読切小説
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冴えない男が一念発起した結果
とあるSNSグループ内の通話にて


りっきぃ「最近ヒマな時間増えたわー。なんか面白いことない?」

ぼりー「なんでそんな斜に構えた態度なんだよ! どうしてやる気ないんだよ!? もっと熱くなれよおおおお!!」

りっきぃ「いや、なんで某氏のネタをぶっ込んできた?」

キョリチカ「ヒマ? それはお前が怠惰だからよ? 時間を持て余すくらいなら筋トレしろ? そして細マッチョになれよ?」

タタラ「そうだそうだ。りっきいの万年童貞チキン野郎が」

キョリチカ「そうだそうだ。りっきぃの万年童貞チキン野郎が」

ぼりー「りっきぃがフクロ叩きにされててワロタ」

りっきぃ「テメェら、そろいもそろって……。もっと言葉責めして☆」

ぼりー「あ、ダメだこりゃ。コイツマゾやったわ」

りっきぃ「まぁ冗談はこれくらいにして」

りっきぃ「マジで最近ぼーっとする時間が増えたんだよね。今期の目ぼしいアニメも見終わったし、買ったラノベも片端から読み込んだし」

タタラ「ほうほう」

りっきぃ「ぶっちゃけると、自宅にあるゲームもほぼクリアしちゃったし」

キョリチカ「お前……。ゲームするヒマあったら筋トレしろよ」

りっきぃ「うん。至極正論なんだけど、何故に筋トレをそんなに勧めてくる?」

ぼりー「まぁまぁ。それでやることなすこと全てをやり終え、残りはオナニーしか暇つぶしがなくなった君は、死んだ魚のような眼で新たな娯楽を探している訳だね?」

りっきぃ「言い方に凄まじい悪意を感じるが、まぁおおむねその通りだ」

タタラ「じゃあさ、外に出てナンパするってのはどうだ」

りっきぃ「俺にそんな度胸があるとでも?(キリッ)」

ぼりー「何故にそんな情けないセリフを自信満々に吐ける…?」

キョリチカ「でもよ、俺ら四人の中でりっきぃだけ女の気配はないよな」

タタラ「やね。顔だけはいのに」

ぼりー「だな。顔だけはいいのに。あ、実はりっきぃってゲイ?」

りっきぃ「お前ら……なぜ顔だけ、の部分ばかり強調するんだ? それからぼりー、君は少し黙っていろ」

キョリチカ「まぁこんな所で無駄話するヒマがあるくらいなら、さっさと行動した方がいいぜ。上がり症の残念なイケメン君?」

りっきぃ「痛い所突かれたー! チクショウが! もういいよ!(泣)」

タタラ「でも冗談抜きで、りっきぃはもう少し外に出た方がいい」

ぼりー「そうそう。速めに女捕まえないと、チンポ腐り落ちるぞ〜」

りっきぃ「いや、理屈では……頭では分かってるんだ…。このままじゃいけないって」

りっきぃ「でもやっぱりさ、女性といざ相対すると緊張するんだ…。何を話したらいいか分かんないっていうか……」

タタラ「24歳にもなって緊張するとか(笑)」

キョリチカ「高校生かよ(笑)」

りっきぃ「やべ。言ってることはその通りなのに、すげぇムカつく…」

ぼりー「全員煽っていくスタイルが標準仕様ですから」

りっきぃ「しかし皆の言うように、この歳にもなって独り身は寂しいな」

タタラ「バレンタイン、夏祭り、クリスマスはソロだとキツイだろう?」

りっきぃ「ああ……。イベント日にソロプレイは……凄く……苦しいです……」

りっきぃ「よし、俺は決めたぞ。今からネット検索して、参加できそうなコンパを探してみる!」

キョリチカ「おおっ!」

タタラ「りっきぃが遂に覚醒したか!」

ぼりー「幸運を祈る!」

りっきぃ「よし、やるぜ! やってやらぁ!」


二時間後。


りっきぃ「結果はファッキンだったよクソが」

ぼりー「何があったし」

タタラ「どした? 怖気づいたか?」

りっきぃ「いや、違う」

キョリチカ「なら失敗の理由は?」

りっきぃ「街コンの参加費が問題だ。女性が参加料1000円に対し、男性は参加料9000円。これ、あんまりじゃね?」

ぼりー「oh……」

タタラ「/(^o^)\ナンテコッタイ」

キョリチカ「え? ウソやろ?」

りっきぃ「マジだ。どこもかしこもそんなんばっか。男女平等社会を謳っておきながら、なんだよこの有様は。これだから日本は他の先進国からダメな子扱いされるんだよ」

ぼりー「しょがないよな。日本は海外と比べてそういう時代遅れな側面があるし」

タタラ「あと純粋に、金がない男をふるいにかける目的もあるんだろうな」

キョリチカ「女の心理としては、財布に余裕のある男の方がいいに決まっているしな」

りっきぃ「しがない派遣社員の俺にとって、9000円の出費は中々にキツイ」

ぼりー「オマケに高い金を払っても、コンパで知り合った女と付き合える保障はないし」

りっきぃ「ゼニのない男は消えろ、ってことか。トホホ……」

キョリチカ「元気出せよ。今度酒おごってやるから」

タタラ「……待て。人間以外に限ったら、また違う選択肢があるかもしれんぞ」

りっきぃ「ん? どゆことだ?」

ぼりー「っ、まさか」

タタラ「そうだ。魔物娘なら、あるいはイケるかもしれん」

りっきぃ「魔物娘? それってここ数年で噂になり始めた、あの?」

タタラ「YES」

キョリチカ「あくまで噂だが、この世とは異なる次元からやってきた知的生命体らしい」

ぼりー「りっきぃも知ってる思うが幾つか特徴を挙げるぞ。まず魔物娘は、人間とは異なる容姿をしていることが多い。アニメやゲームで見かけるモンスターが、擬人化したような見た目と言えばイメージしやすいか」

りっきぃ「ああ。種類も様々でスライムやドラゴン、ゴーレムにドラキュラ、果てにはクトゥルフ系統の魔物娘もいるみたいだな」

タタラ「噂、という事が前提だがな」

ぼりー「そして彼女達は、その見かけとは裏腹に友好的だ。言葉はちゃんと通じるし、人間に対しても非常に気さく。余程のことがない限り暴力も振るわない。そしてそのほとんどが美人ぞろいでエロい事が大好きだ」

りっきぃ「男の欲望を具現化したかのような存在だな」

キョリチカ「それでタタラ、その名前を出したのには何か理由があるのか?」

タタラ「ああ。つい最近、面白いゴシップを拾ってな」

りっきぃ「ゴシップ?」

タタラ「○○市○○駅の近くにある小さな古本屋。そこで魔物娘を呼び出せる魔本が売っているらしい」

りっきぃ「○○市○○駅……それって」

タタラ「ああそうだ。りっきぃ、お前が住んでいる街のすぐ近くだ」


それから二日後。

りっきぃ「やったぜ」

ぼりー「まじで例の本屋に行って来たのか」

りっきぃ「ああ。噂に聞いていた通りの本が普通に売ってた。しかもこれ見よがしに店頭に置いてた。値段も690円と手ごろだったよ」

ぼりー「690円って。ラノベかよ」

キョリチカ「もう召喚の儀式を試したのか?」

りっきぃ「いいや。今からだ。中を読み終えてから行おうと思ってたから」

タタラ「ちなみに内容はどんな感じだった?」

りっきぃ「……分かりやすい程のエロに満ち溢れていた性生活指南書だったよ。女を喜ばせるにはアレをしろだのコレをしろだの。まぁ題名が淫極の書、だから当然と言えば当然だが」

ぼりー「普通の書店に置いてあったら発禁処分を食らいそうなタイトルだな。ある意味では確かに魔本だな」

タタラ「じゃ、早くやっちまおうぜ。もしかしたらホントに呼び出せるかもしれないし」

キョリチカ「実況付きで頼む」

りっきぃ「へいへい。しかしお前らもヒマだねー。日曜の朝っぱらからこんな茶番に付き合ってくれるなんて」

タタラ「茶番を行おうとしてる当人に言われたくねーよ(笑)」

キョリチカ「同じく」

ぼりー「同じく」

りっきぃ「何でお前ら俺を小馬鹿にするときだけ連携取れているんだよ」


十分後。


りっきぃ「儀式完了したけど、なんも起きね」

タタラ「あらら」

ぼりー「だめかー」

キョリチカ「聞いている感じ、工程は間違っていなかったぽいがな」

りっきぃ「ああ。魔本のカバー裏に描かれている魔法陣の上に自身の血か精液を塗り、呼び出したい魔物の種族や性格を想い浮かべる。しっかりとイメージが固まったら、呪文詠唱をして完了。イメージした魔物はサキュバスで、性格は甘えさせてくれるお姉さん系を所望」

ぼりー「ちなみにザーメンと血、どっち使った?(笑)」

りっきぃ「実況ちゃんと聞いてたのか。血に決まっているだろうがスカポンタン」

りっきぃ「んで肝心の呪文詠唱がこれ。我こい願う、思魂の鳴動、瞬来の隣接、汝が意思に依りて理を超えるならば、我が血を礎に境門を切り裂こう。かな」

キョリチカ「やっぱもう一度聞いても意味ワカンネ」

タタラ「五節詠唱とかカッコ良すぎる(笑)。アニメとかだったら上級サーヴァントが召喚されてそう」

ぼりー「呪文を無理矢理翻訳するぞ。私は願います。もし私に魂が心惹かれたなら、速く会いに来てください。貴女が空間を乗り越えて来てくれるなら、私の血を使って異界との門を切り裂きましょう。こんな感じか?」

りっきぃ「多分そう。てかよく翻訳できたな」

ぼりー「中二病要素結構好きだからな」

キョリチカ「しかしやっぱ噂は噂か。あーあ、なんか起これば面白かったのに」

タタラ「悲報。りっきぃ、振りだしに戻る」

ぼりー「こうなるだろうと予想はしてたがな」

りっきぃ「はああああああ!?」

キョリチカ「アッひゃっひゃっひゃっひゃ!! 騙されてやんの!」

タタラ「タネ明かししまーす! 実はあの噂、ほとんどガセでーす!! ヒャハハハッ!」

ぼりー「ホントに魔物娘が出てくると思った? その気になったお前の姿はお笑いやったぜ。ブヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

りっきぃ「よし分かった。お前ら全員今からシバき倒してやる。木刀引っ張り出すからそこで待機していろ」

ぼりー「ま、しょうがねぇよ。これで現実は甘くねぇって分かったろ?」

タタラ「そうそう。ウマい話にはウラがあるってもんだ」

りっきぃ「ちっ。わーってるよ。ホントは薄々気付いていたさ……」

ぼりー「どれ、りっきぃが時間を盛大にムダにした所でこの件はお終いだな。景気づけにカラオケいかね?」

タタラ「ああ、いいぜー」

キョリチカ「俺も今日は休日出勤命じられてないから空いてる」

ぼりー「社畜乙」

タタラ「さてりっきぃ。おちょくった詫びとして、カラオケ代くらいは出してやるよ」

キョリチカ「昼メシくらいならご馳走してやる」

ぼりー「ドライバーは任せろ。今日くらいはタクシー変わりになってやる」

りっきぃ「……。俺、やっぱお前らのことムカつくけど嫌いになれねぇわ」

タタラ「おっ、惚れた? でも悪いな。俺にはもう羽奈って女がいるんだ」

キョリチカ「おっ、惚れた? でも悪いな。俺にはもう夜衣って女がいるんだ」

ぼりー「おっ、惚れた? でも悪いな。俺にはもう多久美って女がいるんだ」

りっきぃ「訂正。俺やっぱお前らのことキライだわ」

ぼりー「さてと。じゃ、今から車とばすからしばし待たれよ。まずはりっきぃ、お前ン家に向かうわ」

りっきぃ「ああ、頼む。じゃあ今から用意」

りっきぃ「やば、マジヤバ」

キョリチカ「どした?」

りっきぃ「魔本が光ってる」

タタラ「またまたぁ」

りっきぃ「ウソじゃないなんかページがめくれてる」

ぼりー「脅かすなよ。そういうのホントビビるから」

りっきぃ「カギかけてないのに家の扉が空かない。 窓から逃げようとしてもダメだ」

りっきぃ「何かが変だ。閉じ込められた。本もすごく光ってる」

タタラ「おいマジか?」

キョリチカ「ああ。確かに変な音がスピーカーから聞こえてくる!」

タタラ「りっきぃどうなってる!?」

りっきぃ「本から風が! すごい風圧が! 助けてくれ! 引きずりこまれそうだ!」

ぼりー「りっきぃ!? 風音で聞こえないぞ! おい、りっきぃ!」

りっきぃ「今思い出した!」

りっきぃ「魔方陣に精液を塗った場合は儀式が即完了するけど、血を塗った場合は完了に時間がかかるって本の最終ページに書いてあった! そして向こうの住人に特に気に入られた場合は、こっちが異次元に引きずり込まれるって!」

タタラ「!? そんな情報、ネットにはなかったぞ!」

りっきぃ「ウソじゃない! 全部本に書いてあった!」

キョリチカ「てことは!」

ぼりー「ガチなのか?」

りっきぃ「光が! 光と風がさらに強くなっている! たす―」

ぼりー「りっきぃ? おい!?」

キョリチカ「返事しろ!」

タタラ「おいマジかよシャレになんねぇぞ」

キョリチカ「クソ! どうなってんだ!」

ぼりー「すぐに行く。だからりっきぃ、頼むから返事してくれ!」

ぼりー「おいりっきぃ!」


異界 某所

りっきぃ「ってて。ここは、どこだ?」

りっきぃ「見た所、古い教会の中みたいだな」

りっきぃ「にしても、さっきの光といい一瞬で変わった景色といい……。あの儀式、ひょっとして本物だったというのか?」

りっきぃ「しかしこれからどうしよう。持ち物と言えば電源の切れたスマホと、例の魔本だけだし……」

??「ああっ、本当に来てくれた! 私が想い描いた通りの男性が!」

りっきぃ「! あなたは!?」

??「あらあら、そう身構えないで。危害を加えるつもりはないの」

りっきぃ「黒い翼に、ハートマークの尻尾。そして常人離れした美貌……君は、まさかサキュバスか!?」

??「そうよぉ。その様子だと状況を完璧に呑み込めてないみたいね」

??「なら優しく教えてアゲル。その前に、私と婚姻の儀を済ませてからね」

りっきぃ「ちょっ! ええ!? 婚姻の儀!? それってどういう」

りっきぃ「わわっ、待って待って! いきなりズボンを下ろそうとしないで!」

??「あら。脱がされるより脱がす方が好きだったの? 分かったわ。じゃあ私の服を剥ぎとっていいわよ」

りっきぃ「いやそうじゃなくてまずはこの状況を説明してくれ!」

りっきぃ「あと後生だから勝手に服を脱ごうとしないでくれ! 俺まだ混乱してる最中だからさ!!」



現実世界 三日後。


ぼりー「やっぱダメだ。あちこち探したけど見つからねぇ」

キョリチカ「りっきぃの親や兄弟にもそれとなく尋ねたが、実家には帰ってきてないらしい」

タタラ「あいつの仕事場にも行ってみたが、無断欠勤が続いていて携帯にも連絡がついてないって」

ぼりー「なぁやっぱり」

キョリチカ「だよな。あの部屋の散らかり具合を見ると……」

タタラ「でもにわかには信じられないぜ」

ぼりー「肝心の魔本もなくなっているしな。どうする、これ以上の捜索は俺達だけじゃ限界があるぞ」

タタラ「警察に通報しても、ダメだろうな。鼻で笑われて終わりだ」

キョリチカ「なら探偵でも雇うか?」

ぼりー「それしか手がないよな。じゃあ、りっきぃ捜索の依頼に行くか?」

りっきぃ「呼んだかい?」

ぼりー「りっきぃ!」

キョリチカ「まじでりっきぃなのか!?」

タタラ「生きてたのか!」

りっきぃ「勝手に殺すなよ。けど皆、心配させてごめん」

ぼりー「全くだ! 今までどこに行ってた!」

りっきぃ「えっと、なんていうか、異世界?」

キョリチカ「はあああっ!?」

タタラ「冗談も休み休み言えよ!」

りっきぃ「いや、それが本当だ。どうやらあの儀式詠唱は向こう側の住民、つまり魔物娘への求婚に相当するフレーズだったらしい」

ぼりー「ほ、へ?」

りっきぃ「詳しく説明しよう。例の儀式は本物だ。厳密に言うと、あれは召喚術じゃない。呪文詠唱者と最も魂の相性が良い魔物娘が引き合わされるように施された、婚姻の儀式なんだ」

キョリチカ「おまえのいっているいみがわからない」

タタラ「ああ、りっきぃ……。異世界にキャトルミューティレーションされてついに脳味噌までいじくられてしまったか」

りっきぃ「ウソじゃないって! だいたいお前らは俺のことをバカにして」

???「りーくん、誰と話してるの」

ぼりー「!? 今の声は!」

りっきぃ「ああごめん、ウェルフリーデ。ちょっと友人に近況報告を」

ウェルフリーデ「友人? それって向こう側で話してくれた人達のこと?」

りっきぃ「そうさ。せっかくだから挨拶したら?」

ウェルフリーデ「こんにちは皆さん。私、サキュバスのウェルフリーデ。今はりーくんのお嫁さんで、とってもシアワセなの」

ぼりー「りっきぃ、お前……」

タタラ「イヤイヤ、もしかしたらこれはりっきぃが仕組んだ巧妙なドッキリかもしれんぞ」

キョリチカ「そ、そうだ。女の声だけだったらいくらでも細工はできるし」

ウェルフリーデ「あら? 疑り深い人達ね。なら証拠として魔法をお見せするわ」

ウェルフリーデ「私の合図で貴方たちのすぐそばに大量の金貨を落としてあげる」

りっきぃ「え、そんなことできるのかい?」

ウェルフリーデ「簡単よぉ。このケータイデンワって、向こうにある魔導通信器具と似てるもの」

ウェルフリーデ「発信されている電波の通路を解析魔法で読み解いて、彼等の居場所を逆探知できたわ」

ウェルフリーデ「じゃ、行くわよ。いち、にの、さんっ!」

ドザザザザザザザザ!

ぼりー・タタラ・キョリチカ「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!??」」」

ウェルフリーデ「物質転移魔法はちゃんと上手くいったみたいね」

ぼりー「え、なん、これ、え?」

キョリチカ「マジなのかこれ? 俺、夢見てるんじゃ」

タタラ「ほっぺつねったけど夢じゃないこれ。本当の純金だ。すごくキラキラしてる」

ウェルフリーデ「その金貨は私とりーくんを引き合わせるきっかけを作ってくれた、アナタたちへのほんのお礼」

ウェルフリーデ「換金所へ売れば、決して少なくないお金になるはずよ」

りっきぃ「俺からも礼を言わせてくれ。皆ありがとう。皆が背中を押してくれたおかげで、とても素晴らしい女性に会うことができた」

りっきぃ「そして申し訳ない。俺、次皆にいつ会えるか分かんないや」

ぼりー「それってどういうことだ!?」

りっきぃ「向こう側とこちら側では、次元壁の影響で時の流れが違う。こっちではあの時から三日経過しているようだが、向こうでは既に三年の歳月が流れているんだ」

タタラ「ッ、そんなおとぎ話みたいなこと……」

りっきぃ「それが有り得るんだ。俺は今、インキュバスという種族になっている。見た目は人間だが、彼女と同じように魔法という超自然現象を使えるようになっているんだ。そしてウェルフリーデは既に俺の子を身籠っている。ついでに言うと双子だ」

キョリチカ「彼女がシアワセって言ってたのはそういう意味か」

タタラ「ちゃっかり魔物娘とパコパコして種付けって、マジパネェ。りっきぃやる時はやるんだな…」

ぼりー「しかし魔法って…。なんだか話が飛躍しすぎて追いつけないぞ」

りっきぃ「無理もない。そして会いに帰ってくるのが難しいというのは先に述べた次元壁があるからだ」

りっきぃ「これを超えるには次元跳躍という魔法を使う必要がある。しかしこれは使用難易度が滅茶苦茶高い魔法だ。今回は運よく元の時間軸に帰ってこれたが、次も上手くいくとは限らない。実際、これまで何度も失敗して魔力枯渇に陥った」

ぼりー「じゃ、じゃああの魔本は!? お前が使った魔本で行き来はできないのか!?」

りっきぃ「あれは一回限定の跳躍魔法だ。そもそも本来あの魔本は、次元壁によって分かたれた運命の相手と恋が成就できるよう、愛の神が現世に落とした本なんだ。結ばれた俺達の前には、あの魔本はもう現れない。ちなみにこの知識や魔力の扱い方は、向こうでウェルフリーデが教えてくれた」

キョリチカ「だから今回が最後の会話になるかもしれないということか……」

タタラ「ちなみに魔力枯渇ってなんだ?」

りっきぃ「……例えるなら栄養失調の極悪バージョンだ。少なくともウェルフリーデの補助なければ、俺は何度も天に召されていただろう」

ぼりー「うん、魔法行使に相応の代償があるのは分かった」

りっきぃ「理解が速くて助かる。さて、俺はこれからこちらでやり残したことを急いで片づけていく」

りっきぃ「職場に無断欠勤の謝罪と退職の表明。そして両親と兄弟に、結婚の報告。その他諸々の雑務をさっさと完遂させなければならない」

ぼりー「待ってくれ。これが最後になるかもしれないんだろう? なんでそんなに焦っているんだ?」

ウェルフリーデ「ごめんなさい。それは私の出産が近いから」

ウェルフリーデ「いつ赤ちゃんが産まれるかも分からない状態で、こっちに留まっているのは相応のリスクがあるの」

りっきぃ「理由を言うよ。こちらはあちらと比べて、大気中の魔力濃度が非常に薄い。そして魔力がちゃんと大気に満ちていない中では、魔物娘は健康に生活することができない」

りっきぃ「ウェルフリーデは成長した魔物娘だから今だけならあまり問題は無い。けど、体力の低い赤子にとって魔素が薄いのはそれだけで大きな負担なんだ」

ぼりー「よ、よくわかんないが、お前が必死なのは理解できた」

りっきぃ「すまない。じゃあ皆、こんな別れで申し訳ないけど本当にありがとう。俺、皆と友達になれてとても楽しかった。皆のお陰で、これまでの人生は退屈しなかった。だから、またな!!」

ウェルフリーデ「皆さん。重ねてお礼を言うわ。私とりーくんの橋渡しとなってくれてありがとう! 本当にいくら感謝しても足りないわ!」

りっきぃ「次会えるかどうか分からない。それでも、皆とバカ騒ぎした思い出は決して忘れないから!」

キョリチカ「おう! いつでも戻ってこいよ! 美味い酒持って待ってるからよ!」

タタラ「今度来るときは、元気に育った子供見せてくれ!」

ぼりー「お前のこと忘れねぇから! いつも俺達を笑わせてくれたお前のことを!」

りっきぃ「ああ! ありがとう! じゃあ皆、達者で!」

ブツッ。ツーツーツー……。

ぼりー「行っちまったなぁ…」

タタラ「なんか寂しくなるな」

キョリチカ「でもあいつはしっかり自分の道を選択したんだ。なら、見送ってやろうぜ」

ぼりー「そだな」

タタラ「ああ」

キョリチカ「じゃ、あいつの新しい門出を祝って今日は飲みに行くか」

ぼりー・タタラ「「賛成だ」」





ウェルフリーデ「次元跳躍の魔法準備、できたわよりーくん」

りっきぃ「………」

ウェルフリーデ「やっぱり名残惜しい?」

りっきぃ「うん。なんだかんだありつつも、俺が産まれた世界だから」

りっきぃ「親や兄弟、友人達を残して旅立つのはやっぱり後ろ髪を引かれるよ」

りっきぃ「でも俺は決めたんだ。これから先の人生は君と共に歩きたいって。君が俺に与えてくれた幸せや喜びは、これ以上ない程大きかった。だから俺は、君にその恩返しがしたい」

ウェルフリーデ「幸せを貴方から貰ったのは私も同じなのだけれど。でもそう言ってくれると嬉しいわ。じゃあこれからも末永くお願いね、旦那様」

りっきぃ「ああ喜んで。いつまでも一緒にいよう、ウェルフリーデ」



19/04/06 22:59更新 / 風車小屋

■作者メッセージ
このお話は、友人達と交わしたLINEのやり取りを元に発想を得たSSです。
登場人物のモデルは流石に友人達ではなく、架空の存在を使いましたけど(笑)
そして書き終わって気付きましたが……これと似たようなネタ……もう誰かが使っていそうだなぁ(遠い目)

まぁいっか。作っちゃったものはしょうがないし、大目に見てくれると嬉しいです。さて、次作は止まっている連載の続きを書くか、はたまたエロを濃縮した作品を書くか考え中です。
何が出来上がるかは、女神エロスのみぞ知る。
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございました!

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