくもまあそんな所まで来たね…。
あなたの街からあそこまで、子供の足だと二日ぐらい…いやもっとかかる筈なのに…。
ドラゴンさんが見つけてくれて、本当に良かったね♪」
「うん…。ところで、叔父さんたちはどこに行くの?」
「俺達は今から、君の住んでる所にいくところだよ。
最近、保育園やその周りの土地に、さっきの男達…いや、もしかしたら
それよりももっと悪い人がいっぱい集まっていて、とても危ないらしいんだ。
だから、俺達はそこの皆を守るために、自警団に参加しようと思ってね。」
「へぇ〜…」
「二人とも、これからは暗くなったら、お外に出ちゃダメよ。わかった?」
「「はーい!」」
「よろしい♪もうすぐ町に着くから、もうちょっとだけ頑張ってね♪」
そんな時、ラジーナちゃん達のお腹が、大きな音を立てました。
気づけばもう辺りはほとんど夜。晩ごはんの時間です。四人はちょっと休憩し、
キューブさんが作ったお弁当を食べることにしました。
「「おいしい〜!!」」
「やっぱり、キューブのお弁当は大したもんだよ、うん…!」
「ありがとう、皆♪ちょっと作りすぎちゃったから、二人が来てくれて丁度良かったわ♪」
「あぁ…やっぱり子供と一緒に食べるのって、いいよなぁ…」
「ふふっ♪…ねえ、あなた。ラジーナちゃん達もいいけれど、
もうそろそろ……『私達の』子供が欲しくない?」
「そうだなぁ…。貯金もあるし、今度の自警団の仕事が片付いたら、子供を作って、
兄貴達の町かどこかに腰を落ち着けるのもいいかもなぁ……」
「本当ッ!?やった♪楽しみにしてるからね!」
「あの、レイチェルさん…」
「なあに?ラジーナちゃん。」
「あたしと…お友達になってください。」
「うん、いいよ。これからも宜しくね!」
「…これからも、かぁ……。ねえ、レイチェルさん。
「あたしがお家に帰れたら…やっぱり、レイチェルさんも帰っちゃうの?」
「…うん。私もお家があるし、家族やサバトの皆がいるから。」
「そっかぁ…ちょっと寂しいな…」
「きっとまた会えるよ。手紙とか、気持ちを伝えられる方法もいっぱいあるから。
離れてても、ずっとさよならって訳じゃないの。お互いの事を友達だと思っていれば、
いつまでも、ずー…っと、お友達でいられるんだよ。」
「そうだよね!よかった…。ありがとう、レイチェルさん!」
「どういたしまして!」
「…ん……ふあぁぁ〜……。」
「…?ラジーナちゃん、もしかして…眠いの?」
「うん…、ごめんね。ちょっと疲れちゃって……」
「私も、ちょっと眠くなって来ちゃったな…ふぁ…。」
今日一日で色んなことがあったので、ラジーナちゃん達は疲れてしまったようです。
「あら、二人とも、すっかり眠くなっちゃったみたいね…。」
「この二人にとっては、きっと大冒険だったんだろうな…、疲れもするか。」
「町まであとちょっとだし、私たちで『鈴蘭』までおんぶしてあげましょ?」
「そうだな…。二人とも、ここまでよく頑張ったね。
俺達がおんぶして連れて行ってあげるから、こっちにおいで。」
「「は〜い…」」
ジャグさんがラジーナちゃんを、キューブさんがレイチェルさんをおんぶして、
四人は残りの道を進みだしました。そしてお月様がかなり高くまで来た頃、
ようやく、ラジーナちゃんの住む町が見えてきました。
「ほら、見えるかい?あとちょっとだよ……って、もう寝ちゃってるか。」
「すぅ…ん、むにゃ…」
「くぅ…くぅ…」
「あらあら、レイチェルちゃんも寝ちゃってる…。」
「……しかしラジーナちゃん、やっぱり寝相が悪いな。
転がる代わりに、手足がバタバタ暴れてるよ。寝息は静かなのにな…。」
「お義姉さんゆずりだね…。お義兄さんに聞いたけど、確かお義姉さん、
寝てる間に海越えて、隣の大陸に流れ着いた事まであったんだって?凄すぎるよね…」
「ああ、そんな話もしてたっけな。…まさか、この子があんな遠くまで来たのも……。」
そして、四人はついにラジーナちゃんの町にたどり着くことが出来たのでした。
しかし、何か様子が変です。大人たちがあちこち走り回って、
まるで誰かを探しているような…。そんな時、大きくてヒゲの生えたオジサンが
ジャグさんを見つけ、駆け寄ってきました。
「あっ、ジャグさんじゃねえかッ!それに、この子…!
おーい、皆ァァ!!トップさんとこの嬢ちゃんが見つかったぞォォォッ!!!」
『えっ!?』『マジでか!』『良かったわぁ…』
「はぁ、見つかってよかった…。トップさん達が『ラジーナがいない』ってんで、
もんのすごい必死に町中を探し回っててなぁ。皆あの一家には良くしてもらってるし、
俺達も手分けして町や周りを探してた所だったのよ。」
「やっぱりそうだったんですか…。」
「最近は、この辺りがやたら物騒らしいからなァ。
皆、誰かに誘拐されたのかって事も考えてたんだが…まあ無事でよかったぜ。」
「俺達もこの辺りを守りたいと思って、自警団に参加するために帰ってきたんですよ。」
「おお、そうだったのかッ!そいつは頼もしいこった。頑張ってくれよ!
…さ、早く嬢ちゃんをあの二人の所に連れて行ってやってくれや。案内するからよ。」
そして四人が案内された場所に来ると、トップさん夫婦が待っていました。
「ラジーナ…!!もう、皆に心配かけて…」
「まあまあ、無事に帰ってきたんだから、いいじゃないか。
それにしても、気持ちよさそうに寝てるね…。ありがとう、ジャグ。」
「気にしないでくれよ。俺もたまたま見つけたみたいなもんだし…」
「あれ?キューブちゃん、その子は?」
「この子が、アイヴォリーさんのサバトからラジーナちゃんを連れて、
ここに向かう私たちを追いかけて来てくれたの♪」
「そうか。起きたら、この子にもお礼を言わないとね…。」
「兄貴、この子達を寝かせてやってくれよ。いろいろあって疲れてるんだ。」
「そうだね。よく頑張ったな…。えらいぞ、二人とも。」
「もちろん、ラジーナは寝返りうたせないように、ハンモックで寝かせるわ。
今回も多分、寝返りで窓から出て言っちゃったんだと思うから…。」
「…兄貴。俺達、噂を聞きつけて、自警団に参加しにここに来たんだ。
兄貴達も、ラジーナちゃんも、優しいここの皆も、全員守りたいからね。」
「そう。悪いやつらに、ここの人たちを傷つけさせたりしないんだから♪」
「ハハ、頼もしいな…。でも、どんな事があっても、絶対無理はするなよ?
お前達が傷ついたら、ラジーナが悲しむからな。」
「大丈夫だよ。何たって俺は、悪党が恐れる『ルドベギアの使者』なんだぜ?」
「そうね…。無理しないように頑張ってね。…さあ、二人を寝かさないと。」
「ああ。それじゃ、明日はこの二人から、冒険の話を聞かせてもらおうかな…。」
こうして、ラジーナちゃんの冒険は終わりました。
色々と新しい経験をしたことで、ラジーナちゃんも少し成長したことでしょう。
新しく出来たお友達と一緒にハンモックで揺られながら、
ラジーナちゃんは、今度は夢の世界を冒険するのでした…。
10/10/03 21:01更新 / K助