前編
前編
心に隙間のできた空虚な日々・・・・
それがこの先もずっと続くのだと思っていた・・・・・
「「あの日が来るまでは」」
その日も何ら変わりない、ギルドでの忙しい業務をこなしていた日だった。
「ガトー課長、先日御依頼の企画資料作成いたしました。チェック願います」
「おお、もうできたのかい?わかった、チェックさせてもらうよ」
「宜しくお願いします」
「ケイさん、お客様がお見えになられました」
「ありがとうエリーちゃん、すぐ対応するよ」
僕の名前はケイ。ケイ=アインラント
地元の大学を卒業後、冒険者ギルトの職員として働いている。
ギルトに勤めて早3年。仕事もそれなりに順調で、最近は大事な仕事も少しずつ任されるようになってきた。
「よっ!ケイ。お疲れさん」
その日の夕方話しかけてきたのは冒険者ギルト職員の先輩スウェンさんだった。
「あっお疲れ様です。スウェンさん」
部署は違うものの、スウェンさんはギルトに採用されてからずっと仕事やプライベートでも何かとお世話になっている先輩で、とても優秀で面倒見が良くギルト職員の中でも男女問わず評判が良い。
「ケイ、今日仕事終わり、一杯いかないか?」
「はい、喜んでいきます!」
こうやって、ちょくちょくスウェンさんは飲みに誘ってくれる。その日の仕事終わり先輩行きつけの酒場に二人で足を運んだ。
「でっ最近どうよ?」
スウェンさんがビールの入ったジョッキをあおりながら話しかけてきた。
「はい。例の魔物討伐の企画書も仕上がってますし、順調です」
「いや、そっちじゃなくてこっちだよこっち」とスウェン先輩は小指を立てる。
「あっ・・いや・・・そっちは特には・・・・・・」
と言葉を濁す僕。スウェンさんはこうして飲みにいくと決まってこうしたことを聞いてくる。
「何だよ〜相変わらずだな〜?」とスウェンさんはまたかという顔をした。
「この間紹介した娘はどうよ?」実は、つい最近スウェンさんから知り合いのつてで一人女性を紹介してもらっていた。しかし、この間別れてしまった。
「・・・とても綺麗で積極的な方だったんですが・・・積極的すぎてちょっと・・・」
その紹介された女性の種族は妖狐で、活発で会話も結構はずんだのだが、事あるごとに“アレ”に持ち込もうとしてきて、逆レイプ未遂が何度かあった・・・付き合ってた期間一度もそうならなかったのは奇跡としか言いようがない・・・。
「まあ、お前にああいうタイプは合わんかもな・・・俺は嫌いではないが」
とスウェンさんも納得したような顔をしてジョッキのビールをあおる。スウェンさんは人間・魔物娘問わず女性の交友がとても広い。僕以外にも数多くの女性をギルドの男性職員に紹介しており、それが縁でカップルになったり、ゴールインをした同僚の数知れず。僕と2年しか歳の差がないのに既にギルドの裏の実力者といっても過言ではない人物である。とても真似できそうもない・・・というか真似をしないほうがいいと僕は思っている。
「お前の気持ちもわからんでもないが、その歳で恋愛経験ゼロってのもな・・・」
「・・・・・・・はい」
苦笑いをしながらそう答えジョッキのビールに口をつける。口の中にビールの苦味と何か別の苦味が口の中に広がる。
「わかってはいるんだけどな・・・・・」と心の中で呟く
「まっこればっかしは俺ではどうにもできないからな。下世話なことをいって悪かった」
「いっいや!全然そんなことないですよ!!事実ですし!」
謝るスウェン先輩に恐縮しながらも、ふと考える。
確かに仕事もプライベートも充実している。しかし、どこか満たされない部分が心にあった。その部分はずっとポッカリ穴が空いたままなのだ。
原因ははっきりしている。スウェンさんが言う通り、僕は今までまともに恋愛したことがない。恋愛に対して良い経験も苦い経験両方に縁がなかった僕にとって恋愛は未知の世界であった。故に僕は恋愛に対して非常に臆病となってしまった。そんな僕を見かねて度々スウェンさんが女性(魔物)を紹介してくれているのだが、うまくいかないまま、今にいたっている。
「僕は何をやってるんだろう・・・。先輩にこれだけお膳立てしてもらってるのに・・・」
と、考えにふけっていた僕にスウェンさんは声をかけてきた
「下世話なこといった侘びと言っては何だが、次“行く”か!!」
「え?行くって・・・」
「お前の気持ちを紛らわせる場所つったら、“あそこ”しかないだろう?」
ニヤリ、と言葉が滲みでてくるようなスウェンさんの顔。普段ギルトの職場では絶対見せない顔だ。この顔をギルト職員(女)が見たらスウェンさんのイメージが一気に下落するであろうそんな顔だ。
この顔をしている時スウェンさんの言う“あそこ”とは、いわゆる娼館のことだ。僕やスウェンさんが勤める冒険者ギルドはこの地方でも有数のギルドで、このギルドを目当てに冒険者や商人、数多くの商店が立ち並んでいる。そして、質の良い娼館が立ち並んでいることでも有名であった。
「心配するな。今日は俺がおごってやるよ!」
「いや、いいですよ!そんな!!」
「遠慮するなって!こういう時は素直に先輩に従うもんだ!!覚えとけ!!!大体お前、好きだろ?」
「うっ・・・それは・・・そうです・・・はい・・・」
「それに、今日はまだお前に紹介したことのない店に連れてってやるよ!前々から一度は連れて行くつもりだったとっておきの店だぜ〜w」
そう言われて素直に頷く自分。ちょっとだけさっきのスウェンさんの様な顔をしていた事は内緒だ。なんとも情けないが、人並みに性欲やこうしたことには興味はある訳で、こうした娼館に行くこと自体は嫌いではない。ただ、一人で行けるほどの勇気もなく、実際スウェンさんにこうして何度も連れ出されなければ、まず行かないであろう。
「それに申し訳ないって思うのなら、もっと仕事に精を出せ!ついでに今からもな!!なんつって!!はははははは」
・・・・・完全に下ネタである。
とても来年結婚を控えたフィアンセがいる人とは思えない・・・・。
実にこの人は器の大きい人であるなと常々思う。そしてこの人と結婚する人も・・・いや正確には人ではなく魔物であるが・・・。この人を追いつき、追い越すのにはいろいろ足りないなと痛感させられる毎日だ。
「よし、じゃあ決まりだ!行くぞ!!」
こうして僕とスウェンさんは酒場を後にした。
ちなみに、酒場の飲食費はここでも俺が払う!といっていたが、さすがにそこまで甘えられないので、ワリカンにさせてもらった。
「まったく・・・結婚前なのに・・・もう少し自重してほしいよ・・・」
そう心の中で呟きつつ、僕は先に店を出たスウェンさんの後を追った。
その先で僕は心の隙間を埋める出会いをするとは、この時夢にも思わなかった。
「皆さん、そろそろ本格的にお客様が入り始める時間になりますので、宜しくお願いします」
「「「は〜い」」」
この娼館をきりもりしている店長のジャックさんが控え室に待機していた私達に声をかけた。
深夜に近づく頃の時間。娼館の女達の仕事は本格的に始まる。
私もその中の一人だ。
娼館にやってくるお客様は実に様々だ。
人種・容姿・目的も様々であり、そのニーズに応え、満足していただくのが私達の仕事。
そして私を指名してくださった方を満足させるのが私の仕事。
私を指名してくださった方が、行為の後に言っていただく「ありがとう」や「気持ち良かった」というお言葉を言っていただくことが私の生きがい。
・・・その時に感激とともに性欲まで高ぶり、ついついお客様におねだりしてしまうのは内緒・・・
私はこの仕事に私は充実感を覚えている。
でも、どこか満たされない部分が心にあった。その部分はずっとポッカリ穴が空いたまま。その穴はこのままずっと埋まらないかもしれないという諦めの気持ちがずっと頭の片隅をよぎる。
・・・原因ははっきりしている。けれど、もう過ぎたことであり、いまさらどうしようもないことであった・・・考えにふけっていた私に先ほどの店長が声をかけてきた。
「ディオーレさん、指名が入りましたよ。お願いします」
「わかりました店長。すぐに準備します」
この後私は諦めかけていた心の隙間を埋める出会いをするとは、この時夢にも思わなかった。
前編END
心に隙間のできた空虚な日々・・・・
それがこの先もずっと続くのだと思っていた・・・・・
「「あの日が来るまでは」」
その日も何ら変わりない、ギルドでの忙しい業務をこなしていた日だった。
「ガトー課長、先日御依頼の企画資料作成いたしました。チェック願います」
「おお、もうできたのかい?わかった、チェックさせてもらうよ」
「宜しくお願いします」
「ケイさん、お客様がお見えになられました」
「ありがとうエリーちゃん、すぐ対応するよ」
僕の名前はケイ。ケイ=アインラント
地元の大学を卒業後、冒険者ギルトの職員として働いている。
ギルトに勤めて早3年。仕事もそれなりに順調で、最近は大事な仕事も少しずつ任されるようになってきた。
「よっ!ケイ。お疲れさん」
その日の夕方話しかけてきたのは冒険者ギルト職員の先輩スウェンさんだった。
「あっお疲れ様です。スウェンさん」
部署は違うものの、スウェンさんはギルトに採用されてからずっと仕事やプライベートでも何かとお世話になっている先輩で、とても優秀で面倒見が良くギルト職員の中でも男女問わず評判が良い。
「ケイ、今日仕事終わり、一杯いかないか?」
「はい、喜んでいきます!」
こうやって、ちょくちょくスウェンさんは飲みに誘ってくれる。その日の仕事終わり先輩行きつけの酒場に二人で足を運んだ。
「でっ最近どうよ?」
スウェンさんがビールの入ったジョッキをあおりながら話しかけてきた。
「はい。例の魔物討伐の企画書も仕上がってますし、順調です」
「いや、そっちじゃなくてこっちだよこっち」とスウェン先輩は小指を立てる。
「あっ・・いや・・・そっちは特には・・・・・・」
と言葉を濁す僕。スウェンさんはこうして飲みにいくと決まってこうしたことを聞いてくる。
「何だよ〜相変わらずだな〜?」とスウェンさんはまたかという顔をした。
「この間紹介した娘はどうよ?」実は、つい最近スウェンさんから知り合いのつてで一人女性を紹介してもらっていた。しかし、この間別れてしまった。
「・・・とても綺麗で積極的な方だったんですが・・・積極的すぎてちょっと・・・」
その紹介された女性の種族は妖狐で、活発で会話も結構はずんだのだが、事あるごとに“アレ”に持ち込もうとしてきて、逆レイプ未遂が何度かあった・・・付き合ってた期間一度もそうならなかったのは奇跡としか言いようがない・・・。
「まあ、お前にああいうタイプは合わんかもな・・・俺は嫌いではないが」
とスウェンさんも納得したような顔をしてジョッキのビールをあおる。スウェンさんは人間・魔物娘問わず女性の交友がとても広い。僕以外にも数多くの女性をギルドの男性職員に紹介しており、それが縁でカップルになったり、ゴールインをした同僚の数知れず。僕と2年しか歳の差がないのに既にギルドの裏の実力者といっても過言ではない人物である。とても真似できそうもない・・・というか真似をしないほうがいいと僕は思っている。
「お前の気持ちもわからんでもないが、その歳で恋愛経験ゼロってのもな・・・」
「・・・・・・・はい」
苦笑いをしながらそう答えジョッキのビールに口をつける。口の中にビールの苦味と何か別の苦味が口の中に広がる。
「わかってはいるんだけどな・・・・・」と心の中で呟く
「まっこればっかしは俺ではどうにもできないからな。下世話なことをいって悪かった」
「いっいや!全然そんなことないですよ!!事実ですし!」
謝るスウェン先輩に恐縮しながらも、ふと考える。
確かに仕事もプライベートも充実している。しかし、どこか満たされない部分が心にあった。その部分はずっとポッカリ穴が空いたままなのだ。
原因ははっきりしている。スウェンさんが言う通り、僕は今までまともに恋愛したことがない。恋愛に対して良い経験も苦い経験両方に縁がなかった僕にとって恋愛は未知の世界であった。故に僕は恋愛に対して非常に臆病となってしまった。そんな僕を見かねて度々スウェンさんが女性(魔物)を紹介してくれているのだが、うまくいかないまま、今にいたっている。
「僕は何をやってるんだろう・・・。先輩にこれだけお膳立てしてもらってるのに・・・」
と、考えにふけっていた僕にスウェンさんは声をかけてきた
「下世話なこといった侘びと言っては何だが、次“行く”か!!」
「え?行くって・・・」
「お前の気持ちを紛らわせる場所つったら、“あそこ”しかないだろう?」
ニヤリ、と言葉が滲みでてくるようなスウェンさんの顔。普段ギルトの職場では絶対見せない顔だ。この顔をギルト職員(女)が見たらスウェンさんのイメージが一気に下落するであろうそんな顔だ。
この顔をしている時スウェンさんの言う“あそこ”とは、いわゆる娼館のことだ。僕やスウェンさんが勤める冒険者ギルドはこの地方でも有数のギルドで、このギルドを目当てに冒険者や商人、数多くの商店が立ち並んでいる。そして、質の良い娼館が立ち並んでいることでも有名であった。
「心配するな。今日は俺がおごってやるよ!」
「いや、いいですよ!そんな!!」
「遠慮するなって!こういう時は素直に先輩に従うもんだ!!覚えとけ!!!大体お前、好きだろ?」
「うっ・・・それは・・・そうです・・・はい・・・」
「それに、今日はまだお前に紹介したことのない店に連れてってやるよ!前々から一度は連れて行くつもりだったとっておきの店だぜ〜w」
そう言われて素直に頷く自分。ちょっとだけさっきのスウェンさんの様な顔をしていた事は内緒だ。なんとも情けないが、人並みに性欲やこうしたことには興味はある訳で、こうした娼館に行くこと自体は嫌いではない。ただ、一人で行けるほどの勇気もなく、実際スウェンさんにこうして何度も連れ出されなければ、まず行かないであろう。
「それに申し訳ないって思うのなら、もっと仕事に精を出せ!ついでに今からもな!!なんつって!!はははははは」
・・・・・完全に下ネタである。
とても来年結婚を控えたフィアンセがいる人とは思えない・・・・。
実にこの人は器の大きい人であるなと常々思う。そしてこの人と結婚する人も・・・いや正確には人ではなく魔物であるが・・・。この人を追いつき、追い越すのにはいろいろ足りないなと痛感させられる毎日だ。
「よし、じゃあ決まりだ!行くぞ!!」
こうして僕とスウェンさんは酒場を後にした。
ちなみに、酒場の飲食費はここでも俺が払う!といっていたが、さすがにそこまで甘えられないので、ワリカンにさせてもらった。
「まったく・・・結婚前なのに・・・もう少し自重してほしいよ・・・」
そう心の中で呟きつつ、僕は先に店を出たスウェンさんの後を追った。
その先で僕は心の隙間を埋める出会いをするとは、この時夢にも思わなかった。
「皆さん、そろそろ本格的にお客様が入り始める時間になりますので、宜しくお願いします」
「「「は〜い」」」
この娼館をきりもりしている店長のジャックさんが控え室に待機していた私達に声をかけた。
深夜に近づく頃の時間。娼館の女達の仕事は本格的に始まる。
私もその中の一人だ。
娼館にやってくるお客様は実に様々だ。
人種・容姿・目的も様々であり、そのニーズに応え、満足していただくのが私達の仕事。
そして私を指名してくださった方を満足させるのが私の仕事。
私を指名してくださった方が、行為の後に言っていただく「ありがとう」や「気持ち良かった」というお言葉を言っていただくことが私の生きがい。
・・・その時に感激とともに性欲まで高ぶり、ついついお客様におねだりしてしまうのは内緒・・・
私はこの仕事に私は充実感を覚えている。
でも、どこか満たされない部分が心にあった。その部分はずっとポッカリ穴が空いたまま。その穴はこのままずっと埋まらないかもしれないという諦めの気持ちがずっと頭の片隅をよぎる。
・・・原因ははっきりしている。けれど、もう過ぎたことであり、いまさらどうしようもないことであった・・・考えにふけっていた私に先ほどの店長が声をかけてきた。
「ディオーレさん、指名が入りましたよ。お願いします」
「わかりました店長。すぐに準備します」
この後私は諦めかけていた心の隙間を埋める出会いをするとは、この時夢にも思わなかった。
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10/11/28 04:55更新 / KOJIMA
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