砂糖の森の一日
『砂糖の森の一日』
人里から少し離れた穏やかな森、そこは見境無しに人間を襲う凶暴な魔物が住んでいなければ、無数の触手を蠢かすおぞましく禍々しい植物も生えていない。言わば平凡極まりない普通の森だ。
それでもこんな世界だ。森の中にはそれなりに魔物達が住んでいるが、どれもが大人しく人間に危害を加えようとする魔物は居なかった。性的云々については……言及しないでおこう。
それはさておき、その森の真ん中の拓けた場所にポツンと建った一戸建てのログハウスがあった。太い丸太や分厚い角材などで用いて作られた木の家は見た目は勿論、雰囲気的にも独特の自然的な温かみを感じられる。
そしてログハウスの扉の斜め上に掲げられた小さい看板には『シュガーフォレスト』……砂糖の森を意味する名前とケーキの絵が描かれていた。
そう、この建物はケーキ作りを営む洋菓子店なのだ。こんな森の中に何故洋菓子店があるのかと思うが、それはこの店に住み込みで働く一人の青年と一人の魔物娘がそうする事を望んだ結果だ。
では、その二人が過ごす森の洋菓子店の一日がどのようなものか見てみる事にしよう。
青年と魔物娘の朝は早い。太陽が東の果てから顔を出し始めるよりも二時間も早くに目を覚まし、お菓子の準備を始めるのだ。
「うんんーーー………はぁ」
ログハウスの二階にある寝室のダブルベッドにて最初に目を覚ましたのは青年の方だ。短いボーイッシュな黒髪、パッチリとした瞳とあどけない幼顔は見る人が見れば可愛いと思うに違いない。
しかし、その身長は軽く190を超えており、大抵の人間を見下ろせるぐらいに高いのだ。すると不思議な事に顔だけ見れば可愛いと思えていた青年が、高身長と言う特徴を付け加えられた途端一転してイケメンモデルのように見えてしまう。見えてしまうというのはあくまでも人間の主観や価値観によるものだが……魔物娘から見てもその考えは違わないだろう。
そして青年はダブルベッドの隣で未だに眠りこけている彼女を見て、フッと微笑む。熊のような……否、熊そのもののような茶色の毛深い手足と鋭い爪、そして半円形の耳。毛深いだの鋭いだのという獣のような特徴とは裏腹に、それの顔は大人しく純情そうな少女の顔であった。
そう、既に述べているかもしれないが改めて言うと彼女は人間ではない。熊の魔物……グリズリーという魔物娘だ。
熊と聞けば誰もが獰猛で人間をも襲うあの動物をイメージするだろうが、彼女や他のグリズリー達は違う。確かにグリズリーは熊を彷彿とさせる怪力と俊敏さを持ち合わせているが、平常時の彼女達の性格は極めて穏やかであり、ちょっとやそっとで攻撃したり襲ったりなど過激な行動は取らない。
……が、それはあくまでも“平常時”の時だ。ある事をすると凶暴化へと変わり果て、手に負えなくなるのだが、そのある事とは何かについては追々語る事にしよう。
未だにベッドで眠っている彼女の姿を見て、青年はそっと手を伸ばす。先っぽがボサボサというかモフモフしている彼女のおかっぱ頭に優しく触れると僅かにピクッと身動ぎ、『ううん』と寝言を呟いて反対側へゴロンと寝返りを打つ。
子熊がコロコロ転がる姿を思わせる可愛い仕草にもっと見ていたいという気持ちが青年の心にあったが、それでも仕事の時間が迫っているのだ。ここはグッと我慢して、彼女の肩を掴んで揺さ振り起こした。
「熊子ー、もうすぐで仕事の時間だよー」
「うゆ? もうそんな時間ですか〜……?」
熊子と呼ばれて起き上がったグレズリーは『ふぁ〜』と気の抜けた欠伸を一つし、未だに眠気を訴えて閉じようとする瞼をゴシゴシと左手で擦って無理矢理目を覚まさせた。まだ眠気が少し残るものの、それでも起きていられるのに十分の覚醒を得られた。
そして自分を起こしてくれた最愛の人間にニコリと笑みを向け、日も昇らぬが朝の挨拶を交わすのであった。
「ショー、おはよう」
「おはよう、熊子」
熊子はショーと語尾を伸ばしながら呼んでいるが、正しくはショウである。名前を見て分かると思うが、ショウは東洋のジパングという島国からやって来た東洋人だ。
実家が先祖代々から続く由緒正しい和菓子屋を営んでおり、ショウはそこの次男坊であった。三つ上の長男が店を受け継ぎ、ショウもその手伝いをするかと思われたが、彼自身はそれとは別の道に進みたいと家族に懇願した。
別の道……それはジパングという島国のみにしか存在しない和菓子だけを極めるのではなく、世界の甘味も極めたいというもの。
それは容易な事でない事ぐらいショウだって百も承知。彼の家族もショウに何度も世界に挑戦する厳しさや熾烈さを強調して訴えたが、ショウはビクともしなかった。寧ろその瞳に熱意と意欲の炎が迸っていた。
家族の中でも自分を貫く頑固者として有名なショウのやる気に父親も折れ、彼の海外への武者修行を認めたのだ。
そして海外での武者修行の中で彼はケーキやパイ、クッキーやチョコレートなどジパングの和菓子には無かった珍しい洋菓子の数々を味わった。
勿論味わっただけではなく、とある街の洋菓子店で十年以上にも及ぶ長く過酷な修行も耐え抜いてみせた。こうして彼は晴れて東洋人で初の洋菓子職人となったのである。
その後は様々な経緯を経て熊子と出会い、彼女の住処が近いこの森の中で自分の店を構える事にしたのだ。熊子の住処が近いと言っても、熊子は自分の家にあった荷物を全部ショウの家に移したので最早此処が彼女の家だと言っても過言ではない。
話は戻り、目が覚めた二人は軽いキスを交わして今日の意気込みを語った。
「今日もお客さん来ると良いね」
「そうだね、きっと沢山来るよ。だから熊子も頑張ってね」
「うん、熊子頑張る〜」
和やかな挨拶と今日の意気込みを交わし、二人はベッドから降りて本日の仕事場へと足早に向かって行った。
開店となる午前十時まで残り十分を切った頃、この店のケーキを気に入った人間や魔物達が続々と集まり始めており、既に20人程の行列が出来ていた。行列の先頭で待っているゴブリンは扉のガラスを通して店内を覗き込み、ショウや熊子が並べていくガラスウィンドウに並べていくケーキに目を輝かせる。
真っ白で柔らかそうなクリームに生まれたばかりのヒヨコのような黄色いスポンジケーキが合わさったショートケーキ、様々なフルーツが乗せられ透明の蜜でコーティングされたフルーツケーキ、苦みや甘さがそれぞれ異なる濃厚なチョコが段々に重ねられたチョコケーキ、そして店で一番の売れ筋を誇るホルスタウロスの乳で作ったチーズをケーキに応用したチーズケーキ……などなど、甘党ならば涎が止まらぬであろう一品ばかりが店に並んで行く。
他にもアルラウネの蜜を加工したハニービーの蜜を更にショウが加工し、味わいをそのままに一般人でも安心して食べれるよう媚薬成分だけを摘出したオリジナル商品も大人気だ。
そういった商品も陳列棚に並べられて行き準備は完了、ショウも熊子も外で待っているお客さんも後は開店を待つばかり。
やがて時計の針が十時を指したのと同時に扉に貼られていた『CLOSE』の文字が『OPEN』へひっくり返され、扉の施錠も開錠される。
開錠された途端、店の前で待っていた客達が一斉に押し寄せてくる光景は何時見ても圧倒されそうだが、それに臆することなく熊子とショウは何時もの台詞をお客達に告げるのだ。
「「いらっしゃいませ!! シュガーフォレストにようこそ!」」
店が開店した直後は怒涛の客入りラッシュだったが、そのようなラッシュも開店とお昼過ぎと閉店直前の夕方のみ。それ以外は客足がゆっくりとしており、ショウと熊子ものんびりしながら仕事が出来る。
だが、ゆっくり出来ると言っても休める訳ではない。客足が穏やかになっている間にも店内に客は居るのだ。
ここの洋菓子店は洋菓子の売買だけでなく喫茶店の設備も整っており、買ってすぐに店内の右端に設けられた喫茶コーナーで食べられるようになっている。四角いテーブルが平等の間隔を空けて六つほど並んでおり、ほぼ毎日六つの席は満員になる程の人気だ。
「クマコちゃーん、アイスコーヒーとミルフィーユお願いねー」
「こっちは抹茶ケーキとホットミルクを頼む」
「…………バニラ&ホットケーキ」
「はぁーい! 分かりましたー!」
喫茶店コーナーは人間が使う事もあるが、昼を過ぎた三時頃の現在は魔物娘と男性一人……言わば異種カップルと呼ばれる者達がほぼ全ての席を占領していた。
甘い菓子が並ぶ場に似合わぬ兵士のような厳つい男と一緒に並んで座るラミアがミルフィーユを頼んだと思えば、幼い少年を引き連れたデュラハンが抹茶アイスを。そして無口なサハギンがボソリとホットケーキを頼む姿に萌えている彼氏の男……ここでしか見られないケーキよりも甘い光景が繰り広げられていた。
だが、中にはその“ほぼ”に含まれぬ席もあった。そこもまた魔物の座る席なのだが、そこには男は居らず純粋に魔物娘三人のみで支配された席となっていた。
因みに座っているのはアルプ、ダークプリースト、アリスと男が見たら逃げ出す事間違い無しのサキュバス亜種三人娘が揃っていた。
そして彼女等の視線はカップルの男、店で働くショウにまで向けられており、品定めするように頭の先から足の先まで舐め尽すようにじっくりねっぷりと観察している。
やがて各々観察を終えると三人が共に向き合い、自分なりに行った観察の成果を報告し合う。
「あの兵士の人の目、鋭い刃物みたいで素敵だわぁ〜。きっと毎晩あちらのラミアさんを逞しい棍棒でひぃひぃ言わせちゃっているんでしょうねぇ」
「にしししっ、僕はあっちの小さい子が好きだな。同じアルプにしてみたい。その前に人間男性最初で最後の快楽を……と言いたいけど、あちらのデュラハンに最初を食べられてそうだな〜。アリスは誰が良い?」
「あたしはショーが良い〜。背が高くてカッコいいし、美味しいケーキも一杯作れるんだもん!」
「分かるわ〜、ショーくん身長も大きいからさぞかしあそこも……うふふ」
「にしししし」
「あはははは」
…………報告もとい単なる猥談でした。しかし、こういった猥談をするのもこの店では見慣れたもの。殆どのカップルは男女の甘い空間で胸一杯になっているので然程耳にも入らず。されど、店で働くショウは嫌でもその猥談が耳に入ってしまい引き攣った笑みを浮かべてしまう。
成るべく関わらないようにしよう……そう思った矢先だ。
「ショー、アリスにシュークリームをお願いします!」
「あ…はーい!」
話に関わらないでおこうと誓っても、客の接待を拒否する訳にはいかない。現在熊子はカウンターでお客の代金を受け取ったりするレジの係りで手が離せない。となれば必然的にショウが行くしかないのだ。
(まぁ、シュークリームを渡してすぐに離脱すれば問題ないよね……)
ショウがしなければならない仕事はまだまだあるのだから、客の接待に長い時間を掛けられないのも事実だ。
そう自分に言い聞かし、ショウはアリスの注文通りにシュークリームを運んで行くのであった。
「お待たせしました、シュークリームです」
「わぁーい! 有難うー!」
無邪気に喜びショウが持ってきたシュークリームに齧り付くアリス。魔物娘とは言えその姿はケーキに喜ぶ子供そのものだ。ショウが洋菓子店を営んで一番嬉しかったのは、美味しいケーキを食べて喜ぶ子供や人々の笑顔が見れた事に違いない。
「では、これにて―――」
「ショー、あんた良い尻しているよなぁー」
もぎゅっ もみもみもみ……
「………あのー、何をしてらっしゃるので?」
「ん? あー、気にしなくても良いよ。普通に尻触っているだけだから。それに僕元々は男だったから大丈夫大丈夫」
「それ以前にこちらの仕事が出来ないんですけど―――」
「あら本当、とっても形の良い可愛いお尻だこと……」
さわさわさわさわさわ……
「あの………そちらも何で触るんでしょうか?」
「気にしなくても良いわよぉ、別に食べたりする訳じゃないから。けど、桃のように形の良いお尻ねぇ。弾力もあるし…うふふ、可愛いわぁ」
すぐに離れれば大丈夫だろうと言い聞かしたが、それは甘かったとショウは後悔した。シュークリームを頬張るアリスに見惚れている間に彼のすぐ傍に近付いていたアルプとダークプリーストが彼のお尻に触れていた。
何処かのセクハラ親父のような仕草であるが、これもまた此処の店ではよく見られる光景であり他のお客達も然程珍しそうに見詰めたりはしない。寧ろ自分達の事で頭が一杯のようだ。
ショウ自身もこのようなセクハラは店をオープンして以来何度も経験しているので最早慣れっこだ。只さっきも言ったように他にも仕事があるので一々魔物娘のセクハラに付き合っていられない。
何よりショウが気にしているのは仕事のことだけではない。もう一つ自分のセクハラによって気にしなければならないことがあるのだ。
(僕が他の魔物にセクハラ受けると……熊子が一番不機嫌になるんだよなぁ〜)
「失礼します、お客様」
ショウが気にしていた不安は正にその直後に的中した。その言葉は極めて綺麗な言葉遣いの筈なのだが、何処かドスを利かせた上に有無を言わせぬ雰囲気を纏っており、ショウに好き放題セクハラ三昧のアルプとダークプリーストの手がピタリと止まる。
そして二人とも錆びたブリキ人形のようにゆっくりと首を横に向け、視線をショウの後ろにやれば………そこには笑顔のグリズリーが居た。但し、その瞳には怒気と殺気を充満させて。
「ショーはこれから夕方のケーキ作りに入りますので、申し訳ありませんがお手を御放し頂けませんでしょうか? 何でしたら“私が”お相手させて頂きますが?」
「「ハイ、スミマセン」」
仮にも相手はサキュバスの亜種二人。相当の魔力だって有しているだろうに、熊子は持ち前の殺気と怒気で彼女達を黙らせてしまった。
そして熊子の迫力に負かされた二人はサッとショウのお尻から手を引き、何事も無かったかのように装いながらテーブルの上に置かれたケーキを黙々と食べるのであった。
ショウもセクハラに解放されてホッとしつつ、仕事場に戻る途中で熊子の耳にボソリと一言。
(有難う、助かったよ)
たった一言のお礼ではあるが、それを聞いた熊子は嬉しそうに微笑んだそうな。
その後も客の接待とケーキを買って帰る人間や魔物娘の対応に追われ、どうにかして最後のお客が店を後にしたのを見送って閉店したのは夜の7時過ぎであった。都会の洋菓子店に比べると少し速過ぎる感もあるが、今まで多くの人にケーキを売ったり接待していた二人の体力も限界に近付いており、ここらで閉店するのが丁度良い頃合だった。
後片付けも終わらせ、明日に向けての開店準備も一通り済ませたら今度こそ本日の営業は終了を迎える。
そして遅い晩御飯を食べて風呂に入り、後は寝るだけなのだが………今夜はショウが熊子へサプライズを用意しているようだ。
何時も通り二人がご飯を食べ終えて後片付けをし、後は風呂に入って寝るだけの所まで来た時だ。突然ショウは懐かしい思い出を振り返るようにポツリと呟いた。
「そういえば熊子、今日で丸一年だねぇ」
「? 何が丸一年なの?」
ショウの言葉の一年の意味が分からず熊子は首を傾げるが、次に出て来たショウの言葉によって彼女は全てを理解する。
「熊子が此処に来て一年経ったんだよ」
「あっ! そう言われるとそうだね〜」
ショウに言われて初めて気付き、熊子は恥ずかしそうにてへっと笑みを零した。そして熊子はあの時の思い出を振り返り、ポッと頬を赤く染める。
「この森で出会ったんだよね〜、あたし達」
「そうそう、その時の熊子はグリズリーの野生剥き出しだったけどね」
「あ、あの時は蜂蜜を食べたばかりだったから仕方なかったの!!」
ショウはケラケラと笑いながら平然と言ってのけるが、当の熊子にしてみれば恥ずかしい以外の何物でもない思い出だったようだ。
今から一年前、一人前として認められ独立したいと願うショウは店を構えたいと考えていた。だが、修行の場としていた都会に良い立地条件が見当たらず悩んでしまう。
しかし、幾ら考えても悩んでも立地条件が改善する訳ではないので気分転換に少し離れた森の中へ散歩をしていた時に……蜂蜜を腹一杯に食べて興奮した熊子と出会った。
グリズリーはハニービーやアルラウネが作り出す媚薬入りの蜂蜜を好んでおり、それを食べる度に彼女達は性的興奮を得てしまうのだ。これが先程言っていたグリズリーの凶暴化現象の原因である。
そんな状態になっている所にショウがバッタリと出会ってしまったのだ。勿論その後は魔物娘らしく性欲を剥き出しにした熊子はショウに襲い掛かり、そのまま森の中で彼と無理矢理交尾してしまった。
こんな初対面ならば普通トラウマになってもおかしくない筈なのだが、ショウ自身は何事もなかったかの如く平然と彼女に接している。いや、それどころか出会った瞬間から予想外の感情が芽生えてしまっていた。
初めは可愛らしい顔や子熊のような姿などといった見た目による愛嬌に見惚れ、無理矢理な交尾になってからは快楽に夢中になって無意識にショウを求めてくる姿に愛おしさや愛くるしさなどの感情がごちゃ混ぜになって……結果彼女を好きになっていた。
そして彼女を大好きになったトドメというか、決定打になったのは交尾を終えてのほほんとした性格に戻った瞬間の一言だった。
『はぁ〜、お兄さんのとっても気持ち良かった〜』
未だに互いの性器同士が繋がったままだと言うのに気の抜けた台詞を発する若いグリズリーにショウの心臓が跳ね上がる。
先程まで飢えて凶暴となった熊の如く自分の体を貪っていたグリズリーが、子供に好まれるテディベアのように無邪気で可愛い笑顔を浮かべて『気持ち良かった』と言ってきたのだ。
ギャップの違いが萌えるとはよく聞くが、それに激しく同意したのはこの日以外に無かった。
そして今度は逆にもっと交尾したくて堪らなくなったショウが彼女を押し倒し、彼女の体を美味しく頂いたそうな。蜂蜜のせいだとも言われているし、ショウの性欲が凄まじいとも言われているが事実は定かではない。
「でも、あの後のショーも激しかったよ〜?」
「そりゃ僕も男だからね。可愛くて大好きな子を前にしたら凶暴な雄になっちゃうって」
「も〜、ショーってば……。でも、あたし嬉しかった。ショーと出会えて、熊子って名前も貰えたし」
「そっか……。そう言って貰えると嬉しいよ」
熊子という名前は最初から彼女自身が持っていた名前ではない。ショウと出会った時、彼から付けて貰った名前なのだ。
生まれて物心付いた時から親は居らず、気付けば森の中に彼女は一人ぼっちで佇んでいた。誰かにああだこうだ言われる心配もないので、のんびりと自由気ままな時間を過ごしていたが―――
やはり寂しさが拭い切れず、自分の寝泊まりしている森の洞穴で静かに涙を流して寂しさが消え去ってくれる日が来る事を祈り続けた。
そして祈りが天に届いたのか、彼女はショウという運命の青年と出会う事が出来た。更に今まで無かった名前まで付けて貰い、彼女は生まれて初めて誰かに名前で呼んで貰う喜びを知った。
その喜びを知ってから今日で丁度一年が経過した。僅か一年であるが、この一年の内にショウは自分の店を持つという夢を実現する事が出来た。森の中という奇抜な場所だった為に最初は不安こそあったものの、熊子の支えもあって店を切り盛し繁盛させる事も出来た。
今日はそういったお礼も含め、熊子と出会えた特別な日、そして熊子と名付けた日を熊子の誕生日として祝いたいと前々から考えていた。
そしてどんな祝いにしようかと考えた末、彼が考えた方法は―――
「熊子、今日はキミにプレゼントがあるんだ。今準備するからちょっと待ってて」
「プレゼント〜? 一体どんなの〜?」
「それは見てからのお楽しみだよ。とにかく此処で待っててね」
そう告げるとショウは立ち上がり夕食のリビングを後にする。残された熊子はショウのプレゼントとは一体どんなものなのだろうか気になり、同時に楽しみでありワクワクしながら彼がプレゼントの準備を終えてやって来るのを只管に待った。
それから五分後……少し時間が掛かっている気もするが、それだけ大掛かりなのだろうという期待も出始め、熊子の楽しみや喜びは段々と膨れ上がっていく。
そして―――遠くの方からショウの声がやって来た。
「熊子お待たせー、悪いけど風呂場に来てくれないかなー?」
「? お風呂場に?」
てっきり誕生日プレゼントを自分の所に持って来てくれるものだと思い込んでいたが、何故かショウはプレゼントを持ってくるどころか熊子に風呂場へ来て欲しいという不可解なお願いをしてきた。
どうして風呂場なのかは分からないが、とりあえず彼の言う通りに風呂場へ向かう事に。すると今度は風呂場へと繋がる脱衣場に籠一つがポンと置いてあり、その籠に『服を脱いで入ってね』とショウの文字が書かれてあった。
「どういう意味だろう?」
風呂場でプレゼントを渡すのだろうか? それとも風呂場でしか渡せないプレゼントなのだろうか? でも、服を脱ぐのは何故か?
様々な疑問が頭の中を過るが手っ取り早く答えを得るには指示に従った方が早そうだと判断した熊子は熊の毛皮のような服を脱ぎ、下半身のスパッツを脱いで全裸となった。両腕と両脚の毛皮は肉体と一体化しているので、このまま入るしかない。
「ショー、準備出来たよー」
「それじゃ入って良いよー」
やはりショウは風呂場に居るらしく磨りガラスの扉で向こう側は全く見えないが、紛れもなく向こうから声がやって来た。
そして何の気兼ねもなく遠慮なしに熊子が風呂場の扉を開けて中へ入ろうとした瞬間―――
「ふわ!?」
扉を開けたのと同時に彼女の鼻孔に入って来た甘ったるい匂い、そして陰部がムズムズして体全体がカァーっと熱くなる感覚。
その匂いと感覚に彼女は身に覚えがあった。いや、染み付いていると言うべきか。これは紛れもなく彼女が大好物としていた媚薬入りの蜂蜜だ。
それはすぐに理解したが、何故に風呂場にてこれ程まで強力な甘い匂いを放っているのかと思いよくよく風呂場を見ると、驚く事に何とバスタブにお湯ではなく蜂蜜が大量に入っているではないか。
そして彼女の好きな蜂蜜風呂の中には、これまた彼女が大好きなショウが肩までどっぷりと入っていた。
「熊子、いらっしゃーい」
「しょ、ショー!?」
ショウは爽やかな笑みを浮かべて熊子に手を振って彼女の登場を歓迎したが、迎えられた熊子は未だに困惑していた。それもそうだ、大好きな人が蜂蜜風呂に入っているのだから……というかそもそもショウが熊子に渡したいプレゼントが何なのか全く理解出来ない。
「ショー、これは……一体……?」
「これが僕から熊子へのプレゼントだよ」
「これって……蜂蜜のこと? だったらお風呂に入れなくても普通に渡したら良いんじゃないの?」
「違うよ、この蜂蜜は特別なんだ」
「特別?」
「うん、特別。多分近くで匂いをよく嗅いだら分かると思うよ」
そう言ってショウが風呂から出ると、彼の体にべったりと黄色い蜂蜜がローションのようにこびり付いていたり、または粘着性が高い液体糊のように糸を引いて床へ落下していく。
それを見ただけで熊子がゴクリと唾を飲む。大好物の蜂蜜に対してもそうだが、蜂蜜に塗れたショウに対しても性欲的に興奮していたのだ。
そしてショウが近付いて来るに連れて彼が言っていた『特別』の意味を知る事となる。
「ウゥッ!!?」
「どう? 違うでしょう?」
近付けば近付いて来る程に蜂蜜の匂いも強くなるが、それ以上に熊子の敏感な嗅覚を刺激したのは彼の体に纏っている蜂蜜から発せられる媚薬の匂いだった。熊子が好む媚薬蜂蜜の匂いが1だとすれば、ショウが纏っている媚薬蜂蜜から放たれる匂いはそれの三十倍はあるだろう。
どうしてそれ程までに強力なのかはすぐにショウ自身が簡潔に説明してくれた。
「僕達の店で販売している蜂蜜は独自の手法で媚薬成分が抽出されているでしょ? 実はこの風呂場の蜂蜜はその抽出してきた媚薬成分を凝縮させて作った特別な蜂蜜なんだ。捨てるのも勿体無いし、売り出すのはちょっと怖いから置き去りにしてあったんだけど……熊子の誕生日祝いに使おうかなーって思って取っておいたんだ」
「そ、そうなんだー……」
ショウの説明に理解を示す相槌を打つものの、最早熊子の思考はまともに働いてはいない。
風呂場に充満する蜂蜜の甘い匂いと通常の何十倍にも及ぶ強烈な媚薬の香りが彼女の思考を麻痺させ、体も熱い湯を一気に注ぎ込んだかのように火照り出し、表情も熱でもあるかの如く頬を赤くさせてトロンと緩んだものになっていく。また何もしていないのに息も荒々しくなっている。
下半身の中心が性欲を訴えるかのようにジンジンと切なく疼き、彼女自身気付いていないのか秘部からは透明の愛液がスーッと太股を伝って零れ落ちている。
いよいよ熊子の誕生日を祝おうとショウが近付くが、熊子は最後の砦とも言える理性を用いて本能から抗った。
「ま、待って! もしこのまましちゃうと……あたし止められない。ショーに酷いことをしちゃうかも……」
本当の事を言えば熊子はショウと一つになってぐちゃぐちゃのどろどろになりたいと思うぐらいに彼を欲していた。しかし、以前から自分は蜂蜜酔いの酷い女だと認識している。きっとこのまま一つになればぐちゃぐちゃどころか、ショウを滅茶苦茶にしてしまうのではないだろうか……そんな不安が彼女の中にあり、それが理性という最後の砦を守る要素となった。
しかし、その砦もショウの前には無力と化す。
「良いんだよ、酷い事をしても。今日は熊子の誕生日なんだから、僕を熊子の好きなようにしても良いんだよ。それが僕からの誕生日プレゼントなんだからさ」
「ショー……」
そこまで言い終えるとショウは不安げに自分を見上げる彼女に近付き――――大きな体を使って彼女の体をギュッと優しく抱き締め、包み込んだ。
にちゃぁ……
「!!」
抱き締められた直後、彼の体にコーティングされた蜂蜜の液が彼女の体にも伝っていく。すると只でさえ強い媚薬の匂いと大好きなショウの匂いとが混ざり合い、混合した匂いは鼻孔を通って彼女の脳内に凄まじい衝撃で突き抜けていく。
正直言うとその時点で既に熊子はKO状態だった。が、それを知ってか知らずかは定かではないが、ショウは自分の口に凝縮した媚薬交りの蜂蜜を己の口に含んだかと思いきや――――
それを熊子の口へと移して飲ませたのだ。所謂キスのような口移しだ。
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
長い長い口移しに彼女の背筋に甘い電気が駆け巡り、やがて脳の天辺にまで到達した時……彼女の最後の砦である理性は崩壊した。
そして口移しを終えるとショウは彼女を解放し、自身は床の上に置いてあった水をも弾くスポンジマットの上に寝そべり、両腕を彼女へ向けて迎え入れるような体勢を作った。
「熊子、誕生日おめでとう。ショウの蜂蜜漬け……如何かな?」
大好きな人が大好きな蜂蜜に塗れ、しかもグリズリーである自分の目の前で態々寝そべったのだ。それは彼女達種族から見れば自分を食べて下さいと宣言しているようなものだ。
それと先程の口移しで熊子の理性は崩壊しているのだ。最早熊子が躊躇う理由もなければ、遠慮する必要もない。
「頂きますぅぅぅぅ!!!」
ショウの誘いを耳にした直後、熊子は凶暴化したグリズリーへと変身しショウへと襲い掛かる。ちょっぴり怖い気もするが、これもまた可愛い熊子の側面なのだと理解しているのでショウに恐怖心など無かった。
「ぐるるるる!!!」
おぞましい唸り声を上げて圧し掛かってくるが、その後の行動は意外と可愛いものだ。
びちゃっ びちゅっ にちゅっ
熊子の舌が蜂蜜でコーティングされた彼の体を舐め回し、胸や腕を愛おしく、そして美味しそうに舐める姿は自らプレゼントとなったショウを興奮させる。
そして今度は自分の唇へと舌を持ってくると、ショウもそれに応えて彼女の舌に自分の舌を絡ませて彼女を奉仕する。
「ううんっ……はぁっ、んむ、んん〜……はぁっ!」
「んぶ、むぅ……熊子……大好きだ……」
「あ、あたしもぉ……好き……んん!」
今日は彼女の誕生日なのだから彼女の好きなようにさせてやろうと思いつつも、ショウの性器は簡単に言う事を聞いてはくれないようだ。
熊子の舐め回しと強力な媚薬入り蜂蜜のコンボが彼の性器を刺激させ、瞬く間にショウの肉棒は力強く起こり立ってしまう。しかも、起こり立った直後に熊子の性器に肉棒が擦れて彼女の体がビクンと反応してしまう。
元気に天を向く肉棒を見て熊子はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、その肉棒を掴んでは上下に扱き上げる。ゴツイ熊の手とは言え、その掌は柔らかな肉球で出来ているのだ。普通の人間が触れるのとは全く違う感触に、ショウの性器は未知なる世界へと誘われる。
「うふふふ……ショーのおちんちん、逞しくて美味しそう〜」
「く、熊子の肉球も……凄いよっ……!」
「このまま美味しいプリプリミルクを飲むのも良いけど……今日は折角蜂蜜も沢山あるし〜♪」
手扱きでイカされるかと思った矢先、熊子の手はショウの性器から離れて浴槽の中へ。何をするのだろうかとショウが不思議そうに見詰めていたら、熊子は浴槽の中一杯に張られていた蜂蜜を掬い上げ、ホットケーキに蜂蜜をかけるかのようにショウのそそり立つ性器にゆっくりとたっぷりと蜂蜜をかけていく。
そして掌にあった蜂蜜を全部かけ終えると熊子は満足そうに笑みを零し、蜂蜜塗れとなった彼の性器を見詰めた。
「うふふ、ショーのハニーウィンナーの完成〜♪」
「それって……美味しいのかな?」
「美味しいよ〜、だってショーのなんだもん。それじゃ早速頂きます〜……あーん☆」
ショウの性器を口に含むと最初は蜂蜜の甘さが口一杯に広がり、暫く舐め続けるとやがて彼の肉棒の味なのかしょっぱさというか酸っぱさと言うか、人間の汗のような味が熊子の舌にじんわりと広がっていく。
己の一物を蜂蜜塗れにさせられた上に舐め回されるというのはショウも生まれて初めての経験だ。更に媚薬そのものと言っても過言ではない蜂蜜を直にかけられたのだ。性器に熱が籠り、性器の感度がより一層敏感になっている気がする。
(自分で作っておきながらアレだけど……余計な物を作っちゃったかもなぁ)
誕生日プレゼントのおまけにしては危険なものを作ってしまったと軽く後悔するが、性器をしゃぶるのに夢中になっている熊子がそれを知る由もない。熊子のフェラチオは更に過激さを増し、大きくて長いショウの肉棒を喉奥まで咥え込んで扱き始めた。
これには流石にショウも我慢の限界だった。背筋に電気が駆け巡り、快楽が性器へと集中した直後―――
「熊子……! 出るよ!」
「んぐ…! んんぐっ!!」
出ると宣言した矢先、ショウの肉棒の先端からドロドロとした濃い精液が噴き出した。媚薬の影響もあってか普通に熊子とセックスする時に比べて質も量も遥かに多い。
やがて全てを出し終えると熊子はぢゅぽんっと卑しい音を立てて性器から口を放し、ぐちゅぐちゅと口の中でショウが出した精液の味をゆっくりと噛み締めるように味わい……数十秒ほど味を楽しんだ後にゴックンと音を立てて飲み干した。
「ぷはぁ〜、美味しい〜」
「蜂蜜と僕の性器と精子のお味は如何でした?」
「んー、甘さとしょっぱさと苦みの相反し合う味のハーモニーが複雑に絡み合って……とっても濃厚で美味しゅうございました〜」
聞くだけでは冗談のやり取りのようにも聞こえるが、ご満悦な彼女の顔を見るととても冗談で言っているようには聞こえない。
そしてチラリとショウの性器を見ると未だにそれは力強く天を突かんばかりにそそり立っており、逞しい彼の性器に触れて熊子は嬉しそうに微笑む。
「本当にショーのおちんちんは素敵……それじゃそろそろ本番いっちゃいま〜す♪」
「うん、良いよ。思う存分楽しんでね」
そう言って熊子はショウの上へと跨り、いきり立った彼の肉棒を片手で掴んで固定。ショウの肉棒が自分の肉壷に入るよう狙いを定めるや、一気に腰を下ろした。
ぐちゅ……ズチュンッ!
正にそれは一瞬だ。ショウからすれば己の性器全体が柔らかい肉壷に包まれる瞬間が何とも言えず、熊子からすれば自分の性器に逞しい肉棒がGスポットや敏感な部分を擦って入って来る瞬間が何とも言えない。
「ふぁぁぁ! これぇぇぇ……これが堪らないのぉぉぉ!!」
「うぁ! 熊子の中、何時も以上に絡み付く!」
「ふふ…うふふ、ショーのプレゼントのおかげだよ。あたしもこんなに凄いのは初めてぇ〜……」
快楽の衝撃に腰が笑ってしまいどちらも全く動けなかったが、少しして衝撃から抜け出せた熊子がゆっくりと腰を上下に動かし始めた。
互いの性器が互いに気持ちの良い部分を擦り合い、擦る度に背筋に甘美の電気が駆け抜けていく。時々熊子が締め付けを強くしてショウの肉棒を締め上げたと思いきや、今度は逆にショウが弱冠腰を突き上げて熊子の肉壷の最奥を責めていく。
互いに互いを鬩ぎ合うように見えるが、実際には両者ともに相手を気持ち良くさせようという試みを行っているだけであり決して不仲な訳ではない。
そしてショウも熊子もいよいよ絶頂の瞬間がやって来ようとしていた。
「はぁ! はぁ! ショー! 熊子イッちゃう! イッちゃうよぉー!」
「僕も! 僕も出るよ! 熊子! 今から凄いのが出るから受け止めて!!」
「うん! うん! 熊子に出して! 熊子を妊娠させてぇぇぇぇ!!」
お互いに限界が迎えている事を伝え合い、両者共に一気にラストスパートに入った。片や激しく腰を振り下ろし、片や振り下ろされる腰を只管に受け止めて先にイカないように我慢する。
ズチュンッ! ぎゅぅぅぅぅ……!
そして何度目かの腰振りで熊子が腰を深々と振り下ろした直後にキュウゥゥと膣内の締め付けが今までにないぐらいに強まった。どうやら熊子が先に絶頂に達したらしく、その絶頂に誘われるかの如くショウも続けて絶頂に到達した。
どびゅるるるる!!
「ふぁぁぁぁぁ!!」
「くぅぅぅぅぅ!!」
今までにない大量の精液が彼女の膣内へと吐き出され、その快楽に熊子は耐え切れず糸の切れたマリオネットのようにペタンとショウに覆い被さる形で倒れ込んできた。
ショウもこちらに倒れ込んで来る彼女を受け止めて起き上がろうとしたが、恥ずかしい事にショウも未だ嘗て体験した事の無い快楽によって腰が抜けてしまい、すぐに起き上がる事が出来なかった。それでも彼女を受け止め、自分の胸の中に収める事ぐらいは可能だった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
荒い呼吸だけが風呂場に響き渡り、互いの息が整い合ったところで二人は顔を見詰め合いそっと口付けを交わし合う。
そして熊子は未だに体の火照りが収まらないのか、甘えるような声でショウの耳元で呟いた。
「ねぇ、ショー……」
「……何?」
「……もっとしても良い?」
「……うん、良いよ。今日は熊子の誕生日なんだから」
「嬉しい……。ショー、大好き」
「……僕も大好きだよ、熊子」
ショウから許可を貰い熊子は再びショウに跨り彼の上で腰を上下に動かし始める。
その後も熊子の望むがままに膨れ上がった性欲を貪り、只管にショウの愛情を一身に受け止めて最高の誕生日プレゼントを堪能するのであった。
「ショー、大丈夫?」
「うん、大丈夫だけど……ちょっと眠いかなぁ」
熊子を喜ばす為の誕生日プレゼントは一旦風呂場からベッドに移ったもののそのまま翌朝まで続き、気付けば本日の営業時間開始まで残り4時間を切っていた。洋菓子店を営む者としてこの遅刻は致命的だと言えよう。
更に二人はそれまで交尾に夢中で不眠不休だ。ショウの目の下にはどんよりとした黒い隈が出来ているが、熊子は対照的に綺麗サッパリとした表情をしていた。それどころか頬の艶が尋常でないぐらいに明るい。
これもまた魔物娘だからこそなのか、それとも単にタフなだけなのだろうか……。
それはさておき余りにも眠たさそうなショウを心配し、熊子は『今日はお店を休業する?』と提案するがショウは首を左右に振って否定した。
「いや、それは駄目だよ。今日を楽しみにしているお客さんだって居るんだしさ」
「じゃあ、今日も頑張ろっか」
「うん、そうだね。今日も頑張ろうか」
そう言って二人はベッドから起き上がり何時もより遅れた分を取り戻すべく、すぐさま仕事の準備に取り掛かるのであった。
ここは『シュガーフォレスト』―――パティシエの東洋人とグリズリーの魔物娘が営む洋菓子店。午前十時と同時に店は開店し、入って来る人々や魔物娘達にお馴染みの台詞を投げ掛けるのだ。
「「いらっしゃいませ! シュガーフォレストにようこそ!!」」
人里から少し離れた穏やかな森、そこは見境無しに人間を襲う凶暴な魔物が住んでいなければ、無数の触手を蠢かすおぞましく禍々しい植物も生えていない。言わば平凡極まりない普通の森だ。
それでもこんな世界だ。森の中にはそれなりに魔物達が住んでいるが、どれもが大人しく人間に危害を加えようとする魔物は居なかった。性的云々については……言及しないでおこう。
それはさておき、その森の真ん中の拓けた場所にポツンと建った一戸建てのログハウスがあった。太い丸太や分厚い角材などで用いて作られた木の家は見た目は勿論、雰囲気的にも独特の自然的な温かみを感じられる。
そしてログハウスの扉の斜め上に掲げられた小さい看板には『シュガーフォレスト』……砂糖の森を意味する名前とケーキの絵が描かれていた。
そう、この建物はケーキ作りを営む洋菓子店なのだ。こんな森の中に何故洋菓子店があるのかと思うが、それはこの店に住み込みで働く一人の青年と一人の魔物娘がそうする事を望んだ結果だ。
では、その二人が過ごす森の洋菓子店の一日がどのようなものか見てみる事にしよう。
青年と魔物娘の朝は早い。太陽が東の果てから顔を出し始めるよりも二時間も早くに目を覚まし、お菓子の準備を始めるのだ。
「うんんーーー………はぁ」
ログハウスの二階にある寝室のダブルベッドにて最初に目を覚ましたのは青年の方だ。短いボーイッシュな黒髪、パッチリとした瞳とあどけない幼顔は見る人が見れば可愛いと思うに違いない。
しかし、その身長は軽く190を超えており、大抵の人間を見下ろせるぐらいに高いのだ。すると不思議な事に顔だけ見れば可愛いと思えていた青年が、高身長と言う特徴を付け加えられた途端一転してイケメンモデルのように見えてしまう。見えてしまうというのはあくまでも人間の主観や価値観によるものだが……魔物娘から見てもその考えは違わないだろう。
そして青年はダブルベッドの隣で未だに眠りこけている彼女を見て、フッと微笑む。熊のような……否、熊そのもののような茶色の毛深い手足と鋭い爪、そして半円形の耳。毛深いだの鋭いだのという獣のような特徴とは裏腹に、それの顔は大人しく純情そうな少女の顔であった。
そう、既に述べているかもしれないが改めて言うと彼女は人間ではない。熊の魔物……グリズリーという魔物娘だ。
熊と聞けば誰もが獰猛で人間をも襲うあの動物をイメージするだろうが、彼女や他のグリズリー達は違う。確かにグリズリーは熊を彷彿とさせる怪力と俊敏さを持ち合わせているが、平常時の彼女達の性格は極めて穏やかであり、ちょっとやそっとで攻撃したり襲ったりなど過激な行動は取らない。
……が、それはあくまでも“平常時”の時だ。ある事をすると凶暴化へと変わり果て、手に負えなくなるのだが、そのある事とは何かについては追々語る事にしよう。
未だにベッドで眠っている彼女の姿を見て、青年はそっと手を伸ばす。先っぽがボサボサというかモフモフしている彼女のおかっぱ頭に優しく触れると僅かにピクッと身動ぎ、『ううん』と寝言を呟いて反対側へゴロンと寝返りを打つ。
子熊がコロコロ転がる姿を思わせる可愛い仕草にもっと見ていたいという気持ちが青年の心にあったが、それでも仕事の時間が迫っているのだ。ここはグッと我慢して、彼女の肩を掴んで揺さ振り起こした。
「熊子ー、もうすぐで仕事の時間だよー」
「うゆ? もうそんな時間ですか〜……?」
熊子と呼ばれて起き上がったグレズリーは『ふぁ〜』と気の抜けた欠伸を一つし、未だに眠気を訴えて閉じようとする瞼をゴシゴシと左手で擦って無理矢理目を覚まさせた。まだ眠気が少し残るものの、それでも起きていられるのに十分の覚醒を得られた。
そして自分を起こしてくれた最愛の人間にニコリと笑みを向け、日も昇らぬが朝の挨拶を交わすのであった。
「ショー、おはよう」
「おはよう、熊子」
熊子はショーと語尾を伸ばしながら呼んでいるが、正しくはショウである。名前を見て分かると思うが、ショウは東洋のジパングという島国からやって来た東洋人だ。
実家が先祖代々から続く由緒正しい和菓子屋を営んでおり、ショウはそこの次男坊であった。三つ上の長男が店を受け継ぎ、ショウもその手伝いをするかと思われたが、彼自身はそれとは別の道に進みたいと家族に懇願した。
別の道……それはジパングという島国のみにしか存在しない和菓子だけを極めるのではなく、世界の甘味も極めたいというもの。
それは容易な事でない事ぐらいショウだって百も承知。彼の家族もショウに何度も世界に挑戦する厳しさや熾烈さを強調して訴えたが、ショウはビクともしなかった。寧ろその瞳に熱意と意欲の炎が迸っていた。
家族の中でも自分を貫く頑固者として有名なショウのやる気に父親も折れ、彼の海外への武者修行を認めたのだ。
そして海外での武者修行の中で彼はケーキやパイ、クッキーやチョコレートなどジパングの和菓子には無かった珍しい洋菓子の数々を味わった。
勿論味わっただけではなく、とある街の洋菓子店で十年以上にも及ぶ長く過酷な修行も耐え抜いてみせた。こうして彼は晴れて東洋人で初の洋菓子職人となったのである。
その後は様々な経緯を経て熊子と出会い、彼女の住処が近いこの森の中で自分の店を構える事にしたのだ。熊子の住処が近いと言っても、熊子は自分の家にあった荷物を全部ショウの家に移したので最早此処が彼女の家だと言っても過言ではない。
話は戻り、目が覚めた二人は軽いキスを交わして今日の意気込みを語った。
「今日もお客さん来ると良いね」
「そうだね、きっと沢山来るよ。だから熊子も頑張ってね」
「うん、熊子頑張る〜」
和やかな挨拶と今日の意気込みを交わし、二人はベッドから降りて本日の仕事場へと足早に向かって行った。
開店となる午前十時まで残り十分を切った頃、この店のケーキを気に入った人間や魔物達が続々と集まり始めており、既に20人程の行列が出来ていた。行列の先頭で待っているゴブリンは扉のガラスを通して店内を覗き込み、ショウや熊子が並べていくガラスウィンドウに並べていくケーキに目を輝かせる。
真っ白で柔らかそうなクリームに生まれたばかりのヒヨコのような黄色いスポンジケーキが合わさったショートケーキ、様々なフルーツが乗せられ透明の蜜でコーティングされたフルーツケーキ、苦みや甘さがそれぞれ異なる濃厚なチョコが段々に重ねられたチョコケーキ、そして店で一番の売れ筋を誇るホルスタウロスの乳で作ったチーズをケーキに応用したチーズケーキ……などなど、甘党ならば涎が止まらぬであろう一品ばかりが店に並んで行く。
他にもアルラウネの蜜を加工したハニービーの蜜を更にショウが加工し、味わいをそのままに一般人でも安心して食べれるよう媚薬成分だけを摘出したオリジナル商品も大人気だ。
そういった商品も陳列棚に並べられて行き準備は完了、ショウも熊子も外で待っているお客さんも後は開店を待つばかり。
やがて時計の針が十時を指したのと同時に扉に貼られていた『CLOSE』の文字が『OPEN』へひっくり返され、扉の施錠も開錠される。
開錠された途端、店の前で待っていた客達が一斉に押し寄せてくる光景は何時見ても圧倒されそうだが、それに臆することなく熊子とショウは何時もの台詞をお客達に告げるのだ。
「「いらっしゃいませ!! シュガーフォレストにようこそ!」」
店が開店した直後は怒涛の客入りラッシュだったが、そのようなラッシュも開店とお昼過ぎと閉店直前の夕方のみ。それ以外は客足がゆっくりとしており、ショウと熊子ものんびりしながら仕事が出来る。
だが、ゆっくり出来ると言っても休める訳ではない。客足が穏やかになっている間にも店内に客は居るのだ。
ここの洋菓子店は洋菓子の売買だけでなく喫茶店の設備も整っており、買ってすぐに店内の右端に設けられた喫茶コーナーで食べられるようになっている。四角いテーブルが平等の間隔を空けて六つほど並んでおり、ほぼ毎日六つの席は満員になる程の人気だ。
「クマコちゃーん、アイスコーヒーとミルフィーユお願いねー」
「こっちは抹茶ケーキとホットミルクを頼む」
「…………バニラ&ホットケーキ」
「はぁーい! 分かりましたー!」
喫茶店コーナーは人間が使う事もあるが、昼を過ぎた三時頃の現在は魔物娘と男性一人……言わば異種カップルと呼ばれる者達がほぼ全ての席を占領していた。
甘い菓子が並ぶ場に似合わぬ兵士のような厳つい男と一緒に並んで座るラミアがミルフィーユを頼んだと思えば、幼い少年を引き連れたデュラハンが抹茶アイスを。そして無口なサハギンがボソリとホットケーキを頼む姿に萌えている彼氏の男……ここでしか見られないケーキよりも甘い光景が繰り広げられていた。
だが、中にはその“ほぼ”に含まれぬ席もあった。そこもまた魔物の座る席なのだが、そこには男は居らず純粋に魔物娘三人のみで支配された席となっていた。
因みに座っているのはアルプ、ダークプリースト、アリスと男が見たら逃げ出す事間違い無しのサキュバス亜種三人娘が揃っていた。
そして彼女等の視線はカップルの男、店で働くショウにまで向けられており、品定めするように頭の先から足の先まで舐め尽すようにじっくりねっぷりと観察している。
やがて各々観察を終えると三人が共に向き合い、自分なりに行った観察の成果を報告し合う。
「あの兵士の人の目、鋭い刃物みたいで素敵だわぁ〜。きっと毎晩あちらのラミアさんを逞しい棍棒でひぃひぃ言わせちゃっているんでしょうねぇ」
「にしししっ、僕はあっちの小さい子が好きだな。同じアルプにしてみたい。その前に人間男性最初で最後の快楽を……と言いたいけど、あちらのデュラハンに最初を食べられてそうだな〜。アリスは誰が良い?」
「あたしはショーが良い〜。背が高くてカッコいいし、美味しいケーキも一杯作れるんだもん!」
「分かるわ〜、ショーくん身長も大きいからさぞかしあそこも……うふふ」
「にしししし」
「あはははは」
…………報告もとい単なる猥談でした。しかし、こういった猥談をするのもこの店では見慣れたもの。殆どのカップルは男女の甘い空間で胸一杯になっているので然程耳にも入らず。されど、店で働くショウは嫌でもその猥談が耳に入ってしまい引き攣った笑みを浮かべてしまう。
成るべく関わらないようにしよう……そう思った矢先だ。
「ショー、アリスにシュークリームをお願いします!」
「あ…はーい!」
話に関わらないでおこうと誓っても、客の接待を拒否する訳にはいかない。現在熊子はカウンターでお客の代金を受け取ったりするレジの係りで手が離せない。となれば必然的にショウが行くしかないのだ。
(まぁ、シュークリームを渡してすぐに離脱すれば問題ないよね……)
ショウがしなければならない仕事はまだまだあるのだから、客の接待に長い時間を掛けられないのも事実だ。
そう自分に言い聞かし、ショウはアリスの注文通りにシュークリームを運んで行くのであった。
「お待たせしました、シュークリームです」
「わぁーい! 有難うー!」
無邪気に喜びショウが持ってきたシュークリームに齧り付くアリス。魔物娘とは言えその姿はケーキに喜ぶ子供そのものだ。ショウが洋菓子店を営んで一番嬉しかったのは、美味しいケーキを食べて喜ぶ子供や人々の笑顔が見れた事に違いない。
「では、これにて―――」
「ショー、あんた良い尻しているよなぁー」
もぎゅっ もみもみもみ……
「………あのー、何をしてらっしゃるので?」
「ん? あー、気にしなくても良いよ。普通に尻触っているだけだから。それに僕元々は男だったから大丈夫大丈夫」
「それ以前にこちらの仕事が出来ないんですけど―――」
「あら本当、とっても形の良い可愛いお尻だこと……」
さわさわさわさわさわ……
「あの………そちらも何で触るんでしょうか?」
「気にしなくても良いわよぉ、別に食べたりする訳じゃないから。けど、桃のように形の良いお尻ねぇ。弾力もあるし…うふふ、可愛いわぁ」
すぐに離れれば大丈夫だろうと言い聞かしたが、それは甘かったとショウは後悔した。シュークリームを頬張るアリスに見惚れている間に彼のすぐ傍に近付いていたアルプとダークプリーストが彼のお尻に触れていた。
何処かのセクハラ親父のような仕草であるが、これもまた此処の店ではよく見られる光景であり他のお客達も然程珍しそうに見詰めたりはしない。寧ろ自分達の事で頭が一杯のようだ。
ショウ自身もこのようなセクハラは店をオープンして以来何度も経験しているので最早慣れっこだ。只さっきも言ったように他にも仕事があるので一々魔物娘のセクハラに付き合っていられない。
何よりショウが気にしているのは仕事のことだけではない。もう一つ自分のセクハラによって気にしなければならないことがあるのだ。
(僕が他の魔物にセクハラ受けると……熊子が一番不機嫌になるんだよなぁ〜)
「失礼します、お客様」
ショウが気にしていた不安は正にその直後に的中した。その言葉は極めて綺麗な言葉遣いの筈なのだが、何処かドスを利かせた上に有無を言わせぬ雰囲気を纏っており、ショウに好き放題セクハラ三昧のアルプとダークプリーストの手がピタリと止まる。
そして二人とも錆びたブリキ人形のようにゆっくりと首を横に向け、視線をショウの後ろにやれば………そこには笑顔のグリズリーが居た。但し、その瞳には怒気と殺気を充満させて。
「ショーはこれから夕方のケーキ作りに入りますので、申し訳ありませんがお手を御放し頂けませんでしょうか? 何でしたら“私が”お相手させて頂きますが?」
「「ハイ、スミマセン」」
仮にも相手はサキュバスの亜種二人。相当の魔力だって有しているだろうに、熊子は持ち前の殺気と怒気で彼女達を黙らせてしまった。
そして熊子の迫力に負かされた二人はサッとショウのお尻から手を引き、何事も無かったかのように装いながらテーブルの上に置かれたケーキを黙々と食べるのであった。
ショウもセクハラに解放されてホッとしつつ、仕事場に戻る途中で熊子の耳にボソリと一言。
(有難う、助かったよ)
たった一言のお礼ではあるが、それを聞いた熊子は嬉しそうに微笑んだそうな。
その後も客の接待とケーキを買って帰る人間や魔物娘の対応に追われ、どうにかして最後のお客が店を後にしたのを見送って閉店したのは夜の7時過ぎであった。都会の洋菓子店に比べると少し速過ぎる感もあるが、今まで多くの人にケーキを売ったり接待していた二人の体力も限界に近付いており、ここらで閉店するのが丁度良い頃合だった。
後片付けも終わらせ、明日に向けての開店準備も一通り済ませたら今度こそ本日の営業は終了を迎える。
そして遅い晩御飯を食べて風呂に入り、後は寝るだけなのだが………今夜はショウが熊子へサプライズを用意しているようだ。
何時も通り二人がご飯を食べ終えて後片付けをし、後は風呂に入って寝るだけの所まで来た時だ。突然ショウは懐かしい思い出を振り返るようにポツリと呟いた。
「そういえば熊子、今日で丸一年だねぇ」
「? 何が丸一年なの?」
ショウの言葉の一年の意味が分からず熊子は首を傾げるが、次に出て来たショウの言葉によって彼女は全てを理解する。
「熊子が此処に来て一年経ったんだよ」
「あっ! そう言われるとそうだね〜」
ショウに言われて初めて気付き、熊子は恥ずかしそうにてへっと笑みを零した。そして熊子はあの時の思い出を振り返り、ポッと頬を赤く染める。
「この森で出会ったんだよね〜、あたし達」
「そうそう、その時の熊子はグリズリーの野生剥き出しだったけどね」
「あ、あの時は蜂蜜を食べたばかりだったから仕方なかったの!!」
ショウはケラケラと笑いながら平然と言ってのけるが、当の熊子にしてみれば恥ずかしい以外の何物でもない思い出だったようだ。
今から一年前、一人前として認められ独立したいと願うショウは店を構えたいと考えていた。だが、修行の場としていた都会に良い立地条件が見当たらず悩んでしまう。
しかし、幾ら考えても悩んでも立地条件が改善する訳ではないので気分転換に少し離れた森の中へ散歩をしていた時に……蜂蜜を腹一杯に食べて興奮した熊子と出会った。
グリズリーはハニービーやアルラウネが作り出す媚薬入りの蜂蜜を好んでおり、それを食べる度に彼女達は性的興奮を得てしまうのだ。これが先程言っていたグリズリーの凶暴化現象の原因である。
そんな状態になっている所にショウがバッタリと出会ってしまったのだ。勿論その後は魔物娘らしく性欲を剥き出しにした熊子はショウに襲い掛かり、そのまま森の中で彼と無理矢理交尾してしまった。
こんな初対面ならば普通トラウマになってもおかしくない筈なのだが、ショウ自身は何事もなかったかの如く平然と彼女に接している。いや、それどころか出会った瞬間から予想外の感情が芽生えてしまっていた。
初めは可愛らしい顔や子熊のような姿などといった見た目による愛嬌に見惚れ、無理矢理な交尾になってからは快楽に夢中になって無意識にショウを求めてくる姿に愛おしさや愛くるしさなどの感情がごちゃ混ぜになって……結果彼女を好きになっていた。
そして彼女を大好きになったトドメというか、決定打になったのは交尾を終えてのほほんとした性格に戻った瞬間の一言だった。
『はぁ〜、お兄さんのとっても気持ち良かった〜』
未だに互いの性器同士が繋がったままだと言うのに気の抜けた台詞を発する若いグリズリーにショウの心臓が跳ね上がる。
先程まで飢えて凶暴となった熊の如く自分の体を貪っていたグリズリーが、子供に好まれるテディベアのように無邪気で可愛い笑顔を浮かべて『気持ち良かった』と言ってきたのだ。
ギャップの違いが萌えるとはよく聞くが、それに激しく同意したのはこの日以外に無かった。
そして今度は逆にもっと交尾したくて堪らなくなったショウが彼女を押し倒し、彼女の体を美味しく頂いたそうな。蜂蜜のせいだとも言われているし、ショウの性欲が凄まじいとも言われているが事実は定かではない。
「でも、あの後のショーも激しかったよ〜?」
「そりゃ僕も男だからね。可愛くて大好きな子を前にしたら凶暴な雄になっちゃうって」
「も〜、ショーってば……。でも、あたし嬉しかった。ショーと出会えて、熊子って名前も貰えたし」
「そっか……。そう言って貰えると嬉しいよ」
熊子という名前は最初から彼女自身が持っていた名前ではない。ショウと出会った時、彼から付けて貰った名前なのだ。
生まれて物心付いた時から親は居らず、気付けば森の中に彼女は一人ぼっちで佇んでいた。誰かにああだこうだ言われる心配もないので、のんびりと自由気ままな時間を過ごしていたが―――
やはり寂しさが拭い切れず、自分の寝泊まりしている森の洞穴で静かに涙を流して寂しさが消え去ってくれる日が来る事を祈り続けた。
そして祈りが天に届いたのか、彼女はショウという運命の青年と出会う事が出来た。更に今まで無かった名前まで付けて貰い、彼女は生まれて初めて誰かに名前で呼んで貰う喜びを知った。
その喜びを知ってから今日で丁度一年が経過した。僅か一年であるが、この一年の内にショウは自分の店を持つという夢を実現する事が出来た。森の中という奇抜な場所だった為に最初は不安こそあったものの、熊子の支えもあって店を切り盛し繁盛させる事も出来た。
今日はそういったお礼も含め、熊子と出会えた特別な日、そして熊子と名付けた日を熊子の誕生日として祝いたいと前々から考えていた。
そしてどんな祝いにしようかと考えた末、彼が考えた方法は―――
「熊子、今日はキミにプレゼントがあるんだ。今準備するからちょっと待ってて」
「プレゼント〜? 一体どんなの〜?」
「それは見てからのお楽しみだよ。とにかく此処で待っててね」
そう告げるとショウは立ち上がり夕食のリビングを後にする。残された熊子はショウのプレゼントとは一体どんなものなのだろうか気になり、同時に楽しみでありワクワクしながら彼がプレゼントの準備を終えてやって来るのを只管に待った。
それから五分後……少し時間が掛かっている気もするが、それだけ大掛かりなのだろうという期待も出始め、熊子の楽しみや喜びは段々と膨れ上がっていく。
そして―――遠くの方からショウの声がやって来た。
「熊子お待たせー、悪いけど風呂場に来てくれないかなー?」
「? お風呂場に?」
てっきり誕生日プレゼントを自分の所に持って来てくれるものだと思い込んでいたが、何故かショウはプレゼントを持ってくるどころか熊子に風呂場へ来て欲しいという不可解なお願いをしてきた。
どうして風呂場なのかは分からないが、とりあえず彼の言う通りに風呂場へ向かう事に。すると今度は風呂場へと繋がる脱衣場に籠一つがポンと置いてあり、その籠に『服を脱いで入ってね』とショウの文字が書かれてあった。
「どういう意味だろう?」
風呂場でプレゼントを渡すのだろうか? それとも風呂場でしか渡せないプレゼントなのだろうか? でも、服を脱ぐのは何故か?
様々な疑問が頭の中を過るが手っ取り早く答えを得るには指示に従った方が早そうだと判断した熊子は熊の毛皮のような服を脱ぎ、下半身のスパッツを脱いで全裸となった。両腕と両脚の毛皮は肉体と一体化しているので、このまま入るしかない。
「ショー、準備出来たよー」
「それじゃ入って良いよー」
やはりショウは風呂場に居るらしく磨りガラスの扉で向こう側は全く見えないが、紛れもなく向こうから声がやって来た。
そして何の気兼ねもなく遠慮なしに熊子が風呂場の扉を開けて中へ入ろうとした瞬間―――
「ふわ!?」
扉を開けたのと同時に彼女の鼻孔に入って来た甘ったるい匂い、そして陰部がムズムズして体全体がカァーっと熱くなる感覚。
その匂いと感覚に彼女は身に覚えがあった。いや、染み付いていると言うべきか。これは紛れもなく彼女が大好物としていた媚薬入りの蜂蜜だ。
それはすぐに理解したが、何故に風呂場にてこれ程まで強力な甘い匂いを放っているのかと思いよくよく風呂場を見ると、驚く事に何とバスタブにお湯ではなく蜂蜜が大量に入っているではないか。
そして彼女の好きな蜂蜜風呂の中には、これまた彼女が大好きなショウが肩までどっぷりと入っていた。
「熊子、いらっしゃーい」
「しょ、ショー!?」
ショウは爽やかな笑みを浮かべて熊子に手を振って彼女の登場を歓迎したが、迎えられた熊子は未だに困惑していた。それもそうだ、大好きな人が蜂蜜風呂に入っているのだから……というかそもそもショウが熊子に渡したいプレゼントが何なのか全く理解出来ない。
「ショー、これは……一体……?」
「これが僕から熊子へのプレゼントだよ」
「これって……蜂蜜のこと? だったらお風呂に入れなくても普通に渡したら良いんじゃないの?」
「違うよ、この蜂蜜は特別なんだ」
「特別?」
「うん、特別。多分近くで匂いをよく嗅いだら分かると思うよ」
そう言ってショウが風呂から出ると、彼の体にべったりと黄色い蜂蜜がローションのようにこびり付いていたり、または粘着性が高い液体糊のように糸を引いて床へ落下していく。
それを見ただけで熊子がゴクリと唾を飲む。大好物の蜂蜜に対してもそうだが、蜂蜜に塗れたショウに対しても性欲的に興奮していたのだ。
そしてショウが近付いて来るに連れて彼が言っていた『特別』の意味を知る事となる。
「ウゥッ!!?」
「どう? 違うでしょう?」
近付けば近付いて来る程に蜂蜜の匂いも強くなるが、それ以上に熊子の敏感な嗅覚を刺激したのは彼の体に纏っている蜂蜜から発せられる媚薬の匂いだった。熊子が好む媚薬蜂蜜の匂いが1だとすれば、ショウが纏っている媚薬蜂蜜から放たれる匂いはそれの三十倍はあるだろう。
どうしてそれ程までに強力なのかはすぐにショウ自身が簡潔に説明してくれた。
「僕達の店で販売している蜂蜜は独自の手法で媚薬成分が抽出されているでしょ? 実はこの風呂場の蜂蜜はその抽出してきた媚薬成分を凝縮させて作った特別な蜂蜜なんだ。捨てるのも勿体無いし、売り出すのはちょっと怖いから置き去りにしてあったんだけど……熊子の誕生日祝いに使おうかなーって思って取っておいたんだ」
「そ、そうなんだー……」
ショウの説明に理解を示す相槌を打つものの、最早熊子の思考はまともに働いてはいない。
風呂場に充満する蜂蜜の甘い匂いと通常の何十倍にも及ぶ強烈な媚薬の香りが彼女の思考を麻痺させ、体も熱い湯を一気に注ぎ込んだかのように火照り出し、表情も熱でもあるかの如く頬を赤くさせてトロンと緩んだものになっていく。また何もしていないのに息も荒々しくなっている。
下半身の中心が性欲を訴えるかのようにジンジンと切なく疼き、彼女自身気付いていないのか秘部からは透明の愛液がスーッと太股を伝って零れ落ちている。
いよいよ熊子の誕生日を祝おうとショウが近付くが、熊子は最後の砦とも言える理性を用いて本能から抗った。
「ま、待って! もしこのまましちゃうと……あたし止められない。ショーに酷いことをしちゃうかも……」
本当の事を言えば熊子はショウと一つになってぐちゃぐちゃのどろどろになりたいと思うぐらいに彼を欲していた。しかし、以前から自分は蜂蜜酔いの酷い女だと認識している。きっとこのまま一つになればぐちゃぐちゃどころか、ショウを滅茶苦茶にしてしまうのではないだろうか……そんな不安が彼女の中にあり、それが理性という最後の砦を守る要素となった。
しかし、その砦もショウの前には無力と化す。
「良いんだよ、酷い事をしても。今日は熊子の誕生日なんだから、僕を熊子の好きなようにしても良いんだよ。それが僕からの誕生日プレゼントなんだからさ」
「ショー……」
そこまで言い終えるとショウは不安げに自分を見上げる彼女に近付き――――大きな体を使って彼女の体をギュッと優しく抱き締め、包み込んだ。
にちゃぁ……
「!!」
抱き締められた直後、彼の体にコーティングされた蜂蜜の液が彼女の体にも伝っていく。すると只でさえ強い媚薬の匂いと大好きなショウの匂いとが混ざり合い、混合した匂いは鼻孔を通って彼女の脳内に凄まじい衝撃で突き抜けていく。
正直言うとその時点で既に熊子はKO状態だった。が、それを知ってか知らずかは定かではないが、ショウは自分の口に凝縮した媚薬交りの蜂蜜を己の口に含んだかと思いきや――――
それを熊子の口へと移して飲ませたのだ。所謂キスのような口移しだ。
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
長い長い口移しに彼女の背筋に甘い電気が駆け巡り、やがて脳の天辺にまで到達した時……彼女の最後の砦である理性は崩壊した。
そして口移しを終えるとショウは彼女を解放し、自身は床の上に置いてあった水をも弾くスポンジマットの上に寝そべり、両腕を彼女へ向けて迎え入れるような体勢を作った。
「熊子、誕生日おめでとう。ショウの蜂蜜漬け……如何かな?」
大好きな人が大好きな蜂蜜に塗れ、しかもグリズリーである自分の目の前で態々寝そべったのだ。それは彼女達種族から見れば自分を食べて下さいと宣言しているようなものだ。
それと先程の口移しで熊子の理性は崩壊しているのだ。最早熊子が躊躇う理由もなければ、遠慮する必要もない。
「頂きますぅぅぅぅ!!!」
ショウの誘いを耳にした直後、熊子は凶暴化したグリズリーへと変身しショウへと襲い掛かる。ちょっぴり怖い気もするが、これもまた可愛い熊子の側面なのだと理解しているのでショウに恐怖心など無かった。
「ぐるるるる!!!」
おぞましい唸り声を上げて圧し掛かってくるが、その後の行動は意外と可愛いものだ。
びちゃっ びちゅっ にちゅっ
熊子の舌が蜂蜜でコーティングされた彼の体を舐め回し、胸や腕を愛おしく、そして美味しそうに舐める姿は自らプレゼントとなったショウを興奮させる。
そして今度は自分の唇へと舌を持ってくると、ショウもそれに応えて彼女の舌に自分の舌を絡ませて彼女を奉仕する。
「ううんっ……はぁっ、んむ、んん〜……はぁっ!」
「んぶ、むぅ……熊子……大好きだ……」
「あ、あたしもぉ……好き……んん!」
今日は彼女の誕生日なのだから彼女の好きなようにさせてやろうと思いつつも、ショウの性器は簡単に言う事を聞いてはくれないようだ。
熊子の舐め回しと強力な媚薬入り蜂蜜のコンボが彼の性器を刺激させ、瞬く間にショウの肉棒は力強く起こり立ってしまう。しかも、起こり立った直後に熊子の性器に肉棒が擦れて彼女の体がビクンと反応してしまう。
元気に天を向く肉棒を見て熊子はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、その肉棒を掴んでは上下に扱き上げる。ゴツイ熊の手とは言え、その掌は柔らかな肉球で出来ているのだ。普通の人間が触れるのとは全く違う感触に、ショウの性器は未知なる世界へと誘われる。
「うふふふ……ショーのおちんちん、逞しくて美味しそう〜」
「く、熊子の肉球も……凄いよっ……!」
「このまま美味しいプリプリミルクを飲むのも良いけど……今日は折角蜂蜜も沢山あるし〜♪」
手扱きでイカされるかと思った矢先、熊子の手はショウの性器から離れて浴槽の中へ。何をするのだろうかとショウが不思議そうに見詰めていたら、熊子は浴槽の中一杯に張られていた蜂蜜を掬い上げ、ホットケーキに蜂蜜をかけるかのようにショウのそそり立つ性器にゆっくりとたっぷりと蜂蜜をかけていく。
そして掌にあった蜂蜜を全部かけ終えると熊子は満足そうに笑みを零し、蜂蜜塗れとなった彼の性器を見詰めた。
「うふふ、ショーのハニーウィンナーの完成〜♪」
「それって……美味しいのかな?」
「美味しいよ〜、だってショーのなんだもん。それじゃ早速頂きます〜……あーん☆」
ショウの性器を口に含むと最初は蜂蜜の甘さが口一杯に広がり、暫く舐め続けるとやがて彼の肉棒の味なのかしょっぱさというか酸っぱさと言うか、人間の汗のような味が熊子の舌にじんわりと広がっていく。
己の一物を蜂蜜塗れにさせられた上に舐め回されるというのはショウも生まれて初めての経験だ。更に媚薬そのものと言っても過言ではない蜂蜜を直にかけられたのだ。性器に熱が籠り、性器の感度がより一層敏感になっている気がする。
(自分で作っておきながらアレだけど……余計な物を作っちゃったかもなぁ)
誕生日プレゼントのおまけにしては危険なものを作ってしまったと軽く後悔するが、性器をしゃぶるのに夢中になっている熊子がそれを知る由もない。熊子のフェラチオは更に過激さを増し、大きくて長いショウの肉棒を喉奥まで咥え込んで扱き始めた。
これには流石にショウも我慢の限界だった。背筋に電気が駆け巡り、快楽が性器へと集中した直後―――
「熊子……! 出るよ!」
「んぐ…! んんぐっ!!」
出ると宣言した矢先、ショウの肉棒の先端からドロドロとした濃い精液が噴き出した。媚薬の影響もあってか普通に熊子とセックスする時に比べて質も量も遥かに多い。
やがて全てを出し終えると熊子はぢゅぽんっと卑しい音を立てて性器から口を放し、ぐちゅぐちゅと口の中でショウが出した精液の味をゆっくりと噛み締めるように味わい……数十秒ほど味を楽しんだ後にゴックンと音を立てて飲み干した。
「ぷはぁ〜、美味しい〜」
「蜂蜜と僕の性器と精子のお味は如何でした?」
「んー、甘さとしょっぱさと苦みの相反し合う味のハーモニーが複雑に絡み合って……とっても濃厚で美味しゅうございました〜」
聞くだけでは冗談のやり取りのようにも聞こえるが、ご満悦な彼女の顔を見るととても冗談で言っているようには聞こえない。
そしてチラリとショウの性器を見ると未だにそれは力強く天を突かんばかりにそそり立っており、逞しい彼の性器に触れて熊子は嬉しそうに微笑む。
「本当にショーのおちんちんは素敵……それじゃそろそろ本番いっちゃいま〜す♪」
「うん、良いよ。思う存分楽しんでね」
そう言って熊子はショウの上へと跨り、いきり立った彼の肉棒を片手で掴んで固定。ショウの肉棒が自分の肉壷に入るよう狙いを定めるや、一気に腰を下ろした。
ぐちゅ……ズチュンッ!
正にそれは一瞬だ。ショウからすれば己の性器全体が柔らかい肉壷に包まれる瞬間が何とも言えず、熊子からすれば自分の性器に逞しい肉棒がGスポットや敏感な部分を擦って入って来る瞬間が何とも言えない。
「ふぁぁぁ! これぇぇぇ……これが堪らないのぉぉぉ!!」
「うぁ! 熊子の中、何時も以上に絡み付く!」
「ふふ…うふふ、ショーのプレゼントのおかげだよ。あたしもこんなに凄いのは初めてぇ〜……」
快楽の衝撃に腰が笑ってしまいどちらも全く動けなかったが、少しして衝撃から抜け出せた熊子がゆっくりと腰を上下に動かし始めた。
互いの性器が互いに気持ちの良い部分を擦り合い、擦る度に背筋に甘美の電気が駆け抜けていく。時々熊子が締め付けを強くしてショウの肉棒を締め上げたと思いきや、今度は逆にショウが弱冠腰を突き上げて熊子の肉壷の最奥を責めていく。
互いに互いを鬩ぎ合うように見えるが、実際には両者ともに相手を気持ち良くさせようという試みを行っているだけであり決して不仲な訳ではない。
そしてショウも熊子もいよいよ絶頂の瞬間がやって来ようとしていた。
「はぁ! はぁ! ショー! 熊子イッちゃう! イッちゃうよぉー!」
「僕も! 僕も出るよ! 熊子! 今から凄いのが出るから受け止めて!!」
「うん! うん! 熊子に出して! 熊子を妊娠させてぇぇぇぇ!!」
お互いに限界が迎えている事を伝え合い、両者共に一気にラストスパートに入った。片や激しく腰を振り下ろし、片や振り下ろされる腰を只管に受け止めて先にイカないように我慢する。
ズチュンッ! ぎゅぅぅぅぅ……!
そして何度目かの腰振りで熊子が腰を深々と振り下ろした直後にキュウゥゥと膣内の締め付けが今までにないぐらいに強まった。どうやら熊子が先に絶頂に達したらしく、その絶頂に誘われるかの如くショウも続けて絶頂に到達した。
どびゅるるるる!!
「ふぁぁぁぁぁ!!」
「くぅぅぅぅぅ!!」
今までにない大量の精液が彼女の膣内へと吐き出され、その快楽に熊子は耐え切れず糸の切れたマリオネットのようにペタンとショウに覆い被さる形で倒れ込んできた。
ショウもこちらに倒れ込んで来る彼女を受け止めて起き上がろうとしたが、恥ずかしい事にショウも未だ嘗て体験した事の無い快楽によって腰が抜けてしまい、すぐに起き上がる事が出来なかった。それでも彼女を受け止め、自分の胸の中に収める事ぐらいは可能だった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
荒い呼吸だけが風呂場に響き渡り、互いの息が整い合ったところで二人は顔を見詰め合いそっと口付けを交わし合う。
そして熊子は未だに体の火照りが収まらないのか、甘えるような声でショウの耳元で呟いた。
「ねぇ、ショー……」
「……何?」
「……もっとしても良い?」
「……うん、良いよ。今日は熊子の誕生日なんだから」
「嬉しい……。ショー、大好き」
「……僕も大好きだよ、熊子」
ショウから許可を貰い熊子は再びショウに跨り彼の上で腰を上下に動かし始める。
その後も熊子の望むがままに膨れ上がった性欲を貪り、只管にショウの愛情を一身に受け止めて最高の誕生日プレゼントを堪能するのであった。
「ショー、大丈夫?」
「うん、大丈夫だけど……ちょっと眠いかなぁ」
熊子を喜ばす為の誕生日プレゼントは一旦風呂場からベッドに移ったもののそのまま翌朝まで続き、気付けば本日の営業時間開始まで残り4時間を切っていた。洋菓子店を営む者としてこの遅刻は致命的だと言えよう。
更に二人はそれまで交尾に夢中で不眠不休だ。ショウの目の下にはどんよりとした黒い隈が出来ているが、熊子は対照的に綺麗サッパリとした表情をしていた。それどころか頬の艶が尋常でないぐらいに明るい。
これもまた魔物娘だからこそなのか、それとも単にタフなだけなのだろうか……。
それはさておき余りにも眠たさそうなショウを心配し、熊子は『今日はお店を休業する?』と提案するがショウは首を左右に振って否定した。
「いや、それは駄目だよ。今日を楽しみにしているお客さんだって居るんだしさ」
「じゃあ、今日も頑張ろっか」
「うん、そうだね。今日も頑張ろうか」
そう言って二人はベッドから起き上がり何時もより遅れた分を取り戻すべく、すぐさま仕事の準備に取り掛かるのであった。
ここは『シュガーフォレスト』―――パティシエの東洋人とグリズリーの魔物娘が営む洋菓子店。午前十時と同時に店は開店し、入って来る人々や魔物娘達にお馴染みの台詞を投げ掛けるのだ。
「「いらっしゃいませ! シュガーフォレストにようこそ!!」」
11/09/01 21:13更新 / ババ