稲荷日和
三月三日。立春の温かさと、ひなまつりの賑わいが世間を包む時期。そういった街の喧騒から離れた場所にあるマンションの一室、そこに一人の男がいた。
部屋の間取りは一人暮らしにしては広く、ダイニングとリビングが統合された居間は整頓が行き届いている。壁に掛かっているアナログ時計の針は、十六時を指し示していた。
暖色系のランプが照らす男の顔は、どこか思案に暮れている様子である。
椅子に腰掛ける彼の容姿は平凡。柔和そうな顔立ちに短く切り揃えた黒髪、そして中肉中背の肉体。
しかしその瞳には、ある種の強い決意が宿っていた。
テーブルの上には下ごしらえの済まされた野菜や肉、調味料といった食材が並んでいる。これらは全て、男が厳選した供給業者からのみ仕入れた食品である。
彼は切り分けられた材料を眺め、顎に手をあてる。ここからどのような行程で調理すれば、どのような香辛料と組み合わせれば、食材の持ち味を限界以上に引き出せるだろうかと。
若さの中に垣間見える職人特有の顔立ち。男は一級の腕前を持つ料理人でもあった。
そして今夜。
彼は居並ぶこの食材を存分に使い、愛する女性へ自分の全力を込めた馳走を供するつもりだった。何故なら今日は―。
不意に聞こえるチャイムの音。
男はハッとすると、弾かれたような速度で玄関の方へ歩いて行った。
男が玄関に辿りつくのと、施錠が開かれたのは同時だった。
合鍵を使って入ってきたのは、腰から四本の尻尾を生やし、頭頂部にふさふさした三角形の耳を持つ魔物娘。稲荷だった。淑やかな雰囲気と美しい色香を漂わせる彼女は、その身を巫女服で包んでいた。
白い小袖と緋袴のコントラストは大和撫子の魅力に満ちており、ある種の壮麗さを見る者に抱かせる。
「やぁ、いらっしゃい」
「お邪魔致します」
男は手を差し出し、女は顔を綻ばせてその手を取る。
二人は種族の垣根をものともしない恋人同士であった。
靴を脱ぎ扉の鍵を後ろ手で閉めた稲荷は、薄く紅潮した顔を少しずつ男の顔に近づけていく。
慕情を焦がしつつも、一歩踏み切れない生娘のような所作。
彼女の意図を察した男は、その細い腰に両腕を回しそっと抱擁を交わした。
どちらともなく目をつぶり口先を合わせる。最初は触れるくらいに軽く、やがては舌そのものを絡め合わせる熱烈なものに。
密着した肌からは体温と心音がお互いを行き来し、二人の興奮は高まっていった。
目を閉じて感じられるのは相手のぬくもり。室内にまで這いよって来る夕暮れの寒さも、多幸福感に包まれた二人の前では形無しだった。
時間にしては数分だろうか。キスを堪能した恋人たちは唇をゆっくり離し、目と目を交錯させた。
「お会いしたかったです」
「僕も会いたかった。君にこうして触れたかった」
抱擁を解かぬ二人は、熱に浮かされたような赤ら顔で語らう。
稲荷は神職としてひなまつりの時も忙しく、男も務めている料亭が繁忙期なので彼女に会いに行く時間がなかったのだ。
二人が離れ離れになっていた日数は数日間だが、彼らにしてみればそれすらも非常に長くて、待ち遠しい時間であった。
再会してすぐに熱い接吻を交わすのも、無理からぬことだろう。
「仕事ご苦労様。疲れてないかい?」
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です」
あなたに抱きしめられたお陰で、疲労など消えちゃいましたから。
悪戯っぽい笑顔で稲荷は男の胸に顔をうずめる。女はそのまま自分の頬を男の胸板にゴシゴシとこすり付けた。貴方は自分だけのモノだと、マーキングするかのような振る舞い。
一連の所作に、男の鼓動は段階飛ばしで速くなった。
「……殺し文句だね。君にそんなことを言われると敵わないや」
「ふふっ。好きな殿方にくっつくだけで疲れが霧散するのは、魔物娘の特権ですから」
得意げな様子で語る稲荷は、上目遣いで男を見遣る。
至近距離で稲荷の美貌を独占する彼は、素直な感想を口にした。
「いつ見ても綺麗だ」
「そう言って下さると嬉しいです」
恋人からの賛辞に稲荷の耳はピコピコ動く。小動物的な愛らしさに対し、はにかんだ笑みを男は隠すことができない。
一方の稲荷も、顔は蒸気が出そうなくらいに赤い。落ち着いた性格の彼女だが、少々恥ずかしがり屋な面もあるようだ。
だが綺麗なのは紛れもない事実。むしろ彼女の眉目秀麗さは、綺麗などという単語一つで片付くものではない。
道ですれ違えば、千人中千人が美しいと認める稲荷の美貌。常識の外に理を置く種族だからか、魔物娘には尋常ではない魅力が漂っている。
しかしそんな彼女の視線は自分にだけ向けられている。自分だけが、こうして彼女をかき抱くことができる。
男性という生き物からすれば、美人を独り占めできることは十分に特権と言えよう。
心奥に巡る幸せを感じつつ、男は彼女と過ごしてきた生活を脳内でリフレインさせた。
二年以上前の初夜、恥じらいながらも自分へ純潔を捧げてくれた。
疲れている時や悩んでいる時は、そっと寄り添って苦しみを分かち合ってくれた。
僕の成功を自分のことのように喜び、一緒に笑ってくれた。
なんて、愛おしいのだろう。
泡のように浮き上がった想いのまま、男はたくましい右腕で稲荷の柔らかな髪をなで始めた。最上位の絹にも伍する、軽やかな髪の手触り。しかしこれすらも、彼女の大きな魅力を構成する一要素に過ぎない。
優しい手つきの愛情表現に、女は甘い吐息を漏らして男へより一層くっつく。
それに伴う形で、稲荷の柔らかな双丘が男の胸にくっついた。
振袖越しにも関わらず、むにゅりという擬音が聞こえてきそうな乳房の柔らかさ。
生の手触りを知っている彼は今すぐにでも彼女の服を剥ぎ、その豊かな胸を鷲掴みにしたい衝動に駆られる。
目の前の女性はそれすらも受け入れてくれるだろうが、ここはまだ我慢だ。
行為に及ぶのは後回し。仕事が終わって間もない恋人を押し倒すのは、紳士としてよろしくない。
それにこういうのは、お互いの気持ちがさらに昂ってからの方がいい。その方が情事も盛り上がるというものだろう。
早くも暴れ出した性衝動を宥めつつ、男は腕の中で心地よさそうにしている女へ語りかけた。会話を続けることによって、劣情から気を逸らすためだ。
「こうして抱き合っていると、君のことが直に感じられる。体温、呼吸、魔力の流れから、わずかに立ち昇る香りも」
「ッ! に、臭いましたか?!」
稲荷が慌てた様子で顔を上げたが、男は首を横に振った。
「ゴメン、そういうつもりで言った訳じゃないんだ。ただ凄くいい匂いだよって、いつまでも抱きしめていたいよって、教えたくて」
「ほ、ホッとしました」
「君が慌てるの、少し久ぶりに見たかも」
「もう。茶化さないで下さい」
頬を膨らませる稲荷はどこか子供っぽい。普段の大人びた様子とは対照的なギャップ差に、男は背すじがくすぐったくなる。こんな彼女を見ていたら、またからかってしまいそうになるので男は話題を変えることにした。
「そういえば、今回のひなまつりはどうだった?」
「例年通りです。本年も沢山の参拝客が来て下さいました。神主さんも嬉しそうにいしていらっしゃいましたよ」
「僕の知人は、あの方は神主じゃなくて神そのものだろうって言ってたけど」
「確かに一般の方からは、そう見えてしまうかもしれませんね」
男は稲荷の髪を梳くように慰撫しながら、話題に上った祠官の姿を思い起こす。
蛇のように長い下半身を持ち側頭部からは立派な角を生やした魔物娘、龍だ。太古より日本とは関わりの深い存在で、その膨大な魔力を持って天候を操る力を秘める。
もの静かで威厳のあるオーラを彼女は纏っているが、それはあくまで仕事に際してのものだ。以前、稲荷に連れられ同席した龍との茶会では、穏やかだが茶目っ気もある性格だと知ることができた。
「昨日もメールが送られてきてさ。内容を読むと、懸想している男性との仲を進展させるにはどうしたらよいでしょうか、だって」
現代科学の最先端機器スマホを、悩まし気な表情でいじる龍。その構図を想像すると、何故かクスリと笑みが漏れた。
「仕事の合間に、私も同じ相談を受けました。アプローチの仕方が分からないと、焦ってる姿が可愛らしかったです」
ちなみに龍が想いを寄せるのは、月日や季節を問わず神社にやってくる年下の青年らしい。週に二、三回のペースでお参りに来るその青年に、気付けば心奪われていたとのこと。
「あの人も恋のことで悩むんだ。にしてもその男性、単純に神主さんのことが気になっているから頻繁に来るんじゃ」
「私もそう思います。実際、その方が元旦にいらした時なんて神主さんがどこにいるか知らないかと、私に尋ねてきましたし」
お互いの体温を交換しながら、和やかに会話を弾ませる二人。
だがここに来て、男の身体には異変が現れていた。
恋人とこんなにも密着しているせいで、心臓だけでなく血流自体の流れも先と比べ物にならないくらい速くなっているのだ。
血流の流れが速くなるということは興奮しやすくなるということ。
そしてオスが興奮したら、その影響が如実に表れるのは下腹部と相場が決まっている。
会話で性的興奮を抑えるつもりが、逆に昂る結果となってしまった。しかし稲荷と密着しているこの体勢で、疼きを催すのは当然の帰結といえる。
「神主さんは涙目で言うんですよ。こんな仰々しい見た目の自分を、あの殿方が好いてくれるなんて信じられないって。おかしな話ですよね。その男性が神主さん目当てで参拝しに来ているのは、私の目から見てもバレバレなのに」
「そ、そうだね。ハハハ」
幸いにして、稲荷はまだ異変に気付いてない。ならばさり気ない様子を装って、懐抱を解こう。そう決めた男は、しずしずとした動作で稲荷から離れようとした。
「あら、どうしました。少し苦しかったですか?」
コンマ五秒で気付かれた。予想外の事態に、男はしどろもどろになる。
「ち、違うんだ。苦しいとかじゃなくて、むしろ気持ち良すぎて。それで、その」
「気を楽になさって。急かしませんからまず深呼吸を……あっ」
そして自然な流れで、稲荷は男の身に起きた『異変』を察した。
服の上からでもはっきり分かる程に怒張した、ソレ。オスの象徴であり魔物娘が愛してやまない陰茎が、男の履くチノパンの生地下から自己主張をしていた。
「こ、これは。えーっと」
「私に欲情なさったのですか?」
静かな、しかしはっきりした口調で稲荷に問われる。その声音には、どこか期待するような響きも含まれていた。
実際彼女の言う通りだし、こんなものを見せた後では誤魔化しも意味をなさないだろう。
男は石火の速さでその結論に辿り着くと、恋人からの質問を首肯した。
「うん。その、我ながら恥ずかしい話だけど君の体温と呼吸を直に感じているだけで勃っちゃって」
「嬉しいです」
「はへ?」
男は間の抜けた声を上げて、腕に抱く恋人を見遣る。
稲荷の表情は、先程までの淑女然としたものから一転。発情したメスのような顔になっていた。魔物娘にとって、番いの放つ精の匂いはそれだけで理性を狂わせる。
わずかな精の淫香だけでも、数日間性交をお預けにされた稲荷の自制心を粉砕するには十分だったのだ。
稲荷は男の前にかがみ込むと、膨らんだ股間を手でまさぐり始める。撫でられた箇所に快感がじわじわと生まれ、男は小さく唾をのみ込んだ。
「ああっ、あなたと離れ離れの日々。ずっとココロもカラダも、寂しかったんです。でも、もう我慢などしなくていいんですね」
彼女の理性的だった瞳は煮詰めた甘露のように蕩け切り、特徴的な耳と尻尾は上下左右にフサフサ揺れている。
妖しく発露した欲望は、走り出した特急列車のように止まりそうもない。
「待って、少し落ちつい」
「嫌です」
声を弾ませながらの拒否。稲荷は陶酔した顔つきで、男の愚息を解放した。花魁も驚愕するであろう、しなやかかつ素早い手管だった。
「うあっ」
ぼろんと、女の目の前に突き出された淫剣。
熱を帯びた亀頭、血管の浮き出た竿、丸い睾丸。その全てをじっくり視界に焼き付けた稲荷の呼吸はさらに荒くなる。
「ごめんなさいごめんなさいでもダメなんです。待ちきれないんです」
うわごとのように謝罪を繰り返しながらも、稲荷の唇は鈴口に近づいていく。
こうなってはもう何を言っても無駄だろう。
「分かった。じゃあ、お願いするよ」
男は目の前に跪く女の頭を優しく撫でると、愚息の慰撫を頼む。
稲荷は瞳を潤ませると、嬉々として彼の益荒男を咥え込んだ。
「ううっ」
油断していたせいか、彼は唸り声を上げてしまった。この女性は、最初から全力で絞りにきてる。温かな口内と、肉棒を柔らかくねぶる舌技、そして吸い上げるようなバキューム。
三位一体の快楽が股間だけでなく、下半身全体を駆け巡った。
「ぐっ、ああああ」
早くも息が上がり始めた。短時間の内に与えられた悦楽のせいで、視界にスパークが飛び散る。
彼女は彼を喜ばせる技法に優れていたが、今日は一段と気合が入っている。
久し振りの『ご馳走』にありつけたというのも大きいのかもしれない。
少なくとも彼がインキュバス化していなければ、数回のストロークで果てる程の快感だ。
そうでなくとも、気を張っていなければあっという間に絶頂へ持って行かれるだろう。「おいひい、おいふぃれすぅ」
喜悦のあまり涎と涙を流しながら、稲荷は口淫を続けていく。剛直と唇の接合部からはグボグボグチョグチョという粘着質な水音が響き、両者の聴覚を犯していく。
「ふう、んんっ、どうれすか? きもひいいれふか?」
マラを咥えたまま、上目遣いで見上げてくる稲荷。いじらしく蠱惑的な姿に、男は首を縦に振ることしかできない。
パートナーの反応に満足したのか、稲荷は笑みを深めるとまたフェラチオに熱中していく。
口をすぼめたまま根本まで咥え、竿を舐めまわしながらまた顎を引いてゆく。
プリプリした唇はモノに吸い付いて離れず、舌で塗りたくられる唾液はローションのようにヌルヌルで心地よい。
ストロークの速さや吸い上げる勢いの強弱も変則的で、予測のできない刺激が男を追い詰めていく。
しかし彼の意識を揺さぶるのは、感覚的な物だけに留まらない。
(なんていやらしい姿なんだ……)
娼婦もかくやという、想い人の卑猥な有り様。先程までは清楚な立ち振る舞いで会話をしていたのに、今の彼女は勃起した荒武者にご執心だ。
ジュルジュルと音を立て、理性も恥じらいもかなぐり捨てている稲荷。
視覚的に興奮するというレベルを通りこして、あまりの淫蕩さに最早眩暈がしてくる。
だが、それがいい。
断続的に与えられる快楽のせいで腰が抜けそうだが、もう少しこの感触を愉しむため男は歯を食いしばって耐える。
「はうあっ!?」
だが予想外の快感が再び稲荷から与えられた。彼女は尺八をする傍ら、そのしなやかな指で睾丸のマッサージを始めたのだ。温かな彼女の手先が、労わるように優しく陰嚢をゆする。
フェラチオとは真逆の、まるで包み込まれるような悦楽。
波のように寄せては返す二つの愛撫に、痺れにも似た感覚がゾクゾクと背中を這いあがってくる。陥落は、すぐそこまで迫っていた。
「もう、ダメだっ」
限界を悟った彼は眉間にしわを寄せ、叫び声を上げる。
同時に男の尿道が開き、ため込んでいた白濁の欲望が稲荷の口内を蹂躙した。
「んんんんー! んっ、んん!」
ぶちまけられた精液に彼女は目を見開きつつも、一滴もこぼさぬよう口をすぼめる。
ゴクリゴクリと、喉を鳴らしながらザーメンを嚥下する稲荷は至福の表情を浮かべていた。
「はあっ、はあっ、はあっ」
心地よい虚脱感に身を任せ、壁に背中をもたれかけた男は荒い息を繰り返す。
冗談抜きで、意識が向こう側に持って行かれる程の快感だった。
「ありがとう。凄く、気持ち良かったよ」
常人のそれを遥かに超える量の精子を飲み干していく稲荷は、返答代わりに尻尾と耳をふわりと揺らす。目じりの下がり切ったその瞳は、魔物娘特有の艶然さを輝かせていた。
ちゅううう。
ストローで水を吸い上げるような音を最後に、稲荷の口は男根からついに離れた。辺り一面に漂う栗の花の匂いは、むせ返るくらいに濃い。
しかし尿道の奥まで念入りに吸い上げられたせいか、そんなことが気にならなくなる程男の身と心はスッキリしていた。
「んああ。とても美味しかったです。ご馳走さまでした」
だらしなく緩み切った稲荷の表情は、とてもじゃないが他人に見せられるようなものではない。だが男からしてみれば絵画にして飾っておきたい程、美しく妖艶な姿であった。
「精液、まだ残っていますね。お待ちください、すぐ綺麗に致しますので」
言うや否や、竿に薄く張り付いている白濁の残滓を稲荷は舐め上げていく。
先とは違ってチロチロと表面をなぞるその丹念な舌遣いは、彼を再び昂らせる。
お掃除フェラまでしてくれるとは、自分には勿体ない程素晴らしい女性だ。
快楽に揉まれつつも、男は素直にそう思った。
「ああすごい。一度出したばかりなのに、もうこんなに」
彼女の言う通り、剛直は数秒足らずで硬さと熱さを取り戻していた。
「これなら、また射精できそうですね。どういたしますか? このまま、もう一回お口でご奉仕しましょうか? それとも――」
ちゅぱちゅぱと肉棒を舐めまわしながら、情欲に満ちた目で見上げてくる恋人。
その先は言わずとも分かっていた。そしてここまでされて、本番が我慢できる理性は男に残されていなかった。
「君を、抱きたい」
所変わり浴室。湯気が立ち昇るバスルームにて、彼等は一糸纏わぬ姿で前戯に励んでいた。
敷いたバスマットに身を横たえた二人は、向かい合わせのまま行為に熱中していく。
最初はついばむ程度だった接吻は、今や相手の口内全体を舐めまわす情熱的なものになっており、クチャクチャという淫猥な水音が彼らの鼓膜を刺激している。
「ん、ふぅ、はぁ」
ぴちゃぴちゃと耳朶に響くいやらしい音を聞きながら、稲荷は鼻にかかった呻きをもらし、艶やかな肉体を男性にこすり付ける。
求められている。
そう感じた男は愛する女の想いに応えるため右手は乳房に、左手は尻尾の付け根に回していじり始める。
「ふああっ!」
ビクッと女が身体を震わせ、耳もピンッと可愛らしくそり立つ。稲荷は一瞬こそ驚いた素振りを見せたものの、次の瞬間には蕩けた笑みで再び彼のべろを貪り始めた。
緩急のついた手つきで稲荷を愛撫する男の眼からは、理性の光がほぼ消えている。
稲荷の魔力と魅力にあてられたのだが、彼女によって色に狂うのなら彼としては大歓迎だった。
「お慕いして、います」
「僕もだよ。君なしではもうダメだ」
時折呟かれる稲荷の睦言に、男の劣情がますます猛る。彼はお返しと言わんばかりに、口づけと愛撫の激しさをより一層強めていった。
対する稲荷も快感に溺れていて、顔だけでなく身体全体が桃色に染まっていた。山吹色の耳はペタリと垂れ下がり、柔らかな尻尾は媚びるような動きで男の腕にすりついている。
「はあっ、はあッ、はアッ」
男の淫情は満たされた桶のようにあふれ出る寸前だ。愚息は通常の数倍に膨張しており、女の下腹部に押し当てられている。
毬のような胸を揉みしだく右手は苛烈で、与えられる悦楽に稲荷の秘所もどろどろに濡れそぼっていた。
立ち上る淫臭に本能が唸りを上げ、オスとメスの色欲が一気に加速していく。
むしゃぶりついていた唇から一旦離れると、男は焦燥感も露わに魔物娘へ迫った。
「君が欲しい」
両者の口からは涎が薄いアーチとなって垂れ下がっており、それを視界に入れた二人は己が内の欲望が決壊するのを自覚した。
「はい、下さい。挿れて欲しいです、あなたのを」
高揚と性的衝動のあまり、林檎よりも紅い稲荷の顔。目元は潤み、形の良い眉は垂れ下がっている。桜色の唇はへの字に歪み、そこからはだらりと舌と涎が垂れる。
優美な淑女ではなく、唯一の生殖相手を求める動物の姿がそこにあった。
女の色情を見て取った男は、そのヴァギナに向かって勢いよくペニスを挿入した。
「「あああああああっ!」」
待ち望んでいた感覚に、二人の声が重なる。一直線に突き抜けた淫剣は歓喜に震え、肉棒を包む膣壁はいやらしくうごめく。
「ふうっ! ふうっ! ふうっ!」
挿入と同時に、男は激しいピストンを開始した。ぐちゃぐちゃといやらしい音が浴室に反響し、身震いするほどの快楽が恋人達の脳髄を焦がす。
「あ! あああ! いい、いいれすぅ! もっとぉ、もっと突いてくらしゃい!」
稲荷は荒々しい抽挿に喜び、両腕を男の背に回す。美しいその顔は涙と涎にまみれている。理性という概念そのものを投げ捨てるかの如く、淫らな表情であった。
女の秘所をえぐり続ける男は、叩きつけるような激しさはそのままに腰の角度を微妙に調整する。
「ひっ、そこは!」
それにより、肉槍は女の子宮口をノックすることになった。
急所を穿たれたことにより、稲荷の目が快楽に見開く。コツンコツンと敏感な所を何度も突かれては流石の魔物娘もただでは済まない。
予想を上回る快感に、稲荷は焦りを覚える。このままでは即座にイかされてしまう。
「待ってくだしゃい! そんな、そんな所ばっかり突いてはいけませああああ!」
懇願も虚しく、稲荷は電流のように流れた感覚にビクビクと痙攣する。
男が密壺をほじるスピードを上げただけでなく、彼女の乳首を吸い上げたのが原因だった。
じゅるじゅると音を立て、桃色の花を口に含む男は一心不乱に腰を前後させる。
結合部からは夥しい量の愛液が垂れており、響き渡る水音の大きさも先の比ではない。
段階的に激しくなってゆく律動に対し、女は抵抗を諦めた。大波のよう与えられる愛情に全てを委ねた。
欠片ほど残っていた恥じらいを捨てた後は、もう楽だった。
相手から与えられる快楽に、稲荷はよがり狂い、嬉し涙を流し舌と涎を垂らし続けた。
「フッ、フッ、フッ!」
「ひぎっ!? あがあッ、ふひゃあああ!」
淫撃は大きさを増していき、二人の頭には火花が幾重にもなって散り始めた。
人間なら狂い果てる程の凄まじい性衝撃が、接合点を中心に彼らを犯してゆく。今の二人に残っている感情はシンプルに二つだけ。
もっと気持ちよくなりたい。
そしてこの気持ち良さを、もっと相手に分け与えたい。
やがて、その感情と快楽は臨界点を迎えた。
「「うあああああああっ!!!」
ごぼり、と。
男の分身から子種が解き放たれた。尿道から飛び出した精液は膣内を蹂躙し、子宮内に飲み込まれて行った。
男根の震えは収まる所を知らず、次々と半固形の精子を垂れ流していく。
秘所に入りきらなかったザーメンは、ゴポゴポと卑猥な音を立てながら結合部分から溢れ出てきた。
視界が鮮やかに明滅し、二人は桃源郷にその思考を飛ばした。
「嬉しい、ですぅ。こんなにいっぱい……」
恍惚とした様子で、稲荷は自分のお腹に手をそえる。己が内に入ってきた熱は未だに冷めることがなく、それどころか脈動がまだ続いている。
すなわち。これほどまでに出しても、男の射精はまだ終わっていないという事だった。
それから数分間に渡って吐精は続けられた。常人の比ではない量の精液が女の膣を犯し続け、ヴァギナからこぼれ落ちた精液は、マットの上に大きな水たまりを作った。
「はむ、んんっ、ちゅ。いっぱい、出ましたね」
「ううっ、ああ……。いつしても、君とのセックスは最高だよ」
絡まり合った状態で、お互いの唇を貪りあう男女。しかし夥しい量のスペルマを出しても男の剛直は依然として固いままだった。
「あなたの……まだ立派ですね。あの、もしよろしければ」
「勿論。僕もまだ足りないと思っていた頃さ」
稲荷の言葉を皆まで言わせず、男は深く頷いて見せる。
彼はとうの昔に人間をやめてインキュバスになっている。一回程度の交わりで満足できるはずもなかった。まして、最愛の女性が自分との繋がりをまだ求めているのだ。
これをどうして拒否できよう。
「動くよ」
「はい、ああっ深いですぅ!」
ぐぐっと、再び押し込まれる肉棒。膣内に溜まった精液をかき分け、最奥である子宮口を再び突き始める。
一定のリズムで与えられる疼きに、稲荷はにわかに興奮し始めた。
「そんなっ、凄くいやらしい音が出てます!」
両者の下腹部にこびり付いた精液と愛液が、腰の前後に合わせて卑猥な鳴動を奏でる。
入れる、出す。入れる、出す。その往復を繰り返す度にペニスはまた膨らんでいった。
「ッ」
無意識の内に、男は息を詰め喉を鳴らしていた。
耳朶に響く嬌声と、精子と愛液の弾ける音。
身体全体を駆け巡る、セックスの大きな快感。
目の前で乱れる、稲荷のあられもない姿。
その全てが男の獣性をより一層昂らせる。
気付いた時には、先の比にならない程腰の動きを加速させていた。
「あああああああっ、でる、でる、でるっ!」
度を越した興奮で、眼を真っ赤に充血させながら男が咆哮する。それに呼応する形で、再び精液の奔流が稲荷へ叩き込まれた。
「ひあっうっ!? ふあっ、せーえきれてるうぅ、たくしゃん出てましゅうぅ」
壊れた蛇口のように、淫剣はドバドバと精子をぶちまけ、吐き出していく。三回目の射精だというのに、先と比べてもその濃度と量はほとんど変わらなかった。
「うぎいっあああ?! ダメええええっ?! そんな、中出しながら腰動かしちゃダメですっ!!」
それどころか、男はピストンの速度をさらに上げていく。リミッターを解除したマシンのように、男は下腹部を稲荷に激しく打ち付けていく。
バツン、バツンとさらに強くなった淫音は浴室に響き渡り、耳に絡みつく。
女陰から出し入れを繰り返す肉棒は愛液と精液ですっかりベチョベチョになっており、サイズも一般的なものと比較して遥かに大きい。
ここまで肥大化したのも、ひとえに彼がインキュバスであるからだろう。
「いやっ! いやあああぁー! お願いです、一旦止まって下さいいいい!」
脳髄を焦がすかの如く喜びに、稲荷は悲鳴のような懇願を喉から発し続けた。
首をぶんぶんと振り、這いまわる快楽から逃れるように身をよじらせる。
「うううぅぅぅ、ッはあああああぁぁ! んむうっ?!」
だがそうはさせまいと、男は稲荷の両手をがっちり掴みその唇をキスで塞いでしまった。
上から押しつぶす様な形で、厚い胸板と割れた腹筋を押し当てることも忘れない。
完全に組み伏せられる格好となった女は、その全身に余すところなく快楽を穿たれた。
「!!!!!!!!」
魔物娘の声にできない叫び。四度目の射精が、女の膣内に配達されたからだ。
オーガズムの嵐が二人に襲いかかり、両者共にその肉体をガタガタ痙攣させる。
男は爆風を受けたかのような衝撃に全力で耐えるため、稲荷の両手を強く握り締める。
だが一方の稲荷は、迫りくるアクメから逃げ切れなかった。
常軌を逸したエクスタシーは彼女の中枢神経を木端微塵に粉砕。
米粒ほどに残っていた稲荷の思考は、この瞬間に跡形もなく吹き飛んだ。
絶頂の丘に連れて行かれた女は眼を限界以上に見開き、特徴的な耳と尻尾は天を突く勢いでそり立った。
一拍の後。
稲荷の瞳からは光が消え失せ、身体中からは気力そのものが消滅した。モフモフした尻尾と三角耳もぱたりと垂れてしまう。
もうここまで来ると、後はなされるがままである。精液中毒者になった稲荷はもう考えることを止めた。
「う、あ、う、あ、あ」
肉人形になり果て、ぐったりとした稲荷に対して男は口づけをと前後運動を再開。
虚ろなる恋人へ、男は破滅的な性感を提供し続ける。
彼の剛直には膣壁が別の生物のように絡みつき、精子の放出をねだっている。
理性や思考はなくなっても、愛と色に狂った魔物娘の身体は正直らしい。
そうでなくとも、男の脳内は既に女を妊娠させることで一杯だ。ペース配分やスタミナの節約も考えず、ただひたすらに射精と抽挿を繰り返して行く。
ピストン、射精。
ピストン、射精。
ピストン、射精。
短い時間の内に、男は何度も、何度も、何度も繰り返した。
その間彼女は、ずっと放心状態だった。双眸は相変わらず虚ろのまま。身じろぎ一つせず、抵抗もしない。しかしディープキスを受ける口元だけは、身に余る幸福で笑みを作っていた。
そして十回目の吐精をとうの昔に超えた頃だろうか。
稲荷の腹は一目みて分かるほどにボッコリ膨らんでいた。中に出産間近の赤子でも入っているのかと見紛うばかりである。
だがこれを、流し込まれた精液が原因とは普通考えられないだろう。
最も、二人の周囲にまき散らされた夥しい量の子種がそれ以外の理由付けを許さないであろうが。
男が女に詰め込んだ精子の量は、リッター換算するとぞっとするほどの数値になるに違いない。
この光景を見たら、一般的な人間は発狂しかねないだろう。
だがザーメンタンクになろうとも、稲荷の美しさは変わらなかった。むしろ男にとっては、恋人をこんな姿に変えたのは他ならぬ自分なのだという、変な達成感すらあった。
「せ、せーし、せーしください……。もっといっぱい、おちんちんとせーえき……」
稲荷の方も大概であった。これほど滅茶苦茶にされても男との性交をまだ望んでいた。
「あかちゃんの素、ください、ほしいんですぅ……」
うわ言のようなつぶやきが、ボテ腹になった稲荷から紡がれる。
膨らんだ風船のようにパンパンの腹部。そこは、精液がひっついていない所を探す方が難しい程白く汚れている。
艶やかだった彼女の顔は涎と涙に彩られており、一流の娼婦もこの表情は真似できないだろう。
情愛の極地に辿り着いた者だけができる、そんな顔だった。
男はディープキスで了解の意を伝えると、想い人の願いを叶えてあげた。直後にまた大量の白い小便が女の膣に放出された。
腰を真っ直ぐに突き出して、可能な限りチンポと子宮口を密着させる。
歓喜に震えたマンコは、妊娠汁を一滴も逃すまいと収縮運動を行った。
数分間に及ぶ放精は、両者にとって至福以外の何物でもなかった。
射精がちゃんと止まったのを確認し、男は上体を起こす。
それに伴う形で、ちゅぽんと触れ合っていた唇が離れた。透明な涎が曲線を作り、つうっと落ちていく。
キスを中断された稲荷が、一瞬で泣きそうな顔になる。ごめんね、との想いから男は頬を優しく撫でてあげた。
ここに来て、男は体勢を変えることにしたのだ。
稲荷もそれを理解したのだろう。こくりと頷き、体位の変更を促した。
男は肉棒を膣内に入れたまま、くるりと器用に身体を動かす。抱き合いに適した正常位から、後背位に移行。
と言っても、女は力が抜けているせいでまともに動ける状態ではない。
よって稲荷の腰は、男が両手で保持する形になる。
四つん這いになった恋人の艶姿を見て、男のイチモツはさらに硬くなった。
上気して赤くなったうなじ。汗が滴る背中。力なく垂れた可愛らしい耳と尻尾。
そして、もみ心地抜群のお尻。
我慢などできるはずもなく、腰を再び動かしていく。最初は緩く、徐々に速く。
体勢の都合上、稲荷の表情を窺う事は出来ない。しかし、膣内の締まりが一層良くなっていることから悦んでいる事には間違いない。
リズミカルな反復動作に合わせるようにして、性器の接合部分からも愛液と精液が次から次へと溢れてくる。半固形上になった精液はべっとりとした動作で、マットの上に滴り落ちていった。
「っ、はっ、はっ、あああっ」
精液ボテ腹稲荷は息を短く吐きながら、酸欠を回避している。考えてのことではない。
条件反射で行っている事だ。自分を今まさに貫いている男から、稲荷は数え切れないほど絶頂天国へ連れて行かれた。その経験によって、彼女は無意識で調息呼吸ができるようになったのだ。
「!? ――!」
けれどもバックは、正常位以上の瞬間快楽値を叩き出しやすい体位。
油断すると、即座にエデンの向こう岸へ連れて行かれてしまう。
パクパクと魚のように口を開閉する稲荷の膣内で、もう何十回目とも知れぬ射精が暴れる。
ブリュブリュビチビチと、これ以上ないくらい下品な音がバスルームに轟いた。
子宮から逆流してきた精液と愛液が、奥から押し出されるようにして噴出してきたからだ。
むせ返り、息が詰まりそうな匂いが、浴室一杯にまたもや広がる。
しかしそれすらも、二人にとっては性欲を増進させるスパイスに過ぎなかった。
いきり立った大剣の命ずるままに、男は稲荷の膣へ大きく腰を叩きつける。
「フッ、ふっ、っふっ、ふうっ!」
数ある体位の中でも、正常位とバックは男のお気に入りだった。
正常位は大好きな稲荷と正面から抱き合えるから。
そしてバックは、本能を前面に押し出す形で相手を貪れるケダモノプレイができるから。
よって、射精しながら腰も止めたりはしない。男にとっては当然のことだった。
間を置かずして、精液の雪崩を彼女の懐妊受付室にまたもやプレゼントする。
ビチビチはねる白の大軍を飲み込む稲荷といえば、酷い有様だった。
目の焦点が境界の彼方へ飛んでいき、舌は真っ直ぐに突き出されている。
口の端からは涎がまき散らされ、耳と尻尾は痙攣を繰り返す。
俗に言う、アへ顔を晒したのだった。思考? 理性? そんな事を考えている余裕なんてありませんという表情だった。
「え、あ、えへ、えへあへえへへへっ、きもちイイれしゅぅ……」
彼女の思考を司るネジが全てすっぽ抜けても、男の猛攻は止まらない。むしろ攻め手は強烈になっていく。
背すじやうなじに舌を這わせ、両手を彼女の乳に伸ばして揉みしだく。
フサフサの尻尾をいやらしくしごき、その三角耳にしゃぶりつく。
同時並行で射精もクレバスの最奥に次々と注入される。相変わらず、その吐精量はリッターを超えている。
「すごいっ、スゴいっ、ひゅごいっ! せーし! せーしがびゅーってれてましゅううう!びゅーううぅって!」
目も当てられない狼藉を働く男に対して、稲荷は全然抵抗しない。
むしろ与えられる快楽に狂喜していた。否、既に狂って壊れて堕ちていた。
二年前。
処女をこの男性に捧げた時点で、稲荷の心はもう決まっていたのだ。
【この人からなら】どんな恥ずかしい事をされても大歓迎と。
魔物娘にとってそれは、中だし専用性奴隷と宣言したも同義であった。
……それからさらに三時間に渡って稲荷はバスルームで恋人に犯され続けた。
愛撫を受け、体位を次々と変えられ、冗談としか思えない量の精子を流し込まれる。
我を失った男から数多の性戯を身体に刻まれていき、失禁とオーガズムとアへ顔と気絶を幾重にも繰り返す。
仮に気絶しても、射精でまた意識を呼び起こされる。
肉棒は、行為が終わるまで秘所から一度も引き抜かれることはなかった。
また、彼女のお腹は吐き出された精液のせいで最終的には臨月妊婦並に大きくなった。男は男で、スタミナが限界を迎えても腰を全力で振り続けた。
淫獄の極みだった。
そして二人は、とてもとてもシアワセだった。
チッ、チッ、チッ、という規則正しい音で稲荷は目を覚ました。枕元には木製の目覚まし時計が置いてあった。時刻は夜九時を示していた。
「ここは……?」
照明の落とされた部屋。自分はベッドに寝かされていたらしい。浴室での行為を終えた後の記憶は曖昧だ。少なくとも、今着ているネグリシェに着替えた覚えはない。
「……」
上体を起こして周囲を見回す。程なくして、自分が今いる場所が恋人の書斎兼寝室だということが分かった。
「迷惑をかけてしまいましたね」
気を失った自分を、彼が介抱してくれたのはすぐに分かった。膨らんでいたお腹も、今では元通りになっている。
書斎に恋人の姿はなかった。居間の方から音が聞こえてくるので、彼は恐らくそっちにいるのだろう。
彼へお礼を言うため、稲荷はベットから降り一歩を踏み出す。
「んあっ」
が、下腹部に疼きが走ったせいでヨタヨタとバランスを崩してしまった。
あの激しい行為の余韻が、まだ残っているせいだ。
流石にあんな変態行為の数々を身体に刻まれては、魔物娘といえど身体に軽度のバランス不全を引き起こす。
「これは、参りましたね」
自分の秘部に、まだ肉棒が刺さっているかのような異物感。稲荷は苦笑いを浮かべると一歩ずつ、着実に移動を再開した。
リビングに通じる扉の前に到着した彼女は、ゆっくりとドアを押し開けた。
「え……」
そして目を疑う。
暖色系のランプで照らされたリビングテーブルの上。そこには色とりどりの御馳走が並べてあったからだ。
和食洋食を問わずどれも見事な出来栄えで、稲荷が好物とする油揚げを使った料理も沢山見て取れた。
「これは、一体」
目をぱちくりと瞬かせ、茫然とする稲荷。そこに彼女の想い人がキッチンからやってきた。
「おはよう。よく眠れた?」
「はい。お陰様で身体を休めることができました。それにしても、これは一体……」
未だ状況を飲み込めない稲荷は、小首を傾げて男に尋ねる。
その質問に対して、男は待ってましたと言わんばかりに胸を張った。
「今日は三月三日だよね」
「そ、そうですね。世間ではひな祭りが重要イベントですけど……」
「うん。けど君にとってはもう一つ大切な意味を持つ日でもある」
「大切な意味……。あっ!」
そこでようやく気付いた。仕事に忙殺されていたため、当の本人すらそのことを忘れていた。
「誕生日、おめでとう」
温かい声で発される、恋人からの祝福。
それを聞いた瞬間。
稲荷の視界は滲み、眼がぼやけていく。熱い涙が頬を滴り気付けば嗚咽が漏れていた。
純粋に嬉しかった。自分がここまで想われていることに。愛されていることに。
堰を切った感情のうねりは、胸の内からこぼれて溢れていく。
床にペタリと座り込んでうれし涙を流す稲荷。
男は彼女に寄り添って、その背中を手でさすってあげた。
今、二人の心にあるのはただ一つ。
相手への慈愛だけだった。
部屋の間取りは一人暮らしにしては広く、ダイニングとリビングが統合された居間は整頓が行き届いている。壁に掛かっているアナログ時計の針は、十六時を指し示していた。
暖色系のランプが照らす男の顔は、どこか思案に暮れている様子である。
椅子に腰掛ける彼の容姿は平凡。柔和そうな顔立ちに短く切り揃えた黒髪、そして中肉中背の肉体。
しかしその瞳には、ある種の強い決意が宿っていた。
テーブルの上には下ごしらえの済まされた野菜や肉、調味料といった食材が並んでいる。これらは全て、男が厳選した供給業者からのみ仕入れた食品である。
彼は切り分けられた材料を眺め、顎に手をあてる。ここからどのような行程で調理すれば、どのような香辛料と組み合わせれば、食材の持ち味を限界以上に引き出せるだろうかと。
若さの中に垣間見える職人特有の顔立ち。男は一級の腕前を持つ料理人でもあった。
そして今夜。
彼は居並ぶこの食材を存分に使い、愛する女性へ自分の全力を込めた馳走を供するつもりだった。何故なら今日は―。
不意に聞こえるチャイムの音。
男はハッとすると、弾かれたような速度で玄関の方へ歩いて行った。
男が玄関に辿りつくのと、施錠が開かれたのは同時だった。
合鍵を使って入ってきたのは、腰から四本の尻尾を生やし、頭頂部にふさふさした三角形の耳を持つ魔物娘。稲荷だった。淑やかな雰囲気と美しい色香を漂わせる彼女は、その身を巫女服で包んでいた。
白い小袖と緋袴のコントラストは大和撫子の魅力に満ちており、ある種の壮麗さを見る者に抱かせる。
「やぁ、いらっしゃい」
「お邪魔致します」
男は手を差し出し、女は顔を綻ばせてその手を取る。
二人は種族の垣根をものともしない恋人同士であった。
靴を脱ぎ扉の鍵を後ろ手で閉めた稲荷は、薄く紅潮した顔を少しずつ男の顔に近づけていく。
慕情を焦がしつつも、一歩踏み切れない生娘のような所作。
彼女の意図を察した男は、その細い腰に両腕を回しそっと抱擁を交わした。
どちらともなく目をつぶり口先を合わせる。最初は触れるくらいに軽く、やがては舌そのものを絡め合わせる熱烈なものに。
密着した肌からは体温と心音がお互いを行き来し、二人の興奮は高まっていった。
目を閉じて感じられるのは相手のぬくもり。室内にまで這いよって来る夕暮れの寒さも、多幸福感に包まれた二人の前では形無しだった。
時間にしては数分だろうか。キスを堪能した恋人たちは唇をゆっくり離し、目と目を交錯させた。
「お会いしたかったです」
「僕も会いたかった。君にこうして触れたかった」
抱擁を解かぬ二人は、熱に浮かされたような赤ら顔で語らう。
稲荷は神職としてひなまつりの時も忙しく、男も務めている料亭が繁忙期なので彼女に会いに行く時間がなかったのだ。
二人が離れ離れになっていた日数は数日間だが、彼らにしてみればそれすらも非常に長くて、待ち遠しい時間であった。
再会してすぐに熱い接吻を交わすのも、無理からぬことだろう。
「仕事ご苦労様。疲れてないかい?」
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です」
あなたに抱きしめられたお陰で、疲労など消えちゃいましたから。
悪戯っぽい笑顔で稲荷は男の胸に顔をうずめる。女はそのまま自分の頬を男の胸板にゴシゴシとこすり付けた。貴方は自分だけのモノだと、マーキングするかのような振る舞い。
一連の所作に、男の鼓動は段階飛ばしで速くなった。
「……殺し文句だね。君にそんなことを言われると敵わないや」
「ふふっ。好きな殿方にくっつくだけで疲れが霧散するのは、魔物娘の特権ですから」
得意げな様子で語る稲荷は、上目遣いで男を見遣る。
至近距離で稲荷の美貌を独占する彼は、素直な感想を口にした。
「いつ見ても綺麗だ」
「そう言って下さると嬉しいです」
恋人からの賛辞に稲荷の耳はピコピコ動く。小動物的な愛らしさに対し、はにかんだ笑みを男は隠すことができない。
一方の稲荷も、顔は蒸気が出そうなくらいに赤い。落ち着いた性格の彼女だが、少々恥ずかしがり屋な面もあるようだ。
だが綺麗なのは紛れもない事実。むしろ彼女の眉目秀麗さは、綺麗などという単語一つで片付くものではない。
道ですれ違えば、千人中千人が美しいと認める稲荷の美貌。常識の外に理を置く種族だからか、魔物娘には尋常ではない魅力が漂っている。
しかしそんな彼女の視線は自分にだけ向けられている。自分だけが、こうして彼女をかき抱くことができる。
男性という生き物からすれば、美人を独り占めできることは十分に特権と言えよう。
心奥に巡る幸せを感じつつ、男は彼女と過ごしてきた生活を脳内でリフレインさせた。
二年以上前の初夜、恥じらいながらも自分へ純潔を捧げてくれた。
疲れている時や悩んでいる時は、そっと寄り添って苦しみを分かち合ってくれた。
僕の成功を自分のことのように喜び、一緒に笑ってくれた。
なんて、愛おしいのだろう。
泡のように浮き上がった想いのまま、男はたくましい右腕で稲荷の柔らかな髪をなで始めた。最上位の絹にも伍する、軽やかな髪の手触り。しかしこれすらも、彼女の大きな魅力を構成する一要素に過ぎない。
優しい手つきの愛情表現に、女は甘い吐息を漏らして男へより一層くっつく。
それに伴う形で、稲荷の柔らかな双丘が男の胸にくっついた。
振袖越しにも関わらず、むにゅりという擬音が聞こえてきそうな乳房の柔らかさ。
生の手触りを知っている彼は今すぐにでも彼女の服を剥ぎ、その豊かな胸を鷲掴みにしたい衝動に駆られる。
目の前の女性はそれすらも受け入れてくれるだろうが、ここはまだ我慢だ。
行為に及ぶのは後回し。仕事が終わって間もない恋人を押し倒すのは、紳士としてよろしくない。
それにこういうのは、お互いの気持ちがさらに昂ってからの方がいい。その方が情事も盛り上がるというものだろう。
早くも暴れ出した性衝動を宥めつつ、男は腕の中で心地よさそうにしている女へ語りかけた。会話を続けることによって、劣情から気を逸らすためだ。
「こうして抱き合っていると、君のことが直に感じられる。体温、呼吸、魔力の流れから、わずかに立ち昇る香りも」
「ッ! に、臭いましたか?!」
稲荷が慌てた様子で顔を上げたが、男は首を横に振った。
「ゴメン、そういうつもりで言った訳じゃないんだ。ただ凄くいい匂いだよって、いつまでも抱きしめていたいよって、教えたくて」
「ほ、ホッとしました」
「君が慌てるの、少し久ぶりに見たかも」
「もう。茶化さないで下さい」
頬を膨らませる稲荷はどこか子供っぽい。普段の大人びた様子とは対照的なギャップ差に、男は背すじがくすぐったくなる。こんな彼女を見ていたら、またからかってしまいそうになるので男は話題を変えることにした。
「そういえば、今回のひなまつりはどうだった?」
「例年通りです。本年も沢山の参拝客が来て下さいました。神主さんも嬉しそうにいしていらっしゃいましたよ」
「僕の知人は、あの方は神主じゃなくて神そのものだろうって言ってたけど」
「確かに一般の方からは、そう見えてしまうかもしれませんね」
男は稲荷の髪を梳くように慰撫しながら、話題に上った祠官の姿を思い起こす。
蛇のように長い下半身を持ち側頭部からは立派な角を生やした魔物娘、龍だ。太古より日本とは関わりの深い存在で、その膨大な魔力を持って天候を操る力を秘める。
もの静かで威厳のあるオーラを彼女は纏っているが、それはあくまで仕事に際してのものだ。以前、稲荷に連れられ同席した龍との茶会では、穏やかだが茶目っ気もある性格だと知ることができた。
「昨日もメールが送られてきてさ。内容を読むと、懸想している男性との仲を進展させるにはどうしたらよいでしょうか、だって」
現代科学の最先端機器スマホを、悩まし気な表情でいじる龍。その構図を想像すると、何故かクスリと笑みが漏れた。
「仕事の合間に、私も同じ相談を受けました。アプローチの仕方が分からないと、焦ってる姿が可愛らしかったです」
ちなみに龍が想いを寄せるのは、月日や季節を問わず神社にやってくる年下の青年らしい。週に二、三回のペースでお参りに来るその青年に、気付けば心奪われていたとのこと。
「あの人も恋のことで悩むんだ。にしてもその男性、単純に神主さんのことが気になっているから頻繁に来るんじゃ」
「私もそう思います。実際、その方が元旦にいらした時なんて神主さんがどこにいるか知らないかと、私に尋ねてきましたし」
お互いの体温を交換しながら、和やかに会話を弾ませる二人。
だがここに来て、男の身体には異変が現れていた。
恋人とこんなにも密着しているせいで、心臓だけでなく血流自体の流れも先と比べ物にならないくらい速くなっているのだ。
血流の流れが速くなるということは興奮しやすくなるということ。
そしてオスが興奮したら、その影響が如実に表れるのは下腹部と相場が決まっている。
会話で性的興奮を抑えるつもりが、逆に昂る結果となってしまった。しかし稲荷と密着しているこの体勢で、疼きを催すのは当然の帰結といえる。
「神主さんは涙目で言うんですよ。こんな仰々しい見た目の自分を、あの殿方が好いてくれるなんて信じられないって。おかしな話ですよね。その男性が神主さん目当てで参拝しに来ているのは、私の目から見てもバレバレなのに」
「そ、そうだね。ハハハ」
幸いにして、稲荷はまだ異変に気付いてない。ならばさり気ない様子を装って、懐抱を解こう。そう決めた男は、しずしずとした動作で稲荷から離れようとした。
「あら、どうしました。少し苦しかったですか?」
コンマ五秒で気付かれた。予想外の事態に、男はしどろもどろになる。
「ち、違うんだ。苦しいとかじゃなくて、むしろ気持ち良すぎて。それで、その」
「気を楽になさって。急かしませんからまず深呼吸を……あっ」
そして自然な流れで、稲荷は男の身に起きた『異変』を察した。
服の上からでもはっきり分かる程に怒張した、ソレ。オスの象徴であり魔物娘が愛してやまない陰茎が、男の履くチノパンの生地下から自己主張をしていた。
「こ、これは。えーっと」
「私に欲情なさったのですか?」
静かな、しかしはっきりした口調で稲荷に問われる。その声音には、どこか期待するような響きも含まれていた。
実際彼女の言う通りだし、こんなものを見せた後では誤魔化しも意味をなさないだろう。
男は石火の速さでその結論に辿り着くと、恋人からの質問を首肯した。
「うん。その、我ながら恥ずかしい話だけど君の体温と呼吸を直に感じているだけで勃っちゃって」
「嬉しいです」
「はへ?」
男は間の抜けた声を上げて、腕に抱く恋人を見遣る。
稲荷の表情は、先程までの淑女然としたものから一転。発情したメスのような顔になっていた。魔物娘にとって、番いの放つ精の匂いはそれだけで理性を狂わせる。
わずかな精の淫香だけでも、数日間性交をお預けにされた稲荷の自制心を粉砕するには十分だったのだ。
稲荷は男の前にかがみ込むと、膨らんだ股間を手でまさぐり始める。撫でられた箇所に快感がじわじわと生まれ、男は小さく唾をのみ込んだ。
「ああっ、あなたと離れ離れの日々。ずっとココロもカラダも、寂しかったんです。でも、もう我慢などしなくていいんですね」
彼女の理性的だった瞳は煮詰めた甘露のように蕩け切り、特徴的な耳と尻尾は上下左右にフサフサ揺れている。
妖しく発露した欲望は、走り出した特急列車のように止まりそうもない。
「待って、少し落ちつい」
「嫌です」
声を弾ませながらの拒否。稲荷は陶酔した顔つきで、男の愚息を解放した。花魁も驚愕するであろう、しなやかかつ素早い手管だった。
「うあっ」
ぼろんと、女の目の前に突き出された淫剣。
熱を帯びた亀頭、血管の浮き出た竿、丸い睾丸。その全てをじっくり視界に焼き付けた稲荷の呼吸はさらに荒くなる。
「ごめんなさいごめんなさいでもダメなんです。待ちきれないんです」
うわごとのように謝罪を繰り返しながらも、稲荷の唇は鈴口に近づいていく。
こうなってはもう何を言っても無駄だろう。
「分かった。じゃあ、お願いするよ」
男は目の前に跪く女の頭を優しく撫でると、愚息の慰撫を頼む。
稲荷は瞳を潤ませると、嬉々として彼の益荒男を咥え込んだ。
「ううっ」
油断していたせいか、彼は唸り声を上げてしまった。この女性は、最初から全力で絞りにきてる。温かな口内と、肉棒を柔らかくねぶる舌技、そして吸い上げるようなバキューム。
三位一体の快楽が股間だけでなく、下半身全体を駆け巡った。
「ぐっ、ああああ」
早くも息が上がり始めた。短時間の内に与えられた悦楽のせいで、視界にスパークが飛び散る。
彼女は彼を喜ばせる技法に優れていたが、今日は一段と気合が入っている。
久し振りの『ご馳走』にありつけたというのも大きいのかもしれない。
少なくとも彼がインキュバス化していなければ、数回のストロークで果てる程の快感だ。
そうでなくとも、気を張っていなければあっという間に絶頂へ持って行かれるだろう。「おいひい、おいふぃれすぅ」
喜悦のあまり涎と涙を流しながら、稲荷は口淫を続けていく。剛直と唇の接合部からはグボグボグチョグチョという粘着質な水音が響き、両者の聴覚を犯していく。
「ふう、んんっ、どうれすか? きもひいいれふか?」
マラを咥えたまま、上目遣いで見上げてくる稲荷。いじらしく蠱惑的な姿に、男は首を縦に振ることしかできない。
パートナーの反応に満足したのか、稲荷は笑みを深めるとまたフェラチオに熱中していく。
口をすぼめたまま根本まで咥え、竿を舐めまわしながらまた顎を引いてゆく。
プリプリした唇はモノに吸い付いて離れず、舌で塗りたくられる唾液はローションのようにヌルヌルで心地よい。
ストロークの速さや吸い上げる勢いの強弱も変則的で、予測のできない刺激が男を追い詰めていく。
しかし彼の意識を揺さぶるのは、感覚的な物だけに留まらない。
(なんていやらしい姿なんだ……)
娼婦もかくやという、想い人の卑猥な有り様。先程までは清楚な立ち振る舞いで会話をしていたのに、今の彼女は勃起した荒武者にご執心だ。
ジュルジュルと音を立て、理性も恥じらいもかなぐり捨てている稲荷。
視覚的に興奮するというレベルを通りこして、あまりの淫蕩さに最早眩暈がしてくる。
だが、それがいい。
断続的に与えられる快楽のせいで腰が抜けそうだが、もう少しこの感触を愉しむため男は歯を食いしばって耐える。
「はうあっ!?」
だが予想外の快感が再び稲荷から与えられた。彼女は尺八をする傍ら、そのしなやかな指で睾丸のマッサージを始めたのだ。温かな彼女の手先が、労わるように優しく陰嚢をゆする。
フェラチオとは真逆の、まるで包み込まれるような悦楽。
波のように寄せては返す二つの愛撫に、痺れにも似た感覚がゾクゾクと背中を這いあがってくる。陥落は、すぐそこまで迫っていた。
「もう、ダメだっ」
限界を悟った彼は眉間にしわを寄せ、叫び声を上げる。
同時に男の尿道が開き、ため込んでいた白濁の欲望が稲荷の口内を蹂躙した。
「んんんんー! んっ、んん!」
ぶちまけられた精液に彼女は目を見開きつつも、一滴もこぼさぬよう口をすぼめる。
ゴクリゴクリと、喉を鳴らしながらザーメンを嚥下する稲荷は至福の表情を浮かべていた。
「はあっ、はあっ、はあっ」
心地よい虚脱感に身を任せ、壁に背中をもたれかけた男は荒い息を繰り返す。
冗談抜きで、意識が向こう側に持って行かれる程の快感だった。
「ありがとう。凄く、気持ち良かったよ」
常人のそれを遥かに超える量の精子を飲み干していく稲荷は、返答代わりに尻尾と耳をふわりと揺らす。目じりの下がり切ったその瞳は、魔物娘特有の艶然さを輝かせていた。
ちゅううう。
ストローで水を吸い上げるような音を最後に、稲荷の口は男根からついに離れた。辺り一面に漂う栗の花の匂いは、むせ返るくらいに濃い。
しかし尿道の奥まで念入りに吸い上げられたせいか、そんなことが気にならなくなる程男の身と心はスッキリしていた。
「んああ。とても美味しかったです。ご馳走さまでした」
だらしなく緩み切った稲荷の表情は、とてもじゃないが他人に見せられるようなものではない。だが男からしてみれば絵画にして飾っておきたい程、美しく妖艶な姿であった。
「精液、まだ残っていますね。お待ちください、すぐ綺麗に致しますので」
言うや否や、竿に薄く張り付いている白濁の残滓を稲荷は舐め上げていく。
先とは違ってチロチロと表面をなぞるその丹念な舌遣いは、彼を再び昂らせる。
お掃除フェラまでしてくれるとは、自分には勿体ない程素晴らしい女性だ。
快楽に揉まれつつも、男は素直にそう思った。
「ああすごい。一度出したばかりなのに、もうこんなに」
彼女の言う通り、剛直は数秒足らずで硬さと熱さを取り戻していた。
「これなら、また射精できそうですね。どういたしますか? このまま、もう一回お口でご奉仕しましょうか? それとも――」
ちゅぱちゅぱと肉棒を舐めまわしながら、情欲に満ちた目で見上げてくる恋人。
その先は言わずとも分かっていた。そしてここまでされて、本番が我慢できる理性は男に残されていなかった。
「君を、抱きたい」
所変わり浴室。湯気が立ち昇るバスルームにて、彼等は一糸纏わぬ姿で前戯に励んでいた。
敷いたバスマットに身を横たえた二人は、向かい合わせのまま行為に熱中していく。
最初はついばむ程度だった接吻は、今や相手の口内全体を舐めまわす情熱的なものになっており、クチャクチャという淫猥な水音が彼らの鼓膜を刺激している。
「ん、ふぅ、はぁ」
ぴちゃぴちゃと耳朶に響くいやらしい音を聞きながら、稲荷は鼻にかかった呻きをもらし、艶やかな肉体を男性にこすり付ける。
求められている。
そう感じた男は愛する女の想いに応えるため右手は乳房に、左手は尻尾の付け根に回していじり始める。
「ふああっ!」
ビクッと女が身体を震わせ、耳もピンッと可愛らしくそり立つ。稲荷は一瞬こそ驚いた素振りを見せたものの、次の瞬間には蕩けた笑みで再び彼のべろを貪り始めた。
緩急のついた手つきで稲荷を愛撫する男の眼からは、理性の光がほぼ消えている。
稲荷の魔力と魅力にあてられたのだが、彼女によって色に狂うのなら彼としては大歓迎だった。
「お慕いして、います」
「僕もだよ。君なしではもうダメだ」
時折呟かれる稲荷の睦言に、男の劣情がますます猛る。彼はお返しと言わんばかりに、口づけと愛撫の激しさをより一層強めていった。
対する稲荷も快感に溺れていて、顔だけでなく身体全体が桃色に染まっていた。山吹色の耳はペタリと垂れ下がり、柔らかな尻尾は媚びるような動きで男の腕にすりついている。
「はあっ、はあッ、はアッ」
男の淫情は満たされた桶のようにあふれ出る寸前だ。愚息は通常の数倍に膨張しており、女の下腹部に押し当てられている。
毬のような胸を揉みしだく右手は苛烈で、与えられる悦楽に稲荷の秘所もどろどろに濡れそぼっていた。
立ち上る淫臭に本能が唸りを上げ、オスとメスの色欲が一気に加速していく。
むしゃぶりついていた唇から一旦離れると、男は焦燥感も露わに魔物娘へ迫った。
「君が欲しい」
両者の口からは涎が薄いアーチとなって垂れ下がっており、それを視界に入れた二人は己が内の欲望が決壊するのを自覚した。
「はい、下さい。挿れて欲しいです、あなたのを」
高揚と性的衝動のあまり、林檎よりも紅い稲荷の顔。目元は潤み、形の良い眉は垂れ下がっている。桜色の唇はへの字に歪み、そこからはだらりと舌と涎が垂れる。
優美な淑女ではなく、唯一の生殖相手を求める動物の姿がそこにあった。
女の色情を見て取った男は、そのヴァギナに向かって勢いよくペニスを挿入した。
「「あああああああっ!」」
待ち望んでいた感覚に、二人の声が重なる。一直線に突き抜けた淫剣は歓喜に震え、肉棒を包む膣壁はいやらしくうごめく。
「ふうっ! ふうっ! ふうっ!」
挿入と同時に、男は激しいピストンを開始した。ぐちゃぐちゃといやらしい音が浴室に反響し、身震いするほどの快楽が恋人達の脳髄を焦がす。
「あ! あああ! いい、いいれすぅ! もっとぉ、もっと突いてくらしゃい!」
稲荷は荒々しい抽挿に喜び、両腕を男の背に回す。美しいその顔は涙と涎にまみれている。理性という概念そのものを投げ捨てるかの如く、淫らな表情であった。
女の秘所をえぐり続ける男は、叩きつけるような激しさはそのままに腰の角度を微妙に調整する。
「ひっ、そこは!」
それにより、肉槍は女の子宮口をノックすることになった。
急所を穿たれたことにより、稲荷の目が快楽に見開く。コツンコツンと敏感な所を何度も突かれては流石の魔物娘もただでは済まない。
予想を上回る快感に、稲荷は焦りを覚える。このままでは即座にイかされてしまう。
「待ってくだしゃい! そんな、そんな所ばっかり突いてはいけませああああ!」
懇願も虚しく、稲荷は電流のように流れた感覚にビクビクと痙攣する。
男が密壺をほじるスピードを上げただけでなく、彼女の乳首を吸い上げたのが原因だった。
じゅるじゅると音を立て、桃色の花を口に含む男は一心不乱に腰を前後させる。
結合部からは夥しい量の愛液が垂れており、響き渡る水音の大きさも先の比ではない。
段階的に激しくなってゆく律動に対し、女は抵抗を諦めた。大波のよう与えられる愛情に全てを委ねた。
欠片ほど残っていた恥じらいを捨てた後は、もう楽だった。
相手から与えられる快楽に、稲荷はよがり狂い、嬉し涙を流し舌と涎を垂らし続けた。
「フッ、フッ、フッ!」
「ひぎっ!? あがあッ、ふひゃあああ!」
淫撃は大きさを増していき、二人の頭には火花が幾重にもなって散り始めた。
人間なら狂い果てる程の凄まじい性衝撃が、接合点を中心に彼らを犯してゆく。今の二人に残っている感情はシンプルに二つだけ。
もっと気持ちよくなりたい。
そしてこの気持ち良さを、もっと相手に分け与えたい。
やがて、その感情と快楽は臨界点を迎えた。
「「うあああああああっ!!!」
ごぼり、と。
男の分身から子種が解き放たれた。尿道から飛び出した精液は膣内を蹂躙し、子宮内に飲み込まれて行った。
男根の震えは収まる所を知らず、次々と半固形の精子を垂れ流していく。
秘所に入りきらなかったザーメンは、ゴポゴポと卑猥な音を立てながら結合部分から溢れ出てきた。
視界が鮮やかに明滅し、二人は桃源郷にその思考を飛ばした。
「嬉しい、ですぅ。こんなにいっぱい……」
恍惚とした様子で、稲荷は自分のお腹に手をそえる。己が内に入ってきた熱は未だに冷めることがなく、それどころか脈動がまだ続いている。
すなわち。これほどまでに出しても、男の射精はまだ終わっていないという事だった。
それから数分間に渡って吐精は続けられた。常人の比ではない量の精液が女の膣を犯し続け、ヴァギナからこぼれ落ちた精液は、マットの上に大きな水たまりを作った。
「はむ、んんっ、ちゅ。いっぱい、出ましたね」
「ううっ、ああ……。いつしても、君とのセックスは最高だよ」
絡まり合った状態で、お互いの唇を貪りあう男女。しかし夥しい量のスペルマを出しても男の剛直は依然として固いままだった。
「あなたの……まだ立派ですね。あの、もしよろしければ」
「勿論。僕もまだ足りないと思っていた頃さ」
稲荷の言葉を皆まで言わせず、男は深く頷いて見せる。
彼はとうの昔に人間をやめてインキュバスになっている。一回程度の交わりで満足できるはずもなかった。まして、最愛の女性が自分との繋がりをまだ求めているのだ。
これをどうして拒否できよう。
「動くよ」
「はい、ああっ深いですぅ!」
ぐぐっと、再び押し込まれる肉棒。膣内に溜まった精液をかき分け、最奥である子宮口を再び突き始める。
一定のリズムで与えられる疼きに、稲荷はにわかに興奮し始めた。
「そんなっ、凄くいやらしい音が出てます!」
両者の下腹部にこびり付いた精液と愛液が、腰の前後に合わせて卑猥な鳴動を奏でる。
入れる、出す。入れる、出す。その往復を繰り返す度にペニスはまた膨らんでいった。
「ッ」
無意識の内に、男は息を詰め喉を鳴らしていた。
耳朶に響く嬌声と、精子と愛液の弾ける音。
身体全体を駆け巡る、セックスの大きな快感。
目の前で乱れる、稲荷のあられもない姿。
その全てが男の獣性をより一層昂らせる。
気付いた時には、先の比にならない程腰の動きを加速させていた。
「あああああああっ、でる、でる、でるっ!」
度を越した興奮で、眼を真っ赤に充血させながら男が咆哮する。それに呼応する形で、再び精液の奔流が稲荷へ叩き込まれた。
「ひあっうっ!? ふあっ、せーえきれてるうぅ、たくしゃん出てましゅうぅ」
壊れた蛇口のように、淫剣はドバドバと精子をぶちまけ、吐き出していく。三回目の射精だというのに、先と比べてもその濃度と量はほとんど変わらなかった。
「うぎいっあああ?! ダメええええっ?! そんな、中出しながら腰動かしちゃダメですっ!!」
それどころか、男はピストンの速度をさらに上げていく。リミッターを解除したマシンのように、男は下腹部を稲荷に激しく打ち付けていく。
バツン、バツンとさらに強くなった淫音は浴室に響き渡り、耳に絡みつく。
女陰から出し入れを繰り返す肉棒は愛液と精液ですっかりベチョベチョになっており、サイズも一般的なものと比較して遥かに大きい。
ここまで肥大化したのも、ひとえに彼がインキュバスであるからだろう。
「いやっ! いやあああぁー! お願いです、一旦止まって下さいいいい!」
脳髄を焦がすかの如く喜びに、稲荷は悲鳴のような懇願を喉から発し続けた。
首をぶんぶんと振り、這いまわる快楽から逃れるように身をよじらせる。
「うううぅぅぅ、ッはあああああぁぁ! んむうっ?!」
だがそうはさせまいと、男は稲荷の両手をがっちり掴みその唇をキスで塞いでしまった。
上から押しつぶす様な形で、厚い胸板と割れた腹筋を押し当てることも忘れない。
完全に組み伏せられる格好となった女は、その全身に余すところなく快楽を穿たれた。
「!!!!!!!!」
魔物娘の声にできない叫び。四度目の射精が、女の膣内に配達されたからだ。
オーガズムの嵐が二人に襲いかかり、両者共にその肉体をガタガタ痙攣させる。
男は爆風を受けたかのような衝撃に全力で耐えるため、稲荷の両手を強く握り締める。
だが一方の稲荷は、迫りくるアクメから逃げ切れなかった。
常軌を逸したエクスタシーは彼女の中枢神経を木端微塵に粉砕。
米粒ほどに残っていた稲荷の思考は、この瞬間に跡形もなく吹き飛んだ。
絶頂の丘に連れて行かれた女は眼を限界以上に見開き、特徴的な耳と尻尾は天を突く勢いでそり立った。
一拍の後。
稲荷の瞳からは光が消え失せ、身体中からは気力そのものが消滅した。モフモフした尻尾と三角耳もぱたりと垂れてしまう。
もうここまで来ると、後はなされるがままである。精液中毒者になった稲荷はもう考えることを止めた。
「う、あ、う、あ、あ」
肉人形になり果て、ぐったりとした稲荷に対して男は口づけをと前後運動を再開。
虚ろなる恋人へ、男は破滅的な性感を提供し続ける。
彼の剛直には膣壁が別の生物のように絡みつき、精子の放出をねだっている。
理性や思考はなくなっても、愛と色に狂った魔物娘の身体は正直らしい。
そうでなくとも、男の脳内は既に女を妊娠させることで一杯だ。ペース配分やスタミナの節約も考えず、ただひたすらに射精と抽挿を繰り返して行く。
ピストン、射精。
ピストン、射精。
ピストン、射精。
短い時間の内に、男は何度も、何度も、何度も繰り返した。
その間彼女は、ずっと放心状態だった。双眸は相変わらず虚ろのまま。身じろぎ一つせず、抵抗もしない。しかしディープキスを受ける口元だけは、身に余る幸福で笑みを作っていた。
そして十回目の吐精をとうの昔に超えた頃だろうか。
稲荷の腹は一目みて分かるほどにボッコリ膨らんでいた。中に出産間近の赤子でも入っているのかと見紛うばかりである。
だがこれを、流し込まれた精液が原因とは普通考えられないだろう。
最も、二人の周囲にまき散らされた夥しい量の子種がそれ以外の理由付けを許さないであろうが。
男が女に詰め込んだ精子の量は、リッター換算するとぞっとするほどの数値になるに違いない。
この光景を見たら、一般的な人間は発狂しかねないだろう。
だがザーメンタンクになろうとも、稲荷の美しさは変わらなかった。むしろ男にとっては、恋人をこんな姿に変えたのは他ならぬ自分なのだという、変な達成感すらあった。
「せ、せーし、せーしください……。もっといっぱい、おちんちんとせーえき……」
稲荷の方も大概であった。これほど滅茶苦茶にされても男との性交をまだ望んでいた。
「あかちゃんの素、ください、ほしいんですぅ……」
うわ言のようなつぶやきが、ボテ腹になった稲荷から紡がれる。
膨らんだ風船のようにパンパンの腹部。そこは、精液がひっついていない所を探す方が難しい程白く汚れている。
艶やかだった彼女の顔は涎と涙に彩られており、一流の娼婦もこの表情は真似できないだろう。
情愛の極地に辿り着いた者だけができる、そんな顔だった。
男はディープキスで了解の意を伝えると、想い人の願いを叶えてあげた。直後にまた大量の白い小便が女の膣に放出された。
腰を真っ直ぐに突き出して、可能な限りチンポと子宮口を密着させる。
歓喜に震えたマンコは、妊娠汁を一滴も逃すまいと収縮運動を行った。
数分間に及ぶ放精は、両者にとって至福以外の何物でもなかった。
射精がちゃんと止まったのを確認し、男は上体を起こす。
それに伴う形で、ちゅぽんと触れ合っていた唇が離れた。透明な涎が曲線を作り、つうっと落ちていく。
キスを中断された稲荷が、一瞬で泣きそうな顔になる。ごめんね、との想いから男は頬を優しく撫でてあげた。
ここに来て、男は体勢を変えることにしたのだ。
稲荷もそれを理解したのだろう。こくりと頷き、体位の変更を促した。
男は肉棒を膣内に入れたまま、くるりと器用に身体を動かす。抱き合いに適した正常位から、後背位に移行。
と言っても、女は力が抜けているせいでまともに動ける状態ではない。
よって稲荷の腰は、男が両手で保持する形になる。
四つん這いになった恋人の艶姿を見て、男のイチモツはさらに硬くなった。
上気して赤くなったうなじ。汗が滴る背中。力なく垂れた可愛らしい耳と尻尾。
そして、もみ心地抜群のお尻。
我慢などできるはずもなく、腰を再び動かしていく。最初は緩く、徐々に速く。
体勢の都合上、稲荷の表情を窺う事は出来ない。しかし、膣内の締まりが一層良くなっていることから悦んでいる事には間違いない。
リズミカルな反復動作に合わせるようにして、性器の接合部分からも愛液と精液が次から次へと溢れてくる。半固形上になった精液はべっとりとした動作で、マットの上に滴り落ちていった。
「っ、はっ、はっ、あああっ」
精液ボテ腹稲荷は息を短く吐きながら、酸欠を回避している。考えてのことではない。
条件反射で行っている事だ。自分を今まさに貫いている男から、稲荷は数え切れないほど絶頂天国へ連れて行かれた。その経験によって、彼女は無意識で調息呼吸ができるようになったのだ。
「!? ――!」
けれどもバックは、正常位以上の瞬間快楽値を叩き出しやすい体位。
油断すると、即座にエデンの向こう岸へ連れて行かれてしまう。
パクパクと魚のように口を開閉する稲荷の膣内で、もう何十回目とも知れぬ射精が暴れる。
ブリュブリュビチビチと、これ以上ないくらい下品な音がバスルームに轟いた。
子宮から逆流してきた精液と愛液が、奥から押し出されるようにして噴出してきたからだ。
むせ返り、息が詰まりそうな匂いが、浴室一杯にまたもや広がる。
しかしそれすらも、二人にとっては性欲を増進させるスパイスに過ぎなかった。
いきり立った大剣の命ずるままに、男は稲荷の膣へ大きく腰を叩きつける。
「フッ、ふっ、っふっ、ふうっ!」
数ある体位の中でも、正常位とバックは男のお気に入りだった。
正常位は大好きな稲荷と正面から抱き合えるから。
そしてバックは、本能を前面に押し出す形で相手を貪れるケダモノプレイができるから。
よって、射精しながら腰も止めたりはしない。男にとっては当然のことだった。
間を置かずして、精液の雪崩を彼女の懐妊受付室にまたもやプレゼントする。
ビチビチはねる白の大軍を飲み込む稲荷といえば、酷い有様だった。
目の焦点が境界の彼方へ飛んでいき、舌は真っ直ぐに突き出されている。
口の端からは涎がまき散らされ、耳と尻尾は痙攣を繰り返す。
俗に言う、アへ顔を晒したのだった。思考? 理性? そんな事を考えている余裕なんてありませんという表情だった。
「え、あ、えへ、えへあへえへへへっ、きもちイイれしゅぅ……」
彼女の思考を司るネジが全てすっぽ抜けても、男の猛攻は止まらない。むしろ攻め手は強烈になっていく。
背すじやうなじに舌を這わせ、両手を彼女の乳に伸ばして揉みしだく。
フサフサの尻尾をいやらしくしごき、その三角耳にしゃぶりつく。
同時並行で射精もクレバスの最奥に次々と注入される。相変わらず、その吐精量はリッターを超えている。
「すごいっ、スゴいっ、ひゅごいっ! せーし! せーしがびゅーってれてましゅううう!びゅーううぅって!」
目も当てられない狼藉を働く男に対して、稲荷は全然抵抗しない。
むしろ与えられる快楽に狂喜していた。否、既に狂って壊れて堕ちていた。
二年前。
処女をこの男性に捧げた時点で、稲荷の心はもう決まっていたのだ。
【この人からなら】どんな恥ずかしい事をされても大歓迎と。
魔物娘にとってそれは、中だし専用性奴隷と宣言したも同義であった。
……それからさらに三時間に渡って稲荷はバスルームで恋人に犯され続けた。
愛撫を受け、体位を次々と変えられ、冗談としか思えない量の精子を流し込まれる。
我を失った男から数多の性戯を身体に刻まれていき、失禁とオーガズムとアへ顔と気絶を幾重にも繰り返す。
仮に気絶しても、射精でまた意識を呼び起こされる。
肉棒は、行為が終わるまで秘所から一度も引き抜かれることはなかった。
また、彼女のお腹は吐き出された精液のせいで最終的には臨月妊婦並に大きくなった。男は男で、スタミナが限界を迎えても腰を全力で振り続けた。
淫獄の極みだった。
そして二人は、とてもとてもシアワセだった。
チッ、チッ、チッ、という規則正しい音で稲荷は目を覚ました。枕元には木製の目覚まし時計が置いてあった。時刻は夜九時を示していた。
「ここは……?」
照明の落とされた部屋。自分はベッドに寝かされていたらしい。浴室での行為を終えた後の記憶は曖昧だ。少なくとも、今着ているネグリシェに着替えた覚えはない。
「……」
上体を起こして周囲を見回す。程なくして、自分が今いる場所が恋人の書斎兼寝室だということが分かった。
「迷惑をかけてしまいましたね」
気を失った自分を、彼が介抱してくれたのはすぐに分かった。膨らんでいたお腹も、今では元通りになっている。
書斎に恋人の姿はなかった。居間の方から音が聞こえてくるので、彼は恐らくそっちにいるのだろう。
彼へお礼を言うため、稲荷はベットから降り一歩を踏み出す。
「んあっ」
が、下腹部に疼きが走ったせいでヨタヨタとバランスを崩してしまった。
あの激しい行為の余韻が、まだ残っているせいだ。
流石にあんな変態行為の数々を身体に刻まれては、魔物娘といえど身体に軽度のバランス不全を引き起こす。
「これは、参りましたね」
自分の秘部に、まだ肉棒が刺さっているかのような異物感。稲荷は苦笑いを浮かべると一歩ずつ、着実に移動を再開した。
リビングに通じる扉の前に到着した彼女は、ゆっくりとドアを押し開けた。
「え……」
そして目を疑う。
暖色系のランプで照らされたリビングテーブルの上。そこには色とりどりの御馳走が並べてあったからだ。
和食洋食を問わずどれも見事な出来栄えで、稲荷が好物とする油揚げを使った料理も沢山見て取れた。
「これは、一体」
目をぱちくりと瞬かせ、茫然とする稲荷。そこに彼女の想い人がキッチンからやってきた。
「おはよう。よく眠れた?」
「はい。お陰様で身体を休めることができました。それにしても、これは一体……」
未だ状況を飲み込めない稲荷は、小首を傾げて男に尋ねる。
その質問に対して、男は待ってましたと言わんばかりに胸を張った。
「今日は三月三日だよね」
「そ、そうですね。世間ではひな祭りが重要イベントですけど……」
「うん。けど君にとってはもう一つ大切な意味を持つ日でもある」
「大切な意味……。あっ!」
そこでようやく気付いた。仕事に忙殺されていたため、当の本人すらそのことを忘れていた。
「誕生日、おめでとう」
温かい声で発される、恋人からの祝福。
それを聞いた瞬間。
稲荷の視界は滲み、眼がぼやけていく。熱い涙が頬を滴り気付けば嗚咽が漏れていた。
純粋に嬉しかった。自分がここまで想われていることに。愛されていることに。
堰を切った感情のうねりは、胸の内からこぼれて溢れていく。
床にペタリと座り込んでうれし涙を流す稲荷。
男は彼女に寄り添って、その背中を手でさすってあげた。
今、二人の心にあるのはただ一つ。
相手への慈愛だけだった。
19/03/22 20:35更新 / 風車小屋