連載小説
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おとぎの勇者と黄金の双子・中編
 風抜ける草原で二人の女性がくつろいでいた。
「たまにはこういうのも良いわね…」
ローブを羽織った女性は気を抜いた様子でバスケットの中のサンドイッチを頬張った。
「ほっ本当にこんなので奴は来るのかしら…」
周りをキョロキョロと見回す女性は人を待っているようだった。漆黒の鎧を着て警戒心を隠せない彼女はとてもじゃないが散歩に来たようには見えない。
「あなたのような高位の魔物が出歩いているんだもの、私が歩いて捕捉されたのだからきっと来るわよ。」
そう返事をしながらローブの女性は鎧の女性にサンドイッチを渡した。
「戦いの為にも食事はしっかり摂りましょう。」
受け取ったサンドイッチを口にする女性だったが、半分程食べたところで異質な気配を感じ取り地面に置かれている剣を手に取った。
「限界までひきつけるわよ…」
ローブの女性も先程とは異なり緊張に身を包んでいる。

『魔物…殺す…』

平穏な平原に低い声が響く。
「まだよ…」
声を辿るとどこからとなく紅い武具を身に纏った青年が現れた。

『魔物…殺す…殺す…』
「まだ…まだよ…」
青年は漆黒の鎧を身に着けた女性に紅い剣を向けると少しずつ歩いて近づいてくる。

『魔物…殺スゥ!!』
「いまよ!!」
青年が飛び掛るのと同時に二人の女性は立ち上がった。漆黒の鎧を着けた女性は迫る紅い刀身を自分の剣で
迎え撃った。


『ほしのだんそうよ、せいとしのきょうかいよ、かのものをふうじよ【惑星断層の結界(スタープリズン)】』


魔術の輝きが周辺の地面を走る。最上級の結界魔術はこの世界から紅き勇者を隔離した。


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 数時間さかのぼりとある町の建物の中、二人の少年と二人の女性は難しい顔で話し合っていた。
「この四人で戦うんだ、負けることはありえないだろ。」
「相手はおとぎばなしとは言え勇者です。油断してはいけません。」
「奴がいつどこで現れるかも分からないわね。」
「どうしたものかしら。」
会議は平行線の上だった。
 紅き勇者を倒すために力を合わせる四人だったが四人の意見はなかなか揃わなかった。
四人で力を合わせれば十分に戦えると判断するアール、勇者の力を前に慎重に戦おうとするマール、まだ紅き勇者を見たことが無いミレイ、作戦を立てることに慣れていないレナ。
 敵の情報が足りてないというのもある、指揮官であるミレイに敵の情報が無いのだ。

 沈黙が訪れる、誰にもいい案が出ないままに時間は過ぎていく、そんな中だった。
「決めたわ。」
ミレイが沈黙を破る、迷いは無いようだ。
「奴を見たことも無いお前が作戦を決めたのか?」
「危険ですよ。」
二人の少年が制止するがミレイは止まらずに続ける。
「ここで話し合っていても何も変わらないわ。私を信じて戦うのならば作戦を聞いて。」
「本当に大丈夫なのか?」
「どんな作戦を立てたんですか?」
三人の注目を集めたミレイが作戦を話す、それは余りにも単純な作戦だった。

「私が囮になって紅き勇者が出てきたところを皆で戦うの。」



 ため息が二つ分聞こえると再び時が動き出す。
「危ないですって。」
「分かった。」
「やりましょう。」
マール以外の二人がミレイに従う。マールはまだ納得していないようだ。
「なにか起きてからじゃ遅いんですよ。レナさんからも言ってくださいよ。」
レナは慌てるマールを見て笑いながら彼をなだめた。
「大丈夫よ、ミレイの作戦は昔からこんなのだから。」
「こんなのって…」
まだ渋るマールの横でアールはため息をついて彼を諭す。
「諦めろ、こいつはいつでも"こんなの"だからな。」


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『ほしのだんそうよ、せいとしのきょうかいよ、かのものをふうじよ【惑星断層の結界(スタープリズン)】』 


「この辺り一体を封印しました。これで奴を逃がすことなく戦えます。」
魔法で姿を隠していたマールとアールがレナ達の前に出る。
「いくぞ、最初から本気でな!!」
黄金の光を纏ったアールが高速で紅き勇者に迫る。剣と剣が何度もぶつかり合い激しい音が止まない。


『さついのほんりゅうよ、よみがえるさいかのひめいよ、きょうふのもんしょうをきざめ【災禍殺撃咆(サドネスストリーム)】』


 アールが後方に跳び距離をとると紅き勇者の足元から魔力が迸る。だが、一瞬のうちに紅い光が魔術をかき消した。
「まだだ!」
再びアールが紅き勇者に迫る。身に纏った黄金光は輝きを増し、彼の持つ剣からは特に強い光が放たれており刀身が見えないほどである。
「喰らえ!」


【英雄の剣(フラッシュソード)】


 光の剣が紅き勇者に迫る。しかし光の剣は片手で止められる。
「何だと!」
紅に包まれた腕は光の剣を受け止めその紅を爆発的に拡散させていく。


《夕日より紅き血よりも紅き紅蓮の紋をその身に刻め【鮮血の紋(クリムゾン・サイン)】》


 辺りに弾けた紅は勇者の呟きに反応して攻撃性を出し、アール達に襲い掛かる。紅の力が触れた場所から
傷が生まれ、広がっていく。
「これはいけない!」


『あかつきにまうくおんのおうよ、いのちのわからはずれしものよ、
そのはねをいだいなるめぐみをわれらにわけあたえたまえ【復活の羽(リヴァイヴピース)】』
《此処ニ散レェ!!》



 マールの詠唱の直後に紅き勇者の叫びが響く。勇者の叫びに共鳴してマール達の傷から大輪の血の花が咲き乱れる。
紅き魔力が戦場を包みこみ、マール達は地面に倒れた。

 ただ一人ローブを身に纏った女性を除いては。
「このローブはね…魔力を通さないの。だからその魔術は効かなかった、そして魔力を感知するあなたは私が魔物とは
気づかなかった。」
女性はローブを脱ぎ剣を構える。
「ここからは私が相手をするわ。」
紅き勇者は目の前のローブの中から現れたリザードマンに殺意を向けた。


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(やはり…強い。ここまで追い込まれるなんて…)
紅き勇者の前方、剣を構えるリザードマンのレナは紅き勇者を見据えた。
(この相手に一人で…時間稼ぎも厳しいわね…)
『魔物ォ殺スゥゥ!』
(考えている暇は無いわね。)
紅き勇者は弾丸の様にレナに迫る。剣と剣が幾度となくぶつかり合いその度にレナの体には細かく傷が与えられていく。
『殺ォス!』
思い切り振られた真紅の剣はレナの剣を両断する。剣圧でレナの顔に横一文字の切り傷が走る。
再び迫る真紅の剣を防ぐ術は無かった。そう、レナには防ぐ術は無かった。

 マールの魔術で復活したミレイは真紅の剣を自分の剣で受け止めた。
「準備できたみたいよレナ。」
紅き勇者を押し返したミレイはレナを連れてその場から離れる。二人の金髪の少年は膨大な量の黄金の光を出している。


【異世界より飛来せし真実そのものよ、我が仇なす者に絶対の死の真実を与えよ】

【魔天を切り裂く悪魔達の盟主よ、闇の掟で純白を漆黒に漆黒には裁きを与えよ】


 マールとアールの言葉に反応して二人の上空にぼやけた巨大な門が現れる。門は開かれ絶対的な力を持ったその存在は攻撃の意思を持って紅き勇者に迫る。


【其の者は血を統べるもの、其の者は黄昏と暁の空を統べるもの、我が呼ぶのは紅を知る者なり】


 紅き勇者の目の前に巨大な門が現れそれもまた開かれる。紅い力は激流となって二人の少年の力を迎え撃つ。
「きゃぁ!」
「英雄と勇者の戦いがまさかこれほどのものとはね…」
 力がぶつかり生まれた余波によりミレイとレナは立っていることすら許されない。世界を変える程の力を持つものの戦いの中では普通の魔物二人に居場所など無かった。マール達の力と紅き勇者の力は互角であったが次第に二人分の力に紅き勇者の力が押され始めた。
「いっけぇーーー!!」
「はぁぁぁーーー!!」
 紅き力は消滅し、視界全てが黄金の光に包まれた。








「やった…」
光が消えたとき、紅き勇者の姿はそこには無かった。力を使い果たしたマールは結界を解除してその場に倒れた。
もう一人の金髪の少年は疲れのあまり何も言わずに倒れて寝息を立てている。
「大丈夫、二人とも?」
駆け寄るレナには浅い傷が無数にあり、まだ少し血が流れている。また足取りもふらついている。
「終わったのね。」
ミレイは大きく息を吐いてその場に座り込む。誰一人欠けること無く掴んだ勝利に満足そうな笑みを浮かべている。

 ふとミレイは気がつく。紅き勇者の居た場所から異様な気配が漂っている。血の色をした霧が徐々にその場所
に集まっていく。信じたくない、信じられない。
『魔物…殺す…』
このときミレイは気づいたのだ。自分の軽率さと本当の危機というものを。




【其の者は血を統べるもの、其の者は黄昏と暁の空を統べるもの、我が呼ぶのは紅を知る者なり】


 紅き勇者は再び異界の神への呼びかけを始め、辺り一面に紅の力が満ちていく。神の門は開き、紅より紅い瘴気が門から漏れ出す。絶望がマール達を包んだときだった。

「今助けますよ皆さん。」
声と共に四枚の紙がそれぞれマール達に張り付く。それはジパングに古くから伝わる退魔の術、符術だった。


【四連空転符】


 符が張り付いた瞬間に四人はその場から消えた。突然現れた執事服の青年は紅の力の中に入る前に符をもう一枚取り出し、
「では私も。」

【空転符】

 自らに符を使った。行き場を失った紅の力は轟音と共に草原を破壊する。
『魔物…殺す…』
目標を見失った紅き勇者は空気に溶けるように消えていった。


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 突然現れた青年の符術はマール達を近くの町へと転送した。
「マール様、レナ様、そのご友人様、お怪我はありませんか?」
執事服の青年、マールとレナは彼に面識がある。迷いの森の館で世話になった漆黒の館の執事。
「はい、大丈夫です。」
「なんであなたがここに居るのエルンスト?」
「この人は誰?知り合いなのレナ?」
思いもよらぬ救援に頭の上に疑問符が浮かぶミレイ。アールはミレイの背中で静かに寝息を立てている。
「レナ様のご友人様、私はエルンスト・クラーク、我が主の友であるマール様達の窮地に馳せ参じたので
ございます。以後お見知りおきを。」
「いえ、こちらこそ危ない所を救っていただきありがとうございます。私はミレイ・コバルトホーク背中で寝ているのはアール、よろしくおねがいします。」

 一通り自己紹介が終わった所で話はもとに戻る。
「それでなんでここに居るんですかエルンストさん。」
「マール様、前にお嬢様から渡された黒い石を出してみてください。」
確かにマールは絵の報酬として館の主人である少女から受け取った漆黒の石を持っていた。ずっと鞄の中に入って
いた石を取り出すと石は鈍く紫色の光を発している。
「それは持ち主の危機に反応してその場に応じた救援を今まで会った友好的な人の中から選び召喚する神器"神鳴りの警鐘"。かつて世界を救った勇者が使っていたものです。」
「そんな貴重なものだったんですか!」
光を放つ漆黒の石を見つめるマール達、幻想的な光はこの世在らざるものを感じさせる。


「それにしてもマール様、随分と厄介な敵と戦っているのですね。」
満身創痍なマール達を見てエルンストは彼らの身を案じている。
「エルンストさんはあの人のことを知っているんですか?」
「あれは一種の呪いのようなもので本体は別の場所にあるのだと思います。恐らくはあれを退治しても効果は見込めないでしょう。」
「詳しいわね、何か対処法はないかしら?」
エルンストはマール達よりも紅き勇者について詳しいようだ。
「ジパングで修行していた時に似たような術を見たことがあります。あの術の触媒となるものに干渉しないと根本的な解決にはならないでしょう。」
「結局手がかりは無しで振り出しに戻るんですか…」
意気消沈したマールの後ろから突然誰かの声が聞こえる。

「いや、案外無駄な事は無かったよ。」

その姿を確認したレナは剣を抜きその場に突然現れた青年に突きつける。
「何故ここにいるの…」
眠っているアールとその紅い髪の青年を除いてここにいる誰もがその姿に恐怖し戦慄した。
「紅き勇者…」
そう、彼の姿は紅き勇者と呼ばれマール達と激しい戦いを繰り広げていた青年と同じものだったのだ。
11/04/20 21:38更新 / クンシュウ
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■作者メッセージ
「作者、ちょっとここに座りなさい」
お嬢様どうしたんですかこんなところにまで
「ねぇ作者、エルの出番があって私の出番が無いのはなぜかしら?」
ソッソレハデスネ…
「言い訳なんて聞きたくないわ。それにあなたかなりサボっていたでしょう。」
ナッナンノコトデスカ…
「さよなら、生まれ変わったらもっと真面目になりなさいね。」
あれ…メノマエガ…クラクナッテ…



というわけで本当に申し訳ありませんでした。書くのがかなり遅れたことについてはもう「土下座土下座yes土下座」としか言えません。
言い訳も無しです。ゲーム、ネット、ラノベを2:4:4の割合で生活してました

これからも遅筆ではありますが少しずつ頑張ります。読んでくれる皆様、本当にありがとうございます。

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