【前編】 諦め、そして再会
町外れの墓地
そこで葬儀が行なわれていた・・・
埋葬されているのは僕の姉さん・・・たった一人の家族だ・・・
両親は僕が幼い時に亡くなった。姉さんは幼かった僕を女手ひとつで育ててくれたかけがえのない人だ。世界で一番、大好きな人だった・・・
「・・・姉さん・・・」
棺桶の中に横たわる姉さんはまるで眠っているかのような表情だった・・・・
けれど決して目覚めることのない姉さんに僕は語り掛ける。
「姉さん・・・ごめん・・・渡すの遅くなっちゃったね・・・」
僕は冷たくなった姉さんの手をとり、ポケットから取り出した指輪をはめる
「誕生日・・・おめでとう・・・」
これは姉さんの為に僕がコツコツは貯めたお金で買ったものだ。僕の為にいろんな事を犠牲にして、働きづめだった姉さんへのせめてもの誕生日プレゼントだった・・・。
その姉さんは半年前それまでの無理がたたり、体を壊してしまった・・・
重い病にかかり、それからずっと病院生活を強いられていた・・・治療費や生活費は僕が働いてなんとか工面していたが、姉さんの体は一向によくならなかった・・・
「ごほっ・・・ごほっ・・・ごめんね・・・レオン・・・」
「何で謝るんだよ、姉さん。大事な家族が倒れたんだ。看病するのなんか当たり前じゃないか」
「でも・・・治療費や生活費の為にあなたに迷惑をかけているわ・・・」
「これくらい大丈夫だって。それよりも、一日でも早く病気を治して一緒に家に帰ろう!あっそういえば、もうすぐ姉さんの誕生日じゃないか!お祝い考えとくから、楽しみにしててね!」
「ふふ・・・ありがとう・・・お姉ちゃん・・・がんばるから・・・」
だけど誕生日の3日前・・・姉さんの容態が急変した・・・。
「姉さん!姉さん!!しっかりして!!!」
「はぁ・・はぁ・・レオ・・・ン・・・ごめん・・・ね・・・私はもう・・・ダメ・・・みたい・・・・・・」
「何言ってるんだよ!はやく良くなってまた一緒に暮らそうって約束したじゃないか!誕生日プレゼントだって・・・」
「はぁ・・・ぐ・・・ごめんね・・・私・・・お姉ちゃん・・・失格・・・ね・・・弟・・を・・・ごほっ!・・こんな・・・悲しませちゃって・・・本当に・・・ごめんね・・・」
「姉さん!嫌だ・・・死んじゃやだよ!!僕を・・・僕を一人にしないで・・・!!!」
「レオ・・・・ン・・・・ごめ・・・・・ん・・・・・ね・・・・・・・・」
「・・・・姉さん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・姉さん・・・姉さん・・・ねえ・・・起きてよ・・・目を開けてよぉ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「うわあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!
姉さああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!」
「姉さん・・・安らかに眠ってね・・・」
それから3日後の今日、生きていれば20の誕生日だった姉さんへのプレゼントの指輪を姉さんの指にはめた僕は最後の挨拶を終え、棺桶を閉じた。そして、葬儀を手伝ってくれる近所の人たちとともに姉の眠る棺桶を掘られた穴へ入れ、土を戻した。そしてその上に墓標を立てた・・・。
エリス=ブライト
ここに眠る
姉さんの葬儀を終えて数日後
葬儀を終えてすぐの頃は何も手につかなかった僕もようやく気持ちの整理がついてきた。そして今日は姉さんが死んでからはじめての墓参りの日。姉さんの墓に飾るための花を町で買い、町外れの墓地へと向かった。
「姉さん・・・会いにきたよ・・・」
僕は花束を姉さんの墓前に飾り、墓に眠る姉さんに話かける。
「少し経ってようやく気持ちの整理がついてきたよ・・・でも、やっぱり姉さんが死んだなんて信じられないよ・・・」
「けど、僕がウジウジしてたらそれこそ、姉さんも安心して眠れないよね・・・?」
「そう考えたら、このままじゃダメだ、頑張ろうって気持ちになったんだ。姉さん、僕はもう大丈夫・・・だから安心して眠ってね・・・また来るから・・・それじゃ」
僕はそう墓に眠る姉さんに話しかけ、墓地を離れた。
そう・・・・姉さんの分まで僕が生きるんだ・・・だからこの命が尽きるまで・・・思い続けよう・・・姉さんを・・・そして・・・胸を張って天国で姉さんと会おう・・・・・・・・・・・・・
そう僕は心に強く誓ったのだった・・・・・。
〜その夜〜
ザッザッザッザッ・・・・・・・
この日の深夜、町外れの墓地に向かって歩く人影があった。
だが、その人影は「人」ならざるものであった・・・・・・・・・・・・・
月の光に照らされる「人」ならざる者はまっすぐにある場所へと向かっていた・・・
ザッザッザッザッザッ・・・・・・
やがて、その者は墓地の中にある最近立てられたばかりの墓標の前で歩みを止めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして、おもむろに墓標をどかし、その下の土を掘り始めた・・・道具も使わず素手で・・・しかし、いくら最近埋め戻されたばかりの土とはいえ、素手で掘っているとは到底思えないような早さで土がえぐり取られていく・・・・
ザクッザクッザクッザクッ・・・・・・・・・・・
そして、あっという間にそこに埋まっていた棺桶が掘り起こされた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ガタガタガタッ・・・・ガコッ・・・・
その者は棺桶のフタを開ける・・・
棺桶には遺体が眠っていた・・・・まだ埋葬されて間もない遺体が・・・・
それほど時間が経過していない為、遺体に腐敗がそれほど進んでいないようだった・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そしてその者は遺体を抱きかかえるように手をかけ、遺体に自分の顔を近づける・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・そして・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・ズリュ・・・・・
あろうことか、その者は遺体の首筋に牙を突きたてた・・・
「・・・・・・・・・・・・〜♪♪♪〜・・・・・・・・・・・・・・・」
その者はまるで血を啜るヴァンパイアのごとく至福の表情を浮かべ、遺体を噛み続ける・・・
月の光に浮かぶその異様な光景は夜が明けるまで続いたたのだった・・・・・
〜翌日〜
町は大騒動となった。
墓守が早朝墓地へ出向いたところ、姉さんの墓が荒らされていたのだ・・・
墓荒らしの犯行と思われたが、その線は薄いとされた・・・・・・・・・・
なぜならば、一緒に埋められていた遺品の多くはそのままとなっていたからだ。
・・・・・・最大の理由は、姉さんの遺体が消えていたことだ・・・・・・
棺桶からは姉さん遺体が無くなっており、墓地に隣接する森へ続く足跡も見つかったが、犯人の行方を掴むことは困難であった・・・
何故ならば墓地に隣接する森はとても深く、土地勘のある地元の僕らでさえあまり奥に行くことがない森である・・・また、この森の先は反魔物領である僕達の住む国と親魔物領との境界線まで続いていて、魔物との遭遇する可能性もあり、非常に危険であった・・・
「どうして・・・こんなことに・・・・ちくしょう・・・ちくしょう・・・・・・!!」
僕はやり切れない思いを口にだしていた・・・
つい昨日姉さんの前で誓ったばかりなのに、また会いにくると・・・姉さん思い続けると・・・なのに・・・・それなのに・・・・
ちくしょおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
事件から数日後・・・どこかのネクロマンサーが最近埋葬された姉さんの遺体に目をつけて持ち去ったとか、ゾンビになってどこかを徘徊しているのでは・・・等様々な憶測が流れたが、姉さんの遺体がみつかることはなかった・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・姉さん・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・どこにいっちまったんだよ・・・・・・・・・・・・
僕は、絶望に打ちひしがれていた。何もする気力もなく、ただただ塞ぎ込む毎日を送っていた。
幼くして両親を失い、ただ一人の肉親の姉を失い、そしてその亡骸さえ自分から奪われ、僕の心はもう限界まで痛めつけられていた・・・・・
この世に神様なんていない・・・・教会から小さい頃から教えられ、崇めてきた神様・・・主神は僕を・・・いや、僕ら家族を一切救ってはくれなかった・・・
何が「信じれば悩み苦しむ人たちを主神様は救ってくださる」だ・・・・
ちくしょう・・・ちくしょう・・・
やり場のない怒りと共に悲しみが込み上げ、僕は泣いた・・・・もう何度目だろうか・・・もう枯れたと思った涙がまた溢れてきた・・・
コンコン・・・
「・・・・・・・・・・・・・・?」
突然家のドアがノックされる音が聞こえてきた。
「・・・誰だろう・・・?」
ずっと泣いていて気づかなかったが、もう完全に日は暮れ、夜になっていた。
灯りが一切ともっていなかったので、近所の人が心配してくれて声を掛けに来てくれたのかもしれない。
コンコン・・・
再度ノックされたので、僕は涙をぬぐい、慌てて玄関へと向かった。
「はい、今開けます」
ガチャリ・・・
僕は玄関の扉を開ける
ドアを開けた目の前にはフードを被ったこのあたりでは見たことの無い女性と思しき人物がいた・・・・
「・・・・・・・・・・・・」
「あっ・・・あの・・・・・・」
フードを被った女性?は言葉を発しないので、こちらから声を掛けた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして、おもむろに女性は被っていたフードを脱いだ・・・・・・・
「・・・・・・・・・あ・・・・・・・・あ・・・・・・あ・・・・・ああ」
僕は、今目の前に広がる光景をどう処理してよいかわからず、ただ、端的に言葉を発することしかできないでいた。
「・・・・・・・・・・ただいま・・・レオン・・・・・・・・・・・・・」
そこにいたのは・・・紛れもなく・・・姉さん・・・だった・・・・・・・・
「・・・・・・姉・・・・・・・さん・・・・・・・・・・なの・・・??」
僕は、ようやく言葉を口にした・・・しかし、その言葉に対する内容と今自分の目の前に現した人物に対する回答としてはあまりにも現実離れしていた。
確かにあの日息を引き取った、墓地に埋葬した、そして、亡骸ととも僕から消えた・・・その人物だと、僕は口にしているのだ・・・。
すでに僕の頭はパンク寸前であったが、目の前の女性は少し間を置いて・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・うん・・・・・・・・・・・・・・・・」
短く、そしてハッキリと、姉さん・・・と思しき人物はそう答えた・・・・
「本当・・・・に・・・・・・姉・・・・さん・・・なの・・・・・???」
まだ、僕は心のどこかで疑っていた・・・確かに顔は間違えるはずの無いエリス姉さんだ・・でも、髪の色も色素が抜け落ちたのか、白に近い銀髪、色白だった肌は褐色になり、瞳は血に染まったような赤紫色・・・どうしてもエリス姉さんと信じきれなかった・・・しかし・・・そんな僕の心を見透かしたのか・・・
「これ・・・・・・・レオンが・・・・私にくれたんだよね・・・・・?」
そう言って姉さんとおぼしき女性は手を差し出す・・・・その指には・・・
「!!」
僕が・・・姉さんの亡骸につけた指輪をつけていた・・・・・・・・・・・
「きっと・・・・そうだと思った・・・・だって・・・私の大好きな花・・・リコリスをモチーフにしてくれてるもの・・・・」
「!!!!!!」
そう、あの指輪のデザインはリコリス・・・姉さんが好きだった花だ・・・ジパング地方では「ヒガンバナ」と呼ばれ、不吉な花されているらしいが、こちらの地方では園芸品として花屋でも良く見かける花だ。この花を姉さんはとても気に入っていた・・・
「ありがとう・・とっても嬉しいわ・・・・良かった・・・・ちゃんと・・・ちゃんと言えた・・・私の言葉で・・・・」
もう、疑う余地はどこにもなかった・・・・・・・
「ああ・・・・・あああああ・・・・ああああああああああああああああああ
姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さんあああああああああああ
ああああああああああんんんんん!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
僕は姉さんに抱きつき、泣きじゃくった・・・まだ、寒い日が続く外を歩いてきたせいか、身体が冷たかったがそんなことはどうでも良かった・・・姉さんが今ここにいる・・・それ以外のことはどうでもよかった・・・ただただ、姉さんは僕が泣き止むまで僕を優しく抱きしめてくれた・・・・
そして、泣き疲れてしまったのか、久しぶりに嗅いだ姉さん匂いに安心したのか、僕は急激に眠気に襲われ、そのまま眠ってしまったのだった・・・・・・
・・・・・・・レオンは泣き疲れたのか、私の腕の中で眠ってしまった。いつぶりだろうか・・・レオンをこうして抱きかかえるのは・・・そう、まだレオンが小さかった頃・・・両親が亡くなったばかりで、泣きつかれたレオンをいつも抱きかかえてベットで寝かしつけていたわね・・・
「クスッ・・・なんだか懐かしいわね・・・」
私は、そんな頃に比べてたくましくなった弟の身体を持ち上げ、レオンの部屋のベッドまで運び寝かしつけた。
部屋の中は物が散乱しており、私が「死んでから」のレオンが荒れた生活をしていたことが見て取れた・・・
「・・・ごめんね・・・レオン・・・少しの間とはいえ、寂しい思いをさせてしまったわね・・・」
額を撫でながら、安らかな寝顔を浮かべるレオンに私は語りかけた
そしてしばらく、安らかに眠るレオンの寝顔を見ていた・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・ドクン・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・私の体は急激に飢えと渇きを感じはじめていた・・・・・・・
・・・・・・・・・・ああ・・・私のかわいいレオン・・・・・・・・・・・
・・・・そう、目の前で安らかに眠っているのは、最愛の弟レオン・・・・・
・・・・・・・・・・私が愛してやまないかわいい弟・・・・・・・・・・
・・・・・・・ずっと一緒に生きてきた・・・守ってきた私の弟・・・・・・
・・・・・・・・・・・穢れを知らないかわいい"雄"・・・・・・・・・・・
・・・・・・!!・・・・だめ!・・・・・そんな事を考えては!!・・・・
確かに私は「生き返った」・・・
けれど、もう私は「私」であって「私」で無くなったのだ・・・
そのせいで身体が求めてしまっている・・・・・・・・・
・・・・・・今目の前にいる"弟"を・・・・"人間の雄"を・・・・・・・・・
・・・・・・・この穢れのない身体を今すぐ貪りたい♪・・・・・・・・・・
・・・・・・・駄目・・・駄目なの・・・レオンは・・・私の弟なの・・・・
・・・・・・・・・・・・でも・・・・・・・でもぉ・・・・・・・・・・・
・・・どんなに抑えようとしても、いけない事だと分かっていても、次から次へと溢れ出る飢えと渇きを抑えることができない・・・我慢しなくてはいけないのに・・・・私は・・・・私は・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・弟を食べたい♪・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・じゅるり・・・・・・♪
安らかに眠る弟の額を撫でつつ妖艶な笑みを浮べる姉の舌が唇を撫ぜ、唇からはみ出た一対の牙が漆黒の闇の中、一際鈍く光っていた・・・
【後編へ続く】
そこで葬儀が行なわれていた・・・
埋葬されているのは僕の姉さん・・・たった一人の家族だ・・・
両親は僕が幼い時に亡くなった。姉さんは幼かった僕を女手ひとつで育ててくれたかけがえのない人だ。世界で一番、大好きな人だった・・・
「・・・姉さん・・・」
棺桶の中に横たわる姉さんはまるで眠っているかのような表情だった・・・・
けれど決して目覚めることのない姉さんに僕は語り掛ける。
「姉さん・・・ごめん・・・渡すの遅くなっちゃったね・・・」
僕は冷たくなった姉さんの手をとり、ポケットから取り出した指輪をはめる
「誕生日・・・おめでとう・・・」
これは姉さんの為に僕がコツコツは貯めたお金で買ったものだ。僕の為にいろんな事を犠牲にして、働きづめだった姉さんへのせめてもの誕生日プレゼントだった・・・。
その姉さんは半年前それまでの無理がたたり、体を壊してしまった・・・
重い病にかかり、それからずっと病院生活を強いられていた・・・治療費や生活費は僕が働いてなんとか工面していたが、姉さんの体は一向によくならなかった・・・
「ごほっ・・・ごほっ・・・ごめんね・・・レオン・・・」
「何で謝るんだよ、姉さん。大事な家族が倒れたんだ。看病するのなんか当たり前じゃないか」
「でも・・・治療費や生活費の為にあなたに迷惑をかけているわ・・・」
「これくらい大丈夫だって。それよりも、一日でも早く病気を治して一緒に家に帰ろう!あっそういえば、もうすぐ姉さんの誕生日じゃないか!お祝い考えとくから、楽しみにしててね!」
「ふふ・・・ありがとう・・・お姉ちゃん・・・がんばるから・・・」
だけど誕生日の3日前・・・姉さんの容態が急変した・・・。
「姉さん!姉さん!!しっかりして!!!」
「はぁ・・はぁ・・レオ・・・ン・・・ごめん・・・ね・・・私はもう・・・ダメ・・・みたい・・・・・・」
「何言ってるんだよ!はやく良くなってまた一緒に暮らそうって約束したじゃないか!誕生日プレゼントだって・・・」
「はぁ・・・ぐ・・・ごめんね・・・私・・・お姉ちゃん・・・失格・・・ね・・・弟・・を・・・ごほっ!・・こんな・・・悲しませちゃって・・・本当に・・・ごめんね・・・」
「姉さん!嫌だ・・・死んじゃやだよ!!僕を・・・僕を一人にしないで・・・!!!」
「レオ・・・・ン・・・・ごめ・・・・・ん・・・・・ね・・・・・・・・」
「・・・・姉さん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・姉さん・・・姉さん・・・ねえ・・・起きてよ・・・目を開けてよぉ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「うわあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!
姉さああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!」
「姉さん・・・安らかに眠ってね・・・」
それから3日後の今日、生きていれば20の誕生日だった姉さんへのプレゼントの指輪を姉さんの指にはめた僕は最後の挨拶を終え、棺桶を閉じた。そして、葬儀を手伝ってくれる近所の人たちとともに姉の眠る棺桶を掘られた穴へ入れ、土を戻した。そしてその上に墓標を立てた・・・。
エリス=ブライト
ここに眠る
姉さんの葬儀を終えて数日後
葬儀を終えてすぐの頃は何も手につかなかった僕もようやく気持ちの整理がついてきた。そして今日は姉さんが死んでからはじめての墓参りの日。姉さんの墓に飾るための花を町で買い、町外れの墓地へと向かった。
「姉さん・・・会いにきたよ・・・」
僕は花束を姉さんの墓前に飾り、墓に眠る姉さんに話かける。
「少し経ってようやく気持ちの整理がついてきたよ・・・でも、やっぱり姉さんが死んだなんて信じられないよ・・・」
「けど、僕がウジウジしてたらそれこそ、姉さんも安心して眠れないよね・・・?」
「そう考えたら、このままじゃダメだ、頑張ろうって気持ちになったんだ。姉さん、僕はもう大丈夫・・・だから安心して眠ってね・・・また来るから・・・それじゃ」
僕はそう墓に眠る姉さんに話しかけ、墓地を離れた。
そう・・・・姉さんの分まで僕が生きるんだ・・・だからこの命が尽きるまで・・・思い続けよう・・・姉さんを・・・そして・・・胸を張って天国で姉さんと会おう・・・・・・・・・・・・・
そう僕は心に強く誓ったのだった・・・・・。
〜その夜〜
ザッザッザッザッ・・・・・・・
この日の深夜、町外れの墓地に向かって歩く人影があった。
だが、その人影は「人」ならざるものであった・・・・・・・・・・・・・
月の光に照らされる「人」ならざる者はまっすぐにある場所へと向かっていた・・・
ザッザッザッザッザッ・・・・・・
やがて、その者は墓地の中にある最近立てられたばかりの墓標の前で歩みを止めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして、おもむろに墓標をどかし、その下の土を掘り始めた・・・道具も使わず素手で・・・しかし、いくら最近埋め戻されたばかりの土とはいえ、素手で掘っているとは到底思えないような早さで土がえぐり取られていく・・・・
ザクッザクッザクッザクッ・・・・・・・・・・・
そして、あっという間にそこに埋まっていた棺桶が掘り起こされた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ガタガタガタッ・・・・ガコッ・・・・
その者は棺桶のフタを開ける・・・
棺桶には遺体が眠っていた・・・・まだ埋葬されて間もない遺体が・・・・
それほど時間が経過していない為、遺体に腐敗がそれほど進んでいないようだった・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そしてその者は遺体を抱きかかえるように手をかけ、遺体に自分の顔を近づける・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・そして・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・ズリュ・・・・・
あろうことか、その者は遺体の首筋に牙を突きたてた・・・
「・・・・・・・・・・・・〜♪♪♪〜・・・・・・・・・・・・・・・」
その者はまるで血を啜るヴァンパイアのごとく至福の表情を浮かべ、遺体を噛み続ける・・・
月の光に浮かぶその異様な光景は夜が明けるまで続いたたのだった・・・・・
〜翌日〜
町は大騒動となった。
墓守が早朝墓地へ出向いたところ、姉さんの墓が荒らされていたのだ・・・
墓荒らしの犯行と思われたが、その線は薄いとされた・・・・・・・・・・
なぜならば、一緒に埋められていた遺品の多くはそのままとなっていたからだ。
・・・・・・最大の理由は、姉さんの遺体が消えていたことだ・・・・・・
棺桶からは姉さん遺体が無くなっており、墓地に隣接する森へ続く足跡も見つかったが、犯人の行方を掴むことは困難であった・・・
何故ならば墓地に隣接する森はとても深く、土地勘のある地元の僕らでさえあまり奥に行くことがない森である・・・また、この森の先は反魔物領である僕達の住む国と親魔物領との境界線まで続いていて、魔物との遭遇する可能性もあり、非常に危険であった・・・
「どうして・・・こんなことに・・・・ちくしょう・・・ちくしょう・・・・・・!!」
僕はやり切れない思いを口にだしていた・・・
つい昨日姉さんの前で誓ったばかりなのに、また会いにくると・・・姉さん思い続けると・・・なのに・・・・それなのに・・・・
ちくしょおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
事件から数日後・・・どこかのネクロマンサーが最近埋葬された姉さんの遺体に目をつけて持ち去ったとか、ゾンビになってどこかを徘徊しているのでは・・・等様々な憶測が流れたが、姉さんの遺体がみつかることはなかった・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・姉さん・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・どこにいっちまったんだよ・・・・・・・・・・・・
僕は、絶望に打ちひしがれていた。何もする気力もなく、ただただ塞ぎ込む毎日を送っていた。
幼くして両親を失い、ただ一人の肉親の姉を失い、そしてその亡骸さえ自分から奪われ、僕の心はもう限界まで痛めつけられていた・・・・・
この世に神様なんていない・・・・教会から小さい頃から教えられ、崇めてきた神様・・・主神は僕を・・・いや、僕ら家族を一切救ってはくれなかった・・・
何が「信じれば悩み苦しむ人たちを主神様は救ってくださる」だ・・・・
ちくしょう・・・ちくしょう・・・
やり場のない怒りと共に悲しみが込み上げ、僕は泣いた・・・・もう何度目だろうか・・・もう枯れたと思った涙がまた溢れてきた・・・
コンコン・・・
「・・・・・・・・・・・・・・?」
突然家のドアがノックされる音が聞こえてきた。
「・・・誰だろう・・・?」
ずっと泣いていて気づかなかったが、もう完全に日は暮れ、夜になっていた。
灯りが一切ともっていなかったので、近所の人が心配してくれて声を掛けに来てくれたのかもしれない。
コンコン・・・
再度ノックされたので、僕は涙をぬぐい、慌てて玄関へと向かった。
「はい、今開けます」
ガチャリ・・・
僕は玄関の扉を開ける
ドアを開けた目の前にはフードを被ったこのあたりでは見たことの無い女性と思しき人物がいた・・・・
「・・・・・・・・・・・・」
「あっ・・・あの・・・・・・」
フードを被った女性?は言葉を発しないので、こちらから声を掛けた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして、おもむろに女性は被っていたフードを脱いだ・・・・・・・
「・・・・・・・・・あ・・・・・・・・あ・・・・・・あ・・・・・ああ」
僕は、今目の前に広がる光景をどう処理してよいかわからず、ただ、端的に言葉を発することしかできないでいた。
「・・・・・・・・・・ただいま・・・レオン・・・・・・・・・・・・・」
そこにいたのは・・・紛れもなく・・・姉さん・・・だった・・・・・・・・
「・・・・・・姉・・・・・・・さん・・・・・・・・・・なの・・・??」
僕は、ようやく言葉を口にした・・・しかし、その言葉に対する内容と今自分の目の前に現した人物に対する回答としてはあまりにも現実離れしていた。
確かにあの日息を引き取った、墓地に埋葬した、そして、亡骸ととも僕から消えた・・・その人物だと、僕は口にしているのだ・・・。
すでに僕の頭はパンク寸前であったが、目の前の女性は少し間を置いて・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・うん・・・・・・・・・・・・・・・・」
短く、そしてハッキリと、姉さん・・・と思しき人物はそう答えた・・・・
「本当・・・・に・・・・・・姉・・・・さん・・・なの・・・・・???」
まだ、僕は心のどこかで疑っていた・・・確かに顔は間違えるはずの無いエリス姉さんだ・・でも、髪の色も色素が抜け落ちたのか、白に近い銀髪、色白だった肌は褐色になり、瞳は血に染まったような赤紫色・・・どうしてもエリス姉さんと信じきれなかった・・・しかし・・・そんな僕の心を見透かしたのか・・・
「これ・・・・・・・レオンが・・・・私にくれたんだよね・・・・・?」
そう言って姉さんとおぼしき女性は手を差し出す・・・・その指には・・・
「!!」
僕が・・・姉さんの亡骸につけた指輪をつけていた・・・・・・・・・・・
「きっと・・・・そうだと思った・・・・だって・・・私の大好きな花・・・リコリスをモチーフにしてくれてるもの・・・・」
「!!!!!!」
そう、あの指輪のデザインはリコリス・・・姉さんが好きだった花だ・・・ジパング地方では「ヒガンバナ」と呼ばれ、不吉な花されているらしいが、こちらの地方では園芸品として花屋でも良く見かける花だ。この花を姉さんはとても気に入っていた・・・
「ありがとう・・とっても嬉しいわ・・・・良かった・・・・ちゃんと・・・ちゃんと言えた・・・私の言葉で・・・・」
もう、疑う余地はどこにもなかった・・・・・・・
「ああ・・・・・あああああ・・・・ああああああああああああああああああ
姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さんあああああああああああ
ああああああああああんんんんん!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
僕は姉さんに抱きつき、泣きじゃくった・・・まだ、寒い日が続く外を歩いてきたせいか、身体が冷たかったがそんなことはどうでも良かった・・・姉さんが今ここにいる・・・それ以外のことはどうでもよかった・・・ただただ、姉さんは僕が泣き止むまで僕を優しく抱きしめてくれた・・・・
そして、泣き疲れてしまったのか、久しぶりに嗅いだ姉さん匂いに安心したのか、僕は急激に眠気に襲われ、そのまま眠ってしまったのだった・・・・・・
・・・・・・・レオンは泣き疲れたのか、私の腕の中で眠ってしまった。いつぶりだろうか・・・レオンをこうして抱きかかえるのは・・・そう、まだレオンが小さかった頃・・・両親が亡くなったばかりで、泣きつかれたレオンをいつも抱きかかえてベットで寝かしつけていたわね・・・
「クスッ・・・なんだか懐かしいわね・・・」
私は、そんな頃に比べてたくましくなった弟の身体を持ち上げ、レオンの部屋のベッドまで運び寝かしつけた。
部屋の中は物が散乱しており、私が「死んでから」のレオンが荒れた生活をしていたことが見て取れた・・・
「・・・ごめんね・・・レオン・・・少しの間とはいえ、寂しい思いをさせてしまったわね・・・」
額を撫でながら、安らかな寝顔を浮かべるレオンに私は語りかけた
そしてしばらく、安らかに眠るレオンの寝顔を見ていた・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・ドクン・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・私の体は急激に飢えと渇きを感じはじめていた・・・・・・・
・・・・・・・・・・ああ・・・私のかわいいレオン・・・・・・・・・・・
・・・・そう、目の前で安らかに眠っているのは、最愛の弟レオン・・・・・
・・・・・・・・・・私が愛してやまないかわいい弟・・・・・・・・・・
・・・・・・・ずっと一緒に生きてきた・・・守ってきた私の弟・・・・・・
・・・・・・・・・・・穢れを知らないかわいい"雄"・・・・・・・・・・・
・・・・・・!!・・・・だめ!・・・・・そんな事を考えては!!・・・・
確かに私は「生き返った」・・・
けれど、もう私は「私」であって「私」で無くなったのだ・・・
そのせいで身体が求めてしまっている・・・・・・・・・
・・・・・・今目の前にいる"弟"を・・・・"人間の雄"を・・・・・・・・・
・・・・・・・この穢れのない身体を今すぐ貪りたい♪・・・・・・・・・・
・・・・・・・駄目・・・駄目なの・・・レオンは・・・私の弟なの・・・・
・・・・・・・・・・・・でも・・・・・・・でもぉ・・・・・・・・・・・
・・・どんなに抑えようとしても、いけない事だと分かっていても、次から次へと溢れ出る飢えと渇きを抑えることができない・・・我慢しなくてはいけないのに・・・・私は・・・・私は・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・弟を食べたい♪・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・じゅるり・・・・・・♪
安らかに眠る弟の額を撫でつつ妖艶な笑みを浮べる姉の舌が唇を撫ぜ、唇からはみ出た一対の牙が漆黒の闇の中、一際鈍く光っていた・・・
【後編へ続く】
11/04/10 01:29更新 / KOJIMA
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