雪の中でも暖かな
「……まいったな、本隊とはぐれてしまった」
そう呟いた自らの声さえ耳に届かぬほどごうごうと吹き付ける吹雪の中、男は立ち尽くした。
顔まで覆うようにきつく巻き付けた外套は薄手で防寒に優れているとは言えず、内に着た銀色に輝くよく磨かれた鎧はキンキンに凍てつき冷気が体を蝕む。
外套の背と鎧の胸部には西方主神教団のエンブレムが刻まれており男の所属が一目でわかるようになっているはずなのだが、雪がへばりつき全く見えなくなってしまっている。もっとも、そうでなくともこの吹雪では視界もままならないのだが。
「せめてどこか風をしのげる岩場か林があれば……」
男はそう声に出したつもりだが寒さで歯の根も合わず震える唇をわずかに開閉しただけにとどまる。
北方遠征ということで鎧の内に着こんでいるのは普段使っている冷気を伝えやすい鎖帷子ではなくたっぷり綿を詰めたクロスアーマーなのだがそれもこの寒さでは焼け石に水、体力は限界を迎え刺すように冷たくもベッドのように柔らかい新雪に抱き留められ男は意識を手放した。
ゆさゆさと揺れる感覚で意識が戻る。男が霞む視界とぼんやりとした思考で自分の置かれた状況を確認すると、どうやら馬に乗せられているようだ。
「……うぁ」
喉からかすれたうめき声が鳴ると、馬の手綱を引く女性が振り返る。
「ああよかった、目が覚めたんですね。雪の丘の真ん中に倒れていらっしゃったから心配しました」
近くに住んでいるのだろうか、親切にも行き倒れた男を介抱してくれたらしい。
「毛布にくるんで体の温まる薬湯を飲ませましたから、まだお休みになって大丈夫ですよ。とりあえずわたしの家に運ぶので、着いたら起こしますね」
先ほどより幾分か寒さが和らぎ体の内がぽかぽかと温かい気がしたのは薬湯のおかげなのだろう、この様子なら寝ても死には至らないだろうと男は判断し言われたとおりに瞼を閉じる。
「あ、そうだ」
と、思いついたように女性がまた振り返る。まるで恋する乙女のように頬を朱に染めると
「その、お名前だけ……訊いてもいいですか?」
「アーネスト……アーネスト・カーチス」
アーネストは心地よい揺れとぬくもりに意識をゆだねゆっくりと眠りに落ちていった。
「アーネストさん、大丈夫ですか?」
アーネストの目が覚めると簡素ながらも大きな寝台に寝かされていた。顔を覗き込んでいるのは大きく枝分かれした角を持つ
「ッ!魔物!?」
バネ仕掛けのように跳ね起き腰に手を伸ばすが剣はない。鎧も脱がされ身に着けているのは下に着ていた服のみだった。
ぐらり、と体が傾ぐ。部屋は温かいのだがまだ手足が冷えており思うように体が動かなかったのだ。
「大丈夫ですか!まだ体が温まり切っていないんです、今温かいもの持ってきますね」
そう言うと部屋を出ようとするがアーネストはそれよりも早く叫んでいた。
「醜いケダモノの施しは受けん!」
大きな角の魔物の表情がふっと寂しげに陰る。よくよく見ると先ほど馬の手綱を引いていた女性と同じ顔をしており、視線を動かすと彼女の下半身はたっぷりとした毛皮をもつ鹿の首から下ようだ。馬に乗せられていたのではなく彼女の背に乗って運ばれていたのだとアーネストは気づいた。
「……貴様が、私を助けたのか?」
「はい、あのまま雪原に置いていくわけにはいきませんでしたから」
アーネストが問いかけると角の魔物が答える。
「そうか……その、ありがとう、感謝する」
仮にも命の恩人に対して醜いケダモノ呼ばわりしたことに対して罪悪感を覚えながらアーネストは感謝の言葉を口にする。しかしアーネストは主神教の敬虔な信者であり、主神教団の兵である。アーネストの胸中には葛藤が生まれていた。
「あの、体をきちんと温めるためにはしばらくわたしの家でお世話させてもらう必要があります……でないときっと死んでしまいます」
そう言って魔物は部屋を出ていこうとする。
「名前」
「え?」
「命の恩人である貴女の名前を教えて欲しい」
アーネストが葛藤を抑えるような複雑な表情で言うとニコッと魔物が笑う。
「ベルザです」
ベルザの春の日差しのような暖かな笑みにアーネストの罪悪感は幾分か和らげられたのだった。
ベルザに助けられて3日目の朝、アーネストは悩んでいた。ベルザは命の恩人ではあるが、主神教団の教義では悪と定められている魔物であり、そもそもアーネストは教団兵として北方に魔物の征伐のために向かう途中で遭難したのだ。本来であればベルザのような魔物を討つのがアーネストの仕事である。
「私は、どうすれば……」
行き場のない視線をベッドからゆっくりと部屋に向ける。簡素な寝台以外はクローゼットが一つあるだけの質素な室内。
ベルザが部屋を出入りする際にドアから伺ったところ居間も物は少なく、広さも寝室とさほど変わりはない。アーネストは主神教徒として清貧を重んじており、この慎ましやかな生活ぶりは好ましかった。物心がついて以来毎日の祈りも欠かしたことがなく、貧しくもコツコツと教義を順守した毎日を送っていたアーネストにとって主神教団の教義こそが生活のすべてだったのだ。
しかし教義では魔物は悪であり、討たなくてはならないという。
ぐるるるるるぅ……
獣の唸り声じみた音で腹が鳴る。アーネストはいくら命の恩人でも魔物に出された食べ物を取ることはできないとベルザの持ってきた料理をすべて断っていた。
断るたびにそれでは体が温まらず弱ってしまうとベルザは悲しげな顔をし、恩人の厚意を無碍にしていると思うとアーネストはちくりと罪悪感をまた刺激されるのだ。
頭を回しベッド脇に目を向けるとそこにアーネストの鎧と剣が置いてあった。
この剣と鎧はアーネストのすべてだ。幼いころからコツコツと剣術を学び、主神の剣として世の平穏を守るその力の一助となる事に人生を捧げてきた。ようやく教団の兵として勇者を筆頭とする聖騎士団が指揮を執る大規模な遠征に参加できると決まった時には喜びで総身に震えが走ったほどだ。
命の恩人といえども相手は魔物だ、討たねばならない。
アーネストは覚悟を決め、剣に手を伸ばす。グッと力を込めると体が冷えているせいだろうか剣を握る力があまり入らない。そういえばベルザはこの二晩、夜は冷えるからと心配して寝るときに子供をあやすように手を握ってさすってくれたなとアーネストは思い出し、それを振り払うように剣を鞘から抜き放ち一振りする。
くらりと少しバランスを崩しふらついてしまったが、ゆっくりと深呼吸をしてドアに向かう。
手にした剣が重い。決して体調のせいだけではないだろうが、それでもやらねばなるまい。それが今までアーネストのかけてきた人生だった。
立っているだけでも目が回るようで手足の感覚が鈍い。ドアの前に立ち、腹に力を込めてドアノブに手をかける。
ドアを開くとむあっとするような湿気と熱気が圧を持って顔にぶつかり、女性特有の甘酸っぱい香りを汗で煮詰めたような強い獣臭が目に染みる。
視界に飛び込んできたのは上半身裸になり汗を拭くベルザの後ろ姿だった。外で力仕事でもしてきたのか雪のように白く美しい肌は上気し真っ赤に染まり、さながら雪解けに咲く花のように視線を吸い寄せる。
たわわに実った胸は背中越しでも強い主張を放ち、綺麗に筋の通った背やすらりとくびれたウエストとの対比がアーネストを誘惑する。
あまりのことに思考が麻痺した。ぼんやりした視界にはもうベルザの裸体しか映っておらず、呼吸をするたびにフェロモンが脳に焼き付きアーネストの獣欲を猛らせる。
ガランッと大きな音を立てて手から剣が落ちるがアーネストの耳には届かない。着ている服を脱ぐのももどかしそうにベルザに駆け寄る。
剣が床を転がる音に気づきベルザが振り返るころにはもうアーネストは服を半分脱ぎベルザの尻に手をかけていた。
「え?きゃあっ!アーネストさ、んひぃい!」
アーネストはどこにそんな力があったのか、ベルザの背を上から抑え込むように組み伏せ猛るモノをベルザの膣に突きこんだ。
「ぐ、くぉおお……」
大粒な肉襞が幾重にも一物を舐め上げ絡み付く。自慰すらまともにしたことのないアーネストは脳に鋭く響くような快感に堪らず射精してしまうが構わず腰を動かす。
「ん、くひぃ!そん、なぁ!アー、ネストさっ、んはぁ!いきなり、乱暴ですぅ!」
口では抗議するもベルザは尻を突き出すように前足を折り、テーブルに手をついて体を支えアーネストを迎え入れる。
「あ、はぁんっ!くふぅっ」
ただ腰を振るだけの不器用な行為だがベルザの口からは嬌声が漏れ、ぶちゅぶちゅと肉と粘液の絡む水音をかき消す。
「んぁあ!アーネストさっ、もうっ、私の、ことぉ!醜いぃけっ、ケダモノなんて、言ってぇ!アーネストさんのっほうがっ!ケダモノぉ、なんっですっ、からぁん!」
ベルザの体は熱を増し湯気がもうもうと立ち上る。その香りにあてられたようにアーネストはベルザの背にしがみつくようにして腰をさらに激しく打ち付ける。
「はぁん!あはぁ、アーネストさん、アーネストさっ!んくぅ!そこっそこぉ!い、いいですっ!もっとしてぇ!」
アーネストの腰に尻を押し付けるようにベルザが腰をゆすり、二人は高まっていく
「フッ、フゥーッ!フゥーッ!ぐ、くぅうぅう!!!」
「あ、ハッハッ!い、イきッ!イきまひゅっ!あっあぁっ!い、イッくひぃぃいいい!!!」
どくり、どくり、と男根が脈打つのに合わせ二人はビクンビクンと体を大きく痙攣させる。
長い長い一瞬を経て二人の体は離れる。ゼェゼェと荒い息を吐き出しながら後ずさったアーネストの目の焦点がふっと一瞬合い、自分の置かれている状況を理解したのか火照った顔がさっと青ざめるのもつかの間、振り向いたベルザがグイと抱き寄せ強引に唇を重ねる。
「〜〜〜!?」
「はむっ、んちゅ、ぴちゃっはふぅ……じゅる」
ベルザの体は異様に火照っており、唇はおろか漏れだす吐息さえも熱を持っているようでたっぷりと舌を絡めながらの熱烈なキスでアーネストの思考は蕩かされてしまう。
再び思考もままならなくなったアーネストはもどかしいのかがっちりと抱き寄せられ密着したベルザの腹に腰をこすりつ始める。
腹にこすりつけられる感覚にうっとりしながらベルザはアーネストの竿を右手で撫で扱き始めるとビクビクとアーネストの腰が震える。
「んむぅ、ちゅむっじゅる……ちゅるっ」
「ふ、はふっ……ふちゅっ、ぴちゅっ」
互いにたっぷりの唾液を交換し合う湿った音にちゅこちゅこと愛液で濡れた怒張を扱く音が重なり合い空間そのものが熱を孕んで満ちる。
「ふグっ、ん、むぅぐっぅうう!!」
アーネストの腰がひときわ大きく跳ね、ベルザの手と腰に向け吐精する。三度目とは思えぬほどの勢いと量が脈動しながらベルザを汚し、ベルザは満足げに笑みを浮かべる。
「んふっアーネストさん、三回目なのにすごい量……ん、ちゅるっ」
アーネストから唇を離したベルザは手から肘にまで垂れた白濁を舌で掬い取るようにゆっくり舐め上げる。そのあまりにも淫靡な表情と煽情的な所作にアーネストの目は釘付けとなり、再び股間に熱が集まりそそり立つ。
「じゅるるっんはぁ、とても濃いですぅ……お腹にもこんなに沢山出してくれたんですね。んっんぐっ」
ベルザは手と腹にかかった精液をすっかりきれいに掬い舐め取り、ごくりごくりと大きく喉を鳴らして飲み下すと、ゆっくりとアーネストに背を向けて腰を突き出し尻を左右に振ってアーネストを誘う。
「アーネストさぁん……わたし、はぁっ、さっきの、さっきみたいに激しいのがまた欲しいですぅ……」
口調も、目つきさえもアーネストに媚びている。アーネストはもはや考える余地もなく再びベルザの尻に手をかけ自身を膣に突き挿れる。
二匹の獣の交尾はまだ長引いてゆく……
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
二人の情事が終わり体を清めるころにはすでに夜になっていた。ベルザの体温でアーネストの体もすっかり温まってはいたが、流石に三日間何も食べ物をとらない訳にもいかないだろうとベルザは料理をふるまった。
「さて、私はこれからどうしたものか……」
アーネストが深刻そうな顔で吐き出すとベルザはちょっと驚いたような表情で答える。
「あら、責任を取ってわたしと暮らしてくださるんじゃないんですか?」
むすっとしたように頬を膨らませてみるベルザを見て大人びて美しい見た目よりも少女らしい性格をしているのだなとアーネストは思った。
「いや、それはそうだがそうでは無くて……私の生活は主神教の教えがすべてだったから」
魔物と契るということは主神教の教えを真っ向から破るということ。自らの今までの生活をすべて否定することになるとアーネストは悩んでいるのだ。
「……主神の教えの魔物って、どんな風に言われているんですか?」
「それは……人を誑かし破滅させ、時に食い殺すと」
「じゃあわたしはその魔物とは違います。だってわたしが大事なアーネストさんを破滅させたりなんてしませんから」
あっさりとベルザが言ってのける。
「……」
アーネストがあっけにとられていると、それにとベルザが付け加える。
「わたし、お肉はあまり好きじゃないんです」
ウィンクしながらそんな冗談を言う。アーネストはふっと吹き出し、幾分か気が楽になったように思えた。
「どんなことがあったってアーネストさんはアーネストさんです。真面目で実直な、そんなアーネストさんのことがわたしは大好きです」
「ああ、私も優しく情熱的な貴女のことが好きだ。これからずっとそばにいさせてくれないか」
互いに愛の言葉を送りあう。ふたりの生活がここから始まるのだ。
fin
そう呟いた自らの声さえ耳に届かぬほどごうごうと吹き付ける吹雪の中、男は立ち尽くした。
顔まで覆うようにきつく巻き付けた外套は薄手で防寒に優れているとは言えず、内に着た銀色に輝くよく磨かれた鎧はキンキンに凍てつき冷気が体を蝕む。
外套の背と鎧の胸部には西方主神教団のエンブレムが刻まれており男の所属が一目でわかるようになっているはずなのだが、雪がへばりつき全く見えなくなってしまっている。もっとも、そうでなくともこの吹雪では視界もままならないのだが。
「せめてどこか風をしのげる岩場か林があれば……」
男はそう声に出したつもりだが寒さで歯の根も合わず震える唇をわずかに開閉しただけにとどまる。
北方遠征ということで鎧の内に着こんでいるのは普段使っている冷気を伝えやすい鎖帷子ではなくたっぷり綿を詰めたクロスアーマーなのだがそれもこの寒さでは焼け石に水、体力は限界を迎え刺すように冷たくもベッドのように柔らかい新雪に抱き留められ男は意識を手放した。
ゆさゆさと揺れる感覚で意識が戻る。男が霞む視界とぼんやりとした思考で自分の置かれた状況を確認すると、どうやら馬に乗せられているようだ。
「……うぁ」
喉からかすれたうめき声が鳴ると、馬の手綱を引く女性が振り返る。
「ああよかった、目が覚めたんですね。雪の丘の真ん中に倒れていらっしゃったから心配しました」
近くに住んでいるのだろうか、親切にも行き倒れた男を介抱してくれたらしい。
「毛布にくるんで体の温まる薬湯を飲ませましたから、まだお休みになって大丈夫ですよ。とりあえずわたしの家に運ぶので、着いたら起こしますね」
先ほどより幾分か寒さが和らぎ体の内がぽかぽかと温かい気がしたのは薬湯のおかげなのだろう、この様子なら寝ても死には至らないだろうと男は判断し言われたとおりに瞼を閉じる。
「あ、そうだ」
と、思いついたように女性がまた振り返る。まるで恋する乙女のように頬を朱に染めると
「その、お名前だけ……訊いてもいいですか?」
「アーネスト……アーネスト・カーチス」
アーネストは心地よい揺れとぬくもりに意識をゆだねゆっくりと眠りに落ちていった。
「アーネストさん、大丈夫ですか?」
アーネストの目が覚めると簡素ながらも大きな寝台に寝かされていた。顔を覗き込んでいるのは大きく枝分かれした角を持つ
「ッ!魔物!?」
バネ仕掛けのように跳ね起き腰に手を伸ばすが剣はない。鎧も脱がされ身に着けているのは下に着ていた服のみだった。
ぐらり、と体が傾ぐ。部屋は温かいのだがまだ手足が冷えており思うように体が動かなかったのだ。
「大丈夫ですか!まだ体が温まり切っていないんです、今温かいもの持ってきますね」
そう言うと部屋を出ようとするがアーネストはそれよりも早く叫んでいた。
「醜いケダモノの施しは受けん!」
大きな角の魔物の表情がふっと寂しげに陰る。よくよく見ると先ほど馬の手綱を引いていた女性と同じ顔をしており、視線を動かすと彼女の下半身はたっぷりとした毛皮をもつ鹿の首から下ようだ。馬に乗せられていたのではなく彼女の背に乗って運ばれていたのだとアーネストは気づいた。
「……貴様が、私を助けたのか?」
「はい、あのまま雪原に置いていくわけにはいきませんでしたから」
アーネストが問いかけると角の魔物が答える。
「そうか……その、ありがとう、感謝する」
仮にも命の恩人に対して醜いケダモノ呼ばわりしたことに対して罪悪感を覚えながらアーネストは感謝の言葉を口にする。しかしアーネストは主神教の敬虔な信者であり、主神教団の兵である。アーネストの胸中には葛藤が生まれていた。
「あの、体をきちんと温めるためにはしばらくわたしの家でお世話させてもらう必要があります……でないときっと死んでしまいます」
そう言って魔物は部屋を出ていこうとする。
「名前」
「え?」
「命の恩人である貴女の名前を教えて欲しい」
アーネストが葛藤を抑えるような複雑な表情で言うとニコッと魔物が笑う。
「ベルザです」
ベルザの春の日差しのような暖かな笑みにアーネストの罪悪感は幾分か和らげられたのだった。
ベルザに助けられて3日目の朝、アーネストは悩んでいた。ベルザは命の恩人ではあるが、主神教団の教義では悪と定められている魔物であり、そもそもアーネストは教団兵として北方に魔物の征伐のために向かう途中で遭難したのだ。本来であればベルザのような魔物を討つのがアーネストの仕事である。
「私は、どうすれば……」
行き場のない視線をベッドからゆっくりと部屋に向ける。簡素な寝台以外はクローゼットが一つあるだけの質素な室内。
ベルザが部屋を出入りする際にドアから伺ったところ居間も物は少なく、広さも寝室とさほど変わりはない。アーネストは主神教徒として清貧を重んじており、この慎ましやかな生活ぶりは好ましかった。物心がついて以来毎日の祈りも欠かしたことがなく、貧しくもコツコツと教義を順守した毎日を送っていたアーネストにとって主神教団の教義こそが生活のすべてだったのだ。
しかし教義では魔物は悪であり、討たなくてはならないという。
ぐるるるるるぅ……
獣の唸り声じみた音で腹が鳴る。アーネストはいくら命の恩人でも魔物に出された食べ物を取ることはできないとベルザの持ってきた料理をすべて断っていた。
断るたびにそれでは体が温まらず弱ってしまうとベルザは悲しげな顔をし、恩人の厚意を無碍にしていると思うとアーネストはちくりと罪悪感をまた刺激されるのだ。
頭を回しベッド脇に目を向けるとそこにアーネストの鎧と剣が置いてあった。
この剣と鎧はアーネストのすべてだ。幼いころからコツコツと剣術を学び、主神の剣として世の平穏を守るその力の一助となる事に人生を捧げてきた。ようやく教団の兵として勇者を筆頭とする聖騎士団が指揮を執る大規模な遠征に参加できると決まった時には喜びで総身に震えが走ったほどだ。
命の恩人といえども相手は魔物だ、討たねばならない。
アーネストは覚悟を決め、剣に手を伸ばす。グッと力を込めると体が冷えているせいだろうか剣を握る力があまり入らない。そういえばベルザはこの二晩、夜は冷えるからと心配して寝るときに子供をあやすように手を握ってさすってくれたなとアーネストは思い出し、それを振り払うように剣を鞘から抜き放ち一振りする。
くらりと少しバランスを崩しふらついてしまったが、ゆっくりと深呼吸をしてドアに向かう。
手にした剣が重い。決して体調のせいだけではないだろうが、それでもやらねばなるまい。それが今までアーネストのかけてきた人生だった。
立っているだけでも目が回るようで手足の感覚が鈍い。ドアの前に立ち、腹に力を込めてドアノブに手をかける。
ドアを開くとむあっとするような湿気と熱気が圧を持って顔にぶつかり、女性特有の甘酸っぱい香りを汗で煮詰めたような強い獣臭が目に染みる。
視界に飛び込んできたのは上半身裸になり汗を拭くベルザの後ろ姿だった。外で力仕事でもしてきたのか雪のように白く美しい肌は上気し真っ赤に染まり、さながら雪解けに咲く花のように視線を吸い寄せる。
たわわに実った胸は背中越しでも強い主張を放ち、綺麗に筋の通った背やすらりとくびれたウエストとの対比がアーネストを誘惑する。
あまりのことに思考が麻痺した。ぼんやりした視界にはもうベルザの裸体しか映っておらず、呼吸をするたびにフェロモンが脳に焼き付きアーネストの獣欲を猛らせる。
ガランッと大きな音を立てて手から剣が落ちるがアーネストの耳には届かない。着ている服を脱ぐのももどかしそうにベルザに駆け寄る。
剣が床を転がる音に気づきベルザが振り返るころにはもうアーネストは服を半分脱ぎベルザの尻に手をかけていた。
「え?きゃあっ!アーネストさ、んひぃい!」
アーネストはどこにそんな力があったのか、ベルザの背を上から抑え込むように組み伏せ猛るモノをベルザの膣に突きこんだ。
「ぐ、くぉおお……」
大粒な肉襞が幾重にも一物を舐め上げ絡み付く。自慰すらまともにしたことのないアーネストは脳に鋭く響くような快感に堪らず射精してしまうが構わず腰を動かす。
「ん、くひぃ!そん、なぁ!アー、ネストさっ、んはぁ!いきなり、乱暴ですぅ!」
口では抗議するもベルザは尻を突き出すように前足を折り、テーブルに手をついて体を支えアーネストを迎え入れる。
「あ、はぁんっ!くふぅっ」
ただ腰を振るだけの不器用な行為だがベルザの口からは嬌声が漏れ、ぶちゅぶちゅと肉と粘液の絡む水音をかき消す。
「んぁあ!アーネストさっ、もうっ、私の、ことぉ!醜いぃけっ、ケダモノなんて、言ってぇ!アーネストさんのっほうがっ!ケダモノぉ、なんっですっ、からぁん!」
ベルザの体は熱を増し湯気がもうもうと立ち上る。その香りにあてられたようにアーネストはベルザの背にしがみつくようにして腰をさらに激しく打ち付ける。
「はぁん!あはぁ、アーネストさん、アーネストさっ!んくぅ!そこっそこぉ!い、いいですっ!もっとしてぇ!」
アーネストの腰に尻を押し付けるようにベルザが腰をゆすり、二人は高まっていく
「フッ、フゥーッ!フゥーッ!ぐ、くぅうぅう!!!」
「あ、ハッハッ!い、イきッ!イきまひゅっ!あっあぁっ!い、イッくひぃぃいいい!!!」
どくり、どくり、と男根が脈打つのに合わせ二人はビクンビクンと体を大きく痙攣させる。
長い長い一瞬を経て二人の体は離れる。ゼェゼェと荒い息を吐き出しながら後ずさったアーネストの目の焦点がふっと一瞬合い、自分の置かれている状況を理解したのか火照った顔がさっと青ざめるのもつかの間、振り向いたベルザがグイと抱き寄せ強引に唇を重ねる。
「〜〜〜!?」
「はむっ、んちゅ、ぴちゃっはふぅ……じゅる」
ベルザの体は異様に火照っており、唇はおろか漏れだす吐息さえも熱を持っているようでたっぷりと舌を絡めながらの熱烈なキスでアーネストの思考は蕩かされてしまう。
再び思考もままならなくなったアーネストはもどかしいのかがっちりと抱き寄せられ密着したベルザの腹に腰をこすりつ始める。
腹にこすりつけられる感覚にうっとりしながらベルザはアーネストの竿を右手で撫で扱き始めるとビクビクとアーネストの腰が震える。
「んむぅ、ちゅむっじゅる……ちゅるっ」
「ふ、はふっ……ふちゅっ、ぴちゅっ」
互いにたっぷりの唾液を交換し合う湿った音にちゅこちゅこと愛液で濡れた怒張を扱く音が重なり合い空間そのものが熱を孕んで満ちる。
「ふグっ、ん、むぅぐっぅうう!!」
アーネストの腰がひときわ大きく跳ね、ベルザの手と腰に向け吐精する。三度目とは思えぬほどの勢いと量が脈動しながらベルザを汚し、ベルザは満足げに笑みを浮かべる。
「んふっアーネストさん、三回目なのにすごい量……ん、ちゅるっ」
アーネストから唇を離したベルザは手から肘にまで垂れた白濁を舌で掬い取るようにゆっくり舐め上げる。そのあまりにも淫靡な表情と煽情的な所作にアーネストの目は釘付けとなり、再び股間に熱が集まりそそり立つ。
「じゅるるっんはぁ、とても濃いですぅ……お腹にもこんなに沢山出してくれたんですね。んっんぐっ」
ベルザは手と腹にかかった精液をすっかりきれいに掬い舐め取り、ごくりごくりと大きく喉を鳴らして飲み下すと、ゆっくりとアーネストに背を向けて腰を突き出し尻を左右に振ってアーネストを誘う。
「アーネストさぁん……わたし、はぁっ、さっきの、さっきみたいに激しいのがまた欲しいですぅ……」
口調も、目つきさえもアーネストに媚びている。アーネストはもはや考える余地もなく再びベルザの尻に手をかけ自身を膣に突き挿れる。
二匹の獣の交尾はまだ長引いてゆく……
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
二人の情事が終わり体を清めるころにはすでに夜になっていた。ベルザの体温でアーネストの体もすっかり温まってはいたが、流石に三日間何も食べ物をとらない訳にもいかないだろうとベルザは料理をふるまった。
「さて、私はこれからどうしたものか……」
アーネストが深刻そうな顔で吐き出すとベルザはちょっと驚いたような表情で答える。
「あら、責任を取ってわたしと暮らしてくださるんじゃないんですか?」
むすっとしたように頬を膨らませてみるベルザを見て大人びて美しい見た目よりも少女らしい性格をしているのだなとアーネストは思った。
「いや、それはそうだがそうでは無くて……私の生活は主神教の教えがすべてだったから」
魔物と契るということは主神教の教えを真っ向から破るということ。自らの今までの生活をすべて否定することになるとアーネストは悩んでいるのだ。
「……主神の教えの魔物って、どんな風に言われているんですか?」
「それは……人を誑かし破滅させ、時に食い殺すと」
「じゃあわたしはその魔物とは違います。だってわたしが大事なアーネストさんを破滅させたりなんてしませんから」
あっさりとベルザが言ってのける。
「……」
アーネストがあっけにとられていると、それにとベルザが付け加える。
「わたし、お肉はあまり好きじゃないんです」
ウィンクしながらそんな冗談を言う。アーネストはふっと吹き出し、幾分か気が楽になったように思えた。
「どんなことがあったってアーネストさんはアーネストさんです。真面目で実直な、そんなアーネストさんのことがわたしは大好きです」
「ああ、私も優しく情熱的な貴女のことが好きだ。これからずっとそばにいさせてくれないか」
互いに愛の言葉を送りあう。ふたりの生活がここから始まるのだ。
fin
19/04/30 16:34更新 / U徳