おでん屋と提灯少女
「……ハァ、今日も客が入らぬ」
ギイギイと軋む音を鳴らしながら、夜の誘惑に満ちた街を重い屋台を引いて歩く。しかし、歩けど歩けど客がやってくる様子はない。
この辺りの街中は派手な居酒屋が多いし、こんな古びた屋台にやってくる奴が少ないのは世の常だろう。
俺の屋台にぶらさがった朱色に微かな明かりを放つ『三角、丸、四角』が縦に並んで墨で書かれた『おでん屋』の提灯がまるで寂しそうに風に揺れている。
「やはり、異国でも通用すると思った俺の判断が間違っていたのか」
俺、弥一は限界を感じていた。俺の家はジパングで比較的名の知れたおでん屋をやっていた。しかし、時の流れは残酷で、わざわざ店にまでおでんを食べに来る客はめっきり減ってしまった。
更に、オヤジの死が店にも俺の精神にも多大なダメージを与えた。俺はオヤジの元でかれこれ５年おでんを作り続けてきたが、未だにあの人に味で追いつけないと感じている。その不安が客にも伝わってしまったのか、客足は更に減っていってしまった。
そこで俺は最後の賭けとして、オヤジが店を持つ前に使っていた古びた屋台に秘伝の味付け、そして俺の発案で店先に掲げていた大きな提灯を携えて、一発逆転を狙って『異国』へやってきたのだ。
「味に自信はあるんだが……そもそも客が入らぬのではどうしようにもない……」
ジパングより寒いこの国ならば、温かいおでんはきっと流行る、ここに来る前はそう確信していたのだが、そもそもこの国の人におでんを食べてもらえる機会がほとんどなかった。それというのもこの国で明かりに使われている『電気』というものが原因だろう。
『電気』が取り付けられた店先の看板はピカピカと色とりどりの眩い光を常に放ち続ける事で、夜だというのにまるで昼のような明るさで人々を誘う。ジパングにいた頃は煌々と淡い灯かりで際立っていた提灯も、寂しいほのかな灯かりに成り下がってしまった。
「こんな筈じゃなかった……こんな、筈じゃ……」
あの提灯を店先に置こうとオヤジにねだったのはいつだっただろうか？ 詳しくは覚えていないが、凄く小さい頃だったと記憶している。本当を言えば俺が幼心ながらに提灯のあの優しい朱色の輝きに惹かれ、店先において客引きをするという建前で買って貰ったものだったと思う。
ふと、周囲が暗くなって提灯の灯かりがポウ、と浮かび上がった。どうやら考え事をしながら歩き続けていたので、気がつけば街を抜けて山道に差し掛かっていたらしい。
「……寒い、な。ここは」
おでんを売るために選んだ寒い土地が、逆に俺にとって障害となる。手は悴むし、冷たい風は俺の心にまで染み入る。……今日は店じまいだな。どうせ客なんてきやしない。ふと、鼻先に触れる冷たい感触に気がついた。ああ、雪まで降ってきた、のか。空から白いものが降り注ぐ。
少し意識が遠のき、視界が揺れる。相当疲れているのか、この寒さのせいかはわからない。しかし、こんな状態では営業を続ける事は困難だ。俺は屋台を畳み、提灯の灯かりを消した。……そういえば、腹減ったな……商品に手を付けたくなかったからここんとこロクなもん食ってねぇもんな……。視界がかすみ、二重に広がる。それまで屋台を引いていた筈の体が妙に重たい。
「……寝よう。きっと明日になれば、この状況を打開する……手段……が……」
猛烈な眠気が襲い掛かる。こんな所でロクな装備もなしに寝たらヤバい。寝袋に入らなくては。屋台に備え付けられたカバンから寝袋を取り出そうと手を伸ばしたが、その指はカバンに届かない。
頭がボーっとする。……突如、フッ、と糸が切れたような感覚と共に、体全体に冷たい感覚が触れた。……どうやら、倒れてしまったようだ。立ち上がらなくては、これは、マズイ。このままだと、俺は……
「…………こんな…………筈……じゃ……なかっ……た…………」
搾り出すように、口に出していた。体全身の冷たさを感じながら、絶え間なく降り注ぐ白い雪に反して、視界が黒く染まっていく。ふと、頭に色々な映像がよぎる。次々と流れる映像がどんどん遡って行く。異国へ足を踏み入れた時の記憶、オヤジが亡くなった時の記憶、初めて店に立たせてもらった時の記憶、小さな頃あの提灯を買ってもらって店頭に置いたあの時の記憶…………。
「おやじ！ このちょうちん買ってさ、お店の前におこうぜ！！」
「弥一……正直に言いねぇ、オメーが欲しいだけだろ？」
「う……うぐ、んなことねぇよ！ おれは店の事かんがえてんだよ！！」
「ったくしょーがねぇなぁ……。確かにこれだけでっけぇ提灯なら客引きにゃぁ持ってこいだわな。仕方ねぇ、買ってやるよ。その代わりおめぇ、店の前から持ち出したりすんじゃねぇぞ？」
あれ……この、やり取りは……。
「……弥一、提灯に文字書きてぇんだが、普通に『おでん』でいいか？」
「いやだね！ そんなの普通すぎる！ おやじ、ここはおれにまかせてくれ！ 実は、いい案があるんだ！」
「お、おぃい！ お、オメェ筆と墨なんてどっから……つーか、オメェ自分の名前も書けねぇだろうが！」
「大丈夫大丈夫！ ほら、ここをこーして……どうだ！ コレなら誰が見てもおでん屋だってわかるぜ！！」
……そうか、こいつは、あの提灯をオヤジに買ってもらったときの……。
「三角と丸と四角縦に並べて……オメェ、こ、これでおでんのつもりか……！？ ぷっ、ククク……」
「わ、わらう事ねぇだろ！ しかもちげぇよ！ これはどっからどうみても上からはんぺん、玉子、ちくわだろー！？」
……そういえば、そうだった。あのおでんを示す模様は俺が小さい頃に考えた……。
「ッハッハハハハハ！！ た、確かになぁ！ っククク……こ、こいつは傑作だ！ 気に入った！ 確かにこっちの方が面白れぇ！！」
「わ、笑うなー！ ぜーったい、こいつがあれば繁盛すんだからな！！ 見てろよオヤジ、笑った事をあやまらせてやるからなっ！！」
そんな事も考えていたっけ。この提灯さえあれば、お店が繁盛する。何の根拠もなく、ただ自分がその提灯が大好きだったから、そう信じ込んでいたんだったな……。
ああ、願わくば。あの提灯の優しくおでんのように温かい灯かりがこの国に受け入れられたなら……
そこで、俺の意識は 完全に途絶えた。
「……おーい、起きてくださいよー。風邪引いちゃいますよ？」
誰かが……俺に声をかけている。ボウ、と優しい光がまぶしくて、目を開く。
「俺の屋台が……光ってる？」
紛れもなく、先ほどまで俺が引いていた屋台だった。しかし、灯かりを消した筈なのに屋台は妙に明るく、一度畳んだはずだというのにホカホカとおでんの湯気が出ている。
「よーやく起きてくれましたか大将。立ち上がれますか？」
その屋台から今までに聞いた事のない、まるで鈴の音のような声が俺を身を案じている。先ほどまでは立ち上がる事すら出来ずに意識を失ってしまったというのに、この灯かりを浴びているからか、不思議と体に少し力が戻っていた。
ゆっくりと立ち上がると、声の主であるであろう少女はどうやら屋台の鍋の側、つまり俺が客に対して立つべき位置に立っていた。身の丈は小さく、鍋に少々背が届いていないようで、背伸びをして懸命につゆの中のおでん種を菜箸でつついている。
「……何者だお前……人の商売品に勝手に手を付けやがって」
本来ならもっと声を張って怒るべきだったのだろうが、強烈な空腹と寒さで出そうとしても大声が出なかった。
「まぁまぁお座りになってくださいな、椅子は用意してありますからっ。……おでんをこのお国に広めるのでしょう？ 貴方が倒れてしまってどうするんですか。ほらほら、言ってる間に種が煮立ってきましたよ？ ささ、こちらに来て一緒に食べましょ？」
少女が屋台から離れてこちら側に現れ、いつの間にか用意されていた二つの椅子に座り、鍋の方へ身を乗り出して熱々のおでんがいくつも乗った皿を二つこちら側へ持ってきた。彼女の姿を見て目を丸くすると同時に、何とも言えぬ懐かしさがこみ上げてくる。
可愛らしい顔立ちで、黄色い瞳を持ち、短めに切りそろえられた朱色の髪。頭には長い紐を垂れ下げた珍妙な帽子をかぶり、まるで振袖のように大きく広がる袖を持つその小さな身の丈よりも小さな着物を揺らして歩いてくる。
長い間着物の女性など見ていなかったので、思わず泣き出しそうになってしまう……彼女が人間ではない妖だとわかっていても。それもその筈、彼女は文字通り、燃えていたのだから。腹に大きな炎が一つと、両足にも小さな炎が一つづつ燃え盛り、俺が意識を失っている間に積もっていたであろう雪を溶かしていた。
「さぁさ、たんと食べてくださいよ弥一さん。寒さも空腹も吹っ飛びますよ？」
少女に勧められるがままに、俺は椅子に腰掛け、自分で仕込んだおでん種を一心不乱に口の中へかき込んでいた。噛み締める度に種それぞれのうま味と、染み込んだつゆの香りと熱さが体の芯まで染み込んでいく。美味い、俺の作るおでんはこんなにも美味かったのか？ と疑問に思うぐらいだった。
「熱っ！ ……いやー。いつも見ているだけでしたから、いつかご相伴に預かりたいと感じていたんですがやはりおいしいですね、弥一さんのおでん！」
少女は舌をちろっと出して、無邪気に笑う。正体もわからない妖怪だが、何故かこの娘をみているとどこか安心できる自分がいた。
「ほら、こんなに美味しいんですから、自信持ってくださいな。お父上の遺したおでんを広めたいのでしょう？ これからは私もお手伝いしますからっ！」
少女はカラカラと明るく笑う。しかしこの娘、何故こんなにも俺の事を知っているんだろうか？
「おい、娘。……俺を空腹から救ってくれた事は感謝するが……どうしてそんなに俺の事を知っている？」
「あれあれあれ？ もしやとは思っていましたが、私の正体に気がついていませんでしたか！ いやはや、私としたことがうっかりしていました。てっきりもうお気づきになっているかとばかり！」
彼女は驚いた素振りを見せるが、すぐにクスクスと悪戯っぽく笑い、おもむろに立ち上がってクルリと一回転して見せた。
「ほら、この背中の模様！ ……これって、弥一さんが描いてくれたものですよね？」
「そ、そいつは……！？」
筆で雑に書き殴られた三角、丸、四角が縦に連なった模様。見覚えがないわけがなかった。つい先程までその時の夢を、全く同じ模様を提灯に描く夢を見ていたのだから。
「よーやく、気がついてくれましたか、弥一さん。そうですよ、貴方がお父上に買っていただいた、提灯です♪ まぁ適当に朱里（あかり）とでも呼んでくださいな」
とても信じられないが、目の前でクスクスと笑う朱里と名乗った少女は、あの時俺がオヤジに買ってもらい、今日というこの日までずっと大切に店の看板を勤めてきた提灯だと言うのだ。まさかと思って屋台に目をやる。そこに垂れ下がっている筈の提灯はなくなっていた。
「弥一さんはずーっと、それこそ子供の頃から私を大切にしてきてくれました。いつか、いつか恩返しをしたいなーと思っていたら、弥一さんが行き倒れてしまったではないですか！ これは一刻も早く助けに行かないと！ と強く念じたら、こんな姿になってまして……あはは」
提灯、朱里自体自体を完全に飲み込めている状況ではなかっただろうに、俺に温かい飯を食わせるためにおでんを用意してくれたのか。そう思うと、その小さな彼女に愛おしさがわいて来る。
「……えーと、朱里？ よくおでんが作れたな、お前」
「そりゃあもう！ 弥一さんがおでんを仕込む姿は毎日毎日見させていただいてましたし！」
ただ純粋に、嬉しかった。ただの提灯であった筈の彼女が俺のためにここまでしてくれたなんて……。そう考えるだけで、目頭が潤むのを感じていた。
「弥一さん！ こうしてこんな体を手に入れたからには手伝わずにはいられません！！ 是非是非どんどん私を使ってください！ これからは私が一緒ですよ！」
これからは、一人じゃない。彼女の何気ないその言葉で俺の目からぼたぼたと、勝手に涙がこぼれていく。勿論悲しいのではないし、悔しいのでもない。何よりも、嬉しいのだ。何の脈絡もなしに現れた彼女だったが、長い間ずっと一緒にやってきたあの提灯だと思うと、グッと親近感が増す。オヤジが死んでからずっと一人だった俺は孤独に慣れたものだとばかり思い込んでいたが、どうやらそんな事はなかったようだ。しかし、ふと朱里の腹の炎が少しずつ小さくなっているのに気がついた。
「あ……おい、朱里……？ お前、その炎……なんか、小さくなってないか？」
「え、ああ、これですか！？ アハハ……実はおでんを作るときに七輪の火の元がどーしても確保できませんで……私の炎を少しばかり七輪に提供してたんですよ。そのときにちょっとばかし火を使い過ぎたみたいですねー。この炎が消えたときにどうなっちゃうのかはわからないんですけど、まぁいい事はないでしょうね〜」
「何を呑気に言っているんだお前は！ 俺は妖怪の事はよくわからないが、それって最悪死んじまうかもしれないんじゃねーか！？」
思わず朱里の肩を両手で掴む。すると、朱里は思い切り背伸びをしたかと思うと、俺の顔にぎりぎり届く所で、口付けをした。
「っ……！ おま、何を……！！」
「すいません……弥一さん、私……もう、限界なんです！」
先程までのからからとした笑いとは正反対に、何かを押し殺すように辛そうな顔を見せたかと思うと、ぎゅーっと、俺の身にしがみ付いて離れなくなる。
「私のこの炎は、弥一さん、貴方への愛の炎……。私、欲しいんです。私のご主人様の……弥一さんの『愛』が、愛がないと、私の炎……は……」
小さいとはいえ、女体特有の柔らかさと、不思議と燃え移る事のない彼女の炎の温かさを体全身で感じていた。
「私は弥一さんの事大好きです。好きで、好きで、本当に大好きで、私どうにかなりそうで…………だからどうか……抱いてください。私を使って、どうか気持ちよくなってください。そして、その代わりに……私に『愛』を…………んっ……！！」
気がついた時には、俺は朱里を強く抱きしめ、その身を抱え上げて長く、深く口付けを交わしていた。
「んむ……ちゅ……や、弥一……さん……ん……あぁ……」
「ん……く、あか……り……」
その仕草の一つ一つがあまりにも愛おしくて、俺が提灯に向けていた気持ちの恩返しに現れてくれたと考えるだけでも嬉しくて、彼女が妖である事なぞ気にも留めない。長い長い口付けの後、俺は自分が地べたに横になり、彼女を俺の上に乗せて、『行為』を開始した。
「ぴちゃ……んむ……れる……ん……はぁ、あっ、あぁ！」
彼女はこちらにお尻を向け、自身は既にガチガチに硬くなっている俺の欲望を小さな口で頬張りこみ、懸命に舐めている。びくん、びくんと肉棒に走る快感を感じながら、足の半分まで穿き物を下ろされ、露になった朱里の大切な所に舌を滑り込ませ、その温かさを改めて感じていた。
「っ……くぅっ……！ だ、大丈夫か、あ、朱里……？」
「だ……だいじょぶ……です。弥一さんも……いきたければ……い、いつでも……」
言いながらも、朱里は懸命に俺の反り立つ欲望を陥落させようと舌を滑らせる。とてつもない快楽が俺の欲望に押し寄せてくる。
如何せん、俺にはこういった経験がまるでなく、一部の色本でしか知識がない。しかし、彼女にも気持ちよくなってもらいたい、俺はその一心で彼女の秘部を舌でころころと転がそうと試みる。
「うっ……くっ……ああっ……！！ そ、そこ、いいです、弥一さん……！！ っ……ぺろ……はむっ……んむ……」
俺の舌の動きに応える様に、朱里も舌の動きと肉棒に添えられた手でも動きを付ける。
「く……うぅ……ッ！ あ、朱里……出るっ……！」
しかし、言った瞬間にはもう遅かった。俺の肉棒からたくさんの白い欲望が朱里の小さな口に放出されていく。
「んっ、うぐっ！ んんんんっ！？」
ほぼ同時に朱里も絶頂を迎えたようで、腰をビクンビクンと跳ねさせる。
「あはっ……弥一さんの『愛』を……いただいちゃいました……♪」
朱里はクスリと笑うと、一度出したにも関わらず未だに衰えを見せない我が愚息にゆっくりと手をかけた。
「弥一さん……ください。貴方の最大の『愛』を……、私の全てを、捧げますから……」
朱里は体の向きを替え、俺と対面するような体位となり、それだけ言うと体を全て俺に委ねてきた。俺のいきり立つ愚息に彼女の秘裂が擦れる。ぬらり、とまるで油でも塗られているかのように、彼女のそこはしっとりと濡れていた。
「は……はぁ……来て……ください、弥一……さん！」
彼女のその言葉に誘われるがままに、俺は自分のそれを割れ目へあてがう。
「じ、じゃあ……行くぞ」
腰に力を入れて、ゆっくりとその小さな蜜壺の入り口に割って入っていく。押し開くようにして勧めていく。
「んぐっ……！！ 弥一さん……ください……私に……『愛』を……！！」
朱里の言葉を受けて、俺の愚息は更に元気を増し、俺自身のタガも外れて、俺の欲望を一気に突き立てた。
「ん……くっ……あ、ああああああっ！！」
朱里の顔が明らかに苦痛で歪む、見ると、一筋の赤い雫が流れていた。考えてみればすぐにわかる事だった。朱里が『この姿』で現れたのは今日この日なのだから、経験なんてあるわけがない。
「う、ううん……く……はぁ……はぁ……」
「あ、朱里、大丈夫か……？」
朱里の中はとても熱くて、きつい。押し戻されるような感覚と共に肉壁が大きくうねり、今までに感じた事のないような快楽へ誘う。
「だ、大丈夫……ですから……弥一さんの……好きなように……！！」
まるで、俺の頭まで燃え上がるような感覚に襲われる。体の全てが朱里で満たされている。俺と繋がる事によって朱里の小さくなっていた炎が激しく燃え上がり、頭が、全身が沸騰しそうなほど更に熱くなる。
「朱里……朱里ッ……！」
「はっ、あっ、ああっ！ く、うぁあっ！！」
俺の腰が浮く度々、朱里はその小さな体を震わせながらくねらせる。もっと朱里を感じたい、もっと突き立てたい、そのような願望に溺れそうになるのを必死に堪える。絶え間なく押し寄せる、先程の愛撫とは比べ物にならない猛烈な快感が解き放たれそうだ。
「やっ……いち……さんっ…………！ わ、わた、わたひ……もう……っ！！」
「あ、ああ……！ 一緒にっ……イこう……！ くっ、う、あぁぁぁぁっ！」
出る……。そう思ったその時には、はち切れんばかりに膨らんだ俺の欲望が、彼女の体の中で一気に破裂し、最大級の快楽が訪れた。熱く白い欲望が朱里の膣内を満たしていく。
「は、あ、ああああああぁぁぁっ！！」
朱里も、最上の快感へ達したようだ。びくびくと振るえ、崩れ落ちるようにして俺の体へぐったりと倒れこんでくる。
「は、ああ……出て……ます。弥一さんの……熱い……『愛』が……」
なんて幸せなのだろう、俺は。最後は少し朱里が強引に攻めてきたとはいえ、一人の女の子に、ここまで愛され、求められる経験なんて今までに一度もなかったのだから。
ゴウ！ と突如朱里の腹の炎の大きさが一気に大きくなった。立ち上がろうとする俺の胴体を、彼女の細い手と足でガッシリと捕まってしまう。
「さぁ……第二回戦と行きましょう、弥一さん！」
「……は？ え、あの朱里……さん？ 俺、ちょっとそろそろ限界で……」
「何を言っているんですか！！ 私、燃えてきましたよ！ 夜はまだまだ長いですし……私をもっと使って、そしてたくさんの『愛』をくださいね♪」
「う……うわぁぁぁぁああっ！！」
こうして、回数を重ねるごとにどんどん勢いと情熱を増していく朱里とのまぐわりは、朱里の体力が尽きるまで続けられるのであった……。
「……おぉ、クラムさんじゃないか。今日も商売かい？」
それから数ヶ月後、太陽が傾いて夜の帳が今まさに降りようとしている時、一人の行商人が北国のとある町に訪れると、顔を知っている商売仲間に声をかけられた。
「ああ、あんたはいつかの。ああ、ちょいとうちのワーシープの毛で編んだ毛布を売って来たんだ」
ワーシープ、という言葉が出ると、行商人の後ろから、ひょこっと白い毛皮と丸まった角の生えた少女が顔を出した。
「お、今日は嬢ちゃんも一緒かい？ 普段は街についたらすぐに宿に預けてるそうじゃないか」
「ま、こいつの能力は商売には邪魔だからな……今日はこいつの要望で、商売のカタがついたらここで食えるっつー東洋の食い物を二人で食べに行く事になっているんでな」
ぽんぽんと叩くようにして彼女の頭を撫でてやると、彼女は「むふ〜」と心底癒された表情をし、行商人に擦り寄る。
「はは、前に見た日とおんなじだ、今日もおアツいねぇ？ だが、その東洋の食べ物『オデン』って奴も相当熱いぜ。体がポッカポカになる上にすごく美味い」
行商人は少し照れたような反応を見せた後で、『オデン』という未知の食べ物に非常に興味を持った。
「ほぅ？ 評判どおりじゃないか。是非俺の商品に加えられないか店主に聞いてみるとしよう」
「はははっ！ クラムさん、あんたオデンがどんな食べ物だか知らないんだね？ あれは行商人じゃぁ売るのはきついかもだぜ。まぁとにかく行って見るといい！ それに、あの店にはジパングからやってきた妖怪の娘が呼び込みをやっとるんだが……それが偉いべっぴんさんでなぁ、おまけにそこにいるだけでなんだか心が暖かくなる光を放ってんだから不思議なもんだ。ありゃ『電気』よりもよっぽどいいぜ」
商売仲間の男はその光の良さを思い出したのか、ニカッと笑ってみせる。
「そいつはいいな。この国のあの電気って照明はギラギラしすぎていてどうにも好かない。そういう優しい灯かりの方が、客の入りは良いだろう」
行商人は自分の商売人的な考え方に自身で呆れながら、ふぅ、と息を漏らす。一日中歩き回っていたので彼も疲れているのだ。
「ねぇ、クラムー。はやく食べに行こうよ〜」
「……お前に急かされちゃおしまいだ。じゃあ、これで失礼しますよ」
三人は別れ、行商人達は朱く優しい灯かりに誘われて、夜の街を歩く。
「いらっしゃいませー！ 『おでん屋 ともしび』はこちらですよーっ！」
鈴の音のような高く凛とした元気な声が、街中に響き渡る。ちょっと頑固な店主と小さいけど元気でちょっと健気な提灯お化けが切り盛りする小さなおでん屋は、今日も大盛況。大きな提灯は、三角、丸、四角が縦に連なった変わった模様を誇示しながら、電気たちには負けじと今日も温かくて優しい灯かりで夜の街を照らし続けている――
ギイギイと軋む音を鳴らしながら、夜の誘惑に満ちた街を重い屋台を引いて歩く。しかし、歩けど歩けど客がやってくる様子はない。
この辺りの街中は派手な居酒屋が多いし、こんな古びた屋台にやってくる奴が少ないのは世の常だろう。
俺の屋台にぶらさがった朱色に微かな明かりを放つ『三角、丸、四角』が縦に並んで墨で書かれた『おでん屋』の提灯がまるで寂しそうに風に揺れている。
「やはり、異国でも通用すると思った俺の判断が間違っていたのか」
俺、弥一は限界を感じていた。俺の家はジパングで比較的名の知れたおでん屋をやっていた。しかし、時の流れは残酷で、わざわざ店にまでおでんを食べに来る客はめっきり減ってしまった。
更に、オヤジの死が店にも俺の精神にも多大なダメージを与えた。俺はオヤジの元でかれこれ５年おでんを作り続けてきたが、未だにあの人に味で追いつけないと感じている。その不安が客にも伝わってしまったのか、客足は更に減っていってしまった。
そこで俺は最後の賭けとして、オヤジが店を持つ前に使っていた古びた屋台に秘伝の味付け、そして俺の発案で店先に掲げていた大きな提灯を携えて、一発逆転を狙って『異国』へやってきたのだ。
「味に自信はあるんだが……そもそも客が入らぬのではどうしようにもない……」
ジパングより寒いこの国ならば、温かいおでんはきっと流行る、ここに来る前はそう確信していたのだが、そもそもこの国の人におでんを食べてもらえる機会がほとんどなかった。それというのもこの国で明かりに使われている『電気』というものが原因だろう。
『電気』が取り付けられた店先の看板はピカピカと色とりどりの眩い光を常に放ち続ける事で、夜だというのにまるで昼のような明るさで人々を誘う。ジパングにいた頃は煌々と淡い灯かりで際立っていた提灯も、寂しいほのかな灯かりに成り下がってしまった。
「こんな筈じゃなかった……こんな、筈じゃ……」
あの提灯を店先に置こうとオヤジにねだったのはいつだっただろうか？ 詳しくは覚えていないが、凄く小さい頃だったと記憶している。本当を言えば俺が幼心ながらに提灯のあの優しい朱色の輝きに惹かれ、店先において客引きをするという建前で買って貰ったものだったと思う。
ふと、周囲が暗くなって提灯の灯かりがポウ、と浮かび上がった。どうやら考え事をしながら歩き続けていたので、気がつけば街を抜けて山道に差し掛かっていたらしい。
「……寒い、な。ここは」
おでんを売るために選んだ寒い土地が、逆に俺にとって障害となる。手は悴むし、冷たい風は俺の心にまで染み入る。……今日は店じまいだな。どうせ客なんてきやしない。ふと、鼻先に触れる冷たい感触に気がついた。ああ、雪まで降ってきた、のか。空から白いものが降り注ぐ。
少し意識が遠のき、視界が揺れる。相当疲れているのか、この寒さのせいかはわからない。しかし、こんな状態では営業を続ける事は困難だ。俺は屋台を畳み、提灯の灯かりを消した。……そういえば、腹減ったな……商品に手を付けたくなかったからここんとこロクなもん食ってねぇもんな……。視界がかすみ、二重に広がる。それまで屋台を引いていた筈の体が妙に重たい。
「……寝よう。きっと明日になれば、この状況を打開する……手段……が……」
猛烈な眠気が襲い掛かる。こんな所でロクな装備もなしに寝たらヤバい。寝袋に入らなくては。屋台に備え付けられたカバンから寝袋を取り出そうと手を伸ばしたが、その指はカバンに届かない。
頭がボーっとする。……突如、フッ、と糸が切れたような感覚と共に、体全体に冷たい感覚が触れた。……どうやら、倒れてしまったようだ。立ち上がらなくては、これは、マズイ。このままだと、俺は……
「…………こんな…………筈……じゃ……なかっ……た…………」
搾り出すように、口に出していた。体全身の冷たさを感じながら、絶え間なく降り注ぐ白い雪に反して、視界が黒く染まっていく。ふと、頭に色々な映像がよぎる。次々と流れる映像がどんどん遡って行く。異国へ足を踏み入れた時の記憶、オヤジが亡くなった時の記憶、初めて店に立たせてもらった時の記憶、小さな頃あの提灯を買ってもらって店頭に置いたあの時の記憶…………。
「おやじ！ このちょうちん買ってさ、お店の前におこうぜ！！」
「弥一……正直に言いねぇ、オメーが欲しいだけだろ？」
「う……うぐ、んなことねぇよ！ おれは店の事かんがえてんだよ！！」
「ったくしょーがねぇなぁ……。確かにこれだけでっけぇ提灯なら客引きにゃぁ持ってこいだわな。仕方ねぇ、買ってやるよ。その代わりおめぇ、店の前から持ち出したりすんじゃねぇぞ？」
あれ……この、やり取りは……。
「……弥一、提灯に文字書きてぇんだが、普通に『おでん』でいいか？」
「いやだね！ そんなの普通すぎる！ おやじ、ここはおれにまかせてくれ！ 実は、いい案があるんだ！」
「お、おぃい！ お、オメェ筆と墨なんてどっから……つーか、オメェ自分の名前も書けねぇだろうが！」
「大丈夫大丈夫！ ほら、ここをこーして……どうだ！ コレなら誰が見てもおでん屋だってわかるぜ！！」
……そうか、こいつは、あの提灯をオヤジに買ってもらったときの……。
「三角と丸と四角縦に並べて……オメェ、こ、これでおでんのつもりか……！？ ぷっ、ククク……」
「わ、わらう事ねぇだろ！ しかもちげぇよ！ これはどっからどうみても上からはんぺん、玉子、ちくわだろー！？」
……そういえば、そうだった。あのおでんを示す模様は俺が小さい頃に考えた……。
「ッハッハハハハハ！！ た、確かになぁ！ っククク……こ、こいつは傑作だ！ 気に入った！ 確かにこっちの方が面白れぇ！！」
「わ、笑うなー！ ぜーったい、こいつがあれば繁盛すんだからな！！ 見てろよオヤジ、笑った事をあやまらせてやるからなっ！！」
そんな事も考えていたっけ。この提灯さえあれば、お店が繁盛する。何の根拠もなく、ただ自分がその提灯が大好きだったから、そう信じ込んでいたんだったな……。
ああ、願わくば。あの提灯の優しくおでんのように温かい灯かりがこの国に受け入れられたなら……
そこで、俺の意識は 完全に途絶えた。
「……おーい、起きてくださいよー。風邪引いちゃいますよ？」
誰かが……俺に声をかけている。ボウ、と優しい光がまぶしくて、目を開く。
「俺の屋台が……光ってる？」
紛れもなく、先ほどまで俺が引いていた屋台だった。しかし、灯かりを消した筈なのに屋台は妙に明るく、一度畳んだはずだというのにホカホカとおでんの湯気が出ている。
「よーやく起きてくれましたか大将。立ち上がれますか？」
その屋台から今までに聞いた事のない、まるで鈴の音のような声が俺を身を案じている。先ほどまでは立ち上がる事すら出来ずに意識を失ってしまったというのに、この灯かりを浴びているからか、不思議と体に少し力が戻っていた。
ゆっくりと立ち上がると、声の主であるであろう少女はどうやら屋台の鍋の側、つまり俺が客に対して立つべき位置に立っていた。身の丈は小さく、鍋に少々背が届いていないようで、背伸びをして懸命につゆの中のおでん種を菜箸でつついている。
「……何者だお前……人の商売品に勝手に手を付けやがって」
本来ならもっと声を張って怒るべきだったのだろうが、強烈な空腹と寒さで出そうとしても大声が出なかった。
「まぁまぁお座りになってくださいな、椅子は用意してありますからっ。……おでんをこのお国に広めるのでしょう？ 貴方が倒れてしまってどうするんですか。ほらほら、言ってる間に種が煮立ってきましたよ？ ささ、こちらに来て一緒に食べましょ？」
少女が屋台から離れてこちら側に現れ、いつの間にか用意されていた二つの椅子に座り、鍋の方へ身を乗り出して熱々のおでんがいくつも乗った皿を二つこちら側へ持ってきた。彼女の姿を見て目を丸くすると同時に、何とも言えぬ懐かしさがこみ上げてくる。
可愛らしい顔立ちで、黄色い瞳を持ち、短めに切りそろえられた朱色の髪。頭には長い紐を垂れ下げた珍妙な帽子をかぶり、まるで振袖のように大きく広がる袖を持つその小さな身の丈よりも小さな着物を揺らして歩いてくる。
長い間着物の女性など見ていなかったので、思わず泣き出しそうになってしまう……彼女が人間ではない妖だとわかっていても。それもその筈、彼女は文字通り、燃えていたのだから。腹に大きな炎が一つと、両足にも小さな炎が一つづつ燃え盛り、俺が意識を失っている間に積もっていたであろう雪を溶かしていた。
「さぁさ、たんと食べてくださいよ弥一さん。寒さも空腹も吹っ飛びますよ？」
少女に勧められるがままに、俺は椅子に腰掛け、自分で仕込んだおでん種を一心不乱に口の中へかき込んでいた。噛み締める度に種それぞれのうま味と、染み込んだつゆの香りと熱さが体の芯まで染み込んでいく。美味い、俺の作るおでんはこんなにも美味かったのか？ と疑問に思うぐらいだった。
「熱っ！ ……いやー。いつも見ているだけでしたから、いつかご相伴に預かりたいと感じていたんですがやはりおいしいですね、弥一さんのおでん！」
少女は舌をちろっと出して、無邪気に笑う。正体もわからない妖怪だが、何故かこの娘をみているとどこか安心できる自分がいた。
「ほら、こんなに美味しいんですから、自信持ってくださいな。お父上の遺したおでんを広めたいのでしょう？ これからは私もお手伝いしますからっ！」
少女はカラカラと明るく笑う。しかしこの娘、何故こんなにも俺の事を知っているんだろうか？
「おい、娘。……俺を空腹から救ってくれた事は感謝するが……どうしてそんなに俺の事を知っている？」
「あれあれあれ？ もしやとは思っていましたが、私の正体に気がついていませんでしたか！ いやはや、私としたことがうっかりしていました。てっきりもうお気づきになっているかとばかり！」
彼女は驚いた素振りを見せるが、すぐにクスクスと悪戯っぽく笑い、おもむろに立ち上がってクルリと一回転して見せた。
「ほら、この背中の模様！ ……これって、弥一さんが描いてくれたものですよね？」
「そ、そいつは……！？」
筆で雑に書き殴られた三角、丸、四角が縦に連なった模様。見覚えがないわけがなかった。つい先程までその時の夢を、全く同じ模様を提灯に描く夢を見ていたのだから。
「よーやく、気がついてくれましたか、弥一さん。そうですよ、貴方がお父上に買っていただいた、提灯です♪ まぁ適当に朱里（あかり）とでも呼んでくださいな」
とても信じられないが、目の前でクスクスと笑う朱里と名乗った少女は、あの時俺がオヤジに買ってもらい、今日というこの日までずっと大切に店の看板を勤めてきた提灯だと言うのだ。まさかと思って屋台に目をやる。そこに垂れ下がっている筈の提灯はなくなっていた。
「弥一さんはずーっと、それこそ子供の頃から私を大切にしてきてくれました。いつか、いつか恩返しをしたいなーと思っていたら、弥一さんが行き倒れてしまったではないですか！ これは一刻も早く助けに行かないと！ と強く念じたら、こんな姿になってまして……あはは」
提灯、朱里自体自体を完全に飲み込めている状況ではなかっただろうに、俺に温かい飯を食わせるためにおでんを用意してくれたのか。そう思うと、その小さな彼女に愛おしさがわいて来る。
「……えーと、朱里？ よくおでんが作れたな、お前」
「そりゃあもう！ 弥一さんがおでんを仕込む姿は毎日毎日見させていただいてましたし！」
ただ純粋に、嬉しかった。ただの提灯であった筈の彼女が俺のためにここまでしてくれたなんて……。そう考えるだけで、目頭が潤むのを感じていた。
「弥一さん！ こうしてこんな体を手に入れたからには手伝わずにはいられません！！ 是非是非どんどん私を使ってください！ これからは私が一緒ですよ！」
これからは、一人じゃない。彼女の何気ないその言葉で俺の目からぼたぼたと、勝手に涙がこぼれていく。勿論悲しいのではないし、悔しいのでもない。何よりも、嬉しいのだ。何の脈絡もなしに現れた彼女だったが、長い間ずっと一緒にやってきたあの提灯だと思うと、グッと親近感が増す。オヤジが死んでからずっと一人だった俺は孤独に慣れたものだとばかり思い込んでいたが、どうやらそんな事はなかったようだ。しかし、ふと朱里の腹の炎が少しずつ小さくなっているのに気がついた。
「あ……おい、朱里……？ お前、その炎……なんか、小さくなってないか？」
「え、ああ、これですか！？ アハハ……実はおでんを作るときに七輪の火の元がどーしても確保できませんで……私の炎を少しばかり七輪に提供してたんですよ。そのときにちょっとばかし火を使い過ぎたみたいですねー。この炎が消えたときにどうなっちゃうのかはわからないんですけど、まぁいい事はないでしょうね〜」
「何を呑気に言っているんだお前は！ 俺は妖怪の事はよくわからないが、それって最悪死んじまうかもしれないんじゃねーか！？」
思わず朱里の肩を両手で掴む。すると、朱里は思い切り背伸びをしたかと思うと、俺の顔にぎりぎり届く所で、口付けをした。
「っ……！ おま、何を……！！」
「すいません……弥一さん、私……もう、限界なんです！」
先程までのからからとした笑いとは正反対に、何かを押し殺すように辛そうな顔を見せたかと思うと、ぎゅーっと、俺の身にしがみ付いて離れなくなる。
「私のこの炎は、弥一さん、貴方への愛の炎……。私、欲しいんです。私のご主人様の……弥一さんの『愛』が、愛がないと、私の炎……は……」
小さいとはいえ、女体特有の柔らかさと、不思議と燃え移る事のない彼女の炎の温かさを体全身で感じていた。
「私は弥一さんの事大好きです。好きで、好きで、本当に大好きで、私どうにかなりそうで…………だからどうか……抱いてください。私を使って、どうか気持ちよくなってください。そして、その代わりに……私に『愛』を…………んっ……！！」
気がついた時には、俺は朱里を強く抱きしめ、その身を抱え上げて長く、深く口付けを交わしていた。
「んむ……ちゅ……や、弥一……さん……ん……あぁ……」
「ん……く、あか……り……」
その仕草の一つ一つがあまりにも愛おしくて、俺が提灯に向けていた気持ちの恩返しに現れてくれたと考えるだけでも嬉しくて、彼女が妖である事なぞ気にも留めない。長い長い口付けの後、俺は自分が地べたに横になり、彼女を俺の上に乗せて、『行為』を開始した。
「ぴちゃ……んむ……れる……ん……はぁ、あっ、あぁ！」
彼女はこちらにお尻を向け、自身は既にガチガチに硬くなっている俺の欲望を小さな口で頬張りこみ、懸命に舐めている。びくん、びくんと肉棒に走る快感を感じながら、足の半分まで穿き物を下ろされ、露になった朱里の大切な所に舌を滑り込ませ、その温かさを改めて感じていた。
「っ……くぅっ……！ だ、大丈夫か、あ、朱里……？」
「だ……だいじょぶ……です。弥一さんも……いきたければ……い、いつでも……」
言いながらも、朱里は懸命に俺の反り立つ欲望を陥落させようと舌を滑らせる。とてつもない快楽が俺の欲望に押し寄せてくる。
如何せん、俺にはこういった経験がまるでなく、一部の色本でしか知識がない。しかし、彼女にも気持ちよくなってもらいたい、俺はその一心で彼女の秘部を舌でころころと転がそうと試みる。
「うっ……くっ……ああっ……！！ そ、そこ、いいです、弥一さん……！！ っ……ぺろ……はむっ……んむ……」
俺の舌の動きに応える様に、朱里も舌の動きと肉棒に添えられた手でも動きを付ける。
「く……うぅ……ッ！ あ、朱里……出るっ……！」
しかし、言った瞬間にはもう遅かった。俺の肉棒からたくさんの白い欲望が朱里の小さな口に放出されていく。
「んっ、うぐっ！ んんんんっ！？」
ほぼ同時に朱里も絶頂を迎えたようで、腰をビクンビクンと跳ねさせる。
「あはっ……弥一さんの『愛』を……いただいちゃいました……♪」
朱里はクスリと笑うと、一度出したにも関わらず未だに衰えを見せない我が愚息にゆっくりと手をかけた。
「弥一さん……ください。貴方の最大の『愛』を……、私の全てを、捧げますから……」
朱里は体の向きを替え、俺と対面するような体位となり、それだけ言うと体を全て俺に委ねてきた。俺のいきり立つ愚息に彼女の秘裂が擦れる。ぬらり、とまるで油でも塗られているかのように、彼女のそこはしっとりと濡れていた。
「は……はぁ……来て……ください、弥一……さん！」
彼女のその言葉に誘われるがままに、俺は自分のそれを割れ目へあてがう。
「じ、じゃあ……行くぞ」
腰に力を入れて、ゆっくりとその小さな蜜壺の入り口に割って入っていく。押し開くようにして勧めていく。
「んぐっ……！！ 弥一さん……ください……私に……『愛』を……！！」
朱里の言葉を受けて、俺の愚息は更に元気を増し、俺自身のタガも外れて、俺の欲望を一気に突き立てた。
「ん……くっ……あ、ああああああっ！！」
朱里の顔が明らかに苦痛で歪む、見ると、一筋の赤い雫が流れていた。考えてみればすぐにわかる事だった。朱里が『この姿』で現れたのは今日この日なのだから、経験なんてあるわけがない。
「う、ううん……く……はぁ……はぁ……」
「あ、朱里、大丈夫か……？」
朱里の中はとても熱くて、きつい。押し戻されるような感覚と共に肉壁が大きくうねり、今までに感じた事のないような快楽へ誘う。
「だ、大丈夫……ですから……弥一さんの……好きなように……！！」
まるで、俺の頭まで燃え上がるような感覚に襲われる。体の全てが朱里で満たされている。俺と繋がる事によって朱里の小さくなっていた炎が激しく燃え上がり、頭が、全身が沸騰しそうなほど更に熱くなる。
「朱里……朱里ッ……！」
「はっ、あっ、ああっ！ く、うぁあっ！！」
俺の腰が浮く度々、朱里はその小さな体を震わせながらくねらせる。もっと朱里を感じたい、もっと突き立てたい、そのような願望に溺れそうになるのを必死に堪える。絶え間なく押し寄せる、先程の愛撫とは比べ物にならない猛烈な快感が解き放たれそうだ。
「やっ……いち……さんっ…………！ わ、わた、わたひ……もう……っ！！」
「あ、ああ……！ 一緒にっ……イこう……！ くっ、う、あぁぁぁぁっ！」
出る……。そう思ったその時には、はち切れんばかりに膨らんだ俺の欲望が、彼女の体の中で一気に破裂し、最大級の快楽が訪れた。熱く白い欲望が朱里の膣内を満たしていく。
「は、あ、ああああああぁぁぁっ！！」
朱里も、最上の快感へ達したようだ。びくびくと振るえ、崩れ落ちるようにして俺の体へぐったりと倒れこんでくる。
「は、ああ……出て……ます。弥一さんの……熱い……『愛』が……」
なんて幸せなのだろう、俺は。最後は少し朱里が強引に攻めてきたとはいえ、一人の女の子に、ここまで愛され、求められる経験なんて今までに一度もなかったのだから。
ゴウ！ と突如朱里の腹の炎の大きさが一気に大きくなった。立ち上がろうとする俺の胴体を、彼女の細い手と足でガッシリと捕まってしまう。
「さぁ……第二回戦と行きましょう、弥一さん！」
「……は？ え、あの朱里……さん？ 俺、ちょっとそろそろ限界で……」
「何を言っているんですか！！ 私、燃えてきましたよ！ 夜はまだまだ長いですし……私をもっと使って、そしてたくさんの『愛』をくださいね♪」
「う……うわぁぁぁぁああっ！！」
こうして、回数を重ねるごとにどんどん勢いと情熱を増していく朱里とのまぐわりは、朱里の体力が尽きるまで続けられるのであった……。
「……おぉ、クラムさんじゃないか。今日も商売かい？」
それから数ヶ月後、太陽が傾いて夜の帳が今まさに降りようとしている時、一人の行商人が北国のとある町に訪れると、顔を知っている商売仲間に声をかけられた。
「ああ、あんたはいつかの。ああ、ちょいとうちのワーシープの毛で編んだ毛布を売って来たんだ」
ワーシープ、という言葉が出ると、行商人の後ろから、ひょこっと白い毛皮と丸まった角の生えた少女が顔を出した。
「お、今日は嬢ちゃんも一緒かい？ 普段は街についたらすぐに宿に預けてるそうじゃないか」
「ま、こいつの能力は商売には邪魔だからな……今日はこいつの要望で、商売のカタがついたらここで食えるっつー東洋の食い物を二人で食べに行く事になっているんでな」
ぽんぽんと叩くようにして彼女の頭を撫でてやると、彼女は「むふ〜」と心底癒された表情をし、行商人に擦り寄る。
「はは、前に見た日とおんなじだ、今日もおアツいねぇ？ だが、その東洋の食べ物『オデン』って奴も相当熱いぜ。体がポッカポカになる上にすごく美味い」
行商人は少し照れたような反応を見せた後で、『オデン』という未知の食べ物に非常に興味を持った。
「ほぅ？ 評判どおりじゃないか。是非俺の商品に加えられないか店主に聞いてみるとしよう」
「はははっ！ クラムさん、あんたオデンがどんな食べ物だか知らないんだね？ あれは行商人じゃぁ売るのはきついかもだぜ。まぁとにかく行って見るといい！ それに、あの店にはジパングからやってきた妖怪の娘が呼び込みをやっとるんだが……それが偉いべっぴんさんでなぁ、おまけにそこにいるだけでなんだか心が暖かくなる光を放ってんだから不思議なもんだ。ありゃ『電気』よりもよっぽどいいぜ」
商売仲間の男はその光の良さを思い出したのか、ニカッと笑ってみせる。
「そいつはいいな。この国のあの電気って照明はギラギラしすぎていてどうにも好かない。そういう優しい灯かりの方が、客の入りは良いだろう」
行商人は自分の商売人的な考え方に自身で呆れながら、ふぅ、と息を漏らす。一日中歩き回っていたので彼も疲れているのだ。
「ねぇ、クラムー。はやく食べに行こうよ〜」
「……お前に急かされちゃおしまいだ。じゃあ、これで失礼しますよ」
三人は別れ、行商人達は朱く優しい灯かりに誘われて、夜の街を歩く。
「いらっしゃいませー！ 『おでん屋 ともしび』はこちらですよーっ！」
鈴の音のような高く凛とした元気な声が、街中に響き渡る。ちょっと頑固な店主と小さいけど元気でちょっと健気な提灯お化けが切り盛りする小さなおでん屋は、今日も大盛況。大きな提灯は、三角、丸、四角が縦に連なった変わった模様を誇示しながら、電気たちには負けじと今日も温かくて優しい灯かりで夜の街を照らし続けている――
11/08/10 11:22更新 / 空夜