第二話「親切心が仇となる?! 助けた相手は……」編
時は現代、JIPANGUは平和の真っただ中を謳歌していた……
1940年代に親魔物派と反魔物派の大きな戦争が起きてから早70年の時が過ぎている。
血みどろの益なき戦いの果てに、親魔物派と反魔物派は互いの相互不可侵条約を結ぶことで一応の終結を迎えた。
現在のJIPANGUは親魔物・反魔物どちらにも与さない来る者拒まず、去る者追わずの中立を保つ立場となっている。
JIPANGUのような中立区は世界各地にいくつかあるが、中立区の中でもJIPANGUは最大の発展を遂げた区の一つと言えよう。
主神教の教会がちらほらとある中で、魔物達が街中を歩き回っているという、はたから見れば非常に混沌とした風景であった。
意外にも彼らがぶつかり合うことはほとんどなく、平和のバランスが崩されることはなかったのだ。
しかし、戦争から70年過ぎた今尚、中立区にも魔物を嫌悪する者達はごく少数だがいるものである……
「えーい、じゃあくなまものめー」
「やっつけろー」
「しゅしんさまのせいぎのキチンシンクをくらえー」
「キャー、やめてやめて、ぶたないでー」
砂浜で数人の悪ガキどもが1体の魔物をいじめている最中であった。『しゅしんさま』と言ってることから主神教信奉者の子供であろう。
ところで、現在の魔物は基本的に人間に敵意を持つことがない。
まして相手は子供、魔物の力では手加減しても下手をすれば怪我をさせてしまうやもしれない。
それを知ってか知らずか、悪ガキどもは寄ってたかってうずくまっている魔物を足で小突いたり棒で突っついたりしていた。
そこに……
「こらっ、お前達!弱い者いじめをするんじゃない!」
「えー、なんでだよー」
「こいつまものだぜー?」
うずくまっている魔物の耳に、野太い男の声が割り込んできたのである。
「魔物だろうとなかろうと、大人数で一人を痛めつけるような真似をするならこっちが相手になるぞ!」
「わーにげろー」
「おまえらなんかしゅしんさまのラリアットでそらにとんじまえー」
よく分からない捨て台詞を吐いて悪ガキどもは逃げていった……
魔物は足音が遠ざかっていったのを聞いて安堵した。
親切な人が通りがかってくれてよかった、と彼女は思ったのだった。
「あ、ありがとうございました、私は海和尚の玄武(くろたけ)と……申、し……」
立ち上がって名を名乗ろうとする彼女であったが、その途中で絶句して宙ぶらりんになってしまった。
でかい。でかいのだ。
男気だけでなく、横幅も縦幅もとにかくでかい人だった。
だが、人を見た目で決めつけるわけにもいかなかった。
魔物である自分を躊躇なく助けてくれたのだから、決して悪人ではあるまい。
彼女は自分にそう言い聞かせることにした。
「あ、あの、よろしければ……その、お名前を……」
「ウス、播磨灘部屋在籍の力士で、四股名は『浦島 隆平』ス。今場所で前頭九枚目ス」
「え、と……ご立派な……体格でらっしゃいますね……」
「ウス、稽古とちゃんこで身体作りました。身長179センチ、体重143キロス」
まさかのまさかでRIKISHIさんのご登場であった。
ともあれ、この親切な男性には共に龍宮へと来ていただかなければ、と彼女は思った。
まあ助けてくれた相手がまさか体重3桁越えのスーパーヘビー級だったとは思ってもいなかったので、いささかの困惑は隠せなかったのだが。
「その…よろしければ、えっと…助けていただいたお礼に龍宮までご招待を……」
「ウス、すんません。午後から稽古の時間なんス」
「あ、それでしたら今日は見学だけという事でも構いませんけども……」
「ウス、それならちょっとお邪魔させていただくス」
第一関門の『龍宮へのお誘い』はどうやらクリアできた、と彼女は確信した。
これで龍宮に招待して好印象を持ってもらえれば、最終的には龍宮を気に入ってもらってそのまま永住、となることも難しくはあるまい。
ならば絶対にこの招待をトチるわけにはいかない。
妙な使命感を抱きつつ、玄武は浦島関の龍宮招待第二関門『龍宮ご招待ツアー』に取り掛かる事にした。
「では龍宮までご案内します。海の中を潜っていきますので、私におぶさってください」
「ウス、おぶさるんスか?」
浦島関はちょっと心配そうに尋ねてくる。
まあ、玄武の外見ははたから見れば若い女性だ。そう思うのも無理はあるまい。
「あ、ご心配なく。私たち魔物って見た目よりも力持ちなんですよー」
「ウス、それじゃあお言葉に甘えて失礼しまッス」
確かに魔物は力持ちだ。並の人間などよりも遥かに強い筋力を持っている。
勿論玄武も魔物であるので、その力は人間とは比較にならない。
「よっと」
掛け声一つで浦島関が玄武の後ろに飛びつき、玄武におぶさる格好となった。
この時玄武はとんでもない一つの誤算をしていた。
それは『143キロの重量が普段4(ピー)キロの彼女の細い腰と足に(反動付きで)のしかかればどういう結果を生むか』だ。
みきっ。
ごきゅ。
浦島関を背負った瞬間に彼女の腰骨は嫌な音を上げ、右足首が重量に耐えきれずに明後日の方向にターンしたのだった。
その重さに筋肉は耐えられても骨と関節が耐えられなかったわけである。
「んぎょえぐぉわぁぁぁああぁぁッ!?」
曲がってはいけない方向にひん曲がった右足首を押さえながら、玄武は転げ回って悶絶した。
それだけではない。腰からも絞るような鈍い痛みが漏れ出ている。
数分後……
「ウス、大丈夫スか?」
「だ、大丈夫、です……大丈夫……」
どうにか悶絶から立ち直ったものの、足首と腰を押さえて目に涙を浮かべながら玄武は必死に空元気を出して答えた。
涙目になりながらも玄武は自分がどうしなければならないかを大急ぎで考えていた。
目の前の人物を龍宮に連れて行けなければ、海和尚としての名が廃る。
だがこの超級肉弾頭を背負って海まで行くのはさっきの足首逆回転捻りから考えると、不可能に限りなく近い。
ならばどうすればいいか?何かいい手段はないか?
「ウス、ご無理なさらなくても大丈夫スけど」
「い、いえ……ご心配なく……」
いかん、これはいかん。何とか龍宮へと彼をお連れする方法を考え付かなければ。
けど海まで背負っていくのは無理だ。っつーか今度やったら右足が完全にお釈迦になる。
海まで……海まで!?
(そうだ、『海まで』じゃなくて『海から』なら大丈夫よ!)
名案だ、と玄武は思った。
海和尚のテリトリーともいえる海中なら、さっきのように足腰にダメージがかかる事はない。
水面で浦島関を乗せたところでそのまま全速力で泳げば問題ないのだ。
「あの……申し訳ないんですけど、海から行った方が良さそうなので、海面で私の背に乗ってくれませんか?」
「ウス、海面スか」
「はい、それなら問題なく行けると思いますんで」
そう言ってから彼女は腰辺りまで海に入ったところで平泳ぎの体勢になった。
先程は失敗してしまったが今度は失敗はしないだろう、と彼女は確信した。
海和尚が海で溺れることなどは絶対にない。
「それじゃあ、失礼しまッス」
浦島関の声と共に、自分の背にズシリと体重がかかる。
(よし、行くぞ……おおぉぉぉおっ!?)
さて、彼女の新たな誤算は『重量追加による下方向への加速を計算していなかった』ことだった。
分かりやすく言うと、彼女が全力で泳ぐスピードより沈むスピードの方が圧倒的に速くなってしまったのである。
そうなったらどうなるのかというと……
ずぶずぶぶぶぶぶぶ……
「うごごごぶべぼぼぼばばばばぶぶべ!?」
結果、玄武は浦島関が背中に乗った瞬間にほぼ直角に地面(砂地)へと突っ込んだ挙句、そのまま砂と肉に押し潰されて身動きが取れなくなってしまった。
もがけばもがくほど砂にめり込んでいき、最終的には砂に上半身が丸ごと埋もれてしまったのである。
動くほどに砂をかき分ける形で沈んでいく。まさに無間地獄と呼ぶにふさわしいシチュであった。
海の魔物である海和尚はその魔力のお陰で水の中で溺れる事はない。水の中では。
でも砂の中となってしまうと話は別である。
数分後……
「ウス、大丈夫スか?」
「……」
異変に気付いた浦島関が玄武を砂から引きずり出し、そのまま海岸に戻って来たのだった。
玄武は返事を返す気力もないまま砂浜にぶっ倒れたままである。
浦島関はとりあえず玄武が息をしているのを確認できたので安心はしたようである。
「ウス、ご苦労かけちゃってすんませんス」
「い、いえ……大丈夫です……今度こそ、何とか……龍宮へ……ご招待を……」
息も絶え絶えの状態ではあるが、何とか返答して龍宮招待を敢行しようとする玄武だったが……
「あ、浦島関、ここにいたスかー」
「そろそろ昼の稽古始まるスよー」
どうも同部屋のRIKISHIたちが浦島関を迎えに来たようだ。
「ウス、すぐ行くス」
「え、ちょ」
「ウス、すんません。これから昼稽古始まるんで、失礼させていただきまッス」
「り、龍宮へのご招待を……」
「ウス、ご無理はさせられませんので、またの機会にさせていただきまッス」
浦島関はそのまま頭を下げて、仲間のRIKISHIたちと一緒に歩いて行ってしまった。
「……私……骨折り損……?」
そして砂浜には、ズタボロ状態の玄武が一人ぽつねん、としばらく佇んでいた……
そしてその夜、龍宮にて……
「お相撲取りさんに押し潰されて死にかけたですってさぁぁぁぁっ!!!」
「「「「ぶぉわっはっはっはっはっは!!!」」」」
「むーかしーむかしーかーめさーんはー♪たーすけーたひーとにーつーぶさーれてー♪」
「「「「だあぁっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」」」」
「うるさーい!笑うなお前ら―ッ!!」
酒を片手に笑い転げる同僚の海和尚、果ては乙姫までもが大笑いしていた。
「いやー、まさかこんな愉快な話聞けるとは思わなかったわー」
「ううぅ……」
「ま、こういうことも……ぶぷぷ……たまにはあるわよ……くっくっく……めげずに頑張って……くひひひ……」
「……乙姫様、笑うか慰めるかどっちかにしてくださいよ……」
肩をポンポンと叩いて(半笑いで)自分を慰める乙姫を恨みがましい目で見る玄武だった。
結局玄武のマヌケエピソードはあっという間に広まってしまい、しばらく彼女は龍宮中の仲間からそのネタでいじり回される羽目になったそうな。
1940年代に親魔物派と反魔物派の大きな戦争が起きてから早70年の時が過ぎている。
血みどろの益なき戦いの果てに、親魔物派と反魔物派は互いの相互不可侵条約を結ぶことで一応の終結を迎えた。
現在のJIPANGUは親魔物・反魔物どちらにも与さない来る者拒まず、去る者追わずの中立を保つ立場となっている。
JIPANGUのような中立区は世界各地にいくつかあるが、中立区の中でもJIPANGUは最大の発展を遂げた区の一つと言えよう。
主神教の教会がちらほらとある中で、魔物達が街中を歩き回っているという、はたから見れば非常に混沌とした風景であった。
意外にも彼らがぶつかり合うことはほとんどなく、平和のバランスが崩されることはなかったのだ。
しかし、戦争から70年過ぎた今尚、中立区にも魔物を嫌悪する者達はごく少数だがいるものである……
「えーい、じゃあくなまものめー」
「やっつけろー」
「しゅしんさまのせいぎのキチンシンクをくらえー」
「キャー、やめてやめて、ぶたないでー」
砂浜で数人の悪ガキどもが1体の魔物をいじめている最中であった。『しゅしんさま』と言ってることから主神教信奉者の子供であろう。
ところで、現在の魔物は基本的に人間に敵意を持つことがない。
まして相手は子供、魔物の力では手加減しても下手をすれば怪我をさせてしまうやもしれない。
それを知ってか知らずか、悪ガキどもは寄ってたかってうずくまっている魔物を足で小突いたり棒で突っついたりしていた。
そこに……
「こらっ、お前達!弱い者いじめをするんじゃない!」
「えー、なんでだよー」
「こいつまものだぜー?」
うずくまっている魔物の耳に、野太い男の声が割り込んできたのである。
「魔物だろうとなかろうと、大人数で一人を痛めつけるような真似をするならこっちが相手になるぞ!」
「わーにげろー」
「おまえらなんかしゅしんさまのラリアットでそらにとんじまえー」
よく分からない捨て台詞を吐いて悪ガキどもは逃げていった……
魔物は足音が遠ざかっていったのを聞いて安堵した。
親切な人が通りがかってくれてよかった、と彼女は思ったのだった。
「あ、ありがとうございました、私は海和尚の玄武(くろたけ)と……申、し……」
立ち上がって名を名乗ろうとする彼女であったが、その途中で絶句して宙ぶらりんになってしまった。
でかい。でかいのだ。
男気だけでなく、横幅も縦幅もとにかくでかい人だった。
だが、人を見た目で決めつけるわけにもいかなかった。
魔物である自分を躊躇なく助けてくれたのだから、決して悪人ではあるまい。
彼女は自分にそう言い聞かせることにした。
「あ、あの、よろしければ……その、お名前を……」
「ウス、播磨灘部屋在籍の力士で、四股名は『浦島 隆平』ス。今場所で前頭九枚目ス」
「え、と……ご立派な……体格でらっしゃいますね……」
「ウス、稽古とちゃんこで身体作りました。身長179センチ、体重143キロス」
まさかのまさかでRIKISHIさんのご登場であった。
ともあれ、この親切な男性には共に龍宮へと来ていただかなければ、と彼女は思った。
まあ助けてくれた相手がまさか体重3桁越えのスーパーヘビー級だったとは思ってもいなかったので、いささかの困惑は隠せなかったのだが。
「その…よろしければ、えっと…助けていただいたお礼に龍宮までご招待を……」
「ウス、すんません。午後から稽古の時間なんス」
「あ、それでしたら今日は見学だけという事でも構いませんけども……」
「ウス、それならちょっとお邪魔させていただくス」
第一関門の『龍宮へのお誘い』はどうやらクリアできた、と彼女は確信した。
これで龍宮に招待して好印象を持ってもらえれば、最終的には龍宮を気に入ってもらってそのまま永住、となることも難しくはあるまい。
ならば絶対にこの招待をトチるわけにはいかない。
妙な使命感を抱きつつ、玄武は浦島関の龍宮招待第二関門『龍宮ご招待ツアー』に取り掛かる事にした。
「では龍宮までご案内します。海の中を潜っていきますので、私におぶさってください」
「ウス、おぶさるんスか?」
浦島関はちょっと心配そうに尋ねてくる。
まあ、玄武の外見ははたから見れば若い女性だ。そう思うのも無理はあるまい。
「あ、ご心配なく。私たち魔物って見た目よりも力持ちなんですよー」
「ウス、それじゃあお言葉に甘えて失礼しまッス」
確かに魔物は力持ちだ。並の人間などよりも遥かに強い筋力を持っている。
勿論玄武も魔物であるので、その力は人間とは比較にならない。
「よっと」
掛け声一つで浦島関が玄武の後ろに飛びつき、玄武におぶさる格好となった。
この時玄武はとんでもない一つの誤算をしていた。
それは『143キロの重量が普段4(ピー)キロの彼女の細い腰と足に(反動付きで)のしかかればどういう結果を生むか』だ。
みきっ。
ごきゅ。
浦島関を背負った瞬間に彼女の腰骨は嫌な音を上げ、右足首が重量に耐えきれずに明後日の方向にターンしたのだった。
その重さに筋肉は耐えられても骨と関節が耐えられなかったわけである。
「んぎょえぐぉわぁぁぁああぁぁッ!?」
曲がってはいけない方向にひん曲がった右足首を押さえながら、玄武は転げ回って悶絶した。
それだけではない。腰からも絞るような鈍い痛みが漏れ出ている。
数分後……
「ウス、大丈夫スか?」
「だ、大丈夫、です……大丈夫……」
どうにか悶絶から立ち直ったものの、足首と腰を押さえて目に涙を浮かべながら玄武は必死に空元気を出して答えた。
涙目になりながらも玄武は自分がどうしなければならないかを大急ぎで考えていた。
目の前の人物を龍宮に連れて行けなければ、海和尚としての名が廃る。
だがこの超級肉弾頭を背負って海まで行くのはさっきの足首逆回転捻りから考えると、不可能に限りなく近い。
ならばどうすればいいか?何かいい手段はないか?
「ウス、ご無理なさらなくても大丈夫スけど」
「い、いえ……ご心配なく……」
いかん、これはいかん。何とか龍宮へと彼をお連れする方法を考え付かなければ。
けど海まで背負っていくのは無理だ。っつーか今度やったら右足が完全にお釈迦になる。
海まで……海まで!?
(そうだ、『海まで』じゃなくて『海から』なら大丈夫よ!)
名案だ、と玄武は思った。
海和尚のテリトリーともいえる海中なら、さっきのように足腰にダメージがかかる事はない。
水面で浦島関を乗せたところでそのまま全速力で泳げば問題ないのだ。
「あの……申し訳ないんですけど、海から行った方が良さそうなので、海面で私の背に乗ってくれませんか?」
「ウス、海面スか」
「はい、それなら問題なく行けると思いますんで」
そう言ってから彼女は腰辺りまで海に入ったところで平泳ぎの体勢になった。
先程は失敗してしまったが今度は失敗はしないだろう、と彼女は確信した。
海和尚が海で溺れることなどは絶対にない。
「それじゃあ、失礼しまッス」
浦島関の声と共に、自分の背にズシリと体重がかかる。
(よし、行くぞ……おおぉぉぉおっ!?)
さて、彼女の新たな誤算は『重量追加による下方向への加速を計算していなかった』ことだった。
分かりやすく言うと、彼女が全力で泳ぐスピードより沈むスピードの方が圧倒的に速くなってしまったのである。
そうなったらどうなるのかというと……
ずぶずぶぶぶぶぶぶ……
「うごごごぶべぼぼぼばばばばぶぶべ!?」
結果、玄武は浦島関が背中に乗った瞬間にほぼ直角に地面(砂地)へと突っ込んだ挙句、そのまま砂と肉に押し潰されて身動きが取れなくなってしまった。
もがけばもがくほど砂にめり込んでいき、最終的には砂に上半身が丸ごと埋もれてしまったのである。
動くほどに砂をかき分ける形で沈んでいく。まさに無間地獄と呼ぶにふさわしいシチュであった。
海の魔物である海和尚はその魔力のお陰で水の中で溺れる事はない。水の中では。
でも砂の中となってしまうと話は別である。
数分後……
「ウス、大丈夫スか?」
「……」
異変に気付いた浦島関が玄武を砂から引きずり出し、そのまま海岸に戻って来たのだった。
玄武は返事を返す気力もないまま砂浜にぶっ倒れたままである。
浦島関はとりあえず玄武が息をしているのを確認できたので安心はしたようである。
「ウス、ご苦労かけちゃってすんませんス」
「い、いえ……大丈夫です……今度こそ、何とか……龍宮へ……ご招待を……」
息も絶え絶えの状態ではあるが、何とか返答して龍宮招待を敢行しようとする玄武だったが……
「あ、浦島関、ここにいたスかー」
「そろそろ昼の稽古始まるスよー」
どうも同部屋のRIKISHIたちが浦島関を迎えに来たようだ。
「ウス、すぐ行くス」
「え、ちょ」
「ウス、すんません。これから昼稽古始まるんで、失礼させていただきまッス」
「り、龍宮へのご招待を……」
「ウス、ご無理はさせられませんので、またの機会にさせていただきまッス」
浦島関はそのまま頭を下げて、仲間のRIKISHIたちと一緒に歩いて行ってしまった。
「……私……骨折り損……?」
そして砂浜には、ズタボロ状態の玄武が一人ぽつねん、としばらく佇んでいた……
そしてその夜、龍宮にて……
「お相撲取りさんに押し潰されて死にかけたですってさぁぁぁぁっ!!!」
「「「「ぶぉわっはっはっはっはっは!!!」」」」
「むーかしーむかしーかーめさーんはー♪たーすけーたひーとにーつーぶさーれてー♪」
「「「「だあぁっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」」」」
「うるさーい!笑うなお前ら―ッ!!」
酒を片手に笑い転げる同僚の海和尚、果ては乙姫までもが大笑いしていた。
「いやー、まさかこんな愉快な話聞けるとは思わなかったわー」
「ううぅ……」
「ま、こういうことも……ぶぷぷ……たまにはあるわよ……くっくっく……めげずに頑張って……くひひひ……」
「……乙姫様、笑うか慰めるかどっちかにしてくださいよ……」
肩をポンポンと叩いて(半笑いで)自分を慰める乙姫を恨みがましい目で見る玄武だった。
結局玄武のマヌケエピソードはあっという間に広まってしまい、しばらく彼女は龍宮中の仲間からそのネタでいじり回される羽目になったそうな。
17/02/09 19:16更新 / 玉虫丸
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