初クエスト後編
「ここが依頼人の店か?」
「場所は合っている様ですが…」
地図で示された場所に行くと周囲と変わらない建物が有った。
小さく古ぼけた看板が唯一、
この建物が鍛冶屋であることを示している…
ドアノブには営業中と書かれた札がかかっていた。
「とりあえず中に入ろうぜ」
「そうだな。話を聞かなければ始まらないし」
といってカイトがドアノブに手をかけたその時…
「うちの店になんのようだ?小僧」
その声に振り向く3人。
そこには身長2mはあるであろう男性が立っていた。
両腕はまるで大木の様に太い。
「もしかして、このお店の店主の方ですか?」
「今のガキは礼儀も知らないのか?」
先に名乗らなかったのが不服だったのだろう。
古傷がある顔をしかめる大男。
その顔にはかなりの気迫があった。
…もし客だったらどうする気だったのだろうか?
「大人しく聞いてれば…言いたい事言いやがって」
食って掛かろうとする紅をカイトは静止する。
「失礼しました。
私はステーションギルド所属のカイト・H・アスハです。
依頼を受けて此方に来ました」
自己紹介とここに来た事情を説明する。
「お前が?ギルドの一員だってのか?」
信じられないかの様な顔でカイトを睨む大男。
「こっちは名乗ったのにそっちは無視かい?
今の大人は礼儀を知らないね!!」
ここぞとばかりに先程の鬱憤を皮肉で晴らす紅。
「ガハハ!!こりゃ一本取られたな。
俺は【カヌチ】。確かに店主だ」
笑いしながら自己紹介をする。
強面に反して気さくな男性のようだ。
「俺の睨みを受けて微動だにしない小僧は初めてだぜ!!
兎に角中に入るとするか…」
そう言って店内に案内する男。
中にはいるとカヌイは3人分の椅子を用意し、
己はカウンターの定位置に座る。
「まあ、適当に座ってくれや」
そう言って3人を己と対面する形で用意した椅子に座らせた。
「まず、お前さんの得物を見せて貰おうか?」
「はぁ?なんでそんな事をする必要があるんだ。」
「さき程、ギルドの許可印が押された依頼書を見て頂いたはずですが?」
疑問を口にする精霊の2人。
「自分の目で実力を確かめないと、
俺は納得出来ない男なんだよ」
「これです」
カイトは指示通り、
腰に差した2振りの刀を目の前のカウンターに置く。
「ほう、カタナか…お前さんジパング出身か?」
「そうですが…?」
その返事を聞いて納得したのか、刀に手を出し
「お前さんが鞘から抜いてくれるか?
お前さん以外満足に扱える者は居ないようだ」
かけた手を引っ込めてカイトに指示する。
「ほう、良く分かったな?」
紅が驚きの声を上げた。
「当たり前だ。
鍛冶屋をやってれば色んな物を扱うことになる。
呪いのかけられた物なんかを持ったら最後だ」
「この刀には呪いなんか施されて無いぞ?!」
おもわず怒鳴る紅。
葵も不服そうな顔をしている。
「この武器達は俺みたいに持ち手を選ぶようだからな。」
「「!?」」
やり取りを聞き流しながら
「では抜きますね」
「おう」
カイトはいとも簡単に愛刀を抜刀する。
「このまま、カウンターに置けば良いですか?」
新たな指示をカヌイに請う。
「いや…そうだな…あれを切ってくれ」
そう言って甲冑を指さす。
…無理です。切れませんよ…普通は…
「あれ売り物ですよね?」
…それ以前に普通は斬れません…。
「なに、展示用品だ。
着るとまともに動けないし、
鉄の叩き方も甘い。
只の屑鉄さ」
カヌイはそう吐き捨てる。
自分が認めた商品しか売らない主義らしい。
「では…遠慮なく」
そう言うとカイトは愛刀を軽く振る
ヒュン
空気を切り裂く音が店内に響く。
カイトが愛刀を鞘に戻すと同時に…
甲冑に無数の線が走る…
そして
ガシャン!!
ガラガラガラ…
甲冑は一瞬で細切れになり、
残骸が虚しく床に散らばる。
そして、
甲冑を着せていた人形には傷ひとつ付いていないではないか。
「ご指示通り【甲冑】だけを斬りました」
何事も無かったような顔でカイトは言った。
…ル○ン三世の五○門か?!お前は!!
「すげえな小僧…
いやカイトだったか…
まさか甲冑だけを斬るとはな」
思わずカヌイは驚嘆の声をあげた。
「誉めても何も出ませんよ」
「俺はお世辞は言わない主義だ。
お前の実力確かに見せて貰った!!
お前らしか頼める奴は居ないだろうな…
嫌な予感がしてならないんだ…
頼む…家内を探し出してくれ!!」
そう言ってカヌイは初めてカイトに頭を下げる。
「頭を上げて下さい。
初めからそのつもりでここに来ましたから」
そう言ってカヌイの妻【リア】が行った場所を聞きく3人。
「成る程…近くの廃坑ですか…」
「ああ、うちで必要とする鉱石はまだまだ十分取れるからな」
話によるとリアが向かった場所とは、
ここがまだレスト王国の一部であった時に掘られた坑道跡であるそうだ。
今では利益が出るだけの採掘量は採れなくなり閉山となったが、
個人商店が必要とするだけの量ならばまだ充分採れるとの事だった。
「まさか…無断で採掘してたのか?」
「バカいえ!!正式に領主様から許可を貰っているぞ!!」
そう言って3人に許可証を見せる。
その鉱山からは今でも微量ながら希少鉱石が取れる。
そのため武器や防具の鍛冶屋等が直接採掘を行う事がある。
禁止にしても無断採掘が行われる事は明確であった。
そのため資源管理と安全面の観点から、
領主から許可証を交付された者のみが採掘を許される免許制を採用している。
「警備もきちんとしているのでしょう?」
「ああ」
「警備員が居るなら中で事故にあっても分かるはずだな…」
無許可採掘者の摘発や、
事故の際の救援活動を行う事を任務とした警備員も常駐している。
「取り敢えず行って見よう。
行き帰りの道中で何かトラブルに遭ったのかもしれん」
そうカイトがそう言うと3人は店を出ようとする。
「ちょっとまて!!」
「なんだい?気が変わったとか言うんじゃ無いだろうな?」
カヌイを睨み付ける紅。
どうもこの2人の相性はよろしくない様である。
「そう睨むな。
カイト、お前さん防具はどうしたんだ?」
「それが…」
カイトはカヌイに現状を説明した。
「成る程…
自分に合う物が見つからないか…
ちょっと待ってな」
そう言うと奥からフード付きのマントと2本の短剣を出してきた。
「お前さんに合う様な防具は今はうちにも無い。
だから代わりにこれを使え」
そう言ってマントと短剣を渡す。
「これは?」
「アントアクラネと魔術ギルドが共同開発したマントだ。
市販の甲冑より防御力がある優れものだ。」
「そんなものが有るのか?!」
「ああ、本来なら魔術師用だが双剣士にも合ってるはずだ」
「よろしいのですか?
これに釣り合うだけの金額は持っていませんが…」
「前金の代わりとして貸してやるよ。」
「とんでもない前金だな」
確かに双剣士は防御力よりも素早さを重視する。
攻撃を防ぐのではなくかわすのは信条とする剣士なのだ。
カイトにこの街の防具が合わなかったのも双剣士が殆ど居なかったからに他ならない。
このマントはアントアクラネ特製の強靭な糸を使った生地を使用しており、
鉄並みの強度を誇る。
そして、対衝撃対魔法障壁を発生させる魔方陣の刺繍も施されており、
装着者の魔力で自動的に発動する仕組みだ。
障壁の強度は装着者の魔力の強弱によって変動する様になっている。
強力な障壁を造り出すにはより多くの魔力を必要とするからである。
…果たしてカイトが着けたらどのくらいの強度になるのか…
化け物並の防御力を得る事だけは確かである…
また、現代で言うところのステルス機能も付いているというすぐれ物だ。
「マントは分かりました。
ですがその短剣は?」
「万が一坑道内で戦闘になった場合こっちの方が使い勝手が良いだろ?
サイロプスが打ち出した剣だ。
切れ味は保証する。
お前さんの得物には負けるがな」
「ありがとうございます。ではお借りします。」
そう言ってカイトは短剣を背中に背負い、
その上からマントを羽織る。
「成功報酬は防具と今貸した物でどうだ?」
「良いのですか?」
この提案には流石に驚きを隠せない。
「何、家内の命に比べれば安いもんだ」
余程奥さんの身を心配しているのだろう。
「分かりました」
「これは失敗出来ないぞ。カイト」
「ですね」
「だな」
そう言って3人は廃坑へ向かって行った。
「パパ。ママ帰ってくる?」
サイクロプスの子供がズボンの裾を引っ張りながらカヌイに問いかける。
「帰って来るとも。あの兄ちゃん達と一緒にな…」
その問いに頭を撫でながら答えた。
そして3人の姿が見えなくなるまで親子は影から静かに見送っていた…
街を出てしばらく歩いていた3人。
「なにか動物達や草木達が騒がしいですね?」
ふと足を止め辺りを警戒しだす葵。
「ああ…偵察でも出した方がいいな」
そう言うと紅は何匹か小型の式神を作り出した
「お前達。辺りを見てきてくれ」
「「「「「クァー!!」」」」」
索敵命令を下すと小型の火の鳥達は上空へ舞い上がり、
四方へ散っていく。
「さすがは精霊だな」
思わずカイトは感嘆の声をあげる。
「当たり前さ!!
元々精霊は自然の中の魔力が集まって出来るもの」
「他の魔物より動植物の異変には敏感です。
ここからは気を付けて行きましょう」
そう説明して注意を促す。
「さっそく発見したよ。
この丘の向こうに騎士が3人隠れてる…」
「あからさまに怪しいな…?」
3人は道の脇に拡がる山林に身を隠しながら騎士達の様子を伺う。
「…教会の騎士か?」
「…味方でないことは確かですね」
「アホな奴等だ…殺気を隠そうともしない…」
3人が見つめる先には、
この辺りでは見慣れない甲冑を身につけた3人の騎士が身を隠している。
しかし、
殺気を隠そうともしないため、
その場所は直ぐに分かる。
「前方から此方に接近する者がいるな」
式神から新たに入った情報を伝える紅。
「数は?」
「逃げて来る者が3人、
それを追尾する者が5人だな」
「挟み撃ちにする気でしょうか?」
「分からん。直ぐに飛び出せる様に準備をしてくれ」
背中の剣を抜き放ちながらカイトは2人に指示する。
「「了解」」
戦闘準備をし木陰に待機する3人。
「はぁはぁ」
魔物と兵士らしき3人が街へ向かってひた走る。
「頑張って下さい。もうすぐ街です」
サイクロプスが走りながら
後方の2人に声をかけた。
1人は負傷している様で、
もう1人に肩を貸して貰っている状態だ。
「そうはさせないぞ!!」
隠れていた騎士たちが一斉に飛び出し前方を塞ぐ。
「「「!?」」」
引き換えそうにも後方からは追っ手が刻々と迫っている。
「流石に魔物と言えども、
味方に怪我人がいる状態では8人を相手にするのは無理だろう?」
隊長らしき男が笑みを浮かべながらいい放つ。
後方の者も追い付き3人を計8人で包囲する騎士達。
男の言う通り、
魔物と言えども怪我人を庇いながらの戦闘には限界がある。
「卑怯だぞお前ら!!
騎士なら正々堂々と勝負しろ!!」
怪我を負っている男が騎士者達を非難する。
「神敵相手に卑怯も何もあるか!!」
不適な笑みを更に深める男。
その言動から主神派教会の者であることが伺えた。
「一対一では勝ち目がないから数で勝負ですか?」
「「「「「!?」」」」」
「グハ!?」
包囲していた騎士の1人が突如吹き飛ばされる。
その者は既に背中を木の幹に強打して失神している。
「どこにいる!?出てこい!!」
「目の前にいるぜ」
「!!」
そこには3人を守る様に陣取るカイト達がいた。
「何者だ!?貴様らは!!」
「貴方達の様な卑怯者に名乗る名はありません」
「名無しの冒険者とでも言っておくか?」
「あなた達は?!」
突如現れた3人にサイクロプスは思わず驚きの声を上げる。
「話は後だ。
先ずはこの卑怯者を叩き潰さないと」
「葵は後方を頼む。
紅はこの人達を街へ。
俺は前方の敵を引き受ける」
「「了解!!」」
「神敵に味方するのか…良いだろう。
こいつらも残らず切り刻んでやれ!!」
3人に向かって騎士たちが一斉に攻撃を開始しようとした時、
「クァー!!」
人が複数乗れるサイズの火の鳥が突撃してきた。
偵察用の式神が1つに合体したのだ。
邪魔な騎士を蹴散らし、紅を含めた4人をすれ違いざまにのせて飛び去る。
この時出来た一瞬の隙を利用して2人は騎士達に攻撃を開始した。
そしてそれから60秒後…
「ば、ばかな?!」
敵の戦力は隊長1人になっていた。
部下は全て2人によって気絶させられていた。
隊長は驚きを隠せない。
たったの60秒で屈強な教会騎士が6人も倒されたのだ。
誰だって驚くだろう。
「残るは貴方1人だ」
「おとなしく降伏しなさい」
降伏勧告をする葵。
「…わ、分かった」
意外にも素直に武器を捨てる隊長。
「では拘束させて頂きます」
そう言って剣を背中の鞘に戻し、
カイトは男に近付く。
「かかったな!!」
射程に踏み込んだ瞬間男は隠し持っていたナイフをカイトの首もとに投げる。
男の脳裏にナイフを受けて倒れこむ姿が浮かんだ…が
「やっぱりな…」
しかしそれは現実にならなかった。
「!!」
そこには手袋を外した右手でナイフの【刃】を掴むんだカイトが立っていたのだから…
握られたナイフは灼熱の焔を纏う手によって瞬く間に溶け落ちる。
「こんなものかと思ったよ…このクズ野郎が」
そして静かに男に近付いていく…
「!?」
愚かにも男は腰を抜かし、まともに動けなくなる。
「安心しろ…俺は【不殺の誓い】をたてている…
貴様の様な屑には死んだ方がマシだと言う【苦しみ】を味あわせる事にしているがな…!!」
そしてお返しとばかりに強烈な回し蹴りを放つ。
男は咄嗟に両手でガードしたが、受け止めきれず部下と同じ様に幹に叩きつけられた。
しかしカイトは追撃の手を緩めない。
まだ意識のある男に背負い投げをお見舞いする。
「グハ!?」
背中から地面に叩きつけられる男。
受け身もとらず、まともに背中を強打した男。
動く処かまともに息もできない
「止めだ…」
そして地面に叩きつけられたまま動けない男の顔面に踵落としを放つ。
フルフェイス状の兜を被っていたため、
直撃こそしなかった。
しかし脳震盪でも起こしたのか、
口から泡を吹いて失神していた。
このコンボを出すところを見るとかなりキレていた様だ…
暫くは起きないだろう…同情の余地はない…が、
非常に痛そうではある…
説明が遅れたが、【不殺の誓い】とは
【どんな極悪人でも決して殺めず、改心の道を歩む選択肢を奪わない】と言う物だ。
綺麗事様に聞こえるかも知れないが、
カイト達は信じているのだ。
人間の良心というものを…
心の芯まで腐りきっている奴等には己の行いの重大さを知らしめる為、
死ぬ方がマシだと思わせる程度に痛め付けはするが…
人間は実際に体験しないと解らない物もあると言うことからである。
「ふぅ〜」
そして何事もなかったかのように手袋をはめ、
葵に近付く。
本人は気絶させた騎士たちに束縛魔法をかけている最中だった。
「お疲れ様」
「お疲れ様です、主。こいつらはどうしますか?」
「取り合えず警備隊に突き出す方が良いだろ」
「そうですね」
そう言うとこの馬鹿者達を引き渡す為に街に引き返す2人であった。
教会騎士達を警備隊に引き渡した後、
カイト達は再びカヌイの工場を訪れた。
リアの容体を確認するためと詳しい経緯を聞くためである。
「おお、カイト達か!!」
扉を開けるとカヌイがいつもの場所に陣取っていたが、
カイト達が入って来るのを見ると腰をあげた。
デュラハンも店内にいる。
客だろうか?
「奥様の体調はいかがですか?」
「何、掠り傷程度だった。本当に助かったぜ!!」
そう言ってカイトに手荒いハンドシェイクをした。
「彼等が?」
「ああそうだ!!」
「貴女は?」
「私はフラン。
今回派遣された魔王様の娘であるエメラルダス王女第1親衛隊隊長だ」
「王女の親衛隊!?」
思わず紅が声をあげた。まさか魔王軍の応援隊が王女の親衛隊だとは…
「ああ、この街の北部に聳え立つ山脈を越えた地域を統治なさっているお人だ」
「フランさんはうちの常連さんでもあるんだ」
「では何故ギルドに?」
「私が所用で戻っている間に事が起きてな。
たった今知らせを受けて戻ってきた処なんだ…」
カヌイの代わりにフランが説明する
「そうでしたか…」
「親衛隊に頼んでも良かったんだが…
レストの奴等がいつ来るか分からん以上、
下手に派遣された人員をさくことも出来ないしな…」
「確かにな…」
カヌイの言葉に頷く紅。
確かに侵攻の時期が近付いているときに主力となりうる部隊を動かすのは得策ではない。
「この度は有難うございました。」
声が聞こえたのであろう。
奥からリアが出てきてきて感謝の言葉を述べる。
「お気になさらず。人として当然の事をしたまでです」
「お兄ちゃん達!!ママを助けてくれてありがとう!!」
リアの腕に抱かれた子供がお礼を言った。
「どう致しまして。小さなお姫様」
そう言って頭を撫でる。
「さて、約束の報酬だが…うちの家内が作る事になった」
「え!?」
「なんだ不満か?」
「いえいえとんでもない!!
今回の報酬はこのお借りした装備で十分ですので」
「まあ、そう言いなさんな。
家内が是非ともお前さんの防具を作りたいんだとよ」
「せめてものお礼をさせてください」
そう言って頭を下げる。
「頭を上げてください。
ではせめてきちんと買い取らせて下さい」
「いえ、命の恩人からお金を貰うなんて出来ません!!」
「しかし…」
「よし、ではこうしよう。
実はうちではまだ双剣士用の防具は作った事は無いんだ。
それでお前さんに試作品を試して改善点を洗い出してもらい、
商品化への手伝いをしてもらうと言うのはどうだ?
それならお互いに利益が出るだろ?」
流石は商売人。
交渉はお手のものである。
「まあ、それなら…」
流石に商売人の交渉術にはカイトもたじたじである。
「試作品でも強度は保証するぞ。
お前さんに渡した剣…
あれはなうちの家内が打ち出した物なんだ」
自慢げに話すカヌイ。
「やはりそうでしたか…」
「なんだ知ってたのか?」
あからさまにがっかりした様子である。
「いくら私が未熟者でも、
人が打ち出したレベルの物でない事は扱って見れば分かります」
「本当に未熟者や無能な奴等は扱っただけで武器の良し悪しは分からねえよ」
カヌイは呆れ顔で指摘する。
「ところでリアさん」
「はい?」
「何故教会騎士達に追われていたのか教えて欲しいのですが…」
「はい、分かりました」
リアの話によると彼らの目的は鉱山の中に残されていた爆薬(魔法で封印済み)を
地盤が脆い場所に仕掛け、
一気に爆破する事によって大規模な山崩れを誘発し、
内陸部からの更なる増援を防ぐ事だったらしい。
リアによって爆薬は既に使用不能したが、
騎士たちに見つかり山林を逃げ回っていたとの事だった。
共に逃げてきた2人は警備隊の一員で監禁されていた処をリアに救助されたらしい。
鉱山の警備強化とカヌイの強い要望により、
【採掘に向かうリアの身辺警護と荷物持ち】がの依頼がカイト達指名でギルドに
カヌイから出される事になったのは言うまでもない。
そうして時間は過ぎていった…
遂にレスト王国同地方教会連合軍による侵攻が始まる。
敵は合計3700。
内訳は次の通りであった。
レスト王国側の戦力は王族親衛隊や、
貴族の私兵等で戦場で裏切る可能性が低いと考えられる者を集め、
派遣戦力は3000。
レスト地方教会が派遣した戦力は正規兵500、
勇者を隊長とした精鋭兵200、
計700であった。
対するステーション街の戦力は合計2200。
内訳は守備隊2000、
ギルド及び傭兵100、
魔王軍精鋭隊(親衛隊)100である。
当初の予定通り、
街の周辺に防衛線を張って防衛隊は待ち構える。
(ステーション街の直ぐ北方には平行3連続に列なる山脈が
内陸部と海岸部を分断するように鎮座している。
山脈の裾野部分にステーション街は造られているのだ。
街の東・西・南方面は平野になっている。
しかし山の麓に位置している為、
東西方面は起伏が激しい地形となっている。
街から南方に向かって行くとやがて海岸線に到達するという位置関係だ。
貿易路は南の海岸線から街を中継地点として北の山脈を越えて内陸部へと続いている。)
作戦は数で勝る敵との差を土地の利で埋めるために東方の平野部で迎え撃つ。
魔王軍精鋭部隊と守備隊1000が正面を固めて敵の進撃を食い止めている隙に、
敵側面の南方から防衛隊主力が攻撃し、
混乱した敵を殲滅するという作戦だ。
北方には険しい山脈が天然の壁となり、
敵は北方から迂回して攻撃することは不可能。
また、こちらの作戦開始と同時に王国への周辺各国と魔王軍の人魔連合軍による
『レスト国民解放作戦』も発動される。
その為、
仮に殲滅出来なくても国境線が突破されれば、
慌て撤退していくであろう。
こちらは『囮』となり時間を稼げば良いのだ。
「しかし、教会精鋭隊とはこんなにも弱いのか?」
敵をさばきながらフランは1人呟く。
「なんだと?!」
「この位の挑発に乗る程にな!!」
激昂して切りかかってきた者をかわして
「グハ!!?」
首の後ろに一撃を入れる。
「死ね!!魔物め」
僅かな隙を狙ってフランの背後から奇襲を仕掛けるが
「油断は禁物ですよ?フランさん」
「!?」
マントのステルス機能を利用して接近していたカイトの一撃にあえなく沈む。
「それはお前も同じだろう?」
「ですね…」
背後から斬りかかってきた2人の斬撃を振り向きもせずマント越しに片手で受け止めた
「「!!」」
そして強烈な回し蹴りで2人を蹴り飛ばし気絶させる。
「どうして剣を使わないんだ?」
敵をさばきながらフランは疑問を口にする。
「ここまでの大人数相手だと手加減するのには格闘戦の方が都合が良いので」
そう言って相手の腕を掴み背負い投げの要領で地面に叩きつける。
「グハ!!」
重い甲冑を身に付けていた事が仇となり、
敵はかなりの衝撃を受けたらしい。
衝撃により肺の空気が強制的に排出された。
更なる一撃を加える迄もなく、
その者はすでに失神している。
カイト達に迂闊に接近するのは危険と察知したのか敵は一定の距離をとる。
「すこしは学習した様ですね?」
背中の双剣を抜きながらカイトはいい放つ。
しかし今回はその挑発に乗ってくる者はいない。
「その技…ジパングの格闘技か?」
「柔道と言うものです。無段ですがね」
無段の意味が分からなかったのかフランは首を捻る。
「随分とうちの手駒をいたぶってくれたじゃないか?」
そう言って奥から勇者らしき者が姿を現す…
「おまえは!?【不死鳥の剣士】!!」
「何ですか?奴は…」
戦闘体制を取りながらカイトはフランに質問する
「魔王軍も手を焼いている勇者だ。
何度倒されても直ぐに復活することから、
不死鳥の異名をもつ」
「こっちの敵はあらかたたかずけた…
隊長狩りといきますかね…」
「「!?」」
なんと魔王軍精鋭の内、約半数を撃破したと言うのだ
「安心しろ…奴らは逃がした。
街の奴らに恐怖を植え付けるためにな!!」
黒い笑みを浮かべる男。
「よくも部下を…!!」
「怒りに我を忘れるな!!」
カイトの警告を無視し、怒りに任せ突撃するフラン。
「そんな攻撃当たるかよ」
「グ?!」
フランの突撃を最小限の動きで避けがら空きの背中に強烈な一撃を叩き込む。
「フラン!!」
救援に向かおうとするカイトに配下の兵士が立ち塞がる。
「お前も後でいたぶってやるから心配するな」
「カイト!!こいつは私が相手をする。
お前は周りの雑魚を!!」
「…分かりました」
そう言って剣を再び構える。
「いざ…参る!!」
こうして不死鳥とフランとの戦いの火蓋は切って落とされた…
フランは徐々に追い詰められて行った…
剣士としての実力はほぼ同格、
しかし、加護によってもたらされた驚異的な再生能力と時として自分の部下を盾にするなどの非情な戦法を多用する為に思うように攻撃が出来なかったのだ。
カイトも次々に現れる兵士が邪魔をして救援に向かう事が出来ない。
そして…遂に致命的な隙をフランは作ってしまった。
なんと、横たわる味方をフランに投げつけ2人ものとも切り裂こうとしたのだ。
「!!」
咄嗟に敵兵を庇う。
しかし、そのせいで背に斬撃をまともに食らってしまう。
纏っていた鎧を紙のように切り裂き背に深い傷をつけられてしまった。
たまらずフランはその場に膝をつく。
「なぜ…僕を庇った…!?」
「弱き者を守るのが騎士の勤め…
目の前で殺されようとしている者を放ってはいられるか…」
「お前達も人間を殺しているだろ?!」
「私達は…人を殺さない…」
「僕の故郷を襲ったのはお前たちだろ!?ただ平和に暮らしているだけだった村を!!」
「私たちが平和に暮らしているだけの人々を襲うわけはないだろ!!」
「じゃあ一体誰が村を襲ったんだよ!?」
「俺達だよ!!」
勇者が非情な事実をいい放つ。
「なぜだ!!僕たちは何もしていない!!」
「王国に反感を持つ奴らを消すためさ。
それに魔物のせいにすれば兵士への志願者も増える。
お前の様な馬鹿者でな!!」
「僕は…故郷を奪った奴等に味方していたのか…」
「そうさ!!
教会の言葉を疑いもせず、
無実の者に憎しみを向けてな!!」
黒い笑みを浮かべて自ら真実を話す。
「きさまー!!」
フランが庇った兵士が怒りにまかせて勇者に突撃する…が
「雑魚が」
剣を振り作り出した風の刃でその若者をフランの元まで吹き飛ばす。
「安心しろ…
直ぐに後ろの魔物ごと両親の元に送ってやる」
そう言って魔力を手に集中させる。
「死ね!!」
2人にアギダオラを放つ勇者。
咄嗟に若者が盾をかざすが大量生産品の盾では防ぎきる事は不可能であろう。
「逃げろ!!」
「僕も兵士です!!
傷付いた者をおいて逃げる訳にはいきません!!」
「お前…」
「その心意気確かに見せて貰ったぜ!!」
「「!?」」
無情にもアギダオラが直撃したかに見えた…
しかし、砂埃が晴れた時そこには、
2人の前にカイトが悠然と立っていた。
「ほう、奴等を振り切ったか…」
「勝てないと分かったら一時撤退していったぜ」
「ちっ…使えないやつらだ!!」
そう言ってカイトに必殺の斬撃をお見舞いする勇者。
「甘いな」
それを軽々と受け止める。
「「「!?」」」
大剣を双剣士が片手で受け止めたのだ。
それも素手で…驚かない者はいないだろう。
受け止めた右手からは炎が立ち上っていた。
みるみるうちに溶かされていく大剣。
「なんだ!?その手は!!」
「お前に教える必要はない…」
そう言うと強烈な蹴りを勇者に向けて放つ。
咄嗟に大剣から手を放しバックステップで蹴りの間合いから離脱する。
邪魔だとばかりに奪い取った大剣を遠くに投げる。
バリン!!
カイトが持っていた所から真っ二つに折れる。
「なんだと?!聖剣が!!」
「残念ながら紛い物だった様だな」
どうやら魔物が作った剣を聖剣として授けられていた様だ。
聖剣なら少なくともカイトの炎で溶けるはずはないからである。
「これで武器はなくなったな」
「お前ごとき魔法で充分だ!!」
そう言って様々な属性の魔法を連続して放つ。
しかし、
「甘いと言っただろう?」
「!?」
今度は左手をかざす。
そうすると放たれた全ての魔法がカイトの目の前で静止する。
「これならどうだ!!
光の剣達よ…今ここに集いたまえ…」
そう言うと勇者の前方に魔法陣が展開され、
複数の巨大な光輝く剣が現れた。
「これで終わりだ!!
我に害をなす者を消し去りたまえ…レイソード!!」
勇者が呪文を詠唱し終えると光の剣がカイトに殺到する。
「甘いと言っているだろうが…!!」
しかしそれも障壁に阻まれるかの様にカイトの寸前で静止した。
「ば、ばかな?!」
最大の魔法を無効化され流石の不死鳥も取り乱す。
「今度は此方から行くぞ!!」
かざしていた手を徐々に握るカイト。
その動きに合わせて勇者が放った魔法が1つに集約されていく…
「己の魔法でその身を焼かれるがいい…光龍波!!」
1つに集約された魔法が複数の光の龍となり、不死鳥に襲い掛かる。
「俺にはその様な攻撃は効かん!!」
その攻撃で不死鳥もかなりのダメージを受けた様だが、
それも治癒能力で回復してしまう。
「だろうな!!」
「!?」
砂煙が晴れたとき…勇者の目の前には既にカイトが肉薄していた。
先程の光龍波はあくまで目眩ましだったのだ。
「お休み」
その言葉の直後、身体に強烈な衝撃を受ける。
その衝撃で不死鳥の意識は初めて刈り取られた…
秘技【鎧通し】
鎧の上から相手の身体にダメージを与える技だ。
「大丈夫か?」
満身創痍のフランに声をかけるカイト。
「ああ…」
剣を杖がわりにして何とか立ち上がる。
「無理するな。街へ戻るんだ」
「しかし!!」
「怪我人がいては味方の足手まといになるだけだ!!
心配するな。
後は俺達で何とかする!!」
「そうです!!
隊長は一時撤退を!!」
「…分かった。
後は頼む…指揮も頼んだぞ」
部下達も賛同したことから渋々了承する。
「ああ。それと君も一緒に手当てをしてもらえ」
「え…?!」
フランを勇者から庇った兵士にも声をかける。
「しかし…僕は」
「真実を知ったからにはもう彼方には戻れまい…
戻る気も無いだろう?」
その言葉に静かに頷く。
「それに味方は多いほうが良いしな」
その言葉に周りも頷いた。
「分かりましたお願いします」
そう言うとフランに肩を貸して数人の護衛守られながら街へ向かって行った。
「さて…残りの精鋭を潰すぞ、皆。
葵達は敵主力を!!」
「「「「「「了解!!」」」」」
そう言うと形勢を立て直しつつある敵に突撃していった…
「さて、こっちも始めますか!!」
「ええ!!」
そう言うと2人は敵兵の前に立ち塞がる
「いくぜー!!」
「覚悟しなさい!!」
と言うと紅と葵は己の力を解放する【言霊】を言い放つ。
「「四聖獣解放の式!!」」
紅は紅蓮の焔が、葵は天高く延びる水柱がその身を包む。
二人を包み込んだ2本の柱は徐々に太さを増していく…
そしてついにその柱が弾けとんだ時。
そこには…
クァー!!!
巨大で神々しいまでの姿をした火の鳥…
そして
ゴァー!!!
身体の所々を雷雲で覆われた水龍の姿があった!!
「な、なんだあれは?!」
「で、でかい…」
突如現れた敵にレスト連合軍兵士の間に動揺が拡がる。
(朱雀、後方の敵は任せましたよ)
(おうよ!!前方の奴等は任せたぜ。青龍!!)
念力で短い会話を交わし、
【朱雀】は天高く飛び立つ。
その速度は魔物ですらその姿を見失う程の物であった…
力を解放した紅と葵は、
レスト国主神教会連合軍を気迫だけで既に圧倒していた。
その勇姿を見た味方には希望と勇気を、
敵には恐怖と絶望を与えるだけの気迫がその姿には存在していた。
(我が下僕達よ…姿を現せ!!)
そう葵が命令すると、
街の外堀に張られた水が天空高く立ち上る。
それはやがて街を守る鉄壁の水壁となり、
そこからは無数の旧世代の龍達が姿を現した。
1体の全長は10mはあるだろうか。
その水龍達が街の正面を死守する味方の前に立ち塞がる。
青龍を中心に扇状に陣を組み、
何人たりとも突破させない構えを見せる。
これこそ、
旧世代魔王軍の進撃を食い止めた【青龍防壁の陣】である!!
(そこから前に進むな…
主神を盲信する愚かな人間たちよ…
地獄を味わう事になるぞ!!)
その言葉を直接脳裏に響かせる青龍。
その効果は絶大であった。
その声だけで敵軍の進行を止めたのである。
水龍達の陣の迫力に圧倒され、
じりじりと後退していく敵兵達。
もはや勇者が作り出した勢いは跡形も無く消し飛ばされていた…
本来の姿に戻った四聖獣は、
もはや人が戦える相手ではない…
単体で旧世代のドラゴンを
【赤子の手を捻るが如く】
簡単に消し去るだけの力を持っているのだ。
その四聖獣がこの場には2体もいる。
たがだか3700の兵士で止められる相手ではない…
唯一頼りにしていた200名の教会直属精鋭部隊は、
カイト達により殲滅追い込まれている。
…もはや連合軍にとってはただのお荷物状態で、
戦力とはとても言えたものではなかった。
3500の数を誇る主力部隊も街に攻め込むどころか、
青龍の姿となった葵が作り出した陣により、
全く進軍出来ない。
「ひ、怯むな!!
我々には主神の加護あるのだ!!
奴ら共々、火炎魔法で消し飛ばせ!!」
声の裏返った指揮官の攻撃命令よってに魔術師がアギダオラを一斉に放った。
その火炎球が青龍の陣に殺到する。
しかし、
その魔法攻撃も見えない壁にぶつかったかの様に龍たちの前で消し飛ぶ。
街を狙った魔法も強固な水壁によって防がれ、
城壁にすら届かない。
「魔法が効かないなら直接破壊しろ!!」
司令官の指示を受け何とか我にかえる兵士たち。
自らを奮い起たせ、
水壁を破壊しようと接近を試みる。
しかし、それは無駄な事でしかなかった…
(これ以上近寄るなと警告したはずだ…
愚かな人間たちよ!!)
その言葉と同時に
葵自身や葵の式神が放つ冷凍ブレスが兵士達に迫る!!
「支援隊、魔法障壁を張れ!!
前衛は各自盾を構えろ!!」
しかし、ブレスは敵の張った後方支援隊の張った魔障壁をも楽々と破壊し、
敵兵に容赦なく浴びせられた。
「なんだこのブレスは?!」
「身体が凍り付いていく!?」
それを浴びた者は盾を構えたまま体表面を氷で覆われ、
動きを一切封じられる。
「う、動けないだと!?」
「さ、寒い」
「誰か助けてくれ…」
そして全ての者は
【凍死しないギリギリの寒さ】と、
【戦場で動きを封じられて己が的と化す恐怖】を
容赦なく経験させられた。
それはその者達の戦意を根元からへし折るには充分であった。
後方の兵士は動けなくなった者が邪魔となって進撃出来ない。
「南方に迂回して側面から侵攻しろ!!」
(本来なら両側面から攻撃して挟み撃ちにしたいのだが…
この地形では…)
そう、本来は南北に迂回させ両側面から挟撃するのが効果的な戦術であろう。
しかし、北方は起伏の激しい急斜面となっており、
そちらからは迂回するのは不可能であった。
敵の盾と化した味方を避ける形で南方に進路を取る侵攻軍。
しかし、そこには無数のトラップが仕掛けられていた!!
「くそ、落とし穴だと?!」
「深い…気を付けろ!!落ちたら脱け出せそうにないぞ!!」
それはすり鉢状に掘られた特製の『落とし穴』だった。
穴の中心には地下に続く縦穴が螺旋状に掘られており、
その先は皆さんご存知『デビルバグの巣』に通じている。
お婿さんを虎視眈々と待ち構えている
デビルバグの皆さんの処へご招待と言うわけだ。
…ある意味最強の罠である
なんとか地獄のトラップ帯を通過した直後
「なんだ?!あの赤い光は!!」
「こっちに向かってくるぞ!!」
突如頭上から何かが急接近しきた。
咄嗟に防御体制を取る。
しかしそれは兵士にではなく。
侵攻方向の大地に向かって灼熱の光線を発射してきた。
光線を浴びた大地はグツグツと煮え立ち、
溶岩の河と化して敵の進路を塞ぐ。
(さあ、祭りの始まりだ!!
不死鳥達よ出てこい!!
そう紅が言うと溶岩の河から無数の火の鳥が姿を現した。
そして紅を中心に集合する。
敵は紅達と溶岩から発せられる熱で近寄る事も出来ない。
(来ないならこっちから行くよ!!)
「「「「「クァー!!」」」」」
そう言うと紅を先頭として火の鳥達が一斉に襲い掛かる。
咄嗟に放たれた水系の魔法は
紅達が放つ高熱によって身体に届く前に蒸発してしまった。
そして、
紅と式神が放つ火球は敵兵の体を傷付けず武装のみを融解させる。
目の前で金属製の武装を溶かされた者はたまったものではない。
上官の指示も耳に入らず遁走を始める始末で有った…
何とか紅達を突破したとしても、
行く手には骨おも溶かす灼熱の河川。
その奥に控える防衛隊主力により鉄壁の防衛線が構築されており、
刻々と減少する戦力で突破するのは到底不可能な話であった。
(主!!オロチ戦で閃いた例の技を!!)
(相手の戦意を根こそぎへし折ってしまえ!!カイト!!)
「分かった!!」
そう言うと敵から距離を取り愛刀を鞘にしまうカイト。
そして両手を前に突きだし、
炎と水2つの球を作り始めた。
「奴に攻撃を集中させろ!!」
ただならぬ気配を察知したのであろう。
動けないカイトに向かって攻撃を集中させる残敵。
それをまだ動ける魔王軍精鋭部隊が阻止しする。
「まだ、寝てろ!!」
敵の攻撃からカイトを大盾で死守する者に怒鳴った。
その者はカイトが倒した勇者によって深手を負わされたフランであった。
「戦闘が続いているのに寝てられるか!!」
「僕も居ますよ!!」
フランを支える様に元教会騎士の【ライト】も寄り添っている。
「すまん!!もう少しだけ耐えてくれ!!」
「私はエメラルダス王女第1親衛隊隊長!!
命の恩人に指一本触れさせはしない!!!」
「僕だって騎士の端くれです!!
恩人を見捨てていられるかー!!」
そういってカイトを死守する2人。
「「「私達が愛する人々を傷付けようとするもの達よ!!
四聖獣とそのもの達を従えし者の怒りを見るがよい!!」」」
限界まで圧縮された2つの球を融合させ、
カイトは超高熱超高水圧の水球を誕生させた。
「誰も傷付けさせはしない!!
敵の野望を打ち砕け!!
バーニング・アクア・ボルケーノ!!」
カイトは上空に向かってその魔水球を放つ…
そして地上500mに達した時、
カイトは魔水球に閉じ込められていたエネルギーを解放した。
超高熱に熱せられた水は圧から解放されると、
一瞬で水蒸気と化し、
敵の頭上で巨大な水蒸気爆発を発生させた。
発生した音速を超える衝撃波が敵兵を襲いかかり、
ズドォォオオオオオオン!!!!!
少し遅れて凄まじい爆音と爆風が大地を揺るがす。
残敵はその爆風をもろに受け、
数m吹き飛ばされる。
対する味方は3人が張った障壁によって守られ被害はなかった。
「「「これは警告だ…次は直撃させる。
直ちに立ち去るが良い!!」」」
3人の声が敵の脳裏に直接響き渡る。
カイトの声は四聖獣を中継局としてはいるが…
「ば、化け物だ…」
「あんな魔法が直撃したら…」
「…あ、あんな奴相手に勝てる訳がない!!」
「に、逃げろ!!」
圧倒的な攻撃を見せ付けられた敵は一人二人と逃げていき…
「こ、こらお前ら撤退命令は出していないぞ!!」
敵は司令官の命令を無視してばらばらに撤退を始めていた。
「軍令違反は死刑だぞ!!お前ら!?」
そんな半場ヒステリーになっている男に絶望的な知らせがもたらされた。
「大変です!!
レスト王国が大多数の神敵から侵攻を受けています!!
愚民達も同時に一斉に蜂起!!」
「何!?守備隊はどうした?!」
そう確かに多数の守備隊を国境に配備していた…が
「約半数が離反し神敵と共に城を取り囲んでおります!!
直ちに反転し王国へ戻れとの王から緊急命令が下りました!!」
情勢が不利と見るや、
大半の兵士が部隊ごと離反し国境の門を開け放ったのだ。
これには大きな理由があった。
実は国境を警備する兵士の大半が払えない税の代償として
半強制的に徴兵された者であったのだ。
そのため国への忠誠心は無かったも同然である。
そんな兵士が援軍も来ない状態で自国の為に命がけで戦う筈はない。
必然の結果であった。
「なんだと…?!
罠だったのか!?
おのれ…神敵どもめが!!」
「ど、どうしましょう。司令官…」
部下があまりの事態に動揺を隠しきれない。
「決まっているだろ!!
全軍反転撤退!!王国を神敵から取り戻せ!!」
司令官が撤退命令を下した。
しかしそれが末端の兵士まで届くことはなかった…
「残念〜誰もにがさないわよ」
「「「!?」」」
声がした上空を見上げると…そこには
「遅れてご免なさい。集団お見合いには間に合ったようだけどね?」
そこにはウィンクをする魔王の娘【リリム】を
先頭に多数のサキュバス等の魔物がいた。
動ける状態だった兵士はリリムに魅力され、
瞬時に戦闘不能となっていた。
「「姫様!?」」
クレアとフランが思わず叫ぶ。
戦場に現れた者の名は【エメラルダス】
別名【戦姫】
魔王の娘であると同時に広大な領地を保有する領主の身分でありながら、
民や魔物と共存を望む人々の盾となるため先陣をきって戦場に立つ人物。
持ち前の魔力と魔王親衛隊隊長直伝の剣さばきで、
魅力が効かない相手にも勇敢に立ち向かう姫である!!
…親衛隊は毎回ヒヤヒヤさせられているようだが…
「さ〜て、お見合いのはじまりよ!!
みんな、好みの男性を見つけてさっさと寝取っちゃいなさい!!」
「「「は〜い!!」」」
戦場はあっという間に阿鼻叫喚の修羅場と(敵兵の立場として)化した。
「選ばれなかった可哀想な男性は拘束してね〜独身魔物に回すんだから」
戦姫の登場によって戦闘はあっけなく強制終了する結果となった。
敵兵は一人残らず魔王軍によって拘束され、
戦場にいた独身魔物からハブされた
【男としては悲しすぎる】
独り身の者は捕虜として連れていかれた。
幸運にも(なのか?)既に妻子や恋人が居た者は、
エメラルダスの計らいで家族の元へ
(家族内の女性はもれなく魔物に変えられてしまうが)帰された。
結果としてレスト王国最後の侵攻作戦は無事食い止められた。
肝心のレスト王国はどうなったかと言うと…
周辺国や魔王軍の力を借りた国民達により王政は崩壊。
新たに誕生した領主の元、
親魔国として新たな道を歩み始めた…
ちなみに、
今まで国民を苦しめていた貴族や王族は…
デビルバクの巣へ永久追放された…
自業自得である。
ここはステーション街の中心に建つ城の内部。
一通りの事後処理を終えたカイト達一行は客賓として領主の城に招待されたのだ。
「ごめんなさいね?結果的に活躍の場を奪ってしまって」
紅茶を飲みながらエメラルダスがカイト達に謝罪の意を述べる。
「いえ、姫様のお陰で両軍に無用な負傷者を出さずに済みました。」
「姫様なんてただの肩書きよ。
私は母上の娘の中でも下の方。
間違っても王位継承はないわ。
それに貴方は私の親友を救ってくれた恩人。
エメラで結構よ」
「いえ、王女であると同時に領主様でもあるのです。
私ごときが呼び捨てになど出来るはずありません」
あくまで身分の違いを理由に礼儀を尽くすカイト。
「礼儀には厳しいわね。
立派なご両親に育てられたのね」
「恐縮でございます」
何時もなら突っ込む筈の紅が無反応である。
疑問に思いカイトが目を向けると…
顔を赤く染め何かを我慢する紅と葵の姿があった。
「どうした?!具合でも悪いのか!!」
「だ、大丈夫です」
「これくらいどうってこと無いさ」
「あ〜成る程ね…アルベルトさん。
空いている寝室はあるかしら?」
「既に人数分用意しております。
誰かカイトさん達を部屋へお連れして差し上げろ」
涼しい顔で答え、
メイドに命令する彼。
「すいません…2人がご迷惑をお掛けして」
メイドの手を借りて2人を来客用の部屋へ連れていくカイト。
「構いませんよ。
今日は【ごゆっくり】お休みください」
「頑張ってね〜英雄さん」
何やら意味深な言葉をかけるアルベルトとエメラルダス。
その言葉の真意をカイトは、
まだ知るよしも無かった…
案内された寝室に2人を寝かすカイト。
「大丈夫か?2人共」
言葉をかけられた2人は寝室に自分達以外が居ない事を確認した。
プツン
何かが2人の中で切れた。
抑えていた【魔物娘】としての本能が、
四聖獣本来の姿から今の姿と戻った直後から急激に沸き上がってきていた。
人目を気にして我慢していたが、
3人だけになった為についに我慢の限界を突破してしまったのだ。
「もう我慢出来ねーよ!!」
「私もです!!」
2人は突如野獣の如くカイトに襲いかかった。
「「海斗好きだ(です)ー!!」」
「あー!?ちょっとまて!!
俺もお前らの事は好きだが…
物事には順序ってものが!?」
(なに暴露してんだ俺?!)
その言葉に2人が更にヒートUPした…
その日カイトは童貞捨てる処か
インキュバスになるまで搾り取られたのは言うまでもない…
「やってるわね〜」
「やってますね…」
のんきに紅茶を楽しむ2人。
対してフランとライトは顔を赤くしている。
「うらやましいでしょ?」
「な?!そんなことは!?」
パカッ
本心を探るために親友の首を外すエメラ。
「うらやましいに決まってるでしょ!?
私もライトとイチャラブしたいに決まってるじゃない!!」
カポ
フランの首を元に戻す。
「「「「「「…」」」」」」
「…貯まってるのね」
ポンと親友の肩に手を置く。
「貯まってなど」
パカッ
再び首を外す。
勿論本心を聞き出すためである。
「いるに決まってるじゃないですか!!
やり過ぎて遅刻する部下を叱るこっちの気持ちにもなって」
カポ
フランの首を元に戻す。
「「「「「「…」」」」」」
「さっきの話…本当ですか?」
ライトは真剣な顔になって質問をする。
「ああ…満身創痍の身ででありながら、
私を守ろうとしてくれた君の心に惚れてしまった」
顔を真っ赤にさせて告白するフラン。
「フランさん…」
「あのときは傷つけてしまって済まない…まだ痛むだろう?」
「いえ、謝る必要はありません。
フランさんのおかげで自分の過ちに気がついたんですから…」
「ライト…」
「それに相思相愛であることも分かりましたし…」
「!?」
2人ともすでに首まで赤くなっていた。
「…後、非常に言いにくいのだが…」
「?」
「デュラハンは首が取れると魔力が急激に放出されてしまうの」
「ええ!?」
フランに代わって重大な事をけろりと告げるエメラ。
「ど、どうすれば良いんですか?!」
「貴方が頑張れば良いだけよ」
「?」
この後のライトの運命は皆さんのご想像通りであった…
その後ライトはエメラの誘いを断り、
自らの意志で冒険者としての道を歩むことになった。
本人曰く、
「まだ、姫様の親衛隊に入隊するには力がなさ過ぎる。
まずはフランの夫としてふさわしい実力を付けていきたい」
とのことであった。
所属ギルドもエメラの統治している地域のギルドでは無く、
カイト達が居るこの街のギルドに登録した。
しかし、せっかく手にした愛する人をみすみす逃すフランではない。
親友の全面協力体制の元、
表向きは応援要員としてこの街に派遣されてきた。
てなわけで【エメラルダス姫第1親衛隊隊長】こと
【フラン・A・リネ】がステーションギルドに居るわけである。
「とのご命令から今回の山賊退治為に此方に出向してきたんだ」
といつの間にか話の輪に入っていたフランが、
ここにいる経緯を説明していた。
(まあ、終わっても
「夫が自分の親衛隊になる気にさせるまでまで帰ってくるな」
と厳命されてしまっているがね…)
「成る程。大変ですね」
「こちら側からしてもこの山賊どもは放っては置けないからな」
そう、表向きは山賊退治ための出向である。
こうして、ギルドの1日は過ぎていった。
次回へと続く…
「場所は合っている様ですが…」
地図で示された場所に行くと周囲と変わらない建物が有った。
小さく古ぼけた看板が唯一、
この建物が鍛冶屋であることを示している…
ドアノブには営業中と書かれた札がかかっていた。
「とりあえず中に入ろうぜ」
「そうだな。話を聞かなければ始まらないし」
といってカイトがドアノブに手をかけたその時…
「うちの店になんのようだ?小僧」
その声に振り向く3人。
そこには身長2mはあるであろう男性が立っていた。
両腕はまるで大木の様に太い。
「もしかして、このお店の店主の方ですか?」
「今のガキは礼儀も知らないのか?」
先に名乗らなかったのが不服だったのだろう。
古傷がある顔をしかめる大男。
その顔にはかなりの気迫があった。
…もし客だったらどうする気だったのだろうか?
「大人しく聞いてれば…言いたい事言いやがって」
食って掛かろうとする紅をカイトは静止する。
「失礼しました。
私はステーションギルド所属のカイト・H・アスハです。
依頼を受けて此方に来ました」
自己紹介とここに来た事情を説明する。
「お前が?ギルドの一員だってのか?」
信じられないかの様な顔でカイトを睨む大男。
「こっちは名乗ったのにそっちは無視かい?
今の大人は礼儀を知らないね!!」
ここぞとばかりに先程の鬱憤を皮肉で晴らす紅。
「ガハハ!!こりゃ一本取られたな。
俺は【カヌチ】。確かに店主だ」
笑いしながら自己紹介をする。
強面に反して気さくな男性のようだ。
「俺の睨みを受けて微動だにしない小僧は初めてだぜ!!
兎に角中に入るとするか…」
そう言って店内に案内する男。
中にはいるとカヌイは3人分の椅子を用意し、
己はカウンターの定位置に座る。
「まあ、適当に座ってくれや」
そう言って3人を己と対面する形で用意した椅子に座らせた。
「まず、お前さんの得物を見せて貰おうか?」
「はぁ?なんでそんな事をする必要があるんだ。」
「さき程、ギルドの許可印が押された依頼書を見て頂いたはずですが?」
疑問を口にする精霊の2人。
「自分の目で実力を確かめないと、
俺は納得出来ない男なんだよ」
「これです」
カイトは指示通り、
腰に差した2振りの刀を目の前のカウンターに置く。
「ほう、カタナか…お前さんジパング出身か?」
「そうですが…?」
その返事を聞いて納得したのか、刀に手を出し
「お前さんが鞘から抜いてくれるか?
お前さん以外満足に扱える者は居ないようだ」
かけた手を引っ込めてカイトに指示する。
「ほう、良く分かったな?」
紅が驚きの声を上げた。
「当たり前だ。
鍛冶屋をやってれば色んな物を扱うことになる。
呪いのかけられた物なんかを持ったら最後だ」
「この刀には呪いなんか施されて無いぞ?!」
おもわず怒鳴る紅。
葵も不服そうな顔をしている。
「この武器達は俺みたいに持ち手を選ぶようだからな。」
「「!?」」
やり取りを聞き流しながら
「では抜きますね」
「おう」
カイトはいとも簡単に愛刀を抜刀する。
「このまま、カウンターに置けば良いですか?」
新たな指示をカヌイに請う。
「いや…そうだな…あれを切ってくれ」
そう言って甲冑を指さす。
…無理です。切れませんよ…普通は…
「あれ売り物ですよね?」
…それ以前に普通は斬れません…。
「なに、展示用品だ。
着るとまともに動けないし、
鉄の叩き方も甘い。
只の屑鉄さ」
カヌイはそう吐き捨てる。
自分が認めた商品しか売らない主義らしい。
「では…遠慮なく」
そう言うとカイトは愛刀を軽く振る
ヒュン
空気を切り裂く音が店内に響く。
カイトが愛刀を鞘に戻すと同時に…
甲冑に無数の線が走る…
そして
ガシャン!!
ガラガラガラ…
甲冑は一瞬で細切れになり、
残骸が虚しく床に散らばる。
そして、
甲冑を着せていた人形には傷ひとつ付いていないではないか。
「ご指示通り【甲冑】だけを斬りました」
何事も無かったような顔でカイトは言った。
…ル○ン三世の五○門か?!お前は!!
「すげえな小僧…
いやカイトだったか…
まさか甲冑だけを斬るとはな」
思わずカヌイは驚嘆の声をあげた。
「誉めても何も出ませんよ」
「俺はお世辞は言わない主義だ。
お前の実力確かに見せて貰った!!
お前らしか頼める奴は居ないだろうな…
嫌な予感がしてならないんだ…
頼む…家内を探し出してくれ!!」
そう言ってカヌイは初めてカイトに頭を下げる。
「頭を上げて下さい。
初めからそのつもりでここに来ましたから」
そう言ってカヌイの妻【リア】が行った場所を聞きく3人。
「成る程…近くの廃坑ですか…」
「ああ、うちで必要とする鉱石はまだまだ十分取れるからな」
話によるとリアが向かった場所とは、
ここがまだレスト王国の一部であった時に掘られた坑道跡であるそうだ。
今では利益が出るだけの採掘量は採れなくなり閉山となったが、
個人商店が必要とするだけの量ならばまだ充分採れるとの事だった。
「まさか…無断で採掘してたのか?」
「バカいえ!!正式に領主様から許可を貰っているぞ!!」
そう言って3人に許可証を見せる。
その鉱山からは今でも微量ながら希少鉱石が取れる。
そのため武器や防具の鍛冶屋等が直接採掘を行う事がある。
禁止にしても無断採掘が行われる事は明確であった。
そのため資源管理と安全面の観点から、
領主から許可証を交付された者のみが採掘を許される免許制を採用している。
「警備もきちんとしているのでしょう?」
「ああ」
「警備員が居るなら中で事故にあっても分かるはずだな…」
無許可採掘者の摘発や、
事故の際の救援活動を行う事を任務とした警備員も常駐している。
「取り敢えず行って見よう。
行き帰りの道中で何かトラブルに遭ったのかもしれん」
そうカイトがそう言うと3人は店を出ようとする。
「ちょっとまて!!」
「なんだい?気が変わったとか言うんじゃ無いだろうな?」
カヌイを睨み付ける紅。
どうもこの2人の相性はよろしくない様である。
「そう睨むな。
カイト、お前さん防具はどうしたんだ?」
「それが…」
カイトはカヌイに現状を説明した。
「成る程…
自分に合う物が見つからないか…
ちょっと待ってな」
そう言うと奥からフード付きのマントと2本の短剣を出してきた。
「お前さんに合う様な防具は今はうちにも無い。
だから代わりにこれを使え」
そう言ってマントと短剣を渡す。
「これは?」
「アントアクラネと魔術ギルドが共同開発したマントだ。
市販の甲冑より防御力がある優れものだ。」
「そんなものが有るのか?!」
「ああ、本来なら魔術師用だが双剣士にも合ってるはずだ」
「よろしいのですか?
これに釣り合うだけの金額は持っていませんが…」
「前金の代わりとして貸してやるよ。」
「とんでもない前金だな」
確かに双剣士は防御力よりも素早さを重視する。
攻撃を防ぐのではなくかわすのは信条とする剣士なのだ。
カイトにこの街の防具が合わなかったのも双剣士が殆ど居なかったからに他ならない。
このマントはアントアクラネ特製の強靭な糸を使った生地を使用しており、
鉄並みの強度を誇る。
そして、対衝撃対魔法障壁を発生させる魔方陣の刺繍も施されており、
装着者の魔力で自動的に発動する仕組みだ。
障壁の強度は装着者の魔力の強弱によって変動する様になっている。
強力な障壁を造り出すにはより多くの魔力を必要とするからである。
…果たしてカイトが着けたらどのくらいの強度になるのか…
化け物並の防御力を得る事だけは確かである…
また、現代で言うところのステルス機能も付いているというすぐれ物だ。
「マントは分かりました。
ですがその短剣は?」
「万が一坑道内で戦闘になった場合こっちの方が使い勝手が良いだろ?
サイロプスが打ち出した剣だ。
切れ味は保証する。
お前さんの得物には負けるがな」
「ありがとうございます。ではお借りします。」
そう言ってカイトは短剣を背中に背負い、
その上からマントを羽織る。
「成功報酬は防具と今貸した物でどうだ?」
「良いのですか?」
この提案には流石に驚きを隠せない。
「何、家内の命に比べれば安いもんだ」
余程奥さんの身を心配しているのだろう。
「分かりました」
「これは失敗出来ないぞ。カイト」
「ですね」
「だな」
そう言って3人は廃坑へ向かって行った。
「パパ。ママ帰ってくる?」
サイクロプスの子供がズボンの裾を引っ張りながらカヌイに問いかける。
「帰って来るとも。あの兄ちゃん達と一緒にな…」
その問いに頭を撫でながら答えた。
そして3人の姿が見えなくなるまで親子は影から静かに見送っていた…
街を出てしばらく歩いていた3人。
「なにか動物達や草木達が騒がしいですね?」
ふと足を止め辺りを警戒しだす葵。
「ああ…偵察でも出した方がいいな」
そう言うと紅は何匹か小型の式神を作り出した
「お前達。辺りを見てきてくれ」
「「「「「クァー!!」」」」」
索敵命令を下すと小型の火の鳥達は上空へ舞い上がり、
四方へ散っていく。
「さすがは精霊だな」
思わずカイトは感嘆の声をあげる。
「当たり前さ!!
元々精霊は自然の中の魔力が集まって出来るもの」
「他の魔物より動植物の異変には敏感です。
ここからは気を付けて行きましょう」
そう説明して注意を促す。
「さっそく発見したよ。
この丘の向こうに騎士が3人隠れてる…」
「あからさまに怪しいな…?」
3人は道の脇に拡がる山林に身を隠しながら騎士達の様子を伺う。
「…教会の騎士か?」
「…味方でないことは確かですね」
「アホな奴等だ…殺気を隠そうともしない…」
3人が見つめる先には、
この辺りでは見慣れない甲冑を身につけた3人の騎士が身を隠している。
しかし、
殺気を隠そうともしないため、
その場所は直ぐに分かる。
「前方から此方に接近する者がいるな」
式神から新たに入った情報を伝える紅。
「数は?」
「逃げて来る者が3人、
それを追尾する者が5人だな」
「挟み撃ちにする気でしょうか?」
「分からん。直ぐに飛び出せる様に準備をしてくれ」
背中の剣を抜き放ちながらカイトは2人に指示する。
「「了解」」
戦闘準備をし木陰に待機する3人。
「はぁはぁ」
魔物と兵士らしき3人が街へ向かってひた走る。
「頑張って下さい。もうすぐ街です」
サイクロプスが走りながら
後方の2人に声をかけた。
1人は負傷している様で、
もう1人に肩を貸して貰っている状態だ。
「そうはさせないぞ!!」
隠れていた騎士たちが一斉に飛び出し前方を塞ぐ。
「「「!?」」」
引き換えそうにも後方からは追っ手が刻々と迫っている。
「流石に魔物と言えども、
味方に怪我人がいる状態では8人を相手にするのは無理だろう?」
隊長らしき男が笑みを浮かべながらいい放つ。
後方の者も追い付き3人を計8人で包囲する騎士達。
男の言う通り、
魔物と言えども怪我人を庇いながらの戦闘には限界がある。
「卑怯だぞお前ら!!
騎士なら正々堂々と勝負しろ!!」
怪我を負っている男が騎士者達を非難する。
「神敵相手に卑怯も何もあるか!!」
不適な笑みを更に深める男。
その言動から主神派教会の者であることが伺えた。
「一対一では勝ち目がないから数で勝負ですか?」
「「「「「!?」」」」」
「グハ!?」
包囲していた騎士の1人が突如吹き飛ばされる。
その者は既に背中を木の幹に強打して失神している。
「どこにいる!?出てこい!!」
「目の前にいるぜ」
「!!」
そこには3人を守る様に陣取るカイト達がいた。
「何者だ!?貴様らは!!」
「貴方達の様な卑怯者に名乗る名はありません」
「名無しの冒険者とでも言っておくか?」
「あなた達は?!」
突如現れた3人にサイクロプスは思わず驚きの声を上げる。
「話は後だ。
先ずはこの卑怯者を叩き潰さないと」
「葵は後方を頼む。
紅はこの人達を街へ。
俺は前方の敵を引き受ける」
「「了解!!」」
「神敵に味方するのか…良いだろう。
こいつらも残らず切り刻んでやれ!!」
3人に向かって騎士たちが一斉に攻撃を開始しようとした時、
「クァー!!」
人が複数乗れるサイズの火の鳥が突撃してきた。
偵察用の式神が1つに合体したのだ。
邪魔な騎士を蹴散らし、紅を含めた4人をすれ違いざまにのせて飛び去る。
この時出来た一瞬の隙を利用して2人は騎士達に攻撃を開始した。
そしてそれから60秒後…
「ば、ばかな?!」
敵の戦力は隊長1人になっていた。
部下は全て2人によって気絶させられていた。
隊長は驚きを隠せない。
たったの60秒で屈強な教会騎士が6人も倒されたのだ。
誰だって驚くだろう。
「残るは貴方1人だ」
「おとなしく降伏しなさい」
降伏勧告をする葵。
「…わ、分かった」
意外にも素直に武器を捨てる隊長。
「では拘束させて頂きます」
そう言って剣を背中の鞘に戻し、
カイトは男に近付く。
「かかったな!!」
射程に踏み込んだ瞬間男は隠し持っていたナイフをカイトの首もとに投げる。
男の脳裏にナイフを受けて倒れこむ姿が浮かんだ…が
「やっぱりな…」
しかしそれは現実にならなかった。
「!!」
そこには手袋を外した右手でナイフの【刃】を掴むんだカイトが立っていたのだから…
握られたナイフは灼熱の焔を纏う手によって瞬く間に溶け落ちる。
「こんなものかと思ったよ…このクズ野郎が」
そして静かに男に近付いていく…
「!?」
愚かにも男は腰を抜かし、まともに動けなくなる。
「安心しろ…俺は【不殺の誓い】をたてている…
貴様の様な屑には死んだ方がマシだと言う【苦しみ】を味あわせる事にしているがな…!!」
そしてお返しとばかりに強烈な回し蹴りを放つ。
男は咄嗟に両手でガードしたが、受け止めきれず部下と同じ様に幹に叩きつけられた。
しかしカイトは追撃の手を緩めない。
まだ意識のある男に背負い投げをお見舞いする。
「グハ!?」
背中から地面に叩きつけられる男。
受け身もとらず、まともに背中を強打した男。
動く処かまともに息もできない
「止めだ…」
そして地面に叩きつけられたまま動けない男の顔面に踵落としを放つ。
フルフェイス状の兜を被っていたため、
直撃こそしなかった。
しかし脳震盪でも起こしたのか、
口から泡を吹いて失神していた。
このコンボを出すところを見るとかなりキレていた様だ…
暫くは起きないだろう…同情の余地はない…が、
非常に痛そうではある…
説明が遅れたが、【不殺の誓い】とは
【どんな極悪人でも決して殺めず、改心の道を歩む選択肢を奪わない】と言う物だ。
綺麗事様に聞こえるかも知れないが、
カイト達は信じているのだ。
人間の良心というものを…
心の芯まで腐りきっている奴等には己の行いの重大さを知らしめる為、
死ぬ方がマシだと思わせる程度に痛め付けはするが…
人間は実際に体験しないと解らない物もあると言うことからである。
「ふぅ〜」
そして何事もなかったかのように手袋をはめ、
葵に近付く。
本人は気絶させた騎士たちに束縛魔法をかけている最中だった。
「お疲れ様」
「お疲れ様です、主。こいつらはどうしますか?」
「取り合えず警備隊に突き出す方が良いだろ」
「そうですね」
そう言うとこの馬鹿者達を引き渡す為に街に引き返す2人であった。
教会騎士達を警備隊に引き渡した後、
カイト達は再びカヌイの工場を訪れた。
リアの容体を確認するためと詳しい経緯を聞くためである。
「おお、カイト達か!!」
扉を開けるとカヌイがいつもの場所に陣取っていたが、
カイト達が入って来るのを見ると腰をあげた。
デュラハンも店内にいる。
客だろうか?
「奥様の体調はいかがですか?」
「何、掠り傷程度だった。本当に助かったぜ!!」
そう言ってカイトに手荒いハンドシェイクをした。
「彼等が?」
「ああそうだ!!」
「貴女は?」
「私はフラン。
今回派遣された魔王様の娘であるエメラルダス王女第1親衛隊隊長だ」
「王女の親衛隊!?」
思わず紅が声をあげた。まさか魔王軍の応援隊が王女の親衛隊だとは…
「ああ、この街の北部に聳え立つ山脈を越えた地域を統治なさっているお人だ」
「フランさんはうちの常連さんでもあるんだ」
「では何故ギルドに?」
「私が所用で戻っている間に事が起きてな。
たった今知らせを受けて戻ってきた処なんだ…」
カヌイの代わりにフランが説明する
「そうでしたか…」
「親衛隊に頼んでも良かったんだが…
レストの奴等がいつ来るか分からん以上、
下手に派遣された人員をさくことも出来ないしな…」
「確かにな…」
カヌイの言葉に頷く紅。
確かに侵攻の時期が近付いているときに主力となりうる部隊を動かすのは得策ではない。
「この度は有難うございました。」
声が聞こえたのであろう。
奥からリアが出てきてきて感謝の言葉を述べる。
「お気になさらず。人として当然の事をしたまでです」
「お兄ちゃん達!!ママを助けてくれてありがとう!!」
リアの腕に抱かれた子供がお礼を言った。
「どう致しまして。小さなお姫様」
そう言って頭を撫でる。
「さて、約束の報酬だが…うちの家内が作る事になった」
「え!?」
「なんだ不満か?」
「いえいえとんでもない!!
今回の報酬はこのお借りした装備で十分ですので」
「まあ、そう言いなさんな。
家内が是非ともお前さんの防具を作りたいんだとよ」
「せめてものお礼をさせてください」
そう言って頭を下げる。
「頭を上げてください。
ではせめてきちんと買い取らせて下さい」
「いえ、命の恩人からお金を貰うなんて出来ません!!」
「しかし…」
「よし、ではこうしよう。
実はうちではまだ双剣士用の防具は作った事は無いんだ。
それでお前さんに試作品を試して改善点を洗い出してもらい、
商品化への手伝いをしてもらうと言うのはどうだ?
それならお互いに利益が出るだろ?」
流石は商売人。
交渉はお手のものである。
「まあ、それなら…」
流石に商売人の交渉術にはカイトもたじたじである。
「試作品でも強度は保証するぞ。
お前さんに渡した剣…
あれはなうちの家内が打ち出した物なんだ」
自慢げに話すカヌイ。
「やはりそうでしたか…」
「なんだ知ってたのか?」
あからさまにがっかりした様子である。
「いくら私が未熟者でも、
人が打ち出したレベルの物でない事は扱って見れば分かります」
「本当に未熟者や無能な奴等は扱っただけで武器の良し悪しは分からねえよ」
カヌイは呆れ顔で指摘する。
「ところでリアさん」
「はい?」
「何故教会騎士達に追われていたのか教えて欲しいのですが…」
「はい、分かりました」
リアの話によると彼らの目的は鉱山の中に残されていた爆薬(魔法で封印済み)を
地盤が脆い場所に仕掛け、
一気に爆破する事によって大規模な山崩れを誘発し、
内陸部からの更なる増援を防ぐ事だったらしい。
リアによって爆薬は既に使用不能したが、
騎士たちに見つかり山林を逃げ回っていたとの事だった。
共に逃げてきた2人は警備隊の一員で監禁されていた処をリアに救助されたらしい。
鉱山の警備強化とカヌイの強い要望により、
【採掘に向かうリアの身辺警護と荷物持ち】がの依頼がカイト達指名でギルドに
カヌイから出される事になったのは言うまでもない。
そうして時間は過ぎていった…
遂にレスト王国同地方教会連合軍による侵攻が始まる。
敵は合計3700。
内訳は次の通りであった。
レスト王国側の戦力は王族親衛隊や、
貴族の私兵等で戦場で裏切る可能性が低いと考えられる者を集め、
派遣戦力は3000。
レスト地方教会が派遣した戦力は正規兵500、
勇者を隊長とした精鋭兵200、
計700であった。
対するステーション街の戦力は合計2200。
内訳は守備隊2000、
ギルド及び傭兵100、
魔王軍精鋭隊(親衛隊)100である。
当初の予定通り、
街の周辺に防衛線を張って防衛隊は待ち構える。
(ステーション街の直ぐ北方には平行3連続に列なる山脈が
内陸部と海岸部を分断するように鎮座している。
山脈の裾野部分にステーション街は造られているのだ。
街の東・西・南方面は平野になっている。
しかし山の麓に位置している為、
東西方面は起伏が激しい地形となっている。
街から南方に向かって行くとやがて海岸線に到達するという位置関係だ。
貿易路は南の海岸線から街を中継地点として北の山脈を越えて内陸部へと続いている。)
作戦は数で勝る敵との差を土地の利で埋めるために東方の平野部で迎え撃つ。
魔王軍精鋭部隊と守備隊1000が正面を固めて敵の進撃を食い止めている隙に、
敵側面の南方から防衛隊主力が攻撃し、
混乱した敵を殲滅するという作戦だ。
北方には険しい山脈が天然の壁となり、
敵は北方から迂回して攻撃することは不可能。
また、こちらの作戦開始と同時に王国への周辺各国と魔王軍の人魔連合軍による
『レスト国民解放作戦』も発動される。
その為、
仮に殲滅出来なくても国境線が突破されれば、
慌て撤退していくであろう。
こちらは『囮』となり時間を稼げば良いのだ。
「しかし、教会精鋭隊とはこんなにも弱いのか?」
敵をさばきながらフランは1人呟く。
「なんだと?!」
「この位の挑発に乗る程にな!!」
激昂して切りかかってきた者をかわして
「グハ!!?」
首の後ろに一撃を入れる。
「死ね!!魔物め」
僅かな隙を狙ってフランの背後から奇襲を仕掛けるが
「油断は禁物ですよ?フランさん」
「!?」
マントのステルス機能を利用して接近していたカイトの一撃にあえなく沈む。
「それはお前も同じだろう?」
「ですね…」
背後から斬りかかってきた2人の斬撃を振り向きもせずマント越しに片手で受け止めた
「「!!」」
そして強烈な回し蹴りで2人を蹴り飛ばし気絶させる。
「どうして剣を使わないんだ?」
敵をさばきながらフランは疑問を口にする。
「ここまでの大人数相手だと手加減するのには格闘戦の方が都合が良いので」
そう言って相手の腕を掴み背負い投げの要領で地面に叩きつける。
「グハ!!」
重い甲冑を身に付けていた事が仇となり、
敵はかなりの衝撃を受けたらしい。
衝撃により肺の空気が強制的に排出された。
更なる一撃を加える迄もなく、
その者はすでに失神している。
カイト達に迂闊に接近するのは危険と察知したのか敵は一定の距離をとる。
「すこしは学習した様ですね?」
背中の双剣を抜きながらカイトはいい放つ。
しかし今回はその挑発に乗ってくる者はいない。
「その技…ジパングの格闘技か?」
「柔道と言うものです。無段ですがね」
無段の意味が分からなかったのかフランは首を捻る。
「随分とうちの手駒をいたぶってくれたじゃないか?」
そう言って奥から勇者らしき者が姿を現す…
「おまえは!?【不死鳥の剣士】!!」
「何ですか?奴は…」
戦闘体制を取りながらカイトはフランに質問する
「魔王軍も手を焼いている勇者だ。
何度倒されても直ぐに復活することから、
不死鳥の異名をもつ」
「こっちの敵はあらかたたかずけた…
隊長狩りといきますかね…」
「「!?」」
なんと魔王軍精鋭の内、約半数を撃破したと言うのだ
「安心しろ…奴らは逃がした。
街の奴らに恐怖を植え付けるためにな!!」
黒い笑みを浮かべる男。
「よくも部下を…!!」
「怒りに我を忘れるな!!」
カイトの警告を無視し、怒りに任せ突撃するフラン。
「そんな攻撃当たるかよ」
「グ?!」
フランの突撃を最小限の動きで避けがら空きの背中に強烈な一撃を叩き込む。
「フラン!!」
救援に向かおうとするカイトに配下の兵士が立ち塞がる。
「お前も後でいたぶってやるから心配するな」
「カイト!!こいつは私が相手をする。
お前は周りの雑魚を!!」
「…分かりました」
そう言って剣を再び構える。
「いざ…参る!!」
こうして不死鳥とフランとの戦いの火蓋は切って落とされた…
フランは徐々に追い詰められて行った…
剣士としての実力はほぼ同格、
しかし、加護によってもたらされた驚異的な再生能力と時として自分の部下を盾にするなどの非情な戦法を多用する為に思うように攻撃が出来なかったのだ。
カイトも次々に現れる兵士が邪魔をして救援に向かう事が出来ない。
そして…遂に致命的な隙をフランは作ってしまった。
なんと、横たわる味方をフランに投げつけ2人ものとも切り裂こうとしたのだ。
「!!」
咄嗟に敵兵を庇う。
しかし、そのせいで背に斬撃をまともに食らってしまう。
纏っていた鎧を紙のように切り裂き背に深い傷をつけられてしまった。
たまらずフランはその場に膝をつく。
「なぜ…僕を庇った…!?」
「弱き者を守るのが騎士の勤め…
目の前で殺されようとしている者を放ってはいられるか…」
「お前達も人間を殺しているだろ?!」
「私達は…人を殺さない…」
「僕の故郷を襲ったのはお前たちだろ!?ただ平和に暮らしているだけだった村を!!」
「私たちが平和に暮らしているだけの人々を襲うわけはないだろ!!」
「じゃあ一体誰が村を襲ったんだよ!?」
「俺達だよ!!」
勇者が非情な事実をいい放つ。
「なぜだ!!僕たちは何もしていない!!」
「王国に反感を持つ奴らを消すためさ。
それに魔物のせいにすれば兵士への志願者も増える。
お前の様な馬鹿者でな!!」
「僕は…故郷を奪った奴等に味方していたのか…」
「そうさ!!
教会の言葉を疑いもせず、
無実の者に憎しみを向けてな!!」
黒い笑みを浮かべて自ら真実を話す。
「きさまー!!」
フランが庇った兵士が怒りにまかせて勇者に突撃する…が
「雑魚が」
剣を振り作り出した風の刃でその若者をフランの元まで吹き飛ばす。
「安心しろ…
直ぐに後ろの魔物ごと両親の元に送ってやる」
そう言って魔力を手に集中させる。
「死ね!!」
2人にアギダオラを放つ勇者。
咄嗟に若者が盾をかざすが大量生産品の盾では防ぎきる事は不可能であろう。
「逃げろ!!」
「僕も兵士です!!
傷付いた者をおいて逃げる訳にはいきません!!」
「お前…」
「その心意気確かに見せて貰ったぜ!!」
「「!?」」
無情にもアギダオラが直撃したかに見えた…
しかし、砂埃が晴れた時そこには、
2人の前にカイトが悠然と立っていた。
「ほう、奴等を振り切ったか…」
「勝てないと分かったら一時撤退していったぜ」
「ちっ…使えないやつらだ!!」
そう言ってカイトに必殺の斬撃をお見舞いする勇者。
「甘いな」
それを軽々と受け止める。
「「「!?」」」
大剣を双剣士が片手で受け止めたのだ。
それも素手で…驚かない者はいないだろう。
受け止めた右手からは炎が立ち上っていた。
みるみるうちに溶かされていく大剣。
「なんだ!?その手は!!」
「お前に教える必要はない…」
そう言うと強烈な蹴りを勇者に向けて放つ。
咄嗟に大剣から手を放しバックステップで蹴りの間合いから離脱する。
邪魔だとばかりに奪い取った大剣を遠くに投げる。
バリン!!
カイトが持っていた所から真っ二つに折れる。
「なんだと?!聖剣が!!」
「残念ながら紛い物だった様だな」
どうやら魔物が作った剣を聖剣として授けられていた様だ。
聖剣なら少なくともカイトの炎で溶けるはずはないからである。
「これで武器はなくなったな」
「お前ごとき魔法で充分だ!!」
そう言って様々な属性の魔法を連続して放つ。
しかし、
「甘いと言っただろう?」
「!?」
今度は左手をかざす。
そうすると放たれた全ての魔法がカイトの目の前で静止する。
「これならどうだ!!
光の剣達よ…今ここに集いたまえ…」
そう言うと勇者の前方に魔法陣が展開され、
複数の巨大な光輝く剣が現れた。
「これで終わりだ!!
我に害をなす者を消し去りたまえ…レイソード!!」
勇者が呪文を詠唱し終えると光の剣がカイトに殺到する。
「甘いと言っているだろうが…!!」
しかしそれも障壁に阻まれるかの様にカイトの寸前で静止した。
「ば、ばかな?!」
最大の魔法を無効化され流石の不死鳥も取り乱す。
「今度は此方から行くぞ!!」
かざしていた手を徐々に握るカイト。
その動きに合わせて勇者が放った魔法が1つに集約されていく…
「己の魔法でその身を焼かれるがいい…光龍波!!」
1つに集約された魔法が複数の光の龍となり、不死鳥に襲い掛かる。
「俺にはその様な攻撃は効かん!!」
その攻撃で不死鳥もかなりのダメージを受けた様だが、
それも治癒能力で回復してしまう。
「だろうな!!」
「!?」
砂煙が晴れたとき…勇者の目の前には既にカイトが肉薄していた。
先程の光龍波はあくまで目眩ましだったのだ。
「お休み」
その言葉の直後、身体に強烈な衝撃を受ける。
その衝撃で不死鳥の意識は初めて刈り取られた…
秘技【鎧通し】
鎧の上から相手の身体にダメージを与える技だ。
「大丈夫か?」
満身創痍のフランに声をかけるカイト。
「ああ…」
剣を杖がわりにして何とか立ち上がる。
「無理するな。街へ戻るんだ」
「しかし!!」
「怪我人がいては味方の足手まといになるだけだ!!
心配するな。
後は俺達で何とかする!!」
「そうです!!
隊長は一時撤退を!!」
「…分かった。
後は頼む…指揮も頼んだぞ」
部下達も賛同したことから渋々了承する。
「ああ。それと君も一緒に手当てをしてもらえ」
「え…?!」
フランを勇者から庇った兵士にも声をかける。
「しかし…僕は」
「真実を知ったからにはもう彼方には戻れまい…
戻る気も無いだろう?」
その言葉に静かに頷く。
「それに味方は多いほうが良いしな」
その言葉に周りも頷いた。
「分かりましたお願いします」
そう言うとフランに肩を貸して数人の護衛守られながら街へ向かって行った。
「さて…残りの精鋭を潰すぞ、皆。
葵達は敵主力を!!」
「「「「「「了解!!」」」」」
そう言うと形勢を立て直しつつある敵に突撃していった…
「さて、こっちも始めますか!!」
「ええ!!」
そう言うと2人は敵兵の前に立ち塞がる
「いくぜー!!」
「覚悟しなさい!!」
と言うと紅と葵は己の力を解放する【言霊】を言い放つ。
「「四聖獣解放の式!!」」
紅は紅蓮の焔が、葵は天高く延びる水柱がその身を包む。
二人を包み込んだ2本の柱は徐々に太さを増していく…
そしてついにその柱が弾けとんだ時。
そこには…
クァー!!!
巨大で神々しいまでの姿をした火の鳥…
そして
ゴァー!!!
身体の所々を雷雲で覆われた水龍の姿があった!!
「な、なんだあれは?!」
「で、でかい…」
突如現れた敵にレスト連合軍兵士の間に動揺が拡がる。
(朱雀、後方の敵は任せましたよ)
(おうよ!!前方の奴等は任せたぜ。青龍!!)
念力で短い会話を交わし、
【朱雀】は天高く飛び立つ。
その速度は魔物ですらその姿を見失う程の物であった…
力を解放した紅と葵は、
レスト国主神教会連合軍を気迫だけで既に圧倒していた。
その勇姿を見た味方には希望と勇気を、
敵には恐怖と絶望を与えるだけの気迫がその姿には存在していた。
(我が下僕達よ…姿を現せ!!)
そう葵が命令すると、
街の外堀に張られた水が天空高く立ち上る。
それはやがて街を守る鉄壁の水壁となり、
そこからは無数の旧世代の龍達が姿を現した。
1体の全長は10mはあるだろうか。
その水龍達が街の正面を死守する味方の前に立ち塞がる。
青龍を中心に扇状に陣を組み、
何人たりとも突破させない構えを見せる。
これこそ、
旧世代魔王軍の進撃を食い止めた【青龍防壁の陣】である!!
(そこから前に進むな…
主神を盲信する愚かな人間たちよ…
地獄を味わう事になるぞ!!)
その言葉を直接脳裏に響かせる青龍。
その効果は絶大であった。
その声だけで敵軍の進行を止めたのである。
水龍達の陣の迫力に圧倒され、
じりじりと後退していく敵兵達。
もはや勇者が作り出した勢いは跡形も無く消し飛ばされていた…
本来の姿に戻った四聖獣は、
もはや人が戦える相手ではない…
単体で旧世代のドラゴンを
【赤子の手を捻るが如く】
簡単に消し去るだけの力を持っているのだ。
その四聖獣がこの場には2体もいる。
たがだか3700の兵士で止められる相手ではない…
唯一頼りにしていた200名の教会直属精鋭部隊は、
カイト達により殲滅追い込まれている。
…もはや連合軍にとってはただのお荷物状態で、
戦力とはとても言えたものではなかった。
3500の数を誇る主力部隊も街に攻め込むどころか、
青龍の姿となった葵が作り出した陣により、
全く進軍出来ない。
「ひ、怯むな!!
我々には主神の加護あるのだ!!
奴ら共々、火炎魔法で消し飛ばせ!!」
声の裏返った指揮官の攻撃命令よってに魔術師がアギダオラを一斉に放った。
その火炎球が青龍の陣に殺到する。
しかし、
その魔法攻撃も見えない壁にぶつかったかの様に龍たちの前で消し飛ぶ。
街を狙った魔法も強固な水壁によって防がれ、
城壁にすら届かない。
「魔法が効かないなら直接破壊しろ!!」
司令官の指示を受け何とか我にかえる兵士たち。
自らを奮い起たせ、
水壁を破壊しようと接近を試みる。
しかし、それは無駄な事でしかなかった…
(これ以上近寄るなと警告したはずだ…
愚かな人間たちよ!!)
その言葉と同時に
葵自身や葵の式神が放つ冷凍ブレスが兵士達に迫る!!
「支援隊、魔法障壁を張れ!!
前衛は各自盾を構えろ!!」
しかし、ブレスは敵の張った後方支援隊の張った魔障壁をも楽々と破壊し、
敵兵に容赦なく浴びせられた。
「なんだこのブレスは?!」
「身体が凍り付いていく!?」
それを浴びた者は盾を構えたまま体表面を氷で覆われ、
動きを一切封じられる。
「う、動けないだと!?」
「さ、寒い」
「誰か助けてくれ…」
そして全ての者は
【凍死しないギリギリの寒さ】と、
【戦場で動きを封じられて己が的と化す恐怖】を
容赦なく経験させられた。
それはその者達の戦意を根元からへし折るには充分であった。
後方の兵士は動けなくなった者が邪魔となって進撃出来ない。
「南方に迂回して側面から侵攻しろ!!」
(本来なら両側面から攻撃して挟み撃ちにしたいのだが…
この地形では…)
そう、本来は南北に迂回させ両側面から挟撃するのが効果的な戦術であろう。
しかし、北方は起伏の激しい急斜面となっており、
そちらからは迂回するのは不可能であった。
敵の盾と化した味方を避ける形で南方に進路を取る侵攻軍。
しかし、そこには無数のトラップが仕掛けられていた!!
「くそ、落とし穴だと?!」
「深い…気を付けろ!!落ちたら脱け出せそうにないぞ!!」
それはすり鉢状に掘られた特製の『落とし穴』だった。
穴の中心には地下に続く縦穴が螺旋状に掘られており、
その先は皆さんご存知『デビルバグの巣』に通じている。
お婿さんを虎視眈々と待ち構えている
デビルバグの皆さんの処へご招待と言うわけだ。
…ある意味最強の罠である
なんとか地獄のトラップ帯を通過した直後
「なんだ?!あの赤い光は!!」
「こっちに向かってくるぞ!!」
突如頭上から何かが急接近しきた。
咄嗟に防御体制を取る。
しかしそれは兵士にではなく。
侵攻方向の大地に向かって灼熱の光線を発射してきた。
光線を浴びた大地はグツグツと煮え立ち、
溶岩の河と化して敵の進路を塞ぐ。
(さあ、祭りの始まりだ!!
不死鳥達よ出てこい!!
そう紅が言うと溶岩の河から無数の火の鳥が姿を現した。
そして紅を中心に集合する。
敵は紅達と溶岩から発せられる熱で近寄る事も出来ない。
(来ないならこっちから行くよ!!)
「「「「「クァー!!」」」」」
そう言うと紅を先頭として火の鳥達が一斉に襲い掛かる。
咄嗟に放たれた水系の魔法は
紅達が放つ高熱によって身体に届く前に蒸発してしまった。
そして、
紅と式神が放つ火球は敵兵の体を傷付けず武装のみを融解させる。
目の前で金属製の武装を溶かされた者はたまったものではない。
上官の指示も耳に入らず遁走を始める始末で有った…
何とか紅達を突破したとしても、
行く手には骨おも溶かす灼熱の河川。
その奥に控える防衛隊主力により鉄壁の防衛線が構築されており、
刻々と減少する戦力で突破するのは到底不可能な話であった。
(主!!オロチ戦で閃いた例の技を!!)
(相手の戦意を根こそぎへし折ってしまえ!!カイト!!)
「分かった!!」
そう言うと敵から距離を取り愛刀を鞘にしまうカイト。
そして両手を前に突きだし、
炎と水2つの球を作り始めた。
「奴に攻撃を集中させろ!!」
ただならぬ気配を察知したのであろう。
動けないカイトに向かって攻撃を集中させる残敵。
それをまだ動ける魔王軍精鋭部隊が阻止しする。
「まだ、寝てろ!!」
敵の攻撃からカイトを大盾で死守する者に怒鳴った。
その者はカイトが倒した勇者によって深手を負わされたフランであった。
「戦闘が続いているのに寝てられるか!!」
「僕も居ますよ!!」
フランを支える様に元教会騎士の【ライト】も寄り添っている。
「すまん!!もう少しだけ耐えてくれ!!」
「私はエメラルダス王女第1親衛隊隊長!!
命の恩人に指一本触れさせはしない!!!」
「僕だって騎士の端くれです!!
恩人を見捨てていられるかー!!」
そういってカイトを死守する2人。
「「「私達が愛する人々を傷付けようとするもの達よ!!
四聖獣とそのもの達を従えし者の怒りを見るがよい!!」」」
限界まで圧縮された2つの球を融合させ、
カイトは超高熱超高水圧の水球を誕生させた。
「誰も傷付けさせはしない!!
敵の野望を打ち砕け!!
バーニング・アクア・ボルケーノ!!」
カイトは上空に向かってその魔水球を放つ…
そして地上500mに達した時、
カイトは魔水球に閉じ込められていたエネルギーを解放した。
超高熱に熱せられた水は圧から解放されると、
一瞬で水蒸気と化し、
敵の頭上で巨大な水蒸気爆発を発生させた。
発生した音速を超える衝撃波が敵兵を襲いかかり、
ズドォォオオオオオオン!!!!!
少し遅れて凄まじい爆音と爆風が大地を揺るがす。
残敵はその爆風をもろに受け、
数m吹き飛ばされる。
対する味方は3人が張った障壁によって守られ被害はなかった。
「「「これは警告だ…次は直撃させる。
直ちに立ち去るが良い!!」」」
3人の声が敵の脳裏に直接響き渡る。
カイトの声は四聖獣を中継局としてはいるが…
「ば、化け物だ…」
「あんな魔法が直撃したら…」
「…あ、あんな奴相手に勝てる訳がない!!」
「に、逃げろ!!」
圧倒的な攻撃を見せ付けられた敵は一人二人と逃げていき…
「こ、こらお前ら撤退命令は出していないぞ!!」
敵は司令官の命令を無視してばらばらに撤退を始めていた。
「軍令違反は死刑だぞ!!お前ら!?」
そんな半場ヒステリーになっている男に絶望的な知らせがもたらされた。
「大変です!!
レスト王国が大多数の神敵から侵攻を受けています!!
愚民達も同時に一斉に蜂起!!」
「何!?守備隊はどうした?!」
そう確かに多数の守備隊を国境に配備していた…が
「約半数が離反し神敵と共に城を取り囲んでおります!!
直ちに反転し王国へ戻れとの王から緊急命令が下りました!!」
情勢が不利と見るや、
大半の兵士が部隊ごと離反し国境の門を開け放ったのだ。
これには大きな理由があった。
実は国境を警備する兵士の大半が払えない税の代償として
半強制的に徴兵された者であったのだ。
そのため国への忠誠心は無かったも同然である。
そんな兵士が援軍も来ない状態で自国の為に命がけで戦う筈はない。
必然の結果であった。
「なんだと…?!
罠だったのか!?
おのれ…神敵どもめが!!」
「ど、どうしましょう。司令官…」
部下があまりの事態に動揺を隠しきれない。
「決まっているだろ!!
全軍反転撤退!!王国を神敵から取り戻せ!!」
司令官が撤退命令を下した。
しかしそれが末端の兵士まで届くことはなかった…
「残念〜誰もにがさないわよ」
「「「!?」」」
声がした上空を見上げると…そこには
「遅れてご免なさい。集団お見合いには間に合ったようだけどね?」
そこにはウィンクをする魔王の娘【リリム】を
先頭に多数のサキュバス等の魔物がいた。
動ける状態だった兵士はリリムに魅力され、
瞬時に戦闘不能となっていた。
「「姫様!?」」
クレアとフランが思わず叫ぶ。
戦場に現れた者の名は【エメラルダス】
別名【戦姫】
魔王の娘であると同時に広大な領地を保有する領主の身分でありながら、
民や魔物と共存を望む人々の盾となるため先陣をきって戦場に立つ人物。
持ち前の魔力と魔王親衛隊隊長直伝の剣さばきで、
魅力が効かない相手にも勇敢に立ち向かう姫である!!
…親衛隊は毎回ヒヤヒヤさせられているようだが…
「さ〜て、お見合いのはじまりよ!!
みんな、好みの男性を見つけてさっさと寝取っちゃいなさい!!」
「「「は〜い!!」」」
戦場はあっという間に阿鼻叫喚の修羅場と(敵兵の立場として)化した。
「選ばれなかった可哀想な男性は拘束してね〜独身魔物に回すんだから」
戦姫の登場によって戦闘はあっけなく強制終了する結果となった。
敵兵は一人残らず魔王軍によって拘束され、
戦場にいた独身魔物からハブされた
【男としては悲しすぎる】
独り身の者は捕虜として連れていかれた。
幸運にも(なのか?)既に妻子や恋人が居た者は、
エメラルダスの計らいで家族の元へ
(家族内の女性はもれなく魔物に変えられてしまうが)帰された。
結果としてレスト王国最後の侵攻作戦は無事食い止められた。
肝心のレスト王国はどうなったかと言うと…
周辺国や魔王軍の力を借りた国民達により王政は崩壊。
新たに誕生した領主の元、
親魔国として新たな道を歩み始めた…
ちなみに、
今まで国民を苦しめていた貴族や王族は…
デビルバクの巣へ永久追放された…
自業自得である。
ここはステーション街の中心に建つ城の内部。
一通りの事後処理を終えたカイト達一行は客賓として領主の城に招待されたのだ。
「ごめんなさいね?結果的に活躍の場を奪ってしまって」
紅茶を飲みながらエメラルダスがカイト達に謝罪の意を述べる。
「いえ、姫様のお陰で両軍に無用な負傷者を出さずに済みました。」
「姫様なんてただの肩書きよ。
私は母上の娘の中でも下の方。
間違っても王位継承はないわ。
それに貴方は私の親友を救ってくれた恩人。
エメラで結構よ」
「いえ、王女であると同時に領主様でもあるのです。
私ごときが呼び捨てになど出来るはずありません」
あくまで身分の違いを理由に礼儀を尽くすカイト。
「礼儀には厳しいわね。
立派なご両親に育てられたのね」
「恐縮でございます」
何時もなら突っ込む筈の紅が無反応である。
疑問に思いカイトが目を向けると…
顔を赤く染め何かを我慢する紅と葵の姿があった。
「どうした?!具合でも悪いのか!!」
「だ、大丈夫です」
「これくらいどうってこと無いさ」
「あ〜成る程ね…アルベルトさん。
空いている寝室はあるかしら?」
「既に人数分用意しております。
誰かカイトさん達を部屋へお連れして差し上げろ」
涼しい顔で答え、
メイドに命令する彼。
「すいません…2人がご迷惑をお掛けして」
メイドの手を借りて2人を来客用の部屋へ連れていくカイト。
「構いませんよ。
今日は【ごゆっくり】お休みください」
「頑張ってね〜英雄さん」
何やら意味深な言葉をかけるアルベルトとエメラルダス。
その言葉の真意をカイトは、
まだ知るよしも無かった…
案内された寝室に2人を寝かすカイト。
「大丈夫か?2人共」
言葉をかけられた2人は寝室に自分達以外が居ない事を確認した。
プツン
何かが2人の中で切れた。
抑えていた【魔物娘】としての本能が、
四聖獣本来の姿から今の姿と戻った直後から急激に沸き上がってきていた。
人目を気にして我慢していたが、
3人だけになった為についに我慢の限界を突破してしまったのだ。
「もう我慢出来ねーよ!!」
「私もです!!」
2人は突如野獣の如くカイトに襲いかかった。
「「海斗好きだ(です)ー!!」」
「あー!?ちょっとまて!!
俺もお前らの事は好きだが…
物事には順序ってものが!?」
(なに暴露してんだ俺?!)
その言葉に2人が更にヒートUPした…
その日カイトは童貞捨てる処か
インキュバスになるまで搾り取られたのは言うまでもない…
「やってるわね〜」
「やってますね…」
のんきに紅茶を楽しむ2人。
対してフランとライトは顔を赤くしている。
「うらやましいでしょ?」
「な?!そんなことは!?」
パカッ
本心を探るために親友の首を外すエメラ。
「うらやましいに決まってるでしょ!?
私もライトとイチャラブしたいに決まってるじゃない!!」
カポ
フランの首を元に戻す。
「「「「「「…」」」」」」
「…貯まってるのね」
ポンと親友の肩に手を置く。
「貯まってなど」
パカッ
再び首を外す。
勿論本心を聞き出すためである。
「いるに決まってるじゃないですか!!
やり過ぎて遅刻する部下を叱るこっちの気持ちにもなって」
カポ
フランの首を元に戻す。
「「「「「「…」」」」」」
「さっきの話…本当ですか?」
ライトは真剣な顔になって質問をする。
「ああ…満身創痍の身ででありながら、
私を守ろうとしてくれた君の心に惚れてしまった」
顔を真っ赤にさせて告白するフラン。
「フランさん…」
「あのときは傷つけてしまって済まない…まだ痛むだろう?」
「いえ、謝る必要はありません。
フランさんのおかげで自分の過ちに気がついたんですから…」
「ライト…」
「それに相思相愛であることも分かりましたし…」
「!?」
2人ともすでに首まで赤くなっていた。
「…後、非常に言いにくいのだが…」
「?」
「デュラハンは首が取れると魔力が急激に放出されてしまうの」
「ええ!?」
フランに代わって重大な事をけろりと告げるエメラ。
「ど、どうすれば良いんですか?!」
「貴方が頑張れば良いだけよ」
「?」
この後のライトの運命は皆さんのご想像通りであった…
その後ライトはエメラの誘いを断り、
自らの意志で冒険者としての道を歩むことになった。
本人曰く、
「まだ、姫様の親衛隊に入隊するには力がなさ過ぎる。
まずはフランの夫としてふさわしい実力を付けていきたい」
とのことであった。
所属ギルドもエメラの統治している地域のギルドでは無く、
カイト達が居るこの街のギルドに登録した。
しかし、せっかく手にした愛する人をみすみす逃すフランではない。
親友の全面協力体制の元、
表向きは応援要員としてこの街に派遣されてきた。
てなわけで【エメラルダス姫第1親衛隊隊長】こと
【フラン・A・リネ】がステーションギルドに居るわけである。
「とのご命令から今回の山賊退治為に此方に出向してきたんだ」
といつの間にか話の輪に入っていたフランが、
ここにいる経緯を説明していた。
(まあ、終わっても
「夫が自分の親衛隊になる気にさせるまでまで帰ってくるな」
と厳命されてしまっているがね…)
「成る程。大変ですね」
「こちら側からしてもこの山賊どもは放っては置けないからな」
そう、表向きは山賊退治ための出向である。
こうして、ギルドの1日は過ぎていった。
次回へと続く…
12/03/19 19:54更新 / 流れの双剣士
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