竜の舞う山、百火の竜王・前編
森を抜けた二人は近くにある町を目指し街道を進む。館の執事エルンストから貰った地図では山を登っていくと次の町があるのだと言う。
山に入った道は徐々に険しくなり、レナの隣を歩くマールの足どりは少し重い。
「次の町へは後どれくらいでしょうかレナさん。」
少し疲れた様子を見せるマールに対し、彼を背負って森を抜けていたレナは
息一つ乱さないで問いかけに答える。
「もうすぐ着くわ、大丈夫?」
「はっはい、大丈夫です、問題ありません。ってうわぁ!」
そう答えつつ足元の段差につまづき転んだマールを支え抱きかかえたレナは、顔を赤くして目をそらすマールを見て少し笑って再び彼を背負う。
「疲れたのならそう言いなさい。
これ位ならいくらでもしてあげるんだから。」
「でも…」
「"でも"も"だって"もありません。」
「む〜」
レナの言葉に唸るのみのマール、レナはその会話の中に懐かしさと安らぎを感じていた。
_________________________________________________
夕日差す山道を進むレナ、険しい道の向こうに大きな門が見える。金属製の大きな門は遠目で見ても頑丈であると推測できる。
「開いてないわね。今日泊めてもらえればいいのだけれど。」
「大丈夫ですよ。きっとなんとかなりますよ。」
レナの背中から降りたマールが門の前に向かう。その時だった。
「危ない!!」
マールを下がらせるレナ、彼のいた場所に矢が刺さっている。
「うわぁぁぁ!」
一瞬遅くマールの叫び声が聞こえる。自分の置かれている状況に気付いたらしい。
「誰なの!姿を現しなさい卑怯者!」
レナの呼びかけに応じて物陰から青年が姿を現した。
まず印象に残るのは冷たく鋭い眼光、それだけで気の弱い人なら殺せそうである。血の色をした赤毛に顔や体に施してある刺青、背は高く体格も良いが、目つきの悪さにより近寄りがたい雰囲気をかもしだしている。
「今、外の人間を入れるわけにはいかない。貴様等が里に危害をもたらすかも判らないしな。
死んでもらおうと思っただけだ。」
無愛想にそう呟いた青年は腰に差してある二本の曲刀を抜き中段に構えをとった。
「マール、気をつけて。かなり出来るわよ。」
「…」
言われるまでも無く集中しているマールの周囲には魔力が渦巻いている。
「いくわよっ!」
『せかいをめぐるかぜのうたよ、われらにやどれ
【複数速度強化(エリアスピードプラス)】』
レナが剣を構え突撃するのと同時にマールの強化魔術が発動する。レナの速度の上がった剣を避けつつ距離をとって懐の短刀を投げる青年、レナの剣によって弾かれた短刀はちかくの地面に突き刺さり、気配もなくレナに近寄っていた青年の曲刀がレナの首に届きそうになったところに
『まいおりしひょうけつのしっぷうよ、とうてんのみこよ、
そらにいてつくはなをさかせよ
【永久凍土の烈風(ゼロ・ブラスト)】』
氷の刃を伴った突風が青年を襲う。氷の刃を寸でのところで回避した青年は自らの体に起きた異変に気付く。
足元が凍りついて動かないのだ。しかし、目視できる程の魔力の渦を纏った少年の魔術は止まらない。
『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』
『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』
『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』
『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』
『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』
魔力の渦に反響して無数に響く詠唱は、全てが敵を討つ意志を持って青年に飛んでいく。無数の雷撃は回避する術のない青年に直撃した。
しかし雷撃の跡から出てきたのは緑色の鱗と翼を持つ女性と、女性に守られた先ほどの青年だった。
「これはどういうことなの、サイード。」
サイードと呼ばれた青年は突然現れた女性に目もくれずに町の方へ歩いていた。
「興が冷めた、そいつらは好きにすればいい。」
「サイード!!」
竜の女性は自分を叱る女性の声にも動じずに町の中へ入った青年を見て、ため息をつきつつ彼と交戦していた二人に向き直った。
「彼が迷惑をかけてごめんなさい。あなた達は見たところ宿を探しているようだし、条件さえ守ってくれれば私の家に泊めてもいいけどどうかしら。」
太陽は沈み、茜色の空は紫色に色を変えつつある。夜になった山道は様々な面で危険だ。
マールとレナは顔を見合わせた。それだけで二人の意見はまとまる。
「ご好意にあまえて。」
「それじゃあよろしく。え〜っと、」
何か言いたそうなマールを見た竜の女性は少年の人の良さを感じ微笑んだ。
「私の名前は"エリス・クリスティン"。家に案内するわ、ついてきて。」
竜の女性エリスに連れられ竜の里に入るマールとレナであった。
___________________________________________
山を切り出して作られている町の建物は無骨な石造りの建物、町に入ってもなお険しさを見せる道、
ここは"竜の里"、火と共に生きる誇り高き者たちの住む町であり、かつて要塞として、火の民の誇りを汚そうとした人と魔の者たちを焼き尽くした伝説の古代都市の一つである。
「なんだか賑やかですね。」
町のいたるところで人々が建物や、壁に飾りをつけている。
「もうすぐに祭りが始まるのよ。」
エリスの視線の先には豪華に飾り付けられた神殿が映る。
「私の家に行きましょう。詳しくはそこで話すわ。」
マールとレナは生まれた多くの疑問を抱きつつ、少し足を速めたエリスについていった。
町から少し外れた場所にある石造りの家、その前で立ち止まったエリスはマールたちの方へ振り返る。
「着いたわ、ここが私の家よ。」
エリスが扉を開けた先に見えたものそれは、
「もうすぐ夕食だってのに何処行ってたのよ姉さん!ってあれ?後ろの人たちは誰?」
「え、え、どういうことですか?」
「双子でしょ…」
突然現れたエリスと全く同じ顔の女性に驚くマールとその驚きように呆れるレナ。
「とりあえず…落ち着いてから話ましょうか…」
マールと自分の妹、二人の驚きようを見てエリスは笑いながら家に入って行った。
____________________________________________
マールたちが家の中に入ってから数十分が経過した。食事を終えた子どもはうとうとと眠そうに目をこすり始め、大人たちは会話を続けている。
「まずは自己紹介ね、私の名前は"セレス・クリスティン"。エリス姉さんの双子の妹よ。」
エリスとほぼ同じ顔をした女性の自己紹介が終わる。レナの想像通り双子のようだ。
エリスとセレスは竜の里の説明を続ける。
「今、この町では祭りの準備をしているの。"竜王の復活祭"、ここに来る途中にも見たでしょう。」
「この町では竜王信仰が根付いていて、教会側にも魔王側にも属していないわ。」
眠そうに揺れるマールを自分の膝の上に乗せたレナは竜の姉妹の話に加わる。
「それで、何故私たちはあなたたちにサイードと呼ばれていた男に襲われたのかしら?ほら、あなたも眠そうにしてないで聞きたいことがあったら今聞きなさい。」
竜の姉妹への質問に続けて膝の上の少年を揺さぶる。眠そうな少年は目をこすりながら、竜の姉妹に質問する。
「そういえば、この町ってドラゴンが多いですよね、なんでですか?」
・
・
・
場の空気が一瞬凍りついた。その一瞬の後、レナは呆れた表情でエリスとセレスは笑って説明する。
「順序良く考えていきましょう。さっきこの里は教会側にも魔王側にも属してないって言ったわよね。
どういうことか考えてみて。」
「教会とも魔王とも手を組まなくてもいいのは何故か、」
竜の姉妹に促され、思案を続けるマール。
「他の町や国は外敵から住んでいる人を守るために組織を作る。」
「教会側では組織の中心が神、魔王側では魔王。」
二人の話を聞いていたマールは何かを思いついたようだ。それを見たレナが問い掛ける。
「わかったかしら?言ってみて。」
レナにそう言われたマールは嬉しそうに口を開く。
「竜たちに守って貰ってるから教会側にも魔王側にも属さなくても大丈夫なんですね。」
「大体あってるわ。」
「この土地は竜王様の故郷で、かつて竜王様がこの大陸を支配していたときの拠点だったの。だからこの里にはドラゴンが大勢いるのよ。」
「へぇ〜そうなんですか。」
竜の姉妹の説明を聞いて納得したような声を出したマール、
「一般常識の一つだからおぼえましょうね。」
レナに撫でられたマールは気持ち良さそうに目を細める。
「あっ後そのサイードって人は何ですか?どうして里に入っちゃだめだったんですか?」
「質問は一つずつにしなさい。もう・・・」
レナとマールの掛け合いに竜の姉妹は笑いながら順序良く少年の質問に答えていく。
「それじゃ一つずつ、まずは"サイード"のことね、彼の名前は"サイード・マグナード"この里で最強の戦士よ。」
「運が良かったわ、私が止めに入らなければお互い無傷というわけにはいかなかったでしょうね。」
二人の話を聞いていたマールがまた声を上げる。
「でも、エリスさんが庇わなければぼくの魔法が当たっていたはずですよ。殺さないように手加減したとはいえ
立てないくらいの威力にしたはずです。」
「多分サイードなら避けようと思えば避けれたわ。それに当たってもあなたの思うとおりにはいかなかったと思うわ。互角程度の実力を持つ相手に対しての手加減はそう簡単なものではないわ。」
再び考え込むマール、しかし話は進む。
「次は"何故里に入ってはいけない"ね。」
「ここに来る途中に祭りの準備をしてるのを見たでしょう。"竜王の復活祭"がもうすぐ始まるの。」
「でも、なんでお祭りなのに外の人が入っちゃいけないんですか?」
マールの言葉にしばらく考え込んでいたレナが口を挟む。
「しきたり、かしら?」
突然口を挟んだレナは的確な答えを出す。今語ろうとしたことを先に言われたセレスは驚き、レナの頭の回転の速さに感心したエリスは続ける。
「そう、しきたりよ。でも道に迷った人が祭りに居合わせたこともときどきあったし、問題無いと思うわ。」
「大体サイードは融通が利かないのよ。いきなり殺そうとするなんて。」
セレスの話の途中に鐘の音が響く。
「もう祭りが始まるわ。一応しきたりだから外には出ないでね。」
「お風呂は沸いてるから好きに使って、寝るときはそっちに来客用の布団が干してあるから、一組しかなくてごめんね。」
そう言い残すと二人の竜は扉を開けて夜の空の紅く燃える方向へ飛んで行った。
山に入った道は徐々に険しくなり、レナの隣を歩くマールの足どりは少し重い。
「次の町へは後どれくらいでしょうかレナさん。」
少し疲れた様子を見せるマールに対し、彼を背負って森を抜けていたレナは
息一つ乱さないで問いかけに答える。
「もうすぐ着くわ、大丈夫?」
「はっはい、大丈夫です、問題ありません。ってうわぁ!」
そう答えつつ足元の段差につまづき転んだマールを支え抱きかかえたレナは、顔を赤くして目をそらすマールを見て少し笑って再び彼を背負う。
「疲れたのならそう言いなさい。
これ位ならいくらでもしてあげるんだから。」
「でも…」
「"でも"も"だって"もありません。」
「む〜」
レナの言葉に唸るのみのマール、レナはその会話の中に懐かしさと安らぎを感じていた。
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夕日差す山道を進むレナ、険しい道の向こうに大きな門が見える。金属製の大きな門は遠目で見ても頑丈であると推測できる。
「開いてないわね。今日泊めてもらえればいいのだけれど。」
「大丈夫ですよ。きっとなんとかなりますよ。」
レナの背中から降りたマールが門の前に向かう。その時だった。
「危ない!!」
マールを下がらせるレナ、彼のいた場所に矢が刺さっている。
「うわぁぁぁ!」
一瞬遅くマールの叫び声が聞こえる。自分の置かれている状況に気付いたらしい。
「誰なの!姿を現しなさい卑怯者!」
レナの呼びかけに応じて物陰から青年が姿を現した。
まず印象に残るのは冷たく鋭い眼光、それだけで気の弱い人なら殺せそうである。血の色をした赤毛に顔や体に施してある刺青、背は高く体格も良いが、目つきの悪さにより近寄りがたい雰囲気をかもしだしている。
「今、外の人間を入れるわけにはいかない。貴様等が里に危害をもたらすかも判らないしな。
死んでもらおうと思っただけだ。」
無愛想にそう呟いた青年は腰に差してある二本の曲刀を抜き中段に構えをとった。
「マール、気をつけて。かなり出来るわよ。」
「…」
言われるまでも無く集中しているマールの周囲には魔力が渦巻いている。
「いくわよっ!」
『せかいをめぐるかぜのうたよ、われらにやどれ
【複数速度強化(エリアスピードプラス)】』
レナが剣を構え突撃するのと同時にマールの強化魔術が発動する。レナの速度の上がった剣を避けつつ距離をとって懐の短刀を投げる青年、レナの剣によって弾かれた短刀はちかくの地面に突き刺さり、気配もなくレナに近寄っていた青年の曲刀がレナの首に届きそうになったところに
『まいおりしひょうけつのしっぷうよ、とうてんのみこよ、
そらにいてつくはなをさかせよ
【永久凍土の烈風(ゼロ・ブラスト)】』
氷の刃を伴った突風が青年を襲う。氷の刃を寸でのところで回避した青年は自らの体に起きた異変に気付く。
足元が凍りついて動かないのだ。しかし、目視できる程の魔力の渦を纏った少年の魔術は止まらない。
『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』
『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』
『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』
『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』
『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』
魔力の渦に反響して無数に響く詠唱は、全てが敵を討つ意志を持って青年に飛んでいく。無数の雷撃は回避する術のない青年に直撃した。
しかし雷撃の跡から出てきたのは緑色の鱗と翼を持つ女性と、女性に守られた先ほどの青年だった。
「これはどういうことなの、サイード。」
サイードと呼ばれた青年は突然現れた女性に目もくれずに町の方へ歩いていた。
「興が冷めた、そいつらは好きにすればいい。」
「サイード!!」
竜の女性は自分を叱る女性の声にも動じずに町の中へ入った青年を見て、ため息をつきつつ彼と交戦していた二人に向き直った。
「彼が迷惑をかけてごめんなさい。あなた達は見たところ宿を探しているようだし、条件さえ守ってくれれば私の家に泊めてもいいけどどうかしら。」
太陽は沈み、茜色の空は紫色に色を変えつつある。夜になった山道は様々な面で危険だ。
マールとレナは顔を見合わせた。それだけで二人の意見はまとまる。
「ご好意にあまえて。」
「それじゃあよろしく。え〜っと、」
何か言いたそうなマールを見た竜の女性は少年の人の良さを感じ微笑んだ。
「私の名前は"エリス・クリスティン"。家に案内するわ、ついてきて。」
竜の女性エリスに連れられ竜の里に入るマールとレナであった。
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山を切り出して作られている町の建物は無骨な石造りの建物、町に入ってもなお険しさを見せる道、
ここは"竜の里"、火と共に生きる誇り高き者たちの住む町であり、かつて要塞として、火の民の誇りを汚そうとした人と魔の者たちを焼き尽くした伝説の古代都市の一つである。
「なんだか賑やかですね。」
町のいたるところで人々が建物や、壁に飾りをつけている。
「もうすぐに祭りが始まるのよ。」
エリスの視線の先には豪華に飾り付けられた神殿が映る。
「私の家に行きましょう。詳しくはそこで話すわ。」
マールとレナは生まれた多くの疑問を抱きつつ、少し足を速めたエリスについていった。
町から少し外れた場所にある石造りの家、その前で立ち止まったエリスはマールたちの方へ振り返る。
「着いたわ、ここが私の家よ。」
エリスが扉を開けた先に見えたものそれは、
「もうすぐ夕食だってのに何処行ってたのよ姉さん!ってあれ?後ろの人たちは誰?」
「え、え、どういうことですか?」
「双子でしょ…」
突然現れたエリスと全く同じ顔の女性に驚くマールとその驚きように呆れるレナ。
「とりあえず…落ち着いてから話ましょうか…」
マールと自分の妹、二人の驚きようを見てエリスは笑いながら家に入って行った。
____________________________________________
マールたちが家の中に入ってから数十分が経過した。食事を終えた子どもはうとうとと眠そうに目をこすり始め、大人たちは会話を続けている。
「まずは自己紹介ね、私の名前は"セレス・クリスティン"。エリス姉さんの双子の妹よ。」
エリスとほぼ同じ顔をした女性の自己紹介が終わる。レナの想像通り双子のようだ。
エリスとセレスは竜の里の説明を続ける。
「今、この町では祭りの準備をしているの。"竜王の復活祭"、ここに来る途中にも見たでしょう。」
「この町では竜王信仰が根付いていて、教会側にも魔王側にも属していないわ。」
眠そうに揺れるマールを自分の膝の上に乗せたレナは竜の姉妹の話に加わる。
「それで、何故私たちはあなたたちにサイードと呼ばれていた男に襲われたのかしら?ほら、あなたも眠そうにしてないで聞きたいことがあったら今聞きなさい。」
竜の姉妹への質問に続けて膝の上の少年を揺さぶる。眠そうな少年は目をこすりながら、竜の姉妹に質問する。
「そういえば、この町ってドラゴンが多いですよね、なんでですか?」
・
・
・
場の空気が一瞬凍りついた。その一瞬の後、レナは呆れた表情でエリスとセレスは笑って説明する。
「順序良く考えていきましょう。さっきこの里は教会側にも魔王側にも属してないって言ったわよね。
どういうことか考えてみて。」
「教会とも魔王とも手を組まなくてもいいのは何故か、」
竜の姉妹に促され、思案を続けるマール。
「他の町や国は外敵から住んでいる人を守るために組織を作る。」
「教会側では組織の中心が神、魔王側では魔王。」
二人の話を聞いていたマールは何かを思いついたようだ。それを見たレナが問い掛ける。
「わかったかしら?言ってみて。」
レナにそう言われたマールは嬉しそうに口を開く。
「竜たちに守って貰ってるから教会側にも魔王側にも属さなくても大丈夫なんですね。」
「大体あってるわ。」
「この土地は竜王様の故郷で、かつて竜王様がこの大陸を支配していたときの拠点だったの。だからこの里にはドラゴンが大勢いるのよ。」
「へぇ〜そうなんですか。」
竜の姉妹の説明を聞いて納得したような声を出したマール、
「一般常識の一つだからおぼえましょうね。」
レナに撫でられたマールは気持ち良さそうに目を細める。
「あっ後そのサイードって人は何ですか?どうして里に入っちゃだめだったんですか?」
「質問は一つずつにしなさい。もう・・・」
レナとマールの掛け合いに竜の姉妹は笑いながら順序良く少年の質問に答えていく。
「それじゃ一つずつ、まずは"サイード"のことね、彼の名前は"サイード・マグナード"この里で最強の戦士よ。」
「運が良かったわ、私が止めに入らなければお互い無傷というわけにはいかなかったでしょうね。」
二人の話を聞いていたマールがまた声を上げる。
「でも、エリスさんが庇わなければぼくの魔法が当たっていたはずですよ。殺さないように手加減したとはいえ
立てないくらいの威力にしたはずです。」
「多分サイードなら避けようと思えば避けれたわ。それに当たってもあなたの思うとおりにはいかなかったと思うわ。互角程度の実力を持つ相手に対しての手加減はそう簡単なものではないわ。」
再び考え込むマール、しかし話は進む。
「次は"何故里に入ってはいけない"ね。」
「ここに来る途中に祭りの準備をしてるのを見たでしょう。"竜王の復活祭"がもうすぐ始まるの。」
「でも、なんでお祭りなのに外の人が入っちゃいけないんですか?」
マールの言葉にしばらく考え込んでいたレナが口を挟む。
「しきたり、かしら?」
突然口を挟んだレナは的確な答えを出す。今語ろうとしたことを先に言われたセレスは驚き、レナの頭の回転の速さに感心したエリスは続ける。
「そう、しきたりよ。でも道に迷った人が祭りに居合わせたこともときどきあったし、問題無いと思うわ。」
「大体サイードは融通が利かないのよ。いきなり殺そうとするなんて。」
セレスの話の途中に鐘の音が響く。
「もう祭りが始まるわ。一応しきたりだから外には出ないでね。」
「お風呂は沸いてるから好きに使って、寝るときはそっちに来客用の布団が干してあるから、一組しかなくてごめんね。」
そう言い残すと二人の竜は扉を開けて夜の空の紅く燃える方向へ飛んで行った。
11/02/05 11:55更新 / クンシュウ
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