名も無き剣を携えし者 |
「名も無き剣を携えし者」
その剣士を皆は言う。 高名な剣でありながら[銘]が彫られておらず、又その者も名を名乗らない事から付けたという。 そしてその剣士は驚く事に人外の者なのであった………。 とある小さな街に一人の男が訪れた。 彼の名は、ベルク=アーレスタ。 冒険者であり、一剣士である。 年は15歳。見る限り普通の青年である。 彼がこの小さな街に訪れた理由は、ここに凄腕の剣士がいると聞き、一度その剣士を見てみたい…という。 何ともオチも何も無い普通の理由であった。 彼は、小さな街に訪れるやいなや街の酒場に足を運んだ。 もちろん、彼が足を運んだ理由は情報を聞くためである。 カランコロン… 酒場のドアが開く音が鳴り響く。 その音に反応してか、中にいた一部の人間が出入り口に視線を向ける。 ベルクは視線などお構いなくと一直線にマスターに駆け寄った。 「マスター、一つ聞きたい事があるんだ。 「…何でしょう? ベルクの質問にグラスを磨きながらマスターは答えた。 「ここに名も無き剣を携えし者っていう剣士は来ていないか? その一言に店内は静まり返った。 そればかりか、鋭い殺気ようなものまで感じられる。 「…お客さん、悪い事は言わない。とっとと出ていったほうが良い。ここでそれは禁句(タブー)だからな。 マスターは小声でベルクを警告した。 「…?どうしてだ? ベルクの危機感0の顔に軽いため息をついた。 「…ここにはそいつを嫌っているやつがいるんだ。命が惜しかったらさっさと出ていくべきだ。 確かにその一言に反応して殺気漂わせる店内に、得物を取り出した者が殆どである。 この狭い店内で大多数の相手とやり合うとなれば当然歩が悪い。 ここは仕方なく、酒場を後にする事にした。 何の収穫も得られず途方に暮れていた矢先、突然街の広場の方から悲鳴が上がった。 ベルクは無鉄砲で人より正義感(ただのお節介か?)が強い。 そんな彼が悲鳴を聞いて、わざわざ見捨てるといった事が出来ないのであった。 ベルクは何の躊躇いも無く、悲鳴の上がった広場の方へ駆けて行った…。 ベルクが駆けつけた時には広場は地獄と化していた。 悲鳴を上げたとされる者は、四肢を切断され左肩から対角線上に一筋の斬り跡が刻まれていた。 その他にも、首を切断された者。 片足をもがれ、もがき苦しむ者。 とにかく、直視出来ない光景が広がっていた。 そして、その広場の中心に一人の男が奇声を上げていた。 その姿は、何者かにとりつかれ衝動にかられた悪鬼の姿そのものであった。 広場に狂気に走る男とベルク以外は人影は見られない。 つまり、広場にいた市民は皆殺しにされたと考えて間違いない。 (悪鬼に勝てるのか…? そんな事を考えていると、狂気に走る男はこちらに向かって駆けていた。 「(…しまった…間に合わない…! 剣を抜いたとしとも、運良くて片腕一本犠牲に防げるぐらいだ。 ベルクは、生まれて初めて[死]という恐怖を味わった。 これまでに今回と同じような場面に何度も出くわしてきたが、これほど[死]に対する恐怖を抱いた事は無かった。 (俺も…ここまで…かな………。 半ば諦め、目を閉じた。 さぁ、殺せ。と言わんばかりに…両手り広げて。 悪鬼は尚こちらに向かって来る。 心臓の鼓動が徐々に高まる。 そして… 鋭い、相手を只の玩具としか思っていない殺気は俺の目の前で止まった。 ヒュッ 剣を振り上げる音。 幕引きを感じたその時… 「グアッ! !? 急に目の前の殺気が消えた。 目を開けていないので何とも言えないが、目の前には別の気配を感じていた。 「馬鹿者!死にたいのかっ!! 目の前の人物(たぶん)が俺を叱責する。 俺は恐る恐る目を開けると、そこに立っていたのはブロンドの髪の色、緑色の鎧に身を包んだ剣士だった。 「お前も剣士なら、最後まで相手から目を離すな! 本日二度目の叱責。 俺という人間はこうも怒鳴られてばかりだと、どうも反発してしまう癖があるようで… 「…何だよ、さっきから偉そうな口聞きやがって…。あんた、何様何だよ! 「少なくともお前より場数は踏んでいる。 自分で言うか…普通………。 ともかくこの剣士は俺を助けてくれたらしい。 その事に対して礼を言わなければならないのだが…どうも尺に障る。 軽く膨れっ面になりながら礼を言うと… 「礼などいい。お前のような危なっかしい奴をほおっておけなかっただけだからな。 一々うるさく言う奴だ。 やはり礼など言うべきでは無かった。 そう後悔していると、とある不自然な物に目がいった。 目の前にいる者は人間…のはず。 ならば、このような緑色の尻尾のような物を付ける理由が無い。 俺は恐る恐るこの尻尾のような物を思いっきり引っ張ってみた。 !!!? 目の前の剣士が飛び上がった。 そして俺に振り返るなり、強烈なビンタを食らわせた。 「な、何すんだよ!! 「それはこっちのセリフだっっ!!!何をするかっ! 目の前にいた剣士は怒髪天を突く勢いで激怒した。 そして驚くべき事に、その剣士は女であったのだった。 「て、いうか…女だったのかっ!? 「気がつかなかったのか!? 逆に驚かれてしまった。 あのような口調と態度…てっきり男だろうと思っていた。 いや、女でこうだと彼氏はきついな。と小声で言うと二度目のビンタを食らわされた。 「余計なお世話だっっ!!! 「やけにそこだけ耳良いなっ!? などと茶番じみた事(最早そうだが)をしていると、一人取り残された悪鬼は何やらぶつぶつとつぶやいていた。 「…無視しやがって…無視しやがって…無視しやがって… 「おい、何かヤバそうだぞ。 俺は悪鬼の事を指さすが、この女剣士は気にも止めていなかった。 むしろ、返ってきた返答に俺は呆然とした。 「だから、どうした?」 …は? だからどうした?って……… この現状を見てその態度。 もはや、只の馬鹿か相当な天然かのどちらかだろう… 女剣士の言い放った一言は悪鬼にも聞こえたらしく…。 殊更、殺気を漂わせてこちらに向かって来た。 「殺す!殺す!!絶対に殺すっ!!!俺を…俺を無視しやがって………!!!只じゃ殺さねぇ…四肢を引き裂いてからなぶり殺しにーーーー 悪鬼が狂気と殺気に溢れて向かって来た先… 「言い終わったか?」 女剣士は悪鬼の後ろにいた。 「てめぇから来てくれるとは好都合だ…いいぜ、真っ二つに斬り殺してやーーーーー 悪鬼が暴言を言い放ちながら剣を振り上げた矢先… 龍光一閃。 悪鬼が何が起こったのかわからず、一瞬の内に大きく離れた事に疑問を抱いた次の瞬間。 ズリュッ… 悪鬼の上半身が音を立ててずれていく。 そう、あの一瞬で悪鬼を斬り捨てたのである。 その一瞬を見たものは受けた悪鬼本人でさえもわからなかっただろう。 「その罪、お前の死をもって償う事だ。 女剣士は斬り捨てた悪鬼に対してそう言い放った。 その瞳にはどこか寂しげな気配を感じさせて………。 何はともあれ、事態は収まった。 この女剣士が来なければ、俺もこの世にいなかっただろう。 改めて女剣士に礼を言い、名を聞こうとした。 しかし、名を聞こうとするも女剣士は… 「私の名を知れば常に戦いに巻き込まれる…知るべきではない。ましてや、お前のように未来のある者なら尚更だ。 、と言ったのである。 せめて、何か出会った事を証明出来る何かが欲しいと言うと… 「ならこの剣を見せればわかるか? と、おもむろに剣を抜いて見せてくれた。 その剣は、優雅で繊細な刀身に柄には煌びやかな装飾が施されていた。 それでも、どこが凛としたおももちももっている。 そして、お互いの旅の無事を祝うとその女剣士は一人街並みに消えてしまった…。 月日が過ぎ… その女剣士が、「名も無き剣を携えし者」だったということに気がつくのは3ヶ月経った秋の事であった。 それも、流浪の剣士と思いきや巨大王国の第三皇女という。 そして、あの剣士は人間ではなく…[リザードマン]という魔物である事も知った。 今となっては彼女が何者だろうと関係無い。 ただ、俺は旅すると同時に同じ冒険者…そして剣士として無事を祈るだけだ。 |
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第一作となりますが、後々自分で読んでみてとても恥ずかしくなりました。(滝汗
どうしても書くと断片的になってしまうという決定的な欠点付きで(苦笑 今後、書いていく際…このような作品になってしまいますが長い目(また!?)で見守って下さいませ(滝汗 09/10/19 12:25 月夜の狼魔 |