商品No.2 謎の機械 ・・・・・・・・・・・・・ 銅貨5枚
ん?その変な機械のことか。
それは「エンジン」とか言う機械で、元々この店はそれで動いていたらしい。
今はどうやって動いてるのかって?そもそも、この店って一体何物なんだって?
じゃあ、話してやろう。さすがに突っ込んだ話はできないがな。
まず、この店をどこで手に入れたか、だが……
とある商人の下で修業を終え、俺一人で行商を始めて数年が経った。
こっから西のほうにある、親魔物領の『パンタリオン』って町のことは知ってるか?
町の中心に川が流れてて、結構キレイな町だ。でも、かなり祭り好きな所でな、
どんな祭りでもそりゃもう朝から大盛り上がりで、よそから見に来る奴も多い。
夜は夜で、町中の魔物と男が昼以上に盛り上がる…のは、親魔物の町のお約束か?
俺達も何度か見たことがあるが、ありゃ凄かった。それはまた別の機会に話すが、
お前さんも一度、実際に行ってみればどうだ?
…おっと、話がそれた。とにかく、俺はそこで道行く奴を相手に商売してたんだが…
「ほぉ…、お主、この辺りではなかなか珍しい物を売っておるな…」
なんて言いながら、ものすごく怪しい格好をした子供が近づいてきた。
「えーと…確かにそうみたいだが…お前さんは何者だ?」
「何ィ?お主行商人のくせに、我ら『バフォメット』様の事を知らぬのかえ?」
「いや、知ってるけど…その格好じゃ、ただの子供…?にしか見えないぞ。
って、全然『ただの』でも無いな…あー、えーっと……」
そいつが着ていたのは、『特攻服』というらしいコートを羽織って、
頭に大きな赤いリボンがついた、ピンク色の熊の着ぐるみだった。しかも顔が怖い。
「この『レディース・ベア』の着ぐるみを着ていても、
隠し切れずに全身から溢れ出すワシのカリスマ系オーラは分かるじゃろ?」
「どう見たって、変質者系のオーラしか出てないんだが…」
「仕方ないのぅ………ほれ、脱いでやったぞ。これでどうじゃ?」
「って、何でその下全裸なんだよ!?服を着ろッ!」
「あの着ぐるみの下に服など着たら死んでしまうわい。この世界の暦ではもう夏じゃぞ?」
「着ぐるみ着てる時点で相当暑いだろ!なぜ着た!?」
「勧誘のためじゃよ。最近この町によく人が来るようになっての。衣装はワシの趣…いや、
このワシの魅力とマスコット的な可愛さが合わされば、もはや敵は無いと思うてな。」
「そのマスコットで片方潰れてたじゃねえか!しかもソレ可愛くもないし!
つーか、いい加減なんか着ろ!人もだんだん集まってきたぞ!?
自警団でも呼ばれたらどうすんだよ!」
「うるさい奴じゃな…。」
着ぐるみを着直し、そいつは改めて俺に近づいてきた。
「さて…。いきなりじゃがお主、ワシのサバトまで来ておくれ。」
「本当にいきなりだな…。理由は?」
「ついたら話す。まあ心配するでない。襲ったり、お主にとって不利益なことはせんよ。」
「もう少しで俺を巻き添えに捕まりそうな事した奴に言われても、安心できないな……」
「全く、男なら細かいことをいちいち気にするでない!」
「行商人がそんな性格だったら危ないんだよ…」
そんなやり取りの末に、俺は仕方なく付いていった。
そしてしばらく歩くと、サバトの…事務所?らしきデカイ館にたどり着いた。
「ここか…。」
「いやいや、そこでは無い。ホレ、看板を見てみぃ」
その看板には『パンタリオン・シルヴィア博物館』と書いてあった。
「ほー、博物館か…。」
「ワシのサバトはこの隣じゃ。ささ、入るがよい」
隣を見ると、博物館よりさらに一回り大きい館があった。ここがそいつのサバトらしい。
俺はそいつに引っ張られるように中に入り、中の客間のような場所に座らされたんだ。
そこには俺達の他に、熊の耳と爪を生やしたメイド服の女の子がいた。
「それでは、まずお茶でもご馳走しようかの…これ、ベリー!」
「はぁい、何ですのん?」
「このお客の為に、ハニーミルクティーを二つ淹れてくれんかの?」
「了解です〜」
「…なんか盛ったりしないよな?」
「……ベリー、やっぱり普通の蜂蜜で頼む。」
「あれ、普通のでよろしいんですか?」
「やっぱり盛るつもりだったのかよ!?何が『襲わない』だ!!」
「ジョークじゃよ、ジョーク。ロリリカン・ジョークじゃ。本気にするでない。」
「ロリリカンって何だよ…」
「ほな、淹れて来ます〜。」
「それにしても、熊が好きなのか?」
「クマちゃんは大ッ好きじゃ♪」
「だろうな。あんたの着ぐるみも熊だったし、この部屋にもテディベアが沢山あるし、
あのベリーとか言う子もグリズリーだったしな。」
「乙女らしいじゃろ?ちと体調が悪いときも、熊の胆で治す位に大好きなんじゃ。」
「うん。そういう事を言わなきゃ、普通に乙女らしかったんだがな。」
「何ィッ、熊の胆が乙女らしくないとな!?」
「普通乙女は漢方よりも、普通の薬の方を使うモンじゃないのか!?」
「では、お主の言う『普通』とは何じゃ!?周りに合わせることか!?」
「そんな無駄にテーマがデカくなるような話題を、いきなり俺に振るんじゃねぇッ!!」
「…あのぉ、お茶入りましたで。」
「おお、すまぬなベリー。」
「あ、もうすぐ待ち合わせの時間や…。ほな、うちはこれで失礼させてもらいます。」
「うむ、お兄ちゃんと仲良くの。」
「はぁい、おおきに〜。」
…そういえば、昨日の話で『この世界に無い方言』についてツッコミを入れたが、
思い出してみたら、あのベリーって子は普通に使ってたんだよな…。
すっかり忘れてたなんて、俺もトシなのか?それとも、作者がいい加減なだけか…。
「…それにしても、ここまでワシのノリについて来てくれる人間は久々じゃ。
見込みがあるのう…どうじゃ、ワシの『兄上』にならぬか?」
「丁重にお断りする。それよりも、何で俺をここに連れてきたんだ?」
「おお、そうじゃった。すっかり忘れておったわい。では、まず自己紹介しようかの。
ワシの名は『シルヴィア=ヴァイヤー』見てのとおり、ここのサバトの指導者じゃ。」
「俺は『ペドル=サイクロン』…って、シルヴィア?さっきの博物館の名前も…」
「気づいたようじゃな。あの博物館はワシの物じゃ。
…この世界は、様々な『珍しい物』で溢れておる。ワシはクマちゃんも好きじゃが、
お宝とか、珍しい物はそれ以上に好きで好きで好きで、もひとつおまけに好きでのぉ。」
「…ドラゴンみたいだな。」
「ドラゴンはワシの憧れじゃよ。並みの人間や魔物には無いコレクター魂を持っておる。
他のバフォメットの多くはどうもドラゴンと反りが合わんらしく、
ドラゴンが幼女(しんじゃ)になる程仲のよいワシの事を変わり者扱いするがの。」
「そう言えば、お前さんの見た目も珍しいな。
アルビノのバフォメットなんて、見たことも聞いたことも無いぞ。」
「そうじゃろそうじゃろ。…この姿に生まれたからこそ、
ワシと同じような『珍しい物』を好きになったのかも知れん…。じゃが、
この姿にコンプレックスを感じたことは一度も無い。むしろ自慢だと思っとる位じゃ。
ただでさえ似た者が多いバフォメットの中でも、一際目立つからのう。
…おっと、話が逸れてしもうた。えーっと、本題じゃが…お主は行商人じゃろ。
何か珍しい物を持っておらんか?あれば譲って欲しいのじゃ。」
「…あるにはあると思うんだが、多分小遣い程度の金じゃ売れないぞ?」
「構わん。サバトの予算は結構残っとるわい。」
「って、あんたの道楽でサバトの金を使っていいのか?」
「少し前まで、ワシのサバトはあまり信者がおらんかった。お金も不足がちじゃった。
そんな中で、ワシは教団並に禁欲的な日々を送りながら少しずつポケットマネーを貯め、
貯まってきては旅に出て、珍しい物を探したり買い集めるためにバーッと使うという
毎日を繰り返し、コレクションを少しずつ増やしていった。そうして幾年月が過ぎ、
気付いた時には館一件分までコレクションが膨れ上がっておった。
そこでワシは、秘書の提案でコレクションを美術館として公開してみた。
別に見られて減る物でも無いしの。そうしたら、客が入る入る。
ついにはサバトの一番の資金源になり、客から信者も沢山確保できた。
それ以来、ワシのコレクションにとやかく言う声もほぼ無くなっての、
ポケットマネーで届かんような物も、予算を使って買えるようになったという訳じゃ。」
「…何がいい方向に転ぶか、わかったモンじゃないな。」
「ホントじゃの。…しかし代償もあった。サバトが大きくなったせいで、
ワシもあまり自由には動けなくなっての。今はもっぱら商人頼みじゃよ。
そのせいで、悪徳商人に吹っかけられる事も、まがい物を掴まされる事もある。
ワシが自分から出向いて探したり、じっくり吟味したり出来る時間があった頃は
そんなことも無かったんじゃがの…。」
「ひでえ話だな。…しかし、だったら何で俺にそんな話を持ってきたんだ?
全く初対面の奴なんて、余計に信用できないんじゃないのか?」
「うむ。…単刀直入に言おう。お主、『輝きのピエトロ』の弟子じゃろ?」
「なッ!?…どうして判ったんだ?」
「やはりそうか。弟子がいるとは聞いておったが、名前まではずっと分からなくてのう。
…奴は素晴らしい商人じゃった。
何よりも客とその信用を大切にし、人情に厚く、決して悪どい儲け方を許さぬ奴じゃ。
正直、商人にしておくのが勿体無い位にの。一国の王としてでも通用するわい。」
「ベタ褒めだな…。そんなに凄い商人だったのか?」
「何十年も生きてきたワシが、マジ惚れした数少ない男の一人じゃ。」
「あの、三日に一度は酒くっさくなるほど飲んで、ナンパ大好きで、
弟子に向かってシモネタを吐きまくるヒゲ面のオッサンがか?何かの冗談だろ…」
「…まあ、私生活はアレじゃが…。
でも、何というか奴には…他の商人とは違う、独特の雰囲気を感じたんじゃよ。
そして、その弟子であるお主にもの。これならワシも信用できると思ったんじゃ。」
「ふ〜ん。あのマダオがなぁ…」
「それに…」
「それに?」
「もしお主が珍しい物を持ってたとして、あそこで先に誰かに買われてしまったら
嫌じゃからの。やっぱり、そういうのはまとめて手に入れておきたいじゃろ?」
「おいおい…。」
「で、何か珍しい物を持っておるか?」
「…生憎俺は、あんたにとってどんな物が珍しいのか判らん。
荷物の中から、よさそうな物を選んでくれないか?…ただし、くすねるなよ。」
「そんなセコイことはせんよ。ワシらの信ずる『幼き少女の魅力と背徳』に誓って、な。」
「…信じたからな。」
「うむ。それじゃ、じっくり選ばせて貰おうかの♪」
そうしてシルヴィアが俺の荷物を探り始めて、大体三十分くらいが過ぎた。
「…おーい、どうだ。何かいい物はあったか?」
顔を上げたシルヴィアは…何つうか、小刻みに震えながら恍惚の表情を浮かべていた。
顔を真っ赤にして、涙と鼻水まで垂らしてる…
「………あったどころでは無いわいッ!!!
もう、ホントに何なんじゃ、お主の荷物の中は!楽園か!?シャングリラか!!?
これだけ珍しい物が揃っとるなんて、予想だにせんかったわ!!!
こいつは旧魔王時代の遺物じゃし、この巻物なんか、考古学界がひっくり返るぞ!!
あぁぁ〜……たまらんッ!!!ハァ…ハァ…うぅ、スゴイ濡れてきおった。
お主!ちょっと今ここでオナニーをさせてくれんかッ!!??」
「落ち着けッ!!」
「ハァハァ…すまぬ、興奮しすぎた。しかしお主、どこでこんな物を…!?」
「…ホントにそんなのが珍しいのか?それだったら、前に寄った町で
小さな遺跡を探索してきたって言う冒険者が二束三文で売りつけてきたんだよ。
よその店だったら、買い取り自体してくれなかったんだと。」
「何とッ!その冒険者も、店も、この上なく勿体無いことをしたものじゃ。
確かに、これほどの物は、珍しすぎて目利き自体が難しいが……それよりもッ!!
お主、早速これらをまとめて売ってくれんか!?いくらでも出してやろう!!!」
「…つっても、ホントに二束三文だったしな…そんなにはいらん。
『利益を優先させると、必ずバチが当たる』って、あのオッサンも言ってたしな。」
「いやいやいや、これだけの物を売ってもらおうと言うのに、
全然払わんなんてそれこそバチが当たるわい。どうしようかの………そうじゃ!」
「何だ?」
「お金が要らぬのなら、
……代わりに、ワシを、あ・げ・る♪(着ぐるみを脱ぎ捨てて)
…ああああッ!冗談じゃ、冗談じゃよ!頼む、帰らんでおくれェェェッ!!!」
「泣くくらいなら初めからやるな。」
「うむ。しかし困ったの…ワシ以外に代わりになりそうなものは…
……そうじゃ。お主になら『アレ』を譲ってもいいじゃろう…付いて参れッ!!」
シルヴィアはそのままの勢いで俺を引っ張り、
サバトの奥の奥にある、なにやら大事そうな部屋の扉の前まで案内した。
「ワシのとっておき…最も大切にしておったコレクションを、お主にやろう。
多分お主にとっても、かなり役立つものになるじゃろう。」
扉に掛けられていた複雑そうな魔法を解き、扉を開けた先にあったものは…
「何だこりゃ?」
何なのか全く分からない、金属で出来た、デカイ馬車のようなものだった。
「聞いて驚くでないぞ。これはな、別の世界からやってきた乗り物なんじゃ。」
「別の世界?」
「かつてワシが読んだ書物に、こんなことが書いておった。それによると、
ワシらが生きているこの世界の他にも、全く別の世界が存在していると言う。
住んでおる生き物も、文化も、世界の法則すら全く異なるような世界が
無数に存在しておると言うのじゃ。」
「はあ…」
「そういった別の世界は、普段は行き来するどころか、存在すら確認できぬ。
世界と世界の間には、厳重な仕切りのようなものが存在しておるからじゃ。
…しかし、時々、何かの拍子にその仕切りを突き抜けてしまう事があるらしいんじゃな。
別の世界からやってきたと言う者の話は、お主もいくつか聞いたことがあるじゃろう?」
「…確かに、英雄譚とか、噂にはよく聞いていたが…本当だったのか?」
「どうも本当の話らしいの。
特に、この世界と、この乗り物がやってきた世界との仕切りは他より薄いらしく、
この世界に突き抜けてきた者の多くはその世界から来たと言う。
ここや、多くのサバトと強い繋がりを持っておる『妖精の国』に、
確かサトーだかミソだとか言う名前の、妖精の国の代表みたいな妙な男がおるのじゃが、
そやつもその世界から突き抜けて来た者らしい。」
「ああ、なんかよく噂で聞いたことがあるな。
確かフェアリーを六人も連れ歩いたり、たまにそこにマンドラゴラも混ざってたり、
空飛んだり、ロリコン男の大群を率いたり、大陸に渡ってチンギス・ハンになったり、
謎のナイスガイのボーリング工事に遭ったり、超絶口の悪いベルゼブブにボコられたり…
…なんか、色々と物凄い奴らしいな。どこまで本当かは知らないが。
……ところで、さっきから話のスケールがデカすぎないか?
この小説はそんなに壮大なテーマの話にはならないと思うんだが…」
「話を戻そう。十数年前に、用があって近くの森に行った時、いきなりワシの目の前に
このでっかいのが空からズズーン!!と降って来たんじゃ。正直ちびった。
じゃが、こーんなでっかい、しかも空から降ってきた物など珍品も珍品じゃろ?
早速GETしようと魔法でワシのサバトまで飛ばし、調査を始めた。
その時、それに一人の男が乗っていたのに気づいたんじゃ。
そやつの話によると、どうやらこの乗り物は『大型トラック』と言う名前らしい。
詳しいことはそやつも知らんようじゃったが、中で特殊な油を燃やし、
その力で馬車よりもはるかに多くの荷を運べる乗り物らしい。」
「油を燃やすだけでこんなデカイのが動くのか?別の世界の技術ってのは凄いな。」
「そやつはこれに乗って物を運んでおった時に、操作を誤って崖から落ちたと思ったら
突然その森に落ちてきたと言う。恐らくその時に仕切りを突き抜けたんじゃろう。
しかし、そやつはこの世界じゃ身寄りも無く、この世界の知識も持っておらん。
おまけに元の世界に戻る方法も分からんから、この大型トラックを譲ってもらう代わりに
ワシがこの世界の色々な知識を教え込み、仕事を世話してやったんじゃ。
今では、サバトの『名誉お兄ちゃん』として、魔女の一人とよろしくやっとるわい。」
別の世界から来た人間の英雄譚は多いし、他のより一際目立って人気も高いが、
その男みたいに、ただ普通…?に人生を送る人間もいるんだな。人それぞれ、って奴か。
「そしてそやつから乗り物を譲り受けると、ワシはそれに乗りたくて、徹底的に改造した。
幸いワシには、多少じゃが機械やカラクリの知識があったからの。
この世界で乗り回すためには、まずこの世界に合わせないといかんじゃろ?
まず、動力をその特殊な油から、魔力で動くように改造した。
ワシの手元に、偶然ちとワケ有りな魔石があっての。それを組み込んだら、
風から魔力を取り込んで動き続けることが可能になったんじゃ。
他にも、行く手に障害があった時、それを破壊するための3基の自在に動く大砲、
風の魔法を使った超加速機能、生き物にぶつかっても傷つけぬ為に魔法をかけたり、
後ろの『コンテナ』とか言う箱の内部をものすごく広くしたり…数え切れん位じゃ。
これを使って店を開けば、お主、他の行商人にはとても真似できんほどの
多様かつ大量の商品を、世界を股にかけ売買する事も可能になるのではないか?」
「悪い話じゃないな…。しかし、本当にいいのか?貰っても。」
「うむ。お主には…何というか、可能性を感じるんじゃ。
人と魔物、両方にとって大きな利益となるような事を成し遂げる…そんな気がしての。
そう、あのピエトロのようにな。」
「随分買ってくれてるな…。」
「決してお世辞の類では無いぞ。ワシはジョークは言うが、嘘はつかん。」
「しかし、あのオッサンと一緒にされるのは心外だな。だから…超えてやるよ、絶対な。」
「うむ、よく言うた。それではこの乗り物は今からお主の物じゃ。存分に使ってくれッ!
…おぬしのような者が使ってくれるのなら、きっとあやつも喜ぶわい。」
「あ、そういや俺は動かし方知らないぞ?」
「心配は要らぬ。ワシは元持ち主に一通りの操縦方法を教わったからの。
改造箇所の使い方も含めて、ワシがしっぽりと教えてやろう。」
「なんか『しっぽり』で不安になったんだが…。どんな風に教える気だよ?」
「気にするでない。じゃが、例えお主がいくら不安になろうが、もう引き返せんぞ。
ていうか引き返させんぞ。ワシが。秘密を見せた以上、最後まで付き合ってもらおう。
心配せんでも操縦方法はちゃんと教えてやるわい。さあッ、操縦席に座るのじゃ!」
「ったく……妙な真似したら、無理やりにでも帰るからな。」
「ブンブンブンつったらバンバンバンじゃ。」
「聞けよ。ていうか何だそれ?」
その日から、俺とシルヴィアの操縦訓練の日々が始まった。
「これ、そこはハンドルを右じゃッ!」
「そうだった!ヤバイヤバイ…」
「バックミラーを良く見ておけ!」
「……!?何だよ、あの大岩は!?逃げろってのか!?」
「どうした?五時起床!全力疾走!しっかりせんか、ソルジャーッ!!」
「商人からソルジャーになった覚えはないからな!?」
「左右確認!実際はどっから来るかわからんぞ!?」
「前方、左右に障害なし!よし、発進……ハンドルが爆発した!?」
「ホレホレどうした、そんなんじゃ立派な蕎麦打ちベビーシッターにはなれんぞ!」
「もう、トラック関係ねえじゃねえか!?」
「さあ、笛を吹くんじゃピ○彦!もう、通報されるくらいに魂をぶちまけろッ!!」
「あんたが著作権侵害で通報されろ!」
「あそこにあるターゲットを大砲で全て撃ってみよッ!」
「……よーく見たら全部『一発でも当たったら、サバト強制入信』って書いてあるぞ!?」
「頑張れ!天国にいるお袋さん…の飼ってた亀を、楽にしてやりたいんじゃろ?」
「亀かよ!?飼ってないし、天国にいる時点でもう楽になってんじゃねえのか!?」
…いや、そういえば時間の大半は、トラックの操縦練習じゃなくて
ボケ続けるシルヴィアとの漫才に費やされていたんだった。
流石にうんざりして練習をやめたいと思っても、全く聞き入れられなかった。
あの時は本当に参ったよ…。
そして、仕方なく練習を続けて大体二ヶ月ほど経ったある日…
「……よし、合格じゃ!もうワシに教えられることは何も無い…」
「そ、そうか…やったッ!これで自由だ!!」
「さあ、『ありがとう、教官…』『よく頑張ったな…』と、涙のハグをしに来いッ!!」
「…いや、遠慮しとく……。」
「何じゃ、つまらん。お主をそんな下衆野郎に育てた覚えは無いぞ!」
「ただ断っただけなのに下衆野郎扱いかよ!?」
「…しかしお主、やつれたのう。風邪か?」
「2ヶ月間、毎日毎日あんたと漫才繰り広げて、疲れないほうがおかしいだろがッ!!」
「いやぁ、すまんのう。…しかし、お主と喋っておると、とても楽しいんじゃよ。
お主には、商人に必要な話術と忍耐とノリの良さの資質が十分にある。誇ってもよいぞ。
それにしても…これだけ長い間付き合ってくれて、どうもありがとうの。」
「まあ、俺も嫌いじゃなかったけどな。…疲れるが。」
「秘書にすら『そのボケの大行進にはとてもついていけません』と匙を投げられたから、
普段は自重しておったのじゃよ。」
「その割には、自重してない感じの衣装で出歩いてたよな。」
「お主なら、この先もワシと上手くやっていけそうじゃな。
のう、今一度考えてくれんか?やっぱりワシのあ「断る」…チッ。
ではせめて、ワシに協力してはくれんか?」
「協力?」
「お主がこの先、珍品の中でも一際珍しそうだと感じた物を手に入れたら、
まず一番にワシに売りに来て欲しいんじゃ。
ワシが鑑定して、本当に珍しい物なら、多少高くとも必ず買ってやろう。
ワシが何か欲しい珍品をリクエストしたら、それもなるべく仕入れてきてほしい。
そのかわり、何か困ったことがあったら、全力で協力もしてやろう。どうじゃ?」
「それ位ならいいだろう。」
「よーし、決まりじゃな。しっかり頼むぞ?」
「客の信頼は裏切らないさ。」
「それでは、記念と、協力関係を結んだ証として、これをお主にやろう。」
「…何なんだ?そのデカめの機械は。」
「これは『エンジン』と言う名前らしい機械じゃ。
元々その車の動力だった物でな、別の動力を組み込んだので、取り外した。
もっと別の物をやりたい所なんじゃが…思いつかなくての。」
「思いつかなさ過ぎだろ…。まあ、折角だから貰っておくけどさ。」
「ところで、店持ちになったのじゃから、屋号を決めねばいかんじゃろ?」
「ああ、屋号か。そうだな……
…風が物を巻き上げるように珍しい品物を運んで、客に笑顔を与えては、
風のように去っていく…そんなのが俺の理想だ。そして、同じ風でも、どうせだったら
台風のような勢いのいい店に…って事で、『ハリケーン』にしようと思う。」
「お主……………臭い。」
「うるせー!!」
「ところで、このまま発つのか?」
「ああ。なんだかんだで二月も経っちまったからな。」
「なんだかんだと聞かれれば…」
「スルーするぞ。」
「何じゃ、このイケズ!」
「…今はちょっとツッコミは休ませてくれよ。
必ずまた戻って来るから、その時にいくらでも相手してやるよ。」
「本当じゃな?」
「ああ。」
「そうか…。仕方ないのう、本当に待っておるからな?」
「信頼は裏切らないっての。」
「では行くがよい、移動商店『ハリケーン』店主、ペドル=サイクロンよッ!!」
「おう!行くぞ…ハリケーン、発進ッ!!」
…とまあ、こんな感じで、俺はこの店を手に入れたわけだ。
この町で商売を終えたら、またパンタリオンに行く予定さ。
ちょっとあいつが喜びそうな珍品も手に入れたからな。
…それに、たまにだけなら、あいつの物凄いエネルギーに当たるのも悪く無いからな。
「アタイも、シルヴィアさんと店長の話聞くの楽しみです♪」
ああ、いたのかカリュ。楽しみでも、まずはこの町での商売に専念しろよ?
ここも結構面白い町だからな。
「はいッ!」
…さてと、これでこの話は終わりだ。次はどれを聞きたい?
それは「エンジン」とか言う機械で、元々この店はそれで動いていたらしい。
今はどうやって動いてるのかって?そもそも、この店って一体何物なんだって?
じゃあ、話してやろう。さすがに突っ込んだ話はできないがな。
まず、この店をどこで手に入れたか、だが……
とある商人の下で修業を終え、俺一人で行商を始めて数年が経った。
こっから西のほうにある、親魔物領の『パンタリオン』って町のことは知ってるか?
町の中心に川が流れてて、結構キレイな町だ。でも、かなり祭り好きな所でな、
どんな祭りでもそりゃもう朝から大盛り上がりで、よそから見に来る奴も多い。
夜は夜で、町中の魔物と男が昼以上に盛り上がる…のは、親魔物の町のお約束か?
俺達も何度か見たことがあるが、ありゃ凄かった。それはまた別の機会に話すが、
お前さんも一度、実際に行ってみればどうだ?
…おっと、話がそれた。とにかく、俺はそこで道行く奴を相手に商売してたんだが…
「ほぉ…、お主、この辺りではなかなか珍しい物を売っておるな…」
なんて言いながら、ものすごく怪しい格好をした子供が近づいてきた。
「えーと…確かにそうみたいだが…お前さんは何者だ?」
「何ィ?お主行商人のくせに、我ら『バフォメット』様の事を知らぬのかえ?」
「いや、知ってるけど…その格好じゃ、ただの子供…?にしか見えないぞ。
って、全然『ただの』でも無いな…あー、えーっと……」
そいつが着ていたのは、『特攻服』というらしいコートを羽織って、
頭に大きな赤いリボンがついた、ピンク色の熊の着ぐるみだった。しかも顔が怖い。
「この『レディース・ベア』の着ぐるみを着ていても、
隠し切れずに全身から溢れ出すワシのカリスマ系オーラは分かるじゃろ?」
「どう見たって、変質者系のオーラしか出てないんだが…」
「仕方ないのぅ………ほれ、脱いでやったぞ。これでどうじゃ?」
「って、何でその下全裸なんだよ!?服を着ろッ!」
「あの着ぐるみの下に服など着たら死んでしまうわい。この世界の暦ではもう夏じゃぞ?」
「着ぐるみ着てる時点で相当暑いだろ!なぜ着た!?」
「勧誘のためじゃよ。最近この町によく人が来るようになっての。衣装はワシの趣…いや、
このワシの魅力とマスコット的な可愛さが合わされば、もはや敵は無いと思うてな。」
「そのマスコットで片方潰れてたじゃねえか!しかもソレ可愛くもないし!
つーか、いい加減なんか着ろ!人もだんだん集まってきたぞ!?
自警団でも呼ばれたらどうすんだよ!」
「うるさい奴じゃな…。」
着ぐるみを着直し、そいつは改めて俺に近づいてきた。
「さて…。いきなりじゃがお主、ワシのサバトまで来ておくれ。」
「本当にいきなりだな…。理由は?」
「ついたら話す。まあ心配するでない。襲ったり、お主にとって不利益なことはせんよ。」
「もう少しで俺を巻き添えに捕まりそうな事した奴に言われても、安心できないな……」
「全く、男なら細かいことをいちいち気にするでない!」
「行商人がそんな性格だったら危ないんだよ…」
そんなやり取りの末に、俺は仕方なく付いていった。
そしてしばらく歩くと、サバトの…事務所?らしきデカイ館にたどり着いた。
「ここか…。」
「いやいや、そこでは無い。ホレ、看板を見てみぃ」
その看板には『パンタリオン・シルヴィア博物館』と書いてあった。
「ほー、博物館か…。」
「ワシのサバトはこの隣じゃ。ささ、入るがよい」
隣を見ると、博物館よりさらに一回り大きい館があった。ここがそいつのサバトらしい。
俺はそいつに引っ張られるように中に入り、中の客間のような場所に座らされたんだ。
そこには俺達の他に、熊の耳と爪を生やしたメイド服の女の子がいた。
「それでは、まずお茶でもご馳走しようかの…これ、ベリー!」
「はぁい、何ですのん?」
「このお客の為に、ハニーミルクティーを二つ淹れてくれんかの?」
「了解です〜」
「…なんか盛ったりしないよな?」
「……ベリー、やっぱり普通の蜂蜜で頼む。」
「あれ、普通のでよろしいんですか?」
「やっぱり盛るつもりだったのかよ!?何が『襲わない』だ!!」
「ジョークじゃよ、ジョーク。ロリリカン・ジョークじゃ。本気にするでない。」
「ロリリカンって何だよ…」
「ほな、淹れて来ます〜。」
「それにしても、熊が好きなのか?」
「クマちゃんは大ッ好きじゃ♪」
「だろうな。あんたの着ぐるみも熊だったし、この部屋にもテディベアが沢山あるし、
あのベリーとか言う子もグリズリーだったしな。」
「乙女らしいじゃろ?ちと体調が悪いときも、熊の胆で治す位に大好きなんじゃ。」
「うん。そういう事を言わなきゃ、普通に乙女らしかったんだがな。」
「何ィッ、熊の胆が乙女らしくないとな!?」
「普通乙女は漢方よりも、普通の薬の方を使うモンじゃないのか!?」
「では、お主の言う『普通』とは何じゃ!?周りに合わせることか!?」
「そんな無駄にテーマがデカくなるような話題を、いきなり俺に振るんじゃねぇッ!!」
「…あのぉ、お茶入りましたで。」
「おお、すまぬなベリー。」
「あ、もうすぐ待ち合わせの時間や…。ほな、うちはこれで失礼させてもらいます。」
「うむ、お兄ちゃんと仲良くの。」
「はぁい、おおきに〜。」
…そういえば、昨日の話で『この世界に無い方言』についてツッコミを入れたが、
思い出してみたら、あのベリーって子は普通に使ってたんだよな…。
すっかり忘れてたなんて、俺もトシなのか?それとも、作者がいい加減なだけか…。
「…それにしても、ここまでワシのノリについて来てくれる人間は久々じゃ。
見込みがあるのう…どうじゃ、ワシの『兄上』にならぬか?」
「丁重にお断りする。それよりも、何で俺をここに連れてきたんだ?」
「おお、そうじゃった。すっかり忘れておったわい。では、まず自己紹介しようかの。
ワシの名は『シルヴィア=ヴァイヤー』見てのとおり、ここのサバトの指導者じゃ。」
「俺は『ペドル=サイクロン』…って、シルヴィア?さっきの博物館の名前も…」
「気づいたようじゃな。あの博物館はワシの物じゃ。
…この世界は、様々な『珍しい物』で溢れておる。ワシはクマちゃんも好きじゃが、
お宝とか、珍しい物はそれ以上に好きで好きで好きで、もひとつおまけに好きでのぉ。」
「…ドラゴンみたいだな。」
「ドラゴンはワシの憧れじゃよ。並みの人間や魔物には無いコレクター魂を持っておる。
他のバフォメットの多くはどうもドラゴンと反りが合わんらしく、
ドラゴンが幼女(しんじゃ)になる程仲のよいワシの事を変わり者扱いするがの。」
「そう言えば、お前さんの見た目も珍しいな。
アルビノのバフォメットなんて、見たことも聞いたことも無いぞ。」
「そうじゃろそうじゃろ。…この姿に生まれたからこそ、
ワシと同じような『珍しい物』を好きになったのかも知れん…。じゃが、
この姿にコンプレックスを感じたことは一度も無い。むしろ自慢だと思っとる位じゃ。
ただでさえ似た者が多いバフォメットの中でも、一際目立つからのう。
…おっと、話が逸れてしもうた。えーっと、本題じゃが…お主は行商人じゃろ。
何か珍しい物を持っておらんか?あれば譲って欲しいのじゃ。」
「…あるにはあると思うんだが、多分小遣い程度の金じゃ売れないぞ?」
「構わん。サバトの予算は結構残っとるわい。」
「って、あんたの道楽でサバトの金を使っていいのか?」
「少し前まで、ワシのサバトはあまり信者がおらんかった。お金も不足がちじゃった。
そんな中で、ワシは教団並に禁欲的な日々を送りながら少しずつポケットマネーを貯め、
貯まってきては旅に出て、珍しい物を探したり買い集めるためにバーッと使うという
毎日を繰り返し、コレクションを少しずつ増やしていった。そうして幾年月が過ぎ、
気付いた時には館一件分までコレクションが膨れ上がっておった。
そこでワシは、秘書の提案でコレクションを美術館として公開してみた。
別に見られて減る物でも無いしの。そうしたら、客が入る入る。
ついにはサバトの一番の資金源になり、客から信者も沢山確保できた。
それ以来、ワシのコレクションにとやかく言う声もほぼ無くなっての、
ポケットマネーで届かんような物も、予算を使って買えるようになったという訳じゃ。」
「…何がいい方向に転ぶか、わかったモンじゃないな。」
「ホントじゃの。…しかし代償もあった。サバトが大きくなったせいで、
ワシもあまり自由には動けなくなっての。今はもっぱら商人頼みじゃよ。
そのせいで、悪徳商人に吹っかけられる事も、まがい物を掴まされる事もある。
ワシが自分から出向いて探したり、じっくり吟味したり出来る時間があった頃は
そんなことも無かったんじゃがの…。」
「ひでえ話だな。…しかし、だったら何で俺にそんな話を持ってきたんだ?
全く初対面の奴なんて、余計に信用できないんじゃないのか?」
「うむ。…単刀直入に言おう。お主、『輝きのピエトロ』の弟子じゃろ?」
「なッ!?…どうして判ったんだ?」
「やはりそうか。弟子がいるとは聞いておったが、名前まではずっと分からなくてのう。
…奴は素晴らしい商人じゃった。
何よりも客とその信用を大切にし、人情に厚く、決して悪どい儲け方を許さぬ奴じゃ。
正直、商人にしておくのが勿体無い位にの。一国の王としてでも通用するわい。」
「ベタ褒めだな…。そんなに凄い商人だったのか?」
「何十年も生きてきたワシが、マジ惚れした数少ない男の一人じゃ。」
「あの、三日に一度は酒くっさくなるほど飲んで、ナンパ大好きで、
弟子に向かってシモネタを吐きまくるヒゲ面のオッサンがか?何かの冗談だろ…」
「…まあ、私生活はアレじゃが…。
でも、何というか奴には…他の商人とは違う、独特の雰囲気を感じたんじゃよ。
そして、その弟子であるお主にもの。これならワシも信用できると思ったんじゃ。」
「ふ〜ん。あのマダオがなぁ…」
「それに…」
「それに?」
「もしお主が珍しい物を持ってたとして、あそこで先に誰かに買われてしまったら
嫌じゃからの。やっぱり、そういうのはまとめて手に入れておきたいじゃろ?」
「おいおい…。」
「で、何か珍しい物を持っておるか?」
「…生憎俺は、あんたにとってどんな物が珍しいのか判らん。
荷物の中から、よさそうな物を選んでくれないか?…ただし、くすねるなよ。」
「そんなセコイことはせんよ。ワシらの信ずる『幼き少女の魅力と背徳』に誓って、な。」
「…信じたからな。」
「うむ。それじゃ、じっくり選ばせて貰おうかの♪」
そうしてシルヴィアが俺の荷物を探り始めて、大体三十分くらいが過ぎた。
「…おーい、どうだ。何かいい物はあったか?」
顔を上げたシルヴィアは…何つうか、小刻みに震えながら恍惚の表情を浮かべていた。
顔を真っ赤にして、涙と鼻水まで垂らしてる…
「………あったどころでは無いわいッ!!!
もう、ホントに何なんじゃ、お主の荷物の中は!楽園か!?シャングリラか!!?
これだけ珍しい物が揃っとるなんて、予想だにせんかったわ!!!
こいつは旧魔王時代の遺物じゃし、この巻物なんか、考古学界がひっくり返るぞ!!
あぁぁ〜……たまらんッ!!!ハァ…ハァ…うぅ、スゴイ濡れてきおった。
お主!ちょっと今ここでオナニーをさせてくれんかッ!!??」
「落ち着けッ!!」
「ハァハァ…すまぬ、興奮しすぎた。しかしお主、どこでこんな物を…!?」
「…ホントにそんなのが珍しいのか?それだったら、前に寄った町で
小さな遺跡を探索してきたって言う冒険者が二束三文で売りつけてきたんだよ。
よその店だったら、買い取り自体してくれなかったんだと。」
「何とッ!その冒険者も、店も、この上なく勿体無いことをしたものじゃ。
確かに、これほどの物は、珍しすぎて目利き自体が難しいが……それよりもッ!!
お主、早速これらをまとめて売ってくれんか!?いくらでも出してやろう!!!」
「…つっても、ホントに二束三文だったしな…そんなにはいらん。
『利益を優先させると、必ずバチが当たる』って、あのオッサンも言ってたしな。」
「いやいやいや、これだけの物を売ってもらおうと言うのに、
全然払わんなんてそれこそバチが当たるわい。どうしようかの………そうじゃ!」
「何だ?」
「お金が要らぬのなら、
……代わりに、ワシを、あ・げ・る♪(着ぐるみを脱ぎ捨てて)
…ああああッ!冗談じゃ、冗談じゃよ!頼む、帰らんでおくれェェェッ!!!」
「泣くくらいなら初めからやるな。」
「うむ。しかし困ったの…ワシ以外に代わりになりそうなものは…
……そうじゃ。お主になら『アレ』を譲ってもいいじゃろう…付いて参れッ!!」
シルヴィアはそのままの勢いで俺を引っ張り、
サバトの奥の奥にある、なにやら大事そうな部屋の扉の前まで案内した。
「ワシのとっておき…最も大切にしておったコレクションを、お主にやろう。
多分お主にとっても、かなり役立つものになるじゃろう。」
扉に掛けられていた複雑そうな魔法を解き、扉を開けた先にあったものは…
「何だこりゃ?」
何なのか全く分からない、金属で出来た、デカイ馬車のようなものだった。
「聞いて驚くでないぞ。これはな、別の世界からやってきた乗り物なんじゃ。」
「別の世界?」
「かつてワシが読んだ書物に、こんなことが書いておった。それによると、
ワシらが生きているこの世界の他にも、全く別の世界が存在していると言う。
住んでおる生き物も、文化も、世界の法則すら全く異なるような世界が
無数に存在しておると言うのじゃ。」
「はあ…」
「そういった別の世界は、普段は行き来するどころか、存在すら確認できぬ。
世界と世界の間には、厳重な仕切りのようなものが存在しておるからじゃ。
…しかし、時々、何かの拍子にその仕切りを突き抜けてしまう事があるらしいんじゃな。
別の世界からやってきたと言う者の話は、お主もいくつか聞いたことがあるじゃろう?」
「…確かに、英雄譚とか、噂にはよく聞いていたが…本当だったのか?」
「どうも本当の話らしいの。
特に、この世界と、この乗り物がやってきた世界との仕切りは他より薄いらしく、
この世界に突き抜けてきた者の多くはその世界から来たと言う。
ここや、多くのサバトと強い繋がりを持っておる『妖精の国』に、
確かサトーだかミソだとか言う名前の、妖精の国の代表みたいな妙な男がおるのじゃが、
そやつもその世界から突き抜けて来た者らしい。」
「ああ、なんかよく噂で聞いたことがあるな。
確かフェアリーを六人も連れ歩いたり、たまにそこにマンドラゴラも混ざってたり、
空飛んだり、ロリコン男の大群を率いたり、大陸に渡ってチンギス・ハンになったり、
謎のナイスガイのボーリング工事に遭ったり、超絶口の悪いベルゼブブにボコられたり…
…なんか、色々と物凄い奴らしいな。どこまで本当かは知らないが。
……ところで、さっきから話のスケールがデカすぎないか?
この小説はそんなに壮大なテーマの話にはならないと思うんだが…」
「話を戻そう。十数年前に、用があって近くの森に行った時、いきなりワシの目の前に
このでっかいのが空からズズーン!!と降って来たんじゃ。正直ちびった。
じゃが、こーんなでっかい、しかも空から降ってきた物など珍品も珍品じゃろ?
早速GETしようと魔法でワシのサバトまで飛ばし、調査を始めた。
その時、それに一人の男が乗っていたのに気づいたんじゃ。
そやつの話によると、どうやらこの乗り物は『大型トラック』と言う名前らしい。
詳しいことはそやつも知らんようじゃったが、中で特殊な油を燃やし、
その力で馬車よりもはるかに多くの荷を運べる乗り物らしい。」
「油を燃やすだけでこんなデカイのが動くのか?別の世界の技術ってのは凄いな。」
「そやつはこれに乗って物を運んでおった時に、操作を誤って崖から落ちたと思ったら
突然その森に落ちてきたと言う。恐らくその時に仕切りを突き抜けたんじゃろう。
しかし、そやつはこの世界じゃ身寄りも無く、この世界の知識も持っておらん。
おまけに元の世界に戻る方法も分からんから、この大型トラックを譲ってもらう代わりに
ワシがこの世界の色々な知識を教え込み、仕事を世話してやったんじゃ。
今では、サバトの『名誉お兄ちゃん』として、魔女の一人とよろしくやっとるわい。」
別の世界から来た人間の英雄譚は多いし、他のより一際目立って人気も高いが、
その男みたいに、ただ普通…?に人生を送る人間もいるんだな。人それぞれ、って奴か。
「そしてそやつから乗り物を譲り受けると、ワシはそれに乗りたくて、徹底的に改造した。
幸いワシには、多少じゃが機械やカラクリの知識があったからの。
この世界で乗り回すためには、まずこの世界に合わせないといかんじゃろ?
まず、動力をその特殊な油から、魔力で動くように改造した。
ワシの手元に、偶然ちとワケ有りな魔石があっての。それを組み込んだら、
風から魔力を取り込んで動き続けることが可能になったんじゃ。
他にも、行く手に障害があった時、それを破壊するための3基の自在に動く大砲、
風の魔法を使った超加速機能、生き物にぶつかっても傷つけぬ為に魔法をかけたり、
後ろの『コンテナ』とか言う箱の内部をものすごく広くしたり…数え切れん位じゃ。
これを使って店を開けば、お主、他の行商人にはとても真似できんほどの
多様かつ大量の商品を、世界を股にかけ売買する事も可能になるのではないか?」
「悪い話じゃないな…。しかし、本当にいいのか?貰っても。」
「うむ。お主には…何というか、可能性を感じるんじゃ。
人と魔物、両方にとって大きな利益となるような事を成し遂げる…そんな気がしての。
そう、あのピエトロのようにな。」
「随分買ってくれてるな…。」
「決してお世辞の類では無いぞ。ワシはジョークは言うが、嘘はつかん。」
「しかし、あのオッサンと一緒にされるのは心外だな。だから…超えてやるよ、絶対な。」
「うむ、よく言うた。それではこの乗り物は今からお主の物じゃ。存分に使ってくれッ!
…おぬしのような者が使ってくれるのなら、きっとあやつも喜ぶわい。」
「あ、そういや俺は動かし方知らないぞ?」
「心配は要らぬ。ワシは元持ち主に一通りの操縦方法を教わったからの。
改造箇所の使い方も含めて、ワシがしっぽりと教えてやろう。」
「なんか『しっぽり』で不安になったんだが…。どんな風に教える気だよ?」
「気にするでない。じゃが、例えお主がいくら不安になろうが、もう引き返せんぞ。
ていうか引き返させんぞ。ワシが。秘密を見せた以上、最後まで付き合ってもらおう。
心配せんでも操縦方法はちゃんと教えてやるわい。さあッ、操縦席に座るのじゃ!」
「ったく……妙な真似したら、無理やりにでも帰るからな。」
「ブンブンブンつったらバンバンバンじゃ。」
「聞けよ。ていうか何だそれ?」
その日から、俺とシルヴィアの操縦訓練の日々が始まった。
「これ、そこはハンドルを右じゃッ!」
「そうだった!ヤバイヤバイ…」
「バックミラーを良く見ておけ!」
「……!?何だよ、あの大岩は!?逃げろってのか!?」
「どうした?五時起床!全力疾走!しっかりせんか、ソルジャーッ!!」
「商人からソルジャーになった覚えはないからな!?」
「左右確認!実際はどっから来るかわからんぞ!?」
「前方、左右に障害なし!よし、発進……ハンドルが爆発した!?」
「ホレホレどうした、そんなんじゃ立派な蕎麦打ちベビーシッターにはなれんぞ!」
「もう、トラック関係ねえじゃねえか!?」
「さあ、笛を吹くんじゃピ○彦!もう、通報されるくらいに魂をぶちまけろッ!!」
「あんたが著作権侵害で通報されろ!」
「あそこにあるターゲットを大砲で全て撃ってみよッ!」
「……よーく見たら全部『一発でも当たったら、サバト強制入信』って書いてあるぞ!?」
「頑張れ!天国にいるお袋さん…の飼ってた亀を、楽にしてやりたいんじゃろ?」
「亀かよ!?飼ってないし、天国にいる時点でもう楽になってんじゃねえのか!?」
…いや、そういえば時間の大半は、トラックの操縦練習じゃなくて
ボケ続けるシルヴィアとの漫才に費やされていたんだった。
流石にうんざりして練習をやめたいと思っても、全く聞き入れられなかった。
あの時は本当に参ったよ…。
そして、仕方なく練習を続けて大体二ヶ月ほど経ったある日…
「……よし、合格じゃ!もうワシに教えられることは何も無い…」
「そ、そうか…やったッ!これで自由だ!!」
「さあ、『ありがとう、教官…』『よく頑張ったな…』と、涙のハグをしに来いッ!!」
「…いや、遠慮しとく……。」
「何じゃ、つまらん。お主をそんな下衆野郎に育てた覚えは無いぞ!」
「ただ断っただけなのに下衆野郎扱いかよ!?」
「…しかしお主、やつれたのう。風邪か?」
「2ヶ月間、毎日毎日あんたと漫才繰り広げて、疲れないほうがおかしいだろがッ!!」
「いやぁ、すまんのう。…しかし、お主と喋っておると、とても楽しいんじゃよ。
お主には、商人に必要な話術と忍耐とノリの良さの資質が十分にある。誇ってもよいぞ。
それにしても…これだけ長い間付き合ってくれて、どうもありがとうの。」
「まあ、俺も嫌いじゃなかったけどな。…疲れるが。」
「秘書にすら『そのボケの大行進にはとてもついていけません』と匙を投げられたから、
普段は自重しておったのじゃよ。」
「その割には、自重してない感じの衣装で出歩いてたよな。」
「お主なら、この先もワシと上手くやっていけそうじゃな。
のう、今一度考えてくれんか?やっぱりワシのあ「断る」…チッ。
ではせめて、ワシに協力してはくれんか?」
「協力?」
「お主がこの先、珍品の中でも一際珍しそうだと感じた物を手に入れたら、
まず一番にワシに売りに来て欲しいんじゃ。
ワシが鑑定して、本当に珍しい物なら、多少高くとも必ず買ってやろう。
ワシが何か欲しい珍品をリクエストしたら、それもなるべく仕入れてきてほしい。
そのかわり、何か困ったことがあったら、全力で協力もしてやろう。どうじゃ?」
「それ位ならいいだろう。」
「よーし、決まりじゃな。しっかり頼むぞ?」
「客の信頼は裏切らないさ。」
「それでは、記念と、協力関係を結んだ証として、これをお主にやろう。」
「…何なんだ?そのデカめの機械は。」
「これは『エンジン』と言う名前らしい機械じゃ。
元々その車の動力だった物でな、別の動力を組み込んだので、取り外した。
もっと別の物をやりたい所なんじゃが…思いつかなくての。」
「思いつかなさ過ぎだろ…。まあ、折角だから貰っておくけどさ。」
「ところで、店持ちになったのじゃから、屋号を決めねばいかんじゃろ?」
「ああ、屋号か。そうだな……
…風が物を巻き上げるように珍しい品物を運んで、客に笑顔を与えては、
風のように去っていく…そんなのが俺の理想だ。そして、同じ風でも、どうせだったら
台風のような勢いのいい店に…って事で、『ハリケーン』にしようと思う。」
「お主……………臭い。」
「うるせー!!」
「ところで、このまま発つのか?」
「ああ。なんだかんだで二月も経っちまったからな。」
「なんだかんだと聞かれれば…」
「スルーするぞ。」
「何じゃ、このイケズ!」
「…今はちょっとツッコミは休ませてくれよ。
必ずまた戻って来るから、その時にいくらでも相手してやるよ。」
「本当じゃな?」
「ああ。」
「そうか…。仕方ないのう、本当に待っておるからな?」
「信頼は裏切らないっての。」
「では行くがよい、移動商店『ハリケーン』店主、ペドル=サイクロンよッ!!」
「おう!行くぞ…ハリケーン、発進ッ!!」
…とまあ、こんな感じで、俺はこの店を手に入れたわけだ。
この町で商売を終えたら、またパンタリオンに行く予定さ。
ちょっとあいつが喜びそうな珍品も手に入れたからな。
…それに、たまにだけなら、あいつの物凄いエネルギーに当たるのも悪く無いからな。
「アタイも、シルヴィアさんと店長の話聞くの楽しみです♪」
ああ、いたのかカリュ。楽しみでも、まずはこの町での商売に専念しろよ?
ここも結構面白い町だからな。
「はいッ!」
…さてと、これでこの話は終わりだ。次はどれを聞きたい?
11/01/22 07:53更新 / K助
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