武士の一分とマゴットセラピー
夜の闇の中を、羽を懸命に羽ばたかせ、必死に飛び回る物がいた。
ハエのような特徴を持つ、ベルゼブブという魔物娘である。
「いないぞ！そっちは！？」
「ダメだ！クッソ、あのアマ…絶対に見つけ出して殺す！」
「いっそ火でも放ってみるか？」
「ダメだ、近くのやつらに俺たちの正体がばれる！」
（逃げなくちゃ…、逃げなくちゃ…）
見るからに堅気の者ではなさそうな追っ手から、一心不乱に逃げる女。
（この子は…あいつの子は、アタシが守るんだから…）
…その女の腹は、すこし膨らんでいた。
所変わって、ここはある城の一室。
その特徴的な建築様式や、庭園の姿から、この国が東方のジパングであることが分かる。
その城の主に仕える彼は、丁度朝食に手をつけようとしていた。
（ブ〜〜ン…）
「…ハエ、か？それにしては音が大きいような…」
（ブブブ…）
「……そこかッ！！」
（パシッ！）
「ッ！！！？？」
男は、音の主を、器用に箸で捕まえた。
「何？ハエ…いや、女！？」
「い、嫌ァッ！離して、離してよぉッ！！」
「貴様、あやかし…か？なにゆえこのような所に…
…もしや、殿のお命を狙う者か！？何か申してみよッ！」
「離し…え、トノ…？何それ？」
「しらばっくれるでないッ！斬って捨てるぞ！」
「本当に知らないわよ、その『トノ』とやらの事なんて…」
「…ならば、なにゆえここに入った？」
「ねえ、あなた、奴らの仲間じゃ…ないの？」
「奴らとは何だ？私は、殿に仕え、殿のお命を守る為の剣客。
それ以外の何者でもない。」
「そうなの…ごめんなさい。アタシ、昨日の夜から必死に逃げてて、
すごくお腹が減ってて…それで、いい匂いに釣られて、つい…」
そう言うと女の腹からは、大きな音が上がった。
「その様子ではどうやら、本当に刺客ではなさそうだな…すまぬ。
朝餉は馳走いたす故、何があったか話してくれぬか？」
「うん…」
そして朝食を食べながら、彼女は語りだした。
「アタシは少し前まで、田舎の村で暮らしてたの。
人間も魔物に優しくしてくれる、平和な村だったわ…
その村でアタシは結婚して、赤ちゃんもできて…でも、それは突然終わった。
ある日、アタシの村に、有名な盗賊団が襲ってきたの。
村は焼かれ、男は殺され、女は奴隷商人に売り飛ばされた。
アタシは、どこだったかの遠い国の貴族に買われる予定だったらしいの。
そのために船に乗せられて、食料とかを買うためにここの港に立ち寄ったところを、
隙を見て逃げ出して…お腹が減ってた所で、ここに入ったんだ。」
「そのようなことが…難儀であったな。」
「…そういえば、ここは何処なの？あんな城や木は見たことがないわ…」
「ここか。ここは…そなたのような異国の者が、『ジパング』と呼んでいる国だ。
そしてこの城は、この辺りを治めている領主殿がいる城だ。」
「へぇ、ここがあのジパング…」
「あの…悪いんだけど、ここにかくまってもらえない？
何でもするから…あいつらに捕まったら、私…」
「……大変すまぬが…それは出来ぬ。私には妻もいるし、
事情があるとはいえ、部外者をいきなりこの城に置くわけにはいかぬ。
殿は民の為になる政治を行っている、心優しいお方なのだが…
それを快く思わぬものも多くあり、そやつらが殿のお命を狙っているため、
今城内はとても緊張しているのだ…」
「そうなの…。」
「だが、このまま捨て置くわけには行かぬな。…そうだ、
今、妻の家で身の回りを世話してくれている婆さんがいるのだが、
そこに相談してみよう。力になってくれるやも知れぬ。」
「…！ありがとう…！」
すると緊張が切れたのか、突然、女は泣き出した。
「ううっ、えぐっ、うぇぇぇぇ…」
「こ、こら！何故泣く？」
「旦那が殺されてから、ずっと辛くて…えぐっ、怖くて…
売られたら…何されるか分からなくて…もしかしたら、
お腹の赤ちゃんが殺されちゃうかも…って思って…」
「そうか…それを、そなたは耐えてきたのか。強いな…母というものは。
思いっきり泣くと良い。泣き終えたら、婆さんの所へ連れて行ってやろう。」
「うん…」
その後、二人は妻の家に行き、老婆に事情を説明した。
老婆は口は悪いが、偏見のない優しい心根の人間であり、
妊婦でも出来るような仕事を行うことを条件に、
自分の家に同居することを許してくれたのだった。
そして二、三年が過ぎた。
女は無事に娘を出産し、老婆の家の近くに家を借り、平穏に暮らしていた。
その日、女は夕飯に使う山菜を取るために、娘と共に森に入っていたのだが…
「ふぅ…これだけ取れれば大丈夫ね。」
「うん！」
「さあ、お家に帰りましょう。」
「はーい…！？お、お母さん、あれ何！？」
「えっ…！！小屋の焼け跡だわ…誰の小屋かしら？」
『ううっ…』
「お母さん、ちかくにだれかいるよ！」
「あの家の人かも…」
二人はすぐさま、声のするほうに向かった。
「！！！あ…あなたは！？」
「おかあさん、しってるの！？」
「昔、お母さんを助けてくれた人よ…！
ねえ、あなた、どうしてこんな所に？それにその傷は、一体…！？」
男は、打撲や切り傷、そしてひどい火傷があった。
その火傷は、時間が経っているのか、膿み始めている。
「ああ、そなたか…子供は…ぶ、無事に、生まれ…たようだな…
うっ、こ、の様な姿で、申しわ…訳ない…ッ…」
「ねえ、何があったの！？」
すでに虫の息の男は、消えそうな声で、途切れ途切れに語りだした…
その内容とは、こうである。
殿の命を狙う輩にとって、男は何よりも邪魔な存在であった。
彼らはまず、殿より先に男を殺すために、一計を案じた。
男の妻を人質に、男を森の中の小屋に呼び寄せたのだ。
彼らの思惑通りに、男は挑発に乗ってやってきたのだが、
…彼の目に飛び込んできたものは、愛する妻の屍であった。
彼らにとって男の妻は、男をおびき寄せるための「餌」に過ぎなかった。
男が動き出したならば、妻はもはや用済み…とばかりに、
彼らは男の妻を散々嬲り、犯しぬき、むごたらしく殺したのだった。
その後彼らは、男が小屋に入った後、すかさず戸口を塞いで小屋に火を付けた。
男は、全身に火傷を負いながら何とか抜け出したのだが、
妻の屍は持ち出すことが出来ず、そのまま小屋と共に焼けてしまった。
普通はは人質をとって人を呼び寄せる際に、自分たちの安全の為に
武器を持っていくな、等の警告をするはずだが、彼らはそれをしなかった。
なぜなら男の持つ刀は、とある伝説的な刀鍛冶が作り上げたと言われている
世に二つとない名刀で、とても価値のあるものだったらしく、男を焼き殺した後に、
焼け跡から探し出して手に入れようと考えていたのだったが…それが仇となった。
まさか妻を惨殺されて茫然自失状態の男が、燃え盛る小屋から脱出してくるとは
思っていなかったらしく、彼らは小屋のそばで見物を決め込んでいたのだった。
そして男は、全身に負った火傷の痛みに耐えながら、
脱出してきたことに驚き、混乱する彼らと戦って何とか全員倒したのだが…、
そこで精根尽き果て、動けなくなっていたのだった。
「ひどい…そんなことが…。
とりあえず、私たちの家に連れて行くわ、そこで治療を…」
「それ…は…な……らぬ…！」
「どうしてッ！？」
「大切な者も…守れずに、ど、どうして殿の命を守ることが…出来ようか。
わた、し、だけ生き延びて…醜態を晒す…など、この上ないッ…恥…
このまま、妻の所へ…向かわせて…くれ…」
「ダメ！！」
「！？」
「アタシだって、夫を殺されて、それでも生きているのよ！
貴方が助けてくれたから！貴方が優しくしてくれたから！
だからアタシはこうして生きていられるの！それなのに、
どうして自分の命は簡単に捨てちゃうの！？」
「………。」
「死んじゃったら、もう何も出来ないのよ！？
それ以上の幸せが掴めるかもしれないじゃない！
見ず知らずのアタシを助けてくれたような優しい貴方は、
こんな所で、悲しいまま死んでいっていい人間じゃない！！」
「…私は……」
「だから今度は、アタシ達が、貴方を助ける番。
さあ、掴まって。アタシの家に行くわよ！」
彼女とその娘は、彼を掴んだまま、全力で飛んで家に運び込んだ。
「さあ、着いたわ…」
「そうか…しか、し、これだけの…火傷を、ど…どう治療する気なのだ？
どん、な医者だろ…うと、ぐぐっ…この傷には…匙を、投げるぞ…」
「アタシの夫は、お医者さんだったの。彼が言っていたんだけど、
火傷を放って置いたら腐って酷くなるのは、体の一部が死んでいるから
なんですって。それでね、ベルゼブブの子供の唾液には、
体の死んでいる部分だけを溶かす効果があるらしいの。
だから、アタシの子供にその傷を舐めさせれば、傷は早く治るはずよ。」
「そうか…。し、しかし、幼い子供が…そのよう…な物、を口にして、
病気にな、なったりはしな…いだろうか？」
「平気よ。ベルゼブブはハエの魔物…そういう物は、むしろご馳走よ？
さあ、時間がないわ…お願いね。」
「はーい、まかせて！」
そして彼女の娘は、男の着物を脱がせると、
全身をくまなくペロペロと舐め始めた。
「あぁ…、だんだん痛みが消えてゆく…
異国の医学というものは、すごい効果だな…」
「傷が完全に治るまで、その子に舐めてもらうわ。
アタシは、お粥とか作ってきてあげる。待っててね。」
「かたじけない…。」
彼女は、部屋を出て台所へ向かった。
「幼い子にこんな事をさせてしまって…そなたにも、迷惑をかけるな…」
「ん、れろ…れろ…ううん、めいわくじゃないよ…
だって、おじさんのやけど…おいしいもん♪」
「お…美味しいのか？ならいいのだが…」
それから数日後、母娘の治療と看病により、
彼の傷は殆ど回復していた。
「すっかり良くなったわね…良かった。」
「ああ、これもそなた達のおかげ…本当にかたじけない。」
「それじゃ、アタシは仕事に行って来るから。」
「いってらっしゃーい！」
「…しかし、何日も舐め続けて、疲れぬか？」
「だいじょうぶだよ。…おじさん、すごく元気になったね。」
「ああ…。」
「…もうそろそろ、…しても、だいじょうぶだよね？」
「？どういう意味だね？」
すると突然、娘は、火傷がないはずの男の性器に舌を這わせだした。
「！！？？な、何を！？」
「わたしも、マモノだもん。こういうコト、してみたかったんだ♪」
「やめなさい！そ、そなたは、まだ年端も行かぬ子供ではないか！」
「にんげんだったら、まだ子どもかもしれないけど、
わたし、もう十ぶんおとなだもん。
おとこのひとの『セイ』はとってもおいしいから、
チャンスがあったらのんでみなさいって、
おかあさんがいってたの♪」
そういうと、娘は、もっと早く性器を舐め始めた。
「んむっ、ぷちゅっ、ふぅ、れろ、れろ…」
「う、うあぁっ、こら、これ以上は本当に駄目だ！こんなこと…」
「だめじゃないもん♪だって、ほんとにだめだったら、
なんでおじさんのおちんちん、おっきくなって、ぴくぴくしてるの？」
「そ、それは…！」
丁度その瞬間、仕事を終えた彼女が帰ってきた。
「ただいまぁ…って！？」
「ああ、帰って来てくれたのか、すまぬ、これはその…
とにかく、この子を止めてくれぬか！？」
「ええ、そうね…」
「えぇっ！？だめなの！？」
「あのね…、身近な人が死んだら、死んだ人のために、
そういうことはしないで、大人しくしていなきゃいけないの。
ジパングでは確か…４９日間だっけ？」
「うむ…。」
「だから、アタシも、そういう事するの自体は止めないけど、
その決まりは守らなくちゃダメ。今は我慢しなさい？」
「うん。ごめんなさい…」
「いや、分かってくれれば良いのだが…。
（…いや、今は、とはどういう意味だ！？）
彼は、一抹の不安を覚えた…
そして、無事傷は完治し、彼女の家を出る時が来た。
「本当に、世話になったな…。いつか必ず、礼をさせて頂こう。」
「…そういえば貴方、これからどうするつもりなの？」
「そうだな…そういえば、考えておらぬ。
殿は、寛大にも私のことを許してくださったから…
また、お仕えすることは出来ると思うのだが…。」
「だったら…、あたしと、その……」
「…？」
「結婚…してくれない？」
「………すまぬ。まだ気持ちの整理がついておらぬ故…
そういう事は、考えられぬのだ。」
「そう…じゃあ、待ってても…いい？」
「ああ。いつか、必ず、迎えに来よう…」
「ありがとう…じゃあ、またね。」
「またね！おじさん。ずっとまってるよ！
お母さんといっしょに！だから…いつか、ほんとに、
わたしのお父さんになってね！」
「…約束しよう。では、さらば！」
…そして、それから一年がたち、彼は約束を果たしにやってきた。
互いに大切なものを失い、そして、新しく大切なものを得た
夫婦とその娘の絆は、もう二度と断ち切られることなく、
たくさんの子供を作り、末永く、幸せに暮らしたという………
ハエのような特徴を持つ、ベルゼブブという魔物娘である。
「いないぞ！そっちは！？」
「ダメだ！クッソ、あのアマ…絶対に見つけ出して殺す！」
「いっそ火でも放ってみるか？」
「ダメだ、近くのやつらに俺たちの正体がばれる！」
（逃げなくちゃ…、逃げなくちゃ…）
見るからに堅気の者ではなさそうな追っ手から、一心不乱に逃げる女。
（この子は…あいつの子は、アタシが守るんだから…）
…その女の腹は、すこし膨らんでいた。
所変わって、ここはある城の一室。
その特徴的な建築様式や、庭園の姿から、この国が東方のジパングであることが分かる。
その城の主に仕える彼は、丁度朝食に手をつけようとしていた。
（ブ〜〜ン…）
「…ハエ、か？それにしては音が大きいような…」
（ブブブ…）
「……そこかッ！！」
（パシッ！）
「ッ！！！？？」
男は、音の主を、器用に箸で捕まえた。
「何？ハエ…いや、女！？」
「い、嫌ァッ！離して、離してよぉッ！！」
「貴様、あやかし…か？なにゆえこのような所に…
…もしや、殿のお命を狙う者か！？何か申してみよッ！」
「離し…え、トノ…？何それ？」
「しらばっくれるでないッ！斬って捨てるぞ！」
「本当に知らないわよ、その『トノ』とやらの事なんて…」
「…ならば、なにゆえここに入った？」
「ねえ、あなた、奴らの仲間じゃ…ないの？」
「奴らとは何だ？私は、殿に仕え、殿のお命を守る為の剣客。
それ以外の何者でもない。」
「そうなの…ごめんなさい。アタシ、昨日の夜から必死に逃げてて、
すごくお腹が減ってて…それで、いい匂いに釣られて、つい…」
そう言うと女の腹からは、大きな音が上がった。
「その様子ではどうやら、本当に刺客ではなさそうだな…すまぬ。
朝餉は馳走いたす故、何があったか話してくれぬか？」
「うん…」
そして朝食を食べながら、彼女は語りだした。
「アタシは少し前まで、田舎の村で暮らしてたの。
人間も魔物に優しくしてくれる、平和な村だったわ…
その村でアタシは結婚して、赤ちゃんもできて…でも、それは突然終わった。
ある日、アタシの村に、有名な盗賊団が襲ってきたの。
村は焼かれ、男は殺され、女は奴隷商人に売り飛ばされた。
アタシは、どこだったかの遠い国の貴族に買われる予定だったらしいの。
そのために船に乗せられて、食料とかを買うためにここの港に立ち寄ったところを、
隙を見て逃げ出して…お腹が減ってた所で、ここに入ったんだ。」
「そのようなことが…難儀であったな。」
「…そういえば、ここは何処なの？あんな城や木は見たことがないわ…」
「ここか。ここは…そなたのような異国の者が、『ジパング』と呼んでいる国だ。
そしてこの城は、この辺りを治めている領主殿がいる城だ。」
「へぇ、ここがあのジパング…」
「あの…悪いんだけど、ここにかくまってもらえない？
何でもするから…あいつらに捕まったら、私…」
「……大変すまぬが…それは出来ぬ。私には妻もいるし、
事情があるとはいえ、部外者をいきなりこの城に置くわけにはいかぬ。
殿は民の為になる政治を行っている、心優しいお方なのだが…
それを快く思わぬものも多くあり、そやつらが殿のお命を狙っているため、
今城内はとても緊張しているのだ…」
「そうなの…。」
「だが、このまま捨て置くわけには行かぬな。…そうだ、
今、妻の家で身の回りを世話してくれている婆さんがいるのだが、
そこに相談してみよう。力になってくれるやも知れぬ。」
「…！ありがとう…！」
すると緊張が切れたのか、突然、女は泣き出した。
「ううっ、えぐっ、うぇぇぇぇ…」
「こ、こら！何故泣く？」
「旦那が殺されてから、ずっと辛くて…えぐっ、怖くて…
売られたら…何されるか分からなくて…もしかしたら、
お腹の赤ちゃんが殺されちゃうかも…って思って…」
「そうか…それを、そなたは耐えてきたのか。強いな…母というものは。
思いっきり泣くと良い。泣き終えたら、婆さんの所へ連れて行ってやろう。」
「うん…」
その後、二人は妻の家に行き、老婆に事情を説明した。
老婆は口は悪いが、偏見のない優しい心根の人間であり、
妊婦でも出来るような仕事を行うことを条件に、
自分の家に同居することを許してくれたのだった。
そして二、三年が過ぎた。
女は無事に娘を出産し、老婆の家の近くに家を借り、平穏に暮らしていた。
その日、女は夕飯に使う山菜を取るために、娘と共に森に入っていたのだが…
「ふぅ…これだけ取れれば大丈夫ね。」
「うん！」
「さあ、お家に帰りましょう。」
「はーい…！？お、お母さん、あれ何！？」
「えっ…！！小屋の焼け跡だわ…誰の小屋かしら？」
『ううっ…』
「お母さん、ちかくにだれかいるよ！」
「あの家の人かも…」
二人はすぐさま、声のするほうに向かった。
「！！！あ…あなたは！？」
「おかあさん、しってるの！？」
「昔、お母さんを助けてくれた人よ…！
ねえ、あなた、どうしてこんな所に？それにその傷は、一体…！？」
男は、打撲や切り傷、そしてひどい火傷があった。
その火傷は、時間が経っているのか、膿み始めている。
「ああ、そなたか…子供は…ぶ、無事に、生まれ…たようだな…
うっ、こ、の様な姿で、申しわ…訳ない…ッ…」
「ねえ、何があったの！？」
すでに虫の息の男は、消えそうな声で、途切れ途切れに語りだした…
その内容とは、こうである。
殿の命を狙う輩にとって、男は何よりも邪魔な存在であった。
彼らはまず、殿より先に男を殺すために、一計を案じた。
男の妻を人質に、男を森の中の小屋に呼び寄せたのだ。
彼らの思惑通りに、男は挑発に乗ってやってきたのだが、
…彼の目に飛び込んできたものは、愛する妻の屍であった。
彼らにとって男の妻は、男をおびき寄せるための「餌」に過ぎなかった。
男が動き出したならば、妻はもはや用済み…とばかりに、
彼らは男の妻を散々嬲り、犯しぬき、むごたらしく殺したのだった。
その後彼らは、男が小屋に入った後、すかさず戸口を塞いで小屋に火を付けた。
男は、全身に火傷を負いながら何とか抜け出したのだが、
妻の屍は持ち出すことが出来ず、そのまま小屋と共に焼けてしまった。
普通はは人質をとって人を呼び寄せる際に、自分たちの安全の為に
武器を持っていくな、等の警告をするはずだが、彼らはそれをしなかった。
なぜなら男の持つ刀は、とある伝説的な刀鍛冶が作り上げたと言われている
世に二つとない名刀で、とても価値のあるものだったらしく、男を焼き殺した後に、
焼け跡から探し出して手に入れようと考えていたのだったが…それが仇となった。
まさか妻を惨殺されて茫然自失状態の男が、燃え盛る小屋から脱出してくるとは
思っていなかったらしく、彼らは小屋のそばで見物を決め込んでいたのだった。
そして男は、全身に負った火傷の痛みに耐えながら、
脱出してきたことに驚き、混乱する彼らと戦って何とか全員倒したのだが…、
そこで精根尽き果て、動けなくなっていたのだった。
「ひどい…そんなことが…。
とりあえず、私たちの家に連れて行くわ、そこで治療を…」
「それ…は…な……らぬ…！」
「どうしてッ！？」
「大切な者も…守れずに、ど、どうして殿の命を守ることが…出来ようか。
わた、し、だけ生き延びて…醜態を晒す…など、この上ないッ…恥…
このまま、妻の所へ…向かわせて…くれ…」
「ダメ！！」
「！？」
「アタシだって、夫を殺されて、それでも生きているのよ！
貴方が助けてくれたから！貴方が優しくしてくれたから！
だからアタシはこうして生きていられるの！それなのに、
どうして自分の命は簡単に捨てちゃうの！？」
「………。」
「死んじゃったら、もう何も出来ないのよ！？
それ以上の幸せが掴めるかもしれないじゃない！
見ず知らずのアタシを助けてくれたような優しい貴方は、
こんな所で、悲しいまま死んでいっていい人間じゃない！！」
「…私は……」
「だから今度は、アタシ達が、貴方を助ける番。
さあ、掴まって。アタシの家に行くわよ！」
彼女とその娘は、彼を掴んだまま、全力で飛んで家に運び込んだ。
「さあ、着いたわ…」
「そうか…しか、し、これだけの…火傷を、ど…どう治療する気なのだ？
どん、な医者だろ…うと、ぐぐっ…この傷には…匙を、投げるぞ…」
「アタシの夫は、お医者さんだったの。彼が言っていたんだけど、
火傷を放って置いたら腐って酷くなるのは、体の一部が死んでいるから
なんですって。それでね、ベルゼブブの子供の唾液には、
体の死んでいる部分だけを溶かす効果があるらしいの。
だから、アタシの子供にその傷を舐めさせれば、傷は早く治るはずよ。」
「そうか…。し、しかし、幼い子供が…そのよう…な物、を口にして、
病気にな、なったりはしな…いだろうか？」
「平気よ。ベルゼブブはハエの魔物…そういう物は、むしろご馳走よ？
さあ、時間がないわ…お願いね。」
「はーい、まかせて！」
そして彼女の娘は、男の着物を脱がせると、
全身をくまなくペロペロと舐め始めた。
「あぁ…、だんだん痛みが消えてゆく…
異国の医学というものは、すごい効果だな…」
「傷が完全に治るまで、その子に舐めてもらうわ。
アタシは、お粥とか作ってきてあげる。待っててね。」
「かたじけない…。」
彼女は、部屋を出て台所へ向かった。
「幼い子にこんな事をさせてしまって…そなたにも、迷惑をかけるな…」
「ん、れろ…れろ…ううん、めいわくじゃないよ…
だって、おじさんのやけど…おいしいもん♪」
「お…美味しいのか？ならいいのだが…」
それから数日後、母娘の治療と看病により、
彼の傷は殆ど回復していた。
「すっかり良くなったわね…良かった。」
「ああ、これもそなた達のおかげ…本当にかたじけない。」
「それじゃ、アタシは仕事に行って来るから。」
「いってらっしゃーい！」
「…しかし、何日も舐め続けて、疲れぬか？」
「だいじょうぶだよ。…おじさん、すごく元気になったね。」
「ああ…。」
「…もうそろそろ、…しても、だいじょうぶだよね？」
「？どういう意味だね？」
すると突然、娘は、火傷がないはずの男の性器に舌を這わせだした。
「！！？？な、何を！？」
「わたしも、マモノだもん。こういうコト、してみたかったんだ♪」
「やめなさい！そ、そなたは、まだ年端も行かぬ子供ではないか！」
「にんげんだったら、まだ子どもかもしれないけど、
わたし、もう十ぶんおとなだもん。
おとこのひとの『セイ』はとってもおいしいから、
チャンスがあったらのんでみなさいって、
おかあさんがいってたの♪」
そういうと、娘は、もっと早く性器を舐め始めた。
「んむっ、ぷちゅっ、ふぅ、れろ、れろ…」
「う、うあぁっ、こら、これ以上は本当に駄目だ！こんなこと…」
「だめじゃないもん♪だって、ほんとにだめだったら、
なんでおじさんのおちんちん、おっきくなって、ぴくぴくしてるの？」
「そ、それは…！」
丁度その瞬間、仕事を終えた彼女が帰ってきた。
「ただいまぁ…って！？」
「ああ、帰って来てくれたのか、すまぬ、これはその…
とにかく、この子を止めてくれぬか！？」
「ええ、そうね…」
「えぇっ！？だめなの！？」
「あのね…、身近な人が死んだら、死んだ人のために、
そういうことはしないで、大人しくしていなきゃいけないの。
ジパングでは確か…４９日間だっけ？」
「うむ…。」
「だから、アタシも、そういう事するの自体は止めないけど、
その決まりは守らなくちゃダメ。今は我慢しなさい？」
「うん。ごめんなさい…」
「いや、分かってくれれば良いのだが…。
（…いや、今は、とはどういう意味だ！？）
彼は、一抹の不安を覚えた…
そして、無事傷は完治し、彼女の家を出る時が来た。
「本当に、世話になったな…。いつか必ず、礼をさせて頂こう。」
「…そういえば貴方、これからどうするつもりなの？」
「そうだな…そういえば、考えておらぬ。
殿は、寛大にも私のことを許してくださったから…
また、お仕えすることは出来ると思うのだが…。」
「だったら…、あたしと、その……」
「…？」
「結婚…してくれない？」
「………すまぬ。まだ気持ちの整理がついておらぬ故…
そういう事は、考えられぬのだ。」
「そう…じゃあ、待ってても…いい？」
「ああ。いつか、必ず、迎えに来よう…」
「ありがとう…じゃあ、またね。」
「またね！おじさん。ずっとまってるよ！
お母さんといっしょに！だから…いつか、ほんとに、
わたしのお父さんになってね！」
「…約束しよう。では、さらば！」
…そして、それから一年がたち、彼は約束を果たしにやってきた。
互いに大切なものを失い、そして、新しく大切なものを得た
夫婦とその娘の絆は、もう二度と断ち切られることなく、
たくさんの子供を作り、末永く、幸せに暮らしたという………
10/07/04 12:13更新 / Ｋ助