人形×アルプ×人間
最近、自分の師匠が可愛い気がする……そんな風に『嘉山鋼太』が思い始めたのは一週間ほど前の事だ。それ以前は尊敬の念が一番強かった筈なのに、ここ一週間は何故か師匠こと『工藤楓』が可愛く見えて仕方が無い。
但し師匠は男だ。紛れも無い男だ。嘉山よりも年下であり、体付きに至っては同年代の男性と比べれば遥かに細い部類に入る。顔立ちだって童顔だ。女性からは可愛いと言われるかもしれないが、同性から可愛いなんて言葉を投げ掛けられるのは先ず有り得ない。
しかし、そう自覚していた筈の嘉山がここ最近師匠を可愛いと思い始めるようになってしまった。
師匠に見上げられた時の上目遣い、師匠の衣服の隙間から見えるキメ細かい肌、師匠に近付いた時の甘い香り、師匠の一挙一動が可愛く見えてしまう。挙句の果てには師匠が女の子だったら……と危険な想像さえもしてしまう程だ。
「俺……もしかしてヤバい方向に目覚めてるかも？」
嘉山鋼太２５歳、自己嫌悪の真っ最中である。
「いやいや、これは一時の気の迷いってヤツだ。すぐに間違いだって気付くさ。それに俺は師匠の事を尊敬しているんだ。決して恋愛感情なんて抱いちゃいない。うん、そうだ。そうに違いない」
自分が抱いている危険な思惑を振り払い、何度も何度も自分が正常であると言い聞かす。そして上記の台詞を三回か四回程繰り返し、気持ちを落ち着かせた所で嘉山はある建物に入った。言わずもがな、彼の師匠が仕事場としている雑居ビルだ。
「こんちわ〜」
「あ、嘉山くん。いらっしゃい」
何時もの軽い気持ちで師匠こと楓の部屋に足を運んでみれば、相変わらずの仕事熱心な師匠の姿があった。
作業場には修理の為に持ち込まれた玩具や人形、そして製作途中のフィギュアが無数にあり、相変わらずの仕事場の風景に嘉山はホッとした気持ちになった。こういう真面目な仕事の風景を目の当たりにすれば、少しは楓に抱いていた邪な気持ちは和らぐであろうと言う意味で。
「すいません、師匠。こんな夜遅い時間帯に来ちゃって……」
「ううん、寧ろ嬉しいよ。嘉山くんなら何時でも大歓迎だよ」
「そ、そうっすか？」
前回と同じ夜遅くに来たにも拘らず、楓は嘉山の来訪を我が身の事のように喜んでくれた。師匠にそのような事を言われて嬉しい気持ち三割、そして恥ずかしい気持ちが残りを占めた。恥ずかしいというのは楓の台詞に対するものではない。彼の見せた可愛い仕草に思わず心臓がドキッと跳ね上がり、それを意識した事に恥ずかしいと思ったからだ。
大きい瞳が上目遣いでこちらを見、首回りが少しダボ付いた服の隙間から彼の胸元がギリギリで見えている。それに心成しか頬が薄らと朱色に染まっている気がし、結論として言えば……楓の何もかもがエロく見えてしまう。嘉山は自分の意思とは無関係にゴクリと固唾を飲み込んだ所でふと我に返る。
（な、何で俺は興奮しているんだ！？ 欲求不満なのか！？ ああ、そうか。欲求不満だから師匠でさえも可愛く見えるんだな。少し金を貯めたらソープかデリヘルに行って抜いて貰わないとな……）
「嘉山君、どうしたの？ 顔が赤いよ？」
自分の頭の中で自問自答していると、不意に楓から声を掛けられる。そこで意識を戻して正面を見れば、自分のすぐ目の前……それこそ目と鼻の先と呼べる程にまで顔面を近付けた楓が視界に埋め尽くされる。これには嘉山も驚いてしまい、思わず数歩後ずさってしまう。
「え！？ あ！ いや！ 少し喉が渇いたなーって思っただけッスよ！ 今日、あんまし水分摂ってないし！」
「なーんだ、じゃあジュース取って来るね」
嘉山の顔の赤さを喉が渇いた事によるものだと認識した楓はその場から立ち上がり、彼の喉を潤せるジュースを取りにキッチンへ向かう。
（あー、やっぱり駄目だ。俺、師匠を意識し過ぎちゃってる。いや、師匠の事が好きだって心の中で断言しちゃってる）
一人残された嘉山はキッチンへと向かう楓の後ろ姿が見えなくなった頃、盛大に溜息を吐き出した。その溜息に含まれているのは安堵と不安の二つ。苦し紛れの言い訳を信じてくれたと安心する一方で、楓に自分の本心を見抜かれなかっただろうかという不安が心の底から沸々と込み上がって来る。
今まで自分の気持ちは誤りだの間違いだのと言い張って来たが、遂に彼自身も己の内に潜む本心を認めざるを得なくなった。
嘉山もまた楓の事が好きであった。当初、楓に対して抱いていた『好き』は親友としての『好き』であったが、ここ一週間程でそれは恋愛感情の『好き』へ移行してしまっていた。男が男を好きになるなんて有り得ない事だし、あってはならない事だと嘉山自身も認識していた筈だった。故に只管にその気持ちを否定したのだが、誤魔化し続けるのは最早無理だと悟った。
（けど、だからと言ってこの想いを師匠にぶつける訳にはいかねーよなー）
好きだと認めても、唐突に且つ率直に自分の気持ちをぶつければ困るのは他ならぬ相手……楓だ。それを理解している嘉山は自分の気持ちをこのまま隠すべきか、それとも頃合いを見て明かすべきかと悩んでいる所で楓が戻って来た。その両方の手にはコップに注がれたジュースが握られている。
「お待たせ、オレンジジュースで良かったかな？」
「あ、どうも。全然構わないッスよ」
オレンジジュースを手渡され、それを受取ろうと嘉山が手を伸ばすが、嘉山の手が届く直前でコップが楓の手から滑り落ち、コップの中身のほぼ全てが嘉山のジーパンに掛かってしまう。
「うわ！！ 冷た！」
「わぁ！ ご、ごめんなさい！」
突然のハプニングに嘉山も咄嗟に反応出来ず、只自分のジーパンに掛かったジュースを見遣るしかない。これが熱い飲み物なら火傷を負っていたかもしれないが、幸いにも冷たい飲み物だった事で悲劇を免れる事が出来た。
だが、それでもジュースを零してしまったという事実は覆し様がなく、楓は慌てて嘉山のジーパンに手を伸ばした。
「ご、ごめん！ 僕がうっかりしていたせいで！」
「い、いや！ 大丈夫ッスよ！ 全然気にしていないッス！」
「と、兎に角拭かないと……！」
何か拭ける物は無いかと辺りを見回すと、楓の目に作業場に置かれてあった無地のタオルが飛び込んでくる。即座にそれを手に取ると、嘉山のジーパンを必死になって擦る。
「ごめんね、シミになっちゃうかもしれない……」
「だ、大丈夫ッスよ！ これぐらい気にしないッス！」
楓は必死にジーパンにタオルを押し当ててゴシゴシと擦るが、液体がジーパンの生地に染み込んで取れない。最早、こうなってしまったからには仕方がないと諦めざるを得ない。
しかし、それでも楓は何度も何度もタオルをジーパンに押し当て擦り上げる。それを見て嘉山はもう良いと叫ぶが、楓の手は止まらない。恐らく楓は自分のせいで嘉山のジーパンがシミになってしまう事に責任感を覚え、少しでもシミを落とそうとしているのだろう。だが、当の嘉山自身はそんな考えを抱く余裕など無かった。
（し、師匠の手が……ジーパン越しに俺のチンポに……！）
楓が必死になって擦れば擦る程、その手の感触が嘉山の股間にある性器にダイレクトに直撃するのだ。これが普通の男ならば引いてしまうだろうが、相手は師匠であり禁断の恋心を抱いている楓だ。彼に撫でられれば撫でられるほど股間が熱くなり、自分の男性器が硬くなっていく。
「……あっ」
「やば……！」
嘉山の男性器が最大限に勃起した所で楓の手が止まり、こんもりとテントを張っているジーパンの頂点に二人の視線が注がれる。男に男のイチモツを触られて勃起するなんて、普通の人間は気持ち悪いと捉えるだろう。即ち、楓に悪印象を抱かれてしまったのではと危惧した。
「し、師匠！ これは別に疚しい気持ちとかそういう意味じゃないんッスよ！ 男性の本能と言いますか……そう、刺激を受けて反射的に大きくなってしまったんッスよ！」
嘉山は必死になって楓に自分の勃起について訴えるが、楓からは何の反応も返って来ない。まさか幻滅されたのではと最悪の事態を想像し、みるみると嘉山の表情から色が失われていく。
「ごめんね、僕のせいでこんなに苦しくさせちゃって……」
「いえ、ですから師匠のせいじゃ………へ？」
てっきり幻滅されたかと思いきや、楓から返って来たのは優しい言葉。そして言葉と共に、彼は嘉山の膨れ上がっている股間を優しく愛おしくジーパン越しに撫で始めたではないか。
「あの……師匠？」
「大丈夫、僕が楽にしてあげるから…ね？」
楓が取った行動を冗談の類だと思い込みたかったが、本人の手がジーパンのチャックに掛けられた瞬間にその可能性は潰えた。流石にこれはヤバい、咄嗟に楓の手を掴んで止めようとしたが―――
「あらぁ、駄目よぉ。楓ちゃんの願望の邪魔をしちゃあ」
「！？」
何処からともなく自分でも、ましてや楓でもない第三者の声が聞こえてきた。その声に反応して、楓を制止しようとしていた手を止めて振り返ってしまう。だが、何処から聞こえてきたのかも分からない声だ。振り返っただけでは声の主を発見する事は叶わなかった。
すると、嘉山が声の主を探して余所見をしている間に、何処からともなく細いワイヤーのようなものが彼の両手首に絡まり付き、更に今度は両手首を縛ったのと同じものが体に巻き付き、そのまま彼を床に引っ張り倒す。
「な、何だこれ！？ ワイヤー！？」
「違うわよ、私の髪の毛よ」
「！？」
あっという間に自由を封じられてしまった嘉山の耳に再度あの第三者の声が飛び込み、辺りを見回すがやはり見当たらない。
一体何処から聞こえるのかと必死に探していると、不意に彼の腹部の上に何かが着地した。腹部の違和感を感じ取り、そちらへ目を遣って見ると、自分の腹の上に長い銀髪と紫色のドレスが似合う西洋人形が立っていた。
「！？ に、人形！？」
「あら、人形という愛想の無い呼び方は辞めて欲しいわね。仮にも女の子なのよ、私は」
「しゃ、しゃ、喋ってる！？」
人形が自分の腹部の上に立っているという状況だけでも驚きなのに、挙句には人形は自分の意思で動き、自分の意思で言葉を発しているではないか。常識から逸脱した光景を目の当たりにし、嘉山の口は閉ざす術を忘れてしまったかのように開きっ放しだ。
「あらあら、今度は貴方が人形みたいになっちゃったわねぇ。そんなに私の事が驚いたの？」
「あ、当たり前だ！ というか、お前は誰だ！？」
「私はリビングドールのリリィ。楓ちゃんと大の仲良しなの。そして楓ちゃんの欲望を叶えつつ、楓ちゃんの恋をエスコートするキューピットでもあるのよぉ」
「リビングドール？ 欲望？ キューピットォ？」
聞き慣れない魔物娘の名前や、リリィの言っている言葉の意味が分からず、嘉山の頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされる。が、その疑問も彼の意識は股間に走った快感で一瞬にして掻き消されてしまう。
視線を自分の股間へ戻してみると、そこにはジーパンのチャックを下ろして嘉山のイチモツを愛おしそうに取り出している楓の姿があった。
「ちょ！ 師匠……！？」
「はぁ、これが嘉山くんのおちんちん……」
自分のイチモツを蕩け切った甘い表情で眺める楓に一瞬欲情してしまいそうになる嘉山だったが、すぐに頭を左右に振って理性にブレーキを掛ける。
「師匠！ この……ええっと……リビング何とかっていう奴に何かされたんッスか！？」
「リビングドールよ、それとあたしの事はリリィって呼んで頂戴。あともう一つ付け加えると、私は何もしていないわ」
「う、嘘を付くな！ 師匠が男のチンチン持ってウットリする訳がねぇッス！」
「あら、心外ね。先に結論から言わせてもらうと、こうなったのは貴方のせいなのよ」
「はぁ！？ い、意味が分かんねぇッス！」
楓の言動がエロくなってしまったのも、自分のペニスを握って今にも食ってしまいそうなまでに顔を近付けているのも、全てが自分の責任だと言われても嘉山は納得出来ないし、またリリィの言っている言葉の意味を理解出来る筈がなかった。
思わず意味が分からないと声を張り上げると、リリィは妖しげな笑みを浮かべて言葉を付け足した。
「じゃあ、見せてあげる。これが楓ちゃんの本当の姿よ」
リリィの台詞を引き金に、嘉山のペニスを握り締めていた楓の体に異変が表れた。
真っ黒だった髪の毛が金髪へ変色していき、頭部から羊のような角が生え出てきた。体付きは丸みを帯び、胸も薄らと膨らんでいる。
ダボダボの少しダサめの衣服も一瞬にして変わってしまった。ミニスカートと同じぐらいに短いパンツに、上の服はほぼ裸と言っても過言ではないぐらいの露出度の高い服だ。
そして極め付けに背中から生えた黒い翼に、尾骨辺りから伸びている黒い尻尾。
師匠と崇めていた人物が悪魔へと変身していく一部始終を目の当たりにし、嘉山の頭の中は真っ白になってしまった。
「な…え…なぁ！？」
「うふふ、驚いた？ これが今の楓ちゃんよ」
「し、しし師匠が悪魔に！？」
「こら、悪魔なんて人聞きの悪い呼び方をしないの！ 正確に言えば楓ちゃんはアルプに生まれ変わったのよ」
「あ、アルプ？」
これまた聞き慣れない魔物の名前に嘉山が眉をへの字に曲げてリリィに聞き返すと、リリィは『そうよ』と言葉を返して彼の耳元の傍で説明してくれた。
「アルプっていうのはサキュバスの亜種みたいなものよ。人間の女に魔力を注いだらサキュバスになり、逆に男だったらインキュバスになるのが普通なの。でも、例外で男に惚れた男や女性になりたいっていう憧れを持つ男がサキュバス化……魔物娘に変身しちゃう事が稀にあるの。それがアルプよ」
「男に惚れた男……って事は、師匠が惚れたのって！？」
「そう、貴方よ。嘉山くぅん♪」
そこで漸くリリィの言葉の真意を理解し、嘉山は衝撃を受けた。師匠がアルプに変身した原因が自分にあったとは。いや、それ以前に師匠と慕っていた人間が自分の事を恋愛対象として見ていた事が驚きであった。
「そんな……でも、どうして俺なんか……？」
「さぁ、そこは楓ちゃん本人に聞いた方が良いんじゃないの？」
リリィに言われて視線を楓の方へ向けると、楓も嘉山の視線に気付いたのか彼の方へ視線を向ける。片手は未だに嘉山のペニスを握り締めたままだが。
「し、師匠……どうして？」
「ごめんね、嘉山くん。僕……嘉山くんとはずっと親友で居ようと、良き友達で居ようと心に言い続けていたけど、本心を抑える事が出来なかったの……」
「本当に……俺の事が好きなんッスか？ でも、俺男ッスよ？」
「知っているよ！ 男が男を好きになるなんて……有り得ないよね、変だよね、嫌だよね、迷惑だよね。でも、これだけはハッキリ言いたい。僕は嘉山くんが好き。大好き。とってもとっても好きなんだ。嘉山くんの人柄や、男らしい所や……嘉山くんの全てが好きなの」
そう言った楓が立ちあがると、只でさえ露出度の高いアルプの服がスゥっと幽霊のように何処かへと消え、楓の裸体が露わとなる。丸みを帯びた肩、ふっくらと膨らんだ胸の突起、そして陰部には男性の象徴ではなく女性の器が存在していた。
嘉山も何度か風俗に行っては女性の裸体を幾度か目にしているが、陰毛も生えていない俗に言うパイパンを間近で見るのは生まれて初めてだった。最も嘉山自身がパイパン＝ロリコンという認識があった為、然程重要視していなかったのだが、楓のそれを見て自ずと胸の動悸が速まった。
「嘉山くん、これが今の僕だよ。君と繋がりたいと心から願うようになって、リリィちゃんの魔力を借りてアルプになったんだ」
楓が自分の手で女性器を広げると、楓の肉壺から零れ落ちた愛液が股を通じて流れ落ちていく。姿形は魔物とは言え、あそこの部分は女性と同じなのだと嘉山は冷静に分析していた。
「ねぇ、嘉山くん。僕と一緒に……繋がろう」
ニコッと笑った瞬間、楓の体から一気に甘い香りが……サキュバスが得意とする誘惑の香りが発せられ、嘉山の鼻孔を通り抜けて脳に直撃する。
（この匂い！ そうか、俺が師匠に興奮したのはアルプになった師匠が発したフェロモンのせいか！）
今まで嘉山が楓の事を変な目で見ていたり、恋心を抱くような心境に陥ったのは自分がおかしくなったのではなく、アルプとなった楓のフェロモンが原因だと気付いた。
「嘉山くん、僕と繋がるの……嫌かな？」
自覚しているのか、それとも無自覚なのか。楓が首を傾げながら答えを求めると、フェロモンの甘い香りは更に濃厚さを増し、嘉山の脳内を浸食していく。そして遂に嘉山は無意識の内に呟いてしまった。
はい―――と。
その呟きを確認したリリィは彼の両腕を縛り上げていた己の髪の毛を解き、彼の耳元で囁いた。
「じゃあ、たっぷり楓ちゃんを愛してあげてね。嘉山くん」
「ふぁあああ！ 嘉山くんのおちんちん凄いよぉ！」
「師匠の中もぐにゅぐにゅしてて……！ 凄く気持ち良いッス！」
「あっ、イク！ イクイク！ イッちゃうぅぅぅぅ！！」
「お、俺も出るッスぅ！！」
サキュバス特有のフェロモンの誘惑に負けた嘉山は性欲に飢えた獣と化し、アルプとなった楓の体を貪り尽くす。既にフェロモンのおかげで頭の中は真っ白になっており、自分が言っている言葉も理解していない。
そして幾度も幾度も楓の中に煮え滾る欲望を放出するが、アルプとなった楓の影響なのか嘉山の精力は衰える事を知らない。いや、寧ろ体を交えれば交える程、性欲が増していると言っても良いぐらいだ。
それを間近で眺めていたリリィは口角を吊り上げて笑みを浮かべると、さぞ楽しげにこう呟いた。
「うふふ、楽しそうだわね。それじゃ私も参加させて貰おうかしら」
リリィの呟きなんて二人の喘ぎ声で掻き消されてしまうが、そんな事はリリィ本人にとってはどうでも良い。只、自分も一緒に楽しめれば良い――――それが彼女の目的であり、唯一の喜びであったからだ。
彼女はヒュッと数本の髪の毛を伸ばし、そのまま髪の毛は吸い込まれるように隣の部屋へ。ガタガタと部屋から音が鳴り現れたのは、人間だった頃の楓が自慰をするのに利用していたお手製の嘉山人形であった。
まるで生きている人間のように人形をスムーズに操作し、嘉山の上に跨いで只管に腰を振り下ろしている楓の背後へ音も無く忍び寄っていく。そして激しく上下に動いていた楓の腰を掴んで動きを止めるや、間髪入れずにもう一つの穴……アナルに人形のディルドを突き刺した。
「ひぎぃ！！？」
「うぉ！？ 師匠のがギュウッって締め付けて……！」
アナルに突っ込まれたディルドによって楓の下半身の穴がギュウウゥッと締め付けられ、嘉山は締め付けの耐え切れず本日何度目かとなる中出しをしてしまう。ビュクンビュクンと音を立てて放出される精液も凄まじいが、それを飽く事無く飲み干してしまう楓の性器も中々のものだ。
嘉山は数回目の射精で息も絶え絶えだが、楓の方はそれどころじゃない。お尻にディルド、女性器に嘉山のペニスという初めての二本刺しを経験し、目を大きく見開き未体験の快楽に意識を維持するのがやっとだ。
「ほぉら、動くわよ〜」
そんな楓の状況などお構いなしと言わんばかりにリリィは無邪気な笑顔を見せ、更なる快楽へ誘うかのように人形の腰を動かし始めた。最初はゆっくりと、そして徐々に人形の腰使いは動きを速めていく。
「あっ！ ああっ！ す、凄い！ 凄過ぎるよコレェ！！」
「ああ、分かるッス！ 先輩の膣の向こう側でディルドが擦れて……その感触がこっちにも伝わって来るッス！」
二穴の快楽を体験出来たのは楓だけでなく、嘉山も同じであった。アナル越しから伝わって来るディルドの感触がペニスの竿を刺激し、今までにない快楽が嘉山を襲う。遂には嘉山もその感触に我慢出来ず、自分から腰を振って楓を再度責め始める。
「ひ、ひぎぃぃぃ！ だ、駄目だよぉ！！ こんなにされちゃったら僕……僕ぅ！！」
「師匠！ 俺、こんなの初めてッス！ もっと気持ち良くなりたいッス！」
「ふぁぁぁ！ ぼ、僕もう駄目！ イク！ イクイク！ イグゥ！！」
「ぐあっ！！」
会話も噛み合わぬ程に激しく乱れ合うその姿は、セックスというよりも獣同士の交尾だ。そして嘉山は楓の最奥に精液を放出し、楓も本物と偽物のペニスが自分の最奥へドズンッと貫かれた瞬間に絶頂に達して彼の体に倒れ込んだ。
二人からは荒い呼吸音が暫くの間響いていたが、やがてお互いに深い眠りに入ったのか大人しい呼吸に変化した。
「ふふ、幸せそうな寝顔をしちゃって」
二人の寝顔を間近で眺めていたリリィは頬杖を付きながら嘉山と楓の頬をツンツンと突いた。リビングドールが有する性癖の一つとして、持ち主に淫らな遊びを教えて一緒に遊ぶというのがあるが、今回のそれで彼女の願いも達成されたも等しい。
だが、一つの願いが達成されたからと言って彼女が満足を得られたのかと言えば、そう言う訳ではない。
「今度は二人の間に出来る赤ちゃんにどんな遊びを教えちゃおうかなぁ〜♪ うふふふ……」
既にリリィの頭には楓と嘉山の間に出来る赤ん坊の姿が存在しており、その子にどんな大人の遊びを教えてあげようかと既に思考を巡らしていた。
だが、そんなリリィの野望が存在するなど……楓と嘉山は知る由も無い。
但し師匠は男だ。紛れも無い男だ。嘉山よりも年下であり、体付きに至っては同年代の男性と比べれば遥かに細い部類に入る。顔立ちだって童顔だ。女性からは可愛いと言われるかもしれないが、同性から可愛いなんて言葉を投げ掛けられるのは先ず有り得ない。
しかし、そう自覚していた筈の嘉山がここ最近師匠を可愛いと思い始めるようになってしまった。
師匠に見上げられた時の上目遣い、師匠の衣服の隙間から見えるキメ細かい肌、師匠に近付いた時の甘い香り、師匠の一挙一動が可愛く見えてしまう。挙句の果てには師匠が女の子だったら……と危険な想像さえもしてしまう程だ。
「俺……もしかしてヤバい方向に目覚めてるかも？」
嘉山鋼太２５歳、自己嫌悪の真っ最中である。
「いやいや、これは一時の気の迷いってヤツだ。すぐに間違いだって気付くさ。それに俺は師匠の事を尊敬しているんだ。決して恋愛感情なんて抱いちゃいない。うん、そうだ。そうに違いない」
自分が抱いている危険な思惑を振り払い、何度も何度も自分が正常であると言い聞かす。そして上記の台詞を三回か四回程繰り返し、気持ちを落ち着かせた所で嘉山はある建物に入った。言わずもがな、彼の師匠が仕事場としている雑居ビルだ。
「こんちわ〜」
「あ、嘉山くん。いらっしゃい」
何時もの軽い気持ちで師匠こと楓の部屋に足を運んでみれば、相変わらずの仕事熱心な師匠の姿があった。
作業場には修理の為に持ち込まれた玩具や人形、そして製作途中のフィギュアが無数にあり、相変わらずの仕事場の風景に嘉山はホッとした気持ちになった。こういう真面目な仕事の風景を目の当たりにすれば、少しは楓に抱いていた邪な気持ちは和らぐであろうと言う意味で。
「すいません、師匠。こんな夜遅い時間帯に来ちゃって……」
「ううん、寧ろ嬉しいよ。嘉山くんなら何時でも大歓迎だよ」
「そ、そうっすか？」
前回と同じ夜遅くに来たにも拘らず、楓は嘉山の来訪を我が身の事のように喜んでくれた。師匠にそのような事を言われて嬉しい気持ち三割、そして恥ずかしい気持ちが残りを占めた。恥ずかしいというのは楓の台詞に対するものではない。彼の見せた可愛い仕草に思わず心臓がドキッと跳ね上がり、それを意識した事に恥ずかしいと思ったからだ。
大きい瞳が上目遣いでこちらを見、首回りが少しダボ付いた服の隙間から彼の胸元がギリギリで見えている。それに心成しか頬が薄らと朱色に染まっている気がし、結論として言えば……楓の何もかもがエロく見えてしまう。嘉山は自分の意思とは無関係にゴクリと固唾を飲み込んだ所でふと我に返る。
（な、何で俺は興奮しているんだ！？ 欲求不満なのか！？ ああ、そうか。欲求不満だから師匠でさえも可愛く見えるんだな。少し金を貯めたらソープかデリヘルに行って抜いて貰わないとな……）
「嘉山君、どうしたの？ 顔が赤いよ？」
自分の頭の中で自問自答していると、不意に楓から声を掛けられる。そこで意識を戻して正面を見れば、自分のすぐ目の前……それこそ目と鼻の先と呼べる程にまで顔面を近付けた楓が視界に埋め尽くされる。これには嘉山も驚いてしまい、思わず数歩後ずさってしまう。
「え！？ あ！ いや！ 少し喉が渇いたなーって思っただけッスよ！ 今日、あんまし水分摂ってないし！」
「なーんだ、じゃあジュース取って来るね」
嘉山の顔の赤さを喉が渇いた事によるものだと認識した楓はその場から立ち上がり、彼の喉を潤せるジュースを取りにキッチンへ向かう。
（あー、やっぱり駄目だ。俺、師匠を意識し過ぎちゃってる。いや、師匠の事が好きだって心の中で断言しちゃってる）
一人残された嘉山はキッチンへと向かう楓の後ろ姿が見えなくなった頃、盛大に溜息を吐き出した。その溜息に含まれているのは安堵と不安の二つ。苦し紛れの言い訳を信じてくれたと安心する一方で、楓に自分の本心を見抜かれなかっただろうかという不安が心の底から沸々と込み上がって来る。
今まで自分の気持ちは誤りだの間違いだのと言い張って来たが、遂に彼自身も己の内に潜む本心を認めざるを得なくなった。
嘉山もまた楓の事が好きであった。当初、楓に対して抱いていた『好き』は親友としての『好き』であったが、ここ一週間程でそれは恋愛感情の『好き』へ移行してしまっていた。男が男を好きになるなんて有り得ない事だし、あってはならない事だと嘉山自身も認識していた筈だった。故に只管にその気持ちを否定したのだが、誤魔化し続けるのは最早無理だと悟った。
（けど、だからと言ってこの想いを師匠にぶつける訳にはいかねーよなー）
好きだと認めても、唐突に且つ率直に自分の気持ちをぶつければ困るのは他ならぬ相手……楓だ。それを理解している嘉山は自分の気持ちをこのまま隠すべきか、それとも頃合いを見て明かすべきかと悩んでいる所で楓が戻って来た。その両方の手にはコップに注がれたジュースが握られている。
「お待たせ、オレンジジュースで良かったかな？」
「あ、どうも。全然構わないッスよ」
オレンジジュースを手渡され、それを受取ろうと嘉山が手を伸ばすが、嘉山の手が届く直前でコップが楓の手から滑り落ち、コップの中身のほぼ全てが嘉山のジーパンに掛かってしまう。
「うわ！！ 冷た！」
「わぁ！ ご、ごめんなさい！」
突然のハプニングに嘉山も咄嗟に反応出来ず、只自分のジーパンに掛かったジュースを見遣るしかない。これが熱い飲み物なら火傷を負っていたかもしれないが、幸いにも冷たい飲み物だった事で悲劇を免れる事が出来た。
だが、それでもジュースを零してしまったという事実は覆し様がなく、楓は慌てて嘉山のジーパンに手を伸ばした。
「ご、ごめん！ 僕がうっかりしていたせいで！」
「い、いや！ 大丈夫ッスよ！ 全然気にしていないッス！」
「と、兎に角拭かないと……！」
何か拭ける物は無いかと辺りを見回すと、楓の目に作業場に置かれてあった無地のタオルが飛び込んでくる。即座にそれを手に取ると、嘉山のジーパンを必死になって擦る。
「ごめんね、シミになっちゃうかもしれない……」
「だ、大丈夫ッスよ！ これぐらい気にしないッス！」
楓は必死にジーパンにタオルを押し当ててゴシゴシと擦るが、液体がジーパンの生地に染み込んで取れない。最早、こうなってしまったからには仕方がないと諦めざるを得ない。
しかし、それでも楓は何度も何度もタオルをジーパンに押し当て擦り上げる。それを見て嘉山はもう良いと叫ぶが、楓の手は止まらない。恐らく楓は自分のせいで嘉山のジーパンがシミになってしまう事に責任感を覚え、少しでもシミを落とそうとしているのだろう。だが、当の嘉山自身はそんな考えを抱く余裕など無かった。
（し、師匠の手が……ジーパン越しに俺のチンポに……！）
楓が必死になって擦れば擦る程、その手の感触が嘉山の股間にある性器にダイレクトに直撃するのだ。これが普通の男ならば引いてしまうだろうが、相手は師匠であり禁断の恋心を抱いている楓だ。彼に撫でられれば撫でられるほど股間が熱くなり、自分の男性器が硬くなっていく。
「……あっ」
「やば……！」
嘉山の男性器が最大限に勃起した所で楓の手が止まり、こんもりとテントを張っているジーパンの頂点に二人の視線が注がれる。男に男のイチモツを触られて勃起するなんて、普通の人間は気持ち悪いと捉えるだろう。即ち、楓に悪印象を抱かれてしまったのではと危惧した。
「し、師匠！ これは別に疚しい気持ちとかそういう意味じゃないんッスよ！ 男性の本能と言いますか……そう、刺激を受けて反射的に大きくなってしまったんッスよ！」
嘉山は必死になって楓に自分の勃起について訴えるが、楓からは何の反応も返って来ない。まさか幻滅されたのではと最悪の事態を想像し、みるみると嘉山の表情から色が失われていく。
「ごめんね、僕のせいでこんなに苦しくさせちゃって……」
「いえ、ですから師匠のせいじゃ………へ？」
てっきり幻滅されたかと思いきや、楓から返って来たのは優しい言葉。そして言葉と共に、彼は嘉山の膨れ上がっている股間を優しく愛おしくジーパン越しに撫で始めたではないか。
「あの……師匠？」
「大丈夫、僕が楽にしてあげるから…ね？」
楓が取った行動を冗談の類だと思い込みたかったが、本人の手がジーパンのチャックに掛けられた瞬間にその可能性は潰えた。流石にこれはヤバい、咄嗟に楓の手を掴んで止めようとしたが―――
「あらぁ、駄目よぉ。楓ちゃんの願望の邪魔をしちゃあ」
「！？」
何処からともなく自分でも、ましてや楓でもない第三者の声が聞こえてきた。その声に反応して、楓を制止しようとしていた手を止めて振り返ってしまう。だが、何処から聞こえてきたのかも分からない声だ。振り返っただけでは声の主を発見する事は叶わなかった。
すると、嘉山が声の主を探して余所見をしている間に、何処からともなく細いワイヤーのようなものが彼の両手首に絡まり付き、更に今度は両手首を縛ったのと同じものが体に巻き付き、そのまま彼を床に引っ張り倒す。
「な、何だこれ！？ ワイヤー！？」
「違うわよ、私の髪の毛よ」
「！？」
あっという間に自由を封じられてしまった嘉山の耳に再度あの第三者の声が飛び込み、辺りを見回すがやはり見当たらない。
一体何処から聞こえるのかと必死に探していると、不意に彼の腹部の上に何かが着地した。腹部の違和感を感じ取り、そちらへ目を遣って見ると、自分の腹の上に長い銀髪と紫色のドレスが似合う西洋人形が立っていた。
「！？ に、人形！？」
「あら、人形という愛想の無い呼び方は辞めて欲しいわね。仮にも女の子なのよ、私は」
「しゃ、しゃ、喋ってる！？」
人形が自分の腹部の上に立っているという状況だけでも驚きなのに、挙句には人形は自分の意思で動き、自分の意思で言葉を発しているではないか。常識から逸脱した光景を目の当たりにし、嘉山の口は閉ざす術を忘れてしまったかのように開きっ放しだ。
「あらあら、今度は貴方が人形みたいになっちゃったわねぇ。そんなに私の事が驚いたの？」
「あ、当たり前だ！ というか、お前は誰だ！？」
「私はリビングドールのリリィ。楓ちゃんと大の仲良しなの。そして楓ちゃんの欲望を叶えつつ、楓ちゃんの恋をエスコートするキューピットでもあるのよぉ」
「リビングドール？ 欲望？ キューピットォ？」
聞き慣れない魔物娘の名前や、リリィの言っている言葉の意味が分からず、嘉山の頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされる。が、その疑問も彼の意識は股間に走った快感で一瞬にして掻き消されてしまう。
視線を自分の股間へ戻してみると、そこにはジーパンのチャックを下ろして嘉山のイチモツを愛おしそうに取り出している楓の姿があった。
「ちょ！ 師匠……！？」
「はぁ、これが嘉山くんのおちんちん……」
自分のイチモツを蕩け切った甘い表情で眺める楓に一瞬欲情してしまいそうになる嘉山だったが、すぐに頭を左右に振って理性にブレーキを掛ける。
「師匠！ この……ええっと……リビング何とかっていう奴に何かされたんッスか！？」
「リビングドールよ、それとあたしの事はリリィって呼んで頂戴。あともう一つ付け加えると、私は何もしていないわ」
「う、嘘を付くな！ 師匠が男のチンチン持ってウットリする訳がねぇッス！」
「あら、心外ね。先に結論から言わせてもらうと、こうなったのは貴方のせいなのよ」
「はぁ！？ い、意味が分かんねぇッス！」
楓の言動がエロくなってしまったのも、自分のペニスを握って今にも食ってしまいそうなまでに顔を近付けているのも、全てが自分の責任だと言われても嘉山は納得出来ないし、またリリィの言っている言葉の意味を理解出来る筈がなかった。
思わず意味が分からないと声を張り上げると、リリィは妖しげな笑みを浮かべて言葉を付け足した。
「じゃあ、見せてあげる。これが楓ちゃんの本当の姿よ」
リリィの台詞を引き金に、嘉山のペニスを握り締めていた楓の体に異変が表れた。
真っ黒だった髪の毛が金髪へ変色していき、頭部から羊のような角が生え出てきた。体付きは丸みを帯び、胸も薄らと膨らんでいる。
ダボダボの少しダサめの衣服も一瞬にして変わってしまった。ミニスカートと同じぐらいに短いパンツに、上の服はほぼ裸と言っても過言ではないぐらいの露出度の高い服だ。
そして極め付けに背中から生えた黒い翼に、尾骨辺りから伸びている黒い尻尾。
師匠と崇めていた人物が悪魔へと変身していく一部始終を目の当たりにし、嘉山の頭の中は真っ白になってしまった。
「な…え…なぁ！？」
「うふふ、驚いた？ これが今の楓ちゃんよ」
「し、しし師匠が悪魔に！？」
「こら、悪魔なんて人聞きの悪い呼び方をしないの！ 正確に言えば楓ちゃんはアルプに生まれ変わったのよ」
「あ、アルプ？」
これまた聞き慣れない魔物の名前に嘉山が眉をへの字に曲げてリリィに聞き返すと、リリィは『そうよ』と言葉を返して彼の耳元の傍で説明してくれた。
「アルプっていうのはサキュバスの亜種みたいなものよ。人間の女に魔力を注いだらサキュバスになり、逆に男だったらインキュバスになるのが普通なの。でも、例外で男に惚れた男や女性になりたいっていう憧れを持つ男がサキュバス化……魔物娘に変身しちゃう事が稀にあるの。それがアルプよ」
「男に惚れた男……って事は、師匠が惚れたのって！？」
「そう、貴方よ。嘉山くぅん♪」
そこで漸くリリィの言葉の真意を理解し、嘉山は衝撃を受けた。師匠がアルプに変身した原因が自分にあったとは。いや、それ以前に師匠と慕っていた人間が自分の事を恋愛対象として見ていた事が驚きであった。
「そんな……でも、どうして俺なんか……？」
「さぁ、そこは楓ちゃん本人に聞いた方が良いんじゃないの？」
リリィに言われて視線を楓の方へ向けると、楓も嘉山の視線に気付いたのか彼の方へ視線を向ける。片手は未だに嘉山のペニスを握り締めたままだが。
「し、師匠……どうして？」
「ごめんね、嘉山くん。僕……嘉山くんとはずっと親友で居ようと、良き友達で居ようと心に言い続けていたけど、本心を抑える事が出来なかったの……」
「本当に……俺の事が好きなんッスか？ でも、俺男ッスよ？」
「知っているよ！ 男が男を好きになるなんて……有り得ないよね、変だよね、嫌だよね、迷惑だよね。でも、これだけはハッキリ言いたい。僕は嘉山くんが好き。大好き。とってもとっても好きなんだ。嘉山くんの人柄や、男らしい所や……嘉山くんの全てが好きなの」
そう言った楓が立ちあがると、只でさえ露出度の高いアルプの服がスゥっと幽霊のように何処かへと消え、楓の裸体が露わとなる。丸みを帯びた肩、ふっくらと膨らんだ胸の突起、そして陰部には男性の象徴ではなく女性の器が存在していた。
嘉山も何度か風俗に行っては女性の裸体を幾度か目にしているが、陰毛も生えていない俗に言うパイパンを間近で見るのは生まれて初めてだった。最も嘉山自身がパイパン＝ロリコンという認識があった為、然程重要視していなかったのだが、楓のそれを見て自ずと胸の動悸が速まった。
「嘉山くん、これが今の僕だよ。君と繋がりたいと心から願うようになって、リリィちゃんの魔力を借りてアルプになったんだ」
楓が自分の手で女性器を広げると、楓の肉壺から零れ落ちた愛液が股を通じて流れ落ちていく。姿形は魔物とは言え、あそこの部分は女性と同じなのだと嘉山は冷静に分析していた。
「ねぇ、嘉山くん。僕と一緒に……繋がろう」
ニコッと笑った瞬間、楓の体から一気に甘い香りが……サキュバスが得意とする誘惑の香りが発せられ、嘉山の鼻孔を通り抜けて脳に直撃する。
（この匂い！ そうか、俺が師匠に興奮したのはアルプになった師匠が発したフェロモンのせいか！）
今まで嘉山が楓の事を変な目で見ていたり、恋心を抱くような心境に陥ったのは自分がおかしくなったのではなく、アルプとなった楓のフェロモンが原因だと気付いた。
「嘉山くん、僕と繋がるの……嫌かな？」
自覚しているのか、それとも無自覚なのか。楓が首を傾げながら答えを求めると、フェロモンの甘い香りは更に濃厚さを増し、嘉山の脳内を浸食していく。そして遂に嘉山は無意識の内に呟いてしまった。
はい―――と。
その呟きを確認したリリィは彼の両腕を縛り上げていた己の髪の毛を解き、彼の耳元で囁いた。
「じゃあ、たっぷり楓ちゃんを愛してあげてね。嘉山くん」
「ふぁあああ！ 嘉山くんのおちんちん凄いよぉ！」
「師匠の中もぐにゅぐにゅしてて……！ 凄く気持ち良いッス！」
「あっ、イク！ イクイク！ イッちゃうぅぅぅぅ！！」
「お、俺も出るッスぅ！！」
サキュバス特有のフェロモンの誘惑に負けた嘉山は性欲に飢えた獣と化し、アルプとなった楓の体を貪り尽くす。既にフェロモンのおかげで頭の中は真っ白になっており、自分が言っている言葉も理解していない。
そして幾度も幾度も楓の中に煮え滾る欲望を放出するが、アルプとなった楓の影響なのか嘉山の精力は衰える事を知らない。いや、寧ろ体を交えれば交える程、性欲が増していると言っても良いぐらいだ。
それを間近で眺めていたリリィは口角を吊り上げて笑みを浮かべると、さぞ楽しげにこう呟いた。
「うふふ、楽しそうだわね。それじゃ私も参加させて貰おうかしら」
リリィの呟きなんて二人の喘ぎ声で掻き消されてしまうが、そんな事はリリィ本人にとってはどうでも良い。只、自分も一緒に楽しめれば良い――――それが彼女の目的であり、唯一の喜びであったからだ。
彼女はヒュッと数本の髪の毛を伸ばし、そのまま髪の毛は吸い込まれるように隣の部屋へ。ガタガタと部屋から音が鳴り現れたのは、人間だった頃の楓が自慰をするのに利用していたお手製の嘉山人形であった。
まるで生きている人間のように人形をスムーズに操作し、嘉山の上に跨いで只管に腰を振り下ろしている楓の背後へ音も無く忍び寄っていく。そして激しく上下に動いていた楓の腰を掴んで動きを止めるや、間髪入れずにもう一つの穴……アナルに人形のディルドを突き刺した。
「ひぎぃ！！？」
「うぉ！？ 師匠のがギュウッって締め付けて……！」
アナルに突っ込まれたディルドによって楓の下半身の穴がギュウウゥッと締め付けられ、嘉山は締め付けの耐え切れず本日何度目かとなる中出しをしてしまう。ビュクンビュクンと音を立てて放出される精液も凄まじいが、それを飽く事無く飲み干してしまう楓の性器も中々のものだ。
嘉山は数回目の射精で息も絶え絶えだが、楓の方はそれどころじゃない。お尻にディルド、女性器に嘉山のペニスという初めての二本刺しを経験し、目を大きく見開き未体験の快楽に意識を維持するのがやっとだ。
「ほぉら、動くわよ〜」
そんな楓の状況などお構いなしと言わんばかりにリリィは無邪気な笑顔を見せ、更なる快楽へ誘うかのように人形の腰を動かし始めた。最初はゆっくりと、そして徐々に人形の腰使いは動きを速めていく。
「あっ！ ああっ！ す、凄い！ 凄過ぎるよコレェ！！」
「ああ、分かるッス！ 先輩の膣の向こう側でディルドが擦れて……その感触がこっちにも伝わって来るッス！」
二穴の快楽を体験出来たのは楓だけでなく、嘉山も同じであった。アナル越しから伝わって来るディルドの感触がペニスの竿を刺激し、今までにない快楽が嘉山を襲う。遂には嘉山もその感触に我慢出来ず、自分から腰を振って楓を再度責め始める。
「ひ、ひぎぃぃぃ！ だ、駄目だよぉ！！ こんなにされちゃったら僕……僕ぅ！！」
「師匠！ 俺、こんなの初めてッス！ もっと気持ち良くなりたいッス！」
「ふぁぁぁ！ ぼ、僕もう駄目！ イク！ イクイク！ イグゥ！！」
「ぐあっ！！」
会話も噛み合わぬ程に激しく乱れ合うその姿は、セックスというよりも獣同士の交尾だ。そして嘉山は楓の最奥に精液を放出し、楓も本物と偽物のペニスが自分の最奥へドズンッと貫かれた瞬間に絶頂に達して彼の体に倒れ込んだ。
二人からは荒い呼吸音が暫くの間響いていたが、やがてお互いに深い眠りに入ったのか大人しい呼吸に変化した。
「ふふ、幸せそうな寝顔をしちゃって」
二人の寝顔を間近で眺めていたリリィは頬杖を付きながら嘉山と楓の頬をツンツンと突いた。リビングドールが有する性癖の一つとして、持ち主に淫らな遊びを教えて一緒に遊ぶというのがあるが、今回のそれで彼女の願いも達成されたも等しい。
だが、一つの願いが達成されたからと言って彼女が満足を得られたのかと言えば、そう言う訳ではない。
「今度は二人の間に出来る赤ちゃんにどんな遊びを教えちゃおうかなぁ〜♪ うふふふ……」
既にリリィの頭には楓と嘉山の間に出来る赤ん坊の姿が存在しており、その子にどんな大人の遊びを教えてあげようかと既に思考を巡らしていた。
だが、そんなリリィの野望が存在するなど……楓と嘉山は知る由も無い。
13/07/21 15:33更新 / ババ