連載小説
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二人(ふたり)
濃密に絡み合う舌と舌、互いの口内を満たす水音。
まるで熟れた果実を貪るように、互いに夢中になって唾液を交換し合う。
鼻からすら息をすることを忘れそうになりながら、長い長い接吻が続く。

甘さと熱さとほんのちょっとのほろ苦さ、正信の唾液はそんな味がした。
もっともっと、そういわんばかりに舌で歯茎や頬の裏を舐めしゃぶり私はそれをねだった。
ゴクリゴクリと飲み干したい程に渇いているのに、
まるで染み出す樹液のような量しか出ないそれを、
私は丹念に味わってから自分の唾液と混ぜて少しずつ嚥下した。
それが喉を通って体内に落ちるたびにカッと体の芯に火が付いたように熱くなる。
その感覚は度数の高い酒を飲んだ時のそれに似て、自分が行為に酔って行くのが判る。


まるで飢えた犬に骨を上げたときの様だ。
などと思考し、正信は口内を蹂躙される快楽で跳びそうになる意識を何とか保つ。
必死で舌を動かして我武者羅に対抗するが、とても相手に対した動きが出来ているとも思えない。
とはいえ、尾と耳が彼女が喉を鳴らすたびに、
ビクリビクリと逆立つことから喜んでもらえてはいるらしい。
それにしても瞳を潤ませ頬を上気させた八百乃さんはいやらしい。
容姿が二桁の年齢に届いたばかりで、女として体が出来てくる途上、
人であればそんな年齢の容姿であるにもかかわらず、
彼女の纏う雰囲気や色気は、妙齢かその上のそれだ。
そのちぐはぐな感じが、まるで年下だが手馴れた女の子に翻弄されているようで、
僕の興奮をさらに大きくしていた。
まだ接吻だけだというのに、まるで熟練の女性に焦らされたかのように、
僕の一物はバキバキにそそり立っていた。


忘我の時を経てようやく止まる水音、二人は互いに鼻から荒い息を吐き出すも、
まだ口は繋がったままだ。そしてどちらともなくコネクトされていた部分を離して行く。
互いの開いた口、そしてそこから少し出た舌と舌は淡い光に照らされる糸を引いていた。
糸は切れて落ち、肩で息をしながら両者は黙ったまま互いを見つめ続けた。
そして沈黙を破る口火はヤオノの口から放たれた。

「さっきは随分な事を言ってくれたわよねえ。
年増だの、胸が抉れてるだの貧相だの行き遅れだのと・・・
じゃあそんな私に対してこんなにしてる正信は一体何かしら?」

愉快そうに、ヤオノは誤魔化し様が無いほどそそり立っている正信の大明神を見つめていった。
薄く口を開けて舌をなめずる仕草は、その嗜虐的な表情と相まってさらに正信の心を揺さぶる。

「変人でも変態でも、好きに呼んでくれていいですよ。
大体全部事実じゃないですか。八百乃さんの体が未成熟な容姿なのもそうだし、
細かい年齢は知りませんが、凄まじい年の差でしょう僕達? 
例え八百乃さんの年齢を大体で人間換算してもそれは変らないのでは。」

平然とした顔でずばりと遠慮なく切り込む正信に対し、
ヤオノはぐうの音も出ず口を曲げて押し黙った。
そのまましばらく黙っていたヤオノだったが、
表情を一転悲しげにさせ、うじうじと愚痴り始める。

「ふん・・・どうせどうせ、正信の言うとおりですぅ。
こんな形なのに年ばっかり食って、仕事ばっかで愛想の無い行き遅れですぅ。
胸だって同じ年恰好の状態の母親に負けてますよ。欠点ばっかりですよ。」

しょんぼりと耳を垂らし、揺れていた尻尾もしゅんと横たわらせながら、
ぶちぶちとこぼし始めたヤオノを見て正信は思う。

(行け行けだったのに一転これかあやっぱ打たれ弱いわ〜この人。
でも吐き出してくれるのはいい傾向だな。)

「待った待った。確かに八百乃さんはそれらについて気にしてるみたいですけど。
僕は気にしませんよ。この際です。あなたの心のしこりを全部吐き出してください。
僕がそれについてちゃんと自分の見解を返しますから。」

任せろと大口を叩く目の前の年下の青年に対し、
ヤオノは目を見張ってもう一度その姿を確認した。

(知らない間に、随分と頼もしくなったものね。いいや、それだけじゃない。
私が弱くなったのだ。でも、それでも以前の私はある意味もっと弱かった。
自分の弱さを認められぬほどに臆病で、全てを投げ出してしまうほどに脆かった。)

ヤオノは苦笑するとゆったりと噛み締めるように正信に語りかける。
「こんなおばちゃんでいいのかしら?」
「妖怪に惚れた時点で年を気にするようじゃやってられませんよ。」
「体付きも貧相で胸も抉れてるけど?」
「ようはバランスですよ。大きさ自体は絶対値と関係ないです。
八百乃さんの体はとっても綺麗ですよ? 少なくとも僕はとても興奮してます。」

自分のあそこを指差して正信はおどけて言った。

「好き者のド変態ね。」
「それでもいいですよ。あなたの傍らに入れるなら呼び名なんて瑣末な事です。」
「・・・・・・バ〜〜〜カ。」

(おどけてたかと思うと急に真面目にそんな事を言う。)
照れくささからヤオノは顔をそらしながら正信を優しく罵倒する。

「私毛深いわよ。種族的に。」
「いいじゃないですか、モフモフ最高! 
毛の深いところとそれ以外で二度美味しいじゃないですか。 
なんなら風呂上りに全身の毛を余すことなく毛づくろいしてあげますよ。
うまいんですよお、こう見えても実家に土佐犬が三匹いまして、
その世話係を兄達に押し付けられてましたから、
家の中の階級的には私の方が下でも、
兄達より僕の方になついて言う事を聞いてくれたくらいです。」

手馴れた正信の手と櫛が優しく全身を撫で摩る様を妄想し、
ヤオノは全身をキュッと振るわせた。
触られても無いのに、その感触を想像しただけでアソコが湿っていくのが解る。

「うう・・・わ・・・私今とっても臭いわよ。
すごい長い期間風呂に入ってなかったし。汚いわ。」
「はは、葉っぱを貰ったときと立場がちょうど逆ですね。
今ならあの時の八百乃さんの気持が解ります。いい匂いですよ八百乃さん。
城にいた時はほのかに香るって感じでしたが、今はそれがはっきりと匂います。
妖怪の匂いが人間にとって心地よいものだってのは本当ですね。」

わざとらしく大きく鼻を鳴らして息を吸う正信。
いい匂いだと言われても、自分ではそう思えないこともあり何とも恥ずかしい気持になるヤオノ。

「わ・・・悪かったわよ。確かにちょっと恥ずかしいわねこれ。」
「でしょ? まあこれでチャラってことで。」
「本当にいいのね? こんな私で、こんな弱くて情けなくてどうしようもない私で。」
「それがいいんじゃないですか。一見優秀で完璧なのに、
実は弱くて情けない。支え甲斐があるってもんですよ。
いっぱい愚痴って甘えてくれて良いですからね。」

ウェルカムとばかりに笑顔で両手を広げる正信の姿は、
そのヤオノに対する絶対の肯定は、彼女の中のタガを外すのに十分だった。

しゅるりと着物を落とし、モフモフの毛でところどころ覆われた裸身を晒すと、
ヤオノは獣のように四つん這いになる。上目使いで正信の全身を舐めるように見渡し、
狙いをつけた肉食獣のように一瞬動きを止めると、矢の様に正信に飛び掛った。

「ガウッ♥」

齧り付く様に首筋に飛び掛ると、正信をその小さな体で押さえつけ、
首から上にキスと甘噛みの雨を降らせる。

(あ・・・ああっ!)
彼女の口に皮膚が吸われ、牙を立てられるごとに彼の皮膚にピンクの刻印が増えていく。
キスはちょっとしたくすぐったさの後にじんわりと温かい快楽を、
甘噛みは軽い痛みをスパイスにそれが引いた後に熱さのような快楽を、
それぞれ正信の体に刻み付けていく、その増え積み重なる刺激に対し、
彼は鯉のように口をぱく付かせるだけで何も出来なくなる。
最初の接吻でさえ自重していたのだと今では良くわかる。
強引に思考をして気をそらす事さえ難しく、反撃など思いもよらない。

それでもヤオノはまったく問題ないし気にしないとばかりに突き進んでいく。
首から上を唾液とマークまみれにした彼女は、正信の着ている物の紐を素早く緩めていく。
全て脱がす時間も惜しい、そう言わんばかりに反脱ぎ状態にまですると、
彼女は正信の開いた胸に顔を落とした。先程のキスと甘噛みに加え、
舌で彼の体というキャンパスに大きくラインを引いていくヤオノ。

彼女の舌で引かれたラインは、正信の体に一瞬の快楽と疼きと物足りなさを残していく。
唾液が皮膚を潤すのと反対に、彼の体は快楽に対しどんどん乾いていくかのようだ。
そんな彼の状態が判っているのか、ヤオノは彼の体に何時までも強い刺激を与えない。
正信の息はさらに荒くなり、大口開けてしばらく不規則な呼吸を繰り返す。
焦らされるのも限界だった。正信はカラカラになった喉から、かすれた声を上げて懇願する。

「八百乃さん。もっと、お願いします。激しく。めちゃくちゃに・・・・もっと!!」
それを聞いたヤオノはその顔をトロリと蕩けさせ、愛しさを抑えきれず再び正信の口を吸った。
堪能するように、ただ最初のそれと比べても刺激は弱く、
正信はまだ溢れそうなコップに水滴を落とされたような感覚を味わう。
行為の前の頼もしさとは裏腹に、瞳で母に泣きすがるように懇願する正信の顔は、
それだけでヤオノが一度達してしまう程に彼女にとってはかわいくて愛おしいものだった。

正信の懇願に対し、ヤオノは慈愛の瞳を向けて軽く頷くと、
彼の望み通りにその顔を一気に頭から下に移動させる。
もはや我慢汁で褌どころか袴まで染みの洪水になっている其処、
ヤオノは果実の皮をむくように掛かっているだけの布を剥いでいき、
限界まで反り返る彼の刀を見ると口の端から涎をこぼす。

「いくわよ。」
我慢できないのは正信だけではない。彼女も色々限界なのだ。
幼い顔を扇情的な表情で彩り、大きく口を開け舌を突き出したまま、
上目使いに一気に正信の剛直をその小さな口の中に飲み込んだ。
その仕草と表情、そして唇と舌と頬の裏の刺激。
それらの多段攻撃に決壊寸前の正信の下半身が耐えられる訳もなかった。
出しながらも頭は振られ舌は亀頭を中心に纏わり付き、
竿と先がプルプルの頬で何度も何度も擦られる。

人間との行為と比べれば、病的な量の白濁があふれ、
まるでポンプのように吸い上げられる。
それを恍惚としたままこくりこくりと息継ぎ無しで嚥下するヤオノ。
だが小さな彼女の口内ではそれでも納めきれず、
勢いよく口の端から精液が飛び出てこぼれる。
全て吸い終わった後、彼女はこぼれたそれも、勿体無いとばかりに音を立てて舐めしゃぶる。
こぼれた位置が当然正信のあそこであるからして、
その行為もまた新たな刺激となって正信に快楽を送り込む。

発射にあわせ、目の前がチカチカと明滅するほどの快楽を感じ、
全てを吐き出したあとに一息入れようとしていた正信は、
しかして休む間もなく再びむしゃぶりつかれてうれしい悲鳴を上げた。
普通なら此処までくれば刺激されても快楽など感じなくなるものだが、
ヤオノとの交わりは、そんな限界を無視して天井知らずに彼に新鮮な快楽を刻み込む。

「かはっ! ああ・・・あああっ」
「正信・・・マサノブッ!!」

大量に吐き出された白く薄い液状のそれと、さらにそれに続いて濃厚なゲル状のものが
彼女の口内と舌、そして鼻腔を刺激して喉から食堂にするりと落ちていく。
その二つの物質がもたらす甘露は天上の調べであった。
ほっぺが落ちると言う表現すら生温い、
それのもたらす熱は五臓六腑をまるごと溶かして落とさん程の味わいだ。
性的な快楽と美味という快楽と、
そして体が充足していく健康という快楽を高い次元で一度に味わう。
そんな比べるものの無い悦楽がヤオノを満たし、彼女の全てを満たしていく。
城で火遊びをしていた時に食したときとは比べ物にならない。

(これが・・・気持の通じ合った相手との・・・)
ヤオノはそれがもたらす熱に犯されその動きを止める。

そして正信も不思議な感覚を味わっていた。あれ程逝ったにもかかわらず。
体力も精力も一向に減る気配を見せず、逆に二つとも溢れてくるではないか。
(行為中は妖怪の妖力が男の体に作用すると書いてあったが、これほどとは・・・)

正信は溢れる性欲と愛しさに任せ、目の前の八百乃を見た。
まん丸の顔に大き目の瞳、すべすべで張りのある肌。
それらを上気させ汗を纏い、荒い息でこちらを見上げる八百乃。
その膨らみかけの胸も、薄く脂肪を纏ったすらりとした太股もと尻、
脚を覆う心地よい毛皮も、誘うように蜜を垂らす秘弁も。
全てが彼を興奮させ鼻息を荒げさせる。
こぼれた白濁を舐め終わった八百乃に対し、正信は言った。

「八百乃さん。中に・・・」
「・・・・・・ん。」

それだけで通じたのかヤオノは身を引いて仰向けになり、
こちらを見ながら両手を伸ばし熱っぽく懇願してきた。

「来てえ。正信ぅ・・・」

それを聞いて彼も人をやめ、一匹の獣に成り下がる。
「八百乃さん! 八百乃さん・・・八百乃さんっ!!」

熱に浮かされたようにヤオノの名前を唱えながら、
彼は薄くも柔らかくぷにっとしたヤオノの裸体を掻き抱き、
少々乱暴ともいえる性急さでモノをヤオノに差し込んだ。
ひたりと纏わりつき、すでに十分濡れた其処は正信を一気に奥まで飲み込んだ。
体のサイズ差故、本来であればキツイはずの正信の其れを、
ヤオノは初めてであるにもかかわらず容易く飲み込んだ。
口内とはまた違う、柔らかくきつくそしてぬめる様な肉の壷。
中に入れた瞬間、正信はただヤオノの名前を連呼し、腰を振る事しか出来なくなった。
全身を満たす快楽は、上限を超えてなおさらに彼を満たすことなく新たな快楽を塗りつけていく。
一突きどころか一擦りで一回彼は達していた。

そしてヤオノはヤオノで、病気に浮かされたように耳元で囁かれる自分の名前と、
それと同時に突きこまれる度に際限の無い快に満たされ、一突きごとに達していた。
爪を立てるように正信の背に腕を回し、しがみ付くことしか彼女にも出来ない。
「正信・・・正信ぅう!!・・・あん♥」

二人は互いに尾を食い合うウロボロスのように貪りあい。
何時果てる事のない交わりを繰り返し繰り返し行っていた。


※※※


結局どうやって終わったのか。二人はどちらも記憶が無い状態であった。
だが、互いの体に強烈な体験として、消えない呪いのように様々なものが刻まれたのは解った。

(・・・今でも定国様への情が全て消えたわけではないけれど。
もう私はこの子を裏切れない。私の愛しい半身、魂の片割れ。)

(ふ〜、すごかったなあ。これは虜になって軍門に下るわあ。
元々この人のためなら何でもする覚悟はあったけど、
優先順位がより各個たるものになった感じだ。)

二人は共に今までの人生で感じた事のない充足感と一体感を感じでいた。
今までの生は半分で歩いてきた。それがようやく互いに1/2を見つけ一つに成った感覚。
体という境界線を越えて、魂で繋がった充実感。

(この子のためなら) (あなたとなら)

((何処にだって行けるし何だって出来る。この手と魂が繋がっている限り・・・))


期せずして同じ事を考え、共に隣で寝転がる相手と視線を合わせる。
何も言わずに手を伸ばしあい、指を絡めあう。
そして身を寄せ合うと体を重ね、額を合わせて目と目を覗きあった。
互いが互いで言葉を解さずに互いを理解し頷きあった。
肉体という境を越え、心臓と心臓のリズムは交じり合って一つになった。
二人は再びその口と口を軽く合わせた。それは性欲に任せた乱暴なものでなく。
まるで協会で交わされる神聖な誓いのように、厳かで神々しいものであった。
12/10/29 08:56更新 / 430
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■作者メッセージ
だいぶ終わりも見えてきた感じです。


うーん。シリアスを入れるとどうしてもおかずとしての実用度が下がるというかなんというか。

エピローグ的な部分で縛りの無いエロシーンに挑戦してリベンジしたい感じだ。

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