言えなくて
話の舞台は、何処にでも在る様な町。
チュンチュン
そして、ここは、その町に在る、一軒の家の一室。そこには、ベッドの上で上下する布団が一枚。
「Zzz、Zzz」
カチッ、カチッ、
枕元に置かれた時計は、もうすぐ朝の7時に成ろうとしていた。そして、時計の秒針が真上に来そうに成った瞬間、
ピキン、ガバッ、
布団が跳ね除けられ、
ピピッ、カチッ、
そこから出て来た者が鳴り始めの時計を止めた。
「ふぁーー、うーーーん、よく寝た」
布団から出て来たのは、この家に住む青年、サイガ・リュウキ、十七歳、この家で父と母と同居人の四人で暮らしている。
リュウキは、欠伸をして、続いて背伸びをして枕元に置いていたメガネを掛けて、自分の部屋を出た。そして、自分の部屋の扉の横に在る、もう一つの扉に視線を向ける。
「まだ早いし、もう少し寝かせてやるか」
そう言って、リュウキは階段を下り、顔を洗った後、キッチンに行く。すると、
「あっ、リュウキ、おはよう〜」
そこには、この家の同居人である、ホルスタウロスのルルが居た。
「珍しいな、ルルが俺より先に起きてるなんて」
「うっ、うん!今日は何か目が覚めちゃって」
「ふ〜ん」
ホルスタウロスのルルは、基本的に朝に弱い。その為、朝はリュウキが起こさないと中々起きない。
「え〜と、あっ!朝ご飯出来てるよ、食べる?」
「ああ、じゃあ貰うよ」
「うん♪」
リュウキは椅子に座り、ルルはご飯を装う。テーブルには、朝食にピッタリの料理が並んでいる。
そして、ルルは装ったご飯をリュウキに渡す。
「はい」
「ありがとう。じゃあ、いただきます」
「いただきま〜す」
そうして、二人で朝食を摂り始める。
「うん?今日の朝食は、ルルが作ったのか?」
リュウキは何時母が作っている物と違う味付けに気づきルルに聞く。
「うん、美味しく・・無かったかな?」
「いや、美味いよ」
「は〜、良かった♪」
ルルは安堵し、食事を続ける。
「そう言えば、おじさんとおばさんは?私が起きた時はもう居なかったけど」
「今日は、朝一で会議だって、昨日言ってた」
「そっか」
「だから朝食は、俺が早く起きて作る予定だったんだけど」
「あぁ〜、ごめんね〜」
シュン(耳がションボリと垂れ下がる)
ルルはリュウキに無駄な早起きをさせてしまった事を謝る。
「謝らなくて良いよ。お陰で料理の手間が省けた」
「うっ、うん!」
ルルは少し赤くなりながら喜ぶ。
「そう言えば、昨日はお父さんとお母さんから連絡が有ったんだよ!」
ルルは話を逸らすかのように別の話題を出す。
「そうなのか?何時頃帰って来るとか言ってたか?」
ルルの両親は外国に赴任をしており、赴任する時、ルルは一人この国に残った。その際、ルルの両親と仲の良かった、リュウキの両親がルルをこの家で預かる事にしたのだ。
「まだ仕事が忙しいみたい、年末には一度帰って来るって言ってた」
「そうか。早く帰って来ると良いな」
「そう・・だね。うん」
ルルは少し暗くなった。だが、リュウキはそれに気づかなかった。
「お代わり」
「あっ、はい」
リュウキは空の茶碗をルルに差し出した。そして、ルルがそれを受け取ろうとした瞬間、
ポロッ、カシャン、
「「あっ」」
ルルの手から茶碗が落ち、下に在ったお茶の入ったコップを倒した。そして、
ピシャッ、
コップはリュウキの方に倒れ、コップの中に在ったお茶がリュウキの寝間着に掛かった。
「つめてっ!」
「ごっ、ごめんなさい!」
ルルは急いで布巾を持って来て、リュウキの服を拭く。
「リュウキ、ごめんね〜」
「良いよ。どうせ今日洗いに出そうと思ってたとこだから」
そう言ってリュウキは上の服を脱ぎ始める。
「じゃあ、直ぐに洗うから、それ貸して」
「ああ」
そして、リュウキが着ていた服の上を脱ぐ。しかし、そこで、
「あっ!」
ルルは、リュウキの背中に在る、大きな傷痕が目に留まった。
「!!」
リュウキも傷を見られた事に気づき直ぐに隠す。
「ホントに・・ごめんね」
ルルが俯いて、泣きそうに成りながらもう一度謝る。
リュウキの背中に在る傷は、まだリュウキ達が子どもの頃、事故に在った際、リュウキがルルを庇って出来た物だ。その時リュウキは、体から大量の血を失い、とても危険な状態に成った。しかし、通りかかった魔物に輸血をしてもらい、そのお陰で何とか命を繋ぎ止める事が出来た。
だが、本来魔物の血が人間に適合する事が無い為、その後の処置で傷は治ったものの体に後遺症は残ってしまった。
その一件が在ってから、ルルはこの傷を見ると泣きそうになりながら謝る様になった。
「何時も言ってるだろ、謝らなくて良いよ」
リュウキはそう言ってルルの頭を優しく撫でる。こうするとルルは大体泣きやむ。
「グスッ・・・うん!」
ルルは涙を拭き笑顔に戻る。
その後、リュウキは服を着替え、二人で食事を再開する。
朝食が終わると二人は制服に着替え、学校に行く準備をする。
「さて、そろそろ行こうかな」
そう言って、リュウキが玄関で靴を履いていると、
「ねえ、リュウキ」
「うん?」
後ろからルルが声を掛けて来た。
「お昼ごはんは、どうするの?」
「学食で食べようと思ってるけど、それがどうかしたか?」
「えへへ〜、はい♪」
「えっ?」
不意にルルが包みを出した。
「じゃ〜ん、ルル特製の手作り弁当〜」
ルルが出したのは、大きめのハンカチに包まれた弁当だった。
「もしかして、これを作る為に早起きしたのか?」
「うん♪すっごく眠かったけど、頑張ったんだから、残したりしたら嫌だよ!」
「ふっ、了解。わざわざ、すまないな」
「えへへ」
ルルはリュウキに弁当を渡し、もう一度笑う。
二人の通う学校は、『私立天門学園』、この学園は、人と魔物が共に勉学に励む場所である。故に、学園の男女比率は3:7(男:女)と言った感じである。勿論、学園内での恋愛は認められているが、それ以上の行動は認められていない。出来てもキスまで、
リュウキ達は、学園への道を二人は並んで歩いていた。否、走っていた。
「はぁ、はぁ、どうして、こんな事に」
「それは、はぁ、お前が、三連続で、はぁ、忘れ物するからだろ!」
リュウキ達は余裕を持って家を出たが、ルルが道の途中で忘れ物をしたのを思い出し、それを取りに帰って居た結果が現状である。
「うう、ごめんなさい」
「泣くのは後にして走れ!」
そう言って二人は全力で走る。
ガタッ、ドスッ、
「はぁー!はぁー!間に合ったけど、わりと余裕だったな!」
リュウキは肩で息をしながら教室の自分の席に付く。予鈴までは後十五分は有る。
因みに、リュウキはA組だが、ルルは隣のB組だ。
そして、リュウキが息を整えていると、
「あああーーーー!」
隣の教室からルルの悲鳴が聞こえて来た。
「嫌な予感と言うか、何時ものパターンと言うか」
ルルの悲鳴から三十秒後、
ガラッ
A組の教室の扉が開き、ルルがリュウキの許に来た。そして、
「うう、リュウキ〜、宿題見せて〜」
涙目に成りながら白紙のプリントを見せて来た。
「は〜、また忘れたのか」
「うん」
「確か俺たちの数学は二時間目だったな」
「私たちは一時間目」
「一時間目の休み時間までに返せよ」
そう言ってリュウキは鞄から自分のプリントを出し、ルルに渡す。
「何時もごめんね〜」
ホルスタウロスは基本的に深く考えるのが苦手な為、残りの十分くらいで、ルルに数学させるのは無理がある。
そして、ルルが出て行くと、リュウキは大きな溜め息を吐く。すると、近くに居た、リュウキの友達であるケンジが話しかけて来た。
「相変らず、リュウキはあいつに優しいな〜」
「うるさいよ」
「わりいわりい、とっ言う事で、優しいリュウキさん!俺にも宿題、見せてください!」
「ふ〜、貸しだからな」
リュウキにプリントを借り、教室に戻ったルルは、
カリカリ
一生懸命、リュウキのプリントを写していた。
すると、近くに居たラミアとワーキャットが話しかけて来た。
「あっ、ルルちん、また宿題忘れたのかにゃ?」
「うん、昨日は色々と有ってね〜」
「じゃあ、またリュウキに借りたのかい」
「うん、何時もの様に。リュウキは私より頭いいから」
「確か、一年の時からずっと、テストは学年一位だったものねえ」
「にゃはは、おまけにリュウキくんは、優しいからにゃ〜」
「うん」
「それに比べてルルちんは、」
「テストの結果表は、上より下から数えた方が早いからね」
「うう、言い返せない」
「でも良いにゃ〜、頼れる彼氏が居て」
「かっ、彼氏なんて、そんな・・」
ルルは、赤く成りながら俯く。
「ありゃ?違ったのかにゃ?」
「傍から見ると、そうにしか見えないけど」
「たっ、確かに、リュウキの事は好きだけど、私じゃあ・・その・・釣り合わないし・・」
ルルは、少し落ち込む。
「ふーん、でも好きなんでしょ」
コクッ
ルルは一度頷く。
「じゃあ、そんなルルちんに良い情報を上げよう」
「え?」
「最近、何人かの女子がリュウキくんを狙ってるらしいよ。」
「ええっ!ホント!」
「うん、噂では、すでに何人かの女子が告白して振られたって!」
「だから、もしルルもリュウキを狙ってるなら、早くした方が良いってことよ」
「早くしないと、他の女の子に取られちゃうかもよ〜」
「リュウキは、勉強出来るし、スポーツも出来るし、カッコイイからね〜」
「でっ、でも、私、告白なんかしたこと無いし」
ルルがしょんぼりと肩を落とす。
「う〜ん、あっ、じゃあ、今日の昼休みに屋上で作戦会議しよ!名付けて、『ルルちんの告白を成功させよう作戦』!」
「ええっ!」
「いいねえ。それじゃあ、後何人か誘うとしますか」
「いいよ〜、そんなことしてくれなくても〜!」
ルルは遠慮しようとするが、
「いいから、いいから、私たちに任せて、にゃははは!」
「そうそう、私たちに任せなさい!」
話しだした二人は止まらなかった。
キーン、コーン、カーン、コーン、
そして、ルル達がそんな話をしていると、予鈴が鳴った。
そして、昼休み。
「おわった〜、リュウキ、今日は学食か?」
リュウキにケンジが話しかけて来る。
「いや、今日は弁当だ」
そう言ってリュウキは、鞄から弁当箱を出す。
「なんだよ。今日はルルちゃんの愛妻弁当かよ〜」
「まあな」
「俺なんか母ちゃんの弁当なのに、この!羨ましいぞ!」
「ふっ、千円でどうだ?」
「マジか!」
「ふふっ、冗談だよ。ルルが折角作ってくれたんだ、そんな事はしないよ」
「あ〜、何だこの凄まじい敗北感は〜!」
「ふっ、じゃあな」
そう言ってリュウキは席を立つ。
「あれ?何処行くの?」
「どうせならルルを誘って食べようかと思ってな」
「へっ、リヤ充が!」
「うるさいよ」
そして、リュウキはルルを昼食に誘う為、B組に向かう。すると、教室を出たところでルルに会った。
「あっ、リュウキ」
「おう、丁度いいや、どうだ、一緒にご飯食べないか?」
リュウキが早速、ルルを誘おうとするが、
「ごめん、今日は友達と食べよって事になってるの〜」
ルルが済まなそうに言う。
「そうか」
「ホントにごめんね〜(うう、折角リュウキが誘ってくれたのに)」
「お〜い、ルルちん、早くいこ〜」
二人が話していると、ルルの後ろからワーキャットがルルを呼ぶ。
「うん。じゃあ、また今度誘ってね」
「あっ、ああ、じゃあ、また今度」
そして、ルルは友達の方へ走って行く。すると、リュウキの後ろからケンジが話しかけて来た。
「振られたな」
「うるさい」
「あはは、じゃあ、こっちも男同士で飯にするか」
「ああ」
「何処で喰う?」
「天気が良いから、食堂のテラスで食べようか」
「おっ、いいね〜」
そう言って、二人は学食の方に向かう。
一方、リュウキと別れたルルは、
「もしかして、お邪魔でしたか〜、ぐふふ」
「えっ、そんな事無いよ」
「うふふ、アンタは直ぐに顔に出るから分かりやすいんだよ」
「あう〜」
友達に弄られていた。
「どこがいいかな〜」
食堂のテラスに着いたリュウキ達は、自分たちの座る席を探していた。
「あそこが空いてる」
「あっ、ホントだ」
そう言って二人はテラスの端の方に在る席に座る。
「よし、じゃあ、頂くとするか」
「ああ」
そして、二人は自分の弁当箱を開ける。ケンジの弁当はボリューム重視の弁当、それに対して、リュウキの弁当は栄養バランスを考えて作られた弁当だった。
「うわっ、なんだその弁当、すげ〜うまそうじゃん!」
「まあな、お前の弁当も中々じゃないか」
「嫌みか〜、殆ど昨日の残り物だよ」
「ははっ、ごめん、ごめん、それじゃ。食べるとするか」
「おう!」
そして、二人は弁当を食べ始める。
パクッ、モグモグ、
「(うん、美味しいな。量は普通だが俺には丁度いい)」
ケンジは弁当をガツガツと食べ、リュウキは一つ一つ味わって食べていた。すると、
ゾロゾロ、
行き成りテラスに十五人程度の男子生徒の一団が出て来た。そして、その一団は、端の方で食事をしているリュウキ達の方へと真っ直ぐに歩いて来る。
「(おい、あれ!)」
「(関わるとロクな事に成らねえぞ)」
「(逃げろ、逃げろ)」
一団に気づいた、テラスに居た生徒たちは、次々と逃げる様に席を離れていった。気づいていないのは、一団に背中を向けて弁当を食べているリュウキと、弁当に夢中になっているケンジだけだ。
ゾロゾロ、ピタッ、
一団は、リュウキの後ろで止まる。そして、やっとの事でリュウキ達は一団の接近に気付いた。
「(げっ、三年のシンジじゃねえか!なんで、ここに!)」
ケンジは、一団の先頭に居る男、学園の不良のまとめ役である、キジ・シンジを見た途端に縮こまる。
キジ・シンジは、大して強くないが、不良の指揮官的存在なので、学園でよく威張り散らしている嫌な奴だ。
一方、リュウキはと言うと、
「うん?何か御用でしょうか?」
普通に敬語を使いながら対応する。
「お前が、サイガ・リュウキか?」
「はい、そうですが」
「ようも俺の可愛い妹を泣かせてくれたな!」
シンジは、顔を歪めながらリュウキに眼を飛ばして来る。しかし、リュウキは、動じない。
「誰の事か分かりませんが、僕はそんな事をした覚えは有りません」
「惚けるのか、先日、お前に告白して、お前が振った子だよ!」
「ああ、あの子ですか」
「そうだよ!」
「しかし、僕は彼女の告白を受けてから、丁重に断ったはずなんですが」
「ああ、そうだよ!お陰でアイツ、もう三日も学校に来てないんだぞ!」
「ですが、それは僕にどうこう出来る事ではありません」
「ああ、分かってるさ。だがな、それじゃあ、俺の気持ちが納まらないんだよ!いや、俺だけじゃねえ。ここに居る全員が、だ!」
シンジがそう言うと、シンジの後ろに居た男子生徒たちもリュウキを睨む。
「分かりました。では、後日、皆さんの妹さんに必ず謝りに行きますので、ここは、お引き取りください」
リュウキはそう言うと弁当箱を手に取り、昼食を再開しようとした。しかし、シンジは、リュウキの態度に納得いかずに怒り出した。
「てめえ!舐めんなよ!」
パシッ、カタッ
「!!」
シンジがリュウキの手から弁当箱を叩き落した。そして、
「調子こいて、こんな弁当、喰ってんじゃ、ねえぞ!」
グシャッ、グシャッ、
床に落ちた弁当を、シンジは弁当箱ごと、何とも踏みつける。すると、リュウキの雰囲気が変わった。
「!!」
それに最初に気づいたのは、ケンジだった。
「ふ〜、少しはスッキリしたぜ」
シンジは、上履きに着いた料理を払い、再度リュウキの方を向き言う。
「サイガ・リュウキ、許して欲しければ、今ここで俺たちに土下座しろ、そうすれば許して―――」
シンジの言葉がそれ以上続く事は無かった。
ガスッ、ヒュー、ガタガタ、
一瞬にして、立ち上がったリュウキの拳が、シンジの顔面を力の限り殴り飛ばした。そして、シンジは、その威力に押され、テラスに置かれていたテーブルや椅子に当たりながら吹き飛ばされる。
「なっ、なんだ!」
鼻血を出しながら、シンジがリュウキを見る。しかし、そこに居たのは、普段のリュウキでは無かった。
リュウキの瞳は、何時もの黒から琥珀色に変わり、顔の頬の所には、緑色の鱗の様な筋が出来ている。
そう、これこそが、魔物の血により、リュウキの体に残ってしまった後遺症である。
事故に会った際にリュウキに輸血をしたのは、『地上の王者』と称されているドラゴンだったのだ。そして、リュウキには、その後遺症として、ドラゴンの力の一部が体に宿した。その力はリュウキの感情により覚醒させられる。特に怒りの感情に対しては、恐ろしい程の力を発揮する。
「てめえ、よくも・・・アイツが頑張って作ってくれた弁当を!」
リュウキは、ズカズカとシンジに歩み寄って行く。
「何だこいつは!てめえら、はっ、早くやっちまえ!」
『おっ、おう!』
そして、行き成りの出来ごとに驚いていた他の男子生徒達が、シンジの声に反応してリュウキに殴り掛かろうとする。がっ、しかし、
「邪魔すんじゃねえ!」
男子生徒たちは、次々とリュウキに殴られ吹き飛んで行く。
ドスッ「げほっ!」
バシッ「おえっ!」
ベシッ「かはっ!」
そして、あっと言う間にその場に居た、男子生徒は全員が立ち上がる事すら出来なくなってしまった。
リュウキは、未だに座りこんで恐怖に怯えているシンジに近づき、シンジの胸座を掴んで持ち上げた。
「てめえ、よくも!」
「あっ・・ぁ・・」
シンジは怯えきって、何も言えなくなっていた。
「朝に弱いアイツが・・何時もとろいアイツが・・頑張って作ってくれた弁当を・・・てめえだけは・・絶対に許さねーー!」
そう言って、リュウキが拳を振り上げた時だった。
「止めなさい、リュウキくん!」
リュウキの振り上げた腕が掴まれた。そして、続いて体全体が、騒ぎを聞き付けた、学園の教師である魔物達に拘束された。
「離せ!こいつは・・こいつだけは!」
リュウキが腕を掴まれている手を振りほどこうとするが、ミノタウロスやゴーレムなどのパワー系の魔物に勝つ事は出来なかった。
「少し黙りなさい!」
ブスッ
「うっ!」
リュウキの腕にギルダブリルの針が刺さった。そして、リュウキの体は徐々に動かなく成って行く。
「くっ・・くそっ!」
リュウキはその場に倒れた。
午後のB組の教室
ルルは、昼休みに友達と告白に付いて話し合ったが、結局は良い案が出ずに終わってしまった。
「(は〜、どうしよう、告白なんて出来ないよ〜)」
もし、告白したとして、リュウキに他に好きな人が居たら、そんな事を考えるとルルは怖くて、とても告白など出来なかった。
「(私って、勇気ないな〜)」
ルルがそんな事を考えながら机にうつ伏せに成っていると、
「ねえ、聞いた、A組のサイガ・リュウキの事」
近くで話していた女子が不意にリュウキの名前を話しに出した。
「(うん?)」
気に成ったルルは、机にうつ伏せに成ったまま、耳だけを話をしている女子の方に向け聞き耳を立てる。
「聞いた、聞いた!昼休みに食堂のテラスで喧嘩したって!」
「そう、びっくりしたよね〜、しかも、相手の三年生、全員無傷で倒しちゃったらしいよ!」
「それってやばくない!」
「うん!これじゃあ、またリュウキのファンが増えるんじゃない」
「そうだね〜、知識良し、スポーツ良し、そして喧嘩が強い。パーフェクトじゃないの」
ガタッ
ルルは、リュウキの喧嘩の話を聞き教室を出た。そして、隣のA組の教室に入る。しかし、リュウキの席には誰も座って居なかった。
「あっ、ケンジくん!」
「うん?」
ルルはリュウキと仲のいいケンジを見つけ話しかける。
「リュっ、リュウキは!」
「ああ、リュウキなら、今学園長のところだよ」
「!!」
ルルが振り向き走ろうとするが、
「あっ!待て!」
ガシッ、
ケンジがルルの肩を掴んで止めた。
「離して!」
「止めとけ、アイツからの伝言だ。ルルが来たら、止めてくれって」
「えっ?」
「あいつにも、見られたくない顔が有ると思うぜ」
ケンジは真剣な目で言う。
「・・・・分かった」
ルルは黙って、教室に戻った。
学園長室
「・・・・」
リュウキは、学園長と副学園長の前に立っていた。リュウキの後ろには、担任の教師が来ている。
「貴方は授業が在るでしょ。下がりなさい」
「はっ、はい!」
担任の教師はビクビクしながら部屋を出て行く。
それもその筈、この学園の学園長は、地上の王者であるドラゴンのレイアなのだから、学園長を前にビビらないのは、リュウキかルルかレイアの夫である、副学園長のシロウ位である。そして、レイアこそ、リュウキに輸血をしたドラゴンである。無論、リュウキの後遺症の事も知っている。
「さて、じゃあシロウ、被害報告して」
「はいはい、え〜、テラスに在った、テーブルと椅子が6セット大破、本校の男子生徒、14名重傷で病院行き、1名は軽傷ですが、余の恐怖に保健室の隅で震えているそうです」
「へ〜、なかなかやったわね〜」
「そうですね」
「・・・・」
リュウキは何も答えない。
「普段温厚なアンタがそこまでするって事は、相当頭に来てたのね」
「・・・・」
「話したくないと思うけど、訳を話してみなさ」
「はい・・・」
レイアが優しくリュウキに聞くと、リュウキは有った事を在りのままに報告した。
「成るほどね〜」
「確かに、それなら俺も同じ事をすると思う」
レイアとシロウはリュウキの報告に納得して頷く。
「本当に、ご迷惑をお掛けしました」
リュウキは、深く頭を下げる。
「いいのよ、貴方は人として当然の事をしたのだから。でも、こうなった原因は貴方にも在るわ」
「はい」
「まあ、私から言える事は一つだけ、女の子の告白を断るなら、早く好きな子に告白しなさい」
「!!」
「好きなんでしょ、ルルちゃんの事」
コクッ
「女の子の心は複雑よ。あの子の告白を待ってるだけでは駄目よ」
「・・・・」
リュウキは痛い所を突かれ、何も言えなくなる。
「早くしないと、また同じ事が起きるは、何時かきっと、今度は貴方の近くの人が犠牲に成るかも知れない」
「!!・・そんな事、絶対に俺がさせません!」
リュウキは真っ直ぐにレイアの顔を見る。
「うふ、いい顔ね。じゃあ、話はここまでよ。ここからは、貴方の告白についての話をしましょ!」
ズルッ
一気に緊張の糸が切れた。
「ごめんねリュウキくん、レイアはこう言う話好きだから」
行き成り急展開であった。
「まったく、レイアさんにも困ったもんだ」
リュウキが解放されたのは放課後だった。すでに殆どの生徒は帰っており、空は怪しい雲行きになっている。
リュウキが玄関で靴を履き校門に向かうと、
「うん?」
「あっ」
そこには、ルルが立っていた。
「遅かったね」
「ああ、レイアさんと色々話してたからな」
そう言って、リュウキはルルの前を通り過ぎる。
「何やってんだ?帰るぞ」
「あっ、うん」
リュウキが言うと、ルルが横に並んだ。そして、暫く並んで歩く、
「あっ、そうだ。これっ」
不意にリュウキが鞄からボロボロの弁当箱を取り出した。
「・・・・」
「すまん、喧嘩してる時に相手に踏まれ壊れてしまった。本当にすまん」
「えっ!あっ!いいよ、リュウキが謝る事じゃないから」
「そうか、・・・弁当、半分しか食べてなかったけど、美味しかったよ。また、作ってくれ」
「うっうん、また作ってあげる」
そして、また、暫く並んで無言で歩く。
「リュ、リュウキ!」
今度はルルが不意にリュウキに話しかけた。
「帰りに、寄りたい所が有るんだけど・・良いかな?」
「うん?良いけど、雨が降りそうだからな、早くしろよ」
「うっ、うん、じゃあ、行こう。あの場所に」
ルルがリュウキの前を歩き、リュウキはそれに着いて行く。そして、辿り付いたのは、
「ここは・・・」
そこは、リュウキとルルが子どもの頃によく行った町の高台に在る思い出の公園だった。そして、リュウキの背中に在る傷痕が出来た場所でもある。
「何年ぶりかな、ここに来るの」
「何年ぶりだろうな、忘れてしまったな」
二人は、事故が有ってからはここには来なかった。ルルが事故の事を思い出してしまうからだ。
「ここで、色々とやったね」
「ああ、あの木に登ったり」
「私が降りられなくなって、リュウキが下で受け止めてくれたんだよね」
「何人かで追いかけっこしたり」
「私が遅いから、リュウキがわざと掴まってくれたんだよね」
「あっ、気づいてたのか」
「リュウキが私に捕まる筈がないもん」
「あはは、確かに」
そして、二人は昔の光景を思い出しながら周りを見る。
「それで」
ルルが近くに在った木の切株の近くに行く。リュウキもそれに着いて行く。
「ここだったよね。リュウキが私を庇ってくれたのは」
「ああ、そうだな」
ガバッ
突然、ルルが振り向いたと思うとリュウキに抱き付いて来た。
「ルル?」
「あのね。今日ここに来たのは、リュウキに大事な話が有ったからなの」
「・・・・」
「ずっと言えなかったけど、後悔したくないから、言うね」
「なんだ?」
「私は・・私はあの日から・・・リュウキが私を守ってくらた、あの日から・・私は、サイガ・リュウキの事が、大好きでした!」
それは、ルルが何年も言えなかった言葉だった。そして、ルルがその言葉を言い終わると、
スッ
「ありがとう、ルル」
リュウキの両手がルルを温める様に抱き締めた。
「じゃあ、俺も恥ずかしくて言えなかった事を言うよ」
灰色の空から、雨粒が降り始めた。
リュウキは体からルルを離し、ルルと向き合う。そして、
「俺も、ルルの事が大好きだよ」
チュッ
「んんっ!」
リュウキはルルを抱きしめ、唇を重ねた。ルルは行き成りの事で驚いたが、目を瞑り、それを受け止める。
ルルの目から涙が零れ、雨と一緒に地面に落ちた。
二人は、暫くの間、雨の降る公園でキスを交わした。
リュウキとルルがキスを終わるころには、雨は本格的に降り始め、二人はズボ濡れに成りながら帰り、お風呂で冷えた体を温めた。無論、別々に、
ピリリリリリッ
「うん?」
リュウキが風呂から上がり頭を拭いていると、家の電話が鳴りだした。
カチャ、
「はい、サイガですが」
「おお、リュウキか?」
「あっ、父さんか、如何したの?」
「ああ、実はな―――」
「ふ〜、さっぱりした〜」
リュウキが居間でソファーに座りテレビを見ていると、ルルが風呂から出て来た。
「リュウキ、さっき電話鳴ってなかった?」
「ああ」
「誰から?」
「父さん」
「おじさん?何て?」
「この大雨で、二人とも帰って来れないって」
「へ〜〜」
ルルはリュウキの横に座る。
「「・・・・・」」
二人に会話は無い。
リュウキの頭の中
「(どうする!これはチャンスなのか!いやしかし、まだ性的行為は早いよな!ルルを押し倒す様な事はしたくないし!)」
ルルの頭の中
「(どっ、どうしよう!リュウキも好きって言ってくれたし、でも、焦って行って淫乱な女とは思われたくないし!)」
「「(どうすれば)」」
ルルもリュウキも、お互いの気持ちが分かってしまったが故に、何時もの様に居られなくなっていた。
「あっ、そうだ」
先に動いたのはルルだった。
「ご飯の準備しないと、リュウキはここでテレビ見てて」
「あっ、おお」
ルルはそう言うとキッチンに向かう。
暫くして、料理は出来あがり、リュウキ達はそれを食べた。夕食はルル特製のシチューだった。
「(何を入れたのか分からないけど、何時ものクリームシチューより美味しかったな)」
そんな事を考えながら、リュウキは自分の部屋で宿題をする。だが、
「はぁ・・はぁ・・なんだ?体が熱い」
リュウキの体は処々に熱く成り始めた。
「熱でも在るのかな、明日は休みだし、今日は早めに休むか」
リュウキは宿題を止め、ベッドに潜り込む。そして、電気を消し、寝ようとするが、
「熱い!」
体が火照って寝られない。すると、
ムクッ
リュウキの逸物が立ち上がった。
「(なんだ!エロい事は考えてないのに)」
と、リュウキが布団の中で悪戦苦闘していると、
キーー
部屋の扉が開いた。
「リュウキ、起きてる?」
入って来たのは、勿論ルルだった。
「いっ、いや、まだだ」
リュウキは横に成ったまま、ルルに背中を向けた。
「そっか〜」
バフッ
「え?」
行き成り、ルルがリュウキの布団に入って来た。そして、
ムニッ
リュウキの背中に抱き付き自分の胸を強く押しつけて来た。
「るっ、ルル、如何したんだ?」
「リュウキは頭いいから分かるでしょ〜」
ルルはそう言うと、抱き付いていた手をリュウキの逸物の方に移動させた。
「あは、もうこんなに成って〜」
「ちっ、違うんだ。何か今日はおかしくて!」
「そうだね〜。おかしいね〜」
そこでリュウキは気づく。
「はっ、ルル、夕飯に何か入れたな!」
「うん、私のミルクを多めにね」
ルルは、そう言うと布団を跳ね除けリュウキのマウントポジションに着いた。ルルはすでに裸だった。
「ルル?」
「ずっと、我慢してたんだけど、もう、限界なの。こんなのは良くないって思って、他の方法も考えたんだけど、考えれば考える程、分かんなくなっちゃって、ごめんね〜」
何年もの間、溜まりに溜まったルルの性欲は、すでに限界を迎えていたのである。
「いいよね?」
ルルは抑えきれない気持ちの中でリュウキに了解を求める。
「ふっ、ああ、どうせこのままじゃ寝れやしないからな。ただし、」
ガバッ
「きゃっ!」
リュウキは体を回転させルルをベッドに寝かせると一瞬にして服を脱ぎ、ルルのマウントポジションに着いた。
「攻めるのは、俺の方だ」
「うん、いいよ。来て」
そう言うと、リュウキは逸物をルルの秘部に宛がう。
「行くぞ」
「うん」
そして、少しずつ入れて行く。
「んっ、んんっ!」
「怖いか?」
「うん、少し怖いけど、大丈夫、でも、優しくね」
「ああ」
リュウキは更に奥に逸物を入れる。
「んっ!あっ!ああぁ!」
「くっ!」
リュウキの逸物が一番奥まで入った。
「はあっ!はあっ!はっ、入った?」
「ああ、動くぞ」
「うっ、うん」
リュウキとルルは両手の掌と掌を合わせる。そして、リュウキが腰を前後させる。
「あっ!はぁっ、んっ、あっ!おっ・・・奥に当たってる!」
「はっ、はっ、ふっ!くっ!どうだ!・・気持ち・・良いか?」
「うっ、うん!いいよ、すごく!」
「そうかっ!よかった!はぁ!はぁ!」
リュウキはそう言うとテンポを速める。
「あっ!いいっ!だめっ!イキそう!」
「俺も!もう・・・イキそう・・だ!」
「いいよ!・・・一緒に・・イこう!」
「ああ、分かった!・・一緒に!」
リュウキは更にテンポを速める。
「あんっ、あんっ、イクッ!イッちゃう!」
「俺も、イクぞ!」
「来て!ルルの中に!・・リュウキの精子・・いっぱい出して!」
「くっ!でっ、出る!出るぞーー!」
ドプッ!!ドピュッ!!ドクッ、ドクッ!!
勢い良くリュウキは、ルルの中に射精した。
「はぁー!はぁー!」
「ふー、ひー!ふー、ひー!」
二人は息を整えながら横に成る。
「気持ち、よかったね〜」
「ふっ、そうだな」
「ずっと、・・こうなるのを望んでたの」
「そうか、よかったな」
「うん、よかった〜。んんっ」
「うんんっ!」
ルルがリュウキに抱き付きキスをする。
「夕方に、あんなにキスしたのに、まだ足りないのか?」
「うん!リュウキとなら、何回やっても飽きないよ〜」
「そうか」
そうして、二人がキスを交わしていると、
ムクッ
「あっ!」
「えっ?」
リュウキの逸物が硬くなった。
「あっ!そう言えば、」
「如何したの」
「喧嘩を止められた時、理科のギルダ先生に刺されたんだった」
「ああ、なるほど、じゃあ、何とかしないとね〜」
「付き合ってくれるか?」
「勿論だよ〜」
その後、二人は疲れて眠るまで交わり続けた。
数日後、
「はい、リュウキ、あーん」
「あっ、あーん!」
そこには、学食のテラスで弁当の食べさせ合いをしているリュウキとルルの姿が在った。
「リュウキ、美味しい?」
「あっ、ああ、美味しいよ」
「えへへ、よかった〜」
ルルは無邪気に笑っているが、リュウキはそれどころでは無かった。
「(周りの視線が痛い!)」
今、リュウキ達は、二人が付き合っていると言う事をアピールしているのだ。お陰で、リュウキに告白して来る女子は居なくなった。そこまでは良かったのだが、
ジーーーッ
今は男子の視線が痛い。
実は、学園内ではルルを狙って居た男子生徒も多かったのだ。
「(ルルさ〜ん、好きだったのに〜)」
「(早く告白していれば、躊躇っていた俺がバカだった!)」
「(くそっ!勉強でも勝てない、スポーツでも勝てない、喧嘩でも勝てる気がしない!)」
男子たちは遠目に二人を見る事しか出来ない。
「あんたら、仲良しやね」
二人のテーブルにラミアとワーキャット、そしてケンジが来る。
「うん♪だって、私たち付き合ってるんだもん」
ルルが自信満々に言う。
「いいな〜、俺も彼女欲し〜い」
「私が居るでしょうが!」
ケンジにワーキャットが噛みつく。
「いでででっ!」
聞いた話によると、あの雨の日に何か有って、ケンジたちは付き合いだしたそうだ。まあ、それは、また別の話で、
「じゃあ、二人のお付き合い記念に写真を一枚」
ラミアがデジカメを取り出し構える。
「リュウキ、リュウキ」
ルルが肩を突く。
「うん?」
そして、リュウキがルルの方を向いた瞬間、
チュッ
ルルがリュウキにキスをした。
カシャッ
そして、写真にはそれが堂々と映った。
数年後
そこには、二人でソファーに座りアルバムを見るリュウキとルルが居た。
学園を出た後、二人は生涯を共に過ごすと二人の両親に言った。二人は、反対の言葉が有る事を覚悟していたが、
「おお、やっとか」
二人の両親の言葉はそれだけだった。そして、そこで二人は両親たちの思惑を知った。
元々、二人の両親は、二人が結ばれる事を望んでいたのだ。その理由は二人の両親が経営している二社の繋がりを造る事だった。
今では、二社は一つと成り、大会社に成っている。
リュウキはその後継ぎに成る為、日々成長している。そして、それを支えるのがルルの役目である。
「色々有ったね〜」
「ああ、そうだな」
ルルは見ていたアルバムを閉じる。
「そろそろ、決めないとね〜」
「何を?」
「も〜、この子の名前〜」
ルルは大きくなったお腹を撫でる。
「あはは、ごめん、ごめん」
それは二人の間に出来た新たな命だった。
「う〜ん、何が良いかな〜」
ルルは必死に考える。
「余無理をするなよ、お前は考えるのが苦手なんだから」
「あ〜、ひどい〜・・・うふふ」
「あはは」
すると、リュウキがルルの左手に自分の左手を重ねた。そこには結婚指輪が光る。
「・・・ねえ、リュウキ」
「なんだ」
「あの言葉、・・・言ってくれる?」
「ああ、わかった・・・大好きだよ」
「うん、・・・私も大好きだよ」
そして、二人はキスを交わした。
END
チュンチュン
そして、ここは、その町に在る、一軒の家の一室。そこには、ベッドの上で上下する布団が一枚。
「Zzz、Zzz」
カチッ、カチッ、
枕元に置かれた時計は、もうすぐ朝の7時に成ろうとしていた。そして、時計の秒針が真上に来そうに成った瞬間、
ピキン、ガバッ、
布団が跳ね除けられ、
ピピッ、カチッ、
そこから出て来た者が鳴り始めの時計を止めた。
「ふぁーー、うーーーん、よく寝た」
布団から出て来たのは、この家に住む青年、サイガ・リュウキ、十七歳、この家で父と母と同居人の四人で暮らしている。
リュウキは、欠伸をして、続いて背伸びをして枕元に置いていたメガネを掛けて、自分の部屋を出た。そして、自分の部屋の扉の横に在る、もう一つの扉に視線を向ける。
「まだ早いし、もう少し寝かせてやるか」
そう言って、リュウキは階段を下り、顔を洗った後、キッチンに行く。すると、
「あっ、リュウキ、おはよう〜」
そこには、この家の同居人である、ホルスタウロスのルルが居た。
「珍しいな、ルルが俺より先に起きてるなんて」
「うっ、うん!今日は何か目が覚めちゃって」
「ふ〜ん」
ホルスタウロスのルルは、基本的に朝に弱い。その為、朝はリュウキが起こさないと中々起きない。
「え〜と、あっ!朝ご飯出来てるよ、食べる?」
「ああ、じゃあ貰うよ」
「うん♪」
リュウキは椅子に座り、ルルはご飯を装う。テーブルには、朝食にピッタリの料理が並んでいる。
そして、ルルは装ったご飯をリュウキに渡す。
「はい」
「ありがとう。じゃあ、いただきます」
「いただきま〜す」
そうして、二人で朝食を摂り始める。
「うん?今日の朝食は、ルルが作ったのか?」
リュウキは何時母が作っている物と違う味付けに気づきルルに聞く。
「うん、美味しく・・無かったかな?」
「いや、美味いよ」
「は〜、良かった♪」
ルルは安堵し、食事を続ける。
「そう言えば、おじさんとおばさんは?私が起きた時はもう居なかったけど」
「今日は、朝一で会議だって、昨日言ってた」
「そっか」
「だから朝食は、俺が早く起きて作る予定だったんだけど」
「あぁ〜、ごめんね〜」
シュン(耳がションボリと垂れ下がる)
ルルはリュウキに無駄な早起きをさせてしまった事を謝る。
「謝らなくて良いよ。お陰で料理の手間が省けた」
「うっ、うん!」
ルルは少し赤くなりながら喜ぶ。
「そう言えば、昨日はお父さんとお母さんから連絡が有ったんだよ!」
ルルは話を逸らすかのように別の話題を出す。
「そうなのか?何時頃帰って来るとか言ってたか?」
ルルの両親は外国に赴任をしており、赴任する時、ルルは一人この国に残った。その際、ルルの両親と仲の良かった、リュウキの両親がルルをこの家で預かる事にしたのだ。
「まだ仕事が忙しいみたい、年末には一度帰って来るって言ってた」
「そうか。早く帰って来ると良いな」
「そう・・だね。うん」
ルルは少し暗くなった。だが、リュウキはそれに気づかなかった。
「お代わり」
「あっ、はい」
リュウキは空の茶碗をルルに差し出した。そして、ルルがそれを受け取ろうとした瞬間、
ポロッ、カシャン、
「「あっ」」
ルルの手から茶碗が落ち、下に在ったお茶の入ったコップを倒した。そして、
ピシャッ、
コップはリュウキの方に倒れ、コップの中に在ったお茶がリュウキの寝間着に掛かった。
「つめてっ!」
「ごっ、ごめんなさい!」
ルルは急いで布巾を持って来て、リュウキの服を拭く。
「リュウキ、ごめんね〜」
「良いよ。どうせ今日洗いに出そうと思ってたとこだから」
そう言ってリュウキは上の服を脱ぎ始める。
「じゃあ、直ぐに洗うから、それ貸して」
「ああ」
そして、リュウキが着ていた服の上を脱ぐ。しかし、そこで、
「あっ!」
ルルは、リュウキの背中に在る、大きな傷痕が目に留まった。
「!!」
リュウキも傷を見られた事に気づき直ぐに隠す。
「ホントに・・ごめんね」
ルルが俯いて、泣きそうに成りながらもう一度謝る。
リュウキの背中に在る傷は、まだリュウキ達が子どもの頃、事故に在った際、リュウキがルルを庇って出来た物だ。その時リュウキは、体から大量の血を失い、とても危険な状態に成った。しかし、通りかかった魔物に輸血をしてもらい、そのお陰で何とか命を繋ぎ止める事が出来た。
だが、本来魔物の血が人間に適合する事が無い為、その後の処置で傷は治ったものの体に後遺症は残ってしまった。
その一件が在ってから、ルルはこの傷を見ると泣きそうになりながら謝る様になった。
「何時も言ってるだろ、謝らなくて良いよ」
リュウキはそう言ってルルの頭を優しく撫でる。こうするとルルは大体泣きやむ。
「グスッ・・・うん!」
ルルは涙を拭き笑顔に戻る。
その後、リュウキは服を着替え、二人で食事を再開する。
朝食が終わると二人は制服に着替え、学校に行く準備をする。
「さて、そろそろ行こうかな」
そう言って、リュウキが玄関で靴を履いていると、
「ねえ、リュウキ」
「うん?」
後ろからルルが声を掛けて来た。
「お昼ごはんは、どうするの?」
「学食で食べようと思ってるけど、それがどうかしたか?」
「えへへ〜、はい♪」
「えっ?」
不意にルルが包みを出した。
「じゃ〜ん、ルル特製の手作り弁当〜」
ルルが出したのは、大きめのハンカチに包まれた弁当だった。
「もしかして、これを作る為に早起きしたのか?」
「うん♪すっごく眠かったけど、頑張ったんだから、残したりしたら嫌だよ!」
「ふっ、了解。わざわざ、すまないな」
「えへへ」
ルルはリュウキに弁当を渡し、もう一度笑う。
二人の通う学校は、『私立天門学園』、この学園は、人と魔物が共に勉学に励む場所である。故に、学園の男女比率は3:7(男:女)と言った感じである。勿論、学園内での恋愛は認められているが、それ以上の行動は認められていない。出来てもキスまで、
リュウキ達は、学園への道を二人は並んで歩いていた。否、走っていた。
「はぁ、はぁ、どうして、こんな事に」
「それは、はぁ、お前が、三連続で、はぁ、忘れ物するからだろ!」
リュウキ達は余裕を持って家を出たが、ルルが道の途中で忘れ物をしたのを思い出し、それを取りに帰って居た結果が現状である。
「うう、ごめんなさい」
「泣くのは後にして走れ!」
そう言って二人は全力で走る。
ガタッ、ドスッ、
「はぁー!はぁー!間に合ったけど、わりと余裕だったな!」
リュウキは肩で息をしながら教室の自分の席に付く。予鈴までは後十五分は有る。
因みに、リュウキはA組だが、ルルは隣のB組だ。
そして、リュウキが息を整えていると、
「あああーーーー!」
隣の教室からルルの悲鳴が聞こえて来た。
「嫌な予感と言うか、何時ものパターンと言うか」
ルルの悲鳴から三十秒後、
ガラッ
A組の教室の扉が開き、ルルがリュウキの許に来た。そして、
「うう、リュウキ〜、宿題見せて〜」
涙目に成りながら白紙のプリントを見せて来た。
「は〜、また忘れたのか」
「うん」
「確か俺たちの数学は二時間目だったな」
「私たちは一時間目」
「一時間目の休み時間までに返せよ」
そう言ってリュウキは鞄から自分のプリントを出し、ルルに渡す。
「何時もごめんね〜」
ホルスタウロスは基本的に深く考えるのが苦手な為、残りの十分くらいで、ルルに数学させるのは無理がある。
そして、ルルが出て行くと、リュウキは大きな溜め息を吐く。すると、近くに居た、リュウキの友達であるケンジが話しかけて来た。
「相変らず、リュウキはあいつに優しいな〜」
「うるさいよ」
「わりいわりい、とっ言う事で、優しいリュウキさん!俺にも宿題、見せてください!」
「ふ〜、貸しだからな」
リュウキにプリントを借り、教室に戻ったルルは、
カリカリ
一生懸命、リュウキのプリントを写していた。
すると、近くに居たラミアとワーキャットが話しかけて来た。
「あっ、ルルちん、また宿題忘れたのかにゃ?」
「うん、昨日は色々と有ってね〜」
「じゃあ、またリュウキに借りたのかい」
「うん、何時もの様に。リュウキは私より頭いいから」
「確か、一年の時からずっと、テストは学年一位だったものねえ」
「にゃはは、おまけにリュウキくんは、優しいからにゃ〜」
「うん」
「それに比べてルルちんは、」
「テストの結果表は、上より下から数えた方が早いからね」
「うう、言い返せない」
「でも良いにゃ〜、頼れる彼氏が居て」
「かっ、彼氏なんて、そんな・・」
ルルは、赤く成りながら俯く。
「ありゃ?違ったのかにゃ?」
「傍から見ると、そうにしか見えないけど」
「たっ、確かに、リュウキの事は好きだけど、私じゃあ・・その・・釣り合わないし・・」
ルルは、少し落ち込む。
「ふーん、でも好きなんでしょ」
コクッ
ルルは一度頷く。
「じゃあ、そんなルルちんに良い情報を上げよう」
「え?」
「最近、何人かの女子がリュウキくんを狙ってるらしいよ。」
「ええっ!ホント!」
「うん、噂では、すでに何人かの女子が告白して振られたって!」
「だから、もしルルもリュウキを狙ってるなら、早くした方が良いってことよ」
「早くしないと、他の女の子に取られちゃうかもよ〜」
「リュウキは、勉強出来るし、スポーツも出来るし、カッコイイからね〜」
「でっ、でも、私、告白なんかしたこと無いし」
ルルがしょんぼりと肩を落とす。
「う〜ん、あっ、じゃあ、今日の昼休みに屋上で作戦会議しよ!名付けて、『ルルちんの告白を成功させよう作戦』!」
「ええっ!」
「いいねえ。それじゃあ、後何人か誘うとしますか」
「いいよ〜、そんなことしてくれなくても〜!」
ルルは遠慮しようとするが、
「いいから、いいから、私たちに任せて、にゃははは!」
「そうそう、私たちに任せなさい!」
話しだした二人は止まらなかった。
キーン、コーン、カーン、コーン、
そして、ルル達がそんな話をしていると、予鈴が鳴った。
そして、昼休み。
「おわった〜、リュウキ、今日は学食か?」
リュウキにケンジが話しかけて来る。
「いや、今日は弁当だ」
そう言ってリュウキは、鞄から弁当箱を出す。
「なんだよ。今日はルルちゃんの愛妻弁当かよ〜」
「まあな」
「俺なんか母ちゃんの弁当なのに、この!羨ましいぞ!」
「ふっ、千円でどうだ?」
「マジか!」
「ふふっ、冗談だよ。ルルが折角作ってくれたんだ、そんな事はしないよ」
「あ〜、何だこの凄まじい敗北感は〜!」
「ふっ、じゃあな」
そう言ってリュウキは席を立つ。
「あれ?何処行くの?」
「どうせならルルを誘って食べようかと思ってな」
「へっ、リヤ充が!」
「うるさいよ」
そして、リュウキはルルを昼食に誘う為、B組に向かう。すると、教室を出たところでルルに会った。
「あっ、リュウキ」
「おう、丁度いいや、どうだ、一緒にご飯食べないか?」
リュウキが早速、ルルを誘おうとするが、
「ごめん、今日は友達と食べよって事になってるの〜」
ルルが済まなそうに言う。
「そうか」
「ホントにごめんね〜(うう、折角リュウキが誘ってくれたのに)」
「お〜い、ルルちん、早くいこ〜」
二人が話していると、ルルの後ろからワーキャットがルルを呼ぶ。
「うん。じゃあ、また今度誘ってね」
「あっ、ああ、じゃあ、また今度」
そして、ルルは友達の方へ走って行く。すると、リュウキの後ろからケンジが話しかけて来た。
「振られたな」
「うるさい」
「あはは、じゃあ、こっちも男同士で飯にするか」
「ああ」
「何処で喰う?」
「天気が良いから、食堂のテラスで食べようか」
「おっ、いいね〜」
そう言って、二人は学食の方に向かう。
一方、リュウキと別れたルルは、
「もしかして、お邪魔でしたか〜、ぐふふ」
「えっ、そんな事無いよ」
「うふふ、アンタは直ぐに顔に出るから分かりやすいんだよ」
「あう〜」
友達に弄られていた。
「どこがいいかな〜」
食堂のテラスに着いたリュウキ達は、自分たちの座る席を探していた。
「あそこが空いてる」
「あっ、ホントだ」
そう言って二人はテラスの端の方に在る席に座る。
「よし、じゃあ、頂くとするか」
「ああ」
そして、二人は自分の弁当箱を開ける。ケンジの弁当はボリューム重視の弁当、それに対して、リュウキの弁当は栄養バランスを考えて作られた弁当だった。
「うわっ、なんだその弁当、すげ〜うまそうじゃん!」
「まあな、お前の弁当も中々じゃないか」
「嫌みか〜、殆ど昨日の残り物だよ」
「ははっ、ごめん、ごめん、それじゃ。食べるとするか」
「おう!」
そして、二人は弁当を食べ始める。
パクッ、モグモグ、
「(うん、美味しいな。量は普通だが俺には丁度いい)」
ケンジは弁当をガツガツと食べ、リュウキは一つ一つ味わって食べていた。すると、
ゾロゾロ、
行き成りテラスに十五人程度の男子生徒の一団が出て来た。そして、その一団は、端の方で食事をしているリュウキ達の方へと真っ直ぐに歩いて来る。
「(おい、あれ!)」
「(関わるとロクな事に成らねえぞ)」
「(逃げろ、逃げろ)」
一団に気づいた、テラスに居た生徒たちは、次々と逃げる様に席を離れていった。気づいていないのは、一団に背中を向けて弁当を食べているリュウキと、弁当に夢中になっているケンジだけだ。
ゾロゾロ、ピタッ、
一団は、リュウキの後ろで止まる。そして、やっとの事でリュウキ達は一団の接近に気付いた。
「(げっ、三年のシンジじゃねえか!なんで、ここに!)」
ケンジは、一団の先頭に居る男、学園の不良のまとめ役である、キジ・シンジを見た途端に縮こまる。
キジ・シンジは、大して強くないが、不良の指揮官的存在なので、学園でよく威張り散らしている嫌な奴だ。
一方、リュウキはと言うと、
「うん?何か御用でしょうか?」
普通に敬語を使いながら対応する。
「お前が、サイガ・リュウキか?」
「はい、そうですが」
「ようも俺の可愛い妹を泣かせてくれたな!」
シンジは、顔を歪めながらリュウキに眼を飛ばして来る。しかし、リュウキは、動じない。
「誰の事か分かりませんが、僕はそんな事をした覚えは有りません」
「惚けるのか、先日、お前に告白して、お前が振った子だよ!」
「ああ、あの子ですか」
「そうだよ!」
「しかし、僕は彼女の告白を受けてから、丁重に断ったはずなんですが」
「ああ、そうだよ!お陰でアイツ、もう三日も学校に来てないんだぞ!」
「ですが、それは僕にどうこう出来る事ではありません」
「ああ、分かってるさ。だがな、それじゃあ、俺の気持ちが納まらないんだよ!いや、俺だけじゃねえ。ここに居る全員が、だ!」
シンジがそう言うと、シンジの後ろに居た男子生徒たちもリュウキを睨む。
「分かりました。では、後日、皆さんの妹さんに必ず謝りに行きますので、ここは、お引き取りください」
リュウキはそう言うと弁当箱を手に取り、昼食を再開しようとした。しかし、シンジは、リュウキの態度に納得いかずに怒り出した。
「てめえ!舐めんなよ!」
パシッ、カタッ
「!!」
シンジがリュウキの手から弁当箱を叩き落した。そして、
「調子こいて、こんな弁当、喰ってんじゃ、ねえぞ!」
グシャッ、グシャッ、
床に落ちた弁当を、シンジは弁当箱ごと、何とも踏みつける。すると、リュウキの雰囲気が変わった。
「!!」
それに最初に気づいたのは、ケンジだった。
「ふ〜、少しはスッキリしたぜ」
シンジは、上履きに着いた料理を払い、再度リュウキの方を向き言う。
「サイガ・リュウキ、許して欲しければ、今ここで俺たちに土下座しろ、そうすれば許して―――」
シンジの言葉がそれ以上続く事は無かった。
ガスッ、ヒュー、ガタガタ、
一瞬にして、立ち上がったリュウキの拳が、シンジの顔面を力の限り殴り飛ばした。そして、シンジは、その威力に押され、テラスに置かれていたテーブルや椅子に当たりながら吹き飛ばされる。
「なっ、なんだ!」
鼻血を出しながら、シンジがリュウキを見る。しかし、そこに居たのは、普段のリュウキでは無かった。
リュウキの瞳は、何時もの黒から琥珀色に変わり、顔の頬の所には、緑色の鱗の様な筋が出来ている。
そう、これこそが、魔物の血により、リュウキの体に残ってしまった後遺症である。
事故に会った際にリュウキに輸血をしたのは、『地上の王者』と称されているドラゴンだったのだ。そして、リュウキには、その後遺症として、ドラゴンの力の一部が体に宿した。その力はリュウキの感情により覚醒させられる。特に怒りの感情に対しては、恐ろしい程の力を発揮する。
「てめえ、よくも・・・アイツが頑張って作ってくれた弁当を!」
リュウキは、ズカズカとシンジに歩み寄って行く。
「何だこいつは!てめえら、はっ、早くやっちまえ!」
『おっ、おう!』
そして、行き成りの出来ごとに驚いていた他の男子生徒達が、シンジの声に反応してリュウキに殴り掛かろうとする。がっ、しかし、
「邪魔すんじゃねえ!」
男子生徒たちは、次々とリュウキに殴られ吹き飛んで行く。
ドスッ「げほっ!」
バシッ「おえっ!」
ベシッ「かはっ!」
そして、あっと言う間にその場に居た、男子生徒は全員が立ち上がる事すら出来なくなってしまった。
リュウキは、未だに座りこんで恐怖に怯えているシンジに近づき、シンジの胸座を掴んで持ち上げた。
「てめえ、よくも!」
「あっ・・ぁ・・」
シンジは怯えきって、何も言えなくなっていた。
「朝に弱いアイツが・・何時もとろいアイツが・・頑張って作ってくれた弁当を・・・てめえだけは・・絶対に許さねーー!」
そう言って、リュウキが拳を振り上げた時だった。
「止めなさい、リュウキくん!」
リュウキの振り上げた腕が掴まれた。そして、続いて体全体が、騒ぎを聞き付けた、学園の教師である魔物達に拘束された。
「離せ!こいつは・・こいつだけは!」
リュウキが腕を掴まれている手を振りほどこうとするが、ミノタウロスやゴーレムなどのパワー系の魔物に勝つ事は出来なかった。
「少し黙りなさい!」
ブスッ
「うっ!」
リュウキの腕にギルダブリルの針が刺さった。そして、リュウキの体は徐々に動かなく成って行く。
「くっ・・くそっ!」
リュウキはその場に倒れた。
午後のB組の教室
ルルは、昼休みに友達と告白に付いて話し合ったが、結局は良い案が出ずに終わってしまった。
「(は〜、どうしよう、告白なんて出来ないよ〜)」
もし、告白したとして、リュウキに他に好きな人が居たら、そんな事を考えるとルルは怖くて、とても告白など出来なかった。
「(私って、勇気ないな〜)」
ルルがそんな事を考えながら机にうつ伏せに成っていると、
「ねえ、聞いた、A組のサイガ・リュウキの事」
近くで話していた女子が不意にリュウキの名前を話しに出した。
「(うん?)」
気に成ったルルは、机にうつ伏せに成ったまま、耳だけを話をしている女子の方に向け聞き耳を立てる。
「聞いた、聞いた!昼休みに食堂のテラスで喧嘩したって!」
「そう、びっくりしたよね〜、しかも、相手の三年生、全員無傷で倒しちゃったらしいよ!」
「それってやばくない!」
「うん!これじゃあ、またリュウキのファンが増えるんじゃない」
「そうだね〜、知識良し、スポーツ良し、そして喧嘩が強い。パーフェクトじゃないの」
ガタッ
ルルは、リュウキの喧嘩の話を聞き教室を出た。そして、隣のA組の教室に入る。しかし、リュウキの席には誰も座って居なかった。
「あっ、ケンジくん!」
「うん?」
ルルはリュウキと仲のいいケンジを見つけ話しかける。
「リュっ、リュウキは!」
「ああ、リュウキなら、今学園長のところだよ」
「!!」
ルルが振り向き走ろうとするが、
「あっ!待て!」
ガシッ、
ケンジがルルの肩を掴んで止めた。
「離して!」
「止めとけ、アイツからの伝言だ。ルルが来たら、止めてくれって」
「えっ?」
「あいつにも、見られたくない顔が有ると思うぜ」
ケンジは真剣な目で言う。
「・・・・分かった」
ルルは黙って、教室に戻った。
学園長室
「・・・・」
リュウキは、学園長と副学園長の前に立っていた。リュウキの後ろには、担任の教師が来ている。
「貴方は授業が在るでしょ。下がりなさい」
「はっ、はい!」
担任の教師はビクビクしながら部屋を出て行く。
それもその筈、この学園の学園長は、地上の王者であるドラゴンのレイアなのだから、学園長を前にビビらないのは、リュウキかルルかレイアの夫である、副学園長のシロウ位である。そして、レイアこそ、リュウキに輸血をしたドラゴンである。無論、リュウキの後遺症の事も知っている。
「さて、じゃあシロウ、被害報告して」
「はいはい、え〜、テラスに在った、テーブルと椅子が6セット大破、本校の男子生徒、14名重傷で病院行き、1名は軽傷ですが、余の恐怖に保健室の隅で震えているそうです」
「へ〜、なかなかやったわね〜」
「そうですね」
「・・・・」
リュウキは何も答えない。
「普段温厚なアンタがそこまでするって事は、相当頭に来てたのね」
「・・・・」
「話したくないと思うけど、訳を話してみなさ」
「はい・・・」
レイアが優しくリュウキに聞くと、リュウキは有った事を在りのままに報告した。
「成るほどね〜」
「確かに、それなら俺も同じ事をすると思う」
レイアとシロウはリュウキの報告に納得して頷く。
「本当に、ご迷惑をお掛けしました」
リュウキは、深く頭を下げる。
「いいのよ、貴方は人として当然の事をしたのだから。でも、こうなった原因は貴方にも在るわ」
「はい」
「まあ、私から言える事は一つだけ、女の子の告白を断るなら、早く好きな子に告白しなさい」
「!!」
「好きなんでしょ、ルルちゃんの事」
コクッ
「女の子の心は複雑よ。あの子の告白を待ってるだけでは駄目よ」
「・・・・」
リュウキは痛い所を突かれ、何も言えなくなる。
「早くしないと、また同じ事が起きるは、何時かきっと、今度は貴方の近くの人が犠牲に成るかも知れない」
「!!・・そんな事、絶対に俺がさせません!」
リュウキは真っ直ぐにレイアの顔を見る。
「うふ、いい顔ね。じゃあ、話はここまでよ。ここからは、貴方の告白についての話をしましょ!」
ズルッ
一気に緊張の糸が切れた。
「ごめんねリュウキくん、レイアはこう言う話好きだから」
行き成り急展開であった。
「まったく、レイアさんにも困ったもんだ」
リュウキが解放されたのは放課後だった。すでに殆どの生徒は帰っており、空は怪しい雲行きになっている。
リュウキが玄関で靴を履き校門に向かうと、
「うん?」
「あっ」
そこには、ルルが立っていた。
「遅かったね」
「ああ、レイアさんと色々話してたからな」
そう言って、リュウキはルルの前を通り過ぎる。
「何やってんだ?帰るぞ」
「あっ、うん」
リュウキが言うと、ルルが横に並んだ。そして、暫く並んで歩く、
「あっ、そうだ。これっ」
不意にリュウキが鞄からボロボロの弁当箱を取り出した。
「・・・・」
「すまん、喧嘩してる時に相手に踏まれ壊れてしまった。本当にすまん」
「えっ!あっ!いいよ、リュウキが謝る事じゃないから」
「そうか、・・・弁当、半分しか食べてなかったけど、美味しかったよ。また、作ってくれ」
「うっうん、また作ってあげる」
そして、また、暫く並んで無言で歩く。
「リュ、リュウキ!」
今度はルルが不意にリュウキに話しかけた。
「帰りに、寄りたい所が有るんだけど・・良いかな?」
「うん?良いけど、雨が降りそうだからな、早くしろよ」
「うっ、うん、じゃあ、行こう。あの場所に」
ルルがリュウキの前を歩き、リュウキはそれに着いて行く。そして、辿り付いたのは、
「ここは・・・」
そこは、リュウキとルルが子どもの頃によく行った町の高台に在る思い出の公園だった。そして、リュウキの背中に在る傷痕が出来た場所でもある。
「何年ぶりかな、ここに来るの」
「何年ぶりだろうな、忘れてしまったな」
二人は、事故が有ってからはここには来なかった。ルルが事故の事を思い出してしまうからだ。
「ここで、色々とやったね」
「ああ、あの木に登ったり」
「私が降りられなくなって、リュウキが下で受け止めてくれたんだよね」
「何人かで追いかけっこしたり」
「私が遅いから、リュウキがわざと掴まってくれたんだよね」
「あっ、気づいてたのか」
「リュウキが私に捕まる筈がないもん」
「あはは、確かに」
そして、二人は昔の光景を思い出しながら周りを見る。
「それで」
ルルが近くに在った木の切株の近くに行く。リュウキもそれに着いて行く。
「ここだったよね。リュウキが私を庇ってくれたのは」
「ああ、そうだな」
ガバッ
突然、ルルが振り向いたと思うとリュウキに抱き付いて来た。
「ルル?」
「あのね。今日ここに来たのは、リュウキに大事な話が有ったからなの」
「・・・・」
「ずっと言えなかったけど、後悔したくないから、言うね」
「なんだ?」
「私は・・私はあの日から・・・リュウキが私を守ってくらた、あの日から・・私は、サイガ・リュウキの事が、大好きでした!」
それは、ルルが何年も言えなかった言葉だった。そして、ルルがその言葉を言い終わると、
スッ
「ありがとう、ルル」
リュウキの両手がルルを温める様に抱き締めた。
「じゃあ、俺も恥ずかしくて言えなかった事を言うよ」
灰色の空から、雨粒が降り始めた。
リュウキは体からルルを離し、ルルと向き合う。そして、
「俺も、ルルの事が大好きだよ」
チュッ
「んんっ!」
リュウキはルルを抱きしめ、唇を重ねた。ルルは行き成りの事で驚いたが、目を瞑り、それを受け止める。
ルルの目から涙が零れ、雨と一緒に地面に落ちた。
二人は、暫くの間、雨の降る公園でキスを交わした。
リュウキとルルがキスを終わるころには、雨は本格的に降り始め、二人はズボ濡れに成りながら帰り、お風呂で冷えた体を温めた。無論、別々に、
ピリリリリリッ
「うん?」
リュウキが風呂から上がり頭を拭いていると、家の電話が鳴りだした。
カチャ、
「はい、サイガですが」
「おお、リュウキか?」
「あっ、父さんか、如何したの?」
「ああ、実はな―――」
「ふ〜、さっぱりした〜」
リュウキが居間でソファーに座りテレビを見ていると、ルルが風呂から出て来た。
「リュウキ、さっき電話鳴ってなかった?」
「ああ」
「誰から?」
「父さん」
「おじさん?何て?」
「この大雨で、二人とも帰って来れないって」
「へ〜〜」
ルルはリュウキの横に座る。
「「・・・・・」」
二人に会話は無い。
リュウキの頭の中
「(どうする!これはチャンスなのか!いやしかし、まだ性的行為は早いよな!ルルを押し倒す様な事はしたくないし!)」
ルルの頭の中
「(どっ、どうしよう!リュウキも好きって言ってくれたし、でも、焦って行って淫乱な女とは思われたくないし!)」
「「(どうすれば)」」
ルルもリュウキも、お互いの気持ちが分かってしまったが故に、何時もの様に居られなくなっていた。
「あっ、そうだ」
先に動いたのはルルだった。
「ご飯の準備しないと、リュウキはここでテレビ見てて」
「あっ、おお」
ルルはそう言うとキッチンに向かう。
暫くして、料理は出来あがり、リュウキ達はそれを食べた。夕食はルル特製のシチューだった。
「(何を入れたのか分からないけど、何時ものクリームシチューより美味しかったな)」
そんな事を考えながら、リュウキは自分の部屋で宿題をする。だが、
「はぁ・・はぁ・・なんだ?体が熱い」
リュウキの体は処々に熱く成り始めた。
「熱でも在るのかな、明日は休みだし、今日は早めに休むか」
リュウキは宿題を止め、ベッドに潜り込む。そして、電気を消し、寝ようとするが、
「熱い!」
体が火照って寝られない。すると、
ムクッ
リュウキの逸物が立ち上がった。
「(なんだ!エロい事は考えてないのに)」
と、リュウキが布団の中で悪戦苦闘していると、
キーー
部屋の扉が開いた。
「リュウキ、起きてる?」
入って来たのは、勿論ルルだった。
「いっ、いや、まだだ」
リュウキは横に成ったまま、ルルに背中を向けた。
「そっか〜」
バフッ
「え?」
行き成り、ルルがリュウキの布団に入って来た。そして、
ムニッ
リュウキの背中に抱き付き自分の胸を強く押しつけて来た。
「るっ、ルル、如何したんだ?」
「リュウキは頭いいから分かるでしょ〜」
ルルはそう言うと、抱き付いていた手をリュウキの逸物の方に移動させた。
「あは、もうこんなに成って〜」
「ちっ、違うんだ。何か今日はおかしくて!」
「そうだね〜。おかしいね〜」
そこでリュウキは気づく。
「はっ、ルル、夕飯に何か入れたな!」
「うん、私のミルクを多めにね」
ルルは、そう言うと布団を跳ね除けリュウキのマウントポジションに着いた。ルルはすでに裸だった。
「ルル?」
「ずっと、我慢してたんだけど、もう、限界なの。こんなのは良くないって思って、他の方法も考えたんだけど、考えれば考える程、分かんなくなっちゃって、ごめんね〜」
何年もの間、溜まりに溜まったルルの性欲は、すでに限界を迎えていたのである。
「いいよね?」
ルルは抑えきれない気持ちの中でリュウキに了解を求める。
「ふっ、ああ、どうせこのままじゃ寝れやしないからな。ただし、」
ガバッ
「きゃっ!」
リュウキは体を回転させルルをベッドに寝かせると一瞬にして服を脱ぎ、ルルのマウントポジションに着いた。
「攻めるのは、俺の方だ」
「うん、いいよ。来て」
そう言うと、リュウキは逸物をルルの秘部に宛がう。
「行くぞ」
「うん」
そして、少しずつ入れて行く。
「んっ、んんっ!」
「怖いか?」
「うん、少し怖いけど、大丈夫、でも、優しくね」
「ああ」
リュウキは更に奥に逸物を入れる。
「んっ!あっ!ああぁ!」
「くっ!」
リュウキの逸物が一番奥まで入った。
「はあっ!はあっ!はっ、入った?」
「ああ、動くぞ」
「うっ、うん」
リュウキとルルは両手の掌と掌を合わせる。そして、リュウキが腰を前後させる。
「あっ!はぁっ、んっ、あっ!おっ・・・奥に当たってる!」
「はっ、はっ、ふっ!くっ!どうだ!・・気持ち・・良いか?」
「うっ、うん!いいよ、すごく!」
「そうかっ!よかった!はぁ!はぁ!」
リュウキはそう言うとテンポを速める。
「あっ!いいっ!だめっ!イキそう!」
「俺も!もう・・・イキそう・・だ!」
「いいよ!・・・一緒に・・イこう!」
「ああ、分かった!・・一緒に!」
リュウキは更にテンポを速める。
「あんっ、あんっ、イクッ!イッちゃう!」
「俺も、イクぞ!」
「来て!ルルの中に!・・リュウキの精子・・いっぱい出して!」
「くっ!でっ、出る!出るぞーー!」
ドプッ!!ドピュッ!!ドクッ、ドクッ!!
勢い良くリュウキは、ルルの中に射精した。
「はぁー!はぁー!」
「ふー、ひー!ふー、ひー!」
二人は息を整えながら横に成る。
「気持ち、よかったね〜」
「ふっ、そうだな」
「ずっと、・・こうなるのを望んでたの」
「そうか、よかったな」
「うん、よかった〜。んんっ」
「うんんっ!」
ルルがリュウキに抱き付きキスをする。
「夕方に、あんなにキスしたのに、まだ足りないのか?」
「うん!リュウキとなら、何回やっても飽きないよ〜」
「そうか」
そうして、二人がキスを交わしていると、
ムクッ
「あっ!」
「えっ?」
リュウキの逸物が硬くなった。
「あっ!そう言えば、」
「如何したの」
「喧嘩を止められた時、理科のギルダ先生に刺されたんだった」
「ああ、なるほど、じゃあ、何とかしないとね〜」
「付き合ってくれるか?」
「勿論だよ〜」
その後、二人は疲れて眠るまで交わり続けた。
数日後、
「はい、リュウキ、あーん」
「あっ、あーん!」
そこには、学食のテラスで弁当の食べさせ合いをしているリュウキとルルの姿が在った。
「リュウキ、美味しい?」
「あっ、ああ、美味しいよ」
「えへへ、よかった〜」
ルルは無邪気に笑っているが、リュウキはそれどころでは無かった。
「(周りの視線が痛い!)」
今、リュウキ達は、二人が付き合っていると言う事をアピールしているのだ。お陰で、リュウキに告白して来る女子は居なくなった。そこまでは良かったのだが、
ジーーーッ
今は男子の視線が痛い。
実は、学園内ではルルを狙って居た男子生徒も多かったのだ。
「(ルルさ〜ん、好きだったのに〜)」
「(早く告白していれば、躊躇っていた俺がバカだった!)」
「(くそっ!勉強でも勝てない、スポーツでも勝てない、喧嘩でも勝てる気がしない!)」
男子たちは遠目に二人を見る事しか出来ない。
「あんたら、仲良しやね」
二人のテーブルにラミアとワーキャット、そしてケンジが来る。
「うん♪だって、私たち付き合ってるんだもん」
ルルが自信満々に言う。
「いいな〜、俺も彼女欲し〜い」
「私が居るでしょうが!」
ケンジにワーキャットが噛みつく。
「いでででっ!」
聞いた話によると、あの雨の日に何か有って、ケンジたちは付き合いだしたそうだ。まあ、それは、また別の話で、
「じゃあ、二人のお付き合い記念に写真を一枚」
ラミアがデジカメを取り出し構える。
「リュウキ、リュウキ」
ルルが肩を突く。
「うん?」
そして、リュウキがルルの方を向いた瞬間、
チュッ
ルルがリュウキにキスをした。
カシャッ
そして、写真にはそれが堂々と映った。
数年後
そこには、二人でソファーに座りアルバムを見るリュウキとルルが居た。
学園を出た後、二人は生涯を共に過ごすと二人の両親に言った。二人は、反対の言葉が有る事を覚悟していたが、
「おお、やっとか」
二人の両親の言葉はそれだけだった。そして、そこで二人は両親たちの思惑を知った。
元々、二人の両親は、二人が結ばれる事を望んでいたのだ。その理由は二人の両親が経営している二社の繋がりを造る事だった。
今では、二社は一つと成り、大会社に成っている。
リュウキはその後継ぎに成る為、日々成長している。そして、それを支えるのがルルの役目である。
「色々有ったね〜」
「ああ、そうだな」
ルルは見ていたアルバムを閉じる。
「そろそろ、決めないとね〜」
「何を?」
「も〜、この子の名前〜」
ルルは大きくなったお腹を撫でる。
「あはは、ごめん、ごめん」
それは二人の間に出来た新たな命だった。
「う〜ん、何が良いかな〜」
ルルは必死に考える。
「余無理をするなよ、お前は考えるのが苦手なんだから」
「あ〜、ひどい〜・・・うふふ」
「あはは」
すると、リュウキがルルの左手に自分の左手を重ねた。そこには結婚指輪が光る。
「・・・ねえ、リュウキ」
「なんだ」
「あの言葉、・・・言ってくれる?」
「ああ、わかった・・・大好きだよ」
「うん、・・・私も大好きだよ」
そして、二人はキスを交わした。
END
11/12/24 19:05更新 / アキト