連載小説
[TOP][目次]
第壱話-始まりの日-
「お前は私の言うことを聞いていれば良いんだ」

僕はそれが嫌だった。
誰かの言いなりになって生きていくのでは無く、自分で考え、行動したかった。
しかし、立場がそれを許してくれない。王子という立場ではあったが養子である為、僕には大した権利は無い。
今日もまた言われた事だけをこなしていく1日が始まる。

「デイル様、おはようございます」
「ぁあ、おはよう」

僕は専属のメイドという名の監視人に朝の挨拶をした。

「本日は政治についての座学、貴族・教団との−−−」

教団という言葉を聞いて顔が険しくなってしまった。

教団は嫌いだ。あのふざけた教えの所為で−−−

「デイル様どうなされました?」
「……いや、何でもないよ」
「なら良いのですが……」

我に返って、再度考え込んだ。そして誰に言う訳でもなく呟いた。
まるで自分に言い聞かせるように。

「……明日か」


僕は今、部屋でカバンとにらめっこをしている。
昨日も確認したのだが、心配になったのでもう一度確認していた。

「よしっ」


−コンコン−


急いでカバンをベッドの下に隠す。

「失礼します。そろそろパーティーが始まるので呼びに参りました」
「ありがとう、すぐに行くよ」

僕はメイドと共に会場へと向かった。

パーティーには国内の多くの貴族や権力者がいた。
強い者に弱い者が媚びを売っているのが否でも目に付く。
彼等を冷たい眼で一瞥した後、とある一団を見た。


――教団の人間だ――


主神を信仰し、その教えの従い、魔物の存在を否定するように殺し、
僕の人生をめちゃくちゃにした彼等が僕は最も嫌いだった。

しかし、今日でこんな生活とももうお別れだ。
これからは自分の意志で生きていこう。夢を実現する為に。
僕の夢、それは人間と魔物が手を取り合って安心して
暮らす事の出来る場所を作る事だった。

僕は養子になる前の頃、人間も魔物も関係無く生活していた。
しかしそんな日常が教団の手によって壊されたのだ。
ある日、山から山菜を採って帰ってくると、村が燃えていた。
辺りは血の匂いが充満していて、吐き気がした。
急いで村へ駆け込んだが、見つけたのは死体だけであった。
教団の服を着た死体が混じっていたので、教団の仕業だとすぐ判った。
悲しいことのはずなのに不思議と涙は出なかった。
それから一人であても無く歩き、倒れていた所を
キンバリーという貴族の家に拾われて、そのまま育てられた。
キンバリーは貴族には珍しく、謙虚でとても優しかった。
自分で言うのもあれだが、僕は要領が良く、顔立ちも悪くなかったので、
国王が養子に欲しいとに申し出た。
国王の申し出を断る訳にもいかず、キンバリーは僕は養子に出された。
当然そのことでキンバリーさんを恨むことは無かった。むしろ感謝しているくらいだ。
国王は恐らく僕を他国との政略結婚の道具にしようとしたのだろう。
それからは国王によって管理された。
一度逃げようとしたが捕まってしまい、監視されるようになってしまった。

僕は今日、夢に向けて一歩前進しようとしていた。
パーティーから抜けて部屋に戻ると、ベッドの下に隠していたカバンを手に
部屋から飛び出した。
そう、僕は今日この国を出ようとしていたのだ。

部屋から出るとすぐ専属メイドに見つかってしまう。

「何処へ行くのですか?」

咄嗟に彼女の背後に回り込み、
首に当て身を入れると支えを失い、膝から崩れ落ちていった。

「ごめんね」

謝りながら受け止め、そっと横にしてから走ってその場を後にした。
城外までたどりつくまでに、メイド2人、巡回兵2人、警備兵4人を
手刀で昏倒させた。そろそろ騒ぎになる頃だろうか。
急いで国外へ出る為の門に向かうと、案の定門は堅く閉ざされて
4人の門兵に10人の警備兵が駆けつけていた。
流石に普通に門を開けて出て行く事は無理があり、僕は数秒思案した。

「デイル様、あなたを一時捕縛させていただきます」
「流石にこの数はきついなぁ。門を開けて通して貰えると助かるんだけど……ダメかな?」
「残念ですが、国王の命令ですので」
「やっぱダメだよねぇ、仕方ない、使いたくなかったけど」

僕は右手に魔力を溜め、人間大の水の塊を生成した。
兵達は僕が魔法を使えたことに驚き、隊が乱れた。
その隙をデイルは見逃さず、1人の兵に向かって水塊をぶつけた。

「水よ 彼の者を捕らえよ 水の檻」

言霊に応じて水が応呼し兵を閉じ込め、そのまま自分の方へと引き寄せた。

「まずいっ」 「くそっ」

残った兵が焦り、身動きがとりずらくなったのを確認すると交渉してみた。

「この人を助けたかったら門を開けてくれないかな?僕も人殺しはあんまりしたくないんだ。
それに君達には僕を取り逃がしても実害は大して無いと思うよ。
それともこのまま仲間を見殺しにする?」
「くっ」
「早くしないと死んじゃうよ?」

僕は冷酷な眼で水の中でもがき苦しんでいる兵を見ていた。

「……分かりました。門を開けます」
「うん、ありがとう」

閉じ込めた兵の顔だけを水から解放してあげ、

「ゴホッゴホッ、ゴホッ……ハァ……ハァ」

苦しんでいる兵に心の中で謝りながら、門が開くのを待った。


−−ゴッゴゴゴゴゴッ−−


門が開いた音が聞こえると残りの兵を下がらせて門をくぐってから魔術を解いてあげる。
そのまま僕は闇へと溶けるように消えていった。


カバンには食料、水、マッチ、薬、ある程度の貨幣を入れてきた。
まず、人が住んでいる場所を目指して歩く。
事前に地図で確認したので、大体二日で着くことが分かっていた。

「しかし、一人で歩き続けるのは暇だな〜」

などと独り言を時折呟きながら、国から解放されてから半日歩き続け、
休息をとる場所を探してから小一時間程で川を見つけろことができた。

「あの川の近くで一度休むか……」

しばらくして川の側まで来ると水は想像以上に綺麗だった。
早速水を飲んだ。あぁ、美味しい……。そうだ、ボトルにも補充しておこう。

「色々あったから疲れたな…ふぁ〜あ、少し寝るか……」

カバンを枕にして昼寝をする。
そんな僕に一つの影が忍び寄ってきていた。
12/01/12 13:37更新 /
戻る 次へ

■作者メッセージ
読んで頂きありがとうございました。
これからも精進していきたいと思いますのでよろしくお願いします。
感想頂けるとありがたいです(というかすごくうれしいです)

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33